軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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WDC編開幕です。オリキャラが数人出ます。





キャッチャー・イン・ザ・ウェーブ

「レディース・アンド・ジェントルメーン! ついに、ついにこの日がやってまいりました! ハート燃え上がる戦いの祭典、ワールド・デュエル・カーニバルの開幕ですぞーっ!!」

 

ハートランドシティ全域を震わせる、Mr.ハートランドの鼓膜を突き破らんばかりの絶叫。 それと同時に、街のあちこちから色鮮やかな祝砲の花火が打ち上がり、雲一つない青空を七色に染め上げた。昨晩までの静けさが嘘のように、平和な日常は決闘(デュエル)という名の狂乱へと塗り替えられていく。

 

 

 

####

 

 

 

そんな熱狂の渦中、俺――赤司寿は、年季の入ったママチャリのペダルを重々しく漕いでいた。 白い調理服に調理帽、腰に巻いてあるのは『軍艦処・赤司』の文字が力強く染め抜かれた帆布の前掛け。

板場に立つ時は誇り高き職人の正装なのだが、このお祭り騒ぎの街中にあっては、どうにも浮きまくって無性に恥ずかしい。 普通であれば単なる仕事中の野郎としか見られないはずだが、左腕の折りたたまれたデュエルディスクと郵送されてきたハートピースが、俺をこの弱肉強食のサバイバルの参加者であることを残酷に証明していた。

別にお前以外にも仕事服で参加している奴は沢山いるだろって?悪いけどこっちはノリノリで着(来)てる訳じゃねえからな!?

 

「……ノルマだと思ってやるしかないか。ったく、あのクソ親父め」

 

背中の出前箱には、親父が「この祭りに乗じて客を引いてこい!」と鼻息荒く詰め込んだ特製チラシがぎっしり入っている。

負けたら勘当、勝ったら宣伝。胃のあたりがチクりと痛む。あの頃も今も、俺を動かすのは情熱などではなく、生存本能という名の強迫観念だ。

 

そんな全く生産性の無いことを考えながらペダルを漕いでいると、どこからか陽気な声が聞こえてきた。

 

「ヒャッハー!! 荒波が呼んでるぜぇ! ビッグウェーブ、到来だぁ!!」

 

不意に、派手なアロハシャツを着た男が、ローラー付きの特大サーフボードで、俺の進路を鮮やかに塞いだ。アスファルトの上で車輪を鳴らすその姿は、海のない都会に迷い込んだ奇妙な漂流者のようだった。

 

「ううん? おめぇよ、もしや寿司屋か?」

 

そう言って俺を睨んでくるのは、まるまると太った、実に見事な肉付きをした男だった。日焼けした肌に不釣り合いな丸眼鏡。俺のような地味で目立たない人生を平穏に完遂したい人間とは対極に位置する、暑苦しいまでの存在感を放っている。

 

「ああ、俺は確かに寿司屋だ。」

「そして、ついでにWDCの参加者でもある……違うか?」

 

ご名答。

 

「全くその通りだ。」

「おお!さっすがオレ様、察しがいいじゃねぇか!」

 

男はボードを小脇に抱え、脂ぎった顔に不敵な笑みを浮かべた。

 

「なるほど、出前か? 営業か? それともその両方か? 景気のいい板前さんよぉ!」

「出前だ。……悪いな、急いでるんだ。道を開けてくれないか。出前先で客が首を長くして待ってるんでね」

「ハッ! 逃がさねぇぞ! っつうか、逃げれねぇからな!」

「どういうことだ?」

 

本当に何を言っているんだお前は?としか言えない。今すぐ自転車を漕いで逃げ去ってもいいんだぞ?

しかし、彼が言うことはある意味で正しく、ある意味で理不尽なことであった。

 

「WDCのルール発動! デュエルを申し込まれた対戦相手は、そのデュエルを拒否することはできない! つまり、お前はここで俺と踊るしかないんだよぉ!」

「何っ!? ……はぁ、なんだその強制参加ルールは。運営はブラック企業の研修でも受けてんのか?」

 

俺は思わず天を仰いだ。そんなルールあったのか?これではルールという名の強制デスマッチだ。確かに人数を絞るためと考えりゃ納得だろうが、そりゃ無いだろ。

この街の運営は、どうも人の事情まで考えが及ばないほどタチが悪いらしい。ま、ハートランド陣営っていうんですけどね。

 

「申し遅れたな! 俺の名前は大瀬戸 健三郎(おおせと けんざぶろう)! 波を愛し、海を駆ける男! 海の幸を切り刻むお前のような板前は、俺のビッグウェーブで飲み込んでやるのが運命なんだよぉ!」

 

なるほどどうして、モヒカン頭のスマホを買いに来た人みたいなこというじゃないか。雰囲気から悪い奴じゃないんだろうが、同時に面倒くさそうな奴でもあるのはすぐに分かる。

 

「……理屈になってないだろ、それ。魚を食う側が、海を守る側みたいな顔して何言ってんだ?というかその腹の大きさでサーフィンできるのか?」

「できるさ!ボードに寝そべるとすぐ沈むのが悩みだけどな!」

 

まぁそうでしょうなと言わんばかりに俺は溜息をつき、自転車のスタンドをガチャンと立てた。 こういう輩は、適当に聞き流して逃げるよりも、真正面から処理した方が後の余計なトラブルが少ない。

 

「分かったよ。俺の名前は赤司寿だ。運営に報告されるのも嫌だし、デュエルを受けて立つ。ただし、手短に頼むぞ。シャリが乾燥しちまうからな」

 

俺は自転車の前座席にある包みに指差し、そう頼むと健三郎は大きく頷き、返事する。

 

「安心しろ! 俺の運命がお前さんを一気に食い散らす!」

 

さすがに比喩だとは思うが、寿司までは食うなよ?

ARシステムが起動し、視界にデジタルな波飛沫が舞ってくる。

 

「「デュエル!!」」

 

寿 LP 4000 / 健三郎 LP 4000

 

 

 

####

 

 

 

先攻は健三郎。さて、どんなデッキを使ってくる?

 

「俺の先攻!運命こそ人生の荒波であり乗りこなすべきポイントだ!《召喚僧サモンプリースト》を召喚! そして手札の魔法をコストに、デッキから《Ms.JUDGE》を守備表示で特殊召喚! カードを1枚伏せてターン終了だ!」

 

(ム……レベル4が二体あるのに、エクシーズ召喚しなかったか。本当に、運任せのプレイングを好むタイプらしいな……)

 

相手の場に並ぶのは、クイズ棒を両手に持つ不気味な女性と、瞑想する白髪染まりの僧侶。《Ms.JUDGE》はターンに一度、効果を無効にしてくるモンスターだ。それも謎にカード種類を問わず、ターン永続であり、任意のタイミングで使えるカードだ。

……コイントスが成功したら、の話だが。正直俺は不確定要素が嫌いといえば嫌いなのだ。

 

失礼。おそらく、健三郎はギャンブルデッキの使い手だろう。

 

「俺のターン、ドロー! ……悪いが、俺の店に『博打』というメニューはない。出すのは、計算され尽くした満足感だけだ」

 

俺は手札からフィールド魔法《軍貫処 -『海せん』》を発動。仮想空間に、使い込まれたカウンターと酢飯の香りが立ち込めるような幻覚が広がる。

 

「さらに《いくらの軍貫》を通常召喚。《軍貫処 -『海せん』》の効果発動。デッキトップに任意の『軍貫』を置く。そして……いくぞ!3枚捲り、《しゃりの軍貫》があれば特殊召喚!」

 

そう、だから俺は確実にネタを出せるようにセッティングするのだ。

 

「美味そうなのが出てきたところで悪いが、そうはさせねぇ! 《Ms.JUDGE》の効果適用! コイントスを2回して、2回とも表なら、その効果を白紙に還してやるぜぇ!」

 

なるほど、ここで効果を使うか。《Ms.JUDGE》の当たるのは1/4の確率、つまるところ25%の確率で《いくらの軍貫》の効果は無効となる。健三郎はコインを二枚、太陽の光を反射させながら天空目掛けて投げ放った。

 

「表二枚ぃいぃ! 効果は無効だぁ!」

「くっ……!」

 

急いだのが裏目に出たか。25%という信頼に値しない数値のはずだが、それをしっかり当ててきやがった。

 

「板前さんよぉ、計算通りにいかねぇのが『海』ってもんだぜ!」

「……いいや、トラブルが起きてからがプロの仕事だ。イレギュラーは想定内だよ」

 

荒波上等。俺は内心の動揺をポーカーフェイスで覆い隠し、手札を入れ替えてサブプランに入ることにする。

 

「《二重召喚》発動!このターン、俺は通常召喚を二回行うことができる!俺は《ゴブリンドバーグ》を召喚し、効果で特殊召喚はせず、二体でオーバーレイ!」

「現れろ、《弩級軍貫-いくら型一番艦》! 素材とした『いくら』により、二回攻撃を可能とする! 《Ms.JUDGE》を攻撃!」

 

漆黒のシャリ船体が、アスファルトを割って湧き出た仮想の海面を切り裂いて進む。だが、健三郎は余裕の表情の顔で不敵に笑う。

 

「罠カード発動、《ラッキー・パンチ》! コイントスを3回行い、3回とも表なら俺は3枚ドロー! だが、全部裏ならこいつは自壊し、俺は6000ダメージを負う諸刃の剣!」

「はっ!? 6000……!?」

 

確率にしてそれぞれ12.5%。もし万が一外せば、即座に自爆して対局が終了する。しかもそれは永続罠だ。仮に《サイクロン》等で破壊された場合でも、目の前の太っちょは問答無用で敗北する。まさに狂気の沙汰としか言えない。

 

「お前、正気か!?」

「もーちろん、正気さ!刹那的で運命的な瞬間こそ、俺の心臓は激しく鼓動する!」

 

健三郎はコインを三枚、祈るように天空へ投げ放つ。その背後ではARの波が激しく唸りを上げていた。

コインは地面に落ち、3面とも同様の色を見せてくる。

 

「表、表、表! ついてら、3ドローだ! すまんなミス・ジャッジ、お前はもう用済みだ!」

 

残念そうな顔をした《Ms.JUDGE》が一番艦の砲撃で粉砕される。

 

「……とんだギャンブラーだな。信じられねぇ」

「ギャンブルじゃねぇ、これは『勢い』だ!波は海だけにしかあるわけじゃねぇ!ツキにも波は存在する!乗ってる奴は波にも乗れるんだよ!」

「もしかして数学苦手だったりします?」

「な、なんで分かったんだ!?」

 

お察しだ。俺はさらに一番艦の追加攻撃で《サモンプリースト》を破壊し、盤面を整理する。しかし、相手の手札は増えている。カードを1枚伏せてターンを終えたが、その完全にギャンカス野郎の雰囲気からは嫌な予感しかしない。

 

「俺のターン! ここからが本番の地獄めぐりだぜ! 魔法発動、《スペシャルハリケーン》! 手札から《ADチェンジャー》を捨て、《いくら型一番艦》を破壊する!」

 

いくら型が破壊されたが、致し方ない。それよりも重要なのは今健三郎がコストで落とした、《ADチェンジャー》だ。

そいつは墓地から除外することで、名前通りモンスター1体のAttackとDefenseを入れ替える…つまり表示形式を入れ替えることができる効果を持つモンスター。絶対に狙いがあるとしか思えない。

 

「そして俺はカードを1枚裏守備でセット! さらに墓地の《ADチェンジャー》を除外し、表示形式を変更しリバースする!」

「リバース……まさか!」

 

リバースモンスターか!?

 

「現れろ、最凶のギャンブルモンスター、《ダイス・ポット》!!」

 

本気かこいつ!?サポートカードもない状況でやりやがった!

健三郎は鼻息を荒らげ、いかにも興奮した様子で俺にこう言い放つ。

 

「フフフ、ギャンブルにはこういう言葉がある!ハイリスクハイリターンというなぁ!」

 

それ確か投資用語じゃありませんでしたっけ?

 

「リバース効果発動! お互いはサイコロを振る!さぁ、ダイスロールだ!」

 

不気味に笑う巨大なサイコロの壺が、戦場の中央で激しく回転を始める。

《ダイス・ポッド》のリバース効果は簡単に言えば互いにサイコロを振り、出目の大きい方が数字×500のダメージを相手に与えることができるというもの。だが最悪なのは、健三郎がもしも「6」を出した場合だ。

その瞬間、ダメージが跳ね上がり、俺は確定で6000ダメージを受ける。現在の俺のライフはアニメ準拠なので当然4000。当たれば文字通り人生の閉店ガラガラだ。

 

「さあ振れよ、板前! 最高のネタを見せてくれぇ!!」「くッそ、どうしてもか!」

 

「当然だ、お前はすでに波に差し掛かろうとしている!逃げることは許されねぇ!」

 

分かっているさ、それでも勘当がこのダイスロールに掛かっているのは非常に俺を不安にさせてたまらない。万が一、いや六が一『6』が来て、負けたら?

 

そんな情けない負け方では本当に絞め殺されるに違いない。

 

(ええい……破れかぶれの目というものだ!)

 

「「運命の、ダイスロール!」」

 

AR空間で二つのサイコロが自在に回り、やがてその動きは停止し、それらは互いに一つの数字を指し示す。

 

健三郎の出目は――『5』。 俺の出目は――『2』。

 

「ハハハ!5×500、2500ダメージだ!! 食らいなぁ!」

 

やはり俺は運が無い方という事実がある。ただ、最悪の事態は免れた。そうやすやすとやられる訳にはいかないんだ。

 

「タダで食らうなどと思ったか……リスク管理を怠るやつこそ、賭け事に足を掬われる。」

「なっ……何ィ!?」

 

サイコロから放たれた赤黒い衝撃波が、俺の直前で鏡のように反射し、二つに分裂して俺と健三郎の胸元を同時に直撃した。

 

「俺は罠カード、《ドッペル・ゲイナー》を発動していたのさ!!」

 

まさかこのデュエルで役に立つとは思ってもいなかったが、今は採用した当時の俺の判断に感謝だ。正直《リフレクトネイチャー》のほうが強いとは思うが、持ってないのだから仕方ない。

 

「俺が受ける効果ダメージを、お前にも背負ってもらうぞ!」

 

衝撃に身体が浮き、調理服が激しくたなびく。

 

健三郎 LP 4000 → 1500 / 寿 LP 4000 → 1500

 

「グハァッ! ぐ、ぐぬぬ……」

 

相変わらずダメージのフィードバックは痛いが、これでダメージレースは互角だ。いや、ギャンブルデッキ相手にダメージレースの文字などないか。

 

「板前、お前……死ぬのが怖くねぇのか!? 運命に身を委ねる快感を知らねぇのか!」

「怖いさ。だから俺は、自分一人で死ぬつもりはない。相手にも責任を取ってもらう、それが……寿司屋の誠実さという名の流儀だ」

「へん、屁理屈を! 俺は《ダイス・ポット》で攻撃し、カードを1枚伏せてターン終了だ!」

 

寿 LP 1500 → 1300

 

「俺のターン、ドロー! ……悪いな。お前は運を天に任せたが、俺は客の期待を裏切らない方法を知っている」

 

俺は手札の《うにの軍貫》を提示し、デッキトップに固定してあった《しゃりの軍貫》を手札から呼び出して特殊召喚し、即座に二隻目の戦艦をオーバーレイする。

 

「俺は《うにの軍貫》の効果で《しゃりの軍貫》のレベルを5に上げ、二体でオーバーレイ!」

 

赤色に輝く渦が現れ、そこにオーバーレイユニットとして変換された軍貫が吸い込まれる。

 

「現れろ、《超弩級軍貫-うに型二番艦》!」

 

衝撃の向こう側から、金色のウニを搭載した豪華絢爛な戦艦が、夕焼けのような光を反射して鎮座する。

 

「攻撃力……2900だと!? まずい、罠発動! 《運命の分かれ道》! お互いのプレイヤーはコイントスを行い、表なら2000回復、裏なら2000ダメージを食らう!」

 

土壇場に来てなお、この男はコインを投げるか。あくまでもギャンブルを貫く健三郎の絶叫とともに開かれた伏せカードを前に、残り1300という俺のライフでは、裏が出ればその瞬間に敗北が決まる。

 

「どこまでも運ゲーか。だが、うちの店に時価という不確定はあっても、当たり外れという妥協はないもんでな。」

 

前世で培った教訓がある。勝負時に肝心なのは不確実な奇跡を待つことじゃない。不測の事態を一つずつ潰し、最上の結果を目前に置くことだ。それを思い出し、デュエルディスクに手を添える指先から、震えが消えていく。

 

「《うに型二番艦》の効果発動! お前の罠は、認められない。無効だ!」

 

すまんが迷惑客は、お断りだ。

 

「なっ……馬鹿な! 俺のビッグウェーブが……俺の運命がぁ!」

 

健三郎の顔から余裕が消え、絶望が荒波のように押し寄せるのが見えた。投げられようとしたコインは、その行き場を失って虚空に溶けていく。計算外の事態に狼狽える男を冷徹に見据えながら、俺は勝利への確信を拳に込めた。ピリピリと肌を刺していた殺気立った空気が、一気に俺の支配下へと塗り替えられていくのを感じる。

 

「《うに型二番艦》で、ダイレクトアタック! 確率で弄び、運命という名の不確実性に甘んじた……それがお前の敗因だ!」

 

健三郎 LP 1500 → 0

 

黄金の弾丸が健三郎のライフを貫き、0へと変えた。

 

「……寿司に……負けた……だと……⁉」

 

爆発するARビジョンの中、崩れ落ちる健三郎の横で、俺は手際よく自転車のスタンドを跳ね上げた。アドレナリンが引き、ドッと疲れが押し寄せる。

 

 

 

####

 

 

 

俺は倒れこんだ健三郎に自転車から1枚のチラシを取り出し、一応営業をしておく。

 

「……はい、これ。うちの店のチラシ。負けた傷を癒したいなら、いつでも来な。そのへんの寿司屋より、よっぽど精緻なネタを揃えてるからさ」

「へっ、負けたよ達人。……ほら、約束のハートピースだ」ウップ

 

運動後だからだろうか。健三郎がえづきながら、彼は胸ポケットからピースを取り出す。

 

「大丈夫か?」「ああ、大丈夫だ…」ウゥプ

 

絶対大丈夫じゃないだろ、と判断した俺はボトルを取り出し、健三郎に手渡す。

 

「ほら、飲め。吐かれたら俺まで気分が悪くなりそうだ」

「面目ねぇ、ハートランドの飯がウメェばっかりに…」

 

それ自己管理能力が低いですと暴露してしまっているようなものだがいいのだろうか?いやそもそも、そんなやつはギャンブラー何ぞにならねぇか。心の中でそんな自問自答をしているうちに健三郎は水を飲み切り、喉元まで上がっていたらしい何かを飲み込み、改めて晴れやかな顔で自分のピースを差し出してきた。

 

「すまねぇな、ほらよ」ヒック

 

今度はしゃっくりですか、とちょっと呆れながら俺はそのピースを受け取る。

 

「どうも。中々ヒリヒリして怖かったけど、……楽しかったぜ」

「ふん、どうだか。負けた身分だからあれこれ言わねぇが、俺は納得いってねぇからな。次会ったときには、俺のダイスが6を出すぜ。その時は無料券でももらうからな!」ヒクッ

 

それは御免被りたいところだが、不思議と嫌な気はしない。これが丸々フォルム特有のオーラですか。

 

「へー、結構旨そうじゃねぇか!今度行ってやるよ!」

 

健三郎がチラシに映る寿司の写真を見て、そう感想を言ってくれる。

 

「腹が減ったらぜひ寄ってくれよな?」

 

そう言いつつ、俺は自転車のスタンドを上げてサドルに跨る。残念ながらピースの形は合わなかったが、一勝は一勝だ。俺は健三郎を背に、再びペダルを漕ぎ出す。

 

「さて……出前先へ急ぐか。シャリが乾燥しちまう前に」

 

「がんばれよー!板前!応援してるからなー!」「ああ!」

 

遠ざかる健三郎の声を聞き流しながら、俺は出前のため、祭りに沸く街へと走り出した。

WDC開幕戦、初戦。俺は、独り静かに、だが着実に看板を守り抜いた。たとえその看板がどれほど重く、目立つものであっても。







大瀬戸健三郎のモデルを快諾してくれた友人に最大限の感謝を。
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