軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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赤司寿のインストラクティブ決闘教室

自転車からアンナを下ろし、裏庭に置く。時間はとっくに夕方を過ぎ、夜だ。

 

家の暖簾をくぐると、そこには使い込まれた包丁のように鋭く、冷徹な空気が漂っているのが分かる。外の喧騒を遮断した静謐な店内には、酢飯の香りと共に、職人の矜持が張り詰めていた。厨房の奥、磨き上げられたステンレスの向こう側から、低く威圧感のある声が響く。

 

「遅かったな、寿。出前一つにどれだけ時間をかけている。……それと、そいつは誰だ」

 

顔を出したのは、他でもない俺の親父だ。頑固一徹を絵に描いたようなその硬い表情が、俺の背後を見た瞬間、一転して彫刻のように凍り付く。無理もない。静かな和の空間に、極彩色の嵐が紛れ込んだのだ。俺の隣には、ピンク色の髪を爆発させ、自分の背丈ほどもある巨大なロケットランチャーを引きずりながら、ガハハと豪快に笑う少女が立っていたからだ。

 

「……寿、説明しろ。」

 

絞り出すような親父の問いに、俺は疲れ切った肩を落とした。

 

「親父ィ……話せば長いんだけどさ。俺とデュエルした相手が弟子にしてくれって聞かないんだよ」

「んんん?弟子だと?そ─」

 

親父が絶句し、次の言葉を言いかけるより早く、アンナが躊躇なく一歩前に出た。ドスン!!と、フライングランチャーを座敷の床に力任せに叩きつける。衝撃で店の空気が震え、畳が痛むだろ、やめろと言う隙すら与えない圧倒的なハイテンション。木造建築の座敷が、その重圧に悲鳴を上げるのがよく分かる。

 

「俺は神月アンナだ! 寿の親父さん、今日からしばらくここで寝泊まりして、デュエルの極意を盗ませてもらうぜ!よろしくな!」

「師匠?……寝泊まりだと!?」

 

親父の目が点になる。年頃の女の子が、しかもこんな重火器を抱えた嵐のような娘が、男所帯の寿司屋に居座る。常識で考えれば即座に門前払いだが、アンナの瞳は本気だった。一直線に突き進む、ブレーキの壊れた列車の輝き。その迷いのない眼差しが、職人として生きる親父の何かを揺さぶったのかもしれない。

親父はしばらく俺とアンナを交互に見ていたが、やがて深く、重い溜息を吐き出した。

 

「……お前が連れてきたんだ、責任持って面倒を見ろ。空いている物置部屋を片付けて使わせな。ただし! 修行の邪魔をするようなら、その大筒ごと叩き出すからな」

 

「……すまん、親父」

 

俺が観念して頭を下げると、アンナは待ってましたとばかりに顔を輝かせた。

 

「よっしゃあっ!ありがとうな、親父さん!」

 

こうして、俺の唯一とも言える安全地帯は文字通り爆破される形で、共同生活へと突入したのだった。

 

 

 

####

 

 

 

翌朝。職人の朝は早いが、弟子のやる気はそれ以上に早すぎた。 まだ夜の帳が降りている午前四時半。静まり返った『軍艦処・赤司』の二階に、突如として雷鳴のような絶叫が轟いた。

 

「起きろぉぉぉーーー! 師匠!! 朝だぜ!! 太陽が俺を呼んでるぜ!!」

 

布団を勢いよく剥ぎ取られ、鼓膜に直接叩き込まれる大音量。

 

「……うおっ!? ど、どこの爆発だ……」

 

枕元で叫ばれ、心臓が跳ね上がる。 朦朧とする意識の中で時計を見れば、針は五時前を指している。明らかに早えよ。 視界を上げれば、窓から差し込む薄明かりを背に、アンナが既にデュエルディスクをバチンと起動させ、やる気満々で俺を見下ろしていた。

 

彼女の瞳は一点の濁りもなく、その存在感だけで四畳半の部屋が狭く感じる。俺はそれを認知すると同時に、昨日の出来事が夢でないことを悟る。今更ながらもその余りにも受け入れがたい事実から、俺は重い体を引きずり、ふらふらと起き上がる。

 

洗面所で冷たい水を顔に叩きつけ、無理やり脳を目覚めさせた後に、店の裏手にある小さな空き地へと彼女を連れ出す。まだ太陽は顔を出しきっておらず、周囲は青白い空気に包まれていた。足元の朝露に濡れた草の匂いが、鼻腔を抜けて少しだけ頭を冷やしてくれる。

 

「早速デュエル!師匠、デュエルしようぜ!昨日のような逆転劇を見せてくれよー!」

 

空き地に立つなり、アンナはフライングランチャーを構えて吠えた。彼女のエネルギーは、朝日よりも眩しく、そして容赦がない。

 

「アンナ、お前は俺に負けるために弟子になったんじゃないんだろ?」

 

俺はあえて冷静に、静かな声で問いかける。

 

「ま、まぁそうなんだけどさ!頼むよー!」

 

アンナはそうせがむが、俺はそれをステイさせ、少しながらのデュエルの俺なりの知見を教えることとする。猪突猛進も彼女の魅力だが、それだけではこの先勝ち抜けない。

 

「分かったから、まずは待て。俺なりに考える、お前のデッキの戦術を教えてやる」 「師匠なりの!?」

 

途端に目を輝かせるアンナ。その表情の切り替わりの早さに、思わず苦笑いが漏れる。 やはり前世から思っていたが、直情的で純情なところや一応素直なところとか、どこか遊馬と似てる部分が多いよなぁと思いつつ、その期待に胸を膨らませる乙女にアドバイスを始めることとする。

 

俺は足元に転がっていた木箱を拾い上げ、その上に数枚のカードを並べた。板場に立つ親父の背中を思い出しながら、厳しい職人の顔を作る。

 

「……いいか、アンナ。早速デュエルの戦術なるものを教えてやる。お前の十八番、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》を例に出そう。あれの2000バーンは確かに強力だ。だが、お前はいつも『出せるから出す』ってだけでぶっ放してないか?」 「当たり前だろ! 出せる時に出さなきゃ、愛が腐っちまうぜ!」

 

アンナは不満げに頬を膨らませる。 愛が腐る、か。彼女らしい言い分だが、やはり彼女は、自分の信条が勝利を遠のかせることとは認知していないようだ。俺は並べたカードを指先で叩き、彼女の目を見据えた。

 

「それが『わさび抜き』だって言ってんだよ。……具体的に例を三つ教えてやる。耳の穴かっぽじってよく聞け」 「女の子に下品なこと言うんだ?」

 

頬杖をつきながら、茶化すように唇を尖らせるアンナ。

 

「黙らっしゃい。まずは……そうだな」

 

俺は一つの戦術的な欠陥を指摘する。

 

「昨日のお前の《ロケット・アロー》について話そうか。手札5枚をコストにするってのは、次のターンに何も手札が無い状態だ……デュエルにおいて手札は可能性の塊と等しい。つまり、アンナ。お前がやっているのは自ら可能性を投げ捨てているのと同義だ。思考停止で《ロケット・アロー》を特殊召喚するな。そいつは確かに爽快かもしれないがデメリットがデカすぎる。お前のデッキなら、下級モンスターなどを使って防御しつつも常に次の弾を確保しながら戦うべきだ」

 

アンナの表情が、わずかに真剣なものへと変わる。俺はさらに畳みかける。

 

「2000のダメージはデカい。相手のライフが4000の時に使うのと、1500の時に使うのでは意味が違う。前者はただの痛手にすぎないが、後者は絶望だ。何が言いたいかっていうと、いくら《グスタフ・マックス》を出せる状況であってもそれを一先ずグッと堪えろ。重要なのは、未来を見据えることだ。手札に防御札がないのなら、あえて守備表示にするべきだし。相手の盤面にモンスターしかいないのなら止めの一発とするべきだ。つまり、出すべき時に出す。その時を見計らえ。これが相手の鼻にツーンとくる『わさび』だ」

 

俺はさらに、裏庭に吹く冷ややかな朝風に声を乗せ、心理戦の神髄を語る。

 

「デュエルにおいて非常に大事なマインドとして、相手の思考を読むというものがある。これはつまり、相手の次のターンの動きを予想しそれに合わせてこちらが展開するというものだ。相手が攻めてきそうであればカードをセットするし、こっちが攻めるのならカードを駆使して、いかに勝利を掴めるか。その一点だけに狙いを定めろ。だが、もしも相手が攻めてきそうな時でも罠や速攻魔法が手札に無い場合もある。その時はあえて通常魔法をセットするのも有効だ、相手はそれを怪しみ、無価値な深読みをしてくれる。同時に今使えないと判断した通常魔法を罠カードなどと同時にセットするのも良いな、これで相手が伏せカードを除去してきた時に盾となってくれることがあるからな」

 

「次に…」 「ま、待ってくれ師匠!濁流のように言葉を流すな!パンクしちまうよ!」

 

悪癖で思わず俺が早口で話し始めると、途中まではついてきたと思うのだが、段々アンナが両手で頭を抱え、終いにショート寸前の顔で叫ぶ。彼女の頭上から、ぷしゅーっと湯気が出ていそうなほどの困惑ぶりだ。

 

「す、済まない」

 

俺は苦笑しながら口を閉ざした。 しかし、無理もない。昨夜まで「デカい砲弾を撃てば相手は死ぬ」という超シンプルな力学で生きてきた彼女に、ブラフやリソース管理といった芸を詰め込むのは、軽トラックに新幹線のエンジンを載せるようなものだ。

 

「……でも、まぁそうか。これ以上は無意味か」

 

俺は、知識の濁流に目を白黒させているアンナを見て、小さく息を吐いた。木箱の上に並べていたカードを一枚ずつ丁寧にまとめると、指先でパチンと乾いた音を鳴らす。その音は、静かな朝の空気を切り裂く合図のようだった。

 

「言葉だけで理解できるなら世話ないからな、座学はここまでだ。アンナ、デュエルディスクを起動しろ。言葉でわからねぇなら、その身体とデッキに直接叩き込んでやる」

 

「おう! そうこなくっちゃ! 講釈垂れてる師匠より、戦ってる師匠の方が百倍マシだぜ!」

 

俺の話がつまんないと言いたいのか? 確かに面白くはないだろうが、役に立つようにやってるつもりなんだけどな。

朝日が斜めに差し込み、長い影が地面に伸びる。朝露に濡れた草を二人の足が踏みしめ、鋭い電子音と共に、二つのデュエルディスクがその翼を広げた。

 

「「デュエル!」」

 

 

 

####

 

 

 

寿 LP 4000 / アンナ LP 4000

 

「先行は俺だ、ドロー」

 

引き抜いたカードを確認し、俺は迷わずスロットに差し込む。

 

「俺はモンスターを裏守備表示でセット。カードを二枚伏せてターン終了だ」

 

アンナのデュエルの腕はまだまだ未熟だが、とはいえLP4000の世界でそう簡単に攻守のステータスを無視できないのも事実。ここは防御が最善だ。

 

「俺のターン、ドロー!うしっ、いいカードが来たぜ!」

 

その声から推測するに、やはりアンナは攻めてくるか?

 

「それはよかったな、だがこれはどうだ?俺は伏せカード《一族の掟》を発動する。宣言は機械族だ。これでお前は機械族モンスターで攻撃できなくなるぞ。」

 

しかし、アンナは余裕の表情を隠さない。

 

「なんだよ師匠、昨日もだけどしょっぱなから守りかよ!……けど、今の俺は昨日の俺よりもちょっと強いぜ!俺は速攻魔法、《邪気退散》発動!手札から《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》を捨て、師匠のフィールドにある《一族の掟》を破壊だ!さらに《臨時ダイヤ》で《ナイト・エクスプレス・ナイト》を守備表示で特殊召喚だ!俺はこれで《燃える闘志》を伏せてターンエンド!」

 

アンナは自信満々にカードを使いこなし、バッポォ!と景気のいい音を立ててターンを終えた。予想外だ。一晩でここまで上手になるだなんて思ってもいなかった。だが、そうにしても俺は思わず額を押さえる。

 

「おい…」

「え、なんか俺変なことでもしたのか?」

 

首を傾げるアンナ。その無垢な瞳に、俺は深い絶望を禁じ得ない。無自覚かよ。

 

「せっかく罠を伏せたのに何でカードの名前を言うんだ?」

「あっ!」

 

慌てて両手で口を塞ぐアンナ。うーむ、やっぱりそういうところから教えないとか。とはいえ、アンナのフィールドにある《ナイト・エクスプレス・ナイト》の守備力は3000。今の俺の盤面で突破するには、少しばかり工夫が必要だ。

 

「俺のターン、ドロー! 俺は裏守備モンスターを表側攻撃表示に!」

 

現れたのは、赤いイクラが零れんばかりに乗ったシャリの船。

 

伏せていたモンスターは《いくらの軍貫》だ。案外昨日と同じく、何も考えずに特攻してくると思ったからカウンター用に伏せておいたが、それは杞憂だったようだ。彼女は彼女なりに、昨夜の敗北を反省した……のか?

 

「俺は罠カード発動、《きまぐれ軍貫握り》。俺はデッキから軍貫を三枚提示し、選ばせる」

 

俺はデッキから三枚のカードを引き抜き、アンナの目の前に突きつける。《うにの軍貫》三枚を提示する。

 

「どれも同じじゃねぇか! 俺は真ん中で!」

「俺はそのカードを手札に加え、残りはデッキに戻る」

 

それはそうなんだが、職人の気まぐれに付き合ってもらうのがこのデッキだ。クセが強いのは百も承知だが、そうカードに書かれているのだから仕方ない。

 

「俺は手札から《いくらの軍貫》を相手に見せ、《うにの軍貫》を特殊召喚。《いくらの軍貫》はデッキに戻る」

 

朝の光を浴びて、フィールドに高級食材が揃い踏みする。

 

「でも、それはレベル5とレベル4! エクシーズ召喚はできないぜ!」

 

ビシッと人差し指を立てて、アンナは勝ち誇ったように言う。基本ルールは覚えているらしいが、軍貫の「仕込み」の深さを彼女はまだ知らない。

 

「普通ならな。俺は《うにの軍貫》の効果発動、《いくらの軍貫》のレベルを4から5に変更!」

「えっ!」

 

驚きに目を見開くアンナ。その隙を逃さず、俺は二つの光を収束させる。

 

「俺は二体でオーバーレイ・ネットワークを構築、エクシーズ召喚!」

 

立ち上る光の柱の中から、巨大なウニを戴いた鉄鉄の戦艦が浮上する。

 

「現れろ、《超弩級軍貫-うに型二番艦》!」

 

「でも、そいつの攻撃力は2900! 俺の裏守備モンスターには届かないかもしれないぜ?」

 

あ、やっぱり守備力3000なのか。正面から当たれば跳ね返される数値だが、軍艦は障害物を回避して進むものだ。

 

「助言は受け取るが、浅いな。《うに型二番艦》の効果発動、オーバーレイ・ユニットに《うにの軍貫》が含まれているので直接攻撃できる!」

 

「アンナに直接攻撃!」

 

「えっ!?」

 

巨大な船体が線路を無視してアンナへと迫る。

 

「罠だったりの効果を忘れてたりしないか?」

 

「あっ、そうじゃん! 俺は手札から効果発動、《工作列車シグナル・レッド》! 相手の直接攻撃時、このモンスターを攻撃表示で特殊召喚でき、攻撃対象を変更する!」

 

火花を散らして滑り込んできた赤い車両が、二番艦の進路を遮る。激しい衝突音と共に、アンナのライフが削り取られた。

 

《超弩級軍貫-うに型二番艦》ATK 2900 vs 《工作列車シグナル・レッド》ATK 1000

 

アンナ LP 4000 → 2100

 

「しかし、ダメージは食らってもらう。これで俺はカードを一枚伏せてターンエンド」

「くっ……やっぱり師匠は強い……俺は師匠のエンドフェイズ時に罠カード発動、《砂塵の大竜巻》!」

 

ここで使ってくるか。さっきの座学を少しは役立てているのか、破壊のタイミングとしては悪くない。

 

「俺は師匠の魔法または罠カードを破壊できるけど……どっちがいいんだ?」

「流石にそれは言えないぞ?」

「分かってるって! うむむ、じゃあ俺は師匠が最初に伏せたほうのカードを破壊だ!」

 

砂の渦が俺の伏せカードを粉砕する。

 

「それは《ドッペル・ゲイナー》だ」

「よっしゃあ! 俺は手札からカードを伏せるぜ!」

 

そんなに昨日の反射ダメージの記憶が鮮烈だったのか、目に見えて安堵の表情を浮かべるアンナ。

 

「改めて、ターンエンドだ」

「よしよし、前回みたいなことは無かったぜ。俺のターン、ドロー! 俺は手札から《勇気機関車ブレイブポッポ》を召喚! そして伏せカード発動、《サザンクロス》! 《勇気機関車ブレイブポッポ》をレベル4からレベル10に変更!」

 

毎度相手の展開中に思うのだが、なぜ《うに型二番艦》は自分のターンにしか魔法・罠無効を使えないのか、設計した職人を小一時間問い詰めたい。本当に、この無防備さは甚だ疑問だ。

 

「俺は二体のレベル10モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》! 効果発動2000ダメージを食らえ……」

 

アンナは勢い良く、フィールドのど真ん中に出す。

 

「罠発動。《赤酢の踏切》。出たばっかりで済まないが、グスタフをエクストラデッキに戻させてもらう」

「はぁぁぁ!? なんだよそれ!」

 

いやだって同じ縦列に出したから……

咆哮とともに巨大な砲身が狭い裏庭を埋め尽くしたかと思った瞬間、《グスタフ・マックス》は実体化の余韻すら残さず、列車は虚空へと吸い込まれて消えた。

 

「………」

「………」

 

吹き抜ける朝風が、虚しく二人の間を通り過ぎていく。あまりにもあっけない幕切れに、気まずい沈黙が流れた。

 

「……続けるか?」

「いや、俺の負けでいいや……」

 

アンナは力なくディスクを下ろすと、ガックリと肩を落とした。

 

 

####

 

 

 

しかし、アンナは諦めなかった。そこから、(アンナにとって)地獄のような連戦が続く。

 

「俺は《爆走特急ロケット・アロー》を特殊召喚、やっぱ頼るべきは攻撃力だよな!5000だよ、5000!」

「だが守備力は0。そうだろ?」

「えっ?」

「《カード・フリッパー》発動、俺はカードを一枚捨てて《ロケット・アロー》を攻撃表示から守備表示に」

「えっ」

「《ゴブリンドバーグ》と《いくらの軍貫》でオーバーレイ。《いくら型一番艦》、二回攻撃だ」

「あうっ」

「馬鹿正直に信頼するからそうなる。続けるか?」

「や…やり直しで…」

 

 

 

####

 

 

 

「よしよし、師匠のライフはもう1500だ!俺は《無頼特急バトレイン》の効果で師匠に500ダメージを与えるぜ!」

「受ける。LPは1000か…しかし、俺のフィールドには《しゃりの軍貫》がいるぞ?」

「今いる《グスタフ・マックス》の攻撃力は3000で、《しゃり》は2000……そのまま攻撃が通れば勝てる……」

(だけど、あの表情!絶対に何か狙ってる!まんまと乗せられるものか!)

「どうした、攻撃しないのか?」

「……いや、俺はこれでターンエンド!」

「ふむ、そうか。しかし甘いな。」

「へっ?」

「俺は伏せカード、《二重召喚》発動だ。」

「罠じゃねぇのかよ!」

「俺は伏せカードが罠だなんて一言も言ってないが?」

 

「ぐぐぐ…」

 

 

 

####

 

 

 

「俺は《超弩級軍貫-うに型二番艦》で直接攻撃し、カードを2枚伏せる。ターンエンド」

(今度は絶対油断しねぇ!)

「……二体でオーバーレイ!《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》だ!《臨時ダイヤ》で《除雪機関車ハッスル・ラッセル》を守備表示で特殊召喚!よし、守りは固めた!《グスタフ・マックス》の効果発動!2000ダメージを相手に与える!」

「《ドッペル・ゲイナー》発動だ。」

 

「あっ」チュドーン

 

 

 

####

 

 

 

激しい爆発音が響き、あろうことか放たれた砲弾が鏡のような障壁に跳ね返る。 自らの切り札が放ったエネルギーを正面から浴び、アンナは吹き飛ぶ衝撃をこらえきれず、地面を転がった。

 

「どうすればいいんだよ!」

 

アンナは地面を拳で叩き、吐き捨てるように叫んだ。 もはや何度目の敗北だろうか。彼女の自慢の火力は、俺の盤面の「何か」に阻まれ、その度に手痛いしっぺ返しを食らっている。

 

「……師匠に勝てねぇ。なんでそんなに簡単に俺の攻撃が跳ね返されるんだよ?」

 

地面に膝をつき、肩で息をするアンナ。ピンク色の髪が汗で額に張り付き、その表情には隠しようのない焦燥が滲んでいる。 俺は彼女の前に立ち、砂煙の中でまだ熱を帯びているデュエルディスクを収めると、静かに告げた。

 

「お前の信念は重すぎるんだよ。重すぎて、次に何をするか丸見えなんだ。……アンナ、思い出せ。相手に一番刺さるのは、いつだって『予想外の痛み』だ」

 

「……予想外の、痛み」

 

彼女はその言葉を噛みしめるように呟き、自らのデッキを見つめ直す。 直線の線路をただ爆走するだけでは、熟練の職人が用意した罠を飛び越えることはできない。

 

「もう一度だ。俺の思考を読め。俺が何を恐れているか、お前のその真っすぐな瞳で、線路の先まで見通してみろ」

「線路の……先……そうか!分かったぞ!」

 

その瞬間、アンナの瞳に宿っていた曇りが、朝日を浴びて一気に晴れた。 彼女はバネのように飛び起きると、乱れた髪を無造作にかき上げ、再びディスクを起動させる。

 

「何か掴んだか?」

「ああ、飛びっ切りのな!ってことで、デュエルだ!」

 

「「デュエル!」」

 

寿 LP 4000 / アンナ LP 4000

 

火花を散らすような視線の交差と共に、再び裏庭にデュエルの火蓋が切って落とされた。

 

 

 

####

 

 

 

それから数分後、朝日が頭上から二人を照らす頃には、決着の時が迫っていた。

俺のライフは2500、アンナのライフは残り400。俺のLPはギリギリではあるが、《グスタフ・マックス》の2000ダメージ一発では届かない安全圏だ。

対して、俺の場には《弩級軍貫-いくら型一番艦》が鎮座し、伏せカードが一枚。アンナの手札は三枚だ。

 

「……俺のターン、ドロー」

 

絶体絶命の状況で、彼女の瞳が変わった。今までの猪突猛進するような姿勢ではない。 獲物を狙う鷹のような、静かな集中力。彼女は引いたカードを見ても、即座に叫ばなかった。じっと俺の伏せカードを見る。

 

俺はあえて不敵な笑みを浮かべ、盤面に自信があるように振る舞ってみせた。

 

(さあ、どうする? この伏せを恐れて止まるか、それとも……)

 

「……師匠。その伏せカード……本当は『わさび』じゃないだろ?」

「ほう?」

 

俺の問いかけに、アンナは確信に満ちた笑みを返した。 その視線は、俺の指先のわずかな動き……いや、「動かなさ」を捉えていた。

 

「さっきから俺の動きを見て、指がピクリとも動いてねぇ。……分かったぞ。そいつはブラフだ!俺は《臨時ダイヤ》で墓地にある《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》を守備表示で特殊召喚、さらに《死者蘇生》を発動!俺の墓地にある《無頼特急バトレイン》を守備表示で特殊召喚だ!」

 

アンナは一気に展開した。だが、ここでグスタフを出すといういつもの選択を彼女は捨てた。 鉄壁の守りを固め、じりじりとこちらの隙を窺う戦法。それは彼女が「力」だけでなく「理」を手に入れ始めた証拠だった。

 

「……出さないのか? グスタフを」

「ああ、今出しても師匠のライフを削りきれねぇ。それなら、このターンは温存して、師匠が攻めてくるのを待つ! これが……師匠に教わった、未来を見るってことだろ!」

 

「…………」

 

その成長に、俺は思わず言葉を失う。 彼女は自分の最大火力を「あえて使わない」という忍耐を覚えたのだ。

 

「俺は《無頼特急バトレイン》の効果で師匠に500ダメージを与え、ターンエンド!」

 

寿 LP 2500 → 2000

 

(くそ、グスタフ・マックスの射程圏内に入っちまった……)

 

じわりと冷や汗が流れる。彼女が仕掛けた500の端数ダメージが、今、決定的な重みを持って俺にのしかかっていた。

 

「俺のターン、ドロー!俺はカードを一枚伏せる」

「さらに俺は《弩級軍貫-いくら型一番艦》で《無頼特急バトレイン》を攻撃して破壊する。ターンエンドだ」

 

彼女が守備で残したモンスターが厚い壁となり、俺の攻撃を吸い取っていく。 そして返しのターン。アンナは溜め込んだエネルギーを、勝利の方程式へと一気に変換した。

 

「俺のターン!来たー!俺は《豪腕特急トロッコロッコ》を召喚、さらに《サザンクロス》の効果によりレベルを10にする!」

 

大気を震わせる重低音と共に、鋼鉄の巨躯がオーバーレイ・ユニットへと吸い込まれていく。 アンナの背後に、朝日よりも巨大なシルエットが浮かび上がった。

 

「今だ!『わさび』の効かせ所だ!二体でオーバーレイ、出でよ!《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!師匠に、この2000ダメージは……絶望だろ!!」

「……もしこの伏せカードが《ドッペル・ゲイナー》だったら?」

 

俺は最後のブラフを仕掛ける。かつて彼女を絶望させたあのカードの影を、言葉の端にちらつかせた。 だが、アンナの瞳に迷いは一欠片もなかった。

 

「もう迷わねぇ!ここで決めるぜ、発射ァァァ!」

 

彼女の迷いのない叫びと共に、巨大な主砲が火を噴いた。 凄まじい衝撃が俺を襲い、視界が真っ白に染まる。俺のライフカウンターが激しい音を立ててゼロを刻んだ。

 

寿 LP 2000 → 0

 

砂煙が舞い、静寂が戻った裏庭で、アンナは勝利を噛みしめるように拳を高く突き上げた。

 

「やったぁぁぁーーー!! 勝った! 師匠に勝ったぞぉぉーーー!!」

 

朝日が完全に昇り、街が動き出す喧騒が遠くに聞こえる。 俺は尻もちをついたまま、呆れたように、そして教え子の確かな成長を噛みしめるように、少しだけ誇らしく笑った。

 

「……合格だ。最後の一撃、鼻にツーンときたぜ」

「へへっ。師匠の教え、案外悪くないな!」

 

汗だくの弟子が、太陽のような笑顔で俺に手を差し伸べる。

商店街の時計は、ようやく6時を回ったぐらいを示している。WDC予選二日目はまだ、始まったばかりだ。







Q.《デリックレーン》とか《転回操車》とか、便利なカードがあるのに何で教えないの?
A.AV期辺りのカードだからです。
Q.AV期のカードなら主人公も《予想GUY》とか使ってるよね?
A.ささやかながらの転生チートです。Pモンスターを持っているとかそういうことでは無い。
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