軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
転生って?
俺、前世の名前は……まあいいか。どこにでもいる普通のサラリーマンだった。 趣味はガキのころからずーっとカードゲーム。働いて食って寝て、そしていつしか死ぬ運命を持つ、どこにでもいる「一般人」だったはずなんだ。
だがある日、俺は転生した。 目覚めたら、俺はガキに戻っていた。
転生の原因? ……覚えてない。 トラックに轢かれたのか、それとも某ダイ・グレファーさんのように異次元に吸い込まれたのか……。いずれにせよ、覚えていないし、そんなに興味もない。俺はドン千じゃあないので「知ら管」としか言えない。
で、状況を把握すると、だ。 そこは、近未来都市ハートランド。 空にはDr.フェイカーの技術力の結晶といえるタワーがそびえ立ち、街ゆく人々は重力を無視した髪型をし、誰もが当たり前のように「決闘(デュエル)」を日常に取り入れている――あの『遊☆戯☆王ZEXAL』の世界だった。
「……よりによって、ここかよ」
最初は絶望したさ。 誰だってそうするだろう。俺もそうした。 だってここ、物語が進むにつれて街は壊されるわ、魂は狩られるわ、異世界から変な軍団が攻めてくるわ……というか見かけによらず治安が最悪だったりする。元日本人が生きていくには、あまりにハードすぎる街だ。
しかも、俺の新しい実家は、時代錯誤な江戸(風)前寿司の店。 『軍艦処・赤司』。 最近ハートランド外の街から引っ越してきて、今年グランドオープンしたばかり。伝統と腕前はあるものの、客足はまだまだ少ない。 母さんは若くして亡くなり、今は基本的に俺と親父の二人体制で店を回している。 親父は頑固一徹、味はいいけど商売下手。いい意味でも悪い意味でも「昭和の親父」だ。 ……ここで昭和なんて言葉は通じねぇけどな! ハハハ!
――笑ってる場合じゃねぇんだよ。 ともかく、俺はそんな店の一人息子、赤司 寿(あかし ことぶき)として第二の人生をスタートさせることになった。
(はー……。前世では食べる専門で、職人になるなんて考えたことすらなかったのに。今じゃ毎日シャリを炊いて、魚を捌く修行の毎日だ。おかげで手はいつも生臭いし、ハチマキは絶望的に似合わねえし)
転生チートもない。見えないもの(精霊)が見えちゃったりする特別な目もない。 ではご自慢の「知識チート」はどうかといえば、お世辞にもあるとは言えない。なぜって? 十年以上前の環境なんて細かく知らねーよ! デュエルスフィンクス? 残念ながら俺は高速環境しか知らない身なので、この低速環境での駆け引きはアニメで見たことしかないのだ。
だが、そんなおらこんな田舎いやだ状態の中でも唯一の救いがあった。 この世界の俺の引き出しに、ポツンと置かれていた一つのデッキ。 それは、前世で俺が一番愛用していた【軍貫】のカードたちだった。
ランク4・5を主軸とし、バニラモンスターの《しゃりの軍貫》に「ネタ」を重ねてエクシーズ召喚。素材に応じて追加効果を発動する……というコンセプトのテーマ。 軍艦巻きを忠実なまでに再現したデザインの完成度はピカイチと言われる反面、正直、前世の環境(インフレ後)ではそこまで強いテーマじゃなかった。 じゃあなんで愛用するのかって?
寿司が好きだからに決まってるだろ!
I LOVE SUSHI! But I HATE WORKING HARD!
好きな食べ物と好きな趣味が融合したテーマを、好きになれない決闘者がどこにおるよ?
しかも、だ。 「そんなに強くない」と言ったのは、リンク召喚やら先行封殺やらでインフレしまくった後世の話だ。 《増殖するG》もこの世界なら(まだ)そこまで狂った強さじゃない。 大インフレ時代到来以前のこの環境……「一撃必殺」より「エースのぶつかり合い」が主流の今なら、軍貫は十二分に闘える。その確固かつ純然たる自信が、俺の中にはあった。
「寿司を握れば親父に怒鳴られ、デュエルをすれば『ネタが面白いだけだ』と笑われる。……ったく、前世より忙しいじゃねえか」
そうぼやきながらも、俺は時計を見る。 おっと、もうこんな時間か。 握りしめていた包丁を置き、捌き終わった身を冷蔵ケースへ。床下から引っ張り出したデュエルディスクを腕に装着する。 これから店に来る「とんでもない客」――我らが主人公、九十九遊馬を迎え撃つために。
(まあ、普通の一般人なりに、この狂った街で生きてやるよ。……当然、できればナンバーズ争奪戦とかには、1ミリも関わりたくねえんだけどな!)
そんな俺の願いが、この後すぐに「かっとビング」という名の嵐にかき消されることを、俺は察しつつも――まだ、受け入れる準備はできていなかった。
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寿 LP0
視界を埋め尽くしていた魔力の奔流が消え、ARビジョンが解けていく。 俺のライフカウンターは「0」を表示し、乾いた音を立てて消滅した。
「……はぁ、完食。御礼だ」
俺は、ハチマキを少しだけ直しながら、努めて冷静にそう言った。 内心? 内心はもう、スタンディングオベーションの大喝采だよ!
(やべええええ!! 本物の「ガガガ・マジック」食らった! エフェクトが派手すぎて一瞬三途の川が見えたけど、最高にファン冥利に尽きるわ!! あと遊馬、やっぱりお前ホープ出さなかったな。一般人相手には純オノマトで勝負する……まぁ当然といえば当然だが)
「ふぅ……。強かったぜ、寿!」
遊馬が、太陽みたいな笑顔で手を差し出してくる。 前世で画面越しに見ていた、あの真っすぐな瞳。 俺は一瞬、その「主人公オーラ」に焼かれそうになりながらも、やれやれと肩をすくめてその手を握り返した。
「ああ、完敗だ。あんたの『かっとビング』……最高だったよ」
……なんてな! 実際は《ハーフ・アンブレイク》がアストラルに教えてもらったのかどうか知らんが、直接攻撃に効かないことに気づいた瞬間のあんたの顔、生っていうのもあって最高に面白かったけどな。やれやれ、やっぱりアニメのプレイングは、環境とは違う意味で心臓に悪いぜ
「すごかったわよ、二人とも! なんだか私までお腹空いちゃった」
小鳥ちゃんが駆け寄ってくる。 近くで見るとさらに破壊力が高いな。知識としてはあっても俺の男の本能がそう叫んでくる。
これはいけない、照れ隠しにもなってないようだが二人に向かって言う。
「はは、そう言ってもらえて幸栄だよ。じゃあ店に戻って打ち上げといくか! 俺の奢りだ、好きなだけ食ってくれ!」
(……と、つい見栄を張ってしまった。まあ、小鳥ちゃんは兎も角して、遊馬くらいならなんとかなるだろ。……たぶん。)
店に戻り、俺は再び板場に立つ。 遊馬はカウンター越しに「うめえ!」「かっとビングだ!」と大騒ぎしながら、俺が振る舞う軍艦巻きを次々と胃袋に収めていく。 それを眺めながら、俺はふと、厨房の柱時計に目をやった。
――その瞬間、俺の脳内に、前世で何度も味わった「絶望」という名の雷が落ちた。
「……あッ!!」
「どうしたんだよ、寿?」 口の周りに米粒をつけた遊馬が、不思議そうにこちらを見る。
(……忘れてた。今日、市場の『極上白魚』の確定注文、18時までだったじゃねえか!! デュエルに熱中しすぎて、仕入れルートの最終確認を飛ばしてた……!親父に大目玉食らうことになっちまう...!)
明日の開店、メニューの「白魚の軍貫」が欠品。 それは、職人のプライドが死ぬどころか、親父の拳(物理)が飛んでくることを意味する。
(やべぇ...どうする?どうする?)
そう思いつめて悩んでいる俺の視線の先に、純朴な表情をして頭上に?マークを浮かべた少年がいた。
なるほど、俺は名案を思い付いた。なれば道は一つ。
俺はすぐさまハチマキをキリリと締め直すと、カウンター越しに遊馬の肩をがっしりと掴んだ。
「遊馬、お前も手伝え! これから市場の卸元まで、直接交渉に行くぞ!」 「ええっ!? 俺、これから小鳥と宿題の続きを……わあああ!」
「いいから来い! 走るぞ! これもおもてなしの修行だ、お前の得意な『かっとビング』だろ!」 「それを言うなら『合点だ!』だろー!? 助けてくれーっ!」
夕闇が迫るハートランド。 無理やり自転車の荷台に乗せた遊馬を連れて、俺は立ち並ぶハイテクビルを横目に全力でペダルを漕ぎ出した。
(まったく。転生したら平穏に生きるはずだったんだが。……まあ、たまにはこんな新鮮な日常も、悪くはないか)
「おい遊馬! 声が小さいぞ! 気合入れていけ!」 「無茶苦茶だぜ、寿ー!!」
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なんとか、本当にどうにかして『極上白魚』の入荷に成功した。
あのアホみたいに広い市場の隅っこで、頑固な卸元の親父さんに「かっとビングだぜ俺!」と叫びながら土下座せんばかりの勢いで交渉(という名の泣き落とし)をしてくれた遊馬には、今度特上のウニでもサービスしてやらなきゃな。……あいつが「シャリがねえ!」と叫びながら市場を爆走したおかげで、危うく出禁になりかけたのは、今は考えないことにしよう。
遊馬と小鳥ちゃんを見送り、俺は戦利品の白魚を抱えて、夜の帳が下りた『軍艦処・赤司』の暖簾をくぐった。
「……ただいま戻りました」
努めて冷静に、いつもの「実直な息子」のトーンで声をかける。 すると、厨房の奥から、岩石が擦れるような低い声が響いてきた。
「……遅かったな、寿」
そこにいたのは、俺の今世の親父、赤司厳造(げんぞう)。 角刈りにねじり鉢巻が世界一似合う、絵に描いたような頑固親父だ。その手には柳刃包丁ではなく、なぜか俺が床下に隠していたはずのデュエルディスクが握られていた。
(げっ、親父……。さては俺がいない間の掃除のついでに、俺がこっそりデッキを調整してたの見つけたな?)
「すんません、親父。途中でちょっと……その、面白い客に捕まって。でも、白魚はきっちり確保してきました。ほら、この鮮度、最高ですよ」
俺は保冷ケースを差し出し、話題を逸らそうとする。 親父はケースの中身をジロリと一瞥し、「……フン、悪くない」と短く言った。だが、ディスクを置こうとはしない。
「寿。……さっき、店の前でデュエルをしていたな」
(……バレてたー!! やれやれ、この親父、耳だけは無駄に良いんだから。っていうかハートランドの住民、デュエルの音に敏感すぎだろ)
「……ああ、まあ。客が『俺とデュエルしろ』なんて言うもんだから。職人として、まずは盤面でおもてなししてやったんですよ」
本当のことは言ってないが、嘘は言ってない。
「勝ったのか」
「……負けましたよ。完食、御礼ってね」
俺が苦笑いしながら答えると、親父はフッと鼻で笑った。
「だろうな。お前の使う【軍貫】は、コンボは良いが、まだ基本が甘い。あの少年の……九十九の倅のような、がむしゃらな熱量が足りん」
(待て、今さらっと言ったな。九十九の倅? ――おいおい、親父。あんた、あの遊馬の親父さんの九十九一馬さんとかと知り合いだったりするのか……? いや、ただの寿司屋の親父がそんな原作の重要人物と接点があるわけ……)
「親父、九十九遊馬を知ってるのか?」
「知らん。だが、あの眼は知っている。……昔、この店にふらりと現れて食べては、ハートランドに店を出せと騒いでいった、あの馬鹿野郎と同じ眼だ」
(どうやらこの親父、俺が思っている以上に「この世界の住人」として深いところに根を張ってるらしい。トーシロの転生者の俺が知らないだけで、この街の変人ネットワークは、どこで繋がっているか分かったもんじゃないな)
「……まあ、いい。明日は早いぞ。さっさと白魚を下ろして、寝ろ」
親父はそう言ってディスクをカウンターに置くと、奥の居間へと消えていった。 一人残された店内で、俺は自分のデッキを手に取る。
(ナンバーズはない。あるのは、前世から愛用しているデッキと、生臭い手のひらだけ……。……ま、普通の一般人にしては、上出来な一日だったか)
九十九遊馬。 アストラル。 そして、これから始まるであろうナンバーズ争奪戦。
(悪いが、俺はメインシナリオに首を突っ込むつもりはねえよ。俺はあくまで、この街の片隅で寿司を握る。……そのついでに、ちょっとだけ、あの熱い主人公の背中を見守らせてもらうさ)
俺は白魚を丁寧に冷蔵ケースへ移し、ハチマキを解いた。 もしかしたら九十九遊馬が……小鳥ちゃんも来るかもしれないんだ。 しっかり仕込みをしておかねえとな。
「……さて。明日のシャリは、少しだけ熱めに炊いてやるか」
独り言をこぼしながら、俺は店灯りを落とした。
その日の夜、今更主人公に出会ったことを思い出し興奮してあまり寝れなかったのは秘密だ。