軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
なお、予約投稿で更新はします。
WDC二日目、正午を控えた広場は、熱狂という名の熱に浮かされていた。噴水の水飛沫が太陽光を乱反射させ、あちこちで巻き起こるARビジョンの爆風が、アスファルトを焼く匂いと混ざり合う。そんな喧騒の中で過ごした数時間は、何というか。失礼を承知で言うならば、期待外れだった。
熱気に浮かされたデュエリストたちが、次から次へと俺に勝負を挑んでくる。だが俺は、この時代のスタンダードなデッキを相手に勝ち星を挙げ続けていた。
軍艦を模したエクシーズモンスターたちが仮想空間の海を割り、圧倒的な火力を叩き込むたびに、周囲からはどよめきが上がる。
今の俺にとって、この時代の強敵たちは、まだ下ごしらえも済んでいない素材のようにさえ思えた。
「《超弩級軍貫-うに型二番艦》でダイレクトアタック! これで上がりだ」
「ぐわあああ!」
本日五人目の対戦相手が、いくらの弾幕に押し流されて膝を突く。
相手のフィールドには、この時代のランク4の象徴とも言える《カチコチドラゴン》が得意の罠カードを背後に立ち尽くしていたが、軍艦の圧倒的な制圧能力の前にはその当時では十分堅牢といえる守りも無意味だった。
黄金に輝くウニの刺を模した弾丸が、相手のライフポイントを一瞬で削り飛ばしていく。
俺は淀みない動作でデュエルディスクを解除し、相手が差し出したハートピースを受け取った。
「対戦どうも。」
「くっそ、強すぎだろ!無効にされたんじゃ何もできねぇよ!どうも、対戦ありがとうございました!」
男はもはや自己のデュエルへの弁解を不可能と判断したのか。
俺が差し出した手を掴んでから、もはや開き直ったように握手して逃げ帰るかのように去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、俺は掌に残るハートピースの冷たい感触を確認する。
周囲の観衆は、見たこともない軍艦……もとい、寿司のデッキの強さに、戸惑いと興奮が入り混じった視線を送り続けていた。
####
「うーむ……やはりそうかぁ……」
数回対戦して、前々から薄っすら感づいてはいたがそれが今回確信へと変わったものがある。
軽く考えてみればそうだ。1ターン目で運が良ければとはいえ、軍貫のようにエクシーズモンスターを2体召喚可能なデッキは一般世間には流通していない。精々1体だ。
とにかく、同じレベルを揃えてエクシーズ召喚するのはいい。ただ、基本的にそれで息が上がってしまうのだ。
後は罠と魔法にお任せと言ったところ。主人公の遊馬ですら、《ゴゴゴゴーレム》を使って1ターン耐えるか《ゴブリンドバーグ》か《カゲトカゲ》でレベル4モンスターを増やす方法をとっている。
何が言いたいかって言うと、だ。俺の持っている【軍貫】はその時点では強くはないものの、腐っても未来の力を持っている。初動という概念すら無いこの世界では、このデッキはちょっと強すぎる事実がある気がする。
じゃあ手放せと言われる筋合いも無いのも事実なのだが。
俺はこのオーバースペックという名の問題児をどう扱うべきか、内心で苦笑するしかなかった。板前として言わせてもらえば、特上のネタを回転寿司の価格で提供しているような、そんな居心地の悪さを感じていたのだ。
「とにかく、これで型が合うのは四つ目か。かなり順調だな。」
今にその問題に結論付けられる訳は無い。俺はそう判断し、思考を切り替えることにした。
思考を霧散させるように軽く首を振ると、隣で鼻息を荒くしている弟子の存在が目に入る。
この少女のエネルギーだけは、未来のデッキにすら引けを取らないほどの出力を誇っているようだった。
彼女は俺の勝利を自分のことのように喜び、ランチャーを構えて周囲を威圧している。
「やるじゃん師匠! さっきの《一族の掟》と《ダイガスタ・エメラル》を並べたコンボ、相手が泣きそうな顔してたぜ! あのエクシーズだって、手も足も出てなかったじゃん!」
アンナがランチャーを杖代わりにして、自慢げに笑う。彼女は戦いこそしなかったが、俺の隣で威勢のいい野次を飛ばし続け、精神的なプレッシャーを与える担当として勝手に貢献していた。
太陽はすでに天頂へと差し掛かり、アスファルトからはゆらゆらと陽炎が立ち上がり始めている。朝の冷え込みが嘘のように、広場は熱狂と疲労が入り混じった独特の熱気に包まれていた。
時計の長針は、そろそろ頂点を指そうとしている。
アスファルトからはゆらゆらと陽炎が立ち上がり、朝の冷え込みが嘘のように、広場は熱狂と疲労が入り混じった独特の熱気に包まれていた。
腹の虫が小さく鳴き、俺はデュエルモードを解除してベルトを緩める。
集中力が高い状態でのデュエルは、想像以上に糖分とカロリーを消費するものだ。
「……さて、そろそろ昼だな。アンナ、一旦休憩にするぞ。集中力が切れたら腕が鈍る」
「えーっ! まだまだ行けるだろ? ほら、あっちに強そうな重機使いがいるぜ!」
そう言われても、俺の心は揺るがない。俺はアンナが指差す先の、いかにもパワー自慢そうなデュエリストを一瞥してから歩き出す。勝負を急いでも、空腹で思考が鈍れば握りが甘くなる。それは板前としても、デュエリストとしても許されない妥協だ。
「ダメだ。職人は体調管理も仕事のうちなんだよ。それに……」
俺はぐう、と鳴りかけた腹をさすり、苦笑いを浮かべた。アンナの胃袋も限界に近いのか、彼女のランチャーを支える手も心なしか力がないように見える。木陰のベンチを目指しながら、俺は鞄の中の昼食を思い浮かべた。
この熱気の中で食べるスタミナこそが、午後の勝利への仕込みとなると、俺は信じているからだ。
「客に食わせてばかりじゃ、板前の身が持たないからな?」
俺たちは楠が落とす深い木陰に移動し、公園のベンチに腰を下ろした。鞄から取り出したのは、商店街の馴染みの店で買ってきた二つのからあげ弁当だ。午後の鋭気を養うにはやはり油分が必要、中身は崩れにくいように工夫してある総菜たちと、スタミナ重視のからあげだ。蓋を開けた瞬間に広がる醤油とニンニクの香りが、戦いで昂った神経を優しく解きほぐしていく。
「うっひょー! 待ってました、肉! 唐揚げ!」
アンナが目を輝かせ、豪快に拳大の唐揚げを頬張る。俺も一つ、おかずを口に運んだ。
カリリとした衣の中から溢れ出す肉汁とニンニク醤油の香りに、ささくれ立っていた神経が解けていく。
やはり、地に足の着いた食事がもたらす充足感こそが、どんなレアカードよりも俺を強くしてくれる。
「……ふぅ。しかし、どいつもこいつもエクシーズ召喚までは早いんだが、その後の詰めが甘いな」
俺はお茶を飲みつつ、そう吐露してしまう。レベルが低い、と言ってしまえばそれこそ失礼だ。彼らだって彼らなりに切磋琢磨し、強さを求めているのだろう。
しかし、それを念頭に置いたうえでも俺はそう思ってしまう。一撃に全てを賭ける潔さは良いが、その一撃をいなされた後の次の一手が、あまりにも伏せカード依存で無防備すぎるのだ。
「そうか? みんな結構凄まじいエースモンスター出してたじゃんンモッ 師匠が効果を無効にしたり、除去したりするから弱く見えるだけだよモグモグ」
アンナは口いっぱいに米を詰め込んだまま、不思議そうに首を傾げた。確かに、この時代の決闘者にとって、こちらの展開を完全に予測して捲りの札を完璧なタイミングで通してくる相手は、悪夢以外の何物でもないだろう。たとえ耐性持ちを出されても、効果除去や、素材を剥がすタイミングを見極めればどうとでもなる。着地狩りやら召喚封じされたら終わりだが、それを行うだけの戦術的厚みがこの時代にはまだ足りていない気がする。
原作?知らん、そんなのは俺の管轄外だ。
「ま、おかげでハートピースの型も順調に揃つつある。午後からはもう少し慎重に動くぞ。変に目立ちすぎると、実力者が束になって来るかもしれんからな」
「あいよ、師匠!」
俺はそう言って、最後の一つとなった米のブロックを飲み込んだ。広場の喧騒は、昼食時になっても衰える気配はない。むしろ、この休息の後にさらなる嵐が吹き荒れることを、微かな風の匂いが告げているようだった。俺は空を見上げ、その青さに一筋の雲が過るのを見つめていた。
####
その時、不意にDゲイザーが震えた。画面を見ると、メールの受信によるものだった。送信元は当然親父だ。静かな公園の空気の中で、機械的なバイブレーションが妙に大きく響く。俺は眉をひそめ、そこに綴られた短い、だが緊迫した文面に目を走らせた。
『───。──?────。』
なるほど。どうやら親父の方で、面倒事が起きて店を空けなければいけないらしい。で、予約客がいるから申し訳ないが……というような内容だった。俺は深いため息をつき、残った弁当の容器を素早く片付けた。
WDCの最中だろうと、肉親の危機を見過ごすほど俺は冷めていない。
「……悪い、アンナ。さっきの発言、取り消しだ。ちょっと親父に野暮用ができて、店を外すみたいだ。一度戻らなきゃならん」
「えぇーっ!? これからいいところなのに……。わかったよ、俺もついていくぜ!」
俺たちが残りの弁当を慌てて詰め込み、広場を離れようとしたその時だった。背後から、凍り付くような冷たい視線が突き刺さる。それはデュエリストとしての本能が警鐘を鳴らす、明らかな敵意だった。
####
俺とアンナはベンチから立ち上がり、家へと戻ろうとして歩み始める。自前の物だろうか、卓上で占いをしている男と俺たちは当然のように通り過ぎようとする。その時。
「待て……。」
水晶玉を手元に置いて座る怪しげな男が俺たちに向かって小さく、しかし耳にやけに響く声で俺たちに話しかけてきた。男の周囲だけ、太陽の光が届かないかのように暗く、不味そうな影が落ちている。その異様な雰囲気に、俺は無意識のうちに足を止めた。「待て」と言われて素直に待つのも癪だが、それを差し置いてもこの男からは無視できない異質さが漂っていた。
「待て……。そこの、魔の影らを率いし者よ……」
深く見ると、ぼろぼろのフードを目深に被っているのが分かる。占い師という客をいかにそれらしく無根拠で証拠一つもない文言を妄信させようとする仕事をしているだからだろうか。いかにも怪しげな雰囲気を漂わせている。影で覆われていて見えないが男の瞳は、その視線は俺のデッキホルダーを射抜くように凝視しているような感じがする。明らかに普通のデュエリストではない、闇の気配がそこにはあった。
まさか、またナンバーズに憑依されてる奴か?
「……すまないが、占いの客引きなら他の人にしてくれないか。今は急いでるんだ」
だが、そんなことよりも仕事が大事。固よりナンバーズは不可抗力で戦っているだけだ。今の俺たちには、それをするだけの込み入った事情など存在しない。それよりも家のことだ。
俺は淡々と答え、男の横を通り抜けようとした。しかし、男の放つ言葉の鋭さが、物理的な壁のように俺たちの足を止める。アンナもまた、本能的にランチャーのグリップを強く握り込み、警戒の姿勢をとった。
「無駄だ。見よ、あの空を。あれこそが汝らの、そしてこの世界の『終焉』の先触れよ!」
その指をさした先には、飛行船が空に浮かんでいるのが分かる。かなり小さいが、その形状からすぐに理解できる。
それはハートランドの誇る飛行船だ。
俺の脳裏に、かつて画面越しに見たあのシーンが鮮明にフラッシュバックする。
「どういうことだ?おっさんの言ってること、話が急展開すぎてよくわかんねぇぞ?」
アンナが当然のようにそう言う。飛行船…………ああ、《フォーカスフォース》の回であった、飛行船墜落未遂事件か。カイトが窓をぶち抜いた回と言えば分かりやすいか。そういえば原作でそんなシーンがあったな、と俺は妙に冷めた頭で分析していた。しかし、現実にその影を見せつけられると、背筋に嫌な汗が流れる。
「アンナ、落ち着け。」
墜ちるのは確か昼過ぎだし、そこには主人公たちがいる。俺たちがシャシャり出る幕じゃない。今は……目の前の不審者をあしらうだけだ。俺は自分にそう言い聞かせるが、目の前の予言者の笑みはますます深まっていく。
まるで、俺の知識すらも予言の範疇であるかのような不敵さだった。
「まだ分らぬか……。これは予言だ。その浮島は、黒煙と共に堕ちるであろう。その時、鉄塊に火炎が灯り、やがてそれは身体中を流れるプラズマと化す。」
前半はエンジン故障のことか?後半は恐らく飛行船の爆発を示唆しているのだろうが……軟着陸してその回は終わったような……?
俺の知る物語とは、何かが微妙に食い違っているような違和感が胸を突く。
予言者の言葉には、単なる事故以上の明確な意志が込められているように感じられた。
「浮島……?浮袋……?」
「飛行船のことだろうな。」
ああ、なるほど。というアンナの反応が聞こえる。しかし、どうにもその予言は抽象的がすぎる。
アンナは頭の上に疑問符を浮かべているが、俺の不安は加速していく一方だった。男が水晶玉を弄ぶ指先が、何らかのスイッチを押したかのように細かく震え始める。
「ふうん、ご忠告どうも。しかしそれを俺らに言ったところで無意味だと思うが?」
その瞬間その男は目元は影に覆われていて分からずとも、明らかに口角が上がる。それは獲物を罠に追い込んだ猟師のような、醜悪な歓喜の形だった。周囲の音が遠のき、予言者の発する邪悪なオーラが、この公園の一角を異界へと変えていく。男の背後に浮かぶ不気味な気配が、より一層濃くなっていった。
「フフフ……本当にそうか?」
「……と言うと?」
俺の問いかけに対し、男は溜めるように沈黙を置いた。その沈黙の間に、遠くの空から微かな爆鳴音が響いたような気がした。嫌な予感が現実味を帯びて膨れ上がり、俺の胃の底が冷たく重くなる。
男の視線は、もはや俺を通り越し、空に浮かぶ鉄塊だけを見つめていた。
「浮島には貴様の父親、赤司厳造も居るのだよぉぉぉ!」
「「な、なんだってー!?」」
奴は衝撃の事実を言って、追い打ちを掛けてくる。俺とアンナの声が重なり、驚愕が公園に響き渡った。
親父がなぜあの飛行船に? 確かに、店を外して野暮用があると言っていた。その行き先がそこだったとしたら、話は全く変わってくる。
「アンナ、連絡を……」
「師匠、お言葉だがそれをしたところで変わんねぇし意味なくないか?むしろ不安を作りかねねぇぞ。」
確かに、その思考は全く正しい。焦っていたのは俺のほうか。
仕方ないので、俺は予言の信憑性について問うこととする。
「おい、その予言の命中率は?」
「私の予言は絶対だ……魔導書がそう示せば、形さえ違えどそれは必ず現実のものと化すのだからな。」
いや水晶玉使わないんかい。俺は心の中で激しく突っ込みを入れるが、男が懐から取り出した古びた革表紙の書物からは、尋常ではないプレッシャーが放たれていた。一瞬でそれは単なる本ではないのが分かる。ナンバーズが放つそれと同じ、実体化した魔力の塊だ。
「さらに……予言は既に確定しているのだ!」
「「はぁ?」」
男は朗々とその運命を語り続ける。アンナは呆れたような声を出すが、俺の目には男の背後に蠢く不気味な影が見えていた。それはナンバーズがもたらす、所有者の精神を蝕み、狂気へと駆り立てる闇だ。男の言葉はもはや、自身の欲望とナンバーズの意志が混ざり合った異様な響きを帯びていた。
「これも魔導書が示しておることだ。光集いし未来を見過ごすモノ、滅亡を予知せんとす。これは魔導書の予言のことを指し示しているに違いないであろう!」
たぶんそれ《フォーカスフォース》の能力だな。カメラで未来視していたからな、と俺は記憶を照らし合わせる。
しかし、こいつがそれを知っているということは、こいつ自身のナンバーズもまた、未来を司る力を持っている可能性がある。俺の脳細胞がフル回転し、勝利へのレシピを検索し始める。
「えーっと……」
「フフフ……ここで私から魅力的な提案をさせてもらう。私の予言は絶対と言ったな、そこでだ。」
「そこで?」
男は芝居がかった動作で一歩前に踏み出し、俺を指差した。その指先から放たれる殺気は、すでに交渉ではなく脅迫の域に達している。アンナもまた、男の異様さに当てられたのか、いつになく真剣な表情で俺の背後に回った。
男の口から漏れた要求は、俺の想像を絶するものだった。
「私に貴様のデッキ、全部渡してもらおうか。そうしたら、貴様の父親だけは助けてやる!」
「「な、なんだってー!?」」
二回目。驚きのあまり、思考が一周回って冷静になりかける。
デッキを渡せ? デュエリストにとって魂とも言えるそれを、こんな胡散臭い男に差し出せるはずがない。それに、どうやって助けるとも明示しない。普通だったなら、信じるに値しないだろう。だが、親父の命が懸かっているという言葉の重みが、俺の決断を鈍らせようとする。
「師匠、これは不味いぜ!あいつの言ってる予言、マジかもしれねぇ…!」
「なんでだ?根拠がないだ……」
俺が反論しようとしたその瞬間、アンナが空を指差して絶叫した。
「飛行船から煙が出てきた!」
その指の先では、優雅に浮かんでいた飛行船のエンジン部から、鮮烈な炎と黒煙が噴き出していた。それは、凄惨な空中分解を予感させる、あまりにも残酷な火の手だった。
軍貫新規がひっそり発表されたりしませんかね……
しない?そっかぁ……