軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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2月中にはWDC予選を終わらせたい……と思ってカレンダー見たらあと1週間もありませんでした。春よ、来んな。





魔を刻むお菓子屋スミス(上)

時間は少し遡る。俺――赤司厳造は昨日、ある一件のメールを受け取った。何でも、旧友がハートランドに来て菓子屋を作るんだとか。ふむ、中々懐かしい名前が書いてある。ついでのようにハートランドの観光も頼む旨も書かれていたが、そんなことは些細なこと。この件を断る訳にはいかない、そう判断した俺は寿に予約客の対応を頼む旨のメールを送ってから、記された合流地に向かうこととした。

 

駅前広場の雑踏の中、ひときわ目を引く原色の塊がこちらへ向かってくるのが見えた時、俺は思わず踵を返したくなった。空気を震わせるような足音と共に近づいてくる男は、15年前と何ら変わらぬ、いやむしろより派手に悪化しているような、そんな気配を纏っていたからだ。

 

「よぉ!久しぶりだなー!厳造!10年ぶりか?」

「……15年ぶりだ。久しいな、スミス。そして何だ、その服装は」

 

目の前の男の名前は、出門スミスという。大学で出会った、言うなれば悪友。赤髪に高身長、そして彼が纏うのは派手な黒と赤を基調としたジャケット、そして自慢げにその腹筋を露わにしている姿。ムダ毛を処理しているのが逆にいやらしい。羞恥心から目を逸らし、短く言葉を返す。ハートランドの洗練された街並みの中で、その原色の輝きは暴力的なまでの違和感を放っているのが分かる。

 

「これか?そうだなー、家業とでも言っておくか!あれ、京香は?京香。あいつはいねぇのか?」

 

屈託のない笑顔で、あいつはいきなり俺が最も触れられたくない、心の奥底に沈めた名を呼んだ。静まり返った俺の心臓が、痛みを伴って微かに脈打つのを感じながら、俺は冷えた朝の空気を吸い込む。

 

「妻は……14年前に亡くなった。息子を産み残してな」

「は?タチの悪いジョークだよな?」

「事実だ」

 

俺の言葉は、自分でも驚くほど乾いていて、無機質だった。スミスの顔から血の気が引き、陽気な仮面が崩れ落ちていく。その動揺が、俺の中に眠る喪失感を再び呼び覚まそうとする。

 

「ふざけんな!聞いてねぇぞ、そんなこと!」

「落ち着け……後で話す」

 

スミスの怒号は、駅前の通行人たちの視線を一瞬だけこちらに集めた。俺はそれを手で制し、親友の行き場のない憤りを、ただ黙って受け止めることしかできなかった。まさか、初っ端から地雷を踏み抜いてくるとは。これが蛮勇か。

 

「チッ。じゃあ一馬は?一馬も死んだと言うのか?」

「一馬は知らん、連絡も無い。2年前に一度店に来た以来だな」

 

同じく大学での旧友の名前が出る。しかし、かつての仲間たちの行方を問う声に、俺は首を振ることしかできない。時の流れは残酷だ。同じ場所に留まり続ける俺を置き去りにして、すべての繋がりは風化し、砂のように指の間から零れ落ちていく。

 

「マジかよ……京香も一馬も居ねぇのかよ……精々俺の娘を自慢しようと思ってたのによぉ……」

「……娘が出来たのか?」

 

項垂れるスミスの背後から、一人の少女が音もなく一歩前へ出た。彼女が纏う空気は、スミスとは対照的に、甘く、それでいて凛とした冷たさを湛えていた。

 

「語弊だったな、娘っつっても拾い子なんだ。俺の旧友だ、しっかり挨拶しろよな」

「……初めまして、出門ラクリと言います。ハートランドの観光とテナントの設営を手伝っていただくと父から聞いております。今日はどうぞよろしくお願いいたします」

「……赤司厳造だ。よろしく頼む」

 

彼女の完璧な礼儀作法は、この騒がしい男に育てられたとは到底思えないほど、気品に満ちていた。俺は一抹の疑念を抱きながらも、頼まれた通り、柄にもない観光案内人を引き受けることにした。

 

「あれがハートランドタワーだな……。中は入れないが、この町で一番高い塔だ。ハートランドの象徴として有名だ」

「はぇ~高っかい……」

「周りにも高層ビルが立ち並んでいますし、やっぱり先進的なんですね……」

 

見上げるような巨塔の影に、俺はいつもどこか不気味な気配を感じている。高度な文明の結晶であるこの塔は、人々の不要なものを飲み込み、煌びやかな光へと変換し続ける巨大な胃袋のようでもあった。

 

「赤司さん赤司さん。あの清掃用ロボット、名前はなんて言うんですか?」

『オソウジ、オソウジ』

「……オボットだな、平時はあんな感じで道路を徘徊しているが、深夜にゴミ処理場に自動的に移動するらしい」

 

場所を変えるため、町を練り歩くと同時に足元を這い回る無機質な機械の音が街路に響く。スミスが物珍しげに腰を屈めて覗き込んだその瞬間、この街の洗礼が牙を剥いた。

 

「にしても少し不気味だな……あれ、俺の財布が……」

『ゴミ、ゴミ』

「俺の財布だ!返せや!」

 

オボットの冷徹なマジックハンドが、落ちた財布を迅速に収納していく。慌てふためくスミスの姿に、俺は僅かな苦笑を漏らし、この街の過剰なまでの清潔感への毒を吐いた。

 

「……あんな感じで落とし物までゴミと認知するのが欠点だな」

「あはは……」

 

ラクリの困ったような笑い声を聞きながら、俺たちはあらかじめ予約していた飛行船の停留所へと急いだ。地上の喧騒を離れ、空から街を見下ろせば、少しは落ち着いて話ができると思ったからだ。

 

「あれ、飛行船の乗車時間っていつだったけか?」

「……あと30分ぐらいだな、どうする?」

 

俺は腕時計を確認し、スミスの表情を盗み見る。かつての無鉄砲さはそのままだが、その瞳には親としての責任感のようなものが、僅かに、だが確かに宿っていた。

 

「ま、先に乗ったほうがトラブルに巻き込まれにくいだろ。んじゃ行くか!」

 

やがて乗り込んだ飛行船が高度を上げると、さんさんと太陽に照らされるハートランドの風景が眼下に広がり、宝石箱をひっくり返したような光の洪水が視界を埋める。スミスは窓に張り付き、ふと思い出したように、核心を突く問いを投げかけてきた。

 

「……で?京香とお前の息子が?寿って奴なのか?」

「その通りだ……今は板前見習いってところだな」

 

寿の名を出す時、俺の胸には複雑な思いが交錯する。立派に育ってほしいと願う反面、京香を失ったあの日の記憶が、どうしても影を落とすのだ。

 

「なるほど、っつうことは明日会えるってことだな!」

「は?」

 

何を勝手に、と俺が問い詰める前に、ラクリが歓声を上げて窓の向こうを指差した。その無邪気な様子に、俺の言葉は行き場を失い、飛行船のエンジン音の中に溶けて消えていった。

 

「お父様、あそこです!」

「おお、ありゃスゲェな……どうやって作ったんだろうな?」

 

そしてこの数十分後、エンジントラブルにより飛行船は不時着した。しかし、先ほどからひしひしと感じていた嫌な予感の正体はそれだけではなかったのだ。

 

 

 

####

 

 

 

「おっしゃ!テナント作業、始めるか!」

 

飛行船から降りた俺たちが次に向かったのは、あいつが借りたという菓子屋の予定地だった。俺は目の前の設備と外装しか無い空き店舗と、散乱する資材を見つめ、静かに問いかける。

 

「そういえば聞いていなかったな、準備期間は?」

「明日の11時までだ」

「「えっ?」」

 

俺とラクリの声が、夕暮れの通りに響き渡る。明日の11時。時計を見れば、残された時間はあと半日も残っていない。

 

「……明後日の聞き間違えか?スミス。最近どうにも耳が遠くてな」

「いや、合ってるぞ。明日の開店時間が11時だから、11時までだ。行政の方にもそう書類はバッチリ出してあるから、安心しろ!」

 

スミスは事も無げに笑って見せたが、その自信の根拠がどこにあるのか、俺には理解不能だった。行政への書類提出は当たり前の前提条件であり、加えて目の前の物理的な山積みの作業の方が重要だということに、あいつは気づいていない。

 

「お……お父様?」

「スミス……」

 

ラクリの絶望に満ちた呟きを聞きながら、俺は天を仰いだ。どうやら、今夜は一睡もできそうにない――そう確信し、俺は黙って袖を捲り上げた。

 

「ここまでアホとはな……」

「すみません、赤司さん……」

 

流石にスミスからその無計画さを受け継がなかったらしい少女の申し訳なさそうな謝罪を背に、俺は工具を手に取り、覚悟の中で設営を開始した。破天荒といえどもかつての親友のため、おいそれと無責任に放ってはおけなかったのだ。

 

「キッチンの器材は……粗方揃っているな……オーブンは?」

「あー、汚れてるな。ラクリ、これ掃除できるか?」

 

スミスの無茶振りに、ラクリは汚れきったオーブンを前に、一瞬だけ不思議な仕草を見せた。その指先が、何かを願うように微かに震えながら触れる。

 

「お父様……私の能力はそういうものじゃないのですけれど……?」

「……能力?」

 

俺は手を止め、ラクリの言葉を繰り返した。何のことだ?

 

「あ、厳造!そろそろ机とかのレンタル業者が来るから対応してくれないか?俺の名前を出せば分かってくれるはずだ!」

「知ったかぶり、か……」

 

問い詰めるのは今ではない、そう判断した俺は追及を諦め、搬入口へと急いだ。

 

「おお、めっちゃ綺麗になるな!」

「だーかーら、お父様?私の能力はもっと有意義に扱ってほしい……」

「何言ってんだ、十分俺にとっちゃ有意義だぜ?」

「むー……」

 

背後でこういう父子の関わり方もあるのか、と何となく学ばされながら業者と対応する。この後、一度寿に仕事がある旨を伝えるため会う時以外は一切休めなかった。こうして、俺はまさしく突貫工事、不眠不休で旧友のわがままに付き合わされながら朝を迎えることになったのである。

 

 

 

####

 

 

 

「はぁ……」

 

親父は、深すぎる溜息と共に、力なく壁に背を預けた。その声は枯れ果て、徹夜の激務が彼の肉体から気力を根こそぎ奪い去ったことを物語っていた。普段は職人らしくピンと張っているはずの背筋は見る影もなく埃に汚れた白衣が、戦場の凄まじさを無言で語っていた。

 

「話は分かったぜ? 親父がスミスって奴の友情に付け込まれてタダ働きさせられて、あまつさえ俺という興味津々な対象と娘を合わせたいんだろ? でも親父……俺は今日、WDCの予選最終日なんだぞ。最後の一片を探しに行かなきゃならねぇんだ」

 

俺──赤司寿は胸元のハートピースに触れ、自分の優先順位を再確認するように親父を見据えた。鈍い光を放つその欠片は、あと一つで完成するというところで足踏みを続けている。今、この瞬間もハートランドの時計台の針は残酷に刻まれており、他人の家の事情に首を突っ込んでいる暇など、一秒たりともないはずなのだ。

 

「分かっている。給料はタンマリもらった……だがな、寿……あいつは、スミスは、昔から後先を考えない男だった。今回も、まともな人員も確保せずに開店準備を強行していやがるんだ」

 

親父は重い瞼を閉じ、力なく首を振る。その脳裏には、おそらくまだ組み立て途中の棚や、配線の終わっていない厨房の光景が、悪夢のように焼き付いているのだろう。普段の親父の姿からはあまり考えられない姿。職人としての矜持が高い親父にとって、その無計画さは何よりも耐え難い苦痛だったに違いない。

 

「親父さん、そんなに酷いのか? その、スミスって人の店」

 

アンナが横から顔を出し、不思議そうに親父の顔を覗き込んだ。彼女の瞳には、まだ朝の陽光のような無邪気さが宿っている。彼女にとって開店準備とは、お祭りの前日のような、期待に胸を膨らませる楽しい響きに聞こえているのかもしれない。

 

「酷いどころではない。あのアホは、今日の午前十一時開店だと言い張りながら、昨夜の時点でまだ床掃除すら終わっていなかったんだ」

「えぇ……」

 

落胆というか、困惑の声が思わず漏れる。そこまでひどいとは俺も想定外だった。

 

「料理に関しては抜群の腕だが……はぁ。いいか、寿」

「なんだ?」

「俺はもう限界だ。今から少しでも寝なければ、仕事場で包丁を握ったまま自分の指を切り落とすことになる」

 

親父の指先が、微かに、しかし確かな痙攣を伴って震えているのが見えた。マジか、信じられない。親父がそこまで弱音を吐くとは。いや、そう追い込むまでにそのスミスという男が持ち込んだ混沌は、熟練の職人の精神を削り取ったのだろう。

 

「だから……代わりに行ってくれというのか。俺に、その店の手伝いを」

 

俺は、親父の疲れ切った横顔と、窓の外に広がる決戦の街を交互に見た。胸の中では、息子としての情と決闘者としての焦燥が、濁流のように渦を巻いている。親父の頼みを無下にはできないが、予選突破のチャンスをここで棒に振るわけにもいかなかった。

 

「手伝いだけではない。……その娘、ラクリというのだが、彼女もまたデュエリストだ。スミスが言うには、なかなかの腕前らしい」

 

親父は重い瞼を僅かに持ち上げ、俺の反応を推し量るように深い眼差しを送った。流石親父。それならば、話が違ってくる可能性がある。

 

「デュエリスト……。予選に参加しているのか?」

 

俺の問いに、親父は深い溜息と共に力なく頷いた。その肯定は、俺にとって暗闇の中に差した一筋の光にも似ていた。

 

「ああ。スミスが誇らしげに言っていた。ハートピースも順調に集めているとな。……もしかすれば、お前の探している『最後の一片』は、そこにあるのかもしれんぞ」

 

その言葉は、拒絶しようとしていた俺の心を繋ぎ止めるのに十分重みを持っていた。もし、そのラクリという少女が俺のピースを持っているのなら、店を手伝うことはそのまま予選突破への最短ルートになる。親父の体面を保ち、旧友に恩を売りつつ、目的も果たす――完璧だ。ピースをもっていなかったら、その時はその時だ。

 

「……わかったよ。行くとしますか……アンナ、お前も行くか?」

 

俺は立ち上がり、デュエルディスクの装着を指先で確認した。重苦しい空気を切り裂くような俺の誘いに、アンナは待ってましたと言わんばかりに、弾けるような笑顔で身を乗り出す。

 

「あったりまえだろ! 新しくなった俺のデッキ、そのラクリって奴にお見舞いしてやるよ! それに、菓子屋の開店だろ? 運が良ければ美味いもんがタダで食えるかもしれねぇしな!」

 

アンナの瞳からは、先ほどまでの眠気など微塵も感じられなかった。彼女の単純で真っ直ぐなエネルギーは、淀んでいたリビングの空気を一気に浄化し、前向きな熱気へと変えていく。彼女が横にいるだけで、どんな無理難題もただのイベントに思えてくるから不思議だ。

 

「デュエルするのは俺なんだがな……。親父、貸し一つだぞ?」

「……助かる。場所は商店街の三番街、角にある赤い屋根の店だ。スミスに、厳造の息子だと言えば分かる……。……頼んだぞ、寿」

 

親父はそれだけを絞り出すように言い残すと、幽霊のような覚束ない足取りで廊下の奥へと消えていった。残された俺とアンナは、嵐の予感を肌で感じながら、まだ見ぬ菓子屋――出門スミスの迷宮へと足を踏み出す準備を始めた。

 

「よし、行こうぜ師匠! 十一時の開店まで時間がねぇんだろ? 爆走開始だ!」

 

アンナの元気な声が玄関に響き渡り、俺たちは朝日が照らし出すハートランドの街へと飛び出した。凛とした朝の空気が、徹夜明けの親父から受け取った停滞を拭い去っていく。予選最終日、最後の一片。全ての運命の糸が、甘い香りの漂うその店で交差しようとしていた。







Q.何か見覚えある名前の人出てきたけど?
A.唐突にヴェルズビュートとかメロメロメロディとかから展開始めたりしないので安心してください。
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