軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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メタ注意です。





オーバーシュート・イグニッション

ふと枕に頭を委ね、天井とお見合いしながら考えたことはないだろうか。もしも、明日目が覚めたら別の世界だったりしねぇかな……と。目覚めたらそこは俺の好きなアニメの世界でしたー、とか。そんな夢想は、誰しもが一度は抱くありふれた空想に過ぎないはずだった。

 

妄想は妄想であるから素晴らしく価値があるのであり、いきなりそれを現実にされたら普通は平静を保つことなどできないもので。いきなり目を開けたら別世界です。じゃ、がんばってくださいと言われても困るし。さらに、それが俺の知っている作品のキャラクターが目の前にいるような状況だったら、一体どう思うよ?

 

「え!?なんで本物の九十九遊馬が、俺のベッドに!」

 

ま、まずはビックリするわな。叫び声は、見慣れない潮風の匂いが混じる空間に虚しく響き渡るのが分かる。目の前には、逆立った赤黒い髪と、あまりにも真っ直ぐすぎる瞳を持つ彼が心配そうに身を乗り出している。混乱で頭が割れそうになりながら、俺はまずは驚愕という名の荒波に呑み込まれた。だが、驚くということはタイムロス。まずは周囲の安全確認だ。

 

「ええぇぇ!?鉄男に小鳥、委員長にウラ、キャッシーまでいるじゃねぇか!というか、ここ家じゃなくて道路じゃねぇか!一体全体どうなんってるんだよ、これ!?」

 

しかし、周囲を見渡せば、どこかのアニメで見たようなお馴染みの顔ぶれが、まるでセットの一部のように配置されていた。ここが自分の部屋ではなく、海の上に架かる見知らぬ海上道路であることを、肌を刺す潮風の冷たさが教えてくれる。主人公だけかと思いきや、脇を固める既知のキャラクターまで勢揃いしている現実に、俺の脳はショート寸前だった。きらびやかなアニメーションのカット割りや、机の上に並べられた紙のカード、画面越しに見ていた物語としての姿が、今現実と化している。目の前の世界が、かつて何度も視聴した物語であることを、俺の記憶が告げている。

 

「お、おい……寿?本気で頭がおかしくなっちまったのか?」

 

遊馬の困惑した声は、スピーカーから流れる音声データよりもずっとクリアで、生々しい質感を持っていた。彼は俺の異変を感じ取り、その太い眉をさらにハの字に曲げて心配してくれる。俺はその不器用な優しさをどこか遠くで感じながら、思考を素早く巡らせる。

 

──転生ってやつか?いや、それにしてはあいつは俺のことを知っているようだ。

──じゃあ憑依?俺の身体に何か異変は感じないし、動機不十分としかいいようがない。

──じゃあ何なんだ?俺が知りてぇよ。

 

俺は思考と反論をぶつけながら考え、共にゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「遊馬。ここはハートランド、であってるか?」

「そりゃそうだとしか……お前、大丈夫か?」

「いや、大丈夫ではないから聞いている。俺は何でこんなところに?」

「何でって……お前が俺とⅢのデュエルを見に来たんだろ?」

 

何?知らねぇ記憶を捏造されてるぞ。だが予想通り、ここは遊戯王ZEXALの世界らしい。Ⅲとの試合ってことは、おそらくWDC予選辺りだったな。確かそこらへんだったと思う。

 

「すまないがもう少し質問に答えてもらう。遊馬、お前はさっき俺はデュエルを見に来たって言ったな?じゃあなんで俺は寝てたんだ?」

「なんでって……俺がⅢの紋章の力を浴びそうになったとき、お前が割り込んできたからだろ?」

「え?」

 

知らないシナリオだな……どういうことだ?

 

「……ってことは、一度かっとビングを奪われたってことか?」

「何で寝てたお前が知ってんだよ、確かにそうだけどよ……」

「あれ?アストラルはいねぇのか?」

 

それとも原作準拠で見えないだけか?

 

「……いや、アストラルは今居ねぇ。あいつはⅢの力でどっかに消えちまった」

 

あれ?原作だとすぐ帰ってきてたよね?それにそれだと矛盾生じないか?

 

「……ZEXALになっても無いってことか?じゃあどうやってⅢを倒したんだ?」

「ごめん、寿。ゼアルって何だ?」

 

えっ?

 

「最後のことだったら、俺は《ビッグアイ》の効果で《アトランタル》のコントロールを得て倒したけど……なぁ寿。質問が多くねぇか?」

 

《No.11 ビッグアイ》!? 遊馬はホープ一辺倒じゃなかったのか!?

ちょっと待て……ZEXALを知らない、アストラルがいない、そして寿という身に覚えのないオリキャラが主人公勢と知り合いになっている……。

ああ、なるほど。完全に理解した。

 

「……ああ、そうか。なんだ、そういうことだったのかよ」

 

ここはタッグフォースの世界だ。

TFのストーリーは原作とは違うIF展開が売りだ。チームサティスファクションの一枚絵に、さりげなくプレイヤーが混ざっているあのシュールな光景を思い出す。

俺はふらつく足取りで立ち上がり、まるでディスプレイの解像度を確認するように自分の手のひらを見つめた。指紋一本まで、やたらと精巧に作り込まれている。周囲の心配そうな顔も、今や「作り込まれたイベントグラフィック」にしか見えない。

 

かなり作りこまれた3DCG、自然に受け答えするプログラム、目覚めたときから感じる完全なまでの空間没入感。

 

俺は確信した。自分は今、最高にリアルなVRゲームの真っ只中に放り込まれた攻略者なのだと。K〇NAMIの陰謀だか何だか分からんが、ここはとにかくゲームの世界なのだと、俺はそう信じることにした。

 

「大丈夫かよ、変なもんでも食ったのか?」

 

遊馬は怪訝そうに顔を覗き込み、仲間の豹変ぶりに戸惑いを隠せない様子だった。ついさっきまで背中を預け合っていたはずの仲間が、まるで初対面の相手を見るような、どこか突き放した視線を向けてくる。遊馬の胸には、勝利の喜びよりも先に、得体の知れない不安がじわじわと広がっていった。

 

「心配すんなって遊馬。お前の行動パターンも、そのかっとビングって台詞も、全部プログラム通りなんだろ?」

 

俺はデッキから伝わるカードの感触を指先で確かめながら、不敵な笑みを浮かべた。目の前の彼は、決められたフラグを回収し、決められたセリフを吐くNPCに過ぎない。そう割り切ってしまえば、この異常な状況すら楽しく思えてくる。

 

「えっ?さっきからお前、何を……」

 

遊馬は目を丸くし、目の前の男から聞き慣れない言葉を咀嚼しようと必死に考えているようだ。その純粋すぎる反応すらも、高度なAIが生成した計算の結果のように感じられて、俺の心は冷たく凪いでいた。俺が今仮想現実にいるってことは……この流れは知っている。

 

「さて、俺はあいにくここまでのセーブデータを持っていないんでな。おい、遊馬」

「なんだ、寿?」

「デュエルしろよ」

 

そう言いつけながら俺は乱暴に手を振ってデュエルディスクを起動させると、空間を切り裂くように中々懐かしい形のフィールドが展開された。足元に広がるARの光が、夕闇に染まり始めた海上道路を青白く照らし出し、決闘の舞台を完成させる。アニメ越しで傍観しかできなかったARビジョンが、今こうして体験になってると考えると感動ものだな。

 

「マジで寿……お前どうしちまったんだ?」

 

遊馬は動揺を隠せないまま、それでも俺から目を逸らさずに真っ直ぐな問いを投げかけてくる。彼の言葉にはノイズ一つなく、友情という名のプログラムが完璧に作動していることを示していた。俺はそんな彼の感情を、まるでロード時間の合間に流れる演出のように切り捨てる。

 

「会話のスキップ機能もないのか……とことんリアル路線らしいな。フルダイブなんちゃらってやつなのか?まぁいい。遊馬、俺とデュエルだ!」

 

遊馬は寿の言葉の意味こそ理解できなかったが、その瞳に宿った挑戦的な輝きに、デュエリストとしての本能が即座に反応した。理由は分からないが、ここで逃げるのは自分らしくない、そして何より全力でぶつかり合えば、また元の寿に戻ってくれるはずだという確信が彼にはあった。遊馬は真っ直ぐに俺を見据え、迷いを断ち切るように自らのデュエルディスクを展開した。

 

「よく分かんねぇけど……お前がその気なら受けて立つぜ!俺の全力、見せてやる!」

 

二人の間に、目に見えるほどの激しい火花が散り、周囲の空間がARビジョンにより変容し、デュエルフィールドへと固定されていく。小鳥たちは突然始まった身内同士の対決に困惑しながらも、ただならぬ雰囲気を感じて固唾を呑んで見守るしかなかった。夕闇の海上道路を舞台に、記憶を塗り替えられた攻略者と、不屈の主人公による異質なデュエルが幕を開ける。

 

「「デュエル!!」」

 

遊馬 LP 4000 / 寿 LP 4000

 

 

 

####

 

 

 

さて、今の遊馬がどんなデッキを使ってくるか分からねぇ。現代風にチューンナップしたのを使ってくるのか、それともアニメ放映当時そのままのデッキなのか。

 

「……げっ」

 

初期手札5枚を見ると同時に思わず声がでてしまった。なぜなら今握っているカード5枚は全て令和のカードだからだ。これでもし遊馬が2012年くらいのデッキだったらカードの強度が違いすぎるが、それはご愛敬だろう。

 

「俺の先行だな、俺は手札から《予想GUY》を発動……」

 

俺は手札の魔法カードを迷わずフィールドに叩きつけようとするが、遊馬の言葉に指を止めることになる。

 

「寿、ドローを忘れてるぜ?どうしちまったんだ、本当に……」

 

えっ、先行ドローあるんですか。

 

遊馬が指摘したその瞬間、俺は自分の無意識が現代ルールに上書きされていたことに気づいた。確かにARC-Vから先行ドローは廃止されたはずだが、ここはさらにその一世代前の世界なのだ。にしてはZEXALに無かったカードを使えるようだが、とにかくそう言われたからにはドローせざるを得ない。

 

「あ、ああ。ドロー……改めて俺は《予想GUY》を発動、デッキから《しゃりの軍貫》を攻撃表示で特殊召喚だ……あれ?」

 

そうだった。この時代のルール、そしてこのゲームのバージョン設定を、俺はまだ完全には把握していない。デッキの底に眠るカードたちが、俺の思考を追い越して蠢いているような感覚だった。俺はデッキから飛び出した巨大なしゃりを見上げながら、ある重大な欠陥に思い至った。デュエルディスクを注視してみたら、本来あるはずの2つの突起――エクストラモンスターゾーンが無いことに気づいたのだ。どうやらこのバージョンはリンク召喚が実装されていないらしい。……まぁ導入されるのはVRAINSからだし、変ではないか。

 

「?」

 

遊馬は俺が何に驚いているのか分からず、ただ首を傾げてこちらの動きを待っている。彼の視界には、俺が見ていたはずのリンクマーカーなんてものは一切存在しないのだろう。俺は一瞬唇を噛み、この旧式のシステムに自分のデッキを強引にアジャストさせるしかなかった。

 

「さらにフィールドに《しゃりの軍貫》があるので手札から《いくらの軍貫》を特殊召喚だ」

 

赤く輝くいくらがフィールドに降り立ち、俺のエクストラデッキが淡い光を放ち始める。やはり、そこにあるべきリンクモンスターの姿はなく、ただランク4のモンスターたちが静かに待機していた。おまけに、普通入っているはずの《しらうお》までもが見当たらないという意味不明な事態、思わず俺は眉をひそめてしまった。

 

単純にこのデータが持っていない……もしくは未実装か。いやならなんで軍貫があるんだよ。

 

俺は自分の手元にあるカードのテキストを確認する。脳内にあるOCGの最新データと、目の前のZEXALという古いOSが、意識の奥底で激しく衝突して火花を散らしているようだった。

 

「よし、俺はレベル4の二体のモンスターで《ライゼオル・デュオドライブ》をエクシーズ召喚だ」

 

しかも、なんでエクストラデッキに2024年に登場したはずの最強エクシーズテーマ、ライゼオルがあるんですかね……?明らかにシナリオと似ても似つかない二体のモンスターが光の渦に呑み込まれ、見たこともない機械仕掛けの巨躯がフィールドに現れる。そのあまりにも未来的なフォルムと、空間を歪めるほどの展開力に、周囲の空気は一瞬で凍りついた。

 

「《いくら型一番艦》じゃねぇだと!?」

 

遊馬が驚愕の声を上げる。そりゃそうだ、こいつは12年後の世界から来たバケモノなんだから。遊馬が驚愕の声を上げ、その場に立ち尽くしている。彼にとっては、俺が自分のシグネチャーカードを差し置いて未知のモンスターを呼び出したことが、何よりも信じがたい異変なのだろう。友情や絆を基盤とした彼のデッキ論では、この効率重視のプレイングは理解不能なエラーでしかない。

 

「見たことがないモンスターです……!」

 

委員長が骨折ギブスをぶら下げながらデータを確認しようとしているが、そこに「ライゼオル」の名があるはずもない。俺は彼らの困惑を背中で受け流しながら、ただ勝利という名のリザルトに向けてカードを打ち込んでいくだけだ。

 

「《ライゼオル・デュオドライブ》の効果発動、エクシーズ素材を2つ取り除きデッキからライゼオルと名のつくカード2枚を手札に加える。何かチェーンはあるか?」

 

《デュオドライブ》があるってことは……メインデッキにもライゼオルが混ざっているということか。俺は対戦相手としての最低限の礼儀、いや、プログラムの確認のために遊馬へ問いかけた。しかし、帰ってきたのは彼からの無音の返答だった。手札誘発を確認するために聞いたが、やはりこの世界の遊馬にそんな術はないか。

 

「チェーン……?」

 

遊馬がポカンとした顔でこちらを見ている。あ、そうか。こいつらにチェーン確認なんて概念はないんだった。伏せカードがあるか、手札からタイミングで割り込める効果があるか、それを情緒的に判断する世界観だったな。

 

「……いや、なんでもない。処理を続けるぞ。俺はデッキから《ソード・ライゼオル》と《ライゼオル・ホールスラスター》を手札に加える」

 

俺は淡々とデッキからカードを引き抜き、次なる展開への布石を打つ。デッキの中身を見れば、強力なライゼオルモンスターたちは軒並み制限されていた。おそらくだが、このデッキはさながら軍貫とライゼオルを混ぜ物にした軍貫ライゼオルといった趣だろう。二枚初動に一枚初動不足。それでも、この時代のカードプールを基準にすれば、これは核兵器を振り回しているようなものだという確信があった。

 

自分の手元にあるカードのテキストを改めて確認する。やはり見知った感じの、番号で極力見やすいように整備されたテキストだ。だとしたら、なぜライゼオルなんていう、この時代のインフレを十年分すっ飛ばしたテーマが俺のデッキに入ってるんだ。これじゃあまるで、過去の環境で自分だけ未来のカードを詰め込んだチートデッキを使ってるみたいなもんじゃねぇか。

 

「寿!お前がさっきから言ってることはよくわからねぇけど、早く正気に戻れよ!」

 

遊馬のその真っ直ぐな視線。あぁ、これだよ。アニメで何度も見た、あの折れないハートってやつだ。プログラムのくせに、やけに解像度の高い熱量をぶつけてきやがる。あまり気分は乗らねぇが、勝つためならば手段は厭わない。それがデュエリストってもんだ。

 

「熱いねぇ、遊馬。だが、このゲームに情熱っていうスタッツは存在しない。あるのはテキスト、そして勝敗というリザルトだけだ。俺は手札から《ソード・ライゼオル》の効果を発動。自分フィールドにライゼオルモンスターがいるため特殊召喚できる。ただし、このターンランク4のエクシーズモンスターしかエクストラデッキから特殊召喚できない」

 

《デュオドライブ》の横に並び立つように、機械的なノイズと共に新たなモンスターがフィールドに降り立つ。マジでリアルだな……リアルソリッドビジョン……じゃかった、ARビジョンはスゲェな。技術力高すぎだろ。

 

「さらに《ソード》の特殊召喚時効果発動。デッキから炎族かつ光属性のモンスターを1体手札に加える」

 

サーチ効果によって新たなカードが手元に吸い寄せられ、俺の盤面はさらに強固なものへと変貌していく。遊馬の表情には戸惑いが広がり、周囲の観客たちも俺のあまりに容赦のないプレイングに息を呑んでいた。俺はただ、最適解という名のパズルを完成させることに全神経を集中させていた。

 

「コンボが……途切れねぇ!」

 

遊馬の驚きは、恐怖というよりは、むしろ純粋な驚異に近いものだった。一度の召喚で連鎖的に盤面が埋まっていく現代遊戯王のスピード感に、彼は完全に圧倒されている。その表情豊かなグラフィックすら、演出にしか見えなかったが。

 

「おいおい、この程度で途切れないとか楽観視が過ぎるぞ。俺は効果で《エクス・ライゼオル》を手札に加え、さらに《エクス》の効果でエクストラデッキからエクシーズモンスターを一体墓地に送り自身を特殊召喚できる。さて……」

 

俺はエクストラデッキを確認するが、やはりそこには珍妙不可思議なカードが並んでいた。オーバーハンドレットが居ないのは仕方ないとして、《メレオロジック・アリゲーター》も居ないか……。ということは、ここには《時空の七皇》すら実装されていない可能性が高いな。

 

「よし、《弩級軍貫-いくら型一番艦》を墓地に落として特殊召喚だ。さらに《エクス》の特殊召喚時効果でデッキから今度は雷族かつ炎属性のモンスターを手札に加える。俺は《ノード・ライゼオル》を選択だ」

 

俺のデッキからカードが飛び出し、新たなモンスターを呼び出すためのリソースが瞬時に補填される。遊馬の目はその目まぐるしいカードの動きに追いつくのが精一杯といった様子で、唇を固く結んでいる。この一連の動作が、彼にとっては未知の魔法か何かに見えているのだろう。

 

「またデッキからサーチしただと……!?」

 

遊馬の声には隠しきれない動揺が混じり、彼の足元がわずかにふらついた。この世界のデュエルでは、一枚のカードから二枚、三枚と連鎖的にリソースを稼ぐ戦術はまだ一般的ではないのだ。1:1交換が基本の世界、俺は彼の反応をゲームバランスに対する素直な感想として受け取っていた。

 

「寿!《いくら型一番艦》はお前の切札だったんじゃねぇのか!?」

 

遊馬の叫びが風に乗って俺の耳に届くが、そこに込められた情熱は俺の胸には響かない。切り札だろうが何だろうが、今の展開に必要のないリソースは墓地へ送る。それが勝利を至上命題とする者にとっての正解なのだから。

 

「今墓地に《いくら型一番艦》がいるな。エクシーズモンスターが墓地にあるため、《ノード・ライゼオル》を特殊召喚。そして2体のモンスターでエクシーズ召喚!」

 

二体の素材が再び光の柱となり、新たな可能性をフィールドに提示する。俺の脳内では既に、遊馬のあらゆる行動を封殺するための最終盤面が完成しつつあった。夕闇に光るARの演出が、俺の冷徹な意志を体現するように鋭く明滅する。

 

「1ターンに2回のエクシーズ召喚!?」

 

鉄男が横で驚愕の声を上げている。そうだろ、この時代の基準じゃ1ターンに2回もエクシーズが並ぶのはファンサービス並みの異常事態だよな。だが、悪いな。こっちは令和の展開力を持ってきてるんだ。

 

「俺は《ソード・ライゼオル》と《アイス・ライゼオル》の2体のモンスターでエクシーズ召喚、現れろ!《ライゼオル・デッドネーダー》!自身の特殊召喚時効果で墓地にある《いくら型一番艦》をエクシーズ素材にする。これで《デッドネーダー》のエクシーズ素材は3つになる」

 

重厚な鎧を纏った新たな王がフィールドに君臨し、その圧倒的な威圧感で周囲を支配する。素材を取り込み、その力を己のものとするその姿は、まさにこの世界のルールを超越した破壊の権身だった。遊馬の顔には、かつてないほどの緊張が走り、彼の額からは汗が一筋流れ落ちた。

 

「やっと出たな!そいつが寿の切札か!?」

 

遊馬は新たな強敵を前にして、恐怖を押し殺すように決闘者の笑みを浮かべてみせた。その強がりすらも、俺にはプログラムされたテンプレートのように感じられて、どこか冷めた気分になる。俺は自分の置かれた状況を再確認するために、あえて一つ問いを投げかけた。

 

「遊馬。さっきから寿っていうけど、それ俺のことか?」

 

俺の問いに、遊馬は一瞬だけきょとんとした表情を見せたが、すぐに確信に満ちた瞳で俺を見返した。彼の瞳には一点の曇りもなく、目の前にいる俺を紛れもない親友であると定義している。その純粋さが、今はただただ奇妙に感じられた。

 

「え?もちろんそうだけど?」

 

遊馬の言葉に嘘偽りはないようで、周囲の仲間たちも当然のように頷いている。俺の名前はそんなんじゃないんだがな……ま、仮想現実だしプレイヤーネームが本名じゃなくても不自然ではないだろう。俺はコナミ君改め、寿君だったらしい。おとなしく俺はこの設定を受け入れ、再びデュエルへと意識を戻す。

 

「変な質問をして悪かったな。手札から《きまぐれ軍貫握り》を見せ、《うにの軍貫》を特殊召喚だ。見せたカードはボトムに行き、《うにの軍貫》の効果発動。《うにの軍貫》のレベルを5から4に変更し、デッキから《しゃりの軍貫》を手札に加えてそのまま召喚だ」

 

フィールドには次々と寿司ネタをモチーフにしたモンスターたちが整列し、軍団を形成していく。召喚権を使い切り、俺の手札も少なくなってきたが、盤面は既に完成形に近づいている。自分の意図した通りに駒が並んでいく快感は、この世界のリアルな質感のおかげでより一層強まっていた。

 

「ようやく通常召喚!?」

 

遊馬は俺がさんざん特殊召喚を繰り返した後、最後にようやく通常召喚を行ったことに目を見張った。この時代、通常召喚こそがデュエルの起点であり、特殊召喚はその補助に過ぎないという常識を、俺は完膚なきまでに破壊していた。彼は俺の戦い方に、底知れない違和感と底知れない恐怖を感じ始めているようだった。

 

「俺は《うにの軍貫》と《しゃりの軍貫》の2体でエクシーズ召喚、《No.60 刻不知のデュガレス》を守備表示で特殊召喚。《デュガレス》の効果発動、エクシーズ素材を2つ取り除き、2ドローしてから1枚カードを捨てる」

 

なんでZEXAL世界なのに今の俺がナンバーズを持っているのかは分からないが、こいつはアニメに出てないからその影響なのだろうか?

 

「フィールドから《デュガレス》を墓地に送り、手札から《アイス・ライゼオル》を特殊召喚だ」

 

俺は不要になったモンスターを迷わずリソースの肥やしにし、新たな素材をフィールドに供給する。遊馬はその光景を見て、自分の信じてきたデュエル観が音を立てて崩れていくのを感じているようだった。彼は俺がナンバーズをいとも簡単に墓地へ送ったことに、最大の衝撃を受けていた。

 

「せっかくお前がゲットしたナンバーズなのに……すぐ墓地に送った?」

 

遊馬の叫びは、まるで神聖な儀式を汚された者の悲鳴のように聞こえた。この時代のナンバーズは作品を象徴する重要な存在であり、物語の鍵であるはずだが、俺にとってはただの汎用効果持ちランク4に過ぎない。俺は彼のそんな感傷を、ただ一言で切り捨てることにした。

 

「盤面が埋まっちまうから、仕方ねぇんだよ」

「っ!お前、そのナンバーズをどうやってゲットしたのかも忘れちまったのかよ!?」

 

むしろここでは、原作に登場しなかったナンバーズにオリジナルストーリーがあるのか?当時カード化なんてされていないから当然だろうが、本当にこのゲームは至れり尽くせりだな。

 

「すまねぇな、忘れちまったようだ。続けるぞ、俺は《ノード・ライゼオル》と《アイス・ライゼオル》でエクシーズ召喚、《ダイガスタ・エメラル》を守備表示で特殊召喚。エクシーズ素材を1つ取り除き、効果発動。効果で墓地の《No.60 刻不知のデュガレス》と2体の《しゃりの軍貫》をデッキに戻して1ドローだ。さらにカードを2枚伏せてターンエンドだ」

 

俺の完璧な先行盤面が完成し、海上道路を照らすARの光が静かに収束していく。三体のエクシーズモンスターと伏せられた二枚のカードは、遊馬にとって越えることのできない絶望の壁となるだろう。俺は勝利というリザルトを確信し、冷たく遊馬を促した。最終盤面は大体5妨害ぐらいだ。普通だな!

 

「よっしゃ、ようやく俺のターンだ!かっとビングだ、俺!ドロー!」

 

遊馬は力強くデッキに指をかけ、己の運命を切り拓くようにカードを引き抜いた。そのドローの瞬間、彼の周囲に微かな熱風が吹き抜けたような錯覚に陥る。しかし、俺はその主人公らしい熱量を、とあるカードで即座に冷却することに決めていた。

 

「おっと、スタンバイフェイズに《増殖するG》の効果発動だ。手札から捨てて、お前が特殊召喚するたびに1ドローさせてもらうぞ」

 

俺は手札から小さな、しかしこのゲームにおいて最も忌むべき虫のカードを墓地へ送った。遊馬が動こうとすればするほど、俺の手札という名のリソースは増え続ける。俺にとって、これの使用は至極当然のようなものだったが、周囲の反応は別の意味で激しいものだった。

 

カサカサカサカサ……

 

「キャアァァァアア!?」

 

小鳥の悲鳴が夜の静寂を切り裂き、彼女は顔を覆って後ずさりした。リアルなARビジョンが生成したゴキブリの群れは、生理的な嫌悪感を煽るには十分すぎるほどのリアリティを持っていた。俺はその光景に、開発者の悪趣味なこだわりを感じながらも、ただデュエルの進行を見守った。

 

「ご、ゴキブリです!しかも大量!?」

 

委員長も腰を抜かし、眼鏡をずらしてそのおぞましい光景を凝視していた。彼らの目には、俺が神聖なデュエルの場を冒涜する悪魔か何かに見えているのかもしれない。俺にとって、このカードの見た目などもはや慣れてしまったもので些細な問題に過ぎなかった。

 

「何やってんだ寿!お前、寿司屋なのにゴキブリを放つとかとうとう頭狂っちまったのか!?」

 

鉄男の怒声は、親友としての心配と、一人の人間としての激しい拒絶が混ざり合っていた。その言葉は俺の耳に届いたが、俺の心を動かすまでには至らない。俺はただ、ゲームに勝つための手段を正当化するために、冷たく言い返した。

 

「違う!こうでもしなきゃ、勝てねぇんだよ!」

 

俺の叫びは、どこか自分自身に対する言い訳のようでもあった。友情や絆といった甘い言葉で勝てるほど、このゲームは甘くないことを俺は知っている。遊馬は俺のそんな頑なな態度を見て、深く、深く絶望するような表情を見せた。

 

「!?」

「俺だって本当は入れたくねぇよ。だが、そんな我儘で通用するほど世界は甘くねぇんだ!」

 

嘘は無い。鉄男のいう通り、軍貫という寿司デッキにゴキブリなど常識で考えれば論外。本当なら今すぐ抜きたい。だが、そんな常識は相手にとってみれば知ったことじゃないのだ。その言葉に遊馬は絶句し、俺の瞳の奥に宿る冷たい光を必死に読み取ろうとしていた。彼には、俺がなぜこれほどまでに勝利という結果だけに固執しているのか、その理由が理解できないのだろう。しかし、彼はすぐにその表情を消し、静かな、しかし確かな闘志を宿した。

 

「寿……お前がどんなことを考えてんのか、さっぱりだけどよ!俺は一つだけ言えることを見つけたぜ!」

 

遊馬の言葉には、迷いを断ち切った者だけが持つ力強さが宿っていた。彼は壁の向こう側にある、何か別のものを見据えているようだった。俺は彼の言葉の続きを聞くために、あえて冷ややかな笑みを浮かべて返した。

 

「なんだ、言ってみろよ。遊馬」

 

俺の問いかけに対し、遊馬は一歩踏み出し、俺の顔を真っ直ぐに指差した。彼の瞳は、もはや恐怖ではなく、俺を救い出そうとする強い意志で満たされている。その眼差しは、プログラムされたデータの域を遥かに超えた、人間的な力強さを湛えていた。

 

「お前のさっきからのデュエル、寿らしくねぇ!お前はお前らしく、寿司をデュエルでも振る舞うんじゃなかったのかよ!?」

 

遊馬の叫びが夜風に乗り、俺の胸の奥を微かに震わせた。そんな記憶は俺にはないはずだが、この寿というキャラクターの背景には、そんな設定が存在していたらしい。俺は自分の知らぬ自分を突きつけられたことに、一瞬だけ言葉を失った。

 

「随分とご気楽なこった。遊馬、お前の言っていることは所詮綺麗ごとに過ぎない。そんな夢物語が修羅で通用すると思ってんのか?」

 

俺は自分の中に芽生えたわずかな揺らぎを打ち消すように、より一層冷たい言葉を投げつけた。効率と勝利こそがすべてであり、そこに感情を挟む余地などないはずだ。遊馬は俺の頑なな拒絶に、悲しげに目を細めたが、その手は止まらなかった。

 

「っ!?寿、お前……」

 

遊馬の声がかすれ、彼は唇を噛んで俺の言葉を飲み込んだ。彼は今、かつての親友が全くの別人に成り代わってしまったような、埋めようのない距離感を感じているのだろう。俺はそんな彼の感傷を遮るように、容赦なくプレイの続行を促した。

 

「早く展開を始めろよ、お前のターンだぞ?」

 

俺の催促に、遊馬は再び瞳を燃え上がらせ、手札の一枚を激しく叩きつけた。彼の中のかっとビングの精神は、俺の冷たい言葉ごときで折れるほど脆いものではないらしい。いや、こんなところで折れてしまっては困るというのが正直なところだ。彼は俺という巨大な壁を乗り越えるために、自らの魂をぶつけてきた。

 

「寿……!俺は手札から《ゴブリンドバーグ》を召喚!さらにレベル4モンスター1体の通常召喚に成功したから《カゲトカゲ》を特殊召喚、さらに《ゴブリンドバーグ》が召喚に成功した時、手札からレベル4以下のモンスター1体を特殊召喚できる!来い、《ゴゴゴゴーレム》!」

 

ああ、本当に当時のデッキを使うんだな。遊馬のフィールドに、お馴染みのモンスターたちが次々と姿を現し、希望を繋ぐ。彼の一挙手一投足には、仲間との絆や、勝利への不屈の意志が宿っているかのように見えた。俺はそんな彼の展開を、ただリソースが増えるという事実として冷たく処理した。

 

「《増殖するG》の効果で2ドローだ」

 

俺の手札が効果で膨れ上がる。遊馬の行動が俺の首を絞めるのではなく、むしろ俺をより強力な立場へと押し上げているこの状況は、あまりにも残酷だった。小鳥たちは再びGの出現に悲鳴を上げたが、俺はそれを一顧だにしなかった。

 

「キャアアアッ!?G、Gは嫌なの!赤司君、これ止めて!」

 

小鳥の悲願が響き渡るが、俺はただ無機質な事実を突きつけることしかできなかった。俺の名前が赤司という設定なのか、それとも彼女の錯乱なのかは判然としなかったが、そんなことはどうでもよかった。俺はプログラムされたルールに従い、ただ処理を続けた。

 

「俺に指して言っているのなら、それは無理な願いだな」

 

この世界で俺が為すべきことは、デュエルで目の前の相手を攻略することだけだ。委員長の眼鏡の奥にある抗議の視線も、今はただの背景の一部に過ぎなかった。

 

「どうしてよ!?こんな気持ち悪いカード、サッサと消して!」

 

小鳥の必死な訴えは、俺の心に届く前にARのノイズに消されていった。彼女たちの感情はあまりにも生々しいが、それでもそれはこのゲームを彩る演出に過ぎないのだ。俺は冷静に、遊馬が犯したプレイングミスを指摘してやった。

 

「強制効果だからだ。恨むんなら効果発動の時に《墓穴の指名者》だか《灰流うらら》でも打たなかった遊馬を恨むんだな」

 

無論そんなカードは持っているはずもないだろうがな。俺の指摘に対し、遊馬は何も答えず、ただじっと自分のフィールドを見つめていた。彼は今、俺という理不尽を突破するために、残されたわずかな可能性に全神経を集中させている。しかし現実は残酷。俺はそんな彼のあがきを、手間暇かけて展開したモンスターで粉砕することに決めた。

 

「さて遊馬、《ゴゴゴゴーレム》で耐えるのを狙っているんだろうが。そうはさせねぇよ!《ライゼオル・デッドネーダー》の効果発動、エクシーズ素材を一つ使い効果を発動した《ゴブリンドバーグ》を破壊だ!」

 

《デッドネーダー》の巨腕が振るわれ、遊馬の希望の火種が一つ消し飛んだ。爆風が海上道路を吹き抜け、遊馬の髪が激しく乱れる。彼はその衝撃に耐えながら、歯を食いしばって更なるオーバーレイを宣言した。

 

「えっ!?仕方ねぇ、俺はレベル4の《カゲトカゲ》と《ゴゴゴゴーレム》の二体でオーバーレイ!」

 

遊馬がエクシーズ召喚のために手を合わせた瞬間、俺は冷酷に罠を起動させた。彼の逆転の光を、完成する前に摘み取ることこそが、攻略者としての俺の仕事だ。周囲の空気が、俺の放った罠の気配に震えるのを感じた。

 

「させねぇって言っただろ?罠カード発動、《ライゼオル・ホールスラスター》!」

 

地中から噴き出した光の奔流が、遊馬のフィールドのモンスターたちを呑み込み、その存在を消去していく。遊馬の目には驚愕と絶望が混ざり合い、その手に残されたカードは震えていた。俺はただ、自分の放った「正解」が盤面を支配していく様子を静かに眺めていた。

 

「あっ、あの時の……」

 

遊馬の声が震える。いやさっき《デュオドライブ》の効果で加えただろ……俺はそんな彼の感傷を、容赦ない効果の追加処理で上書きした。

 

「《ホールスラスター》の効果発動、ライゼオルとあるエクシーズモンスターの数だけ相手の表側表示カードを対象にして破壊だ!」

 

俺の冷徹な宣言と共に、遊馬のフィールドは再び爆炎に包まれ、無残な更地へと変貌した。圧倒的なアドバンテージの差を前に、周囲の仲間たちからも言葉が消え、ただ潮風の音だけが響いていた。

 

「……は?」

 

遊馬は自分のフィールドからすべてのモンスターが消え去った光景が信じられず、ただ呆然と立ち尽くした。彼の脳は、一瞬にしてすべてを奪われた現実に追いつくことを拒否しているようだった。俺はそんな彼の空白の時間に、追い打ちをかけるようにリソースの補填を続けた。

 

「さらに効果で墓地にあるライゼオルカードを一枚、エクシーズ素材に追加できる。俺は《ライゼオル・デッドネーダー》のエクシーズ素材を再び加える。何かあるか?」

 

俺の問いかけは、もはや勝負を楽しむためのものではなく、単なる事務的な確認作業に過ぎなかった。遊馬の手札には、もはやこの盤面を覆す力は残されていないはずだ。俺は彼の絶望的な沈黙を、勝利へのカウントダウンとして楽しんでいた。

 

「……何もねぇよ。俺は手札から《攻通規制》発動だ。効果で相手フィールド上にモンスターが3体以上いるから、寿は攻撃宣言できねぇ。カードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

遊馬はせめてもの足止めにと手札を魔法・罠ゾーンに置いた。彼の瞳にはまだ、消え入りそうな火種のような闘志が残っているが、それはもはや風前の灯に過ぎない。俺は彼の最後の足掻きを、ただ面倒なギミックとして処理することにした。

 

「俺のターン、ドローフェイズはスキップ。俺は手札から《しゃりの軍貫》を見せて永続魔法、《おすすめ軍貫握り》発動だ。効果で《超弩級軍貫-うに型二番艦》を見せる。その後、《しゃりの軍貫》以外の軍貫モンスターを遊馬は1つ宣言しなければならない」

「《うにの軍貫》以外書かれてないじゃねぇか!宣言は《うにの軍貫》だ!」

 

別にいくらでもいいんだけどな……遊馬の叫び声に応えるように、俺のデッキから新たな軍貫が手元に舞い降りる。

 

「ご注文どうも。俺はデッキから《うにの軍貫》を手札に加え、効果発動。《しゃりの軍貫》を手札から見せ、《しゃりの軍貫》と《うにの軍貫》をそのまま特殊召喚だ。さらに《うにの軍貫》の効果発動、《しゃりの軍貫》のレベルを4から5に変更し、デッキから《しゃりの軍貫》を手札に加える」

 

俺のフィールドには、再び巨大な寿司の戦艦たちが集結し、出撃の時を待っていた。遊馬の《攻通規制》によって攻撃は封じられているが、そんなロックを解除する方法などいくらでもある。俺は自分のデッキが持つ効果を一つ一つ順番に起動させていった。

 

「俺は《しゃりの軍貫》と《うにの軍貫》でエクシーズ召喚。現れろ、《超弩級軍貫-うに型二番艦》!効果で1ドローと直接攻撃が可能になる。さらに効果発動、面倒くさい効果の《攻通規制》の効果を無効にする」

 

巨大な戦艦が波を蹴立てて現れ、遊馬の放った規制の光を霧散させていく。彼があがくために使ったはずの最後の守りはあっさりと崩れ去る。遊馬の顔には、隠しようのない焦燥が浮かび、彼は自らの伏せカードを必死に見つめた。

 

「くっ……」

 

遊馬の呻き声が、潮風に混じって虚しく消えていった。彼は今、圧倒的な力の差という現実に直面しているはずだ。俺の知っている九十九遊馬ならば、こんなところで折れるようなものではないはずだ。俺はそんな彼のプログラムを確かめるように、最初の一撃を叩き込んだ。

 

「バトルフェイズ。《うに型二番艦》で直接攻撃!」

 

戦艦の主砲が遊馬を捉え、まばゆい光線が彼に向かって放たれる。海上道路を揺るがすほどの轟音が響き、小鳥たちは悲鳴を上げてその場にしゃがみ込んだ。しかし、遊馬はまだ、最後の牙を隠し持っていた。

 

「罠カード発動!《バトル・ブレイク》!攻撃モンスターを破壊し、バトルフェイズを終了させる!」

 

遊馬の伏せカードが開き、俺の戦艦に向けて破壊の光が跳ね返った。彼はこの一瞬の隙に賭け、全身全霊でその罠を起動させたようだ。しかし、俺のフィールドには、あらゆる拒絶を跳ね除ける絶対的な支配者が控えていた。

 

「その破壊は《ライゼオル・デッドネーダー》の効果で代わりにエクシーズ素材を1つ取り除いて無効だ。メインフェイズ2、《ダイガスタ・エメラル》の効果発動。墓地にある《ソード・ライゼオル》と《いくらの軍貫》と《増殖するG》をデッキに戻して1ドロー。カードを1枚伏せてターンエンドだ」

 

バトルフェイズならば仕方ない、俺はおとなしくターンを渡す。

 

「俺のターン、ドロー!俺は《ガガガマジシャン》を召喚、効果でレベルを4から5に変更だ!」

 

遊馬は震える手でドローし、自分の相棒である魔術師を呼び出した。その表情には、まだ諦めるという文字はどこにも書かれていなかった。だが俺はそんな彼の抵抗を即座に処理する。

 

「何を企んでいるのかは知らんが、《ライゼオル・デッドネーダー》の効果発動!効果を発動した《ガガガマジシャン》は破壊させてもらう!」

 

無情な一撃が魔術師を貫き、彼は光の粒子となって消滅した。遊馬のフィールドには、再び何も残らなくなり、静寂が訪れる。しかし、遊馬は不敵に笑い、自分の墓地から新たな可能性を掴み取った。

 

「くっ……だが、狙い通り!《ガガガリベンジ》発動!効果で今墓地にいった《ガガガマジシャン》を守備表示で特殊召喚し、このカードを装備する!」

 

消えたはずの魔術師が再び地面から這い上がり、再起の瞳で俺を睨みつける。遊馬はこのしぶとさこそが自分のデュエルだと言わんばかりに、闘志を爆発させていた。俺はそんな彼のドラマチックな展開を、二度目の破壊で冷淡に踏みつぶした。

 

「また効果を発動したな?《ライゼオル・デッドネーダー》の効果発動!効果を発動した《ガガガリベンジ》を破壊だ!」

 

装備カードが粉々に砕け散り、魔術師の力は再び奪われていく。遊馬の目は見開かれ、彼は自分の戦術がことごとく機械的に潰されていく現実に愕然とした。俺は彼の困惑を、当然の結果としか見れない。

 

「えっ!?それ何回でも使えんのかよ!?」

 

遊馬の叫びは、一人のプレイヤーとしての悲鳴そのものだった。同じターンに何度も使える「名称ターン1なし」という現代の凶悪な効果に、彼は翻弄され続けている。俺はそんな彼の無知を憐れむように、事実だけを突きつけた。

 

「エクシーズ素材が尽きない限りな。どうするんだ?もう通常召喚はしただろ?」

 

俺の問いかけに、遊馬は言葉を失い、ただ力なく首を振った。彼に残されたリソースは底を突き、もはや俺の盤面を崩す術は何一つ残されていない。周囲の友人たちも、俺のあまりの冷徹さに言葉を失い、ただ凍りついたように立ち尽くしていた。

 

「《ガガガリベンジ》が破壊されたから、《ガガガリベンジ》も墓地に行く……俺はカードを一枚伏せてターンエンド!おい、寿!」

 

遊馬は力なくターンを終了させたが、その直後、俺を射抜くような鋭い視線で叫んだ。彼の声には、デュエルへの情熱と、それ以上に、親友であるはずの俺に対する激しい憤りが込められていた。俺はそんな彼の感情を、ただの無駄なノイズとして聞き流した。

 

「なんだ?」

 

俺の短く冷たい返答に、遊馬は怒りで肩を震わせ、拳を強く握り締めた。彼は今、俺とのデュエルを通じて、自分が最も大切にしている何かを否定されたように感じているのだろう。その情熱的な怒りすら、俺には計算されたイベントのワンシーンにしか見えなかった。

 

「さっきから効果を使っただけで破壊、破壊ってやってるけどよ!お前、そんなことやってて楽しいのかよ!?デュエルっていうのは、もっと熱くなるもんだろ!?」

 

遊馬の魂からの叫びが、海上道路を揺るがすように響き渡った。小鳥たちも彼の言葉に共鳴するように、悲痛な表情で俺を見つめている。

 

「知らん、そんなことは俺の管轄外だ。お前は楽しくないかもしれねぇが、俺が勝てれば何でもいい」

 

俺の声は自分でも驚くほどに冷たく、一切の感情を排して放たれた。勝利という最高の結果さえ得られれば、その過程で何を失おうと構わない――それがデュエリストの論理だ。遊馬の瞳には、俺に対する深い悲しみが広がり、彼は唇を震わせた。

 

「寿…!」

 

遊馬のその一言には、かつての親友への未練と、今の俺に対する失望が凝縮されていた。俺はその重圧を跳ね除けるように、自分に言い聞かせるように言葉を継いだ。たとえ冷血だと思われようと、俺はこのデュエルを勝ってみせる。

 

「すまないな、遊馬。だが、元来デュエルモンスターズはルール無用。そもそもモンスターを並べさせなければピンチになることはないのさ。俺のターン、ドロー。俺は手札から《ノード・ライゼオル》を召喚し、《ライゼオル・デュオドライブ》を墓地に送り《エクス・ライゼオル》を効果を無効にして守備表示で特殊召喚。《ノード・ライゼオル》と《エクス・ライゼオル》の2体で《No.60 刻不知のデュガレス》をもう一度エクシーズ召喚だ」

 

俺の盤面はさらに強化され、再びナンバーズがフィールドに降り立った。遊馬はもはや驚く気力すら失ったのか、ただ一点を見つめて立ち尽くしている。俺は最後の一撃に向けて、すべての力を収束させていった。

 

「俺は《デュガレス》の効果発動、エクシーズ素材を2つ取り除き《ライゼオル・デッドネーダー》の攻撃力を2倍に!」

 

《ライゼオル・デッドネーダー》ATK 3000 → 6000

 

《デッドネーダー》が漆黒のオーラを纏い、その力はかつてない高みへと到達する。海上道路の街灯がチカチカと明滅し、空間そのものがその強大な攻撃力に悲鳴を上げているようだった。俺はこの圧倒的な数値を、勝利の確約として誇らしげに掲げた。

 

「バトルフェイズ。俺は《超弩級軍貫-うに型二番艦》で直接攻撃!」

 

戦艦の砲門が再び火を噴き、遊馬に向かって決定的な一撃が放たれた。遊馬は眩い光に顔を背けながらも、その手はまだ自分のかっとビングを信じて動いていた。彼は自らの命運を、最後の一枚のカードに託した。

 

「俺は手札から《ガガガガードナー》の効果発動!相手モンスターの直接攻撃宣言時、このカードは手札から表側攻撃表示で特殊召喚できる!現れろ、《ガガガガードナー》!」

 

爆炎の中から一人の戦士が飛び出し、遊馬の盾となって俺の前に立ちはだかった。しかし、《うに型二番艦》は直接攻撃が可能。律儀にバトルはしない。

 

「だが無駄だ、《超弩級軍貫-うに型二番艦》は直接攻撃できる!2900ダメージを食らえ!」

 

戦艦の攻撃は《ガードナー》をすり抜け、遊馬の本体を直撃した。凄まじい衝撃波が彼を襲い、遊馬の体は海上道路の端まで吹き飛ばされる。小鳥たちの悲鳴が響く中、遊馬はボロボロになりながらも、信じられないほどの力強さで立ち上がった。

 

遊馬 LP 4000 → 1100

 

「ぐっ……けど、俺のライフはまだ残ってる!来い、寿!」

 

遊馬は衝撃に耐え、笑顔で俺を挑発した。その瞳の奥には、まだ何らかの逆転を確信しているかのような不気味な光が宿っている。俺はその不敵な態度に苛立ちを感じ、最大火力をもって彼を沈めることを決意した。

 

「言われるまでもない、俺は《ライゼオル・デッドネーダー》で《ガガガガードナー》を攻撃!」

 

《ライゼオル・デッドネーダー》ATK 6000 vs 《ガガガガードナー》ATK 1500

 

攻撃力6000を誇る巨躯が、無防備な戦士に向かって突進を開始した。その一撃は、遊馬のライフをゼロにするだけでなく、この世界のすべてを粉砕するほどの勢いを持っていた。勝利を確信した俺の口元に、歪んだ笑みが浮かんだその瞬間、遊馬は最後の手札を見開いた。

 

「ここだあぁぁあああっ!かっとビングだ、俺!俺は罠カード発動、《バイバイダメージ》!戦闘で発生する俺のダメージの、その倍のダメージを相手プレイヤーに与える!」

 

反射の光が俺を包み込み、視界が真っ白に染まっていく。攻撃力6000と1500の差、4500の倍である9000ダメージという理不尽な数値が、俺の網膜に焼き付いた。

 

「なに……ぐっ……ぐはぁあああーっ!」

「うわあぁあーっ!」

 

遊馬 LP 1100 → 0

寿 LP 4000 → 0

 

 

 

####

 

 

 

凄まじい爆風が海上道路を奔り、地面を震わせる。カードから放たれたエネルギーの余波は、ARビジョンの枠を超えた物理的な圧力となって二人を襲う。遊馬と寿はまるで見えない巨大な質量に叩きつけられたかのように、硬いアスファルトの上を転がった。それに同期するようにARビジョンのシステムが終わりを告げたことにより静かに散り消え、共に静寂が訪れる。

 

「ぐっ……遊馬ァ……ッ!!」

 

彼の口から漏れたのは断末魔のような、あるいは何か呪縛に縛られているような悲痛な叫びだった。視界を焼き尽くしていた光が収束し、夕闇に染まり始めた海の色が戻っていく。

 

「はぁ……はぁ……寿! 目を覚ませ! お前は、そんなに冷たい奴じゃねぇだろ!!」

 

遊馬は身体を震わせ、喉を枯らして叫んだ。その声は、潮風が吹き抜ける道に吸い込まれていく。つい数分前から目の前にいる彼は、間違いなく友である「寿」であって、同時に友である「寿」ではなかった。

勝利という結果のみを執拗に追い求め、相手の心を踏みにじるような冷徹なプレイング。効率、リソース、対話拒否……そんな熱を感じられない、冷たく乾いた行動を続け、本当に存在する遊馬の言葉すらも無意味な計算式の一部として切り捨てる機械のごとき冷徹なデュエリスト。正直に言えばその変貌に遊馬は困惑し、同時に本能的な恐怖を覚えていた。遊馬の脳裏に、いつも笑いながら寿司への愛を熱く語っていた親友の顔がよぎる。寿はあんな冷たい人間じゃない。そう信じて止まない遊馬の心には、そのギャップが鋭い痛みとなって刺さっていた。

 

「くそが……ふざけんじゃねぇ! 引き分けなんて、納得できると思っているのか……!?」

 

地面に這いつくばったまま、彼は吐き捨てる。その声には、冷たい効率主義の裏側に潜んでいた焦りと不満、そして現実を認めない意地汚さが混じっていた。それは10年以上前のデッキに自分が妄信する環境デッキが負けるなどという前代未聞の出来事などあってはならない、あるべきでないとしか思えない彼の器の小ささを示していた。

 

「おい、ふざけてんのはそっちのほうだろ!!」

「……はぁ?」

「前、俺とデュエルした時のお前は、そんなにカードを冷たく使うやつじゃなかった! お前は寿司屋としての誇りと、誰よりも熱い愛情を持ってたはずだろ!? 違うのかよ、寿!!」

 

遊馬の魂の叫びが、寿の凍りついた思考を直撃した。その瞬間、彼の脳裏に「真に楽しかった時」の記憶が濁流のように流れ込む。青春時代、馬鹿と言い合いながら親友、仲間とともに熱く語り合い、笑い合いながらカードを叩きつけ合った時。ときにぶつかり、ときにふざけ、ただの一勝に一喜一憂していたあの至福の瞬間。

 

「……忘れていた、ってことか? ……いや、違う。環境デッキじゃなきゃ勝てない……だから俺は……俺は!」

 

彼にとって、その忘れていた記憶は何よりも受け入れがたいもの。必死に脳内で言葉を手繰り寄せて彼は遊馬の言葉を否定しようとするが、探れど探れどその言葉は苦し紛れの開き直りだけ。今の彼の瞳は一転、揺れていた。つまるところ、信じていたものが虚栄だったことに、彼は自覚しつつあった。

 

「寿、今のお前が何を考えてるのかは分からねぇけどよ! さっきからそんなに勝ちに拘るんじゃねえよ! デュエルは勝ち負けの結果だけじゃないだろ!?」

「違う……チゲェんだよ!!」

 

あれだけ謗っていた口から、何故か言葉が出ない。遊馬の言っていることが、言語化せずともまるきり過去の自分が体験していたことと同じだったことに気づいたからだ。

 

──俺がおかしい?

──何が間違った?

──どこで道を違えた?

 

悩む、悩む、悩む。しかしそこは袋小路の思考、どこにも出口がない。いや、自ら閉ざしたのだ。もはや彼が言い返せる要素は無かった。自分に問いかける、何が過ちだったのかと。遊馬は言葉を紡ぎ、頭を抱える彼にさらに問いかける。

 

「デュエルのその先にあるもの、本当に大切なもの。お前は忘れてるんじゃねぇのか!?」

「っ!」

 

その言葉とともに思い出すのは、過ぎ去って終わりを告げたかつての日常だった。

華々しいフィナーレを迎えたあとの青春という名の劇場から、当然の如く離れてゆく仲間たち。彼らは新天地で高みを目指しているのだろう、成長しているのだろう、幸せを掴んでいるのだろう!はたして俺はどうだ?離れなかった、離れられなかった。青春という名の人生最高に楽しかった記憶にしがみ付き、そこでただ快楽に浸っていたかっただけだったのか。

過去に、囚われていたのか。時代に取り残される恐怖を最新の、最強のカードで塗り潰して自分を保っていただけではないのか。そうしているうちに、しがみついていたはずの最上の記憶を忘れ、気づいたら勝利に固執していただけだったのか。

 

そして、このザマなのか。

 

「老兵は死なず、ただ過ぎ去るのみ……か」

 

彼はようやく悟った。自分は引き際を誤ったのだ、と。消えた夢は、まるで星のように瞬いていた。あまつさえ好きだったアニメの主人公にその事実を気づかされたのかと考えると、彼は申し分さえも失礼となるように感じられた。

 

「質問に、答えろよ!寿!」

 

もはや彼の中では答えは決まっていた。

 

「……ま……うぐっ、あ……」

 

だが、彼はその答えを言い切ることはなかった。

寿の口から漏れたのは、拒絶か、それとも元の自分を取り戻そうとする抗いか。その答えを言い切る前に、もはや彼の意識の糸は暗転し、ぷつりと切れた。

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