軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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前話を不快に感じた方、大変申し訳ございませんでした。





平成敗残兵

寿が力なく倒れ、重力に従い下へ身体が落ちていく。

 

「……また倒れた!? おい、寿! 赤司寿!!」

 

遊馬が駆け寄り、地面に倒れ伏した寿の肩を掴んで激しく揺さぶる。だが、返ってくるのは規則正しい、しかし深い安らぎを感じさせる寝息だけだった。その表情は、さっきまでの峻烈さは消え失せ、どこか穏やかなものに変わっていた。

 

「……死んじゃいねぇよな? なぁ、アストラル?」

 

遊馬が縋るように傍らを見つめる。だが、いつも小言を言ってくるはずの相棒はそこにはいない。

 

「……っと、いけねぇ。アストラルはもういないんだった。これからは、俺一人で戦っていかなきゃいけねぇんだ」

 

相棒の喪失感を噛み締め、遊馬は唇を強く結んで立ち上がった。背後から駆け寄ってきた仲間たちの足音が、重苦しい静寂を破る。

 

「どうするんだ、遊馬? このままここで寝かせとくわけにもいかねぇだろ」

 

声をかけてきたのは、心配そうに眉を寄せた鉄男だった。足元には、すっかり毒気が抜けた顔で眠りこける寿。先ほどまでの異様な気迫はどこへやら、今の彼はただの寝相の悪い男にしか見えない。遊馬は一度大きく息を吐き、デュエルディスクを格納しながら、頼もしそうに鉄男を見た。

 

「鉄男、もう一度背負ってくれねぇか? 寿って見かけによらず結構重いんだよな」

「またかよ! さっきも運んだばっかだろ! ……ったく、仕方ねぇな、任せとけって!」

 

鉄男は口では文句を言いながらも、親友を放っておけない性分だ。寿の両腕を掴み、よっこいしょと力強くその背に担ぎ上げた。小鳥が背負われた寿の寝顔を覗き込み、ハンカチで彼の額に滲んだ汗をそっと拭う。そのハンカチが眉に向かうとき、目から一筋の涙が流れたことを彼女は言葉にせずとも見逃さなかった。

 

「……赤司君、なんだかすごく疲れてるみたい」

 

その光景は微笑ましいものだったが、ふとした違和感が場を支配した。

 

「あれ? そういえばアイツ、自転車でここまで来てたウラ」

 

徳之助が、暗がりに包まれた道路の先を指差して首を傾げた。

 

「確かそうだったな……あれ? あいつの自転車はどこ行ったんだ? 鍵をかけたまま、どこか別の場所に置いてきたのか?」

 

だがここは建設中の海上道路、駐輪所があるはずもない。そして彼は確か、この道路までしっかり自転車を手で押しながら歩いてきていた。思い出すとともに一同の視線が、海上道路の何もない空間に集まる。そこには、つい先ほどまでⅢが発動した不気味な紋章――《アンゴルモア》の力が渦巻いていたはずの空間が、無機質に広がっているだけだ。

 

「ま、まさか……」

「え?」

 

等々力委員長が嫌な汗を流しながら、一点を指差した。

 

「遊馬君、彼の使った罠カードの演出を覚えていますか?」

「ああ、《アンゴルモア》だろ? Ⅲは次元の扉が開くとか何とか言ってたけど……あ!」

 

遊馬の脳内に、デュエルの最中に発生した凄まじい吸引力の光景がフラッシュバックする。

 

「おそらく、そのまさかでしょう。トドのつまり……」

「寿の自転車は、あの穴に吸い込まれたってことかよ!?」

「そうなりますね……。科学的には説明がつきませんが、あのカードの物理的干渉に巻き込まれたと考えるのが自然です」

 

委員長の冷静すぎる、しかし絶望的な分析に小鳥は一瞬だけ「あぁ……」という顔をして天を仰いだ。

 

「ええぇぇ!? マジかよ! あいつ、あの自転車めちゃくちゃ大事にしてたじゃねぇか! 寿司の出前が遅れると親父さんに殺されるって……!」

 

想像してほしい。目を覚ましたら、仕事道具の自転車が異次元の彼方。情けないこと極まりない。

 

「うーん……ま、いっか! Ⅲとまた会った時に話して返してもらうさ!」

「軽いですね……。まあ、遊馬君らしいと言えばらしいですが。事実は小説より奇なり、と言ったところでしょうか」

「おーい、遊馬?委員長の話もそこまでにしといて、寿の家の道案内してくれよ! 頼むぜ!」

 

鉄男が背中の寿を揺らしながら、ガハハと笑った。遊馬はその明るさに救われたように、力強く拳を握りしめる。

 

「おうよ! ありがとな、みんな!」

 

夕闇の海上道路に快活な声が響き渡る。アストラル、Ⅲ、そして寿。失ったもの、取り戻せるもの。不穏な影はいまだ完全には消え去っていないけれど、遊馬の胸にあるのは、親友と共に明日を迎えられるという確かな喜びだった。潮風が、彼らの背中を優しく押し出す。

 

「よーし、帰ったら寿司……はさすがに悪いから、おにぎりだな! かっとビングだぜ、俺!」

 

一行は賑やかな笑い声を夜風に乗せながら、夜を貫くようなハートランドの光輝く灯りへと向かって歩き出した。

 

 

 

####

 

 

 

「……う、ううぅ……」

 

割れるような頭痛と共に、俺──赤司寿は自分の部屋のベッドで跳ね起きた。

窓の隙間から容赦なく差し込む日光の礫が、チリの舞う部屋を白く焼き、俺は反射的に目を細めて後頭部を抱え込む。ズキズキと脈打つ痛みが脳を揺さぶり、昨夜の断片的な記憶がひび割れた鏡の破片のように意識の底に散らばっていた。なんだ、この違和感というか忘失感は? 昨日、俺は何をしていたんだっけか。

ええと……アンナのデッキ改造を手伝って……ラクリの店に手伝いに行って……で、アンナが出前に呼び出されて、俺が遊馬とⅢに会って……ああ、そうだった。

 

「……思い出した。俺はⅢから紋章の攻撃を食らったんだったな。結局、遊馬の奴は勝てたのか?」

 

重い頭を振りながら、俺は一抹の不安を抱いて枕元のデッキケースに手を伸ばした。その瞬間、指先に触れたプラスチックの感触がトリガーとなり、脳裏にどす黒いノイズが走る。何か冷たい、無機質な機械を操って、親友である遊馬を徹底的に、過剰に追い詰めていたような誰かの記憶。その冷徹な全知全能感は、今の俺にはあまりにも異質で、喉の奥がせり上がるような不快な焦燥を伴っていた。俺は慌ててケースからデッキを抜き出し、中身をぶちまけるように確認した。

 

「……軍貫だよな。うん、そうだよな。やっぱり夢か……」

 

そこにあるのは、見慣れた、そして何より美味そうな寿司ネタのカードたちだった。ナンバーズの《デュガレス》も、《バグースカ》も、《グランブル・ロゴス》も、いつも通りそこに座している。エースの《超弩級軍貫-うに型二番艦》も、《弩級軍貫-いくら型一番艦》も、朝日に照らされて誇らしげに黒光りの色の光を放っていた。

 

夢でも見たのか。その不安は、店から漂ってくる酢飯の匂いと朝日の熱に溶けて、完全に霧散していった。何か大事なことを忘れているような、妙にすっきりしない感覚だけが、胸の奥に薄汚れた染みのように残っていたが、俺はそれを強引に意識の外へ追いやった。

 

「おーい、寿ー! 生きてるかー!」

 

一階から、鼓膜を直接震わせるような馴染み深い、やかましい声が響いてくる。……間違いねぇ。あのかっとビング野郎だ。階段を駆け下りる足音すらも騒々しい自分の家の朝に、俺は小さく息を吐いた。

 

「……朝っぱらからうるせぇよ、遊馬。今行くっての」

 

俺は寝癖もそのままに、階段を駆け下りて声の元へと向かった。一階の店舗兼リビングには、心配そうに眉を寄せた小鳥と、既におにぎりを頬張りながら椅子にふんぞり返っている遊馬の姿があった。

 

「赤司君! 大丈夫なの? 昨日の夜、いきなり倒れちゃうんだもん!」

 

小鳥が詰め寄ってくる。その真剣な眼差しに、俺は少しだけ気圧されながら頭を掻いた。

 

「すまん観月さん。心配かけたな……遊馬、お前も何しにきたんだ?」

 

俺の呆れ顔などどこ吹く風で、遊馬は口に米粒をつけたまま身を乗り出してきた。その瞳には、心配と同時に、何かを測りかねるような色が混じっている。

 

「何しにって、心配したんだぜ! お前、昨日のデュエルですげぇ怖い顔して……プログラムがどうとか、リソースがどうとか、わけわかんねぇこと言ってたしよ!」

 

プログラム? リソース? なんだそりゃ。俺はIT系のエンジニアじゃなくて、腕一本で勝負する飲食系の寿司屋の息子だぞ。包丁の握り方は知っていても、キーボードの叩き方なんて授業で習った程度だ。

 

「うん……? 待て。デュエル?」

 

俺の問いに、遊馬の表情が強張った。昨夜の記憶を必死に手繰り寄せるが、そこにあるのは霧の彼方に消えていく銀色の光だけだ。

 

「変も何も! お前、俺が知らないカードをバンバン出して……まるで別の人みたいだったんだぜ! 正直、ちょっとビビったけどよ!」

 

遊馬の言葉に、俺は首を傾げる。知らないカードだと? 俺が使うのはいつだって《軍貫》のはずだ。遊馬が知らないカードといえば、俺が思い当たるのはもう一つの寿司ネタのみ。その瞬間、再び脳裏に走ったノイズ。冷たい鉄の匂いと、機械仕掛けの心臓が刻む鼓動。その正体を掴もうとしたが、指の間をすり抜ける砂のように、記憶は急速に風化していく。

 

「待て、遊馬。俺はⅢからの紋章の攻撃を受けて、今まで寝てたんじゃねぇのか?」

 

俺の問いに、二人は顔を見合わせ、気まずそうに視線を泳がせた。その沈黙が、俺の知らない何かがあったことを雄弁に物語っていた。なんなんだ、俺は昨日何をしたんだ?引き分け?俺は遊馬とデュエルでもしたってことか?

 

「もしかして、寿はあのことを覚えてないのか……?」

「かもしれないわね……。彼、どうやら記憶が曖昧なんじゃない?」

「どういうことだよ、教えろよ」

 

本気で知らないため詰め寄る俺を制するように、遊馬はニカッと不自然なほど明るく笑ってみせた。

 

「いや、言う必要はねぇか。とにかく、昨日の寿はちょっと変だったってだけだ! 忘れてんなら、そのままのほうがいいぜ!」

「……まあ、いいや。とにかく俺、迷惑かけたんだろ? 悪かったな、遊馬」

「いいってことよ! 最後は引き分けだったけどよ……あんなに何もできないのは久しぶりだったぜ……」

「……え?」

 

遊馬の口から漏れた、あまりに殊勝な言葉に、俺の思考は一瞬フリーズした。

 

「『何もできない』? ……お前が?」

 

聞き捨てならない言葉に、俺は自然と眉をひそめていた。遊馬のデュエルはいつだって泥臭く、ボロボロになりながらも最後には奇跡のような「かっとビング」で熱量を爆発させるものだ。それを完封し、何もさせない状態に追い込むなど、俺の軍貫デッキにそんな芸当ができるだろうか。

まるでカードパワーの時代を十数年も先取りしたような、圧倒的な制圧――。いや、できるはずがない。

 

(俺、寝ぼけて八汰ロックか切り込みロックでも決めたのか? どっちも使ったことねぇし、そもそもこのデッキにそんなカード入ってねぇぞ……)

 

自分の手の内を知り尽くしているからこそ、その違和感は拭えない。しかし、俺の追求をかわすように遊馬が動いた。

 

「あ~いや……その……何でもねぇよ! ほら、飯だ飯! 早く食わねぇと冷めちまうぜ!」

 

遊馬は慌てて残りの握り飯を口いっぱいに詰め込み、頬を膨らませて無理やり笑ってみせた。明らかに動揺を隠そうとしているその仕草に、俺はそれ以上の追求を断念する。……まあ、本人がそう言うならそうなんだろう。いつもの遊馬の、根拠のない自信に満ちた笑顔が、俺の心のざわつきを少しだけ鎮めてくれた。

 

「赤司君、本当に顔色良くなったね。昨日は……本当に怖かったんだから」

 

隣で見ていた小鳥が、心の底から安心したように微笑む。「知らない人」のような、冷徹な俺。遊馬たちが意図的に伏せようとしている、昨夜の俺の断片。頭に響くノイズといい、この忘失感といい、違和感は大いにある。だが、彼らがこれほどまでに気を遣い、霧の中に隠そうとしてくれているのなら――それはきっと、深入りしないほうがいい領域なのだ。何にせよ、俺は今ここにいる。それ以上に確かな真実なんて、今の俺には必要なかった。

 

「よし! 元気になったんなら、飯の後はまた外でデュエルだ! 昨日の決着、つけようぜ!」

 

遊馬は食べ終えたばかりの皿を脇に除け、勢いよく立ち上がって拳を突き出した。その瞳には、昨夜の奇妙な事件など微塵も感じさせない、一点の曇りもない情熱が宿っている。

 

「バカ言え。今日は前夜祭でWDCは休みだろ。俺はこれから親父の仕入れの手伝いなんだよ。……やるなら、夕方に店に来い。詫びもかねて特上のネタ、用意して待ってるからよ」

 

俺は不敵な笑みを浮かべ、遊馬のツンツン頭を軽く小突いた。消えた記憶の片隅で、誰かが「これでいいんだ」と穏やかに呟いた気がしたが、それも朝の賑やかさに掻き消されていった。

 

「よっしゃ! 寿司食いねぇデュエルだ! かっとビングだぜ、俺!」

「……寿司は食べるものでしょ、もう。赤司君の家の仕事、邪魔しちゃダメだよ」

 

小鳥の呆れ顔と、遊馬の突き抜けた笑い声。俺たちの、騒がしくて熱い日常が、再び幕を開けた――はずだったが、ふと家の中の静けさに気づき、俺は首を傾げた。

 

「あれ? そういえば親父とアンナはどこ行ったんだ? さっきから姿を見ねぇけど……」

 

カウンターの奥を覗き込んでも、あるはずの巨大な背中が見当たらない。開店準備の時間だというのに、包丁の研げる音すらしないのは、この店では珍しいことだった。

 

「ああ!寿の親父さんなら、俺たちが入ってきたら店番任せたって言ってどっかに行っちまったぜ?」

 

寝ていたとは言えそれでいいのか、親父。いや、親父がいいと判断したのならそれはいいのだろう。俺は溜息をつき、乱れた調理服の襟を正した。どうせ市場にでも行って、知り合いと油を売っているのだろう。だが、もう一人の居候の姿がないのは少しばかり不自然だった。

 

「じゃあ、アンナはどうしたんだ? あいつ、朝にはめっぽう強いはずだが」

 

俺の問いに、それまで調子よく喋っていた遊馬が、石像のようにピタリと動きを止めた。その顔には、隠しきれない嫌悪感と微かな恐怖が、まぜこぜになって浮かび上がっている。

 

「ちょっと待て。もしかして、お前のアンナって……あのアンナか?」

 

遊馬は身を乗り出し、確認するように俺の顔を覗き込んできた。その必死な様子に、俺は少しだけ気圧されながらも、記憶にある一人の少女の名を口にした。

 

「どのアンナだよ。俺の知り合いのアンナは一人しかいねぇ。苗字は神月。これでいいか?」

「げっ! やっぱりそいつか! あの、やべーエクシーズモンスター使う奴であってるか?」

 

遊馬は露骨に嫌そうな顔をして、自分の頭を抱えた。やばいって……まあ、確かに《グスタフ・マックス》の2000バーンは初見殺しもいいところだし、彼女の性格もあの通り、猪突猛進そのものだ。

 

「た、確かにやばいエクシーズかもしれないが……あいつ、意外と面倒見はいいんだぞ? 根は悪い奴じゃないんだが、ちょっと表現が過激なだけでよ」

 

俺が苦笑いしながらフォローを入れた、その時だった。二階の廊下から、ドタドタという、まるで戦車が全速力で走るようなけたたましい足音が響いてきた。

 

「師匠~? もう起きてるのか? 待ってろ、今すぐこの俺が行ってやるぜ! 腹が減って死にそうなんだ!」

 

階段を一段飛ばしで降りてくる振動が、リビングの照明を小さく揺らす。声の主がこちらへ近づくにつれ、遊馬の顔色が急速に土色へと変わっていくのが見て取れた。

 

「お、アンナも起きたのか。もう昼だぞ、腹減ったろ。何がいい?」

 

俺が声をかけると、階段の踊り場からアンナが顔を出した。寝癖のついた髪を雑にまとめ、パジャマ姿のまま飛び出してきた彼女は、空腹を訴えるように腹をさすっている。

 

「卵料理がいいかな! 厚焼き玉子を山ほど食わせてくれ! ……え?」

 

勢いよく駆け下りてきたアンナが、リビングのど真ん中に陣取る遊馬と小鳥を視界に入れた瞬間、その場で完全に凍りついた。驚きと怒りが、彼女の表情を瞬時に塗り替えていく。

 

「なんで……なんで、あんな奴がここにいるんだよ!」

「え? いや、遊馬たちは見舞いに……」

「なんで……師匠の店に、遊馬がいるんだよぉぉぉ!? 昨日の今日で、よくもノコノコと面が出せるな!」

 

アンナの絶叫が店内に響き渡り、空気が一瞬で沸騰した。すっかり日常の光景に馴染んでいたもんだから――こいつらが顔を合わせれば即座に火花が散る仲だったことを、俺は完全に忘れていた。

 

「よし、アンナ。ちょっと向こう向いてろ。俺が十秒数える間、絶対にこっちを見るな。いいな?」

 

俺はアンナの肩を掴み、無理やり壁の方へと回転させた。彼女の怒りはまだ収まりそうにないが、これ以上騒がれると、店が本格的に破壊されかねない。

 

「し、師匠!? 俺はあいつに文句を言わないと気が済まないんだよ!」

「いいから向こうを向く! 文句は後で聞いてやるから! 十……九……八……」

「ひゃい!? 分かったよ、向けばいいんだろ!」

 

俺の凄みに押され、アンナは不満げに頬を膨らませながらも、直立不動で背中を向けた。その隙に、俺は玄関口で固まっている遊馬と小鳥に向かって、必死に手招きをした。

 

「今だ! 遊馬、今のうちに出ろ! 捕まったら、今日は一日中大砲の掃除をさせられるぞ!」

「お、おう! 助かったぜ寿! 小鳥、逃げるぞ! 追いつかれたら命がねぇ!」

「う、うん! 赤司君、また後でね!」

 

バタバタと騒がしく玄関へ駆けていく二人。遊馬は律儀にも、扉を閉める間際に後ろ向きのまま手を振って見せ、脱兎のごとく表通りへと消えていった。

 

「ありがとう、寿! 命の恩人だぜ! じゃあな、アンナ!」

「うう、遊馬ぁ~……声が、声が聞こえるぞぉ……! 逃げるなんて卑怯だぞ!」

 

背中を向けたまま、悔しそうに肩をプルプルと震わせるアンナ。後ろを向きながら別れを惜しむような、恨めしそうな声を出すな。俺がやらせてるんだけどよ、全く。

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