軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
「「デュエル!!」」
Ⅳ LP 4000 / アンナ LP 4000
漆黒の闇に包まれた、荘厳なる庭園。静まり返った空気の中に、突如として電子の死鐘のごとき駆動音が響き渡る。月明かりに照らされた決闘の舞台で、二人のデュエルディスクが放つ青白い光が、対峙する影を不気味に浮かび上がらせた。先手を取ったのは、優雅な所作の裏に冷徹な計算を秘めた男、Ⅳだった。彼は流れるような動作で髪をかき上げ、狂気を孕んだ笑みを唇に刻む。
「私の先攻だ。ドロー!」
Ⅳの指先が、まるで熟練の指揮者がタクトを振るうかのように、しなやかにデッキの頂を撫でる。その動作一つ一つが、残酷なまでの美しさをもって完成されていた。
「私は《ギミック・パペット-ボム・エッグ》を召喚し、効果発動。手札の《ギミック・パペット-ナイトメア》を墓地へ送り、800ダメージを与える……爆ぜろ、ボム・エッグ!」
虚空から這い出した無機質な機械の卵が、アンナの足元で無慈避に爆ぜた。爆圧が庭園の芝をなぎ倒し、立ち昇る熱風が彼女の勝気な瞳を射抜く。
「っ……いきなりきやがったな!」
アンナ LP 4000 → 3200
「ふふ、挨拶代わりの800ダメージだ。さらに魔法カード《ジャンク・パペット》を発動。墓地の《ギミック・パペット-ナイトメア》を守備表示で蘇生する。カードを1枚伏せ、ターン終了だよ。さぁ、君の力を存分に見せてくれ」
貴公子の如き微笑。だがその瞳は、深淵のような冷たさで獲物の動揺を待っている。対するアンナは、沸き立つ闘志をその小さな体に凝縮させ、猛然と地を蹴った。
「……上等だ! 俺のターン、ドローッ!」
引き抜かれたカードの風切り音が、夜の静寂を切り裂く。
「俺は《無頼特急バトレイン》を召喚、お返しだ!効果発動、お前に500ダメージを与えるぜ!」
重厚な蒸気機関の咆哮が響き、巨大な鉄塊がⅣの眼前に迫る。火の粉を散らすその威容は、まさに走る暴力そのものだ。
Ⅳ LP 4000 → 3500
「そのまま《バトレイン》で《ボム・エッグ》を攻撃! ぶっ潰せ!」
《無頼特急バトレイン》ATK 1800 vs 《ギミック・パペット-ボム・エッグ》ATK 1600
猛進する鉄の塊。だがⅣは一歩も退かず、むしろ陶酔したかのように口角を吊り上げ、手札を掲げた。
「無駄だよ。罠カード《ギミック・ボックス》発動。差分の200ダメージを無効にし、このカードは攻撃力200のモンスターとなって出現する! さらに手札の《ギミック・パペット-ナイト・ジョーカー》の効果発動! 破壊されたボム・エッグを除外し、自身を守備表示で特殊召喚する!」
完璧なる守護。アンナの攻勢を受け流し、Ⅳの盤面には異形の人形たちが不気味な列を成す。
「チッ、逃げ足の速い野郎だぜ……。俺はカードを3枚伏せて、ターン終了だ!」
夕焼け景色は雲に隠れ、庭園の彫像たちは闇に沈む。Ⅳの瞳に、薄ら寒い光が宿った。
「私のターン、ドロー。……ほう、随分と固く守るつもりだね。いつまでその守り、保てるかな?私は《キラー・ナイト》を召喚!そのままモンスターを攻撃!」
《キラー・ナイト》ATK 1800 vs 《無頼特急バトレイン》ATK 1800
激突する鋼鉄と鋼鉄。激しい火花と共に両者が爆散し、戦場は濃密な黒煙に包まれる。だが、アンナはその爆炎を追い風に変えるべく叫んだ。
「今だ!永続罠発動、《メタル・リフレクト・スライム》! 守備力3000、レベル10で水族のモンスターとして守備表示で特殊召喚するぜ!」
「……壁をつくったか、小癪な。ターン終了だ」
「俺のターン、ドロー! 師匠に教わった、とっておきを見せてやるよ!《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》を攻撃力0にして召喚! そしてレベル10の2体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!」
大地が底から鳴り響き、空間が歪む。銀河の渦から這い出したのは、夜の静寂を蹂躙する鋼鉄の巨神。
「現れろ! 《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!!効果発動、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで2000ダメージを与える!ビッグ・キャノン、発射!!」
絶大な破壊の奔流がⅣを飲み込む。
Ⅳ LP 3500 → 1500
「ターンエンドだ……っ!?」
衝撃波に吹き飛ばされ、石畳に膝をつくⅣ。……だが、彼は俯いたまま、ククク、と喉の奥から這い出すような乾いた笑いを漏らした。
「……あは、はははは! 素晴らしい! 私に膝をつかせるとはねえ!!」
Ⅳが顔を上げたその瞬間、劇的に空気が変質した。貴公子の仮面は剥がれ落ち、顔は醜く歪み、瞳は血走った狂気に塗りつぶされている。
「このお礼は何倍にも返してあげないとね……さあ、始めようじゃないか! 本気の、極上の、地獄のファンサービスをォ!!」
「えっ……!?」
「俺のターン、ドロー!レベル8の《ナイトメア》と《ギミック・ボックス》でオーバーレイ! 現れろ、《No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー》!!」
処刑台を背負った銀色の死神が、不気味な関節音を立てて降臨する。
「オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、効果発動!自身以外のエクシーズモンスターを破壊し、その攻撃力分のダメージを与える!3000ダメージだ! 消え失せろ、鉄屑と共に!」
ジャイアントキラーの無慈悲な仕掛けがグスタフ・マックスを捕らえ、その巨体を一瞬にして粉砕した。
「《グスタフ・マックス》が……うわあああああ!!」
アンナ LP 3200 → 200
「これでおしまいだ。《ジャイアントキラー》で直接攻撃!」
Ⅳの狂気に満ちた叫びと共に、銀色の殺戮人形がその身を軋ませて跳躍する。月光を浴びて鈍く光る巨大な鎌が、無防備なアンナの喉元をめがけて振り下ろされた。逃げ場のない死の旋律が、夜の静寂を切り裂いて彼女に迫る。だが、アンナの瞳に絶望の色はなかった。彼女は滴る汗を拭うこともせず、限界まで研ぎ澄まされた集中力で、伏せられた最後の一枚に指をかけた。
「……速攻魔法、《ご隠居の猛毒薬》!俺のライフを1200回復する!」
カードが眩い緑の光を放ち、アンナの全身を包み込んだ。死神の鎌が届く寸前、彼女の背後に温かな生命の波動が広がり、盤面の数値が急激に跳ね上がる。
アンナ LP 200 → 1400
「さらに直接攻撃に合わせて、永続罠《安全地帯》を《ジャイアントキラー》を対象に発動! そして手札から《除雪機関車ハッスル・ラッセル》を特殊召喚宣言だ!!」
戦場に不可視の結界が張り巡らされ、攻撃を仕掛けた人形の周囲を檻のように拘束した。それと同時に、庭園の石畳を粉砕するほどの凄まじいエンジン音が地鳴りとなって響き渡る。夜闇の彼方から、凍てつく空気を切り裂いて、巨大な除雪板を備えた鋼鉄の怪物が姿を現した。
「《除雪機関車ハッスル・ラッセル》は相手の直接攻撃に合わせて俺のフィールドの魔法・罠カードをすべて破壊して特殊召喚できる!《安全地帯》を破壊だ!」
猛然と突進するハッスル・ラッセルの質量が、自らの陣地に展開された結界を無慈悲に粉砕する。砕け散る罠の破片が火花となって飛び散り、重厚な鉄の塊が戦場の中央へと居座った。
「ここで《安全地帯》の効果、こいつが離れたとき対象のモンスターも破壊される!《ギミック・パペット-ジャイアントキラー》は破壊だ!」
結界の消滅は、同時に拘束されていた人形の死を意味していた。無理やり引き剥がされるような衝撃と共に、Ⅳの誇る処刑人形がバラバラに瓦解し、夜の闇へと霧散していく。
「さらにおまけの200ダメージだ、くらえ!」
ハッスル・ラッセルの排熱が熱風となってⅣを襲い、優雅さを失った彼の顔を歪ませた。
Ⅳ LP 1500 → 1300
「……チッ。俺の人形をよくも……!」
Ⅳの顔はもはや人ならざる狂鬼のそれだった。瞳の奥で真っ赤な炎が揺らめき、彼は低い声で呪うように告げた。
「いいだろう……君がこれで満足しないのなら、もっと深い絶望で君を美しく染めてあげるよ。《エクシーズ・コロッセオ》発動だ。エクシーズモンスターの攻撃力は200上がり、エクシーズモンスター以外は攻撃できない。ターンエンドだ」
夜風が一段と冷たさを増し、庭園に漂う硝煙の臭いがアンナの鼻を突く。彼女の額からは一筋の汗が流れ落ち、荒い呼吸が白い霧となって闇に消えた。
「俺のターン、ドロー!……くそ、俺はカードを1枚伏せる。これでターンエンドだ」
アンナは唇を噛み締め、手札の状況に焦燥を募らせる。だが、対面するⅣは、なぶり殺しの悦楽に浸る狩人の目をしていた。
「……ふふ、面白い。ならばこれを見ても笑っていられるかな? 魔法発動、《傀儡儀式-パペット・リチューアル》!《ギミックパペット-ナイト・ジョーカー》を墓地から特殊召喚、そのままレベル8の《ギミック・パペット-ナイトメア》と《ギミックパペット-ナイト・ジョーカー》の二体オーバーレイ!現れろ、《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》!!」
《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》ATK 3000 → 3200
天空から無数の細い糸が降り注ぎ、月光を反射して銀色に輝く。現れたのは、巨大なハープを手にした絶望の奏者。その指先が空気を弾くたび、周囲の空間が死の旋律に震える。
「行け、《ヘブンズ・ストリングス》ッ!ヘブンズ・ブレード!!」
Ⅳの宣告と共に、天空から降り注ぐ無数の死の糸が、巨大な人形の四肢を操る。月光を浴びて不気味な光沢を放つ銀色の掌が、重力そのものを味方につけたかのような速度で、アンナの除雪車を圧殺せんと振り下ろされた。鋼鉄と鋼鉄が衝突する凄まじい衝撃が、庭園の石畳を粉々に砕き、爆風が周囲の樹木をなぎ倒す。
《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》ATK 3200 vs 《除雪機関車ハッスル・ラッセル》DEF 3000
互いの攻撃が真正面からぶつかり合い、耳を劈くような金属音が響き渡る。アンナは爆炎の中で、列車と人形が衝突しあうも無残に破壊される様子を見た。黒煙が晴れた先に彼女が見たのは、無傷で傲然と立ち尽くす悪魔の人形だった。
「やべぇぞ……」
「俺はこれでターンエンド!」
嘲笑うⅣ。彼の狂気は最高潮に達し、その場の空気を毒素のように汚染していた。彼が吐き出す呼気さえもが、アンナの闘志を削り取る死の霧のように庭園を満たしていく。
「俺のターン、ドロー!」
アンナは震える指先でカードを引き抜いたが、希望は訪れなかった。その顔からはもはや先程までの勢いが消え失せている。
「……畜生……罠カード発動、《砂塵の大竜巻》だ。《エクシーズ・コロッセオ》を破壊する……モンスターをセットしてエンドだ」
彼女は守勢に回るしかなく、祈るようにモンスターを伏せてターンを譲った。
「私のターン、ドロー。《ギミック・パペット-死の木馬》を召喚!あくまで君は守りを固めるのなら、こういうのはどうだい?私はさらに《ギミック・シールド》を《ヘブンズ・ストリングス》に装備し、攻撃力と守備力の値が入れ替わる」
不気味な木馬が現れ、さらに巨大な人形の胸元に、鈍い銀光を放つ盾が装着される。それは単なる防御兵装ではなく、戦場の優劣を自在に操る呪いの装置だった。銀色の盾を構えたヘブンズ・ストリングス。その姿は攻守を自在に操る鉄壁の要塞へと変貌を遂げた。
《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》ATK 3200 → ATK 2200
「さらに効果でオーバーレイ・ユニットの数だけ300ダメージを与える!オーバーレイ・ユニットの数は二つ、よって600ダメージだ!」
人形が奏でる不協和音が、目に見える破壊の波動となってアンナを襲う。それは鼓膜を突き破り、彼女の精神を直接蝕むような忌まわしい旋律だった。
アンナ LP 1400 → 800
「行け、《ヘブンズ・ストリングス》!裏守備モンスターを攻撃!」
《ヘブンズ・ストリングス》ATK 2200 vs 《豪腕特急トロッコロッコ》DEF 1000
要塞と化した人形の突進。装甲を貫かれ、アンナの守備モンスターが塵へと帰した。
「《死の木馬》で直接攻撃!」
「この瞬間、《バトルフェーダー》を特殊召喚し、バトルを終了させる!」
闇の隙間から現れた虚無の羽が、Ⅳの追撃を遮るように戦場を覆い尽くす。だが、Ⅳはその抗いにさえ愉悦を見出していた。追い詰められ、泥水を啜るように生き延びる相手の姿こそが、彼にとって最高のファンサービスだった。
「ターンエンドだ。足掻くねえ、アンナ!その苦悶の表情……最高だよォ!」
狂喜の叫びが夜空を裂く。アンナは返り血のような火花を浴びながら、朦朧とする意識を繋ぎ止めていた。
「俺のターン、ドロー!カードを1枚伏せてエンドだ!」
「打つ手なしかい?ドロー。《ギミック・パペット-シザー・アーム》を召喚、《ギミック・シールド》の効果で600ダメージ!」
再び、逃れようのない痛みがアンナを襲う。心臓の鼓動が激しく打ち付け、ライフはもはや風前の灯火。200という数値は、もはや死の淵に片足を踏み入れているに等しかった。
アンナ LP 800 → 200
「《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》で《バトルフェーダー》を攻撃!」
《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》ATK 2000 vs 《バトルフェーダー》DEF 0
人形は守りを固める悪魔を無残にも打ち砕こうとする。
「速攻魔法、《ハーフ・シャット》! 攻撃力を半分にし、戦闘破壊を防ぐ!」
しかし、アンナは伏せカードを使用し悪魔を守る。それが彼女にとっての生命線であるということに他ならなかったからだ。その様子を見たⅣはあくまでも泥臭く耐えるアンナを見て、あからさまに不快感を感じ始めていた。
「……なんでそこまで耐えやがる!?ちっ、俺はこれでターンエンド!」
辛うじてライフポイントは0を割っていない。だが次のターンを目の前の男に渡せば、装備魔法の効果で600ダメージを与えられてしまう。それが意味するのはすなわち、このターンに勝敗がかかっているということだった。
「はぁ、はぁ……。次、引けなきゃ……終わりだぜ……!」
アンナの視界が歪み、世界が遠のく感覚に陥る。足元はふらつき、冷たい夜風が体温を奪っていく。だが、極限状態の脳裏に、師匠から受け取った情熱と、誰にも負けない愛が閃光のように走った。このまま無様に散ることは、彼女のプライドが、そして彼女が愛する鋼鉄の魂が許さなかった。
「カードを1枚伏せてターンエンド。さあ、絶望のドローをどうぞォ!!」
「……絶望なんて、俺の辞書にはねぇんだよ! 俺のターン、ドローッ!!」
アンナが吠えた。その瞬間、極限まで高まった彼女の執念が、デッキを、そして因果を震わせた。引き抜かれたカードがまばゆい黄金の光を放ち、彼女の背後に、あらゆる荒波を突き進む鉄の城塞の鼓動が、巨大な蒸気機関の幻影となって立ち昇る。
「魔法カード《貪欲な壺》! 墓地にある《無頼特急バトレイン》、《豪腕特急トロッコロッコ》、《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》、《除雪機関車ハッスル・ラッセル》、《深夜急行騎士ナイト・エクスプレス・ナイト》の5枚をデッキに戻し、2枚ドロー!」
絶望の淵に立たされたアンナの指先が、微かに熱を帯びるのを感じる。今は静かに眠る5枚の鉄の魂たちが、彼女の呼び声に応えるように黄金の光を纏った。どこからか手元に、一枚のカードが降り立っていたことにアンナは気づいた。
「これはっ……!?」
カードがデッキへと吸い込まれ、運命の歯車が再び轟音を立てて回り出す。アンナが渾身の力で引きぬいたそのカードは、まるで意思を持っているかのように彼女の掌で拍動していた。
「ああ、なるほど!」
黄金の光を放つカードが、列車から戦艦へとその絵柄を変え、彼女の手に舞い降りる。アンナはそのカードの正体を直感した。
「師匠の教え……今の俺に必要なのはあらゆる絶望を撥ね退ける、不沈の戦艦だ!!」
これまで彼女が愛してきた重厚な列車の枠を超え、深淵なる絶望さえも踏み越えて突き進む、未知なる巨兵。
「ドローッ……来た!俺は《ゴブリンドバーグ》を召喚!効果で手札から《無頼特急バトレイン》を特殊召喚だ!《無頼特急バトレイン》の効果で500ダメージを与える!」
空中に飛翔するのは無骨なゴブリンが駆るプロペラ機。そこにぶら下げられるコンテナを濛々しく突き破り、黒煙を吹き上げながら列車が空中から降り立つ。間を置かず、豪音を鳴らしながら列車は目の前の男に向かい衝突する。鋼鉄の咆哮がⅣの胸元を突き上げ、数値が削り取られる。
Ⅳ LP 1300 → 800
「ぐっ、あああああ!!」
衝撃波に身を焼き、Ⅳは激しく後退する。吹き飛ばされそうになる体を必死に支えながら、彼は信じがたいものを見るかのように、目の前の少女を凝視した。
「やってくれたね……」
「いいや、まだまだぁ!行くぜ!《無頼特急バトレイン》と《ゴブリンドバーグ》の二体でオーバーレイ! 現れろ! 《No.27 ――」
空間そのものが鋼鉄の重圧でひび割れ、黄金色に輝く巨大な艦首が、庭園の石畳を粉砕しながら姿を現した。それはもはや地上を走る乗り物ではない。あらゆる絶望という荒波を真っ向から踏み潰すための、鋼鉄の移動要塞。月光を遮るほどの巨体が、Ⅳのフィールドに影を落とす。
「――弩級戦艦-ドレッドノイド》!!」
現れたのは、雷雲鳴る海を切り裂く一隻の戦艦だった。Ⅳはその姿に言葉を失う。喉を震わせ、かろうじて絞り出した声には隠しようのない戦慄が混じっていた。
「……列車のナンバーズだと!? まさか、ナンバーズを隠し持っていたというのか……!?」
「これは列車じゃねぇ、戦艦だ!今、この瞬間に呼び寄せたんだ!こいつをな!」
アンナの瞳に宿る光は、Ⅳの歪んだ狂気とは対照的な、純粋で暴力的なまでの熱だった。艦のエンジンが限界を超えて唸りを上げ、主砲に莫大なエネルギーが充填されていく。その出力は、既存の兵器を遥かに凌駕していた。
「行くぜ、バトルだ! 《弩級戦艦-ドレッドノイド》で、《ヘブンズ-ストリングス》を攻撃!!」
《No.27 弩級戦艦-ドレッドノイド》ATK 2200 vs 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》ATK 2000
ドレッドノイドの巨躯が、物理的な重みをもって人形の絶対領域を侵食する。弩級の主砲が咆哮を上げ、絶望の象徴を正面から粉砕する。ナンバーズの絶対防御をも貫く、純粋な質量の勝利。銀色の破片が夜空に舞い、狂気の旋律が断ち切られた。
「……なっ、俺のナンバーズが二度も粉砕されるだと!?認めねぇ、認めんぞォォォ!!」
Ⅳの屈辱に満ちた絶叫が庭園に木霊する。整えられた髪は乱れ、エリートの誇りが粉々に砕け散った。しかし、アンナはさらにその先、真なる勝利の頂を見据えていた。
「ハァ……ハァ……まだだ、まだ終わってねぇぞ!」
「往生際が悪いんだよォ! 罠カード、《ギミック・ボックス》発動! その戦闘ダメージを攻撃力にして特殊召喚! ダメージは無効だ!」
Ⅳの足元に、不気味な歯車を撒き散らす鉄の箱が出現した。ドレッドノイドの一撃がもたらすはずだった衝撃をその内に飲み込み、Ⅳのライフを守り抜く。彼は歪んだ笑みを取り戻し、勝ち誇ったように叫んだ。
「さぁ、どうする!? もうバトルできるモンスターはいないっ、つまりお前の負けなんだよ! 悔しいか、悔しいだろうなぁ! 最高のファンサービスを受け損ねた気分はよォ!!」
Ⅳの顔からは血走った執念がどす黒い歓喜となって爛々と輝き、吊り上がった口角からは、獲物をなぶり殺しにする瞬間の、耐えがたいほどの昂揚が漏れ出している。
「……いいや、ちっとも悔しくなんてねぇ!」
だが、対するアンナは、硝煙の立ち込める中、驚くほど静謐な面持ちで立っていた。煤に汚れた頬とは対照的にその瞳は深く、一点の曇りもない。それは敗北を待つ者の色ではなく、獲物の急所を完全に見定めた猛禽のごとき鋭さ。
「なん……だと……!?」
代わりに唇に微かに浮かんだのは、冷徹で不敵な笑みだった。そのアンナの笑みに、Ⅳの顔が再び驚愕に引きつる。
「《ドレッドノイド》の効果発動!相手のモンスターを戦闘破壊したとき、ランク10以上の機械族エクシーズモンスターを重ねて召喚できる!」
アンナは魂の底から吠えた。それは勝利への凱歌であり、彼女のすべてをかけた叫びだった。ドレッドノイドの甲板が展開し、相棒を呼び戻すための輝かしいゲートが開く。
「俺はランク4の《No.27 弩級戦艦-ドレッドノイド》でオーバーレイ!」
戦艦が凄まじい音を立てて変形を遂げる。その様子にもはや、アンナは勝利を確信していた。
「エクシーズ召喚、現れろ!《超弩級砲塔列車グスタフ・マックス》!!」
黄金の光を纏った巨砲が、勝利の化身として戦場へと再臨する。戦艦の剛性と列車の破壊力が融合し、究極の兵器が完成した。
「これで最後だァァァ!!! ビッグ・キャノン、発射ァァァァァ!!!」
アンナの叫びと同期し、巨大な砲身が一点の迷いもなくⅣを捉えた。
「……お見事、だよ……やるじゃあないか……あは、はははは!!!」
Ⅳは逃げようともせず、その壊滅的な光の中に美しさすら見出したのか、満足げな、しかし狂った笑みを浮かべた。至近距離から放たれた極太のエネルギー奔流が、狂気に憑かれたチャンピオンの体を夜の闇へと、そして完全なる敗北の彼方へと吹き飛ばした。後に残ったのは、焦げ付いた大地と、勝利を掴んだ少女の荒い吐息だけだった。
Ⅳ LP 800 → 0
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グスタフ・マックスの放った閃光が収まると、庭園は静寂に包まれた。ARビジョンが下りると同時にアンナは荒い息を吐いていた。超常的な光が霧散し、彼女の全身を襲っていた重圧は消えたが極限まで張り詰めていた緊張と疲労が、泥のように彼女の体を蝕んでいた。
ナンバーズの出現と再臨、そして完全なるナンバーズの粉砕。その常識外れの超常現象を目の当たりにした放心と、勝利の感触が、アンナの脳内で複雑に絡み合う。煙が完全に晴れるのを待たず、アンナは瓦礫の山へと視線を向けた。爆心の中心、ナンバーズが粉砕され彼が吹き飛ばされたその場所だ。
「お……おーい?大丈夫か……ひっ!?」
そこから、低く、湿った音が聞こえてきた。
立ち昇る煙の中から、Ⅳが這い出てくる。端正だった顔は歪んで汚れ、エリートの誇りなど微塵も感じられない。だが、その瞳だけは爆撃の炎さえも上回るほどの、狂気に満ちた悦楽で輝いていた。
「……あはは……。あはははは!!!」
彼は石畳を這いながら、喉の奥から這い出すような乾いた笑声を上げた。敗北の屈辱。自らが駆るナンバーズを二度も粉砕された屈辱。だが、それこそが、彼をさらなる深淵へと誘う、最高の娯楽であったかのように。彼は泥にまみれた顔を上げ、不気味に歪んだ笑みを浮かべて、放心するアンナを睨みつけた。
「素晴らしい……。実に素晴らしいデュエルだったよ。私のナンバーズを二度も、しかも、新たなナンバーズを呼び寄せて粉砕するとはねえ!!」
彼は石畳に爪を立て、己の体を這わせながら、呪うように、しかし陶酔したかのように言葉を紡ぐ。
「負けることが、これほどまでに愉悦に満ちているとはね……私のファンサービスを、これほどまでに美しく踏み潰してくれた君に……感謝しよう!!」
彼はニヤリと、唇を血で染めながら、醜悪な悦楽を剥き出しにした。
「だが、これで終わったなどとは思わないことだ。君という存在がいるならば、君の師匠の赤司寿はさらに素晴らしい存在なのだろうね……!」
彼は瓦礫の上に己の体を預け、月光を浴びながら、アンナを深淵の底から見つめる。
「……次に会うときは、君のそのナンバーズごと、もっと深い絶望へと沈めてあげるよ……次は、もっと素晴らしいファンサービスを約束しよう……!」
彼は狂喜の笑みを浮かべたまま、己の体を庭園の深い闇へと這わせ、溶け込むように姿を消した。そこに置いてあったはずの出前の品物は消え失せ、代わりに代金が置いてあった。大地に刻まれたⅣの血と笑声だけが、夜の静寂の中に、不吉な予兆としていつまでも残っていた。アンナは、彼が消えた闇をいつまでも睨み続け、その背中には、勝利の歓喜とは異なる、不気味な戦慄が張り付いていた。
「なんなんだ……あの野郎……!?」
ちなみにこの時点の原作でももう一体の機械族ランク10Xモンスターがいたりします。アンナが強奪でもしない限り登場はしませんが。