軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
前半は遊馬視点、後半は寿視点でお送りします。
デュエルコースターのルール:
表側守備表示での召喚可能
メインフェイズ、バトルフェイズともに共有。ただし、一度攻撃宣言を行った場合相手のアクションが無い限り動けない
乱入可能(ペナルティ無し)
罠カードは伏せてから相手のドローが行われるまで発動できない
レーンを移動することにより、モンスターの攻撃を回避可能
縦列、横列を共有しない
こんなところですかね。遅れた理由の9割がこれです。
九十九遊馬は、今非常に焦っていた。
何に焦っていて、何故焦っているのかは言うまでもない。
「ハートピースを……忘れちまったぁ!!」
声にならない悲鳴が、コックピットに虚しく響く。
そう、彼は今、念願だったWDC決勝の舞台である、デュエルコースターのシートにしっかりと乗り込んでいる。そこまではいい。そこまでは完璧だったのだ。だが、コースターを起動させるために必要な、そして何より彼が激戦の予選を勝ち抜いた証である肝心のキーアイテム――ハートピースを、あろうことか忘れてきてしまったのだ。
『デュエルコースター……ファイアーーーッ!』
無情にも、Mr.ハートランドのテンションの高い掛け声が巨大なスタジアムの隅々まで響き渡った。ズドォォォン!!という、鼓膜を劈くような爆風のような轟音が鳴り響く。遊馬が呆然と見送る中、周りのレーンに並んでいたライバルたちのコースターが一瞬にして凄まじい推進力で弾き出され、モーター音と強烈な風圧だけを残して、遥か彼方の空へと消え去ってしまった。
デュエルコースターが動かないということは、ただの鉄の塊に座っているだけだ。それはつまり、デュエルの舞台にすら立てない、すなわち開始早々の棄権を意味するに等しい。
「ああ、行っちまった……」
完全に取り残され、静寂に包まれたスターティンググリッドで、遊馬は一人、シートに深く沈み込みながらガックリと肩を落とした。夢にまで見た決勝の舞台。強敵たちとの熱い決闘。それが、戦いは、始まる前に終わっていたのだ……。いや、まだそう言い切るには早い。
何せ、幸いなことに主催者のMr.ハートランドは、彼がリタイアを宣言したわけではないためか、彼のスタートを寛大にも待ってくれている。それに、遊馬自身の口から「諦める」という言葉もまだ放たれていない。
まだ彼は諦めていなかった。そう、彼には他の誰にも負けない強力な繋がり、仲間という強固な絆があるのだ。
ピロリロリン!
突如、静まり返ったコックピットに、遊馬のDゲイザーからの電子的な着信音が鳴り響いた。
『遊馬! ハートピース、明里さんが届けてくれるって!』
「小鳥!?」
通信ウィンドウに映し出されたのは、息を弾ませ、顔を紅潮させた幼馴染の姿だった。その背景は流れており、彼女もまた急いで移動していることが伺える。
『今、明里さんがスタジアムに向かってバイクを飛ばしてるわ! 私たちがリレーして届けるから、あなたはそこから絶対に動かず座ってなさい!』
「うう、ありがとう~! 助かったぜ!」
地獄に仏とはこのことだ。遊馬の目に涙が浮かぶ。
『安心するのが早いわよ!もう遊馬、本当にしっかりしなさいよね!』
小鳥の呆れたような、それでいて力強い叱咤激励の言葉に、遊馬の絶望に染まりかけていた顔に、パッと眩しい希望の光が差した。
その直後、スタジアムの巨大なゲートに、甲高い排気音が鳴り響いた。姉の明里が乗るバイクが、猛烈な勢いでテールを滑らせながら滑り込んできたのだ。彼女の手には、遊馬が忘れたピンク色に輝くハートピースがしっかりと握られている。だが、入り口から遊馬の待つコースターのレーンまでは、あまりにも距離がありすぎた。バイクで乗り入れることは物理的に不可能だ。
「これを遊馬に!委員長くん、任せたわよ!」
明里がバイクのシートから立ち上がり、力いっぱい投げたハートピースが、空気を裂いてスタジアムの中へと飛んでいく。
「は、はいっ! 鉄男君、お願いしますよ!」
階段の中腹で待ち構えていた委員長が、運動神経の無さをカバーするように焦りながらも両手でしっかりとキャッチ。そのままの勢いで、バランスを崩しながらも少し上の階層に立つ親友へとパスを回す。
「おうっ! 徳之助、任せたぜ!」
鉄男がガッチリと受け止め、力強いスローイングで小柄な少年へと綺麗な放物線を描いて投げ渡す。
「キャッシー、受け取るウラ!」
徳之助が口癖と共に独特のステップで反動をつけ、さらに上の観客席の階段を駆け上がる少女へとトスを上げる。
「キャット、ナイスパス!小鳥、受け取るのよ!」
キャッシーがしなやかな猫のような動きで空中のピースを掴み取る。そして、コースターのレーンへと続くキャットウォークの入り口近くに陣取っていた最後のアンカーへと向かって、渾身の力で投げ放った。
「受け取ったわ、キャッシー! 遊馬、待ってなさいよ!?」
スタジアム中を巻き込んだ、仲間たちによる決死の大リレー。全員の想いと汗が繋がった結晶をしっかりと両手で受け止めると、小鳥は一目散に、遊馬の待つコースターへと向かって、迷宮のように入り組んだ鉄骨のキャットウォークを全力で駆け出していった。
激しい足音をカンカンと響かせながら、小鳥は猛ダッシュしていた。視線の先にあるのは、ただ一台、スタートラインに取り残された遊馬の赤いカートだけだ。
「小鳥! 無茶すんな、危ねぇって!」
コックピットから身を乗り出した遊馬が、ちぎれんばかりに手を振りながら叫ぶ。高い場所での全力疾走は危険極まりない。その声に応えるように、小鳥は最後の急な階段を飛び降りるようにして、スターティンググリッドのすぐ脇にある狭い足場へと滑り込んだ。肩を激しく上下させ、額には大粒の汗がキラキラと光っている。
「遊馬! これ……っ!」
小鳥は大きく息を吸い込むと、みんなの想いが詰まったピンク色の結晶を、遊馬の胸元めがけて思い切り投げつけた。
「おうっ! サンキュー、みんな、小鳥!」
きれいな放物線を描いて飛んできたハートピースを、遊馬は上半身を器用にひねりながら、見事に両手でキャッチした。手のひらに残る、走ってきたみんなの熱量。それをじっくりと確かめる暇もなく、遊馬はダッシュボードの中央にあるスロットへと、ハートピースを力任せに叩き込んだ。
ガチリ、と小気味いい金属音がスタジアムの静寂を破る。
その瞬間、それまで死んだように静まり返っていたコックピットのモニターが一斉に輝きを取り戻し、「READY?」と文字が激しく点滅を始めた。
『認証完了!九十九遊馬選手、遅れてエントリー完了ですぞ!』
Mr.ハートランドの軽快なアナウンスがスピーカーから鳴り響くと同時に、カートの底から地響きのような駆動音が巻き起こる。背中の巨大なエンジンが凄まじい熱量を持って唸りを上げ、車体全体が微振動を始めた。
「よっしゃあ! 待たせやがって! かっとビングだ、俺ーーーっ!!」
遊馬が拳を天高く突き上げて歓喜の声を上げる。これで戦える。しかし、安堵したのも束の間、すぐ横から緊迫した声が上がった。
「ちょっと遊馬! 起動したのはいいけど、私まだ降りてな――」
小鳥がカートのフチから手を離し、安全な足場へと完全に戻ろうとした、まさにその瞬間だった。遅れてスタートする選手への猶予など、このデュエルコースターの自動発進プログラムには存在しなかった。情け容赦ない機械のシステムは、エントリーの完了と同時に次のシーケンスを強行したのだ。
「GO!」
ドンッ!!!
シートを通じて背中をハンマーで強打されるような、強烈な加速Gが二人を襲った。ガシャンと音を立てて車体を固定していたブレーキが解除され、遊馬のカートはまるで弾丸のように猛烈な勢いで前方に弾き飛ばされる。
「きゃああああああああっ!?」
一瞬にして足場を失った小鳥は、重力に逆らうようにして、狭い車内へと派手に転がり込んできた。
凄まじい風圧が容赦なく二人の顔を叩き、スタジアムの景色が目まぐるしい速度で後ろへと流れていく。カートは地上から垂直に近い急勾配のレールを一気に駆け上がり、スタジアムの天井を抜けて、真っ暗な夜空が広がる上空へと突き進んでいく。
「うわああっ! 小鳥、なんで乗ってんだよ!?」
「私が聞きたいわよーーーっ!! 止めて、早く止めて遊馬!!」
小鳥は恐怖に顔を歪ませながら、遊馬のジャケットの裾をちぎれんばかりの力で引っ張った。時速何十キロ、あるいはそれ以上の速度で激しく左右に揺れるカートの中で、一般人の彼女が受けた衝撃と恐怖は計り知れない。振り落とされまいと必死にしがみつく。
「止めろって言われても、これ自動運転だから俺のハンドルじゃ止まんねぇんだよ!」
「そんなのってないじゃないーっ!!」
ガタガタと激しく車体が震え、カーブの度に強烈な横Gが体に襲いかかる。遊馬は片手でハンドルを必死に握り締め、もう片方の手で小鳥がカートから振り落とされないように、その華奢な身体を強引に引き寄せた。
「というか、二人乗りなんて完全にルール違反じゃねーか!? 後で絶対怒られるって!」
「そんな心配、今することじゃないでしょーっ! 前、前見て、遊馬!!」
小鳥の悲鳴のような怒声に促されて前方を見上げれば、そこには複雑怪奇に入り組んだ巨大なレール群が、まるで巨大な怪物の壁のように目の前に迫ってきていた。
すでに先に出発した他のファイナリストたちの姿は遥か先だ。遠くの空中レールからは、激しい火花やデュエルのモンスターが放つ爆光が上がっているのが見える。
「……よし、こうなったら覚悟を決めるしかねぇ!」
遊馬は状況を正確に把握するため、そして隣で震える幼馴染と連絡を取り合うため、頭に装着しているDゲイザーの通信スイッチを叩いた。
「小鳥、お前もそのDゲイザーのインカムを使え! 普通に喋ってたら声が風で吹き飛んじまう!」
「え? あ、うんっ!」
小鳥が震える手で自分のDゲイザーを操作すると、ピッと短い電子音が鳴って二人の通信がリンクした。途端に耳元へクリアな声が届くようになり、鼓膜を劈いていた暴風の轟音がほんの少しだけ遠のく。
『聞こえる、遊馬!?』
『おう、バッチリだ! 画面に何かマップとか映ってねぇか!?』
『待って……今データを読み込んでる。……あ、出た! これ、大会の全体ルートマップだよ!』
小鳥は視界に展開された拡張現実のシステムウィンドウを凝視しながら、必死に指を動かす。暗闇の空中に浮かび上がる複雑怪奇な3Dマップの全容に、彼女は思わず息を呑んだ。
『先行してるみんなはどこだ!?』
『ええっと、22台のカートがいろんなレーンに分かれて走ってる。ランプが重なってる部分も多いわ、やっぱりもうみんなデュエルしてるのよ!』
『よっしゃあ!みんなに追いついてやるぜ!』
出遅れた焦りを振り払うように、遊馬は力強く手元のレバーを押し込む。エンジンが唸りを上げ、青空を貫くレールの上を猛スピードで駆け抜けていく。
『あれ?これは……』
片隅で明滅する小さなアイコンに気づき、小鳥が不思議そうな声を上げた。
『どうしたんだ?』
『カードが設置されているポイントもあるみたい、ライフの回復とかに役立つかもね!』
『そんなのもあるのか!それはどこにあるんだ?』
『もう目の前のはずだけど……って』
視界の先、レール上にふわりと浮かび上がるカードのホログラム。安堵の息をつこうとした小鳥の顔から、一瞬にして血の気が引いた。カードの枠が、予想していた緑ではなく、禍々しい赤紫色だったからだ。
「「えぇーっ!?」」
無情な警告音がコックピットに鳴り響く。
《仕込みマシンガン》
相手の手札・フィールドのカードの数×200ダメージを相手に与える。
デュエル開始直後、遊馬の手札は当然初期の枚数すなわち5枚だ。回避する術もないまま、1000ダメージの直撃を食らってしまう。
「うわぁーっ!」
無数の銃弾の雨が衝撃となってカートに降り注ぎ、車体が悲鳴を上げる。
遊馬 LP 4000 → 3000
『小鳥!罠だったじゃねぇかよ!』
『ごめん……って、それより大変、遊馬!』
衝撃から立ち直る間もなく、小鳥の通信の声が恐怖で一気に跳ね上がった。Dゲイザーの視界の中で、いくつかの不気味な赤い光点が、俺たちの走るレーンの先で待ち構えるように交差しているのが可視化される。
『何かが左右後ろから近づいてきてる!3台いるわ!』
『ゲッ、もう接敵かよ!?』
バックミラーの映像を確認するまでもなく、前方から不穏なエンジン音が近づいてくる。このレースの中で、明確な悪意を持った3つの影が、遅れてやってきた遊馬たちのカートを確実にハサミにかけようとしていた。
複雑に分岐した空中レールが一本に合流するポイントに差し掛かったその時、左右のレーンから凄まじいモーター音を響かせて、3台のカートが強引に割り込んできた。
ガガガガッ! と火花を散らしながら、遊馬のカートを前後左右から完全に包囲するように距離を詰めてくる。逃げ場はどこにもない。
「うわあああっ!? なに、なんなのあいつら!?」
小鳥が悲鳴を上げ、遠心力に耐えながらコースターのレバーに必死にしがみつく。
遮るようにして前に躍り出たカートのコックピットには、いずれも不気味な笑みを浮かべ、お揃いのボディスーツに身を包んだ男たちが乗っていた。その鋭い眼光は、ただのお祭り騒ぎを楽しみに来たデュエリストのそれではない。完全に獲物を狙うハイエナの目をしている。
「おいおい、見ろよ。ずいぶんと遅れてやってきたカモがいると思えば、九十九遊馬じゃねぇか」
中央を走る大柄な男――ウルフが、Dゲイザーの奥の目をギラつかせながら、通信回線越しに低く下劣な笑い声を響かせた。
「しかも女の子連れだ。お熱いこったねぇ! 死出の旅の道連れにはちょうどいいか!」
左右に並走するジャッカルとコヨーテも、クスクスと品性のない笑いを漏らす。剥き出しの敵意と殺意が、レールを吹き抜ける極寒の突風よりも冷たく遊馬の肌を刺した。
「お前ら、誰だ!?」
遊馬はハンドルを片手でしっかりと固定し、怯むことなく迫り来る3台を睨みつけた。
「オレたちはフォール・ガイズ! お前みたいな目障りな決闘者をスクラップにするよう命じられたプロさ。決勝の華々しい舞台で、九十九遊馬、お前の泥臭い決闘は不要なんだよ!」
「ねぇ、遊馬!あの人たち、本気だよ!?」
風圧と恐怖にガタガタと震えながらも、小鳥は遊馬の邪魔にならないよう、必死に座席で身を縮めて叫んだ。遊馬は隣で怯える幼馴染を庇うように、鋭い視線を男たちへと向ける。
「だったら、俺も本気で応えるだけだ!いくぜ!」
遊馬は覚悟を決める。向かい風にカードが飛ばされそうになるのを、指先にありったけの力を込めてホールドした。彼らの間に、もはや言葉は不要だった。
「「「「デュエル!!!!」」」」
四基のデュエルディスクが連動し、空に巨大なライフカウンターが浮かび上がった。
遊馬 LP 3000/ウルフ LP 4000/ジャッカル LP 4000/コヨーテ LP 4000
「俺の先攻だ、ドロー!えっ!?」
遊馬がデッキからカードを引き抜こうとしたその刹那、ルールを無視するような異常な速度で、隣を走るジャッカルがスロットへ強引にカードを叩き込んだ。
「トロいんだよぉ!《磁石の円盤》、九十九遊馬に直接攻撃しろっ!」
レール上に出現した鉄塊――巨大な円盤状のモンスターが、唸りを上げて容赦なく遊馬のカートへと突撃してくる。遊馬は咄嗟に手札からモンスターを実体化させた。
「いきなりかよ!俺は《ガガガカイザー》を召喚!迎え撃て、ガガガカイザーっ!」
荒風を切り裂き、大剣を構えた屈強な戦士がカートの前に立ちはだかり、迫り来る鉄塊を一刀両断に斬り伏せる。
《ガガガカイザー》ATK 1800 vs 《磁石の円盤》ATK 1400
ジャッカル LP 4000 → 3600
ジャッカルのライフがわずかに削れるが、彼の顔に焦りの色は全くなかった。それどころか、狡猾な笑みがその口元を歪ませる。
「ちっ……不意打ち失敗か」
「いきなり何するんだ!」
「このデュエルコースターはフェイズ共有!効果を共有することも、可能だ!」
なんだと!?遊馬はその荒唐無稽なルールに一瞬戸惑うが、今はデュエル中。そういうことなのだと納得しておくことにしておく。
「よく見ておけ、九十九遊馬!《磁石の円盤》はフィールド上の磁石と名の付くモンスターが破壊されたとき、そのターンの終了時まで、残った磁石の攻撃力は400アップする!」
「だが、お前の他にモンスターはいねぇぞ!」
遊馬が負けじと叫び返すが、ジャッカルは鼻で嗤った。
「そりゃどうかな?周りを見てみるんだな!」
「周り……えっ!?」
遊馬がハッとして左右を見やる。並走するウルフとコヨーテのレーンにはそれぞれ、挟み撃ちにするようにモンスターが配置されていた。直後、残された磁石モンスターたちの体が、禍々しい紫色の輝きを放ち始める。
「《磁石の円盤》の効果で、俺の場にいるもう一体の《磁石の円盤》の攻撃力と……」
「《磁石の荒鷲Δ》の攻撃力は400アップする!」
《磁石の円盤》ATK 1400 → 1800
《磁石の荒鷲Δ》ATK 1200 → 1600
共鳴するように急上昇する攻撃力。プロの連携が牙を剥く。
「ヒャッハー!九十九遊馬、年貢の納め時だァ!《磁石の円盤》で《ガガガカイザー》を攻撃だァ!」
《磁石の円盤》ATK 1800 vs 《ガガガカイザー》ATK 1800
破壊の衝撃を吸収したかのように、攻撃力が跳ね上がる。そのまま勢いを増した二体目の円盤がガガガカイザーへと突撃し、激しい爆発とともにもつれ合うように相打ちとなって消滅してしまう。
「ああっ、俺のモンスターが!」
「それだけじゃねぇ! さらに《磁石の円盤》が破壊されたことでオレの《磁石の荒鷲Δ》の攻撃力はさらに上昇する!」
《磁石の荒鷲Δ》ATK 1600 → 2000
「攻撃力2000だ! いけ、イーグル・デルタ! あの生意気なガキに直接攻撃!」
遊馬 LP 3000 → 1000
上空から猛スピードで滑空してきた鋼鉄の荒鷲が、遊馬のカートに鋭い爪を立てた。
「きゃあああっ!」
小鳥が悲鳴を上げて俺の背中にしがみつく。激しい衝撃とともにカートが大きくスピンしかけ、空間に表示された俺のライフが一気に削り取られていく。視界が真っ赤なアラートで染まった。
「うわあああああッ!?」
「あははは! ざまあみろ!まだまだオレたちのターンだぜ!」
ウルフの左右にぴったりと並走するジャッカルとコヨーテが、ここぞとばかりにコンビネーション抜群の動きで、さらに2体のモンスターがレール上に召喚される。
「オレは《磁石の大猿Ε》を召喚!九十九遊馬に止めを刺せ!」
「ならオレは《磁石の鱗獣Ζ》を召喚だ!お前もあいつに引導を渡してやれ!」
咆哮を上げる巨大な猿と、鋭い牙を剥く大トカゲ。瞬く間に俺のカートは、3体の獰猛なマグネットモンスターによって完全に包囲されてしまった。残されたライフはわずか1000。次の攻撃を喰らえば、その時点で俺の決勝大会は終わる。絶望的な状況下で、俺は必死に活路を見出そうとカードをスロットに叩きつけた。
「……こうなったら耐え抜くしかねぇ!俺は《ゴゴゴゴーレム》を表側守備表示で召喚!」
「今更そいつが出てきたところで遅ェ!そのままその泥人形を叩き潰せ!」
《磁石の大猿Ε》ATK 1600 vs 《ゴゴゴゴーレム》DEF 1500
大猿の重い拳が、頼れる岩石の巨兵へと振り下ろされる。凄まじい衝撃波が走るが、ゴーレムは辛うじてその形を保っていた。
「《ゴゴゴゴーレム》は一ターンに一度だけ、守備表示なら戦闘破壊されない!」
「ハッ、そんな泥人形一枚でオレたちの猛攻を防げると思ったか!《磁石の鱗獣Ζ》は既に、攻撃を開始しているッ!」
《磁石の鱗獣Ζ》ATK 1700 vs 《ゴゴゴゴーレム》DEF 1500
フォール・ガイズの容赦ない一斉攻撃がゴゴゴゴーレムを襲う。いくら頑強な岩石の身体を持っていようとも、2体のモンスターによる連撃には耐えきれず、ゴゴゴゴーレムは凄まじい爆音と共に粉々に砕け散ってしまった。破片が容赦なくカートを打ち付ける。
「守備モンスターは消えた! これで終わりだ、九十九遊馬!《磁石の荒鷲Δ》で、今度こそ息の根を止めてやるぜーーーっ!!」
レールの先から、ふたたび鋼鉄の鷲が俺たちめがけて牙を剥いて突っ込んでくる。遮る盾は何もない。俺の背中では小鳥が震えている。
「くそっ……!ここまでかよ……っ!」
俺は小鳥を庇うように両腕を突き出し、思わず目を瞑った。
その瞬間だった。
ドドドドドパァァァン!!!
「ーーーッ!? なんだ!?」
「遊馬は俺の獲物だ!俺のターゲットをセコいチームプレイでいじめてんじゃねぇ!」
頭上から、デュエルコースターの駆動音とは明らかに違う、鼓膜を突き破らんばかりのド派手な爆音が響き渡った。目を開けると、俺たちの頭上を走る別レーンのレールから、巨大な、本当に信じられないくらい巨大な列車の形をしたモンスターが、ものすごい火花を散らしながらこちらのレールへと強引に飛び降りてくるのが見えた。
「あ、あの声は……!」
「嘘、アンナちゃん!?」
小鳥が驚愕の声を上げる。炎と煙を切り裂いて現れたのは、巨大なバズーカを背負った、見慣れた少女だった。
「いけえええ!《爆走特急ロケット・アロー》で突撃ぃぃぃ!!」
超重量の鉄塊が、遊馬たちを襲おうとしていた磁石の荒鷲を正面から木っ端微塵に粉砕し、その圧倒的な余波がウルフのカートを吹き飛ばさんばかりに襲いかかる。
《爆走特急ロケット・アロー》ATK 5000 vs《磁石の荒鷲Δ》ATK 1200
ウルフ LP 4000 → 200
「ぐああああっ!邪魔者が入ってきやがったか!」
衝撃で大きく体勢を崩したウルフが、忌々しげに悪態をつく。遊馬は頭上の巨大モンスターと、それを操る少女を見上げて叫んだ。
「アンナ!お前WDCに参加していないんじゃなかったのかよ!?」
「細かいことは気にすんな!男だろ?」
アンナはいつも通りの乱暴な口調で、強気に言い放つ。
「だとしても、何で遊馬を……」
小鳥の素朴な疑問に、アンナはふっと気まずそうに視線を逸らした。
「……言わせんなよ」
「「え?」」
遊馬と小鳥の声が重なる。すると、アンナは途端に顔を真っ赤にし、そっぽを向いたままぶっきらぼうにつぶやいた。
「その……遊馬を助けたかったから……」
「……お前が……俺を?」
予想外の言葉に、遊馬は思わず間抜けな声を漏らしてしまう。その態度がさらに火をつけたのか、アンナは身を乗り出して怒鳴り散らした。
「か、勘違いすんな!師匠に言われたからそうしただけだ!お前なんてすぐに倒せるんだからな!」
「寿が?でも、助けられたのは事実だろ?ありがとうな、アンナ!」
満面の笑みで真っ直ぐにお礼を言う俺のその言葉に、アンナはもう完全にキャパシティをオーバーし、赤面することしかできなかった。しかし、敵の包囲網が完全に破られたわけではない。アンナの乱入によって戦況は混沌を極め、レースの行方はより予測不能な渦へと巻き込まれていく。
デュエルはまだ終わらない。
###
一方、その頃の寿は……。
果てしなく続く無機質なレールの上で、ただ一人、虚しく風を切る音だけを聞いていた。眼下に広がるハートランドシティの光景は美しいが、熱狂的な決勝戦の舞台にあって、この静寂はあまりにも不気味だった。
「……マジで接敵しねぇな、カード設置ポイントも大抵取られちまったし……」
寿の手には既に5枚のカードが握られていたが、未だにフィールドに出ることを知らない。デュエルディスクのスロットに指をかけたまま、宛てのない疾走を続ける退屈と焦燥感が、彼の中にじわじわと募っていく。
「マップでも見るか……」
どうせ代わり映えもせずに、果てしなく伸びるレールだけが映し出されるだろうし……。そう高を括りながら、気休め程度にDゲイザーの視界に全体マップを展開した。
「……ん?」
だがその予測は瞬時に覆されることになる。背後から、信じられないほどの猛スピードで迫ってくる赤い光点が、レーダー上でけたたましく明滅を始めたからだ。
「えっ!?」
驚きと同時に寿は振り返る。来ている。それも、ただの光点ではなく、目視ではっきりと車体のシルエットが確認できるほどの至近距離まで迫っていた。
「赤司、寿ィィッ!」
轟音を切り裂くような、腹の底から絞り出された殺意のこもった怒号。誰だお前は!? 危機を本能で察知した寿は、全身の毛穴が粟立つのを感じながら、手元のアクセルレバーを焦って限界まで押し込み、コースターを急加速させる。
「おい、逃げるなァァァ!!」
後方から放たれる凄まじいプレッシャーと執念のオーラに、恐怖すら感じる。エンジンの回転数が限界を迎え、車体が悲鳴を上げる。
「誰だよお前は!?俺に何の用事だ!?」
「……お前に名乗る名など無い!」
「ならなぜ俺に執着するのか聞かせてもらおうか!」
「俺は以前、お前にデュエルを申し込んだ者だ!今その誓い、果たしてもらうぞ!」
はぁ?寿は猛烈な向かい風を顔面に浴びながら、混乱する頭で必死に記憶の糸をたぐり寄せた。
「お前、ハートランドの広場にいた奴か?」
ハートピースを集めるため、彼は予選の時広場に足を運んでかなりの回数、デュエルをしていた。結果はナンバーズを一枚ゲットしたくらいで期待したほどではなかったが、その内の一人だったのだろうか?
「違う!俺は……お前に……」
いや、そうだとしたら変だ。何せ彼は申し込まれたデュエルは時間が許す限りしていたし、親父からの連絡があった時には既に手が空いていた。だからこそ、今並走し、血走った目でこちらを睨みつけている男の真意が全く測れない。
「以前、お前が出前中に俺がデュエルしろと言っただろう!覚えていないのか!?」
「えっ?」
出前……デュエルを申し込まれた……。その突拍子もないキーワードに、脳内のパズルがカチリとはまり、一気に記憶の扉が開いた。
「予選初日だったりするか?」
「その通り!思い出したようだな!」
思い出した。WDC予選初日。大瀬戸健三郎とのデュエルを終えた後、寿は出前の配達を急ぐために、立ち塞がったデュエリストを完全にスルーして駆け抜けていたのだ。まさか、あの時の男か。
「予選大会規範の一つ!申し込まれたデュエルは、断ってはならない!そうだ、今こそ、俺とデュエルしろ、赤司寿!」
「ああ、分かった!デュエルしてやるよ!」
呆れつつも、寿の口元には自然と好戦的な笑みが浮かんでいた。まさか、予選の一瞬のすれ違いをここまで根に持ち、執念だけで決勝まで勝ち残ってくるとは。それにこの荒々しくも芯のある威勢。相当自分のデュエルに自信があると見た。
「俺の名前は黒咲鷹翔(くろさき たかと)!お前をコースターから打ち落とし、地へ落とす者だ!」
「言ってくれる!行くぜ!」
互いの闘志が激突し、デュエルディスクの起動システムが作動しようとした、まさにその瞬間だった。
「「デュエ」」「おーっと、君たち、お熱い所悪いけど割り込ませてもらうよ!」
!?
突如、鼓膜を劈くような甲高いモーター音と共に、別レーンからまた別のカートが強引に割り込んできた。火花が飛び散り、俺と黒咲のカートが横に追いやられる。
「ひゃーっひゃっひゃ、その目つきの悪い君。僕と手を組んでその寿司野郎をぶっ倒してみないか?」
「おい待て、人のデュエルに割って入ってそれはないだろ。お前は誰だ?」
コックピットで尊大に胸を張り、見下すような視線を送ってくる少年に、寿は不快感も露わに眉をひそめる。
「僕ゥ……?僕の名前を態々この僕に直接聞くか!?世界王者にもなったこの僕を!?」
世界王者?
「だけど、聞かれたら名乗るしかないなァ!僕の名前は、インゼクター飛蛾(ひが)!」
めちゃくちゃ聞き覚えのありそうだけど全く無い名前だった。視線を横にしてみれば、黒咲は困惑と警戒の入り混じった顔で、必死に記憶を探っている様子だった。
「黒咲、あいつのことを知っているのか?」
「……ああ、思い出した。インゼクター飛蛾、記憶が正しければ確かに世界王者だ。ジュニアユース部門の世界大会で優勝した記事を読んだことがある」
「そうだ!君、中々見どころのあるじゃないか!僕のデュエルの手助けをするチャンスをやろう、僕と手を組むんだ!」
傲慢な態度で鼻を鳴らし、まるでチェスの駒でも扱うかのように上から目線で指示を出してくる少年に、俺は呆れを隠せなかった。
「ジュニアの癖に中々傲慢なんだな」
「ジュニアだとォ……この僕をォ!料理人風情が舐めるな、お前なんて僕の手にかかればイチコロなんだぞ!」
そういうところがまさにジュニアなんだよ。寿は心の中で深くため息をつき、すぐ隣を走る因縁の相手へと声をかけた。
「おい黒咲、お前、俺を倒したいんだろ?だったら話は早い、俺と手を組んでくれ。ジュニアとは言え世界大会王者というならそれ相応の実力を持っているのだろう。舐めてかかっちゃいけねぇ」
「だが……」
黒咲は苦虫を噛み潰したような顔で悩む様子だ。彼の目的はあくまで俺との一騎打ちによる決着であり、得体の知れない第三者の介入は全くの本意ではないのだろう。
「どうした!?長考タイムか、えェ?世界王者の僕が君に助力する権利をあげているのだから、早く僕の味方になれ!」
「しかし……」
「黒咲、お前なら分かるはずだ。お前があいつの味方についたらお前は直ぐに切り捨てられるぞ」
「そんな奴の言葉など信じるなァ!僕が手を組めといっているんだから、手を組めェ!」
ギャーギャーと癇に障る声で騒ぎ立てる飛蛾を前に、黒咲は深く、重い息を吐き出した。そして、迷いを断ち切るように顔を上げる。
「……分かった、決まったぞ」
「俺は、赤司寿に組もうと思う」
「黒咲!」
その意外な決断に寿が驚きの声を上げると、黒咲は鋭く冷たい眼光を真っ直ぐに俺へと向けて言い放った。
「勘違いするな、目の前のガキが邪魔なだけだ。決着したら俺は即座にお前の敵となる」
「糞が糞が糞がァ!もういい、お前ら二人とも僕がぶっ倒してやる!」
「交渉成立だな、行くぜ!」
激怒して地団駄を踏む飛蛾を他所に、寿と黒咲の視線が交錯する。三つのコースターが激しい火花を散らしてハートランド上空の青空のレールを並走する中、それぞれの思惑が絡み合う奇妙なタッグデュエルの幕が切って落とされた。
「「「デュエル!!!」」」
寿 LP 4000 & 鷹翔 LP 4000/飛蛾 LP 4000
あ、ありのまま書いていて起こったことを話すぜ……俺は、確かに飛蛾を羽蛾の性格そのままにしようとしたのにいつの間にかユーリになっていた……何を言っているのかわからねぇと思うが、俺も分からねぇ……
アンケートが僅差だったので、連戦前提の設定にしてみました。
お楽しみに。