軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
サモンゲートもスッカリ寂しくなって……空っぽになる日も近いんでしょうかね()
「現れよ、《No.89 電脳獣ディアブロシス》!」
コースターが呼応するかのようにさらに加速したことで発した凄まじい風圧の中、激しいデジタルノイズの奥からモンスターが姿を現す。漆黒の電磁波を纏って降臨した異形のナンバーズを見上げ、寿は既知の存在にして同時に未知の脅威に背筋が凍るのを感じる。
「お前、ナンバーズを持っていたのか!?」
あまりに急な加速から安全バーを握る手に思わず力を込めつつ、黒咲に寿は問う。それと同時に、寿は名状しがたいプレッシャーが全身を圧迫するのを感じた。だが、真に驚愕すべきはモンスターのおぞましい姿だけではなかった。
「ウォォォォオォォオオオオッッ!」
黒咲は大きく息を吐きだすと共に、まるで獣かのように絶叫する。ディアブロシスが顕現した瞬間、黒咲の全身にどす黒く邪悪なオーラがまとわりついたのだ。それは明らかに、持ち主の精神を喰らおうとするナンバーズの意志そのものだった。
黒咲は顔を激しく歪め、暴れ狂う邪な空気に抗うように、そして自らの魂を繋ぎ止めるように、腹の底から咆哮を上げた。
「グッ……じゃじゃ馬め!!」
苦悶の汗を額に滲ませ、全身の筋肉を硬直させながらも、黒咲はその鋭い眼光を自身のデュエルディスクに置かれる、一枚のカードへと向ける。彼を支配しようとする闇の力に対し、一歩も引く気配を見せない。
「だが、示したはずだ!貴様は俺に勝てん、挑む度に貴様は永遠に負け続ける!!故に従え、《ディアブロシス》ッッッ!!!」
主の圧倒的な気迫と、勝利への異常なまでの執念が、ナンバーズの狂気を正面からねじ伏せた瞬間だった。黒いオーラは黒咲の体に色濃く残ったままだが、観念したように荒ぶるのを止め、従順に彼の背後へ滞空するようになった。
「……チッ。未だ反逆の意思あり、だがあくまで威嚇し雌伏を選択するか……小賢しい」
己を喰らおうとした力に対し、忌々しげに言い捨てる黒咲。その姿は、常人の理解を遥かに超えた精神力を示しており、狂気すら孕んでいるように見えた。
「おい黒咲、大丈夫なのか!?」
敵でありながら、その異常なまでの精神状態と痛々しい姿に、寿はたまらず声をかけてしまう。デュエルへの集中を乱されるほどの異常事態だった。
「無論だ、我が力の抗いを自分が咎ずして誰が咎める……俺は《ディアブロシス》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを1つ取り除き、お前のEXデッキを確認させてもらうぞ」
だが黒咲は微塵も動じることなく、淡々と効果使用の宣言をする。黒咲の腕が寿へと振り下ろされると、電脳獣の複眼から不気味な赤い走査光が放たれる。ディアブロシスの巨大な赤い複眼から不気味な走査光が放たれ、寿のデュエルディスクにアクセスした。秘匿されているはずのEXデッキの情報が白日の下に晒され、空中に強制的に投影する。
そのカードの列を一瞥した黒咲の表情に、はっきりとした驚愕が走った。
「何だと!?貴様もナンバーズ使い……それも三体も!」
目の前の相手もまた、呪われたカードを所持しているという事実。しかも三体。黒咲の想定に、大きな狂いが生じる。
「チッ、だが今はそのようなことをしている場合ではない!」
想定外の事態に動揺を見せたものの、黒咲は即座に思考を切り替えた。今ここでナンバーズの所有権を争う意味はない。彼の視線は、眼前に並んだ寿の本来の戦力のみを冷徹に品定めしていた。
「お前のEXデッキから、《弩級戦艦-いくら型一番艦》を裏側表示で除外する!」
黒咲の宣告と共に、空中に浮かんでいた寿の切り札の一つが、細かいピクセル状に分解され始める。真昼の太陽に溶け込むようにして、そのカードは彼方へと完全に消え去る。
「さらにお前のカードが裏側で除外されたことで、《ディアブロシス》の更なる効果が発動!お前のデッキトップ1枚を裏側表示で除外する。俺はこれでターンエンド。寿、お前もナンバーズを持っていたとはな……」
電脳獣が咆哮を上げると、今度は寿のデッキの一番上にあったカードが黒い塵となって吹き飛ばされた。コースターが乱暴にカーブを曲がり、遠心力が二人の体を外側へ引っ張る。その極限の状況下でも、黒咲の纏うオーラはディアブロシスの闇と共鳴し、一層の威圧感を放っていた。
「隠すつもりだったんだけどな、見られちゃどうしようもねぇよ。俺のターン、ドロー!」
寿は前世同様に不快感の高い効果に少し嫌悪感を示しつつ、だがそういう効果なのだから仕方ないと踏ん切りをつけてドローする。
「俺は《ゴブリンドバーグ》を召喚し、効果で手札から《いくらの軍貫》を特殊召喚……」
吹き付ける風に目を細めながらも、手慣れた手つきでモンスターを二体展開した。プロペラ機の駆動音と共に、鮮やかなイクラを乗せた軍艦巻きが青空の下に姿を現す。
「黒咲、お前はなぜナンバーズを操れる?ナンバーズは持っているだけで精神を支配しようとする、あまりに埒外のカード。それを何故お前は平気で持てるんだ?」
しかし、寿の心は己の盤面ではなく、異端の力を平然と使役する黒咲の異常な精神力への戦慄で支配されていた。自身の展開を進めながらも、拭いきれない疑問を口にする。ナンバーズの危険性を知っているからこそ、それを平然と使役する黒咲の存在が異質に感じられたのだ。
「それはこちらのセリフでもあるが、俺の回答は簡単!俺は渇いている、飢えている……!」
「?!」
黒咲の底冷えするような声が、コースターの駆動音を切り裂いて寿の耳に叩きつけられる。その瞳の奥には、常人の理解を絶するほどの執着と、満たされることのない闘争への激しい渇望が、炎のように揺らめいていた。底知れぬ狂気に当てられ、寿は思わず息を呑む。
「俺はデュエルで強さを求めた、だからこのドラゴンらと出会った!」
突如、黒咲が自身のシートベルトのバックルに手をかけ、それを強引に引き剥がした。
「何を……なッ!?」
それに飽き足らず、激しく揺れるコースターの上で彼は両足でしっかりと台上に立ち上がり、後ろへと回って見せる。猛烈な風を真に受け、常人ならば即座に足元を崩して落下するはずの速度にも関わらず。寿は今、自分が見ている奇想天外理解不能としか言いようがない光景と、彼の放つ覇気に圧倒されていた。
「だがそれだけでは満たされない、まるで足りない!!」
正面から吹き付ける暴風が黒咲のコートを激しくはためかせる。しかし、彼の体幹は大地に根を張った大樹のように微動だにしない。彼はただ眼下の寿を見下ろし、己の魂の奥底から絞り出すように叫んだ。
「俺が持ちうる全ての力は高みへと昇るためにこそある、赤司寿!俺は初日、お前のデュエルを目撃した。そのデュエルを遠くから見届けた時、はっきりと分かった。こいつは俗物ではない、まるで違うと!」
黒咲の言葉には、熱に浮かされたような狂信的な響きがあった。強者への渇望、それこそが彼を突き動かす唯一の原動力なのだ。
「故に、俺はお前にデュエルを申し込んだ!しかし、願いは容易く拒否されてしまった……俺はその時、目標ができたのだッ!」
コートが風に煽られ、翼のように激しく羽ばたく。それは彼自身が竜であるかのような感覚すら感じさせる。彼の背後に控える電脳獣と征竜たちの幻影が、主の狂熱に呼応するように唸り声を上げた。
「貴様を打倒してはじめて、俺は更なる境地へと至れる。そう俺の直感は告げた!」
彼にとって、このデュエルは単なる勝敗を競うゲームではない。自身の存在意義を懸けた、文字通りの死闘なのだ。強者である寿を喰らうことで、己を高みへと引き上げようとする異常なまでの執念。
「なればこそ、故に、だからこそ!ナンバーズすら従えてみせよう、猛毒さえ飲み込んでみせよう!俺がお前に勝利するその時まで、その意志は決して揺るがない!」
黒咲の言葉はもはや対話ではなく、己の魂を削り出すような独白だった。
その狂気とも呼べる重い覚悟を正面から受け止め、寿は小さく息を吐き出した。
なぜだろうか、そこに恐れは無かった。彼は黒咲の覇気に圧倒された。だけれど、だからこそ。恐怖よりもむしろ、純粋な決闘者としての共感と高揚感が彼の胸を満たしていくのだ。
「……なるほどな。とんだハラペコボーイだな、黒咲!」
無意識に口角が、不敵な笑みの形に吊り上がった。相手が本気で喰らいついてくるのなら、こちらも喰らいついてやる。全力には全力で応えるまでだ。
「なら付き合ってやるよ、お前の飢えて求めている味を裏切るようなナンバーズでな!俺は《いくらの軍貫》の効果発動!効果でデッキの上から3枚確認する!」
寿がデッキトップに手をかけ、素早くカードを確認する。《うにの軍貫》、《二重召喚》、《鬼神の連撃》。
「……ハズレだ。俺はレベル4の《ゴブリンドバーグ》と《いくらの軍貫》でオーバーレイ!」
寿が腕を掲げると、二体のモンスターが光の粒子となり、フィールドの中心で巨大な銀河の渦を描き始めた。
「現れろ、《No.41 泥睡魔獣バグースカ》!守備表示でエクシーズ召喚!」
光の渦の中から現れたのは、周囲の張り詰めた空気とは全く不釣り合いな、巨大でずんぐりとした悪魔の獣だった。その獣はフィールドに姿を見せるなり、伏せカードの上にどっかりと横たわり、大いびきをかいて眠り始めてしまった。
「この時、《バグースカ》の効果ですべてのモンスターは守備表示になる!俺はこれでターンエンド!」
だがそれでいい、寝るのがこいつの役目。途端に、戦場を覆い尽くしていた熱気と緊迫感が、重く淀んだ怠惰のオーラによって強制的に冷却されていく。黒咲の背後にいたディアブロシスも、その場に力なく伏せさせられた。
「それで終わりか、そんなところがお前の限界高度か?俺のターン、ドロー!《月読命》を召喚!効果を……何!?」
黒咲は呆れ顔と共にカードを引き抜き、和装の神を呼び出す。しかし、現れたモンスターはバグースカから放たれる強烈な眠気の波動に当てられ、武器を落としてその場にへたり込んでしまう。
「効果が……発動しないだと!?しかも何故守備表示になるのだ、俺は攻撃表示で召喚したはず?!」
自身の展開を無力化され、出鼻を挫かれた黒咲の顔に苛立ちの色がはっきりと浮かぶ。
「《バグースカ》は自身が守備表示で存在する限り、フィールドのモンスターは強制的に守備表示になり、守備表示のモンスターが発動した効果は無効化される。一旦休憩だ、黒咲」
そう言うと寿はシートに深く背中を預ける。フィールドのモンスターの全機能を停止させる、極めて厄介なロック。熱狂し、前へ前へと突き進もうとする黒咲の勢いに自分がついていける訳がない。だからこそ、強制的に冷却する。それこそ、彼の勢いを封じ込める的確な一手だった。
「そういうことか……厄介なナンバーズを。俺はカードを1枚伏せてターンエンド」
「俺のターン!スタンバイフェイズ、《バグースカ》の維持コストとしてオーバーレイ・ユニットを1つ取り除く。ドロー……俺はそのままターンエンド」
黒咲は忌々しげに大いびきをかく獣を睨みつけながら、不承不承ターンを渡した。寿もまた、バグースカの維持だけを行い、一切の身動きをとらない。猛スピードで夜空を疾走するコースターの上で、嵐の前の静けさのような奇妙な膠着状態が訪れた。
「俺のターン、ドロー……なるほど、これは時間稼ぎ」
互いに身動きが取れないまま、高速でターンが推移していく。コースターがガタガタと音を立てながら、最高到達点へとゆっくりと登り始めた。
「その通り。《バグースカ》は俺のスタンバイフェイズ毎に一つオーバーレイ・ユニットを食う。できないなら、強制眠気覚まし。お役御免だ」
「すなわち、お前の手札が万全になるか、それとも貪りつくして維持できなくなるほうが早いかの運勝負と言ったところか」
吹き付ける風の中、互いの手札と見えないリソースを正確に計算し合う、高度な探り合いが続く。
「ああ。しかも、だ。お前が仮に手札から効果でモンスターを破壊できる《焔征竜-ブラスター》を持っていたとしても手札コストが無いだろう……コストは炎属性しか対応してないからな。《炎征竜-バーナー》があれば話は別だが、そんなに都合よくペアは揃わないはずだ」
寿の指摘は的を射ていた。バグースカを突破するには盤面外からの除去が必要だが、黒咲のデッキリソースは既に若干だが枯渇しつつある。
「……チッ」
「予想的中らしいな。あと二ターン、付き合ってもらうぜ?」
一時的な優勢を確信した寿が挑発的に告げる。しかし、コースターが頂点を越え、再び急降下を開始した瞬間、黒咲の顔に凶悪な笑みが戻った。
「なるほど。俺がお前を見越すと同時に、お前も俺の魂胆はお見通しという訳だ」
強者を求める男の執念は、そのような単純な計算式で測れるものではなかった。手札を完璧に読まれた屈辱が、逆に彼の闘争心にさらなる火を注いだのだ。
「ならば、こういうのはどうだ!?《バグースカ》によって効果は無効化されるが、発動のコストは払える!俺は《No.89 電脳獣ディアブロシス》の効果発動!最後のオーバーレイユニット、《嵐征竜-テンペスト》を取り除く!」
効果が無効化されていることを逆手に取り、黒咲は電脳獣のオーバーレイ・ユニットを能動的に墓地へと送り込んだ。停滞していた戦術の歯車が、彼の執念によって強引に回され始める。
「《バグースカ》の無効範囲はフィールドのみ、ならばそれ以外のフィールドで回せばいいまで!俺は墓地の《テンペスト》と《瀑征竜-タイダル》を除外し、手札から《焔征竜-ブラスター》を特殊召喚!」
バグースカの効果で強制的に眠りにつくものの、業火の竜が盤面に降り立つ。フィールド外の墓地と手札を怒涛の勢いで循環させ、強固なロックの網目をすり抜けていく。
「この瞬間、除外された2体の効果発動!効果で、デッキから《風征竜-ライトニング》と《水征竜-ストリーム》を手札に加える!」
除外されたドラゴンたちの効果で、デッキから手札へとカードが2枚移された。
「さらに手札の《ストリーム》の効果発動!手札にある自身と《ライトニング》を捨て、デッキから新たな《瀑征竜-タイダル》を特殊召喚する!」
真紅の竜と激流の竜が、眠る獣を挟み込むようにフィールドに舞い降り、天に向かって咆哮を上げた。バグースカの支配下にあってもなお止まらないその驚異的な展開力に、寿は息を呑む。
「俺はレベル7の《焔征竜-ブラスター》と《瀑征竜-タイダル》の二体でオーバーレイ!」
二体の巨大な竜が眩い光の帯へと変化し、空中で複雑に絡み合いながら銀河の渦へと吸い込まれていく。
「旋律するは虹色の栄光、戦慄させしは純白の威光……エクシーズ召喚!」
今度は空から、異質なまでに神々しい光の集まりが黒咲の掲げる腕の上に現れる。
「現れろ!《No.76 諧調光師グラディエール》!!」
真昼の太陽光を反射し、七色の光を放つ優雅な天使が過酷な戦場に降り立った。その神々しい姿は、黒咲のまとう闇とは対極にあるように見えた。
「新たなナンバーズ!?」
「グッ……ウォオオオォォォ!!」
天使の顕現と同時に、再び黒咲の体を激しい苦痛が襲う。新たなナンバーズの力が、彼の精神を内側から引き裂こうとしているのだ。黒咲はディアブロシス同様に絶叫し、ナンバーズの反抗を抑えようと試みる。
「ぐっ……チッ。こいつもこいつで俺に歯向かうか……」
「おい、本当に大丈夫なのか!?」
再び荒ぶるオーラは黒咲の叫びを持って鳴りを止めるが、そのあまりの痛ましさに寿が叫ぶ。しかし、彼は顔を歪めながらも不敵な笑みを崩さなかった。
「この痛みだ……寿ィ!」
その歪みながらも確かにそこにある、黒咲の表情は寿に一瞬恐怖心を与える。
「この痛みが、俺を強くする……すなわち心頭滅却……それだけだ。こちらとしては寿、お前は如何にして平然とナンバーズを服従させているのか聞きたいものだが」
とはいえ、耐力は尋常ならざる量を必要とするらしい。それは彼の言いぶりからして分かるだろう。しかし彼は玉の汗を流しながらも、俄然闘志は全く衰えていない。
「それはこの大会が終わってからにしてもらおうか。お前と俺、どちらが負けて勝ち残っても感想戦という概念はこのコースターには無いらしいからな」
飛蛾をライフポイントをゼロにした直後、コースターから座っている座席ごと飛蛾が空中へ射出された光景が寿の脳裏に浮かぶ。
「フン、さっき知ったことだ。早々に忘れるものか……」
黒咲もその光景は覚えていたのか、異論は唱えない。むしろ、もっとスマートな退場の仕方もあるだろうになぜ、という疑問さえ持ったようだった。兎も角、デュエルに意識は戻る。黒咲は荒い息を整え、眼前の天使へと手を差し向けた。
「《No.76 諧調光師グラディエール》の持つ効果は3つ、そのうち2つは永続効果!」
光の天使の周囲に、炎を思わせる業火と水を思わせる激流の彩を持つ楽譜が交互に浮かび上がる。
「このナンバーズの持つ属性はオーバーレイ・ユニットとして持つモンスターの属性も併せ持つ!よって、元々の属性の光、《ブラスター》の持つ炎、《タイダル》の持つ水の合計3属性を持つことになる。効果でそれらと同じ属性のモンスターとの戦闘・効果では破壊されない!」
バグースカの制約により守備表示を余儀なくされるものの、その天使が持つその絶対的な耐性は、寿の反撃の芽を摘み取る強固な盾となる。
「それで地上戦を封殺するわけだ」
「逐一お前に見通されるのも癪だが、その通り。《バグースカ》は永続効果までは封じれない。俺はこれでターンエンドだ」
黒咲が黒のオーラを纏いながらターンを返す。
「俺のターン!スタンバイフェイズ、《バグースカ》の維持コストとして最後のオーバーレイ・ユニットを取り除く。ドローッ!……カードを一枚伏せ、ターンエンド!!」
寿は黒咲の盤面に焦りを覚えながらも、カードを伏せて大人しくターンエンドする。
「俺のターン、ドロー!」
黒咲はバグースカという無慈悲なまでに厄介なモンスターがいる中でも盤面を整えられたことに一瞬優勢に立ったように思うが、それは甘いと思考を切り捨てる。このドローでバグースカを一時的にどかせられる《皆既日蝕の書》でも来ればよいと希望を抱くが、それは訪れなかった。
「何も無し、か。俺もそのままターンエンド!さて、タイムアップだ、赤司寿!手札の準備は万全か!?」
コースターが再び上昇と下降を繰り返し、金属の軋む音が響き渡る中、互いにターンを高速でやり過ごした。そして、ついに泥睡魔獣の力が限界を迎える。
「さて、どうだろうな?俺のターン!」
黒咲の目に、勝利への決定的な確信が宿った。
「スタンバイフェイズ、維持コストのない《No.41 泥睡魔獣バグースカ》は破壊される!ドローッ!」
レールの上で眠り続けていた悪魔の獣が、ついに限界を迎えて光の塵となって弾け飛んだ。フィールドを覆っていた重い空気が一気に晴れ渡り、真昼の青空が再び二人の頭上に広がる。
「この瞬間、《No.76 諧調光師グラディエール》の効果発動!オーバーレイ・ユニットとなっている《瀑征竜-タイダル》を取り除き、墓地へ送られたお前の《バグースカ》を自身のオーバーレイ・ユニットとして吸収する!これにより《グラディエール》の属性は光、炎、地となる!」
黒咲はその瞬間を逃がさない。光の天使が優雅にタクトを振るうと、消滅しかけたバグースカの残滓が光の玉となって彼女の周囲に吸収され、激流の楽譜が消え代わりに新たな土遁の楽譜が加わった。
「再利用を防ぐ魂胆か……しかし甘いぜ黒咲!」
「何!?」
「俺は罠カードオープン、《きまぐれ軍貫握り》発動!俺は《うにの軍貫》二体と《しゃりの軍貫》を開示!さて、黒咲。お前は何を選ぶ!?」
寿は伏せカードを力強く跳ね上げる。三つの寿司の幻影が、黒咲の目の前に並ぶ。それは単なるカードの選択ではなく、寿が仕掛けた己の命運を懸けた極限の心理戦の始まりだった。
「……俺に運命を選ばせるか」
黒咲の脳内で、高速の演算が始まる。
この状況下で、寿はあえて不確定要素のある選択を自分に委ねてきた。その裏にある意図を読み取ろうと、黒咲は鋭い視線を幻影の寿司に向ける。
《きまぐれ軍貫握り》は相手にカードを選ばせる効果だが、手札の《しゃりの軍貫》を提示すれば自身で選択できる。それをしなかったということは、寿の手札に《しゃり》は無い。ならば、わざと《うにの軍貫》を多く見せて《しゃり》を選ばせようとする魂胆か。
だが、そんな小手先で迷いを生ませるなど甘く見られたものだ。寿の手札には既に《うに》があり、《しゃり》を引けないからこそ、不確定なこの賭けに出たのだ。彼はそう結論づけ、黒咲は己の鋭い直感と論理を信じ切る。
「よし、俺が選ぶのは《うにの軍貫》だ!」
己の論理と直感を信じ、黒咲は迷いなく選択を宣言した。しかし、その答えを聞いた瞬間、寿の表情が会心の笑顔へと変わった。
「そうか、俺の読み通りだ!」
「何だと!?」
「俺は《うにの軍貫》を手札に加える!そのまま俺は手札の《うにの軍貫》の効果発動!手札の《しゃりの軍貫》を見せて自身を特殊召喚し、見せた《しゃりの軍貫》も特殊召喚する!」
寿の手札には、最初からキーカードが存在していたのだ。完全に罠に嵌められたことを悟った黒咲が驚愕に目を見開く中、巨大なウニとシャリがフィールドに並び立つ。
「お前、俺を図ったな……!?最初から《しゃりの軍貫》を提示すれば良いものを!」
激しい風の中で、黒咲が声を荒らげる。
「いいや、これはちょっとした意趣返しさ!俺は《うにの軍貫》の効果発動!さらに《しゃりの軍貫》のレベルを5に変更し、デッキから《しゃりの軍貫》を手札に加える!」
「まさか、赤司、貴様!」
「そうさ!黒咲、お前は侮ったな?」
寿は自信に満ちた声で、相手の心理を丸裸にしていく。
「……っ、何のことだ」
「《ディアブロシス》の効果で、EXデッキから一枚裏側除外する場面だ。あの場面でお前はなぜ攻撃力の高い《うに型二番艦》を選ばず、攻撃力で劣るためバトルで負けないはずの《いくら型一番艦》を選択した?それも、《グラディエール》を守備表示で出せば封殺できたはずなのに?」
寿の鋭い指摘に、黒咲は顔をしかめる。
「……チッ」
「それは黒咲、お前は俺のナンバーズなど最初から興味がなかった、言い換えれば俺のことしか興味がなかった!だから、《バグースカ》のことなど目にも留めなかった!」
青空の下、寿の言葉が確信を持って響き渡る。その眼差しは、相手の思考の奥底までを見透かしているようだった。
「そこでお前は致命的に慢心した!俺の主力艦は《うに型二番艦》、その印象が飛蛾のデュエルで根付いたが最後、次ターンに消し去ることにした!」
「《うに型二番艦》を呼び出すには最低でも二枚のペアを手札に揃える必要がある、急く必要は無い。それよりも召喚条件レベル4二体で容易な《いくら型一番艦》を出され、万一攻撃力が何かしらの効果で上昇し、攻撃されるほうがリスクが高いと判断した!」
息もつかせぬ勢いで、寿は黒咲の論理の綻びを暴き立てる。猛スピードでレールを駆け抜ける轟音すらも、彼の確信に満ちた声を掻き消すことはできない。真昼の強烈な太陽光が、容赦なく二人の決闘者を照らし出していた。
「確かにお前の読みは正しかった、間違っていなかった。《いくら型一番艦》は相手にダメージを与えたら、カードを一枚破壊できるからな。そこに二回攻撃が加われば盤面は崩れる。だから除外した……だけども、ご生憎だったな!そのEXデッキには、お前の想定をさらに超える《バグースカ》というモンスターが存在していた!」
痛いところを突かれた黒咲の沈黙が、寿の推理の正しさを何よりも雄弁に証明していた。吹き荒れる暴風の中、黒咲の顔に微かな歪みが走る。
「そりゃ困るってもんだぜ、黒咲!俺は確かにナンバーズを持っているけれど、それ以上に軍貫を操る決闘者なんだぜ?お前同様、俺もナンバーズさえ、力にしちまうのさ!」
青空に響き渡る高らかな宣言。寿の纏う空気は、決して呪われた力に呑まれる者のそれではなく、荒波を乗りこなす誇り高き船長のようだった。その絶対的な自信を前に、黒咲の胸中にあった怒りは、やがて奇妙な感嘆へと変わっていく。
「故に、その慢心のお返しとして《きまぐれ軍貫握り》の効果で俺に選ばせたという訳か……」
「ああ!」
寿が屈託のない笑みを浮かべて頷く。完全に罠に嵌められたというのに、黒咲の口角は自然と吊り上がっていた。太陽の光を浴びながら、互いの思考が極限まで交錯するこの瞬間に、彼は抗い難い悦びを見出していた。
「ふざけた奴だ、全く!仮に俺がそれを選んでいなかったらどうするつもりだったんだ?」
「考えてないさ、そんなこと!お前の思考は常に勝利と共にある、だからこそそうしただけだ!俺はレベル5となった《しゃりの軍貫》と《うにの軍貫》の二体でオーバーレイ!」
寿は自身の直感と、目の前にいる強敵の尽きることのない闘争心を完全に信じ切っていた。レベル5の光が眩く重なり合い、空間を切り裂いて巨大な艦影が姿を現す。真昼の青空に、銀河の如き眩い光の渦が巻き起こった。
「今、究極の贅沢がその姿を現す!現れろ、《超弩級軍貫-うに型二番艦》!」
寿は黒咲に負けじとも劣らずの勢いで、自らのエースモンスターを再び盤面に呼び出す。
「《しゃりの軍貫》を素材とした事で1枚ドロー、さらに《うにの軍貫》を素材とした事で直接攻撃が可能になる!」
黄金のウニを搭載した巨大な弩級戦艦が、空を駆け抜けるコースターと並走するように浮上した。その圧倒的な質量感が、周囲の空気を震わせる。太陽を遮るほどの巨大な船体から、潮の香りと重厚なエンジンの駆動音がARビジョンを通してリアルに伝わってきた。
「バトルだ!《うに型二番艦》で黒咲に直接攻撃!」
「ぐああっ!」
戦艦の主砲から放たれた極太のレーザーが、黒咲の身体を容赦なく吹き飛ばした。網膜を灼くほどの強烈な光と、爆発の熱波が周囲を包み込む。ソリッド・ビジョンの強烈な衝撃に耐えきれず、黒咲は苦悶の声を上げながらコースターの元の座席に激しく体を打ち付ける。
鷹翔 LP 3950 → 1050
「これが俺がお前に振舞える、最大限のサービスだ!俺はカードを1枚伏せてターンエンド!!」
「それは大層光栄だ!俺のターン、ドロー!チッ……こういう時に限って来ないか」
荒い息を吐きながら手札を確認した黒咲は、忌々しげに舌打ちをした。逆転の要となるカードを引き当てることはできなかったのだ。しかし、よろめきながらも体勢を立て直した彼の顔に絶望や諦めの色は微塵もなく、むしろ己の限界を超えた戦いを心底楽しむような、歓喜の笑みが浮かんでいた。強烈な風に髪を乱されながらも、その瞳は爛々と輝いている。
「フッ……だが、中々どうして、こう悔しくはならないものだな。ならば見せてやろう、俺の最後の足掻きを!伏せカードオープン、罠カード《異次元からの帰還》!」
「何!?」
「俺はライフを半分払い、除外ゾーンから《嵐征竜-テンペスト》と《瀑征竜-タイダル》を特殊召喚する!」
黒咲のライフカウンターがけたたましい警告音と共に激しく明滅し、彼の命を削りながらさらなる限界域へと突入していく。何もない虚空に次元の裂け目が走り、そこから嵐と激流を纏った二体の竜が、真昼の戦場へと再び舞い戻った。青空の下に、局地的な暴風雨のホログラムが吹き荒れる。
鷹翔 LP 1050 → 525
「俺はレベル7の《テンペスト》と《タイダル》の二体でオーバーレイ!見るがいい、赤司。これこそが俺の本来の第二のエクシーズモンスターだ!」
二体の竜が轟く雷鳴と共に光の帯となり、空中で融合していく。
「太古の竜騎士よ、今こそ疾風迅雷の化身となりて飛翔せよ!」
それは黒咲が持てる力の全てを注ぎ込んだ、美しくも苛烈な最後の輝きだった。
「エクシーズ召喚!現れろ、《迅雷の騎士ガイアドラグーン》!」
巨大な槍を構えた竜騎士が、突き抜けるような青空を背にして誕生する。その鋭い切先が、強風を切り裂いて真っ直ぐに構えられた。
「《ガイアドラグーン》の攻撃力は2600、お前の《うに型二番艦》は2900。上回らないな、俺はそのままターンエンドだ!」
だが、残念ながら攻撃力は戦艦のほうが上。僅かながらの力の差で、竜騎士は勝つことができない。よって攻撃できないことを悟りながらも、黒咲は一切の後悔なく、誇り高く自身のターンを終えた。吹き付ける風にコートを激しくはためかせながら、彼はただ真っ直ぐに眼前の男を見据える。
「いやしかし、こうも全力を出し尽くしたのは初めて……だが、この感情。悪くない」
敗北を目前にしてなお、彼の中にあるのは全力を出し切ったという清々しい充足感だけだった。強者を求め続けた彼の魂は、今この瞬間、間違いなく満たされていたのだ。
「俺のターン、ドロー!互いに本気を出し合ったんだ、それは間違いじゃねぇだろ?」
「ああ、全く持ってその通りだ」
「なら、ささやかだが最後に俺はお前の本気を讃えるとするか。罠カード発動、《エクシーズ・ソウル》!」
コースターが最後の急降下に向けてスピードを上げる中、寿は最高の強敵への最大限の敬意を込めて、伏せカードを天高く跳ね上げた。真昼の太陽が、そのカードを神々しく照らし出す。
「俺は効果で、お前の墓地にあるランク7の《幻獣機ドラゴサック》を選択し、EXデッキに戻す!俺の場のモンスターの攻撃力は、その選択したエクシーズモンスターのランク×200アップする!」
寿の戦艦の船体が真っ赤に発光し、搭載されたエンジンの出力が限界を超えて跳ね上がる。黒咲が呼び出した航空母艦の魂が、寿の戦艦へと受け継がれていく。
「ドラゴサックのランクは7!よって《うに型二番艦》の攻撃力は1400アップする!」
《超弩級軍貫-うに型二番艦》ATK 2900 → 4300
「もし最初から《ドラゴサック》を出していなければ立場は逆だったというわけか……寿、お前はどこまでも心胆湧き上がらせてくれる!」
完全に詰みとなった状況下でも、死地を受け入れた黒咲の声は喜びに打ち震えていた。二人の決闘者の魂が最高潮に達し、周囲の空気がビリビリと震える。
「行くぜぇぇぇ!俺は《超弩級軍貫-うに型二番艦》で──」
「来い、寿ィ!」
「──黒咲にダイレクトアタック!!」
全砲門を開いた超弩級戦艦からの眩い一斉射撃が炸裂し、凄まじい爆発音が空に木霊する。黒咲の全身が強烈な熱波と眩い光に呑み込まれる中、コースターが第一ステージの終わりを告げようとすると同時に、彼のライフは完全にゼロへと達した。
「くっ……ぐあああぁぁぁっ!!」
鷹翔 LP 525 → 0
「お粗末!」
本来はもう少し削りたいものの、描写を納得いくまで盛り込むと一万文字を優に超えてしまう……何文字ぐらいがいいのだろう……ご意見あったら感想欄で教えてください、参考にします