軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
合わせ引きした場合に金獅子に泡影食らって死ななくて済むのはありがたいが天璣でサーチは無理なのは流石に調整を感じざるを得ない。
ドロワが地面に倒れ伏せたのと時を同じくして、地下のレールを猛スピードで二つのコースターが走っていた。前方のコースターに座るVは背後から迫り来る強烈な気配を感じ取り、冷徹な表情のまま薄く唇を開いた。
「……来ているな、カイト」
前方を走るその背中を後方のコースターから鋭く睨みつけながら、カイトは操縦桿を握る手に力を込め、奥歯を強く噛み締めた。
(クリス……いや、V!)
視界に映るかつての師、そして今の敵の姿にカイトの脳裏には忘れたくとも忘れられない過去の記憶がフラッシュバックしていた。それは、冷たい雨が降りしきる日のこと。ハートランドから背を向け、何も語らずにただ静かに去っていくクリスの後ろ姿だった。冷たい雨に打たれながら彼を見送ることしかできなかった己の無力さと、深い絶望が胸を締め付ける。
(なぜ、なぜなんだ……あの時、Vはなぜ)
カイトの痛切な思いを知ってか知らずか、Vは振り返ることなくまるで迷える教え子を誘導するような静かな声で告げた。
「さぁ、迷うこと無くそのままついてこい」
Vの言葉に呼応するように、レールが大きく分岐する。交差する二人の因縁と過去の記憶を乗せたまま、二台のコースターはドロワたちが向かったジャングルと異なる、もう一つのフィールド……スペースへと吸い込まれるように進んでいった。
####
場面は地下の激闘から地上へと移り、巨大なWDC特設スタジアム。それまで熱狂的な歓声に包まれていたはずの会場は、上空のメインスクリーンを突如として覆い隠した砂嵐のような激しいノイズにより、得体の知れない困惑とざわめきに包まれていた。
「……さっきからデュエルが写らないが、何かあったのか?」
観客席の一角で、険しい顔つきで暗転した画面を見上げる赤司厳造の姿があった。彼はアンナを見送った後、仕込みを終わらせそのままスタジアムに直行していたのだ。
「……おい、大丈夫なのかよ?」
「さぁ……でも、明らかにおかしいです」
他の観客の口からも不安が漏れているのが聞こえる。会場のどよめきは少しずつではあるが、着実に大きくなってきている。当然だ。ドロワとトロンのデュエルが始まる前までは何事も無く平常にスクリーンは動作していたのに、今やその画面はおろか音声すら聞こえないのだから。
「一体寿は今どこにいるんだ?まさか、今デュエルしているとでも言わんだろうな」
先ほどから一向に改善しない現状とそうしている間に息子の試合が始まってしまうリスクを考えると、苦言を呈するしかない。しかしその隣からは裏腹に、何やら豪快な咀嚼音が返ってくる。
「モグモグ……厳造、それは俺に聞かれても分からねぇよ」
大学時代の旧友の出門スミスが、厳造の隣の席に座りながら飯を食べていたのだ。
「しかし……」
「大丈夫ですよ、厳造さん。寿さんならきっと無事です」
心配そうな厳造を見かねて、同席していたラクリが優しくフォローを入れた。
「そうか……」
「ああ。きっと京香も見てる。俺の娘を倒して見せたんだ、自信を持って願ってンモッ」
口にものを頬張りながら、スミスが励ますように力強く頷く。
「そうだな、そう願うだけだ」
「ふぅ、ご馳走様。ところで厳造よ、この活け造りのお代わりはねぇのか?」
スミスは満足げに息をついて箸を置くと、足元にドンと置かれたクーラーボックスを無遠慮に指さした。
「無い。しかし、何故生ものをスタジアムに持ち込む必要があったんだ……言われたから作ったが」
厳造は何も疑問を持たずに作ったはいいものの、何故作らなければいけなかったのか、食べつくされた今更にその疑問を投げかける。
「……」
だが、スミスは明後日の方向を見て無言になる。
「おいスミス」
つまるところ、自分はこの男の個人的な板前としていいダシに使われたのだな、と察した厳造は呆れたように深い溜息をつき、一方のラクリは二人のやり取りにただ苦笑するしかなかった。
####
地上スタジアムへと繋がる、先ほどまでデュエルコースターが群雄割拠していたパークセクション。誰も見向きもしないそこの上空で、ある一体のロボットが今まさに駆け抜けようとしていた。
「カイト様ぁー!」
主を心配するあまりにオービタル7は背中のジェットを全開で噴射し、コースターのレーンから地下空間へと飛翔することで強引に突入していた。暗がりへと飛び込むその軌道には、主への狂おしいほどの忠義が滲んでいる。
「もうジッとしていられない、スクラップにされようと一刻も早くカイト様の元へ!」
主の心配と我が身の心配を天秤にかけた時、傾くのは必ず主のほうだ。大事な場面でお供をせずして何が従者か。言葉通り、オービタルは我が身を賭してまでして主の元へと向かおうとしていた。
「カシコマリングだ、オイラー!」
主のためならば覚悟はできるし何だってしてみせる。あの九十九遊馬の台詞をアレンジしその決意を固めながら、オービタルは地下空間へと侵入した。
「カイト様カイト様カイト様ーッ!」
悲壮感すら漂う絶叫を響かせながら、オービタル7は地下空間を突き進む。幾重にも交差するデュエルコースターの軌道が、まるで蜘蛛の巣のように視界を塞ぐ中、ジェットの推進力を制御しきれていなかった。思考回路のすべてが主の安否で埋め尽くされ、目の前に迫る障害物など彼には全く映っていなかったのだ。
「ンァ!?か、壁!?」
全速力で突撃したその先にそびえていたのは、冷徹なまでの壁面だった。衝突の直前になってようやく異変に気づいた時には、すでに回避できる速度ではなかった。
ドゴーンッ!!
耳をつんざくような激しい衝撃音とともに、ロボットの硬質な装甲が壁面を抉り取る。
「オワーッ!!!」
「うわぁーっ!!!」
壁を盛大に破壊しながら、勢い余った青い鉄塊が天井から真下へと落下する。まさにその真下を疾走していた遊馬と小鳥のコースターの車体に、ドンッという凄まじい重量と衝撃が直撃した。
「か、カシコマリング……」
落下と激突のダブルの衝撃で完全に目を回し、コースターの座席の隙間でゴロゴロと情けなく転がり回る姿に、遊馬は目を丸くして硬直した。
「オービタル!?」
遊馬の戸惑った叫び声を聞きつけるやいなや、オービタルはガバッと不自然な勢いで身を起こし、機械的な手つきでビシッとポーズを決める。
「おお、お前は元祖カシコマリング!」
「だ、大丈夫?演算回路とか、壊れてない?」
小鳥が心配そうに顔を覗き込みながら声をかけると、オービタルは頭部からジジジと小さな火花を散らしつつも、慌てて虚勢を張って胸を叩いた。
「むっ、この身はカイト様に設計された超頑丈ボディ……って、お前は恐怖のスクラップ女!」
「そんな言い方無いでしょ?もう、放り出してやる!」
「ま、待つであります!トンマ、早くカイト様のところへ!」
危機感を露わにして矢継ぎ早にまくし立てるオービタル。その焦燥に満ちた声を聞いた瞬間、遊馬の顔から驚きの色が消え去り、表情がスッと険しいものへと引き締まった。脳裏によぎるのは、先ほどジャングルフィールドで目撃した凄惨な光景――カイトを守るために自らを犠牲にして散っていった、ドロワの最期の姿だった。
「……そうだ、俺も伝えたいことがあるんだ」
込み上げる悔しさと痛みを押し殺すように、遊馬はしっかりと拳を握りしめ、揺るぎない決意をその瞳に宿す。
「オービタル、案内してくれ」
「か、カシコマリ!」
####
宇宙空間を模したような、星々が煌めくフィールドへと辿り着いた二台のコースター。そこはかつての師弟が刃を交えるための、静寂と冷気に満ちた決戦の地だった。冷たい人工の星空の下、Ⅴは静かに佇み、かつて自身の運命を狂わせた因縁の相手を見据える。
「……カイト、いつか君と戦うことは分かっていた」
静かに零されたその言葉の裏で、Ⅴの脳裏には忌まわしい過去の記憶が走馬灯のように蘇っていた。
(あの日、あの真実を知った日……。私の心は、憎しみと復讐に囚われてしまった)
彼は深呼吸をし、目前の敵に向かい戦う決意を新たにする。
(そう……あの日から!カイト……容赦はしない!!)
復讐の炎を宿すⅤの気迫を肌で感じながら、一方のカイトは、眼前に立つ男へ一切の容赦のない激しい怒りをぶつけた。
「あんたはハルトを傷つけた……その懺悔をしてもらう!行くぞ!!」
二人はデュエルディスクを展開すると同時に、目元にDゲイザー替わりのマークを浮かび上がらせて決闘を開始する。
「「デュエル!!」」
気迫の掛け声とともに、二人のライフポイントが電子の光となって宙に浮かび上がる。
Ⅴ LP 4000 / カイト LP 4000
先攻を取ったⅤは、冷徹な手つきでデッキから一枚のカードを引き抜いた。
「私のターン、ドロー!私は《惑星探査車》を召喚!」
足元に小型の機械仕掛けの探査車が現れ、静かに駆動音を響かせる。さらにⅤは淀みない手つきで別のカードを掲げた。
「さらに、《太陽風帆船》を特殊召喚!このカードは、元々の攻撃力を半分にする事で手札から特殊召喚できる!」
漆黒の宇宙空間をバックに、黄金色の巨大な帆船が重々しく姿を現す。Ⅴはその二体のモンスターを見据え、懐から一枚の魔法カードを取り出した。
「私は魔法カード、《タンホイザーゲート》を発動。このカードは、自分のモンスター2体のレベルを、互いに足したレベルへと変更する」
眩い光が二体のモンスターを包み込み、その存在感を変質させていく。
「二体のモンスターのレベルは4と5。よってレベルは9となる……私はレベル9の二体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」
宇宙の虚空に巨大な渦が出現し、圧倒的なエネルギーが渦巻くように収束していく。
「現れろ、《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》!」
轟音とともに漆黒の宇宙から巨大な天体が召喚される――はずだった。しかし、召喚の閃光が収まっても、目の前の空間にはモンスターの姿が見当たらなかった。ただ重力波の歪みだけが不気味に残されている。
「くっ……何!?姿が見えないだと!?」
目に見えない敵の存在に、カイトは警戒の色を強めて眉をひそめる。対するⅤは、感情の読めない無機質な笑みを浮かべた。
「スペースのフィールド魔法の効果によりカードを一枚ドローさせてもらうぞ。私はこれで、ターンエンド」
不気味な静けさの中、カイトは自身のターンを開始する。研ぎ澄まされた集中力で手札を引き、鋭い眼光を虚空に向けた。
「チッ。俺は《フォトン・デルタ・ウィング》を召喚」
カイトは、ダイソン・スフィアなるモンスターが目に見えずとも攻撃は可能であると判断し戦闘機に攻撃を宣言する。
「そのまま《ダイソン・スフィア》に攻撃!」
カイトの呼び声に応え、まばゆい光の翼を持つフォトン・デルタ・ウィングが疾走する。そのままダイソン・スフィアがいるはずの何もない虚空へ突撃するが、突如として空間そのものに飲み込まれるように凄まじい反発を受け、弾き返されてしまう。
「無駄だ」
「攻撃が、飲み込まれて……!?俺はこれでターンエンド」
目に見えない壁に阻まれた焦りを押し殺し、カイトはターンを終える。すかさずⅤの冷徹な声が響き渡った。
「私のターン、ドロー……カイト、キミは何かを考えているようだが無駄だ。既に、このデュエルはキミの想定を凌駕している!」
冷徹な宣告とともに、Ⅴは不可視の巨躯へ指令を下す。
「私は、《ダイソン・スフィア》で《フォトン・デルタ・ウィング》を攻撃!」
「……何!?」
見えない巨躯からの予測不能な一撃が、空間を切り裂いてカイトのモンスターを粉砕した。
《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》ATK 2800 vs 《フォトン・デルタ・ウィング》ATK 1800
凄まじい衝撃波がカイトの体を襲い彼のライフが削り取られる。
「ぐっ……」
カイト LP 4000 → 3000
痛みを堪えながら、カイトはどこにいるとも分からない敵を睨みつけた。
「何故だ、何故姿を現さない……」
「今のキミには分からないだろうな……このデュエル、君は不可視の攻撃で喘ぎ負ける」
「Ⅴ……!」
カイトが挑発的なVのセリフにギリッと奥歯を噛み締めたその時だった。
「「うあぁああーあっ!!」」
ガッシャーン!!
決戦の緊張感に包まれていたフィールドの天井を盛大に突き破り、激しい金属音とともに、見覚えのあるロボットと二人の少年少女がコースターごと無様に墜落してきた。
「チッ、誰だ……オービタル!?」
突然の乱入者に、カイトは眉間を寄せ、呆れと苛立ちを混ぜ合わせたような舌打ちをする。墜落の衝撃で冷たい金属の床に放り出されたオービタルは、痛みに手足をジタバタと悶えさせながらも、すぐさま主の姿を見つけて這い寄った。
「カイト様、ご無事でしたか!」
「か、カイト!」
オービタルは二度にわたる衝突を物ともせず主であるカイトの元に駆け寄る。それだけなら特に問題無いのだが余計に付いてきた遊馬と小鳥に対し、カイトは冷ややかな視線を向けたまま、一切の温かみもない言葉を吐き捨てる。
「……貴様ら、一体何の用が」
カイトのあまりに冷酷な一瞥と態度に対し、遊馬は胸に渦巻く憤りと焦りを隠しきれず、切迫した声で叫んだ。
「俺はお前に、伝えなきゃいけねぇことがあるんだよ!」
「オレに?」
「ああ。ドロワが、トロンにやられちまった!」
その時、遊馬が思い出すのは決死の覚悟で底知れぬ脅威であるトロンと懸命に戦ったドロワの姿だった。
「ドロワは、お前のために必死に戦った!」
カイトへの愛ゆえに命を張って戦った仲間の最期を告げるその言葉を聞いても、カイトの表情はピクリとも動かなかった。まるで他人の天気予報でも聞いているかのような心底どうでもいいと言わんばかりの冷徹な静けさが、周囲の空気をさらに凍りつかせる。
「そうか」
「お前、ドロワはお前のことが……」
「……オレには関係の無い話だ」
その非情すぎる台詞に、黙っていられる遊馬ではなかった。
「テメェ!」
仲間を想う遊馬の怒りが沸点に達し、怒りのあまり掴みかからんばかりに拳をギリッと握りしめたその時、冷徹な静寂を切り裂く低い声がその場を制した。
「……九十九遊馬」
聞き覚えのある声に、遊馬はカイトに掴みかかろうとするのを止めVの方に振り向く。
「お前……」
「一馬さんの息子。こんなところで役者が揃うとは、これも運命なのかもしれないな」
かつてハルトを連れていき、また自分の父親の存在を知る男の静かで不敵な声に、遊馬はハッと息を呑み、怒りの矛先を変えるように憎しみを込めて彼を鋭く睨みつける。
「……お前にも聞きてぇことがある!俺の父ちゃんは、父ちゃんはどこにいるんだ!」
遊馬はVに指差して問うが、Vはあくまでも冷静を欠かない。
「いいだろう……この機会。デュエルを再開する前に、私が知っていることをすべて話そう」
「ふざけるな、オレはあんたの話など聞く気がない。さっさとデュエルを」
一刻も早く弟を救うための決着をつけたいカイトが、焦りと苛立ちに任せて鋭く声を荒らげる。復讐心を燃やすカイトのただならぬ気迫を、Ⅴは微動だにしない鋭い視線で静かに制した。
「カイト!」
突如発せられたその静かな、しかし有無を言わせぬ重みを持った声に、戦闘態勢に入っていたカイトは思わず動きを止めた。
「!?」
不意を突かれたように、カイトの鋭い双眸がわずかに見開かれる。Ⅴは微動だにせず、冷徹でありながらもどこか底知れない熱を宿した瞳で彼を真っ直ぐに見据えた。
「この話は、キミにとっても関わりのある話のはず。今こそ話そう、私たち家族が何故WDCに突然現れたのか……そして何故私たちが、キミたち兄弟に……いや君の父、Dr.フェイカーに復讐しようとしているのかを!」
張り詰めた宇宙の静寂を切り裂くように告げられたその言葉は、星々の光をも凍りつかせるほどの重苦しい因縁の始まりを告げていた。
「「!?」」
遊馬とカイト、二人の少年の表情が驚愕に染まる。互いに息を呑み、硬直する遊馬の脳裏には、先ほどまでの激しい怒りが波の引くようにスーッと消えていき、代わりに底知れぬ混乱と焦燥が広がっていった。
「あの……Dr.フェイカーが、カイトの父親……しかもお前たちが復讐を……!?一体俺の父ちゃんとカイトの父ちゃんは……?」
遊馬は混乱に眉をひそめ、目の前に立つ男へとすがりつくように一歩踏み出す。その震える声には、行方不明の父親の行方と、冷徹な科学者として知られるDr.フェイカーの間に隠された過去を知ることへの恐怖と、真実を求める焦りが入り交じっていた。
「これからする話に、その答えがある」
Ⅴは静かに視線を落とし、胸の奥に何年も封じ込めてきた忌まわしくも鮮烈な過去の記憶へと、ゆっくりと言の葉を紡ぎ出していくのだった。
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Ⅴは静かに目を伏せ、遠い過去へと記憶を遡らせた。その瞳の奥に、幼き日の色彩を帯びた光景が静かに蘇っていく。
「今から五年前のことだ」
「知っての通り、ハートランドを発展させた科学者のDr.フェイカー……彼と私の父、バイロンはずっと異世界の扉を発見する研究をし続けていた」
最新鋭の機械と無数のモニターで埋め尽くされた薄暗い研究室。天井から吊るされた幾重もの配線の間を、目まぐるしく膨大なデータを弾き出すスクリーンの光が青白く照らし出していた。Dr.フェイカーは血走った目でメインモニターを睨みつけ、込み上げる苛立ちに任せてコンソールを強く叩きつける。
「くっ……次元のひずみがあちこちで観測されている、なのに、何故場所が特定できない!?」
幾度目かの計算エラーを示す不快な警告音が、無機質な部屋に冷たく響き渡る。限界を超えたプレッシャーに耐えかねるように頭を抱え、フェイカーは苦悩と焦燥に満ちた声を絞り出した。
「何故なんだ!?」
その狂気じみたまでの執念を宥めるように、穏やかな声がかけられる。彼の共同研究者であり、無二の親友でもあるバイロン・アークライトが、湯気の立つマグカップを手に静かに傍らへ歩み寄った。
「……フェイカー、さぁコーヒーでも飲んで少し落ち着いたら」
だが、フェイカーは差し出されたカップを見ようともせず、手で激しく撥ね除けた。
「要らん!」
弾き飛ばされたカップが床を叩き、鈍い音が響く。フェイカーの背中からは、何かに取り憑かれたような強迫観念と、触れる者を拒絶する異様なプレッシャーが放たれていた。
「私には時間が無いんだ!今すぐにでも異世界の扉を見つけなくては」
取り付く島もない親友の危うい背中を見つめ、バイロンは小さく息を吐いた。そして、膠着した研究状況を打ち破るべく、別の視点からのアプローチを切り出す。
「フェイカー……そうだ、私以外にも異世界への扉を探しているものがいてね。クリス!」
部屋の隅で静かに待機していた幼き日のVが、父の呼びかけに素早く背筋を伸ばす。彼は年齢に似合わぬ手慣れた動作で端末を操作し、メインスクリーンの一角に新たな映像資料を展開した。
「はい、父様。例の映像を映します」
スクリーンに映し出されたのは、一人の男の姿だった。顔つきは研究者のそれとは全く異なり、真逆なまでに情熱を目に灯しているような表情。バイロンはモニターを見上げ、どこか楽しげに語りかける。
「中々興味深い人物でね。冒険家の、九十九一馬という男だ」
その名前に反応し、フェイカーの双眸に鋭い光が宿る。彼はピタリと手を止め、食い入るように画面の男を見つめた。
「ほぅ?」
画面の映像の主、九十九一馬は険しい大自然の真っ只中にいながら、まるで自分の庭にいるかのようにのんびりとくつろいでいた。
「いいなぁ~。ここはのんびりできて」
彼は大地に身体を預けて大きく伸びをすると、澄み切った大空を見上げて満足げに笑う。
「ここだけは、誰にも邪魔されない!」
大自然の静寂を満喫しようとしたその時、遠くから無粋なプロペラ音が空気を震わせて近づいてきた。
「んおっ?頼んでもねぇのに、お迎えか?」
一馬が目を凝らすと、青空を切り裂いて一機の巨大なヘリコプターがこちらへ向かって一直線に降下してくるのが見えた。
「って、そんな邪魔されなくも無いってことか!」
彼は苦笑いを浮かべ、舞い上がる砂埃から顔を庇いながら、空からの突然の珍客を見上げた。やがて、促されるままヘリコプターから降り立った一馬は、無機質な廊下を幼い少年に案内されて歩いていた。
「どうぞ、この先が我々の研究室となっています」
「どうも丁寧に。クリス君も幼いのによく手伝っているねぇ」
一馬が気さくに笑いかけるが、クリスは子供らしからぬ落ち着いた表情で淡々と答える。
「仕事ですから」
重厚な自動扉が開き、一馬は中へと足を踏み入れた。そこには、床一面を覆う巨大な三次元投影モニターと、最先端の高度な機材が所狭しと並んでいた。
「おお、こりゃスゲェ設備だ!」
一馬が目を輝かせて室内を見渡していると、一人の上品な男が穏やかな笑みを浮かべて歩み寄ってきた。
「ようこそ、突然の呼び出しにお越しいただき感謝するよ、九十九一馬」
「私は、バイロン・アークライトという。よろしく頼む」
一馬とバイロンは、互いの手に力を込めて固い握手を交わした。一馬はすぐにモニターに映し出された複雑なデータ群に目を奪われる。
「これは、重力地図に電磁波ウェーブマップか。これも凄い!」
感嘆の声を上げる一馬の背後から、突如として焦燥に満ちた怒声が響き渡った。
「時間が無いのだッ!」
「んおっ?」
一馬が振り向くと、そこには血走った目でモニターを睨みつけるDr.フェイカーの姿があった。彼の全身からは、触れれば火傷しそうなほどの熱量が放たれている。
「これまであらゆる事象を研究してきた!だが如何しても見つからん……何かが、何かが足りないのだ!」
「フェイカー、済まない……だが、暗中模索の調子なのは私もなのだ。一馬、恥を忍んで是非君の意見を聞かせてくれないか!」
親友の狂気じみた様子を宥めつつ、バイロンは藁にも縋る思いで一馬に頭を下げた。
「ふむ……」
「一馬?」
一馬は腕を組み、顎を撫でながら、あえて挑発的な笑みを浮かべてコンソールに向かうフェイカーの背中へと語りかけた。
「よぉDr.フェイカーさんよ。その扉を見つければ、人類の歴史も変わる!きっと、金や名声も思いのままでしょうなぁ!」
その不敵な言葉に、フェイカーの表情が怒りで夜叉のように歪む。
「金や名声……そんな下らんものに、興味は微塵も無い!私は異世界の扉を見つけなければならんのだ!」
怒りと共に吐き出されたフェイカーの言葉には、嘘偽りのない純粋な執念だけが込められていた。それを聞いた一馬の顔から、からかうような色がスッと消える。
「フッ……それを聞いて安心しましたよ」
「一馬、君は!」
フェイカーの本気を確かめるための芝居だったと気づき、バイロンが驚きの声を上げる。
「私が興味があるのは、本当の冒険だけです!」
「我々を試したのか……」
フェイカーの双眸からは敵意が消え、代わりに一馬を認めることにした。フェイカーと一馬の目には、未知の領域へ踏み込むような深い探求の色が浮かぶ。
「ええ。莫大な富を既に築き上げた、あなたならこの質問で十分だと思いましてね」
一馬は飄々とした笑みを崩さず、真っ直ぐにフェイカーを見据えた。その度量の大きさにフェイカーは微かに息を呑んだ。
「ならばこれを見るがいい!」
フェイカーがコンソールを力強く叩くと、メインモニターの暗闇を切り裂くように、世界全図を網羅した巨大なホログラムが展開された。
「これは異世界の扉が出現したことにより、世界中の21か所に及ぶ地点で、異常データを観測した地図。データの傾向、特徴を分析すれば、次に扉が出現する場所が特定できるはずなのだ!」
モニターの光がフェイカーの焦燥に満ちた顔を青白く照らし出す。一馬はそのホログラムに一歩歩み寄り、腕を組んでじっと見据えた。
「21次元方程式か」
一馬の口から漏れたその言葉にバイロンは分かるのか、と感嘆の言葉が思わず漏れ出てしまい、共にフェイカーの目が大きく見開かれる。
「そうだ、既に解は出かかっている。もう一歩なのだ……だが、だがその一歩が……」
歯痒さに唇を噛み締めるフェイカーの横で、一馬は小さく鼻を鳴らした。
「抜けているんですよ」
「ぬ?」
一馬の静かな指摘に、フェイカーが眉をひそめる。
「馬鹿な、観測は全て完璧に行ったはずだ……!」
「場所は21か所だけじゃあ無い!ラボにいたんじゃ、分からないこともある!」
一馬はコンソールに歩み寄り、世界地図上の何もない二つの地点を力強く指差した。
「あと二か所。つまり起きた場所は全部で23か所!」
「なっ!?」
「そ、それは本当なのか!?」
これまでの常識を覆す一馬の言葉に、天才科学者である二人が息を呑む。
「えぇ。我々の世界を一次元とすると、残りの次元は12次元宇宙が裏表……つまり足し引きして23次元が存在する」
一馬の理路整然とした仮説が、研究室の空気を一変させる。
「つまり答えは、23次元方程式だ!」
雷に打たれたような衝撃と共に、長年彼らを苦しめていたパズルの最後のピースが完璧に組み合わさった。フェイカーの表情に驚愕と、それを上回る深い歓喜の色が走る。
「「な、なるほど!!」」
こうして我々は、新たな方程式の解を元に、一つの結論へと達した。そして向かった先は、次に異世界の扉が出現すると思われる、ある場所だった。荒涼とした大地にぽっかりと口を開けた、底すら見えない巨大なクレバス。奈落へと続くその縁に立ち、探検の準備を整えた一馬は、吹き荒れる乾いた風の中で情熱を持ち言い放った。
「さ、ようやく我々の冒険の始まりだ」
その隣に立つフェイカーの目にはすでに地の底の闇しか捉えておらず、同行していた助手や子供たちへは一瞥もくれない。
「お前たちはここで待機していろ。ここからは、我々三人が向かう……我ら三人だけで、な」
フェイカーのあまりに非情な言葉と、これから挑む自然の脅威を前に、幼いクリスの顔には隠しきれない不安が影を落としていた。その小さな肩の震えに気づいたバイロンは、そっと片膝をつき、クリスの目線に合わせて優しく微笑みかけた。
「大丈夫だ、心配するなクリス」
「父様」
「ああ、きっと無事で戻ってくる」
強く抱きしめる温もりに、クリスは小さく頷いた。
――ここまでが、私が実際に目にして知っている記憶。
そして、ここから先は私の父、バイロンが話してくれた記憶だ。
一馬を案内人として、フェイカーとバイロンの三人は、太陽の光すら届かない底知れぬ暗黒の地底へと降りていき、クレバスの中継地点に小さなテントを設営した。オレンジ色の炎を上げる焚火の温もりが、這い寄るような冷気と静寂をわずかに和らげる。その揺らめく火の光のなかで、バイロンは両手を火にかざしながら、どこか不安げな面持ちで一馬に尋ねる。
「一馬、我々は本当に目的地へたどり着けるのだろうか」
地底の底から這い上がるような得体の知れない気配に押されるようにして発せられたその問いに、一馬は微動だにせず、落ち着いた笑みを浮かべて首を横に振る。
「どうだか。この先はまさしく前人未踏の地です。ですが、だからこそ、チャレンジの意味がある」
一馬の淀みのない力強い言葉に、バイロンは険しかった眉をわずかに緩ませるが、すぐに現実的な恐怖を思い起こして苦笑いを漏らした。
「リスクに勝るものは無いが……」
そんなバイロンの心中を察するように、一馬は明るく声を弾ませて真っ直ぐに見据える。
「ええ、確かにリスクは大きい。かっとビングですよ」
聞き慣れない独特のフレーズに、バイロンは怪訝そうに首を傾げた。
「かっとビング?」
一馬は誇らしげに胸を張り、自身の信条を言葉に乗せる。
「諦めずにチャレンジする気持ちです」
その清々しいほどの前向きさに、バイロンは思わず感心したように息を漏らした。一馬は椅子で一息つくと、握っていたマグカップをそばに置き、懐から大切そうに一枚の写真を取り出した。その小さな紙片には、妻の未来、娘の明里、そして幼い息子の遊馬の屈託のない笑顔が映っていた。焚火のオレンジ色の光に照らされた一馬の横顔は、険しい冒険家のそれから、愛情深い父親の顔へと和らいでいる。
「家族の写真かね」
バイロンが優しげな視線を向けると、一馬は愛おしそうに写真を指先で撫でた。
「えぇ。坊主のほうはデュエルに夢中でね……そう言えば、俺の同学部生の息子もそうらしくて。いつか戦っているところを見てみたいもんです」
その言葉に、バイロンは自身の家庭の事情を思い出し、どこか共感を込めた笑みを浮かべる。
「それは奇遇だ、ウチの息子たちもだ。私には三人の息子がいてね」
一馬は興味深そうに瞬きをした。
「ほぅ。クリス君に弟が二人も」
バイロンは目を細め、遠く離れた地上で留守番をしている我が子たちを思い描く。
「えぇ。しかも、多分一馬の息子さんと同じくらいの年齢だと思う」
死と隣り合わせの過酷な道中でありながら、焚火を囲む父親同士の会話は自然と熱を帯び、張り詰めていた夜の空気を少しだけ温めた。
「それは中々に、運命を感じますね」
「ああ。息子と言えばDr.フェイカーにも二人の息子が……」
一馬が楽しげに相槌を打つと、バイロンはふと視線を少し離れた暗がりへと向け、憂いを帯びた声で呟いた。その言葉に、一馬は自然と眉をひそめ、冷たい闇のなかで孤軍奮闘する男へと視線を移す。
「ほぅ。Dr.フェイカーはどうしてあんなに思い詰めているんです?」
バイロンは親友のいるはずのテントを見つめながら、複雑な痛みを伴う溜息を吐き出す。
「分からない……だがフェイカーは本物の天才だ。きっと何か、考えがあるに違いない。それに私は、何としても異世界の扉を彼に見つけさせてやりたいんだ」
親友への絶対的な信頼。バイロンの言葉には、狂気に片足を突っ込んでいているフェイカーを自分が支え抜くという強い決意が込められていた。
「Dr.フェイカーは、あなたのような親友がいて幸せだ」
一馬の真っ直ぐな言葉を受け、バイロンは少し照れくさそうに笑い、話題を再び一馬へと向けた。
「親友、か。そういえば、さっき言っていた君の同学部生はどうなんだい?」
「そうですね、職業がまるきり違うので会うことは少ないですが。時たま連絡を取り合う仲ですよ」
一馬は、過酷な地底の中でも思い浮かべるだけで心が温かくなるような、大切な親友の顔を思い出す。しかしその答えに、バイロンは少し首を傾げ、不可解そうな笑みを浮かべる。
「フム、それは君なりに親友と呼べるのだろうか?」
一馬は少しも迷うことなく、力強く頷いてみせた。
「当然。そうだ、私の親友は寿司屋をやってまして。今度機会があったら連れてってあげますよ」
バイロンは寿司屋という言葉の響きに新鮮な驚きを覚え、目を丸くする。
「寿司屋か。それは中々面白い親友だ」
一馬は、不器用で真っ直ぐな友人の顔を思い浮かべて、楽しそうに笑った。暗闇の中にあっても、彼の心は常に地上にある大切な人々との絆で明るく照らされている。
「派手なことを地味にやる奴ですよ、ハートランドに移転するのも何時のことになるんだか」
一馬の言葉の意図を汲み取り、バイロンは興味をそそられたように身を乗り出す。
「それは君の息子のためかい?」
一馬は焚火の炎を見つめながら、穏やかながらも胸の奥の秘めたる熱を言葉に乗せた。
「正直に言えば、はい。俺の息子と親友の息子、ぶつかるところを見てみたい気持ちがあるのは否定できません」
バイロンはその壮大でどこか楽しげな未来図に、心からの笑みをこぼした。
「フフ、私の家族も会わせてみたくなるな」
「ま、とはいえども移転云々は唐突に言ってみただけなので。どうするかはアイツ次第ですよ」
バイロンは目を細め、まだ見ぬその男に深い興味と親近感を抱いていた。
「そこまで君に言わしめる友か……益々興味が出てきた」
「それは楽しみだ」
焚火が薪をはぜるパチパチという音と、静まり返った地底の底知れぬ気配だけが、暗闇の中で静かに響き続けていた。バイロンと一馬が外の焚火を囲んで語らっている中、テントでパソコンと向かっているフェイカーの双眸が異様な輝きを帯びる。
「……二つの魂を捧げる時、大いなる扉が開かれる」
神話の記述の一節だった。乾いた声で呟かれたその不吉な予言は、静まり返ったテントに重く冷たく反響する。しかし、フェイカーの表情に迷いはなかった。狂気に満ちたその確信に満ちた笑みが、暗闇の中で微かに浮かび上がる。
「やはり、な」
それから過酷な道程を耐え抜き、三日後。三人の男たちはとうとう目的の最奥部へとたどり着いた。足を踏み入れたそこは、人工物とも自然の造形ともつかない、禍々しくも神聖な空気が淀む巨大な空間だった。地上から冷え切った空気が彼らの肌を刺す。
「これは、遺跡か」
バイロンは驚愕に目を見張りながら、手元のライトを高く掲げた。その揺らめく灯りが、壁面に刻まれた人類の知見を遥かに超越した超古代の幾何学的な紋様を浮かび上がらせる。フェイカーは狂気と執念に満ちた血走った目で、その広間の真ん中を見据えた。
「まさか、これは……いや、そうだ、間違い無い!これは異世界の…!」
興奮に肩を震わせるフェイカーの姿に、バイロンも息を呑む。
「だとしたら、この先に異世界の扉が……!」
その言葉に、フェイカーは狂おしいほどの焦燥を滲ませる。
「そのようだな。フェイカー、先に急ごう」
足場の不安定な石畳を、先頭に立って案内人の一馬が進んでいく。その後ろを、バイロンとフェイカーが慎重に足場を確かめながら追った。
「この先は細道、くれぐれも落ちないように」
足元を照らしながら一馬が注意を促すが、フェイカーの耳にはその声すら届いていないようだった。
「フェイカー、聞こえているか?」
「ん?あ、ああ」
バイロンの問いかけに生返事を返したきり、フェイカーは再び前方の闇へと視線を固定する。
「では行こう」
やがて、彼らの歩みはひとつの宙に浮かぶような台座で行き止まった。階段を上った先にあったこの台座に一馬とバイロンが立ち、その階段の元でフェイカーが待機する。それまでの険しい道程とは打って変わり、不自然なほどに平らに整えられた不気味な石床が広がっている。
「ここで行き止まりか……おかしい、何かあるはずだ」
一馬がライトを足元に近づけ、周囲の壁や床をまさぐるように見回す。バイロンもまた、その不自然さに眉をひそめてじっと床面を凝視した。
「一馬、この床にも未知の文字が……」
「ん?これは……」
その瞬間、足元に刻まれていた古代の文字が、まるで意思を持ったかのように血のような鮮烈な輝きを放ち始めた。
「「!?」」
ゴゴゴ……ッと地響きが轟き、突如として禍々しい真紅のオーラが床の亀裂から爆発的に噴き出す。その圧倒的な熱量と重圧が、二人の体を容赦なく包み込んだ。
「何!?」
耳をつんざくような激しい放電音とともに、幾筋もの赤い稲妻がバイロンと一馬の肉体を貫き、二人は激痛に声を失って崩れかける。しかし、そのすぐ下の安全な場所に立っていたフェイカーは、助けようと手を伸ばすどころか、冷徹な笑みを浮かべたまま一歩、また一歩と台座の元へと足を進める。
「遂にこの時が来たッ!」
「フェイカー!」
あまりの豹変ぶりに、バイロンは痛みに顔を歪めながら息を呑む。
「君たちには悪いと思っているよ」
「フェイカー、一体何のつもりだ!?」
抗議の声を絞り出すバイロンに対し、フェイカーは狂気に歪んだ笑みを深めたまま告げた。
「その足元には、こう書かれてある。『二つの魂を捧げるとき、大いなる扉が開かれる』と!」
「まさか、我々を生贄にするつもりなのか!?答えろ、フェイカー!」
「私は異世界の扉を見つけなくてはならないッ!」
取り付く島もないフェイカーの狂気的な執念に、一馬は歯を食いしばる。
「Dr.フェイカー!バイロンは親友ではなかったのか!?」
「親友?下らん!」
フェイカーの冷酷な言葉が、冷え切った遺跡の空間に冷ややかに響き渡る。
「もし君が私を親友だと言うのなら、喜んで私の犠牲となってくれ!バイロン!!」
「ぐっ……フェイカーァッ!!」
怒りと絶望に満ちたバイロンの叫びを、フェイカーは冷たく切り捨てた。
「所詮貴様のような凡才には分からんさ!!」
足元から崩れ去る台座と、底なしの重力が二人を引きずり下ろす。
「おわあぁぁああーっ!」
「バイロン!」
真紅の重力の奔流に足元をすくわれ、奈落へと落ちていくバイロンへと、一馬は迷うことなく咄嗟に左手を岩肌に固定し、右手をバイロンへと手を伸ばした。
「一馬!?一馬、手を放せ、巻き込んでしまったのは私だ、君じゃ……」
巻き込んでしまった身分であるにも関わらず自分を助けようとする一馬の姿に、バイロンは必死に腕を振り払おうとする。しかし、一馬の瞳の光は微塵も揺らいでいなかった。
「やんちゃ坊主曰く、デュエルをすれば皆仲間だそうです!」
「!?」
「私にとって、冒険とはデュエル!冒険をともにするものは、皆仲間に他なりません!」
「一馬!」
バイロンの目に一瞬希望の光が灯り、一馬が引き上げようと力を振り絞る。
「俺は絶対諦めない!」
極限の絶望的な状況にあっても、一馬の瞳に宿る冒険家としての輝きは決して消えなかった。だが、その頭上の安全な足場から、狂気に満ちた目を光らせる男の冷酷な宣告が、すべての希望を断ち切るように容癬なく降り注ぐ。
「さぁ私の生贄となり、消えゆくがいい!底知れぬ絶望へと、沈めェ!!」
遺跡が放つ圧倒的な闇と真紅の光が、二人の姿を完全に呑み込んでいく。
「なっ……」
左手で掴んでいた岩肌が崩れ、一馬とバイロンは暗黒の異世界の扉へと落下していく。崩れゆく意識のなか、バイロンの魂の底からの呪詛と叫びが、底知れぬ闇の底へといつまでもこだました。
「この恨み忘れんぞ、フェイカーァぁああああああぁぁッッ!!!」
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衝撃的な真実が、星々の煌めく宇宙空間のフィールドに重く冷たく落ちた。遊馬は息を呑み、受け止めきれない現実の重さに呆然と立ち尽くす。
「それが、父ちゃんの最期……」
震える声で呟いた遊馬の瞳から、信じられない事実に対する驚愕が漏れ出る。行方不明だった父がたどった残酷な運命。そのあまりに理不尽な結末を突きつけられ、胸が引き裂かれるような痛みが走った。だが、Ⅴの冷徹な声が、その感傷を容赦なく切り裂く。
「しかし、私の父は戻ってきた!異世界の狭間を彷徨いながら、復讐だけを心の糧として……」
Ⅴの双眸には、長年抱え続けてきた暗い狂気と憎悪の炎が揺らめいていた。
「!?」
「だが、代償としてその姿は変わり果ててしまった……それが我が父、トロンの姿だ!」
その衝撃の告白に、遊馬と小鳥は言葉を失った。
「えっ!?」
「な、何だって?!あのトロンが、ⅢやⅣ、Vの父ちゃん!?」
信じられないといった様子で小鳥と遊馬が驚愕の声を上げ、カイトもまた混乱に顔を歪める。あの歪んだ笑みを浮かべる子供の姿をした男が、あの兄弟の父親であるという事実。
「その通り。全ての元凶は、Dr.フェイカーにある!その報い、必ずや受けてもらう!!」
Ⅴの怒りに満ちた声が、静寂の宇宙空間にこだまする。
「……オレにあるのはハルトだけだ」
だが、その重い因縁の告発を聞いても、カイトの態度は微動だにしなかった。彼は冷たい光を宿した瞳のまま、吐き捨てるように言い放つ。
「奴が、Dr.フェイカーのしたことなど、何も興味が無い!デュエルを再開する、どけ遊馬!」
カイトにとって、唾棄すべき父親の過去や血縁の因縁などどうでもよかった。目の前にあるのはただ、弟のハルトを脅かすすべての障壁を排除することだけだ。遊馬を冷酷に制し、カイトは再び闘志を剥き出しにする。
「俺の父ちゃんとトロンが、カイトの父ちゃんに……」
混乱と衝撃の渦中、遊馬は複雑に絡み合う因縁の糸の重さに歯を噛み締める。だが、カイトの決意は揺るぎなかった。
「あんな奴、父親などとオレは認めん!行くぞ、V!!」
冷徹な怒りを乗せ、カイトが再びデュエルディスクを構える。因縁の激突が、再び幕を開けようとしていた。
ZEXALの親世代ほど強烈な存在感を放つのは遊戯王シリーズの中でも珍しいと思います。
零王?ノーコメで。