軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
MDの改定は個人的には妥当。
「オレのターン!ドロー!」
鋭い声と共に、カイトはデッキからカードを引き抜く。
「オレは《フォトン・スラッシャー》を特殊召喚し、さらに《フォトン・パイレーツ》を通常召喚!」
カイトが勢い良くデュエルディスクにカードを叩き込むと同時に盤面に光の戦士と海賊が実体化し現れる。
「《フォトン・パイレーツ》は墓地の「フォトン」モンスターを一枚除外し、このターンの攻撃力を1000ポイントアップできる!」
海賊の持つ剣が戦闘機の力を受け継ぎ眩い光を帯び、その力が底上げされた。
《フォトン・パイレーツ》ATK 1000 → 2000
「攻撃力2000以上のモンスターが2体……来るか」
Vは冷徹な眼差しのまま、これから訪れる既知の脅威を静かに待ち受ける。カイトの全身から凄まじいオーラが噴き出し、二体のモンスターが光となって消える。どこからか現れた槍のようなものを天高く投げ、カイトは高らかに口上を叫ぶ。
「闇に輝く銀河よ、希望の光と為りて我が僕に宿れ!光の化身、ここに降臨!!」
眩い閃光を放ちながら、カイトの絶対的なエースモンスターが舞い降りる。
「現れろ、《銀河眼の光子竜》!!」
美しくも獰猛な光の竜を前にしても、Vの思考は至極冷静だ。カイトもそれに負けじと過去の戦闘から、未だ姿を現さない不可視の敵のステータスを弾き出す。
(先ほど《フォトン・デルタ・ウィング》が《ダイソン・スフィア》で攻撃された時、オレは1000ポイントのダメージを負った……《フォトン・デルタ・ウィング》の攻撃力は1800。つまり、《ダイソン・スフィア》の攻撃力は2800!)
「ならば、攻撃力3000の《銀河眼の光子竜》で粉砕してくれる!行け、破滅のフォトン・ストリーム!!」
勝機を見出したカイトが鋭く腕を振り下ろす。銀河眼の光子竜が大きく顎を開き、不可視の敵が潜む虚空へ向けて極太の光線を放った。
「愚かな」
必殺の一撃を前にしても、Ⅴは嘲るように鼻で笑った。
「何!?」
突如、何もないはずの宇宙空間が激しく明滅し始める。
「良いだろう……見せてやろう、カイト……私のナンバーズを!」
Vが腕を振り下ろすと同時に突如として空間そのものが歪み、圧倒的な質量を持った光が辺り一面を覆い尽す。
「何だ、この光は!?」
あまりの眩しさにカイトと遊馬、小鳥が腕で顔を庇う。次の瞬間、彼らの頭上に広がっていた星空が完全に遮られた。目を開くと共に姿を現したのは、恒星を丸ごと覆い尽くすほどの、常軌を逸した超巨大な機械構造物だった。
「太陽をも覆う、超巨大モンスター……それが、《天蓋星 ダイソン・スフィア》!!」
「なんだぁ、この馬鹿でかい大きさは!?」
視界に全く収まりきらないその威容に、遊馬が顎が外れんばかりに驚愕する。それもそのはず、天に浮かぶ太陽をも覆い、星空だと信じて疑わなかった宙がまさか人工物のものだとは思わなかったからだ。
「カイト、君は必死で《ダイソン・スフィア》を戦闘破壊したいようだが……無駄だ。このモンスターは、オーバーレイ・ユニットがある限り相手のモンスターの攻撃を無効にすることができる」
Ⅴの冷たい宣告と共に、ダイソン・スフィアから放たれた強固なエネルギーバリアが、銀河眼の光子竜の渾身の一撃をあっさりと掻き消してしまった。
「攻撃が通らないのはそのためか。自らタネを明かすとは、随分と甘く見られているな!効果が分かれば」
自身の攻撃が無に帰したカイトだったが、その闘志はまだ死んでいない。見えない敵の正体と効果が割れたことで、次の一手への反撃を虎視眈々と狙う。しかし、Ⅴはその微かな反骨心すらも残酷な事実でへし折る。
「無駄だと言っている。キミの考えることなど、私には手に取るように分かっている。何せ、君にデュエルを教えたのはこの私なのだから!」
目前のカイトに、Vはそう言い放つ。
「Vがカイトの師匠だって!?」
明かされたもう一つの衝撃的な真実に、遊馬は目を丸くして叫んだ。広大な宇宙を模したフィールドに、Vの静かな声が冷たく響き渡る。底知れぬ漆黒の闇に散りばめられた人工の星々は、彼の心に巣食う底なしの孤独と絶望をありのままに映し出しているかのようだった。
「トロン、いや私の父が居なくなり、私の家族はバラバラになった」
かつて家族を包んでいた温かかった団欒はとうの昔に失われ、彼の瞳は今、遠く離れた過去の残酷な幻影だけを淡々と追っている。
「幼い弟たちは施設に引き取られ、私は父がいなくなった事件の真相を知るべく、Dr.フェイカーの元に残った」
思い出すのはあの日。父が失踪した後にⅣとⅢとなる前の二人の弟が自分を見つめながら、養うための施設の職員へと引き取られ連れていかれる、無力さを痛感するしかなかったあの日だった。
「そんなある日、君たち兄弟に出会った。カイトとハルト、私は君たちと私の弟を重ねて見ていたのかもしれない」
復讐の炎が渦巻く心の奥底で、かつて真実を知る前に師として幼きカイトに接していた頃の情が僅かに揺らめく。冷徹な仮面の下に隠された、長男としての重圧と悲哀。全てを奪われた男が、憎き敵の息子たちにほんの僅かな重なりを見出そうとしたのは、皮肉な運命の悪戯だったのか。
「キミは強くなりたがっていた。弟を守るための力を渇望していた……だから、私はキミにデュエルを教えた。それがこんな形で戦うこととなるとは、夢にも思っていなかった」
吐き出された言葉には、確かに師としての過去の慈愛が存在した。しかし、それも一瞬の幻影に過ぎない。
「だが容赦はしない、キミが敵として立ちはだかるのならば!」
「チッ。V、元より情けは無用だ!オレはカードを一枚伏せてターンエンド」
今は敵。カイトの恩師からの重く鋭い宣戦布告に対しても、彼は表情一つ変えることはなかった。全身の細胞を苛むフォトンモードの凄まじい反動に耐えながら、彼は依然として冷徹な眼差しでカードを伏せる。彼にとって過去の因縁など、愛する弟を救うための障害でしかないのだ。
「私のターン、ドロー。カイト、君はこう考えている。私のモンスターの攻撃力は2800、だが《銀河眼の光子竜》の攻撃力は3000!よって攻撃できない……と」
「……」
カイトは沈黙するしかない。Vはかつての弟子の思考回路など、息をするように容易く把握し尽くしている。余裕を漂わせながら、彼はさらなる絶望の扉を容赦なくこじ開ける。
「だが《ダイソン・スフィア》はまだ能力を残している!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、直接攻撃が可能となる!《ダイソン・スフィア》、カイトに直接攻撃!」
虚空から顕現した、巨大な太陽をすっぽりと覆い隠すほどの機械仕掛けの怪物。その無機質な砲門から、逃げ場のない熱線の雨が降り注ぐ。それは一つの星系を丸ごと焼き尽くすほどの、圧倒的で暴力的なエネルギーの奔流だった。
「何!?罠発動、《光子化》!相手モンスターの攻撃を無効にし、その攻撃力分だけ自分の光属性モンスターの攻撃力を上げる!」
突如として告げられた能力に、カイトは条件反射的に罠カードを跳ね上げる。だが。
「無駄だ。お前のデュエルは……読めている!罠発動、《スペース・ゲート》!このカードは、フィールドに《ダイソン・スフィア》が存在するなら相手の罠を無効にして破壊する!」
「何!?」
そんな抵抗すらも、すべては師の緻密な計算の範疇に収まっている。抵抗は容易く粉砕され光の奔流が一直線にカイトの命を刈り取りに迫る。それは単純なデュエルタクティクスの差ではなく、相手を知り尽くした情報量の差がもたらした必然の結末だった。
「受けるがいいカイト、私がDr.フェイカーに受けた苦痛を……家族を壊された恨みを!」
「ぐっ……あああ!」
空間をぐにゃりと歪めるほどの高熱の直撃を受け、カイトの細い体がコースター上で紙屑のように激しく吹き飛ぶ。プロテクターが焦げる不快な匂いと、床に叩きつけられる鈍い衝撃音が、無機質なフィールドに痛々しく響き渡った。
カイト LP 3000 → 200
「カイトがこんなにアッサリと……」
自分の中で絶対的強者として君臨していたカイトが為す術なく追い詰められていく異常な光景に、遊馬は心底からの戦慄を覚えた。カイトとのデュエルで為すすべなく追い詰められたあの時とは一転、今ではカイトがVに圧倒されている。
「はぁ、はぁ……!」
苦痛に塗れた荒い息遣いだけが、空間に生々しく響く。激しい衝撃の余韻から、オービタル7は主の身を案じて悲鳴のような声を上げた。
「カイト様!やはりフォトンモードがお体に」
誰が見ても分かる主の危機に吼えるオービタル。過剰なエネルギーの奔流が肉体を内側から蝕んでいる。だがカイトは奥歯を砕けんばかりに噛み締めて怒声を絞り出した。
「黙れオービタル!ぐっ、はぁ、はぁっ……」
荒い息遣いの一度一回が、まるで生命の灯火を削り取っていくような痛々しさを伴っている。そんなボロボロの教え子に対し、Vの冷徹な瞳には慈悲の色など一片も宿っていなかった。
「無様だなカイト、ここでへばっていては……私を倒すことは不可能だ!」
見下ろすVの視線は、どこまでも残酷で非情だった。
「カイト、立つんだ、カイト!」
遊馬はしてもたってもいられず、カイトに再起するよう叫んでしまう。
「こんなとこで倒れたら、ハルトはどうなっちまうんだよ!?」
「黙れと言っている!お前に同情される筋合いは無い!」
だが、そのエールさえもカイトにとっては苦痛でしかない。同情など不要だからだ。
「そうだ!トンマは黙っていろ!」
オービタルもそれに賛成するように遊馬を流れるように罵倒するが、隣の小鳥がズレたツッコミで抗議する。
「何よ!遊馬はバカだけどトンマじゃないわ!」
「エェ!?」
そこかよ、と思ってしまう遊馬だったが真にツッコむべき所はそこじゃない。
「ああもう、とにかく、カイト!諦めんじゃねぇ!」
遊馬はあくまで泥臭い声援を贈るだけだ。それしか、カイトの助けになることはできない。
「意外だな九十九遊馬。キミがカイトの味方をするとは……分かっているだろう、カイトは一馬さんを裏切った、フェイカーの息子。そして何よりナンバーズハンター……自分の利益のために、ナンバーズを集めているということは知っているはずだ」
二人の間に流れる奇妙な連帯感を冷ややかに遮るように、Vの静かな問いかけが重く落とされる。
「事が済めば、君もいずれ狩られる立場なのだぞ?」
それは遊馬という少年の立場を容赦なく抉り出す、あまりにも残酷で冷徹な正論だった。利害関係だけで推し量るならば、ナンバーズを巡り敵対する彼らが味方同士になる理由などどこにもない。いつ背後から牙を剥かれるかも知れない危うい関係性であることを、Vは冷徹な事実として突きつけた。だが、Vの冷徹な指摘を受けても、遊馬の瞳の光は少しも揺らがなかった。
「あぁ、分かっているさそんなこと!けど俺はカイトとデュエルをした、俺はそこで負けた……でも、俺はそんな強ぇ奴に憧れる!だからあいつがどう思おうと、俺はカイトの仲間だ……そして、俺の目標なんだ!」
計算も打算も、裏切りに対する恐怖すらも超越して、ただデュエルを交え、互いの魂の熱量をぶつけ合い、また圧倒された相手を真っ直ぐに信じ抜くという、彼特有の圧倒的な純粋さが、暗黒の空間を貫くように放たれる。
「仲間か、一馬さんも大切にしていた言葉だ。だが、フェイカーはそれを裏切り踏みにじった!そんな奴を許せるのか!?そんな奴の息子を!?」
「っ……!」
「バイロンがトロンとなりこの世界に戻り、全ての真実を知った日……私は……!」
しかし少年のあまりにも眩しすぎる言葉は、長年Vの心に巣食っていた深い絶望の澱を激しく突いた。信頼し、敬愛していた者に全てを奪われたという癒えぬ傷と、抑えきれない激しい怒りが、堰を切ったようにその声に痛切な影を落とす。
「戯言はここまでだ!オレは貴様を倒し、ナンバーズを回収する、それだけだ!」
「所詮キミには分からんだろうな、我々の恨みなど!」
感情の奔流に呑まれかけるVに対し、カイトは迷わずあくまで己の目的のみを冷徹に掲げる。
「黙れッ!オレのターン、ドロー!」
二人の間に横たわる、決して交わることのない怨念と執念。悲壮な決意を纏い、悲鳴を上げる肉体で、カイトは勝機への細い糸口を掴むべく、全霊の力を込めてデッキからカードを引き抜いた。
(《ダイソン・スフィア》の効果は二つ……直接攻撃に攻撃の無力化)
極限のプレッシャーの中、カイトの脳裏で研ぎ澄まされた計算回路が狂いなく回転を始める。
(……Vは無敵だと信じているようだが、オレには策がある!)
「オレは魔法カード、《オーバーレイ・ブレイク》を発動!このカードは、オーバーレイ・ユニットを全て墓地に送りそのモンスターのバトルによる破壊を可能にする!」
カイトはカードを掲げ、無敵を誇るモンスターの隙間をこじ開けるための魔法を放つ。
「《ダイソン・スフィア》の攻撃無効効果はオーバーレイ・ユニットが存在する場合のみ。それを狙ってきたか」
「《銀河眼の光子竜》、攻撃だ!破滅のフォトン・ストリーム!!」
その頭脳が生み出した起死回生のカードが、盤面に鮮烈な光を描き出す。光子竜の咆哮と共に放たれた極太の閃光が、見えない防壁を強引に引き剥がし、勝利への道をこじ開けたかに見えた。だが、それを迎え撃つVの表情には、焦燥の色など微塵も存在しなかった。
「甘い、それこそが甘さだ!私は《ダイソン・スフィア》の3つ目の効果発動!」
「なっ……3つ目だと!?」
「オーバーレイ・ユニットが無い状態でこのモンスターが攻撃される時、墓地からオーバーレイ・ユニットを二つ回収する!」
カイトにとって3つ目の能力は想定外だった。弟子の浅はかな読みの数歩先を余裕で歩んでいたかのように、Vは容赦なくさらなる絶望の現実を突きつける。
「ここで1つ目の効果発動!オーバーレイ・ユニットが存在する状態で攻撃宣言が行われた時、それを無効にする!」
虚空から吸い寄せられた光の粒子が瞬く間に絶対防御を再構築し、光子竜の渾身の一撃をあざ笑うかのように霧散させた。
「……オレは、カードを一枚伏せてターンエンド」
「カイト!?それじゃ次のターン」
全ての計算を打ち砕かれ、反撃の手段を完全に奪われたカイトは、激しい疲労と圧倒的な無力感に包まれながら力なくターンを譲る。その絶望的な結末に、遊馬の悲痛な叫び声が虚しく響き渡った。
「万事尽きたな、カイト。私のターン、ドロー……私は装備魔法、《重力砲》を発動。この装備魔法は、一ターンに一度、装備モンスターの攻撃力を400ポイントアップさせる。また、相手モンスターの効果を無効にする!」
Vの冷酷な宣告が、死刑執行の合図のように重く響き渡る。
「私は《銀河眼の光子竜》の効果を無効にする!」
展開された重力の奔流が、暴虐なエネルギーをもって光子竜の神々しい巨体を強引に縛り上げ、その全ての力を完膚なきまでに封じ込めていく。
《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》ATK 2800 → 3200
「勝つだけでは不十分。私の勝利は、お前の銀河眼を粉砕することで完結するッ!」
ただ勝利するだけでは飽き足らず、かつての教え子の誇りと魂そのものを粉々に打ち砕くことこそが、復讐者としての完結であると告げるVの執着。
(カイトのライフは200しかねぇ……《銀河眼の光子竜》の攻撃力は3000!3200の《ダイソン・スフィア》の攻撃が通っちまったらッ……!)
遊馬の顔から血の気が一気に引く。
「やれ、《ダイソン・スフィア》!ブリリアント・ボンバードメントッッ!!」
「カイトォォォ!!」
取り返しのつかない最悪の破局を前に絶叫が響く中、Vが振り下ろした冷酷な腕の合図とともに、天を覆うほどの規格外の閃光が放たれ、カイトの小さな背中を容赦なく呑み込もうと殺意を剥き出しにして殺到した。
####
ところ変わって、ここは地下深くを縦横無尽に走るデュエルコースターのレーン上。既に2つのフィールドで決闘者がデュエルを繰り広げた、もしくは繰り広げている中、暗闇の中を猛スピードで駆け抜けるコースターで、赤司寿と神月アンナの姿がそこにはあった。
「アンナ、不味いことが発覚した」
風を切り裂きながら進む機体の上で、寿は思案の後に渋い顔を作った。
「何だい師匠?案内はもうレーンに従うだけだろ?」
同乗しているアンナが、呆れたような声で首を傾げる。そうだ、既に周りに決闘者はいない。ここには、寿とアンナの乗るコースターだけ。案内しようも無い。
「そうなんだが、従うだけだと不味いんだ」
「はぁ?」
要領を得ない寿の言葉に、アンナは眉をひそめて露骨に訝しげな顔をした。寿は手元のパネルを操作し、現在のWDC決勝大会の状況を整理する。
「このステージは、4か所のフィールドで一騎打ちして決勝トーナメントの出場を決めるステージ……」
ジャングル、スペース、キャニオン、マグマ。そして既に、ジャングルとスペースの二つのフィールドが使用されている。前提としてこの決勝大会は二つのプロセスを経てトーナメントに駒を進めれるシステムとなっている。第一が先ほどまでの何でもありの乱闘デュエル、第二が現在繰り広げられているフィールドによる一騎打ちだ。フィールドで一騎打ちし、勝ち残った者が決勝トーナメントに進める。残るはキャニオンとマグマ、残り二枠だ。
「つまり?」
アンナは寿の言葉の真意が理解できない。当然だ、唐突に言われているのだから。
「今残っている決闘者は遊馬とゴーシュ、Ⅳにシャークと俺。既にトロンはジャングルフィールドでドロワに勝って決勝トーナメント進出を決めている……で、画面を見るにVとカイトがスペースフィールドで今デュエルしている。このことから何が分かるかな、アンナ君?」
寿は脳裏で焦りを感じながらわざと勿体ぶって問いかけると、アンナは考える素振りすら見せずに胸を張って言い放った。
「いんや、全く何も分からん!」
そのあまりにも清々しい即答っぷりに、寿は思わずズッコケそうになるのを堪えて核心のヒントを突き付ける。
「残り2つのフィールド、残り5人の決闘者!」
「あっ!師匠がデュエルする相手が居ねぇ!?」
ようやく事の重大さに気づいたのか、アンナが目を丸くして声を上げる。その通りだ。再度述べるが、この決勝大会はフィールドで一騎打ちし、勝ち残った者のみが決勝トーナメントに進める。残るはキャニオンとマグマ、残り二枠だ。つまり、勝ち残るには必ず現時点で残っている決闘者が偶数で無ければならない。しかし、現実は奇数。
「ああ。このままだと、俺が余りものになっちまう。しかも俺が最後尾……不味い、急ぐぞ」
まさか、一騎討ちしないで決勝大会が終わりタイムオーバーで敗退などという無様な結果を見せてしまえば親父からどんなお言葉が来るか分からない。いや、お言葉などでは済まされないだろう。寿がそんなことを考えながら焦りと覚悟を元に操縦桿を強く握りしめると同時に、アンナは首を傾げる。
「急ぐって言ってもどこに向かうんだよ、そもそも相手が見つからねぇじゃ話になんねぇだろ」
「シャークの所だ、そこしか場所はねぇ」
アンナの最もな指摘に対し、寿は既に内心で決めていた目的地を口にした。確信を持ったその口ぶりに、アンナはジッと寿の顔を窺い込む。
「さっきから思ってたけどさ、何か考えがあるようだな?」
アンナの問いかけに対し、寿は軽く返答する。
「まぁな。俺は俺なりに尻ぬぐいしなきゃな」
「どういうことだよ?」
寿は前方を真っ直ぐに見据え、自分自身に言い聞かせるように呟いた。
「フラグをへし折っちまったことに対する贖罪さ」
「フラグって、何言ってんだか。って師匠、前!!」
言っている意味が全く分からないアンナがまた一人で何考えてんだか、と呆れかけたその直後、彼女の血相が変わって前方を指差した。
「あっ」
視線の先、レーンが唐突にあり得ないほどの急角度で真下へと落ち窪んでいた。
「「うわぁぁぁああぁぁーーーっ!!!」」
内臓が浮き上がるような強烈な落下感と共に、コースターが猛スピードで奈落へと急降下していく。
「ジェットコースターじゃねぇのに、何でこんなに曲がりくねってるんだよぉぉぉ!!!」
「座席数を見るに、遊園地の流用品だからだろぉぉぉ!!!」
絶叫マシンさながらの激しいアトラクションに、寿とアンナの情けない悲鳴が暗い地下のレーンに虚しく木霊していった。
####
圧倒的な閃光と破壊の嵐が吹き荒れ、もうもうと立ち込める爆煙がフィールドを覆い尽くす。やがて煙が晴れたそこには、間一髪で発動した罠カードに守られ、片膝をつきながらも辛うじて持ち堪えたカイトの姿があった。
カイト LP 100
「ぐっ……はぁ、はぁ……」
フォトンモードの反動と度重なるダメージにより、その肉体は文字通り限界の淵にあった。カイトは衝撃により再び倒れてしまっている。意識は今にも消え入りそうで、苦痛に満ちた荒い息遣いだけが静寂の空間に生々しく響く。
「カイト……!罠カードで耐えたのはいいけど、もう後がいよいよ無ぇ……!」
風前の灯火となったカイトのライフポイントを見つめ、遊馬が祈るように拳を握りしめる。もはや絶対絶命の窮地。だが、カイトを見下ろすVの瞳に浮かんでいたのは、勝利への歓喜ではなく、底知れぬ哀れみだった。
「諦めろカイト。私は、キミを敵と思っているが同時に苦しめたくないと思っている……ナンバーズハンターとしての使命から、ハルトの苦しみからもこれで解放される」
それはかつての恩師として、教え子へ向ける最後の憐憫の情。すべてを背負い込み、ボロボロになりながら戦い続ける孤独な戦士を、これ以上傷つけたくないというVなりの残酷な優しさだった。
「これが私がキミにかけられる最後の情けだ、カイト!」
引導を渡すようなその宣告が、冷たい宇宙の空間に重く響き渡る。だが、微動だにしなかったカイトの肩が微かに震え、絞り出すような低い声がそれに抗った。
「違う……」
「「「!?」」」
不意に紡がれた言葉に、Vも遊馬たちも息を呑む。カイトはゆっくりと身を強引に腕の力で立たせようとし、同時に血の気の引いた顔に宿る双眸を、かつての師へと真っ直ぐに向けた。その瞳の奥には、決して消えることのない烈火の如き闘志が燃え盛っていた。
「違う!オレは一度だって……ハルトのことをオレの苦しみだと、思ったことなど無い!!」
カイトの魂の底からの叫びが、フィールドの静寂を激しく切り裂く。それは、ナンバーズハンターとしての冷徹な仮面をかなぐり捨てた、ただ一人の兄としての痛切で純粋な真実の吐露だった。
「ハルトは……オレの全てだ、生きがいだ!アイツはオレに、希望を与えてくれた、だから諦めないッ!」
弟の存在こそが、彼がこの世界を生き抜くための唯一の光。その譲れない絶対の想いを胸に、カイトは限界を迎えた両足に力を込め、再び力強く立ち上がる。
「故に情けなど不要……オレの運命は、オレが決める!!」
「いいだろう……来い、カイト!!」
カイトの放つ凄まじい気迫に呼応し、Vもまた哀れみを捨て去り、一人の決闘者として全力で迎え撃つ構えをとった。
「言われずとも!オレのターン、ドローッ!……このカードは!」
限界を超えた力でデッキトップから引き抜かれた一枚のカード。その券面を見た瞬間、カイトの瞳に驚愕と、何かを悟ったような複雑な光が過ぎる。だが、彼は迷うことなくそのカードを盤面へと叩きつけた。
「オレは魔法カード、《未来への想い》を発動!!」
まばゆい光と共に、見慣れぬ魔法カードがフィールドに展開される。それを目にしたVの表情に、初めて明確な動揺が走った。
「何だそのカードは……!?そんなカード、私とのデュエルでは一度も……!」
カイトの戦術、デッキ構成、そのすべての思考を読み切っていたはずのⅤにとって、それは完全に計算外の一手だった。驚愕するVに対し、カイトはどこか自嘲気味な、しかし吹っ切れたような笑みを浮かべる。
「不思議か?当然だ。どんなにオレのカード、デッキ、戦術を知り尽くしているアンタでも、このカードを知る訳が無いからな」
どういうことだ、と一瞬Vは怪訝な表情になるがその顔は一瞬で消えることとなる。
「何故ならこのカードは、人生でたった一度だけ……親父から貰ったカードだからだ!」
その事実が明かされた瞬間、Vは信じられないものを見るように目を瞠った。
「馬鹿な、父を憎むお前が!」
「ああ。オレは一度たりとも、このカードを使ったことは無い……」
冷酷な科学者であるDr.フェイカー。自分たち兄弟を道具のように扱い、憎悪の対象でしかなかった父親から幼い時渡された、唯一のカード。
「何故だ、仮にキミがそのカードをデッキに入れていたとして何故今……何故その憎き父親からのカードを使える!?」
「当たり前だ!」
「!?」
静まり返っていた宇宙空間に、遊馬の力強い叫びがこだました。憎しみの連鎖に囚われた大人たちの理屈を、真っ直ぐな少年の感情が正面から打ち破る。予期せぬ乱入者の声に、Ⅴはわずかに眉をひそめて視線を巡らせた。
「当たり前だろ、V!お前はDr.フェイカーに家族をめちゃくちゃにされちまった……でも、それはカイトも同じだ!」
遊馬は身を乗り出して必死に訴えかける。父親の悪行の影で、誰よりも傷つき、それでも弟を守るために地獄を歩み続けてきたカイトの背中を、遊馬は知っている。
「誰だって家族は守りたい!Vが家族を守りたいように、カイトも家族を守ってるじゃねぇか!!」
悲痛なまでの遊馬の叫びが、Vの心の奥底に封じ込めていた人間らしい感情を激しく揺さぶる。
「だから、カイトはそのカードを持っていたんだ!今は駄目かもしれねぇけど、自分の家族には希望があるって!」
「家族の、希望……!?」
鎖に縛られ、未来を見失っていたⅤにとって、それはあまりにも眩しい言葉だった。憎むべきDr.フェイカーの息子が、あの男から与えられたカードを捨てずにいた理由。それは、いつか必ず訪れるであろう家族の絆の再生を、心のどこかで信じているからに他ならない。
「だからカイトはッ!」
「黙れ。貴様にオレの心を代弁してもらうつもりは無い……《未来への想い》の効果発動!このカードは、自分の墓地からレベルの異なるモンスターを3体特殊召喚できる!」
遊馬の言葉を冷たく遮りながらも、カイトの眼差しには、これまでのような凍てつくような拒絶の色はなかった。不遜な態度を崩さず、彼は手元のカードをデュエルディスクへと力強く滑らせる。
「カイト!」
「黙って見ていろ遊馬……オレは、オレ自身で運命を決める!甦れ《銀河眼の光子竜》、《フォトン・パイレーツ》、《フォトン・スラッシャー》!」
墓地から三筋のまばゆい光がフィールドへと舞い戻る。だが、魔法カードの代償として彼らの力は極限まで削ぎ落とされていた。
「この効果で特殊召喚したモンスターの攻撃力は、全て0になる……」
実体化した三体のモンスターたちは、覇気のない姿でカイトの前に立ち並ぶ。
「無意味だカイト、幾らキミがモンスターを出したところでそれらの攻撃は届かないしレベルも異なる!私の《ダイソン・スフィア》には遠く届かない!」
絶対的な要塞を背にしたⅤは、再び冷徹な計算者へと戻り、カイトの無謀とも思えるプレイングを一蹴する。レベルがバラバラな以上、エクシーズ召喚に繋げることもできない。その理路整然とした絶望の宣告に対し、カイトは不敵な笑みを浮かべた。
「果たしてそうかな!」
「何ッ!?」
「オレは《シフトアップ》発動!この効果により、自分フィールドに存在するモンスターのレベルを一番大きいレベルを持つモンスターのレベルに揃える!!」
カイトの指先が魔法カードを起動した瞬間、フィールド上のモンスターたちが共鳴し合い、眩い光の渦が彼らを包み込む。下級モンスターであった二体が、銀河眼の光子竜と同じ次元の力を手に入れ、フィールドを圧倒的なエネルギーで満たしていく。
「レベル8のモンスターが三体……!」
「来るでありますね!?カイト様!!」
「俺は《銀河眼の光子竜》、《フォトン・パイレーツ》、《フォトン・スラッシャー》のレベル8の三体でオーバーレイ!」
三体のモンスターが光の粒子となり、天空に出現した銀河の渦へと吸い込まれていく。
「三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚!!」
宇宙空間のフィールド全体が激しく震動し、これまでのどの召喚よりも巨大なエネルギーの奔流が天を衝いた。限界を超えたカイトの全身から噴き出す凶々しいまでのオーラが、まばゆい真紅の光へと昇華される。どこからか現れた槍を天空へと投げつけ、カイトは叫ぶ。
「逆巻く銀河よ……今こそ、怒涛の光となりて姿を現すがいい!」
カイトの魂の槍の投擲に応え、三つの頭を持つ巨大な光の竜が、圧倒的な威厳を伴って漆黒の宇宙空間に顕現した。
「降臨せよ、我が魂!!《超銀河眼の光子龍》!!!」
鼓膜を破るほどの凄まじい咆哮が轟き、その全身から放たれる圧倒的な熱量と光が、カイトを赤いオーラで包み込む。
「この瞬間、フィールド魔法の効果により1ドロー!《超銀河眼の光子龍》の効果発動、フォトン・ハウリング!《超銀河眼の光子龍》がエクシーズ召喚に成功した時、自身以外の全てのモンスターの効果を無効にする!」
現れた究極の竜が、雄叫びと共に凄まじい衝撃波を放った。それは物理的な破壊ではなく、敵の能力そのものを掻き消す絶対的な力の波動。
「こ、これは……《ダイソン・スフィア》が!」
これまでカイトの全ての攻撃を無力化し、無敵を誇っていた超巨大構造物。その稼働音が急激に弱まり、表面を覆っていた強固なエネルギーバリアが、ガラスが割れるように次々と粉砕されていく。
「機能停止したであります!カイト様、今がチャンス!」
絶望の象徴であった巨大な星が、ただの巨大な鉄屑へと成り下がる様を前に、オービタルが歓喜の声を上げる。長きにわたる死闘の末、カイトはついにVの絶対防御を完全に打ち崩したのだった。
「さらに魔法発動、《ビックバン・パニック》!」
カイトの鋭く力強い叫び声と共に、フィールドに新たなカードのホログラムが投影され、眩いエネルギーの奔流となって超銀河眼の光子龍へと注ぎ込まれていく。
「このカードは、相手の表側表示の魔法・罠カードを全て相手のオーバーレイ・ユニットに変換し、さらにその数×800ポイント、《超銀河眼の光子龍》の攻撃力がアップする!」
《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》ATK 3200 → 2800
《超銀河眼の光子龍》 ATK 4500 → 5300
盤面を支配していた強固な布陣が次々と剥ぎ取られ、カイトの切り札の戦闘力がさらに跳ね上がる。
「さらに《超銀河眼の光子龍》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、《ダイソン・スフィア》のオーバーレイ・ユニットを全て吸収する!」
だが、カイトの攻勢はこれだけにとどまらなかった。圧倒的な力の螺旋は、さらなる高みへと昇り詰めていく。
「これにより吸収したオーバーレイ・ユニットは3つ!吸収した数×500ポイント、攻撃力がアップする……よって、《超銀河眼の光子龍》の攻撃力はさらに1500ポイント上昇する!!」
《超銀河眼の光子龍》 ATK 5300 → 6800
幾重にも重なるエネルギーの吸収により、超銀河眼の光子龍の巨体は眩いばかりの真紅の光を纏い、宇宙の暗闇をも切り裂くような威容を放ち始める。
「そして、《超銀河眼の光子龍》は吸収したオーバーレイ・ユニットの数だけ攻撃が可能になる!」
「カイト……!キミは!」
絶対的な優位を築き上げたカイトの胸中には、幼き日から今日に至るまでの長い旅路が走馬灯のように駆け巡っていた。
(オレは、アンタにあの日から……ずっと、ずっと追いつこうとしていた……!)
あの日、優しい目だったVの姿。今日こうして目の前にある冷徹な目のVの姿。それは憧れであり、超えるべき壁であった。
(今やっと……!!)
そして、今。
「今、今追いついたんだ!」
万感の思いを乗せたカイトの号令が、静まり返った宇宙のフィールドを大きく震わせる。
「《超銀河眼の光子龍》、攻撃ッ!!アルティメット・フォトン・ストリーム!!!」
凄まじい咆哮と共に、超銀河眼の光子龍の三つの口から放たれた極太の光の奔流が、あらゆる全てを呑み込みながら一直線にVの身構えるダイソン・スフィアへと直撃した。
「見事だ、カイト……」
爆風が吹き荒れる中、Vはその圧倒的な衝撃を受け止めながらも、どこか晴れやかな笑みを浮かべて静かに目を閉じた。
《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》ATK 2800 vs 《超銀河眼の光子龍》ATK 6800
V LP 4000 → 0
(カイト……これがキミの、強さか……)
勝敗を決した静寂の中、カイトは息を荒げながらもかつての師を見据える。
「V、立てるか?」
その差し伸べられた手には、敵対していた者同士の憎しみではなく、確かな敬意が宿っていた。Vはゆっくりと目を開け、痛みに顔を歪めながらも静かに自らの足で立ち上がる。
(フッ……こうして見ると、随分と成長したようだな)
心の中で呟かれたその感慨は、かつて幼き弟子の背中を見守っていた師としての温かな誇りに満ちていた。
「ああ。手向けは無用だ」
差し出された手をあえて取らず、自らの力で立ち上がったVは、不敵な笑みを浮かべることなくただ静かにそう言い放つ。目の前に立つカイトを改めて見据える。その凛とした佇まいに、Vは己の過去と重ね合わせるように微かに目を細めた。
(いや。今、キミの成長に気づかされたのか)
復讐という泥沼に囚われていた自分が気付くことのできなかった答えを、目の前の青年は自らの拳で掴み取っていたのだという確信が、Vの胸を満たしていく。
「V……」
「復讐の先にあるのは、虚しさだけ。そんなこと、私だって分かっていたさ」
自嘲気味に吐き出されたその言葉には、あまりにも長く暗い闇を一人で歩んできた男の深い疲弊と、どこか救われたような安堵の色が滲んでいた。その瞳に宿る穏やかな光の変化を捉え、カイトは静かにかつての師の本名を口にした。
「V……いや、クリストファー・アークライト」
「その名で呼ばれるのは、久しぶりだよ」
冷徹な仮面の下に隠されていた本来の優しさが、その名前と共にゆっくりと蘇っていく。
「それが、本当のVの名前……!」
戦いの只中にありながら、二人の間にはまるで長い呪縛が解けていくような静謐な空気が流れていた。
「父とともに、私たち家族は名前を捨てた。だが……カイト。私は父を救いたかった。しかし、異世界から還ってきた父の心は既にDr.フェイカーへの復讐心で埋まり切っていた」
復讐の亡霊と化した父親を止められなかった無力感。その痛切な後悔が、Vの胸を今も鋭く抉り続けていた。
「キミなら分かってくれるはずだ、カイト。私はそれを止められなかった」
同じように家族のために戦い、同じように不器用な生き方を選んだ弟子だからこそ、その苦痛の深さを理解できると信じたように、Vは切なげに目を伏せる。
「それが、親子というものだろう。どんなに大きい想いでも大人を止められる子供など存在しない」
子供の無力さを痛感してきたカイトの言葉には、どこか諦め似た冷徹さと、それを乗り越えようとする強い決意が同居していた。
「それは違うな、クリス」
だが、カイトは師のその達観を許さず、力強い否定の言葉を叩きつける。
「オレは、親に抗うために戦っている。いつかハルトのことが解決した時、この手でDr.フェイカーとケリをつけるために!」
親の背中を追うのではなく、親の過ちに抗い、自らの手で未来を切り開くというカイトの生き様。それはかつての師が失いかけていた、折れない魂の輝きそのものだった。
「その言葉が聞きたかったよ、カイト」
Vの表情に浮かんだのは、敗北からの絶望ではなく、清々しい笑顔だった。
「クリス、アンタの想いはオレが受け取った。オレがいつかDr.フェイカーとケリをつけるように……オレが代わりにトロンとケリをつける」
背負うべき因縁の重さを互いに確認し合うように、二人は強い意志を宿した瞳を真っ直ぐに交わし合わせる。
「強くなったな、カイト。そして、遊馬。キミにも一言言っておこう」
Vはその確固たる覚悟を確認し頷き、今度は遊馬の元に向く。
「俺!?」
お前以外誰がいる、と言わんばかりにカイトと小鳥はやれやれと首を横に振る。Vは静かに、だが重みのある言葉で遊馬に告げる。
「カイトが私を選んだように、キミはゴーシュと戦うことになるだろうが……私から一つ忠告しておく。彼はナンバーズの気配がある……くれぐれも侮るな」
「ゴーシュが、ナンバーズ……!?」
それは、未知なるナンバーズの脅威を告げるものだった。遊馬がその言葉に驚愕するが、その直後。Vの背後に不意に不気味な空間の歪みが生じた。
「クリス!」
「時間のようだな。カイト、キミたちは……私の」
現実は残酷だ。彼は悟った。自分の役目は、これで終わりなのだと。だが同時に、カイトならやってくれるという確固たる確信だけが、彼の胸に灯っていた。何故だろうか。Vがカイトのことを思い出す時、真っ先に思い出すのはカイトがハルトと共に、献身的に寄り添っていたところだった。そして、そんなところが、クリスにとっては宝物のように思えて仕方なかった。血の繋がりを超え、過酷な運命の中で魂をぶつけ合った者同士だからこそ言える、あまりにも温かく、そして切ない真実の言葉。
「本当の、弟だった……」
「クリス……」
その言葉の重みを受け止め、カイトは小さく呟きクリスは姿を消した。目元がわずかに熱を帯びる中、少し離れたところから、熱狂冷めやらぬ様子でその一部始終を見守っていた遊馬が大きく手を振った。
「カイト!」
「遊馬」
足元に落ちていた《No.9 天蓋星ダイソン・スフィア》を拾った後にかけられたその呼びかけに、カイトはわずかに振り返り、冷徹な仮面をまとったまま静かに応じる。
「待ってろよ、次のステージで俺も必ず!」
遊馬の瞳には、ライバルに対する絶対的な信頼と、次は自らが追いついてみせるという熱い闘志が燃え盛っていた。
「精々頑張れ。行くぞ、オービタル7!」
「か、カシコマリ!で、ですがジェット機能が先ほどの衝撃で壊れて……」
主の容赦ない号令に、オービタル7は冷や汗を流しながら必死に機体の不具合を訴える。
「……」
だが、そんなことを知ったことではない主である。カイトは何も言わず、ただオービタルを見下ろすのみ。
「に、睨まれてる?」
何も言わず、主は自分のことを見下ろすのみ。
「か、カシコマリ!ただ今応急処置を……」
つまり、無能はスクラップにするだけだという意味を込めた見下しだと気づいたオービタルは打開策を思いつく。
「五秒やる」
「や、三秒お待ちを。1、2……3!」
主の温情を上回るべく自らの身体を強引に直し、オービタルは主の背中に張り付き翼を展開する。
「行くぞ、オービタル!」
有無を言わせぬ絶対的なプレッシャーを放ちながら、カイトは遊馬に背中を向けフィールドの彼方へと飛び立つ。
「カシコマリ!トンマ、精々カイト様に恥かかないよう頑張るでありますよ!!」
オービタル7は威勢の良い捨て台詞を主の背から放ちながら、カイトはフィールドから立ち去ったのだった。