軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
大歓声に包まれるスタジアムの熱狂を切り裂くように、Mr.ハートランドの甲高いマイクパフォーマンスが響き渡る。彼は先程まで画面が砂嵐で覆われて試合が一切映らなかったイレギュラーによる焦りを微塵も感じさせない、完璧なエンターテイナーの仮面を被っていた。
「素晴らしき勝利を手にしたカイトに、祝福を!これでカイトもトロンに続いて、決勝トーナメント進出決定だッ!」
スタジアムの巨大スクリーンに、激闘を制したカイトの写真が『WIN』という文字と共に大写しになる。観客席からは割れんばかりの拍手と歓声が地鳴りのように巻き起こり、会場の熱気は早くも最高潮へと達していた。
「残るステージはあと2つ、ここまでで勝ち残った決闘者は5人!!一体誰が勝ち残ってくるのか!?このスタジアムのみならず、全世界のデュエルファンの心も燃え上がっているに違いない!!」
大げさな身振り手振りで観客を煽りながら、Mr.ハートランドはくるりと華麗なターンを決め、お決まりのステッキを天高く突き上げる。
「さぁ皆さんご一緒にぃぃぃッ……!」
彼は声を溜め込み、解放し観客をイレギュラーなど忘れさせるべくさらなる熱狂の渦へと巻き込む。全ては、楽しませるためだ。
「ハァァァーーーット、バーニング!!」
会場中が一体となった熱狂的な掛け声と共に、眩いスポットライトが縦横無尽に飛び交い、鮮やかな紙吹雪が舞い散る。だが、その光の洪水の中で狂騒を指揮する彼の瞳の奥底には、ひどく冷徹で計算高い光が落ちくぼんでいた。
(さて、ダークホースの九十九遊馬と赤司寿だが……シード枠を作るわけにはいかない。はて、どちらを蹴落とすか)
表向きの満面の笑みとは裏腹に、その脳内では残るデュエリストたちの処遇についての冷酷な思案が高速で巡らされていた。
(そういえばゴーシュとドロワからの報告で、九十九遊馬はナンバーズを所持しているとあったな。確か……《No.39 希望皇ポープ》だったか。では、赤司寿……いや、まだ早計か)
手駒として、あるいは生贄として誰が最も適任か。盤上の駒を品定めするような無機質な思考の末、ハートランドは口角をさらに深く、歪な形に吊り上げる。
(さぁ諸君、踊り狂いたまえ。Dr.フェイカーの野望のためにね)
いずれにせよ、自分は先ほどまでの失態を熱で上書きするほどに、道化を演じるだけだと判断しMr.ハートランドは再び観客におどけた表情で、実況を再開する。
「さぁっ!次は極東チャンピョンのⅣに神代凌牙選手が挑むようだッ!!」
####
地下深くまで縦横無尽に張り巡らされたレールを猛スピードで駆け抜けた二組のコースターが辿り着いた先は、それまでの冷たい無機質な空間とは一変した、灼熱の地獄だった。煮えたぎる溶岩が足元でボコボコと重々しい泡を立てて弾け、仮想空間であるにも関わらずそれを現実と勘違いさせるほど尋常ではない熱波が、肌をジリジリと容赦なく焦がしていく。
「……マグマフィールドか」
全身を炙るような熱気に包まれながらも、シャークこと神代凌牙は眼前に広がる過酷なフィールドを鋭い眼光で睨みつける。いや、熱気というのは自分の心だ。復讐心、その言葉が今の凌牙を支配していた。視線の先、吹き上がる炎の向こう側では、待ち受けていた男が芝居がかった優雅な所作で両手を広げていた。
「そうだ凌牙……君にはお似合いのフィールドだろう?」
本性を分厚い仮面の下に隠し、どこまでも人を食ったような気取った笑みを浮かべるⅣ。そのふざけた態度は、妹を傷つけられたあの日から凌牙の胸の奥底で燻り続けていた復讐の炎に、さらなる激しい油を注ぎ込むには十分すぎた。
「ようやくここまで追い詰めたんだ。もう逃げようもねぇ……往生しろ、Ⅳッッ!!」
血を吐くような憎悪を剥き出しにして吠える凌牙。しかし、その殺気立った声を受けてもなお、Ⅳは余裕たっぷりに肩をすくめてみせる。
「フッ。人聞きが悪い……逃げてた訳じゃない。そう見せかけて誘い込んだんだよ、私がこの灼熱のフィールドにね」
口角を大きく持ち上げたニヤリと歪んだ笑みが、足元でうねるマグマの赤い照り返しを受けて、まるで悪魔のように不気味に浮かび上がる。
「まさか、気づいてない訳ではないだろう。この熱と蒸気に支配されたフィールドでは、君は圧倒的に不利だからねぇ。何故なら君のデッキは水属性……君のモンスターはここでは生きていけない」
「減らず口を……御託はいい、始めるぞ!」
ねっとりとした声で紡がれる挑発を苛立ちと共に一蹴し、凌牙はDゲイザーを乱暴に装着してデュエルディスクを勢いよく構えた。カシャリ、と無機質な駆動音が熱気の中に響く。
「上品じゃないねぇ凌牙……行くぞ」
Ⅳも凌牙に連動するように、デュエルディスクを展開し構える。
「「デュエル!!」」
周囲に立ち込める熱気を吹き飛ばすほどの激しい闘気が正面から交錯し、灼熱の空間にARビジョンが瞬く。虚空に、二人のライフポイントが眩しく投影された。
Ⅳ LP 4000 / シャーク LP 4000
「フィールドフィールドうるせぇが、俺を甘く見るな!俺は速攻魔法、《ブレード・サルべージ》発動!効果により、一ターンの間フィールド魔法の効果を無効にする」
凌牙がカードを引き抜くと、即座に魔法カードをデュエルディスクの盤面に叩きつける。その瞬間、空間を支配していたシステムが書き換えられ、吹き荒れていた熱風がピタリと止んだ。周囲を包んでいたマグマの理不尽な制圧力が一時的に沈黙する。
「チッ。ピンポイントメタかよ」
むせ返るような熱気の代わりに訪れたのは、うねるマグマさえも凍り付き活動を停止する、絶対零度の冷徹な空間だった。当てが外れたⅣが舌打ちをしたその時。轟音を立てて、上空のレーンから別のコースターが猛スピードで滑り込んできた。
「シャーク!」
「あぁ?……赤司か。何の用だ」
緊張感に満ちた空気を切り裂く不意の乱入者に、凌牙が鋭い殺気を帯びた視線を向ける。火花を散らして急ブレーキをかけたのは、寿とアンナの乗るコースターだった。
「いんや、何も。ただⅣさんとシャークの試合、見届けない訳にはいかないと思ってね」
「そう言うこった!」
停止したコースターから軽快に飛び降りた寿とアンナは、冷気が漂う足場に立ち、眼下で繰り広げられる因縁の対決を見守り始めた。
「フン。なら、黙って見ているんだな。俺は《トライポット・フィッシュ》を召喚し、さらに魚族モンスターが召喚された時に《シャーク・サッカー》を特殊召喚!」
増えたギャラリーの存在などまるで意に介さず、凌牙は怒涛の展開を続ける。冷たい水飛沫をあげて虚空から現れた二体の水属性モンスターが、熱を失い凍りついたフィールドを、我が物顔で自在に泳ぎ回る。
「俺はレベル3の二体でオーバーレイ、エクシーズ召喚!現れろ、《潜航母艦エアロ・シャーク》!!」
二体のモンスターが光の帯となって交わり、まばゆい銀河の渦を形成する。その深淵から、巨大な鮫の形をした潜航母艦が姿を現した。
「《エアロ・シャーク》の効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、自分の手札1枚につき相手に400ポイントのダメージを与える!俺の手札は三枚。よって、1200ポイントのダメージだ!」
凌牙の苛烈な号令と共に、エアロ・シャークの側面のハッチが重々しく開かれる。次の瞬間、空気を切り裂く鋭い風切り音と共に、三発の無慈悲な魚雷がⅣめがけて連続で発射された。
「くッ」
激しい着弾音と共に爆炎がⅣの身体を完全に包み込み、初撃から手痛いダメージを負わせ、周囲に分厚い煙を巻き起こす。
Ⅳ LP 4000 → 2800
「師匠、すげぇぞシャークって奴。一ターン目からこんなにダメージを与えるなんて……!」
圧倒的な先制攻撃を目の当たりにし、アンナが目を輝かせて凌牙の猛攻を称賛する。しかしアンナ、それはお前もだろ?と、傍らで聞いている寿は内心で冷静なツッコミを入れざるを得なかった。
「おや心外だねアンナ君……君の熱い砲撃を食らった私が、これ程度でへばるとでも?」
それはⅣも同様だったようで、爆煙が晴れた後。そこには痛みに顔を歪めるどころか、埃を払うことすらせず、楽しげに肩を揺らして笑うⅣの姿があった。ダメージを喜んでいるかのようなその底知れぬ不気味さに、アンナは思わず嫌悪感に顔をしかめる。
「……師匠、やっぱ俺あいつ苦手だわ」
「お前が始めた因縁だろ」
寿の正論すぎる冷静な返しにアンナがうっ、と言葉に詰まる中、Ⅳはジロリと狂気を含んだ粘着質な視線を、隅に立つ二人へと向けた。
「おっと寿君、君も安全圏にいるとは限らないんだよ?」
「ゴタゴタうるせぇ!俺はカードを二枚伏せ、ターンエンドッ!」
外野に向けられた不快な牽制を強引に断ち切り、凌牙が盤面にカードを叩きつけてターンを終える。その苛立った声には、早く目の前の獲物を噛み砕き、八つ裂きにしたいという抑えきれない焦燥と殺意が色濃く滲んでいた。
「フフッ。初っ端からエクシーズモンスターを出すとは面白い……それでこそ潰しがいがあるッ!俺のターン、ドローッ!」
その瞬間、Ⅳの態度が劇的に急変する。今まで被っていた優雅な貴公子の仮面はドロリと剥がれ落ち、下劣で凶悪な本性が顔面いっぱいに露わになった。指先が折れんばかりの勢いでカードをドローする。
「俺のフィールドにモンスターが存在せず、相手のフィールドにエクシーズが存在するため、手札から《ギミック・パペット-マグネ・ドール》を特殊召喚できる!さらに俺は、《ギミック・パペット-ギア・チェンジャー》を召喚」
ギギギ、と油の切れた不気味な関節音を鳴らしながら、人間の姿を歪に模した異形の操り人形たちが、凍てついた地に次々と降り立つ。
「《ギミック・パペット-ギア・チェンジャー》の効果により、自身のレベルを他の《ギミック・パペット》に揃えることができる……ギアアップだ、《ギア・チェンジャー》のレベルを《マグネ・ドール》と同じレベル8に変更!」
ガシャコン、と不気味な歯車がけたたましく軋む音を立てて回転し、ギア・チェンジャーの出力がマグネ・ドールと同等にまで一気に跳ね上がる。
「レベル8のモンスターが二体……来るか」
エクシーズの予兆に凌牙が低く身構え、寿もまた息を呑んで極度の緊張感に包まれた戦況を見つめる。
「俺はレベル8の二体でオーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚!現れろ、《No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー》!!」
虚空に現れた巨大な銀河の渦から這い出てきたのは、人間の持つ黒い欲望と無機質な破壊衝動をそのまま具現化したかのような、あまりにも悍ましい巨大なからくり人形だった。禍々しいプレッシャーが、フィールドの冷気を突き破って一帯を完全に制圧する。
「来やがったッ!俺の《グスタフ・マックス》を粉砕したエクシーズモンスター……!!」
かつて自らの誇る切り札を残酷に惨殺された記憶が蘇り、アンナが顔を青ざめさせて戦慄の声を上げる。恐怖と屈辱に染まるその反応こそが、Ⅳにとっては何よりも甘美な最高の蜜だった。
「覚えてもらって幸いだよ、それでこそファンサービスのし甲斐がある!凌牙、テメェには出し惜しみ無しだ。最高のファンサービスっていうものを見せてやろうじゃねぇか!!」
自らの顔を覆うように手を当てた後、口を大きく三日月型に歪め、血走った眼球を見開いて絶叫するⅣ。喉の奥から絞り出された狂気に満ちた哄笑が、凍りついた空気を打ち砕き、絶対零度のフィールドの底で燻るマグマの熱すらも超えて、どこまでも悍ましく響き渡った。
####
観客席の巨大モニターに映し出された禍々しい異形の姿に、熱狂していたⅣのファンたちは困惑の声を漏らした。
「Ⅳ様……?」
「何、あのモンスター。いつもの墓守モンスターと違う?」
貴公子然とした彼に似合わないおぞましい姿のモンスターに、スタジアムの一部は戸惑いのざわめきに包まれる。
「Ⅳ様のいつもの《王家の生け贄》コンボが見れないってこと……?そんなぁ」
Ⅳは極東チャンピョンだ。だが、その地位を獲得する時に使用していたデッキはギミック・パペットでは無く……所謂墓守スキドレデッキだった。見慣れない不気味なモンスターに違和感を覚えるのは当然のことだ。しかし、その落胆の声すらも、突如としてモニターを覆い尽くした激しいノイズにかき消された。
「えっ!?また画面が」
『おーっとこれはッッ!!一体またどうしたことかっ!?』
画面が完全な砂嵐に沈み、スタジアムにどよめきが巻き起こる中、Mr.ハートランドの悲痛を装った声がスピーカーから響き渡る。
『世も大注目のこの一戦に、何という不手際!大変申し訳ございませんッ!!私の心も怒りで爆発しそう……ハァート、ブレイク……』
表向きは道化のように大げさに嘆いてみせるものの、視線を鋭く細めた彼の脳内には、忌々しい疑念が渦巻いていた。
(この砂嵐、まさかまた奴らの仕業なのか……?)
####
「《ギミック・パペット-ジャイアントキラー》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、フィールド上の他のエクシーズを全て破壊し、その攻撃力分のダメージを相手に与える!」
禍々しく黒光りする巨躯が、ギギギと軋むような駆動音を立てて動き出す。その体から無数の鋭い糸が放たれ、空中を泳いでいたエアロ・シャークを無惨に絡め取った。ジャイアントキラーの不気味な腹部がゆっくりと開き、内部の凶悪な粉砕機が姿を現す。糸に引かれた鮫の機体は強引にその中へと引きずり込まれ、けたたましい金属音と生々しい破壊音を立てて木っ端微塵に粉砕された。砕け散った破片が今度は逆に鋭い凶器となって凌牙の全身を容赦なく襲う。
シャーク LP 4000 → 2100
「グロいな、こりゃ……」
「ああ」
そのあまりにも悪趣味で残虐な破壊演出に、一部始終を見ていた寿は思わず顔をしかめる。ホログラムとはいえ、直視に耐えない悪意に満ちた動きだった。アンナもそれに同意する他無かった。
「さらに俺は、《ギミック・パペット-ジャイアントキラー》で直接攻撃!」
しかし、破壊の余韻に浸る間すら与えない。Ⅳは嗜虐的な笑みを浮かべたまま、すかさず無慈悲な追撃を命じた。ジャイアントキラーの巨大で無機質な腕が大きく振り上げられる。そして、モンスターを失い完全に無防備となった凌牙の脳天めがけて、殺意の塊のような一撃が一直線に振り下ろされた。
「シャーク!」
寿が悲鳴のような警告を発する。だが、当の凌牙の瞳に絶望の色は微塵も無かった。
「俺は永続罠、《バブル・ブリンガー》を発動!このカードは、相手モンスターの直接攻撃を無効にする!」
凌牙がディスクを操作した瞬間、伏せられていたカードが勢いよく開かれる。直後、彼の足元から無数の巨大な泡が一気に噴出した。それらは瞬時に分厚い弾力を持ったクッションの壁を形成し、ジャイアントキラーの致死の凶撃をふわりと優しく受け止め、完全に無力化する。
「チッ。そんなに甘ちゃんじゃねぇか……まぁいい。次のターン、《ブレード・サルべージ》の効果は切れる。次からは灼熱地獄だ……足掻けよ、凌牙。俺はこれでターンエンド」
確実な死を回避されたことで、Ⅳの顔に一瞬だけ不機嫌な皺が寄る。小さく舌打ちをすると、彼はつまらなそうにターンエンドを宣言した。その瞬間、空間を辛うじて守っていた絶対零度の恩恵がガラスのように脆く砕け散る。封じられていたマグマの熱波が息を吹き返し、再びこの空間の完全なる支配者として君臨し始めた。
「アッツ!本当のマグマみてぇだっ!」
皮膚が焼けるような急激な温度上昇。唐突に訪れた息苦しさに、アンナがたまらず顔を腕で覆う。
「仮想現実とはいえ危ないぞ、アンナ。だが、このフィールドはやはりシャークにとって天敵。一体どう切り抜けるんだ?」
肌をジリジリと焦がすような暴力的な熱気の中、寿は目を細めて盤面を冷静に見つめる。周囲は煮えたぎる溶岩の海だ。水属性を主力とする凌牙にとって、ここは文字通り水が干上がる最悪の死地であった。もう誤魔化しは効かない。
「足掻く立場がお前ってことを、俺が思い知らせてやる!俺のターン、ドローッ!」
だが、凌牙の闘志はマグマの熱すら凌駕していた。全身から吹き出す汗を気にする素振りも見せず、熱風を鋭く切り裂くような力強いモーションでカードを引き抜く。
「俺は《ハンマー・シャーク》を召喚。更に、《バブル・ブリンガー》の効果発動!このカードを墓地に送り、代わりに《トライポット・フィッシュ》を墓地から特殊召喚だ」
灼熱のフィールドに、青き水のオーラを纏った二体の水属性モンスターが姿を現す。熱波に晒されながらも、主の呼びに答えるように闘志を燃やしていた。
「《トライポット・フィッシュ》が墓地から特殊召喚に成功した時、レベルが3から4に上がる!」
力強い光がトライポット・フィッシュを包み込み、そのステータスを引き上げる。しかし、その直後だった。
「馬鹿め。ここのフィールド魔法の効果により、水属性のモンスターが召喚・特殊召喚された時それを破壊する……貴様のモンスターはここでは生きられない。これがマグマフィールドの真の恐ろしさだ、食らえェ!」
Ⅳの狂気に満ちた叫びと共に、足元でうねる溶岩がまるで意思を持った獣のように激しく波打つ。次の瞬間、灼熱のマグマが巨大な火柱となって立ち上り、召喚されたばかりの哀れなモンスターたちを跡形もなく飲み込もうと襲い掛かった。
「シャーク!」
「フッ」
寿の絶叫が響く。しかし、絶体絶命の火柱に包まれる状況下で、凌牙の口元には不敵な笑みがはっきりと刻まれていた。
「何!?破壊されないだと?……何をしやがった」
吹き荒れた炎が晴れた後。そこには、マグマの直撃を受けたはずの二体のモンスターが無傷で漂っていた。想定外の光景に、Ⅳが初めて明らかな驚愕の声を上げる。
「俺は永続罠、《逆境適応》を発動した。このカードは、魔法・罠カードによるモンスターの破壊を無効にする」
モンスターたちの周囲には、薄くも極めて強固な透明の防護膜が展開されていた。それがマグマの熱を完全に遮断し、彼らの命を繋ぎ止めていたのだ。
「流石だ、シャーク!」
「おべっかは程々にしておけ、赤司!俺のモンスターは、これでマグマに適応できる!!」
外野からの声にそっけない態度を見せつつも、凌牙の鋭い視線は決して目の前の敵から外れることはない。
(Ⅳ、俺は全国大会でお前に罠に嵌められた……)
思い出すのは一年前の、全国大会の屈辱の光景だった。
(……それに飽き足らず、お前は何も関係の無い妹を傷つけた!)
胸の奥底でドロドロと燃え盛る怒り。それは、足元で煮えたぎるマグマよりも遥かに熱く、黒く、深いものだった。妹の運命を狂わせた全ての元凶。その男を前にして、凌牙の全身から放たれる殺気と闘志はついに頂点へと達する。
「絶対に許さねぇ!例えどんな手を使おうとも、俺は貴様を倒すッッ!!」
吠えるような決意と共に、凌牙が腕を天高く突き上げる。
「《バブル・ブリンガー》の効果で特殊召喚されたモンスターは、一体で二体分のエクシーズ素材として扱える!俺は二体分の《トライポット・フィッシュ》と《ハンマー・シャーク》でオーバーレイ!」
宙に浮かぶモンスターたちが、眩い光の帯となって交わり合う。灼熱の空間を切り裂くように、赤き地獄の上空に巨大な青き銀河の渦が形成された。荒れ狂うエネルギーがマグマの熱を激しく押し返す。
「三体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!エクシーズ召喚!!」
凌牙の魂の叫びに応え、銀河の渦から神々しいまでの巨竜が赤々しい鱗を纏ってその姿を現す。
「現れろ、《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》!」
灼熱の地獄すらも飲み込む圧倒的な水圧とプレッシャーを放ちながら、深淵の海王が降臨した。そのプレッシャーに対してⅣはその海竜の姿を前に、完全に呆気に取られていた。熱気による汗とは違う、冷たい脂汗が彼の頬を伝い落ちる。
(これはⅢがトロンからの命令で凌牙に渡されたナンバーズ……!Ⅴとトロンが何かを企んでいることは知っていたが、何故俺に対する武器を凌牙に!?)
混乱と疑念がⅣの脳内を激しく駆け巡る。ナンバーズを集め、Dr.フェイカーに復讐を果たすための計画。その中核にいるはずの自分が、何故敵を強化するための囮にされているのか。冷徹な策士を気取っていた彼の余裕は、今更ながらに計算外の事態を前に音を立てて崩れ去ろうとしていた。その時だった。
(キミには話してなかったけどね)
脳内に直接響き渡る、酷く無邪気で、身の毛のよだつほど冷酷な子供の声。
(トロン!?)
あまりにも突然の介入に、Ⅳは息を呑んだ。声の主は、間違いなく彼らが絶対の忠誠を誓う存在であり、この復讐劇の黒幕であるトロンのものであった。
「トロンッ!何故だ、話せトロン!?」
周囲にいる凌牙や、外野で見守る寿たちの存在すら忘れ、Ⅳは虚空に向けて必死に叫んだ。突如として何もない空間に向かって吠え始めたその異様な姿に、凌牙は怪訝そうに眉をひそめる。だが、Ⅳの意識は完全に精神世界の中でのみ響くトロンの声に囚われていた。
「だーって、キミに話したら計画が漏れちゃうかもしれないだろう?」
ふざけきった、悪びれる様子の欠片もない無邪気な声。それはⅣの忠誠心を根底から嘲笑うかのような残酷な響きを帯びていた。
「キミは口が軽いからねぇ……直情的で熱されやすく、そして残酷なまでに被虐的だ。それをキミは嬉々として演じてみせる。いいじゃないか、それで」
まるで出来の悪い玩具を品評するかのように、トロンはⅣの歪んだ人格と本質を的確に抉り出していく。他者の痛みを嗤い、自らが優位に立つことを至上の喜びとするⅣの行動原理。それらすべてが、トロンの手のひらの上での踊りに過ぎなかったという事実が、容赦なく突きつけられる。
「人にはそれぞれ役割があるんだよ、Ⅳ。VにはV、ⅢにはⅢの役割がある」
「……だったら、俺の、俺の役割は何だっていうんだ、トロン!」
歯を食いしばり、血を吐くような悲痛な叫びを上げるⅣ。家族としての愛も、復讐の同志としての絆も、そこには微塵も存在しなかった。ただひたすらに、己が都合の良い駒として消費されているという感覚のみが、彼を打ちのめす。
「凌牙を心の闇に叩き落すことさ」
「何!?」
あまりにも狂気じみたその目的に、Ⅳは愕然とした。凌牙を倒し、ナンバーズを奪うことが自分の使命ではなかったのか。
「ここまではボクの計画通りにやっている。計画通りにね」
クスクスという邪悪な笑い声が、Ⅳの脳裏で反響する。
「凌牙をここまで誘い込み、シャーク・ドレイクを呼び寄せたことも、アンタの計画通りだと!?」
戦慄が全身を貫く。妹を傷つけ凌牙を激怒させたことも、このマグマフィールドで彼を追い詰めたことも。全ては、凌牙の魂に最も深い絶望と怒りを刻み込み、彼を暗黒へと引きずり込むための完璧な舞台装置に過ぎなかったのだ。他者を操るギミック・パペットの使い手であるⅣ自身が、見えない糸で踊らされる哀れな操り人形であったという最悪の皮肉。
「そうだよ」
トロンはさも当然かのように真実を告げる。
「ッ!!」
怒りと屈辱に顔を歪め、Ⅳはギリッと強く歯を食いしばる。だが、トロンの無慈悲な声は通信を切るかのように遠ざかっていった。
「ウカウカしていると、キミも危ないよ?凌牙の力をキミはよーく分かっているはずだ」
最後に残されたのは、嘲りのこもった警告だけ。
「凌牙の……力!?」
ハッと我に返り、意識を現実世界へと引き戻されたⅣの目に飛び込んできたのは、今まさにナンバーズに号令を下す凌牙の姿だった。隙だらけになった標的を、鮫が見逃すはずもない。
「行けぇ、《シャーク・ドレイク》!《ギミック・パペット-ジャイアントキラー》を攻撃!!」
凌牙の魂の咆哮と共に、シャーク・ドレイクが天高く舞い上がる。鋭い牙を剥き出しにした巨大な顎が、ジャイアントキラーの黒鋼の巨体を容赦なく食い破り、灼熱のフィールドに凄まじい衝撃波を巻き起こした。
「ぐッ……」
《No.15 ギミック・パペット-ジャイアントキラー》ATK 1500 vs 《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》ATK 2800
ジャイアントキラーが爆散し、防御を失ったⅣの身体が、衝撃と熱波をまともに受けて後方へと無惨に吹き飛ばされる。
Ⅳ LP 2800 → 1500
爆風が晴れぬ中、凌牙の追撃の手は止まらない。復讐の炎を宿した双眸を鋭く細め、デュエルディスクを容赦なく操作する。
「さらに、俺は《シャーク・ドレイク》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、今破壊したⅣの《ギミック・パペット-ジャイアントキラー》を攻撃力を1000下げ、墓地から特殊召喚する!!」
凌牙の命令に応え、シャーク・ドレイクが天に向かって耳を劈くような咆哮を上げる。周囲のマグマが激しくうねり、先ほど粉砕されたはずの漆黒のからくり人形が、怨念を纏って再びⅣのフィールドへと強制的に引きずり出された。
「えっ!?何でまたⅣのモンスターを自ら!?」
敵の強力なモンスターをわざわざ蘇生させるという不可解なプレイング。その光景をアンナが、意味が分からないと素っ頓狂な声を上げて目を白黒させる。
「《シャーク・ドレイク》の効果だ。この効果で特殊召喚したモンスターを、《シャーク・ドレイク》は攻撃できる」
混乱するアンナの傍らで、寿は腕を組みながら冷静に能力を述べる。凌牙の放つ尋常ではない殺気と、冷徹に計算し尽くされた殺意の攻撃。その戦略を読み取った寿の声に、微かな戦慄の響きが混じる。
「おお、それでライフを削りきるのか!そういう算段か。やるじゃねぇか、シャークとか凌牙とか言う奴!」
寿の解説を聞き、アンナはポンッと手を打って目を輝かせた。弱体化させた敵をサンドバッグにし、一気に残りのライフを削り取る情け容赦のない連続攻撃。その圧倒的な力強さに、彼女は無邪気な感嘆の声を漏らす。
「……だが、そんなところで沈むような奴じゃねぇ……Ⅳは!」
しかし、アンナの楽観的な歓声とは対照的に、寿の表情は硬いままだった。マグマの照り返しを受ける眼下のフィールドを険しい目で見つめ、決して油断ならない男の底力を警戒する。
「チッ、黙ってやられてたまるかぁッ!!」
寿の予感は的中した。凌牙の怒涛の連撃を前にしても、Ⅳの執念は断ち切られていなかった。忌々しげに舌打ちをした直後、手札から瞬時にカードを引き抜く。
「俺は手札から「ギミック・パペット」と名の付くモンスターが戦闘破壊されたため墓地から《ジャイアントキラー》を除外し、《ギミック・パペット-ナイト・ジョーカー》を特殊召喚!これで効果対象は不在、効果は不発だ!」
墓地へ送られようとしていたジャイアントキラーの残骸が光となって消滅し、代わりに刃を持つ新たな不気味な人形が灼熱のフィールドに舞い降り、凌牙の必殺の一撃を間一髪で回避してみせた。
(危なかったねぇー。でも、咄嗟の判断はよかったよ。さぁ、キミはやるべき役割がある……分かっているね?)
致命傷を免れ、息を荒らげるⅣ。だが、彼を苛むのは目の前の敵だけではなかった。灼熱の熱気すらも凍りつくような、酷く無邪気で冷酷な声が、再び彼の脳髄を直接撫で回すように響き渡る。
(凌牙をもっともっと追い詰め、闇に叩き落すんだよ……Ⅳ?)
まるで出来のいい操り人形を褒め称えるような、歪んだトロンの命令。それはⅣのプライドを根底から踏みにじり、彼が単なる舞台装置に過ぎないという残酷な事実を、ねっとりと脳裏に刻み込んでいく。
「トロン……チッ!」
頭の中で反響する絶対者の声に、Ⅳはギリッと奥歯を砕けんばかりに噛み締めた。己の意志など微塵も尊重されない屈辱と怒りに顔を歪め、誰にも聞こえない声で忌々しく悪態をつく。
「命拾いしたなⅣ。俺はこれでターンエンドだ」
Ⅳが何か見えないものに苛立っていることなど知る由もない凌牙は、すんでのところでトドメを刺し損ねたことに冷たい視線を送り、デュエルディスクを下げてターン終了を宣言した。
(ほらほら、凌牙もまだまだ元気だ。頑張らなくちゃ、ね?)
ターンが切り替わると同時にトロンの嘲笑が、追い討ちをかけるように脳内でクスクスと響く。極限の精神状態の中で、Ⅳの中に溜め込まれたドロドロとした黒い感情が、ついに決壊の時を迎えた。
「うるせぇんだよ……さっきから一々いちいちよォ……ッ!分かってるさ!!」
虚空に向けて吠えたその叫びは、トロンへの怒りか、凌牙への殺意か、それとも己の境遇への呪いか。顔の半分を覆っていた手を力強く振り払い、Ⅳは眼球をひん剥いて狂気の形相を露わにした。その様子にマグマの向こうから見ていたアンナが、酷く困惑した表情で眉をひそめて首をかしげる。
「えっ?Ⅳの奴、誰と話して」
周囲を見渡しても、立ち上る熱風の隙間には凌牙と、観戦している自分たちしか存在するはずがなかった。しかし、Ⅳの血走った瞳は、確実にそこに何かが存在しているかのように一点を鋭く見つめ、狂気的な熱量と混濁した感情を爆発させて叫び続けている。
「分かってるさ、俺の役割は凌牙を心の闇に叩き落とすってことは。そのために今までの、大会で奴を嵌めたのも、ケガを負わせたのも!すべてはトロンのため、トロンの命令に従ったまで!!」
煮えたぎる炎の爆風を突き破り、あまりにも呆気なく、そして惨悪な残虐さをもって明かされた妹の痛ましい事件の真相。隠蔽されてきた醜悪な真実がその口から吐き出された瞬間、あまりの衝撃の告白に、アンナは言葉を失い息を呑んで絶句した。
「なっ」
「Ⅳ……!」
凌牙の顔面から一気に血の気が引き、青白い仮面のように硬直する。次の瞬間に訪れた全身の皮膚が粟立つほどの憎悪を滾らせながら、凌牙はそこに元凶たる黒幕が存在しているのだと鋭く察知し、頭上の虚空を射殺さんばかりの鋭い眼光で睨みつけた。
「いるのか、トロン!だったら姿を現しやがれ!」
凌牙が虚空に叫ぶと、その少年は現れた。
(いるよ)
静まり返った灼熱の空間に、脳髄へ直接冷たく浸透していくような、酷く透き通った幼い少年の声が響く。次の瞬間、空間そのものが歪むかのように空気が波打ち、小さな不気味な仮面をつけた少年が、歪な光の粒子の集合体となって凌牙の背後へ唐突に立ち現れた。
「ッ!?貴様ァッ!」
背後から漂う禍々しい気配を察知し、凌牙が即座に獣のような牙を剥いて振り返り身構える。だが、その光景を目撃しているはずのアンナは、不可解そうに目を丸くして何度も周囲の空間を見回していた。
「あそこにトロンって奴がいるのか?でも、一切見えねぇぞ」
「いや、見えねぇんじゃなくて特定の人のみに見せてるんだ」
眼下の空間にドロリと立ち込める異様なプレッシャーを肌で感じ取るが、寿はただ腕を組むことしかできない。彼らの視線の交差を悟ったかのように、仮面の少年はゆっくりと首を傾げて顔を上げ、フィールドの一角に立つ寿の方へと暗い視線を向けた。
(そうだよー、寿。はじめましてだね)
頭膜を直接揺さぶるように突如として語りかけ、目の前に現れた不気味で底知れない気配に、寿は背筋を走る寒気を感じて身体を固く強張らせてしまう。
「トロンッ!?」
トロンの仮面の奥に隠された幼い瞳が、全てをあざ笑うかのように酷く冷ややかに細められた。
(さっきから見ているとキミには当事者意識が足りないね。傍観してちゃいけないよねぇ……Ⅳの役目はこれからだ。当然、キミもボクの計画に入っている)
その透き通った声の裏には、底知れぬ狂気的な探求心と、盤上の駒を淡々と整理する冷酷な計算がドロリと混ざり合っていた。
(キミは遊馬と同じくナンバーズを持っているだろう?しかも、キミは何故か謎に何の補助も無しでナンバーズを服従させている)
己の秘められた異能にまで言及された寿は、苦々しく眉間にシワを寄せ、低い声音で核心を問い詰める。
「何が言いたい、トロン!」
「師匠?」
隣で状況の不穏さを察するが何も分からず、不安そうに顔を覗き込んでくるアンナを片手で静かに制しながら、寿はトロンの言葉の真意と底意を探ろうと集中する。
(けどお迎えは今じゃない。寿、キミは遊馬とデュエルしたいんだろう?)
「お見通しかよ、そうだ」
自身の内に秘めた純粋な闘志と望みを容易く見抜かれながらも、寿は怯む素振りすら見せず、胸を張って堂々と頷いてみせた。これを人は、虚勢と言う。
(フフ、ならキミはここでボクと観戦しているんだね。何せ、リソースは限られているんだから)
寿に対し、トロンはまるで幼子がおもちゃを見つけた時のように、くすくすと可愛らしくも不気味な笑い声を上げた。すると、それまで一部の者にしか見えていなかったその光の輪郭が急速に密度を増し、立体ホログラムのように周囲の全員の視界へと鮮明に投影されていく。
「何が狙いだ、トロン!」
(そうだね、この際いっそみんなに話そうか)
目の前の虚空に突如として実体化した異様な姿の少年に、アンナが思わず指を突きつけて素っ頓狂な悲鳴を上げた。
「えっ!?誰だこのチンチクリンは!?」
「トロンだ、ドロワを倒した奴!」
「あぁ、あいつかっ!」
恐るべきデュエリストの名を聞き、アンナの表情に一気に濃い警戒の色が走る。眼前で繰り広げられる悲劇の元凶を前に、凌牙は抑えきれない憎悪の炎に瞳を滾らせ、地面を強く蹴って一歩前へ踏み出した。
「トロン!おめおめと姿を現して無事で済むと思うな!」
獣のような咆哮と共に、今にもその細い首を噛み千ぎらんばかりの勢いで掴みかかった凌牙だったが、彼の放った拳は手応えもなく虚しく空間をすり抜けるだけだった。
(無駄だよ凌牙。これは幻影……実体じゃない、だからキミの拳は決して届かない)
凌牙はその拳の勢いそのまま、地面に転んでしまった。実体を持たない幻影を相手に怒りを空回りさせ、歯噛みする凌牙の焦燥は加速の一途を辿っていた。
「チッ、テメェ!」
(ボクが凌牙を闇に叩き落したい理由は……操るためさ)
凌牙の抗議を完全に無視し、トロンの声から無邪気な子供の皮が剥がれ落ちると、そこからドロリとした底なしの純粋な悪意が露わになった。
(Dr.フェイカーを倒す傀儡として……そして、その前に邪魔な寿、キミを排除する刺客とするためにね!)
あまりにも理不尽で、他者の人生を踏みにじる身勝手な目的。それを一切の罪悪感もなく平然と口にするトロンに対し、凌牙の怒りとプライドはついに極限状態へと達した。
「刺客だと!?ふざけるな、俺はそんなものになるつもりはない!」
(キミにその気が無くても、もう逃げられない……キミはボクの操り人形になるんだ。ボクだけの人形に)
運命を弄ばれる怒りを激しく爆発させ、叫ぶ凌牙だがトロンは一切意に介さない。
「ふざけるな!」
だがその時、今まで蚊帳外に置かれ、ずっと己の存在価値を揺さぶられて黙り込んでいたⅣが、全身の皮膚をピクピクと痙攣させながら怨嗟の声を漏らした。
(おやⅣ。何か言いたげだね)
冷ややかに、まるでゴミを見るかのような視線で自分へと向けられたトロンの言葉に対し、Ⅳは胸中でドロドロと溜め込んできた屈辱と激しい嫉妬を爆発させる。
「当たり前だ!俺たち兄弟は、トロンのために力を尽くしてきた!なのに何故俺たちじゃなく……いや、俺じゃなくて凌牙なんだよ!?そんなの、そんなこと、俺は絶対に認めない!」
血を吐くようなⅣの悲痛な叫び。忠誠を捧げてきた絶対者から存在価値を完全に否定された屈辱に、その整っていたはずの顔面は歪みに歪み切っていた。しかし、追及を受けたトロンの反応は、あまりにも酷薄で冷淡なものだった。
(言っただろう?人には役割があるって。何せ、キミは寿の弟子に負けてる。割とフルパワーだったじゃないか)
「うるせぇ!あんなのお遊びの気まぐれだッ!!」
必死に己の正当性を主張し、言い訳を口にするⅣを、トロンはフッとあざ笑うように軽やかに受け流してみせる。
(別にそのこと自体はぜーんぜん構わないけど、Dr.フェイカーや寿を倒すには……凌牙のほうが、配役としていいだろう?ねぇ、Ⅳ?)
それは、Ⅳが必死に保っていたプライドを微粒子レベルにまで粉々に砕く致命的な一言だった。価値のない破棄された駒だと告げられたⅣの瞳から理性の光が消え去り、濁りきったドス黒い狂暴さだけが残される。
「そんなの俺は認めないッ!そんなこと、俺は断じて認めないッ!!」
鋭い爪が手のひらの肉に食い込んで血が滲むほど拳を強く握り締め、Ⅳは天に向かって絶望と怒りの交じった叫びを上げた。額に青筋を浮かべ、血管が浮き出た顔を真っ赤に染め上げながら、狂ったように叫び続ける。
「寿は当然、Dr.フェイカーは俺が倒す!こんな奴より、俺のほうが強いってことを証明してやる……俺のターン、ドローッ!!」
トロンへの盲目的な忠誠心すらも怨念で塗りつぶすほどの激しい執念と憎悪をデッキにぶつけ、Ⅳは激痛と震えの走る指先に全身の全霊を込め、デッキの頂点から運命のカードを叩きつけるように勢いよく引き抜いた。狂乱の淵に立ち、トロンへの反逆心と凌牙への憎悪を煮詰めたⅣの指先から、反撃の狼煙となるカードがデュエルディスクへと叩きつけられる。
「俺は手札から魔法カード、《傀儡儀式-パペット・リチューアル》を発動!このカードは、自分の墓地にある「ギミック・パペット」と名の付くモンスターを呼び戻せる。俺は《ギミック・パペット-マグネ・ドール》を特殊召喚!」
灼熱のマグマが渦巻くフィールドに、不気味な紫色のポータルが開く。そこから這い出るようにして、鋼鉄の身体と磁石の腕を持つ異形のからくり人形が再び姿を現した。熱波に晒されながらも、感情を持たない人形はただ不気味に佇んでいる。
「俺はレベル8の《ギミック・パペット-マグネ・ドール》と《ギミック・パペット-ナイト・ジョーカー》でオーバーレイ!二体でオーバーレイ・ネットワークを構築……エクシーズ召喚!!」
Ⅳの足元から漆黒の闇が立ち上り、二体の機械仕掛けの人形が不気味な光の粒子となって赤き宙へと舞い上がる。重々しい銀河の渦がマグマの熱を圧し潰すようにフィールドを覆い尽くし、破滅を告げる黒い稲妻が周囲に迸った。
「現れろ、《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》!!」
轟音と共に召喚されたのは、禍々しい羽とハーブと剣を持つ絡繰人形だった。
「で、出やがった……Ⅳの二体目のナンバーズ!」
かつてのデュエルで圧倒的な恐怖を刻み込まれたそのモンスターを前に、凌牙たちと同じくアンナが、熱を帯びた地面を踏み締めながら声を震わせる。息苦しい熱気の中でも、Ⅳの底無しの悪意は止まらない。
「アンナァ、申し訳ないが今はキミの時のように戯れている場合じゃない……本気で行かせてもらうッ!!俺はさらに装備魔法《デステニー・ストリングス》を発動、《ヘブンズ・ストリングス》に装備!」
狂喜に満ちた笑みを浮かべたまま、Ⅳは新たな魔法カードをスロットに差し込む。天から無数の太く黒い糸が降り注ぎ、ヘブンズ・ストリングスの巨大な腕や刃に纏わりついて、その禍々しい力をさらに増幅させた。
「俺の時とは違う装備魔法……!」
未知のカードの登場に、足元から這い上がる熱気以上のプレッシャーを感じ取り、アンナの顔に更なる緊張が走る。
「このカードは装備モンスターの攻撃宣言時にデッキの上から一枚を墓地に送り、それがモンスターカードだった場合、そのモンスターのレベル分の回数、攻撃できる!」
「Ⅳはレベル8が中心のデッキ……ていうことは!」
それは、あまりにも残酷で狂気に満ちた効果だった。自身のデッキの特性を完全に理解し、そして相手を徹底的に蹂躙するための最悪のコンボ。Ⅳの口角が、顔の半分を引き裂く勢いで吊り上がる。戦況を鋭く見つめる寿と共に、アンナが瞬時にその真意を察し目を見開く。
「しかもお前の攻撃されるモンスターは破壊されずになぁ!《ヘブンズ・ストリングス》、攻撃だ!!」
サンドバッグを逃がさないという極悪非道な宣告。Ⅳが指を突きつけると、ヘブンズ・ストリングスが操り糸に引かれて不気味に動き出し、処刑の準備を始める。そしてⅣは、運命を託すようにデッキのトップに指をかけた。
「今俺が引いたのは、レベル8の《ネクロ・ドール》!よって、《シャーク・ドレイク》を8回タコ殴りにするッ!!」
引いたカードを裏返して高々と掲げた瞬間、拷問の宣告が確定した。
「八連打ッ!?」
アンナの悲鳴が、マグマの弾ける音と熱気に吸い込まれる。
「やれ、《ヘブンズ・ストリングス》!ヘブンズ・ブレード!!」
Ⅳの振り下ろした腕に呼応し、巨大な絡繰人形が凶悪な刃を構えてシャーク・ドレイクへと襲い掛かった。
《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》ATK 2800 vs 《No.40 ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》ATK 3000
凄まじい衝撃音が響き渡り、火花とマグマが周囲に飛散する。攻撃力の差から生じる鋭いダメージが、凌牙の身体を容赦なく打ち据えた。
シャーク LP 2100 → 1900
「ぐっ……」
熱風と衝撃に煽られ、凌牙は顔を歪めて後ずさる。だが、これはまだ地獄の始まりに過ぎなかった。
「続けろ、《ヘブンズ・ストリングス》!《シャーク・ドレイク》を痛めつけろォ!!」
狂ったように笑い続けるⅣの命令に従い、休む間もなく二撃目が振り下ろされる。破壊されないシャーク・ドレイクを盾にするように、その貫通する衝撃だけが真っ直ぐに凌牙の肉体を削り取っていく。
「うっ……ぐああッ!」
シャーク LP 1900 → 1700
「苦しめェ、もっと苦しめよ、凌牙!三回目ェ!!」
反撃の隙すら与えぬまま、三度目の凶刃が容赦なく深淵の竜と凌牙を蹂躙する。
シャーク LP 1700 → 1500
「ぐっ……あぐっ!」
逃げ場のない灼熱のフィールドで、終わりの見えない残虐な八連撃が、凌牙を徹底的な死の淵へと追い詰めていく。一方的で無慈悲な蹂躙。その陰惨な光景に、ついにアンナの堪忍袋の緒が切れた。フィールドの片隅から身を乗り出し、狂気に染まったⅣへ向けて、喉が裂けんばかりの怒号を叩きつける。
「Ⅳ、やめろ!こんなのタダの虐めじゃねぇか!!俺のデュエルの時の気取った姿勢はどこ行っちまったんだよ!?」
熱気で揺らぐ視界の中、かつて自分と対峙した時の、鼻持ちならないがプライドの高かった貴公子のような面影はどこにもない。そこにあるのは、ただ人を甚ぶり喜ぶだけの醜悪な化け物だった。
「アンナ、気持ちは分かるが今はデュエル中だっ」
熱風に煽られながら、寿がアンナの肩を強く掴んで引き留める。いかに凄惨であろうと、デュエルへの介入はタブーだ。しかし、アンナはその手を強引に振り払い、血走った目で寿を睨み返した。
「師匠、アンタにはこれがデュエルだって思うのかよ?違うだろ!?」
悲痛な叫び。ルールという殻を被っただけの残酷な拷問を、黙って見過ごせるはずがない。
「だがッ!」
そんなことは分かっているが、分かっているが……と寿が言葉に詰まったその瞬間だった。二人の周囲の空間が不気味に歪み、鼓膜を突き刺すような無邪気な声が、再び脳髄に直接響き渡る。
(邪魔はさせないよ、寿の弟子。キミは特に関係の無い、部外者なんだから黙って見ていな)
トロンが目障りだったのかそう言うと、アンナに紋章をぶつける。
「なっ……鎖!?」
「くっ、動けねぇ……」
虚空から突如として無数の光の鎖が這い出し、アンナの四肢に容赦なく絡みついた。物理的な質量を持ったかのように強固な拘束。今にも暴走しそうな機関車の身体を強引にでもその場に縫い留める。
(寿も分かってくれよ?ここからが、本当のお楽しみなんだからさ)
トロンのくすくすとした笑い声と重なるように、再びフィールドの中央で凄惨な破壊音が轟いた。ヘブンズ・ストリングスの凶刃がシャーク・ドレイクを貫き、その貫通した余波が凌牙の肉体を容赦なく後方へと薙ぎ払う。
「ぐはっ……ゴホッ、ゴホッ……」
シャーク LP 1500 → 1300
熱い地面を転がり、痛ましい咳を吐き出す凌牙。その限界ギリギリの姿に、縛り付けられたアンナが激しく身をよじる。
「こんなのがお楽しみって言うのかよ!?おかしいだろムグッ」
しかし、その叫びは途中で無様に遮られた。光の粒子が瞬時にアンナの口元へ集束し、分厚い粘着テープのように物理的にその唇を塞ぎ込んだのだ。
「フガッナニシヤガルコノチンチクリン、オカシイダロウガコンナノ」
拘束され、口まで封じられながらも、アンナは涙目で必死に抗議の声を上げる。だが、絶対的な力を持つトロンにとっては、それすらも滑稽な余興に過ぎなかった。
(うるさいねーキミは。口にテープ張っても黙らないか)
「納得いかねぇだろうがアンナ、剝がす時痛いのが嫌なら黙ってな」
もがき苦しむアンナに対し寿が、冷静さを取り戻した低い声で諭す。
「ションナァ」
テープ越しに情けない声を漏らし、アンナはガクリと肩を落として抵抗を諦めた。
(そうだそうだ、傍観者は黙って見てな)
盤上を完全に支配したと悦に入るトロン。だが、言葉ではそう言えども寿の視線は決して屈していなかった。アンナ同様に、凌牙に対するこの凄惨な光景に対して何かは言わなければ気が済まない。立ち尽くしたまま、虚空に浮かぶ仮面の少年を真っ向から睨み据える。
「……おい、トロン」
(なんだい、寿)
静かな、だが確かな怒りを孕んだ寿の呼びかけに、トロンが余裕たっぷりに応じる。
「俺はアンタの計画っつうのがどんなのかは知らねぇが……実の子供を人形扱いして、弄んで。そんなのトロンになる前のお前が許せると思うのかよ、人の心で!」
寿の言葉が、灼熱の空気を鋭く切り裂く。それは、狂気の復讐劇の根底にあるであろうかつての父親としての人間性に訴えかける、魂からの叫びだった。だが、しかし。
(ハハハ!何を言い出すかと思えば人の心か、情に訴えるか!)
返ってきたのは、腹の底から湧き上がるようなおぞましい嘲笑の渦。
(地獄を見てないキミには分からない)
仮面の奥から放たれたのは、熱すら瞬時に掻き消すほどの、絶対零度の憎悪と狂気だった。一切の光を持たず、ただ怨念だけが渦巻くその瞳に見据えられ、寿は思わず息を呑むしかなかった。
「ッ……!!」
言葉を失う寿。そこにあるのは、彼が眉唾でも信じたかった、期待したような親としての心や人間性の欠片すら残っていない、底なしの暗黒そのものであった。そうしている内に、ヘブンズ・ストリングスの巨躯から、無慈悲な殺意が再び解き放たれる。Ⅳの瞳にはもはや理性の面影はなく、ただ己の存在価値をトロンに見せつけたいという焦燥と、凌牙を踏みにじることへの純粋な快楽だけが不気味な黒光りを放っていた。
「苦しめよ凌牙ァ。苦しんで苦しんで苦しみ抜いた末に地獄に落ちるが良い……これで五回目!!」
シャーク・ドレイクの巨大な体躯を盾にされ、貫通する衝撃波が一直線に凌牙の胸元を穿つ。肉体が内側から破壊されるような激痛に、凌牙は膝を折り、灼熱の地面へと崩れ落ちた。
「ぐッ!」
シャーク LP 1300 → 1100
「ゴフッ……はぁ、はぁッ……!」
噴き出す汗と唾液が、一瞬にして蒸発していく。全身の骨が軋むような激痛に耐えながら、凌牙は地面に爪を立て、倒れ伏すことだけは拒んでいた。その痛ましい姿を眼前に突きつけられ、口を塞がれたアンナが鎖を激しく軋ませ、涙目で必死に抗議の声を上げる。
「フガヘンナ!デュエルハコンナコトノタメノジャナイ!!」
デュエルを傷つけ弄ぶ悪意への強い憤り。しかし、テープのような膜に遮られ、その叫びは籠もり音となって虚空に消えるしかなかった。
「アンナ……畜生が」
無力感に歯噛みする寿。だがそんな人間の苦悶や葛藤すらも、トロンにとっては退屈を紛らわせる観察対象に過ぎなかった。首をふと傾げたトロンの透き通った声が、何でもない雑談でも交わすかのように寿の脳髄へ直接滑り込んでくる。
(ところで寿、キミは九十九一馬についてどう思っているのかな?)
あまりにも脈絡のない、デュエルの死線とはかけ離れた問いかけ。意図の読めない唐突な名前に、寿は眉間にシワを寄せて警戒の鋭い視線を虚空へ向けた。
「あぁ?」
一瞬の沈思の後、寿は混乱を押し殺しながら低く言葉を吐き出す。
「遊馬じゃなくて一馬さん?……や、不思議な人だとしか」
(ふうん、不思議な人か。一馬が親経由で何か仕掛けたりとかしていると思ったんだけどね……)
トロンの声には、かすかな落胆と同時に、冷徹な計算の匂いが漂っていた。自身の計画を阻む不確定要素として九十九一馬を警戒しつつも、目の前の寿という存在の特異性を探り当てようと、思考をめぐらせているのだ。
(キミは別にカイトとか遊馬とか親に恨みつらみがあるわけじゃないからね、だからそんなにお気楽なのか)
嘲笑を含んだ軽薄な言葉。己の壮絶な過去や復讐の念と比べ、あまりにも背景が無垢である寿に対する、底知れない冷酷な蔑視が滲み出ていた。
「お気楽じゃねぇッ!」
自分や仲間たちの想いを軽んじられたことに、寿の瞳に激しい怒りの火が灯る。だが、トロンはその憤りすら愉しむかのように、さらにねっとりとした興味を深めていった。
(正直、ボクはキミのナンバーズに関するあれこれが不思議で不思議で仕方ないんだよねぇ……)
仮面の奥の瞳が、暗い光を帯びて妖しく歪む。通常の人間であれば精神を蝕まれるはずのナンバーズを、何の補助もなく完全に支配し従えている存在。その異常性に、トロンの歪んだ知的好奇心が刺激される。
(そうだぁ!キミの心を覗いてみるか!)
言葉が終わるや否や、寿の脳内に直接、冷たい氷の針が突き刺さるような異質な精神波が侵入を始めた。記憶の奥底まで強引に暴こうとする不可視の力に、寿の全身に冷や汗が吹き出す。
「なっ!?やめろ、トロンッ」
寿が驚愕と戦慄に全身を震わせた横で、Ⅳの狂気はついに最終局面へと達していた。トロンの注意が自分から逸れていることへの苛立ちと、この手で凌牙を永遠に葬り去りたいという歪んだ執着が、彼を極限の興奮へと導く。
「さぁラストだッ!食らえ凌牙ァァッ!!」
連続攻撃の最後を飾る八度目の凶刃が、ヘブンズ・ストリングスの巨大な手から振り下ろされた。空間を断ち切る重厚な衝撃波がシャーク・ドレイクを貫通し、凌牙の肉体を容赦なく吹き飛ばす。
シャーク LP 700 → 500
爆風と共に激突した地面から、もうもうと煙が立ち上る。全身傷だらけになり、呼吸すら満足にできないほど削り取られながらも、凌牙は血を吐きながら両足で必死に地面を噛みしめ、踏みとどまった。
「ぐぅ……はぁ、はぁっ……!だが、まだ俺のライフは」
ライフはわずか500。だが、ゼロではない。絶体絶命の極限状態であっても、凌牙の瞳の奥に宿る漆黒の殺意と復讐の炎は、何一つ消えてはいなかった。しかし、その死線にしがみつく姿こそが、Ⅳの狂気を最高潮へと押し上げる。
「まだ終わりじゃない!《ギミック・パペット-ヘブンズ・ストリングス》のモンスター効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、《シャーク・ドレイク》にストリングスカウンターを一つ置く」
Ⅳの不気味な宣言と共に、ヘブンズ・ストリングスの肩から胸部にかけて強引に継ぎはぎされたようなハーブが怪しく轟く。そこから伸びた幾本もの光の糸が、シャーク・ドレイクの頭上に絡みつき、逃れられぬ死の刻印であるカウンターとして定着した。
「これで次のターン終了時、お前の《シャーク・ドレイク》は破壊されその攻撃力分のダメージを受けることになる……これで本当のおさらばだ」
2800のバーン。それは現在の凌牙のライフを容易くオーバーキルし、確実な死へと至るに十分な猶予宣告だった。自らの描いた絶望の絵図に酔い痴れ、Ⅳは顔全体を歪ませて哄笑する。
「俺はこれで、ターンエンド!さあぁ……絶望のドローだ、凌牙ァァァ!!」
凌牙と寿に、試練の時が訪れようとしていた。
A.カレイ(華麗)