軍貫使いはZEXALで寿司を握る   作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ

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Q.シャークさんが面倒臭い性格ってことは自明の理ですが、どうすれば解き解せるでしょうか?
A.その答えはデュエルの中で見つけるしかない。

繋ぎの回なので短めです。





英雄故事

凌牙が、天高く叫び終わると。

 

辺りを覆い尽くしていた圧倒的なエネルギーと、それを打ち破った閃光が、静かに溶けていく。激しい戦いを終えた余韻が冷たい風に混じり、ARビジョンのホログラムが光の粒子となって崩れ去る中、そこには戦いを終えた静寂だけが降り注いでいた。

 

「師匠が……負けちまった」

 

アンナは信じられないものを見るような目で、ポツリと呟いた。これまで間近で見続けてきた、圧倒的な力と戦術を誇る自分の師匠が、完全に真正面から、小手先の誤魔化し無しで打ち砕かれたという事実。しかし、彼女の顔に浮かんでいたのは絶望ではなく、凄まじいデュエルを目の当たりにしたことへの純粋な感嘆だった。

 

「……はぁ、はぁ……寿、立てるか?」

 

荒い息を吐きながら、凌牙は肩で息をしていた。極限まで精神を削り、己の奥底にある闇さえも力に無理矢理変換した反動は決して小さくない。だが、彼は鋭い眼光を少し和らげ、吹き飛ばされて地面に倒れ伏す寿の姿を気遣うように声をかけた。その声には、先ほどまでの刺々しい殺意は微塵も残っていなかった。

 

「ク……ククク……」

 

静まり返った空間に、低く押し殺したような声が響く。地面に倒れたままの寿の肩が微かに震え、その口元から漏れ出した奇妙な音に、周囲の空気が一瞬ピクリと止まった。

 

「師匠?」

 

アンナが不安げに声をかけ、駆け寄ろうと一歩足を踏み出したその瞬間だった。

 

「あー負けた負けた、これほどのデュエルが他にあるかってほど清々しく負けたよ、客に品物食いつくされて閉店ガラガラ……愉快爽快サッパリだ!」

 

 

一人で爆笑する寿が、そこにはあった。

 

倒れたままの姿勢から勢いよく上体を起こし、寿は満面の笑みを浮かべて空に向かって声を張り上げた。その表情には悔しさや敗北感など微塵もなく、ただ極上の時間を味わい尽くした職人のような、清々しいまでの満足感だけが溢れ返っていた。

 

豪快で裏表のない笑い声。それは、先ほどまでの死力をかけた戦いからは到底考えられないほど、あっけらかんとした響きを持っていた。

 

「寿?頭でも打ったか?」

 

凌牙は訝しげに眉をひそめ、腕を組みながら呆れたような視線を送る。敗北してなお大笑いする相手の真意が掴めず、彼のペースにすっかり毒気を抜かれてしまっていた。

 

「いや、俺は至って正常さ。タダな、シャーク……俺は無茶難題を押し付けたつもりだったんだ」

 

寿は笑い涙を指先で拭いながらゆっくりと立ち上がり、乱れた衣服を軽く払い落とす。そして、真っ直ぐに凌牙を見据えたその顔には、先ほどまでの飄々とした態度は消え、一人のデュエリストとしての深い敬意が宿っていた。

 

「でも、あんたはいとも容易く超えてくれた。俺に魅せてくれたよ、あんたの妹……璃緒にかける想いをな!!」

 

力強く言い切った寿の言葉が、凌牙の胸の奥底に熱く響き渡る。それは、凌牙自身が暗黒の衝動以外で初めて、シャーク・ドレイク・バイスの真の力を引き出させた時の最も純粋な感情だった。

 

「ッ!当然だ、俺は妹の無念を晴らすために元より……」

 

凌牙は気恥ずかしさを誤魔化すように顔を背け、いつもの刺々しい態度で言い返そうとする。だが、その言葉にはもはや虚勢の響きはなかった。

 

「いんや、違うな。あんたはあんたの復讐のためにデュエルしてたんだ。言わば自己満足と言ったところ。復讐を遂げたところで来るのは虚しさだけだって言っても、さっきまでのあんたには通じなかっただろうな」

 

寿は静かに、しかし確かな重みを持った言葉で凌牙の反論を遮る。体よく言えばそれは、的確な荒療治の種明かしだった。

 

「……チッ!そういうことか!寿、テメェ……俺を嵌めやがったな」

 

凌牙は舌打ちを一つ漏らし、相手の仕掛けた深い罠の真意にようやく気づく。彼を極限まで追い詰め、自身もピンチであるのに敢えて挑発することで、復讐のその先にある虚無から力ずくで引きずり出そうとした綱渡りもいいところのデュエル。

 

「発破をかけたと言ってほしいところだが。だがまぁ、悪くないだろ?」

 

寿は悪びれる様子もなく、悪戯っぽく笑う。その飾らない笑顔が、二人の間にあった見えない壁を完全に取り払っていた。

 

「……ああ。この感情、悪くない」

 

凌牙は静かに目を閉じ、胸の内に広がる不思議な温かさを噛み締める。ドロドロとした憎悪の檻から解放され、ただ大切なものを守り抜くという純粋な決意だけが残った心。それは驚くほど軽く、そして力強かった。

 

「にしても、あんたのその目」

 

寿がふと、何かを見つけたように目を細める。

 

「ああ?」

 

凌牙がいぶかしげに視線を戻すと、寿は感心したような、どこか安堵したような表情を浮かべていた。

 

「透き通ってる。俺とデュエルする前とはまるで段違いだ」

 

戦う前、凌牙の瞳を覆っていたどす黒い憎悪の濁りは完全に消え去っていた。そこにあるのは、迷いを断ち切った者だけが持つ、澄み切った鋭くも静かな光だった。

 

「フッ……寿、俺はどうにも言葉にしないとスグ忘れちまう性質(たち)でな……独り言だ、気にすんなよ」

 

凌牙はふっと自嘲気味に笑うと、照れ隠しのように視線を天井へと移す。電灯を見上げながら、彼は自分自身に刻み込むように静かに口を開いた。

 

「是非に聞かせてくれ」

 

寿は腕を組み、真剣な眼差しでその言葉を待ち受ける。

 

「俺は、もう迷わない。俺の復讐は、Ⅳを打倒したところで完遂した」

 

静かに紡がれたその宣告には、かつての呪縛を自らの手で完全に断ち切った確かな響きがあった。

 

Ⅳも言わばトロンの被害者。これまでⅣが元凶だと信じて疑わなかった執念は、トロンというさらに何層も深く築かれた悪意によって上塗りされてしまった。その事実を受け入れることは、凌牙にとって己の憎しみの拠り所を失うことを意味していた。Ⅳがトロンに嵌められ、そして自分も妹もトロンに嵌められていたという事実。しかし、今の彼にはもう、己を突き動かすための憎悪は必要なかった。

 

「俺がトロンを倒すのは、璃緒の無念を晴らすため。俺自身のためじゃねぇ。璃緒が目覚めた時……俺は璃緒に顔向けできるように……全てを終わらせる。璃緒が笑顔でいられるように、俺が舞台を整えてやる……それが俺の本懐、俺の望み……ああ、これは多分間違ってねぇ」

 

一つ一つの言葉を確かめるように、凌牙は静かに熱を込めて語る。復讐の鬼ではなく、ただ一人の兄として。妹の未来を切り開くための戦いへと、彼の刃は明確な目的を持って研ぎ澄まされていた。

 

「こんな妹思いの兄を持って、璃緒って奴は幸せ者だな」

 

寿は心底嬉しそうに微笑み、友の抱えていた重い荷物が完全に下ろされたことを祝福した。

 

「独り言だと言ったはずだ!さぁさっさと、敗北者はツレと共に退場しろ!!」

 

図星を突かれた凌牙は瞬時に顔を背け、わざとらしく声を荒げて二人を追い払おうとする。その不器用な態度は、何も変わっていない彼らしさそのものだった。

 

「へっ、恥ずかしがりや屋さんめ……どうやらアンナ、シャークは俺たちの退場をお望みのようだぜ?」

 

寿は肩をすくめ、後ろで成り行きを見守っていたアンナの方へと振り返る。

 

「……らしいな!おいシャークって奴!」

 

アンナは腰に両手を当て、ズンズンと一歩前に踏み出すと、シャークをビシッと指差して大声を張り上げた。

 

「ああ?なんだ?」

 

シャークが振り返り、不機嫌そうな視線を送る。

 

「師匠はお前を慮って勝たせたってこと、忘れんなよ!この暴走鮫!!じゃあな、行くぞ師匠!!」

 

アンナは負け惜しみと師匠への絶対的な信頼を混ぜ合わせたようなセリフを叩きつけると、寿の背中をグイグイと押して元のコースターの方へと促し始める。彼女なりの、不器用なエールだった。

 

「今度は観客席から見守ってるぜ、シャーク!」

 

寿は背中を押されながらも振り返り、戦友に向けて大きく手を振る。その明るい声が、冷たかった闘技場の空気に確かな温もりを残していく。

 

「……ありがとうよ、寿!」

 

二人の背中が遠ざかり、完全に姿が見えなくなるその寸前。凌牙は誰にも聞こえないほどの小さな声で、しかしこれ以上ないほどの確かな真心を込めて、静かに呟いた。その口元には、久しく見ることのなかった穏やかで力強い笑みが浮かんでいた。

 

 

 

####

 

 

 

一方、遊馬は今、どうしているかというと。

 

「薙ぎ払エ!アブソリュート・ゼロ・ランス!!」

「う、嘘だろ……俺の……フィールドが!」

 

ゴーシュの手により、圧倒的な危機的状況に陥っていた。

 

「遊馬、オ前は完全無欠の究極存在を前にシて、ドウ立ち向かウ?」

 

ドス黒いオーラをもはや隠さないゴーシュは遊馬に問う。目の前に圧倒的強者として対峙していたのは、た(・)っ(・)た(・)一(・)体(・)の(・)モ(・)ン(・)ス(・)タ(・)ー(・)だった。息を絶え絶えにして、立ち向かうは絶望。

 

「俺は……俺は……!」

「絶対王者ハ孤高にシて至高……さぁ、来イ遊馬!!」

 

荒野に佇むは、一人の戦士だけ。

 

「俺ノ……《No.86 H-C ロンゴミアント》が、お前の全てノ希望を粉砕してヤル!!!」

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