軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
希望の火が、今まさに再点火を始めようとしていた。遊馬は絶対的な希望を託してカードを、迷いなくデュエルディスクに叩きつける。
「俺は、モンスターを裏守備表示でセットし、さらにカードを一枚伏せる!ターンエンドだっ!」
ARビジョンの光が収束し、フィールドに裏側表示のカードが二枚浮かび上がった。
「ノコノコ破壊サレニヤッテ来タカ……エンドフェイズ、《ロンゴミアント》ノオーバーレイ・ユニットハ一ツ減ル」
その静かな抵抗を見て影は、醜くゴーシュの顔を歪めて嘲笑を漏らした。絶対的な封殺を前にして、なおも無駄な足掻きを続ける獲物の姿が滑稽でたまらないといった様子だ。
「確カニ、モンスターハセットト反転召喚ナラデキル。ソコヲ突イタ。ナルホド、ソウダ、ソレハデキル。ダガ態々無意味ナ壁ヲ作リヤガッテ、愚カナ!」
決闘場を包み込む夕闇がさらに暗く深まる中、影は高らかに己のターンを宣言する。その背後にそびえ立つ漆黒の巨兵の周囲から、一つの光球がふっと掻き消えた。
「ドロー!無駄ナ行為ダ、何モセズターンヲ渡セバイイモノヲ!!」
「いいや、これはきっと……無駄じゃねぇ!」
光球が一つ減ろうとも、未だ巨兵の周囲には五つのオーバーレイ・ユニットが禍々しい光を放ちながら旋回し続けている。その絶対的な威圧感は微塵も揺るがない。
「ナラバ、抵抗スラモ全テ破壊シ尽クスノミ……雑魚ヲ消シ去レ、《ロンゴミアント》!!」
影が残酷な死刑宣告を下すと同時、巨兵がゆっくりと頭上に巨大な槍を掲げる。大気中のエネルギーが槍の先端へと急速に収束し、空間そのものが黒く捻じ曲がっていく。
「アブソリュート・ゼロ・ランス!!!」
振り下ろされた大槍から、全てを灰燼に帰す破滅の衝撃波が再び、横薙ぎに放たれた。大地を抉りながら迫り来る漆黒の奔流が、遊馬のフィールドを無慈悲に飲み込もうとする、その刹那。
「この瞬間、俺は罠カード《オーバー・トレーニング》発動!効果で俺は裏守備モンスターを選択!これにより、こいつは次の俺のエンドフェイズに破壊される代わりに、このターン破壊されない!」
遊馬の足元で伏せカードが勢いよく開き、強固なオーラがセットされたモンスターを球状に包み込んだ。直後、ロンゴミアントの放った絶死のエネルギー波が直撃する。
「破壊ヲ防グダト?」
凄まじい轟音と共に土煙が巻き上がる。完全に更地になったと確信していた影の顔から、余裕の笑みがスッと消え去った。
「ぐぅ……すげぇ爆風だ……!」
熱風と砂塵に咳き込みながらも、遊馬は腕で顔を庇い、不敵な笑みを浮かべていた。煙が晴れたフィールドには、強固なオーラに守られた裏守備モンスターが、傷一つなく鎮座している。
「……マサカ、守備力3000以上ノモンスター?……イヤ、リバースモンスター?」
影の脳内で、急速に警戒のサイレンが鳴り響く。絶対無敵を誇る己の陣地に対し、こいつは明らかにこの裏守備モンスターに絶対的な自信を持っている。どのような罠を張ったのか。未知のカードに対する猜疑心が、影の目を細めさせる。
「……ソレカ、戦闘破壊サレナイモンスター……イヤ、攻撃サレタ際ニ効果ヲ発動スルモンスターカ?」
ブツブツと呟きながら、影は苛立たしげに自身のデュエルディスクを睨みつけた。
「さて、どうだろうな!」
ダメージの蓄積で息も絶え絶えなはずの遊馬が、挑発するように胸を張る。その堂々とした態度が、さらに影の疑心暗鬼を煽っていった。
(チッ。イズレニセヨ、無理ニ攻撃スル必要ハナイ。守備表示ヲ許スヨリカハ、反転召喚デ攻撃表示ヲ強イタホウガイイ!!)
影は舌打ちをし、ロンゴミアントに攻撃の指示を出すのを止めた。相手の罠にわざわざ飛び込むリスクを冒すより、相手自身に動かせた方が安全だという打算が働いたのだ。
「バトルフェイズハスキップ……カードヲ1枚伏セ、ターンエンドダ」
つまらなそうに手を振り払い、影はカードを一枚セットして静かにターンを終えた。再び、夕闇の荒野に重苦しい静寂が訪れる。
「俺のターン、ドローっ!俺は、セットしたモンスターを反転召喚!現れろ、《オーバーレイ・オウル》!!」
まばゆい光の中から飛び出してきたのは、丸っこい体に紳士服を纏う、風変わりなフクロウだった。パタパタと愛嬌のある音を立てて、遊馬の前を飛び回る。
「……何カト思エバ、珍妙ナ鳥ダト?」
空を覆い尽くすほどの巨兵と比べれば、あまりにも小さく非力なモンスター。影は拍子抜けしたように鼻で嗤い、警戒を解いた。
「ハッ、ソウイウコトカ。サレンダーヲシナイ代ワリ、最後マデ意地汚ク抗ウトイウノカ!」
「違うッ!俺はサレンダーなんてしねぇ、最後まで諦めない!!」
遊馬は力強く断言し、目の前のフクロウに命令する。
「《オーバーレイ・オウル》の効果発動!俺はライフを600ポイント払い、相手のエクシーズモンスターのオーバーレイ・ユニットを一つ墓地に送る!」
遊馬の胸部から、生命力そのものである赤い光の粒子が抜け出し、激しい痛みを伴ってフクロウの体へと注ぎ込まれていく。
遊馬 LP 3200 → 2600
「ぐっ……頼んだぞ!!」
身を削る遊馬の行動を、影は高笑いと共に一蹴する。絶対無敵の城塞に、そんな小鳥のさえずりのような効果が通じるはずがないと確信しきっていた。鳥が飛翔し、ロンゴミアントへと向かい風を翼で全力で送る。
「無駄ダ、《ロンゴミアント》ハ他ノカードノ効果ヲ受ケナイ!!」
パタパタと懸命に羽ばたくオーバーレイ・オウル。その小さな翼から生み出された微弱な風が、絶望の象徴である漆黒の巨兵へと向かってゆっくりと流れていく。
「いいや!俺は……こいつを、俺自身の自信を、信じる!頑張れ、届けっ!!」
遊馬は両手を口元に添え、喉が裂けんばかりの絶叫を荒野に響かせた。己の閃きとこのモンスターへの信頼を、全てその声に乗せて。
「届けぇぇぇええええっ、《オーバーレイ・オウル》!!!」
少年の一途な願いに応えるように、小さな風は巨兵の強固な装甲を避け、その周囲を旋回する光球の軌道へと正確に到達した。すると、巨兵の周りを浮遊する六つの光が一つ。
確かに、一つ消えた。
パリンッ、という割れるような澄んだ音が響き、ロンゴミアントを無敵たらしめていたオーバーレイ・ユニットの一つが、粉々に砕け散って消滅した。
「ナ、何……!?一ツ消エタ、ダト!?」
影の顔から表情が抜け落ち、信じられないものを見るように両目を大きく見開いた。
「届いた……!間違っちゃなかった!!」
遊馬はギュッと拳を握り締め、会心の笑みを浮かべた。命懸けの賭けに打ち勝った喜びが、全身の痛みを忘れさせる。
「何故ダッ!?今ノ完成シタ《ロンゴミアント》ハ他ノカードノ効果ヲ受ケナイ、絶対無敵ノナンバーズッ!!」
理解不能な事象を前に、影はパニックを起こしたように狂った声を上げた。ルールそのものを否定されたかのような狼狽が、その姿を惨めなものにしていく。
「読み通り!《オーバーレイ・オウル》の効果は《ロンゴミアント》に確かに効く!!」
「何故、鳥ナドニ影響サレタ!?九十九遊馬、答エロ!!」
動揺する影に対し、遊馬はビシッと指を突きつけ、揺るぎない事実を突きつける。理解できない、と怒りと混乱で声を震わせる影。その問いに対し、遊馬はデュエリストとしての誇りを胸に、堂々と謎解きを始めた。
「分かったぜ、そいつの弱点が……!確かに、《ロンゴミアント》は無敵……真正面からじゃとても倒せねぇ」
遊馬は一度言葉を切り、眼前の圧倒的な暴力を見据える。どれほど絶望的な壁であっても、必ずどこかに綻びはある。
「でも、無敵なのは《ロンゴミアント》だけ。《ロンゴミアント》は、な!」
その言葉の真意を測りかね、影はギリッと歯軋りをした。
「何ガ言イタイッ!」
「俺は手札の《オーバーレイ・オウル》の効果を見て考えた……こいつは、相手フィールド上のオーバーレイ・ユニットを1つを取り除く効果。エクシーズモンスターに対しての効果じゃねぇ。直接、ダイレクトに、一直線に、オーバーレイ・ユニットに干渉する効果!」
遊馬の言葉が荒野に響き渡る。モンスターそのものを対象にする魔法や罠、モンスター効果は、全てロンゴミアントの「カードの効果を受けない」という絶対耐性に弾かれてしまう。だが、この鳥の標的は最初から違った。
「《ロンゴミアント》が無敵なのは、当然《ロンゴミアント》に対する効果だけ!つまり、オーバーレイ・ユニットを減らす能力に対しては無力ってことだ!!」
真正面がダメなら、周りから攻め落とす。
「本丸が無敵でダメなら、無敵じゃねぇ周りを倒せばいいって俺は考えたのさ!」
正直ダメかもしれない、と半ば思いつつも信じて託した、遊馬の柔軟な発想だった。そしてその反撃の糸口は、今確信へと変わった。得意げに鼻の下を擦る遊馬。その言葉を聞き、影はようやく自身の絶対王者が抱えていた致命的な欠陥に気づいた。
「……チッ、ソウイウコトカ……装甲カラ外スト考エタカ!」
忌々しげに吐き捨てる影。しかし、すぐさま態勢を立て直し、再び傲慢な笑みを顔に貼り付けた。
「ダガ、ソノ効果ハ既ニ使用サレタ……一方マダ、《ロンゴミアント》ニハ5ツモオーバーレイ・ユニットガ存在スル、無意味ダ!!」
まだ召喚封じのロックも何も解けていない。俄然絶対的な優位は揺るがないと、己に言い聞かせるように影は声を張り上げた。だが。
「いいや意味はある!こいつはライフが尽きない限り、何度だって発動できる!この効果に1ターンはねぇ!」
遊馬の放った最後の一撃が、影の精神を根底から打ち砕いた。
「何ダト!?」
一ターンに一度という制限のない起動効果。それが意味する絶望的な未来を悟り、影の顔色が一瞬にして蒼白になる。
「行くぞ、《オーバーレイ・オウル》!」
遊馬は己の命を削る覚悟を決め、再び右腕を天へ向けて力強く突き上げた。
「二回目の《オーバーレイ・オウル》の効果発動!ライフを600ポイント払い、《ロンゴミアント》のオーバーレイ・ユニットを一つ墓地に送る!!」
再び遊馬の体から大量の赤い光が抜け出し、極限状態の肉体を容赦なく苛む。しかし、その顔に迷いは一切ない。
遊馬 LP 2600 → 2000
「《ロンゴミアント》ガ……ヤ、止メロォォォォ!!!」
光球が再びパリンと音を立てて砕け散り、絶対的だった巨兵の威容が目に見えて崩れていく。己の作り上げた無敵の城塞がただの珍妙な鳥によって無惨に解体されていく様を前に、影はもはや取り繕うことも忘れ、惨めな悲鳴を荒野に響かせた。遊馬の身を削る猛攻は止まらない。決死の覚悟と共に、さらに激しい生命の輝きが胸から溢れ出す。小さな鳥が起こした風が再び漆黒の巨兵へと襲い掛かり、四つ目の光球を容赦なく吹き飛ばした。
「三回目、《オーバーレイ・オウル》!」
遊馬 LP 2000 → 1400
苦痛が遊馬の全身を駆け巡り、視界が赤く点滅し始める。それでも彼は決して膝を屈することなく、震える腕で強引に鳥へと力を注ぎ込み続けた。三つ目の装甲が砕け散り、絶対王者の威厳はもはや見る影もない。
「四回目、《オーバーレイ・オウル》!」
遊馬 LP 1400 → 800
《No.86 H-C ロンゴミアント》ATK 3000 → 1500 DEF 3000 → 1500
急激に削られたことで薄れゆく意識を魂の叫びで繋ぎ止め、遊馬は最後のライフポイントを振り絞る。鳥の羽ばたきが巨兵を纏う二つ目の光球を捉え、完全に粉砕した。
「五回目!これで最後だ……《オーバーレイ・オウル》!」
遊馬 LP 800 → 200
一つを残し、合計五つものオーバーレイ・ユニットを剥ぎ取られた巨兵が、力を失い大きくよろめく。完璧なロック盤面を単なる鳥一匹に破壊された影は、プライドをズタズタに引き裂かれていた。狂乱に任せて両腕を振り回し、顔を歪めて絶叫する。
「テメェ……ヨクモ、ヨクモォォォ!!!」
荒い呼吸を繰り返し、遊馬は滝のような汗を流しながらも力強く前を見据えた。視線の先には、無敵のオーラを失い、単なる壁モンスターへと成り下がったロンゴミアントの姿がある。命と引き換えに奪い取った、紛れもない反撃のチャンスだった。
「はぁ、はぁ, はぁ……ライフギリギリだ……けど、持ちこたえた!これで《ロンゴミアント》は戦闘破壊されない、攻撃力1500のモンスターに戻った!!」
だが、希望を見出した遊馬の心に冷たい現実がのしかかる。
(けど、《ホープ》はもう墓地に行っちまった……《オーバーレイ・オウル》の効果でもうライフをめちゃくちゃ使っちまった。この隙を逃したら、もう次はねぇ……)
頼みの綱であるホープは既に破壊され、自身のライフは風前の灯火。
(今が、絶好のチャンス!寧ろここを逃したら勝てねぇ……!!)
一矢報いる準備は整えたものの、眼前の敵を打ち倒す決定的な一撃が、今の彼のデッキには残されていなかったのだ。
(《ホープ》じゃない、絶対的なパワーを持ったモンスター……そんなモンスター、俺にはもう……!)
絶望の淵で攻め手を欠き、静寂が落ちかけたその時。沈みゆく夕陽の決闘場に、不屈の闘志を孕んだ男の野太い咆哮が轟いた。それは影の支配を内側から捻じ伏せた、友の熱い魂の声だった。
「遊馬ッ!!」
予想外の方角から響いた名前に、遊馬はハッと顔を上げる。視線の先には、自身の精神を乗っ取っていた影を強引に押しのけ、右腕を真っ直ぐに突き出したゴーシュの姿があった。
「ゴーシュ!?」
ゴーシュの肉体を支配する影の黒い靄が、内部からの凄まじい抵抗によって大きく乱れる。完全に意識を奪われていたはずのゴーシュが、強靭な精神力で一瞬だけ体の主導権を奪い返したのだ。
「諦めんじゃねぇ、遊馬!!!」
全身の筋肉を震わせながら右腕を掲げた彼は、自らのデュエルディスクから一枚のカードを抜き放ち、遊馬へと向かって全力で投げ渡した。
「希望を齎すのは、お前のホープだけじゃねぇ!!受け取れッ!!!」
夕陽の赤い光を反射しながら、空を鋭く切り裂いて飛んでくる一枚のカード。遊馬は咄嗟に手を伸ばし、パシッと見事にそれを受け止めた。手のひらに収まったそのカードの券面を見た瞬間、遊馬は息を呑んで目を丸くする。
「こ、これはっ!?《エクスカリバー》!?」
それは、かつてゴーシュが自身の誇りとして振るっていた最強の戦士、ヒロイック・チャンピョンの切り札だった。
「使え、俺のカードを!!!目には目を、歯には歯を!英雄には英雄だ!!」
再び影の支配が強まり、激しい頭痛に顔を歪めながらも、ゴーシュは魂の底から遊馬へと檄を飛ばす。理不尽な絶望に対抗するには、己を信じる圧倒的な英雄の力が必要だと言わんばかりに。
「オレなん、ゴーシュ!!テメェ!気にすん邪魔ヲスルナァア邪魔はお前黙レ黙レ黙レ!!!」
強引に押しのけた反動からか一人の口を二人が主導権を奪い合い、言葉がもはや意味を成していない。
「邪魔ダ、ゴーシュ……グッ、ハガァッ……」
「ゴシップ・シャドーっ!ゴーシュを返しやがれ!」
「返サネェヨ!テメェノ負ケガ確定スルマデナ!コイツガ勝手ニ託シヤガッタカードサエ、粉砕シテヤルヨ!!」
尊大に両腕を広げ、叫ぶ影。だが、それが皮肉なことに遊馬の勝利への方程式を導く、ヒントとなった。
「ゴーシュが、託してくれたカード……《H-C エクスカリバー》……!」
すぐに自身の盤面とゴーシュの意図が線で繋がった。手札にあるカードと、今託された最強の剣。これらを組み合わせれば、ロンゴミアントを打ち倒す唯一の道が切り開ける。
「……分かったぜ、ゴーシュ!!」
友の熱い想いを受け取った遊馬の瞳に、再び強烈な闘志の炎が宿る。迷いを完全に振り払った彼は、手札から一枚のカードを力強くデュエルディスクへ叩きつけた。
「俺は手札から、《ガガガマジシャン》召喚!さらに装備魔法、《ワンダー・ワンド》を《ガガガマジシャン》に装備!」
学ラン姿の魔術師がフィールドに姿を現し、神秘的な杖を握りしめる。
《ガガガマジシャン》ATK 1500 → 2200
「……フィールドの《ガガガマジシャン》と《ワンダー・ワンド》を墓地に送り、2ドローッ!!」
即座にガガガマジシャンと杖が光の粒子となって砕け散り、遊馬のデッキへとエネルギーを注ぎ込む。これが、このデュエルにおける最後の賭けだった。遊馬はデッキトップに右手を置き、極限まで集中力を高める。
「かっとビングだ、俺ェェェッ!!」
全身のバネを使い、黄金の軌跡を描きながら二枚のカードを引き抜いた。引いたカードを確認した瞬間、遊馬の顔に会心の笑みが浮かぶ。
「来たっ……《死者蘇生》発動!蘇生するのは、ゴーシュの墓地にある《H・C ダブル・ランス》だ!!」
遊馬が発動した魔法カードに応え、友の墓地から双槍を構えた戦士がフィールドへと舞い戻る。その光景は、ゴーシュの魂が遊馬のすぐ隣で肩を並べているかのようだった。
「こいつは効果で、一体で二体分のエクシーズ素材とすることができる!俺は、戦士族のレベル4モンスター1体で、オーバーレイ・ネットワークを構築!!」
ダブル・ランスの体が二つの赤い光へと分裂し、足元に展開された巨大な銀河の渦へと吸い込まれていく。爆発的なエネルギーが荒野全体を震わせた。
「エクシーズ召喚!」
星の交わりが巨大な剣を生み出し、まばゆい光の柱が天を突く。その光の奔流の中から、伝説の聖剣を携えた無敵の騎士が、圧倒的な威圧感を放ちながら荒野に降臨した。
「現れろ、《H-C エクスカリバー》!!」
友の魂が顕現したような伝説の騎士を前に、影は忌々しげに舌打ちをした。
「チッ……現レヤガッタカ!」
完璧だったはずのロック盤面が完全に崩され、まさか以前自分を打倒したゴーシュのエースモンスターが再び自分の前に立ち塞がるとなど影は思ってもいなかった。しかし、その顔にはまだ微かな余裕が残っている。対して遊馬は真っ直ぐな瞳で影を見据えたまま、デュエルディスクのスロットに魔法カードを滑り込ませた。
「俺はシャークから貰った魔法カード……《アーマード・エクシーズ》発動!墓地の《No.39 希望皇ホープ》を、《H-C エクスカリバー》に装備だ!!」
宣言と同時に、墓地へと送られていたホープの魂が純白の装甲と、黄金の翼となってエクスカリバーの周囲に顕現する。シャークから託された力と、ゴーシュの切り札。二つの熱い絆が今、遊馬のフィールドで一つに重なり合った。
「《アーマード・エクシーズ》の効果により、《エクスカリバー》の攻撃力は《No.39 希望皇ホープ》と同じ、2500となる!合体武装だ、エクスカリバーッ!!」
まばゆい閃光と共に、エクスカリバーの赤々しい鎧を更に覆うように、ホープの鎧が包み込んだ。ホープの持つ鎧と翼を身に纏い、手にした聖剣の刀身が更なる輝きを放ち始める。異なる二人の英雄の力が完全に融合し、ステータスが一段階引き上げられた。
《H-C エクスカリバー》ATK 2000 → 2500
「バトル!《夕日の決闘場》の効果で《オーバーレイ・オウル》は破壊される!!」
遊馬が力強くバトルフェイズを宣言した瞬間、鳥は静かに消滅した。
「行くぜ!!」
だが、その犠牲は決して無駄ではない。繋いで紡いで、託されて得た、逆転の時。一つたりとも欠けては今に繋がらなかった。遊馬は真っ直ぐに右腕を突き出し、弱体化した純白の巨兵へと狙いを定めた。呼応するように、純白の鎧を纏ったエクスカリバーが大地を強く蹴り、夕闇の迫る空へと高く跳躍する。
「《エクスカリバー》ッ、《ロンゴミアント》を攻撃……この瞬間、《エクスカリバー》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを全て使い、攻撃力は2倍となる!!」
宙に舞ったエクスカリバーの周囲を旋回していた光球が、一気に聖剣の刀身へと吸い込まれ、剣を爆発的に強化する。その刃は、ホープのモノでも無く、エクスカリバーのでも無く。重なり合った結果生まれた、天を焦がすほどの巨大な光の剣だった。
《H-C エクスカリバー》ATK 2500 → 5000
しかし、空を覆い尽くすほどの光の剣を前にしても、影の口元には歪な笑みが張り付いていた。
(ダガ、九十九遊馬ノライフポイントハ既ニ瀕死。一方俺ノライフハ2600……奴ノ攻撃力4000ノ攻撃ガ通ロウト、《エクスカリバー》ノ攻撃力上昇ハバトルフェイズ終了マデ)
遊馬の命の炎は既に消えかけ、対する自分には十分なライフが残されている。エクスカリバーの瞬間的な爆発力は確かに脅威だが、このターンさえ凌げば勝利は揺るがない。
(ゴーシュノヨウニ攻撃力2倍ヲ重ね掛けシテモイナイ、コノ盤面デオレガ負ケルコトハ無イ……更ニ!!)
その絶対的な確信を胸に、影は周到に隠し持っていた牙を剥いた。
「コノ瞬間、永続罠発動!《戦士ノ喊声》!!モンスターノ効果ニヨッテモンスターノ攻撃力ガ変化シタタメ、自分フィールドノ戦士族ノ攻撃力ハ倍トナル!!」
影の足元で伏せカードが勢いよく反転し、禍々しいオーラが戦場に吹き荒れた。オーバーレイ・ユニットを失い弱体化していたロンゴミアントの肉体に、再び底知れぬ闇の力が注ぎ込まれ、巨体がかつての凶悪な威圧感を取り戻していく。
「何!?」
《No.86 H-C ロンゴミアント》ATK 1500 → 3000
(ノコノコ引ッ掛カリヤガッタ!コレニヨリ、《ロンゴミアント》ハ常時攻撃力3000ヲ維持スル!!一方《エクスカリバー》ハ一時的ナ攻撃力ノ増幅ニ過ギナイ!勝利者ハヤハリ……)
罠の網へと完全に獲物を捉えた喜びに、影の瞳が歓喜でドス黒く濁る。一時的な強化に全てを賭けた遊馬に対し、永続的な強化を得たロンゴミアント。ダメージ計算上はまだエクスカリバーが上回っているものの、戦闘を終えれば元の数値に戻るため、次のターンには確実に聖剣を惨殺できる運命にある。
「……バトルは続行だ!」
だが罠を受けてなお、遊馬の瞳から闘志の炎は微塵も消えていなかった。ここで退けば次はない。遊馬の決死の叫びに応え、エクスカリバーは巨大な光の剣を真っ直ぐに振り被り、ロンゴミアントの頭上から渾身の一撃を叩き落とした。
《H-C エクスカリバー》ATK 5000 vs《No.86 H-C ロンゴミアント》ATK 3000
「ぶった斬れ、《エクスカリバー》!!一刀両断、必殺真剣!!」
光の戦士が操る聖剣と闇の戦士が操る撃槍が真正面から激突し、凄まじい衝撃波が夕日の決闘場を吹き飛ばす勢いで広がった。
「グッ……グハァアアァァッ!!!」
光の刃が巨兵の肩口を深々と斬り裂き、爆風が吹き荒れる。ゴーシュの肉体を通して影の全身に激痛が走る。
(チッ……如何ニ攻撃力ガ上ガロウト、ライフハ尽キヌ限リ俺ハ負ケナイ……ソシテ、決シテ倒レヌ撃槍ヲ倒スコトハデキナイ!!コノ勝負、オレガ貰ッタ!!)
肉を裂かれる痛みに顔を歪めながらも、影は勝利の確信に酔いしれていた。ロンゴミアントはオーバーレイ・ユニットが一つでも残っていれば戦闘で破壊されない。いくら自分がダメージを受けようと、この攻撃で巨兵が倒れることはない。全ては計算通りだ。
「無駄、無意味、無価値ナ抵抗ダ!!」
ゴーシュ LP 2600 → 600
土煙が晴れた後には、強烈な一撃を浴びて片膝をつきながらも、不気味にそびえ立つロンゴミアントの姿があった。影のライフはギリギリのところで持ちこたえ、遊馬の渾身の一撃は決定打には至らなかったのだ。
「俺ノライフハ600残ッタ、バトルハ終了!!足リナイ、マルデ俺ヲ倒スニハ足リテイナイ、絶対的ニ超エラレナイ!!ダカラ絶望ハ強大ニナルンダ!希望ヲ抱キナガラ絶望ニ沈メ、泡沫ニ消エロ、溺レ死ネェェ!!!」
完全に遊馬の猛攻を凌ぎ切ったと確信した影は、傷ついた両腕を天に向けて大きく掲げ、喉を掻き毟るような狂気的な哄笑を荒野に響き渡らせた。勝利を確信し、狂気に満ちた笑い声を上げる影。
「それはどうかな?」
だが、その耳障りな哄笑を真っ向から切り裂くように、遊馬の凛とした声が荒野に響き渡った。
「ッ!?」
完全に希望は潰えた、と確信していたはずの獲物から発せられた予想外の言葉に、影の笑い声がピタリと止まる。得体の知れないプレッシャーを感じ、影は思わず一歩、後ずさる。
「《アーマード・エクシーズ》の効果発動!!」
夕闇を吹き飛ばすほどの熱気と共に、遊馬が右腕を天高く突き上げる。その背後には、彼自身の誇りである希望皇ホープと、ゴーシュの誇りが宿るエクスカリバーの幻影が、重なり合うようにして立ち並んでいた。二つの絆が交わり、限界を超えた奇跡を呼び起こす。
「《エクスカリバー》ッ、アーマーパージだ!!!」
遊馬の号令に応え、エクスカリバーの肉体を覆っていた黄金の鎧が眩い光を放ち始める。ホープの力を宿したその重厚な装甲が次々と弾け飛び、宙を舞って光の粒子へと還元されていく。
「何!?」
せっかく得た攻撃力アップの装備を自ら脱ぎ捨てるという不可解な行動に、影は目を白黒させた。自暴自棄になったとしか思えないその光景の裏に潜む、真の狙いに気づくことができない。
「《戦士ノ喊声》ハ……モンスターガ墓地ニ送ラレタ瞬間、墓地ニ行ク……!」
弾け飛んだホープの鎧が墓地へと送られたその瞬間、フィールドを支配していた禍々しいオーラが音を立てて崩れ去った。影が発動し、ロンゴミアントを強化していた永続罠の拘束が、発動条件を満たせなくなり完全に消失したのだ。
《No.86 H-C ロンゴミアント》ATK 3000 → 1500
「独り善がりな英雄……そんなもの、英雄なんかじゃねぇっ!!受け継ぎ、紡ぐことで希望は生まれるんだ!!」
「欺瞞、欺瞞ダ!言葉ダケカ、上辺ダケカッ!!お前ハ既ニバトルハ終了、お前ハ負ケルンダ!!」
「いいや、お前が負けるんだ!ゴシップ・シャドー!!」
「何故、何故ダ!?何故絶望ヲ前ニシテ、希望ヲお前ハソコマデニ抱ケル!?」
不正な力で他者の肉体を奪い、孤高の暴君として振る舞う影に向け、遊馬は魂の底からの怒りをぶつける。本当の強さとは、決して一人で完結するものではない。誰かの想いを受け取り、次の誰かへと繋いでいく。それこそが本物の英雄の姿なのだと、遊馬は強く信じていた。
「《アーマード・エクシーズ》の効果!装備魔法扱いの《No.39 希望皇ホープ》を墓地に送ることで、《エクスカリバー》は再び攻撃できる!!」
重い装甲を脱ぎ捨て、身軽になったエクスカリバーが、再びその手に聖剣を強く握り直す。ホープの魂から得たのは、絶対的な攻撃力ではなく、運命を切り開くための二度目のチャンスだった。
「二回攻撃ダトッ?!」
「確かに、エクスカリバーだけじゃお前を倒せねぇかもしれねぇ……けど、今は一人じゃない!!光の戦士は、二人いるんだぁぁーーーッ!!!」
罠カードの消失により攻撃力が半減した自身の巨兵と、再び攻撃態勢に入った光の騎士。完全に形勢が逆転した絶望的な事実に直面し、影の顔が恐怖で醜く歪む。
《H-C エクスカリバー》ATK 5000 → 4000
「一度でダメなら、二度も三度もぶった斬る!!希望ってのは、チャレンジして掴み取るモノ……一人で届かないなら、皆と掴み取ればいい!」
何度倒れても立ち上がる。どんなに厚い壁であっても、決して諦めずにぶつかり続ける。
「届かねぇ、だからって諦める理由にはならない!!」
熱き友から託された剣を振るう少年の姿は、夕陽に照らされ、文字通り希望の光となって輝いていた。
「だから希望ってのは、輝いて見えるものなんだ!!かっとビングだ、《エクスカリバー》ッ!!!」
遊馬の熱き叫びが荒野を震わせる。その声に呼応し、エクスカリバーが大空高く飛び上がった。装甲を失ってなお、その刃に宿る光は先程よりも強く、鋭く、そして暖かく光り輝いている。全ての想いを乗せた真の一撃が、今、放たれる。
《H-C エクスカリバー》ATK 4000 vs 《No.86 H-C ロンゴミアント》ATK 1500
「一刀両断ッ──必殺真剣、二連斬!!!」
上段から振り下ろされたエクスカリバーの一撃。それはもはや剣戟という枠を超えた、巨大な光の濁流だった。全てを薙ぎ払う圧倒的なエネルギーが、弱体化した純白の巨兵を脳天から真っ二つに叩き割る。
「ギ……ギャアァァアアァァアァ!!!」
無敵を誇った巨体が光の中に溶け、完全に消滅していく。同時に、その痛覚を直接共有していた影が、己の完全なる敗北を悟りながら、鼓膜を裂くような断末魔の悲鳴を上げた。大爆発が巻き起こり、凄まじい爆風が夕陽の決闘場全体を吹き飛ばしていく。
ゴーシュ LP 600 → 0
「俺の勝ちだ……ゴシップ・シャドー!!」
ARビジョンの帳が下がると同時に爆煙がゆっくりと晴れていく中、そこには立派に立ち尽くして消えゆくエクスカリバーと、真っ直ぐに拳を突き上げた遊馬の姿があった。
凄まじい爆発の余波が収まると共に、空間を覆っていた不気味な暗黒がガラスのようにパリンと砕け散った。偽りの領域が完全に崩壊し、デュエルコースター本来のコースである、赤茶けた荒野と夕陽の風景が再び姿を現した。
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影がゴーシュの身体からはじき出されるようにズルリと抜け落ち、それまで操られて冷酷な動きを見せていたゴーシュの身体が、不意に糸の切れた操り人形のようにガクンと前へのめり込んだ。
「ゴーシュっ!」
「……俺の、体が……!!」
両膝を荒野の土につけ、何度も瞬きを繰り返しながら、彼は自身の両手のひらを信じられないといった様子で見つめる。瞳に宿っていたドス黒い濁りは完全に消え去り、そこには本来の熱く真っ直ぐなゴーシュの意志が戻っていた。
「戻った!よくやってくれたぜ、遊馬ァ!!」
友の正気が戻ったことを確信し、息も絶え絶えだった遊馬の顔にパッと安堵の表情が浮かぶ。デュエルディスクを下ろし、過酷なデュエルを終えた身体を引きずるようにして駆け寄ろうとした。しかし。
「無事だったのか!?」
「無事なわけねぇだろうが!俺はさっきまで、こいつに乗っ取られてたんだぞ!?」
いつもの調子で吠えるゴーシュの声に、遊馬は思わず苦笑いを浮かべて足を止めた。肉体的な疲労は限界に近いだろうに、その口調にはいつもの力強い張りが戻っている。そのゴーシュが指さす先には、ドス黒い瘴気のようなもやが漏れ出ている一枚のカードがあった。地面に這いつくばったその瘴気は、不定形に蠢きながら、醜くひしゃげた影の怪人の姿を形作っていく。
「……グ、ギギギ……馬鹿ナ、馬鹿ナッ!!何故ダ、何故ダァアアーーッ!!」
圧倒的な力を誇っていたロンゴミアントを打ち砕かれ、さらに強靭な宿主であったゴーシュの肉体からも弾き出された影は、もはや惨めな敗残兵でしかなかった。荒野の砂に爪を立て、己に降りかかった信じられない現実を前に、ノイズ混じりの声で泣き喚く。
「一度ナラズトモ、二度モ叩キ割ラレタ、二度モダ!」
かつて一度敗北を喫した屈辱を晴らすため、入念に準備を重ね、ゴーシュという最高の器を手に入れ、ゴーシュの欲望を搔き乱すことでナンバーズを生み出し、そして狙い通りの絶対無敵の布陣を敷いたはずだった。それにも関わらず、再び目の前の餓鬼に全てを打ち砕かれた絶望が、影の精神を激しく掻き乱していく。
「……ゴシップ・シャドー」
地の底を這うような惨めな姿を見下ろし、遊馬は静かにその名を呼んだ。ゴーシュを無理やり乗っ取り、悪意の元自分を倒そうとしたナンバーズ。その初対面だったとは言え、どこか似た面影を知る相手に対し、遊馬の眼差しにはもはや怒りも焦りもなく、ただ静かな決意だけが宿っていた。
「九十九遊馬、貴様ヲ食ライツクシ、コノWDCヲ惑乱ノ渦ニ叩キ落ソウトオレハコレマデニ……!!」
消え入りそうな身体を無理やり持ち上げ、影は最後の抵抗とばかりに遊馬へと鋭い殺意を向ける。その声には、野望を打ち砕かれた怨嗟がドロドロと渦巻いていた。もしここで遊馬の精神を乗っ取ることができれば、まだ逆転の芽はあると、影は狂ったように残された力を振り絞ろうとする。
「あー、ゴシップ・シャドー。残念だけど、それは無理だな」
だが、飛びかかろうとする影の殺気を正面から受け止めながらも、遊馬は全く怯むことなく首を横に振った。まるで駄々をこねる子供を諭すかのような、呆れ混じりの口調だった。
「何故ダッ!」
予想外の反応に、影の動きがピタリと止まる。
「俺はアストラルに守られている。それに、お前にソックリな奴がいるんだよ。《No.96 ブラック・ミスト》って奴がな」
遊馬は自身の胸元で黄金色に輝く皇の鍵をそっと握りしめた。かつて、この影と同じように邪悪な意志を持ち、遊馬自身を乗っ取った黒いナンバーズの記憶が脳裏をよぎる。あの時は、鉄男に助けてもらった。あの時、自分はアストラルのことを信じられない状態だった。だから、その隙を突かれて乗っ取られた。
「デハ、ソイツハ何故お前ニ服従シテイル!?アストラルハ今お前ノ隣ニイナイ、服従スル道理ハ無イハズダ!」
だがナンバーズの真の持ち主であるアストラルの姿は、今この場にはない。ならば何故、目の前の少年はナンバーズの呪いに飲み込まれず、自我を保ったままナンバーズを使役できるのか。影にはその理屈がどうしても理解できなかった。
「今はいねぇけど、アストラルはナンバーズの呪いから守ってくれてるんだ。皇の鍵があるから、俺はナンバーズに憑りつかれない、だから、俺はナンバーズを使える、アストラルが守ってくれてるからな!」
遊馬が胸の鍵を掲げると、夕陽の光を受けて鍵が神秘的な輝きを放った。たとえ姿が見えなくとも、今はいなくとも、アストラルとの間に結ばれた固い絆は決して消えない。遠くから、守ってくれているという信頼と絆。それこそが、遊馬をナンバーズから守る最強の盾なのだ。
「九十九遊馬、アストラル、アストラル……ソウイウコトカッ……アストラルッッ!!!」
遊馬の言葉を聞き、影はついに己の野望が、計画の最初から完全に破綻していたことを悟った。最強のナンバーズを揃えようが、どれだけ緻密な罠を張ろうが、遊馬の精神を乗っ取るという最終目的は、この鍵とアストラルの加護がある限り絶対に不可能だったのだ。己の無知と滑稽さを思い知り、影の姿が屈辱で激しく明滅する。
「ゴーシュッ!!テメェガ《エクスカリバー》ヲ投ゲ渡サナケレバ、オレハ勝利シタトイウノニ!!!余計ナ事ヲシヤガッテ、フザケルナ、フザケルナ、馬鹿野郎ガアァアアアァアアーーーッ!!!」
八つ当たりにも等しい怒りの矛先は、もはや遊馬から離れ、背後で立ち上がりかけていたゴーシュへと向けられた。もしあの土壇場でゴーシュが強引に自我を取り戻さず、エクスカリバーを託していなければ、ロンゴミアントを突破されることはなかった。敗北の全責任をゴーシュに押し付けるように、影は醜い罵詈雑言を荒野に撒き散らす。
「フッ……それは違うな、ゴシップ・シャドー!」
だが、無様に喚き散らす影を見下ろし、ゆっくりと立ち上がったゴーシュは、フッと鼻で笑い飛ばした。その顔には、先程まで肉体を支配されていたことへの恐怖など微塵もなく、デュエリストとして、同時にナンバーズハンターの圧倒的な余裕と自信が満ち溢れていた。
「何!?」
想定外の反論を受け、影が間抜けな声を漏らす。
「お前は気づいてないかもしれねぇが、仮に俺が《エクスカリバー》を渡して無くても、遊馬は勝てる!」
ゴーシュはビシッと影を指差し、その薄っぺらいデュエルタクティクスを真っ向から否定した。
「例えば、《死者蘇生》で俺の墓地の《H・C 夜襲のカンテラ》を蘇生して、《アーマード・エクシーズ》で《ホープ》を装備して殴っていれば《戦士の喊声》が発動するまでもなく……ジリ貧でお前は負ける!そうだろ、遊馬!?」
遊馬の手札には《死者蘇生》があった。そしてゴーシュの墓地にはレベル4の戦士族モンスターが存在していた。仮にエクスカリバーという超絶な爆発力がなくとも、地道な蘇生と装備魔法のコンボを用いれば、弱体化したロンゴミアントを一方的に殴り倒すことは十分に可能だった。《戦士の喊声》はモンスターの効果による元々の攻撃力からの変動をトリガーとするため、その条件すら満たせずに完封できたのだ。ゴーシュが提示したもう一つの完璧な解答に、影は完全に言葉を失った。
「あ、ああ!当然だ、俺はゴーシュに託された想いでお前をぶった斬ったんだ、だから、俺はこのターン中に勝てた!!」
ゴーシュの言葉に、遊馬も力強く頷く。盤面を制圧するルートはいくつも存在していた。だが、遊馬は友の想いに応えるため、そして友の誇りを取り戻すために、あえてエクスカリバーという最強の剣を振るう道を選んだのだ。
「つまるところ、お前は俺が遊馬に《エクスカリバー》を渡す以前に、お前の領域は遊馬の運命が凌駕していた……負けが決定してたんだよ!年貢の納め時だな、ゴシップ・シャドー!!」
ゴーシュが突きつけた冷酷な事実。それは影が、圧倒的に優位に立っていると錯覚していただけで、実際には遊馬の引いたカードによって、チェックメイトをかけられていたという残酷な真実だった。全力で運命を引き寄せるデュエリストの輝きを前に、姑息な手段しか持たないちっぽけな影など、最初から勝負の土俵にすら上がれていなかったのだ。
「馬鹿ナ、馬鹿ナ、馬鹿ナァァアアアーーーッ!!」
言い逃れのできない完全な敗北と、己の浅はかさを突きつけられ、影は狂乱の極みに達した。形を保つことすらできなくなり、黒い瘴気が悲鳴を上げながら四散していく。
その無様な断末魔を終わらせるように、ゴーシュがスッと右手を前にかざした。手のひらからフォトン粒子が放たれ、黒い瘴気を包み込んでいく。悪しき野望を抱いたナンバーズは、たとえ表面上は敵同士であろうと深い心では通ずるところのある、強き絆を結んだ二人のデュエリストの前に完全に屈服したのだ。
「往生しろ……ナンバーズハントの時間だ!」
やがてその光は、《No.86 H-C ロンゴミアント》と《No.75 惑乱ノゴシップ・シャドー》という二枚のカードとなってゴーシュの手へと収束していったのだった。
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「これで正真正銘……ナンバーズ、回収完了だな」
ゴーシュの手の中に収まったカードを見つめ、遊馬は安堵の息を長く吐き出した。夕陽に照らされたその横顔には、死闘を終えた深い疲労と、それ以上の達成感が入り混じっている。
「……ナンバーズ……!」
遊馬は強く拳を握りしめ、小さな声で言う。その声を聞き、憑き物が落ちたようにスッキリとした顔つきで、ゴーシュはバツの悪そうに頭を掻いた。
「……迷惑かけたな、遊馬。悪ぃノリに付き合わせちまって済まなかったな」
自身の不甲斐なさに対する自嘲が少しだけ混じったその声に、遊馬は優しく微笑みかける。
「ゴーシュ」
「俺は本来、お前とこの荒野のフィールドで熱いノリで戦うつもりだったんだけどな。邪魔者にトコトン邪魔されちまった。ほんっと、情けねぇな……ハハハ」
真っ直ぐに見つめ返してくる遊馬の瞳に、ゴーシュは照れ隠しのように渇いた笑い声を上げた。熱いデュエルを信条とする彼にとって、己の肉体を操られ、姑息な戦術で遊馬を苦しめてしまったことは、彼自身の誇りを酷く傷つけるものだった。
「そんなことねぇよ。ゴーシュの熱い想いは、ナンバーズに汚されたって俺にはちゃんと届いたぜ?」
遊馬は力強く首を横に振り、満面の笑みを浮かべた。例えナンバーズに操られていようと、最後に自我を取り戻し、自分に希望を託してくれた、ゴーシュという名の強靭な魂。それはどんな闇にも染まらない、本物の熱いノリだった。
「ありがとうな。お前は《エクスカリバー》が無くても俺は勝てたって言ってくれたけど、正直お前が《エクスカリバー》を託してくれなかったら、俺は勝てなかったかもしれねぇ」
別の勝ち筋があったとしても、あの極限状態の精神を支えてくれたのは、紛れもなくゴーシュから託されたエースカードの存在だ。遊馬は心からの感謝を込め、デュエルディスクから一枚のカードを丁寧に抜き出した。
「……返すよ。ありがとう、《エクスカリバー》……!」
夕陽の光を浴びてキラキラと輝く伝説の騎士のカード。遊馬はそれを両手で持ち、本来の持ち主であるゴーシュへと真っ直ぐに差し出す。
「……受け取れねぇな、遊馬」
「えっ?」
しかし、ゴーシュはそのカードを受け取ろうとはせず、スッと目を細めて腕を組んだ。予想外の反応に、遊馬は目をパチクリさせて間抜けな声を漏らす。
「受け取れねぇなって、言ってんだよ!」
突き返すようなゴーシュの強い口調に、遊馬は差し出した手をピタッと止めた。
「えっ、でもこれゴーシュのカードじゃねぇかよ!?」
困惑する遊馬。エクスカリバーはゴーシュの切り札。それを返さない理由など、遊馬には全く思いつかなかった。
「ああそうだ、それは俺のカードだ、けど、今は違う」
ゴーシュは組んだ腕を解き、遊馬の手にあるカードを優しい眼差しで見つめた。その表情には、一切の後悔も未練も感じられない。
「……どういうことだよ?」
「ゴシップ・シャドーをぶった斬る《エクスカリバー》を使うお前を見て、ピンと来たんだ。こいつは、お前のところに行きたがってるんだなってな」
ホープと融合し、悪を断ち切ったあの一撃。あの時、エクスカリバーが放っていた輝きは、ゴーシュ自身が使っていた時よりも遥かに眩しく、力強かった。カード自身が遊馬を主として認め、共に戦うことを望んでいる。ゴーシュにはそれが、はっきりと感じ取れたのだ。
「それって、でも……」
恐れ多くてカードを見つめる遊馬。切り札のカードを渡すということは、持ち主にとって大切な魂を譲り受けることと同義。その重さに、少しだけ手が震える。
「いいのかよ?」
「いいんだよ、俺が託した。トロンに見せてやれ、エクシーズモンスターはナンバーズだけじゃねぇんだってことをな!」
ゴーシュは遊馬の肩にポンと手を置き、ニカッと豪快に笑ってみせた。これから遊馬が立ち向かうことになる強大な敵、トロン。裏切られて修羅に堕ちた彼に、絆が生み出したエクシーズモンスターの意地を叩きつけろ。それが、このカードに込めたゴーシュの願いだった。
「……ああ、分かった!お前の切り札、大切に使わせてもらうぜ!」
友の熱い想いをしっかりと受け止め、遊馬はエクスカリバーのカードを再びデュエルディスクに入れ直す。その瞳には、新たな決意の炎が赤々と燃え上がっている。
「その代わり、ノリの悪いデュエルなんかしやがったら、この俺が承知しねえからな!!」
「ああ!絶対だ!!」
固い絆で結ばれた二人のデュエリストは、夕陽を横にして力強く握手した。すべてのわだかまりが消え去り、心地よい風が荒野を吹き抜けていく。遊馬がゴーシュに背を向け、フィールドの端で所狭しと待機していた、新しいコースターに乗り込もうと歩き始める。
「って……どうしたんだ?コースターに乗らなくていいのかよ?」
遊馬がふと我に返り、停車しているデュエルコースターとゴーシュの顔を交互に見比べる。敗北者であろうと、ここ《夕日の決闘場》は本来のフィールドから外れた、言わば隠しフィールド。それも下層に位置するフィールドのため、退場するためにコースターを使用することは当然のことだった。
「ちっとノリが疲れちまってな。気にすんな。お前は間違いなく勝者だ、自信を持って残りを駆け抜けてけ!」
精神を乗っ取られていた疲労からか、ゴーシュはドカッとその場に座り込み、ひらひらと手を振って遊馬を急かした。その態度はどこまでもぶっきらぼうだが、顔には清々しい笑みが浮かんでいる。
「分かったぜ、ゴーシュ!また会おうな!」
「ああ!」
遊馬は大きく手を振り返し、勢いよくデュエルコースターに飛び乗った。モーターが唸りを上げ、コースターが猛スピードでレールを走り出す。友から託された新たな力をデッキに加え、少年は再び夕闇の中を駆け抜けていった。
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遊馬を乗せたデュエルコースターが爆音を立てて遠ざかり、荒野の端にあったレール上から完全に姿を消していく。駆動音が夕闇の彼方へと溶けて消えるまで、ゴーシュは静かにその背中を見送り続けていた。一人残された決闘場に、再び重苦しい静寂が降り立つ。
「……行ったか」
ゴーシュはぽつりと呟き、ぽっかりと空いたコースの先を見つめたまま、荒野の冷たい風に深々と息を吐き出した。零れ落ちた言葉は、どこか名残惜しそうに薄闇へと消えていく。
「に、してもあの俺を倒す時の気迫と言ったら……前デュエルした時とは比べ物にならねぇくらいだったな。とんでもねぇノリだ」
頭の後ろで両手を組み、ゴーシュはゆっくりと空を仰いだ。脳裏に焼き付いて離れないのは、先ほどまで眼前にいた少年の凄まじい眼光だ。
ゴーシュは、ゴシップ・シャドーに乗っ取られてはいたものの、完全に意識が途絶えていたわけではなかった。肉体の主導権を奪われ、暗闇の奥底に閉じ込められながらも、己の視界を通して遊馬の気迫を真正面から打ち据えられていたのだ。
影からの激しい罵倒を物ともせず、危機を何度もくぐり抜け、仲間との絆を背負って限界を超えてくるあの熱量。かつて相まみえてデュエルした時とは打って変わった圧倒的な魂の躍動が、身体の芯までダイレクトに直撃していた。
「~~~ッ!!痺れたぜ、遊馬ッ!!!」
あまりの凄まじさを思い出し、ゴーシュは全身の皮膚が粟立つようなゾクゾクとした高揚感に襲われた。身体の奥から湧き上がる熱い衝動を抑えきれず、思わず荒野の中心で拳を固く握り締め、天に向かって大声で叫んでいた。乗っ取られていた屈辱などどこかへ吹き飛んでしまうほど、一人のデュエリストとして魂を根底から揺さぶられたのだ。
「……さ、俺は敗者らしく地味なノリで退場するか。ドロワも心配だしな、やれやれ」
叫び終えると、ゴーシュは首をボキボキと鳴らし、自嘲気味な苦笑いを浮かべた。実況がどうなっているのかは知らないが、勝者のみに注目が集まり、逆に敗北者は目も当てられずに退場するのみだ。荒涼としたフィールドを、一人で駆け抜けるしかないのだ。敗北の味は苦いが、その胸の中には爽快感すら漂っていた。
「全く、眩しいってのはこういう奴だぜ。後はハートランドに《ゴシップ・シャドー》と《ロンゴミアント》を厳重管理するよう突き渡して、ドロワと弁明タイムか……あ、ドロワがトロンにこっぴどくやられているんだったら、それも慰めなきゃいけねぇか……疲れてるっつうのに随分仕事が多いな……」
肩を竦めながら、ゴーシュはこれからの後始末について思いを巡らせる。危険すぎる二枚のナンバーズをしかるべき場所に引き渡し、勝手な行動をとったことへの言い訳をし、そして何より心配な相棒のもとへ駆けつけなければならない。
やるべき課題が山積みの現状に溜め息をつきつつも、その足取りに悲壮感はなかった。遊馬の見せた圧倒的な眩しさが、暗い気持ちを綺麗に吹き飛ばしてくれたからだ。
「だからこそ、か」
ボヤきながら歩き出したゴーシュだったが、ふと立ち止まり、一言。困難が山積みで疲労困憊の今だからこそ、背筋を伸ばして前を向くべきなのだ。あいつなら、どんな困難な状況でも決して諦めずに押し通るはずなのだから。
「かっとビングだな、俺」
己に気合を入れると、ゴーシュはコースターに勢いよく乗り込んだ。重い足取りを力強い意思へと変え、夕陽の沈む荒野を力強く疾走し始める。
「さぁて!さっさと終わらせて、大将の寿司屋にでも行くか!!」
全ての後始末を終わらせた後に待っているであろう安らぎの味を思い浮かべながら、ゴーシュは敗者ながらもどこまでも晴れやかな顔で、荒野を駆け抜けていったのだった。
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一方、キャニオンフィールドでは。
「ええと、観月さん?なんで、こんなところに一人寂しく立ってるんだ?」
「げっ!!!師匠ッ!こんな奴構う必要ねぇ、さっさと出発しろー!!」
「赤司君……アンナちゃんを降ろして、私を乗せていきなさいっ!!」
「「え、ええ~~~!?」」
なんてことが、あったとか無かったとか。
WDC予選戦、これにて終了です。
良きシルバーウィークをお過ごしください。
私は墓地ソの超大型新人の《ダイジュ・ディダノス》と《アイングマン》を買って友人と回す予定です。売ってなかったら爆散します。あとⅫを刈って解釈するの頭良すぎるだろ。