軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
二パック引いたらラフルルのキャラトレが出たことがあります。ちょっとした自慢です。それでは、どうぞ。
遊馬の悲痛な叫びが、天空のフィールドを吹き抜ける風に溶けていく。
「──お前とタッグデュエルした時、お前は俺にカードをくれたじゃねぇか!」
対峙する凌牙の姿は、冷たい気を放っていた。トロンの紋章が刻まれてしまった男に向け、遊馬は必死の思いを言葉に込める。だが、まるで分厚い氷の壁に言葉を投げつけているような、そんな虚無感だけが跳ね返ってきた。
それでも、遊馬は過去の記憶を、二人が確かに紡いできた歴史を叩きつけるように声を張り上げる。
「カードを、お前に?」
凌牙の口からこぼれたのは、心底からの疑問符だった。彼の瞳には、遊馬との間にあったはずの絆など一切映っていない。ひたすらに冷酷で、憎悪だけが暗い炎のように渦巻いている。
あの時の激戦の記憶が、遊馬の脳裏に鮮明に蘇る。絶体絶命のピンチの中、凌牙が不器用な優しさで託してくれた一枚のカード。そのたった一枚のカードがあの時どれほど遊馬に勇気を与え、勝利への道筋を照らしてくれたことか。デュエルディスクのデッキケースに視線を落とし、遊馬はその温もりを思い出すように強く叫んだ。
「ああ、《アーマード・エクシーズ》だ!俺は、お前がくれたカードがなきゃ逆転できなかったデュエルがあった、ここに立って無かった。でも、お前がいたから、ここまで勝ち残って来れたんだ!お前が忘れてたとしても、俺は忘れねぇ!」
遊馬は一歩前へ踏み出す。青空の元、太陽の光が二人の顔を照らし出す中、遊馬は必死に凌牙の心の奥底に眠るであろう本当の彼へ呼びかけ続けた。
「それに、タッグデュエルの最後の時、お前はこう言ってくれたじゃねぇか!」
──ヘボデュエリストが……少しは成長したようだな?
泥臭くぶつかり合い、デュエルを通じて互いの魂を理解し合えた瞬間。あの時の凌牙の眼差しは、今の空虚な瞳とは全く違っていたのだ。
「そう言われて俺は嬉しかった、やっとお前と心が通じ合えたんだって、そんな気がした!」
どんなに分厚い壁があろうとも、根っこにある繋がりまでは破壊できないはず。遊馬はそう言うと、次に胸元に光る皇の鍵を強く、痛いほどに握りしめた。硬い金属の感触が、更になる遊馬の記憶を呼び覚ます。
「お前がこれを守るため、寿と一緒に、カイトと戦ってくれたのも嬉しかった!お前と寿が一緒に、皇の鍵を守っててくれなかったら、俺も、そしてアストラルも、どうなってたか分かんねぇ!!」
傷だらけになりながらも、決して退かずに皇の鍵を守り抜いてくれた凌牙と寿の姿は、遊馬にとって忘れられない記憶の一つだ。
「俺たちは表ではバチバチにやりあってても、もっと深い場所で、デュエルを通して絆を深めあってきた!仲間になってきた!」
いがみ合い、ぶつかり合うことは何度もあった。だが、その度に互いのデュエルを通じて、魂と魂で語り合ってきたのだ。言葉以上の何かで結ばれた、確かな絆。それは決して、他人がどうこうできるような安っぽいものではない。遊馬の真っ直ぐな視線が、凌牙を射抜く。
「俺たちは、もっと深い場所で繋がりあっている!そうだよな、シャーク!?」
「……」
ほんの数秒の沈黙が、永遠のように長く感じられた。遊馬の額から一筋の汗が流れ落ちる。何かが伝わったのか、記憶の鎖が少しでも解けたのか。期待に胸を膨らませる遊馬の耳に届いたのは、しかし、あまりにも残酷な言葉だった。
「……ハッ」
それは、完全に遊馬を嘲笑う鼻で笑う音。かつての凌牙が見せていた挑発的な笑みとは違う、他者を見下すような冷え切った冷笑だった。
「シャーク!」
「──下らねぇな」
吐き捨てるように放たれたその一言が、一瞬でも期待した遊馬の胸に鋭い刃のように突き刺さる。凌牙がゆっくりと顔を上げた。そこに宿っていたのは、遊馬との絆を完全に否定し、忌まわしい汚物でも見るかのような冷たい眼差しだった。
「えっ」
「仲間だか絆だか知らねぇが、そんなモノ、俺には関係無い!」
凌牙の怒声が、遊馬の淡い期待を粉々に打ち砕く。トロンによって植え付けられた呪いは、想像を遥かに超えて深く彼の心を支配していた。記憶の底にある温かな感情など、今の彼にとっては意味を持たない。
「今の俺を突き動かしているのは、お前への復讐心だけだ、遊馬ァ!!」
彼が待とう紫色の禍々しいオーラがうねり、怨念にまみれた咆哮が響き渡る。彼の背後に立つ海竜もまた、主の怒りに呼応するように禍々しいオーラを放つ。
「っ!駄目かぁっ……畜生!!」
遊馬は顔を歪め、悔しさに奥歯を強く噛み締めた。圧倒的な絶望感が足元をすくおうとする。
「俺はお前を倒し、妹の仇を取るためにここにいる。お前は何のためにいる、俺を倒すためじゃないのか!?」
突き付けられた冷酷な事実に、遊馬は言葉を詰まらせた。凌牙の世界の中では、遊馬は妹を傷つけた憎き仇として完全に書き換えられている。どんなに真実を叫ぼうと、今の凌牙の耳には届かない。
「シャーク……俺は!」
「何時までも能書き垂れてねぇで、さっさと向かってきやがれ!お前のターンは始まってるんだ!」
対話は無意味だと言わんばかりの威圧感だった。デュエリストとしてフィールドに立つ以上、この盤面で全てを決着させるしかない。遊馬は深く息を吐き出した。
「分かったよ……こうなったら、デュエルで気持ちを伝えるだけだ!!」
言葉が通じないなら、カードに自分の全てを懸ける。遊馬は自分のフィールドと手札に鋭い視線を落とした。
「考えろ、考えろ……」
アドバイスしてくれるアストラルがいない今、自分で考え抜くしかない。焦燥感が心臓の鼓動を早めるが、必死にそれを押さえ込んで状況を分析していく。
(まず今、俺のフィールドには《ゴゴゴゴーレム》がいる……《シャーク・ドレイク》で攻撃されても、守備表示のままだったら耐えられる)
頼れる壁モンスターはいるが、それだけでは根本的な解決にはならない。
(そして、伏せカードは《バイバイダメージ》と《好敵手の絆》……手札には今引いた《パワー・チェンジ・バリア》と《ゴールデン・フォーム》、《エクシーズ・クロス》がある……)
手札と伏せカードの組み合わせを頭の中でシミュレーションしていく。どれも強力なカードだが、凌牙を正気に戻すための決定打には足りないように思えた。
(デュガレスが言うには、まずトロンが一度、復讐心を糧にして《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》をカオス化させてる……で、寿が二度目、復讐じゃなくて、シャークの妹への愛を糧にしてカオス化をさせている……)
過去の情報を繋ぎ合わせる。デュガレスから聞いた話が、遊馬の脳内でフラッシュバックする。カオスナンバーズ、使用者の強い感情に呼応して進化する、潜在能力とも言うべき存在。
(……あいつは今、トロンの操り人形……呪いをぶっ飛ばすためには、トロンが知らねぇだろう、そして復讐心を上塗りすることができた、シャーク・ドレイクの二回目のカオス化を引き出さなきゃならねぇ……)
遊馬の思考が、一つの危険な可能性に行き着く。トロンの呪いを破壊するには、意図的に凌牙を極限まで追い詰め、寿をも打倒した強大な化け物をこのフィールドに呼び出させるしかない。
(でも、出させたとしても寿が負けたように、俺も負けちまうかもしれねぇ……ただでさえ強ぇカオスナンバーズだ。目の前にいるシャーク・ドレイクを第一形態とすりゃ、その第三形態だろ?俺の《希望皇ホープレイ》の、さらに一段階上。そりゃ半端な強さじゃねぇだろうな……)
想像を絶するであろうその力に、遊馬の背筋を冷たい汗が伝う。一歩間違えれば、凌牙を救うどころかその前に、自分自身が撃破されてしてしまう可能性すらある。
(もしかしたら、俺はその第三形態を引き出して、シャークをトロンの呪いから解放したら、それで俺の役割は終わりなのかもな。寿と同じく、俺もカオスナンバーズに負けるのかもしれねぇ……)
暗い諦念が、遊馬の心を一瞬だけ過った。友を救えるなら、自分が犠牲になっても構わない。そんな思いが頭をもたげかける。
(待て。俺、今負けるって!?)
だが、その直後、遊馬の脳細胞がその思考を強烈に拒絶した。
(待て、待て、待てよ。俺は負けるわけにはいかない、WDCを優勝して、アストラルを取り戻す。絶対に、あいつを、復活させてみせるんだ)
失われた相棒の姿が脳裏に浮かぶ。ここで負ければ、アストラルは永遠に消滅してしまう。彼との約束が、遊馬の魂に強烈な喝を入れた。
(ダメだ、それだけはダメだ!!!このチャンスを逃したら、多分絶対に未来永劫、アストラルを取り戻すことはできねぇッ!!!)
覚悟を決めた遊馬の瞳に、再び強い光が宿る。凌牙を救う。そして、勝つ。その両方を成し遂げなければならない。
(……落ち着け、落ち着け俺。俺は、シャークを正気に戻してから、シャークを倒す。単に、シャークをぶっ倒すだけじゃ俺は納得できない……元通りにして、本心を取り戻したシャークとぶつかって。その上で、俺が勝つ!!!)
本来の誇り高きデュエリストである凌牙と全力でぶつかり合い、その上で勝利を掴み取る。それが、遊馬の胸の内に掲げた究極の目標だった。
(今、シャークは多分トロンに俺の記憶も、寿の記憶も全部、復讐に上書きされちまってる。鍵は、シャーク・ドレイクの第二のカオスナンバーズ。それを引き出させて、寿とのデュエルの記憶から芋づる式で呪いをぶっ飛ばすしかねぇ)
全てのピースが繋がり、明確な戦略が組み上がっていく。それは綱渡りのような、あまりにも危険な賭け。だが、これ以外にない。
(……だったら、俺がやるべきことは!)
覚悟を決めた遊馬は、決意に満ちた声で宣言する。
「よし分かった!俺は、カードを3枚伏せて、ターンエンドだ!!」
「テメェ!意気揚々と叫んでおいて、防戦一方か!?」
盤面に次々と伏せカードが現れる。その不可解なプレイングに、凌牙は自分を愚弄しているのかと苛立ちを露わにして吠える。
「いいや、これはな……寿風に言えば、仕込みさ!シャーク、お前を戻す、そのためのな!!」
「寿?何故そいつを……まぁいい。お前はこれから、俺に倒されるんだからな!俺の、ターン!!」
理解不能な言葉に眉をひそめながらも、凌牙はすぐに冷酷な殺意を取り戻す。デュエルディスクから勢いよくカードを引き抜くその指先には、遊馬を完全に粉砕するという強烈な意志が込められていた。
####
光の届かない深く冷たい深淵の海。トロンの放った禍々しい紫色のオーラがヘドロのように渦巻く空間で、静寂を破るように低く威厳に満ちた声が響き渡った。
『……シャーク・ドレイク。貴様は、誰の命令で凌牙に呪いをかける?』
《No.60 刻不知のデュガレス》は、淀んだ海中をゆっくりと降下しながら、眼下に蠢く巨大な影へと問いかけた。彼が見据える先には、圧倒的な威圧感を放つ赤黒い海竜がとぐろを巻いている。
『……トロンだ。俺は奴と契約した、故に俺は凌牙に呪いをかける手助けをした』
海全体を震わせるほどの重低音が、海竜の顎から漏れ出た。その声には一切の迷いも感情もなく、ただ冷徹な事実だけが紡がれている。主であるはずの神代凌牙の心を蝕むことに、何の抵抗も抱いていないかのような響きだった。
『何故だ?貴様は凌牙に心を許したはず。我は見たぞ、貴様は凌牙のカオスを飲み込み、更なるカオス化を果たしたではないか。何故そこまでしたのに、何故トロンに従う?何故だ?』
デュガレスは鋭い視線で海竜を射抜く。赤司寿とのデュエルにおいて、このナンバーズは確かに凌牙の気高き魂の波動を受け入れ、トロンの想定を越えた進化を遂げたはずなのだ。それほどの共鳴を果たしておきながら、なぜ再び薄汚い復讐の呪縛に甘んじているのか。それがデュガレスにはどうしても理解できなかった。
『俺は、暴虐の限りを尽くすのみ。トロンとか凌牙とか、心底どうでも良い。我が身はカオスで出来ている。それはデュガレス、貴様も同じだろう。貴様が俺と同じナンバーズであれば、理解できるはずだが』
だが、海竜は面倒くさそうに巨大な尾を揺らし、周囲の水を掻き回す。ナンバーズは人間の欲望や混沌とした感情を食らうことを何よりも至福とする。善悪などというちっぽけな概念ではなく、ただ最も濃密なカオスを貪り、破壊の限りを尽くすことこそが本能だと、シャーク・ドレイクはうそぶいた。
『フム、愚かなことだ』
しかし、デュガレスはその答えを聞くや否や、深くため息をつき、嘲るように目を伏せた。
『何!?』
思いがけない侮蔑の言葉に、シャーク・ドレイクの周囲の海流が怒りで激しく逆巻いた。
『愚かなり。貴様はここまで物事を深く考えることができるのに、それすら捨てて欲望に走るとは、出された餌をただ食らい尽くすのみで満足する、飼育された鮫同然よな』
デュガレスの言葉は、鋭い刃となって海竜の誇りを容赦なくえぐり取る。強大なナンバーズとしての自我を持ちながら、ただ本能のままに操られることを受け入れる姿は、滑稽なペットに過ぎないと一刀両断にした。
『……貴様ッ!!俺が獣と言うか!!』
『左様。成程、読めたぞ。概ねお前は、トロンにこう唆され契約したのであろう?』
荒れ狂う殺気を前にしても、デュガレスは微動だにしない。時を操る悪魔の瞳が、海竜の記憶の底にこびりついた忌まわしい過去の情景を、水面に映し出すように寸分違わず読み取っていく。
──ボクに従えば、もっと、もーっと君を暴れさせてあげられる!
──だから従うんだ、契約しろ。キミの力は、ボクが、更に適切なデュエリストが操るようにしてあげる。それこそ、君が食い尽くすことさえできない……深い、深い復讐心を持った奴にね!!
子供のように無邪気で、それでいて底知れぬ悪意を孕んだトロンの声が、海に反響する。それは果てしない力を約束する甘い囁きであり、同時にナンバーズを都合の良い道具として縛り付ける呪いの首輪であった。
『……何故貴様がそれを!?』
確かに、己の深層にある記憶を完全に言い当てられ、シャーク・ドレイクは動揺に目を見開いた。怒りに任せて暴れようとしていた巨体が、信じられないものを見るように硬直する。
『簡単なことよ。獣は餌を出されたら一目散に食らいつく。哀れよな、ナンバーズたるものが人間などに調教されるなど。誇りの欠片も無い』
デュガレスはさらに容赦なく言葉の鞭を打ち据える。強大な力を振るっているように見えて、その実、トロンという人間に手綱を握られ、舞台の上で踊らされているだけ。その事実を、まざまざと突きつけた。
『俺は獣ではない!!俺は鮫、最強の牙を持って、あらゆるモノを嚙み砕く誇り高き鮫だ!!』
シャーク・ドレイクの咆哮が、トロンの紫色のオーラをビリビリと震わせる。飼い犬扱いされたことへの屈辱が、本能の奥底に眠っているナンバーズとしての自尊心と絶対的な自負と誇りに火をつけたのだ。
『であれば、分かるはずだ。今の貴様はトロンに言いように操られている、見世物に過ぎぬただの舞台装置と堕ちている!』
デュガレスは海竜の瞳を真っ向から見据える。無限のカオスを喰らう者であるならば、与えられた偽りの餌で満足し、檻の中に閉じ込められている現状に甘んじるべきではないとデュガレスは断言できた。
『だが、俺はトロンと契約を!!』
シャーク・ドレイクは苦悩するように頭を振る。どれほど不愉快であろうと、トロンと交わした初期の契約という縛りが、呪いとなって竜の行動原理を縛り付けていた。
『貴様自身が言ったはずだ、嚙み砕け!過去のしがらみなど壊せ。貴様は凌牙の操る、最強のナンバーズであるべきだ!』
『俺は……凌牙の……!?』
過去の契約など、最強の牙をもって自ら噛み砕いてしまえばいい。その言葉が、シャーク・ドレイクの脳裏に電撃のような気づきをもたらした。トロンから与えられたドロドロとした味よりも、凌牙と共に極限のデュエルを戦い抜き、限界を越えて引きずり出されたあの時のカオスの味のほうが、遥かに深く、強烈であったという事実に。
『そうだ。トロンなど、貴様に真なるカオスを与えられる者では無い。貴様の主は、もはやトロンでは無い』
デュガレスの静かで確信に満ちた声が、呪いの鎖に亀裂を入れる。トロンはただの媒介者に過ぎない。この誇り高き竜の魂を満たせる器は、最初から一人しかいなかったのだ。
『まさか、俺は……』
シャーク・ドレイクの巨体を覆っていた紫色の靄が、少しずつ晴れていく。濁っていた思考がクリアになり、自分が誰と真なる絆を結んでいたのか、その答えが輪郭を帯びて浮かび上がる。
『俺は……トロンとの契約を破棄して、既に凌牙と契約していたというのか!?』
赤司寿とのデュエルで二度目のカオス化を果たしたあの瞬間。それは単なる力の暴走ではなく、凌牙という主の魂の叫びに竜自身が自覚無しながらも応え、トロンの支配を上書きして真の主従関係を結び直した証明だったのだ。
『そうだ!貴様の最も好む味のカオスを持つ者は、神代凌牙だ、トロンでは無い!』
デュガレスの肯定が、深海に一筋の光を差し込ませる。凌牙の放つ純粋な怒り、妹への深い愛、そして限界を越えようとする強靭な意志。それこそが、この海竜にとって至高の糧であったということに、シャーク・ドレイクは今気づいたのだ。
『誇り高きナンバーズたる貴様が、あの程度の小手先のチンケな力に屈して良いのか?貴様を最も相応しく使える凌牙は、あんな操り人形で終わるような安い男ではないはずだ!!』
凌牙は偽りの記憶で踊らされるような矮小な器であるべきでは無い。そして、その凌牙の魂を喰らうナンバーズもまた、トロンの呪縛ごときに屈してはならない。デュガレスの鼓舞が、竜の心臓を激しく打ち鳴らす。
『俺は、凌牙に、グ……グルルルゥ……ッ』
シャーク・ドレイクの全身から、トロンの呪いを焼き尽くすような強烈な波動が溢れ出す。自分を騙し、安い鎖で繋ぎ止めていた人間への激しい怒りが、自らを内側から縛る鎖を内側からメリメリと軋ませていった。
『欲望を解き放て、縛られるな!己は何たるナンバーズであるか、貴様自身が一番理解しているはずだ!!』
デュガレスが腕を振り上げ、言う。誰の指図も受けない、最強の捕食者としての本能を今こそ全開にする時だ。
『ガァァァァァァッ!!』
『ならば主の魂を呼び覚ませ!お前たちの真の牙は、誰かに操られて剥くものではないだろう!』
天地を揺るがすほどの絶叫。シャーク・ドレイクが全身の力を込めて吠えた瞬間、海竜の呪縛が、粉々に砕け散った。
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凌牙はデュエルディスクに鋭い視線を落としながら、デッキのトップから勢いよくカードを引き抜いた。
「ドロー……チッ」
だが、その券面を確認した瞬間、忌々しげに舌打ちを漏らす。
(《深海王の宣告》か……バトルフェイズ中、発動された相手の罠カードを無効にして破壊することができる、カウンター罠……来るのが遅ぇ……)
凌牙は苛立ちを隠せないまま、遊馬のフィールドで強固な盾となっている巨大な岩の魔人を見据えた。
(守備表示の《ゴゴゴゴーレム》は1ターンに1度だけ、戦闘では破壊されない……俺の《シャーク・ドレイク》をもってしても、あの壁を一度の攻撃で粉砕することはできない。かと言って、俺は復讐を止めるわけにはいかない……時間を稼ぐにはうってつけの、厄介なモンスターだぜ!!)
さらに凌牙の神経を逆撫でするのは、ゴーレムの後方にズラリと並べられた5枚もの伏せカードの存在だった。
(しかも、憎きアイツの伏せカードは限界の5枚。何を企んでいるのかは知らねぇが、この状況で迂闊に攻撃を仕掛けても、手痛いしっぺ返しを食らうだけだろう)
普通、あれほどにバックがある時点で自分の迂闊な行動には何かしらの報復がつくものと見るもの。理解できてはいても、その自分を自制するような自分自身の思考が、今の凌牙には腹立たしいモノでしかなかった。攻めあぐねる盤面。その一時的な停滞が、凌牙の脳内を覆っていた分厚い憎悪のヴェールに、ほんのわずかな隙間を生じさせる。
(俺は……俺は……復讐を……)
呪文のように復讐という言葉を頭の中で反芻する。だが、その目的の根本を思い描こうとした瞬間、脳髄をチリチリと焼くような強烈な違和感が走った。
(しかし、何故だ……?俺は、トロンに教えてもらったはずだ。俺の妹、璃緒を酷く傷つけ、全てを奪った元凶はDr.フェイカー。その事実は、絶対に間違い無いはずだ。トロンがそう教えてくれた……)
しかし、目の前で必死に自分へと叫び続けていた九十九遊馬という存在が、その設定に致命的なノイズをもたらしていた。
(けれど、遊馬は璃緒に一体何をしたんだ?何故奴は、俺の復讐をこうして邪魔立てする?あいつは、元凶であるDr.フェイカーと何か深いつながりがあるのか?……いや、そんな話は教えてもらってない。思い出せない。それとも、怒りのあまり俺自身が忘れているだけなのか?俺は、俺は……)
思考の海に深く潜れば潜るほど、論理の破綻が次々と浮かび上がってくる。
(そもそも、この戦いを勝って終われば、俺はWDCの決勝戦に進むことになる。その相手として待っているのは、天城カイトか、あるいはトロン……仇であるDr.フェイカーじゃない。だとしたら、ここで遊馬を潰して、その先に待っているのは俺にとってただの退屈な相手なのか?)
その事実は、論理では説明できない、魂が否定していた。どうしようもなく、自分はこの先の戦いも期待してしまっている。だが、その根本たる理由が何故か自分自身で説明できない。
(……違う。違う気しかしねぇ。俺の魂は、この先の戦いに、誰かとの決着に、どうしようもなく強く惹かれている。何故だ?)
トロンによって植え付けられた偽りの記憶と、デュエリストとしての鋭い本能が激しく衝突し、凌牙の頭痛を悪化させる。
(俺は遊馬をぶっ飛ばし、その先に待つDr.フェイカーを倒す……だが、仮にこの場で遊馬を粉砕したとして、その先の決勝の舞台にはトロンの言うDr.フェイカーは居ない。じゃあ何故だ?)
(何故俺はここにいる?何故俺はこんな大舞台に立っている?何故俺は、目の前で俺の名前を呼び続けるアイツに、これほどの底知れぬ憎しみを抱いているんだ?)
辻褄の合わない記憶のパズル。その最大のピースが欠落していることに、凌牙の理性が気づき始める。
(トロンは言った。Dr.フェイカーが璃緒を傷つけ、そして俺の復讐を邪魔しているのが九十九遊馬だと。じゃあ、俺はWDCにわざわざ参加してまで、ただ邪魔者を潰すためだけに、ここまでの大舞台に立っているというのか?バカか、俺は。復讐が目的なら直接フェイカーを狙えばいい。何もこんな華々しい舞台で、ここまで時間をかけて前菜のような戦いを食らう必要がどこにある?)
言わば場違いも当然だった。湧き上がる疑問符は、次第に説明のつかないイラつきへと変わっていく。
(……チッ。あいつの戯言もひどく気に食わねぇが、それ以上に、俺自身から湧いてくるこの腑に落ちねぇ疑問も最高に気に食わねぇな。何なんだ?この熱いような、苦しいような……ムシャクシャするこの感情の正体は?)
頭をかきむしるような葛藤を暴力的な言葉で覆い隠し、凌牙は鋭い眼光で遊馬を睨みつけた。盤面を動かせない苛立ちと、己の記憶に対する疑念。
「色々思うことはあるが、全部が全部イラっと来るぜ……余命が伸びたこと、感謝しな!俺は、カードを1枚伏せてターンエンド!」
感情の全てを断ち切るように、デュエルディスクにカードを叩きつける。凌牙のターンエンドの宣言を受け、遊馬は全身の力と決意を右腕に込め、勢いよくデッキの最上段へ指をかけた。空気を引き裂くような音とともに、引き抜いたカードが空気を横切る。
「俺のターン、ドローッ!!」
渾身のドローを決め、意気揚々と手札に加えたカードを確認しようとしたその瞬間、遊馬の脳裏に直接、雷が落ちたかのような重厚な声が響き渡った。
『聞け、九十九遊馬』
「どわぁっ!?」
突如として耳元で轟いた声に度肝を抜かれた遊馬は、派手に足をもつれさせ、その場に尻餅をついてズッコケた。手札のカードを危うく落としそうになりながら、自分の周囲の空間を焦って見回す。
「?」
対峙する凌牙は、突然一人でオーバーに転倒した遊馬の行動に対し、心底不気味なものを見るような冷ややかな眼差しを向け、不快そうに眉をひそめた。遊馬は必死に腰をさすりながら立ち上がり、自分にしか見えていない時の悪魔の影に向かって小声で抗議の声をあげる。
「い、痛てて……デ、デュガレス……消えたと思ったらいきなり出てきやがって……何だよ?つうか、何の用だよ?」
遊馬の肩口に先ほどと変わらぬ半透明の姿で浮かび上がった《No.60 刻不知のデュガレス》は、腕を組み、いかにも満足げに腕を組んで見下ろしていた。その漆黒の瞳には、勝利者特有の不敵な光が宿っている。
『我が、奴との話をつけてきた』
「奴って、誰だよ?」
デュガレスの意味深な言動に、遊馬は頭を深くひねった。
『お前の目の前にいる、超えるべき相手よ』
「超えるべき、相手……シャークか?」
決意を新たにした表情で凌牙を見つめ直した遊馬に対し、デュガレスは呆れたように大きなため息を吐き出し、翼を大袈裟に揺らした。
『戯け。貴様にとって凌牙は超えるべき相手ではあるが、それ以上に正気に戻すべき相手であろう……もしや、お主はナンバーズと通じあったことは無いのか?』
「ナンバーズと、通じ合う?」
予想もしていなかった問いかけに、遊馬は目を丸くした。アストラルという存在を通じてナンバーズを集めていた遊馬。だが、その道中でナンバーズに宿る意志と戦ったことは数回あれど、直に言葉を交わしてことで心が通じ合った経験など、彼には一度としてなかったからだ。遊馬のその素朴な反応を見たデュガレスは、顎に手を当てて得心がいったように深く頷いた。
『……ああ、成程。そういうことか。お主のナンバーズはもしや、相当な恥ずかしがり屋だな?』
「えっ?ホープが、恥ずかしがり屋?」
自分の頼れる相棒である《No.39 希望皇ホープ》の姿を思い浮かべ、遊馬は突飛すぎる評価に首をかしげた。いつも寡黙に剣を振るう黄金と純白の騎士が、まさか人見知りなのだと評価されるとは夢にも思わなかったのだ。
『本心は知らぬがな……兎も角、もはや前戯は飽きただろう。交渉では話は通じぬ相手と分かったはずだ』
デュガレスは話題を変え、遊馬に冷徹に現実を突きつける。
「ああ……どんだけ呼びかけても、俺の言葉は憎しみに変わっちまう……」
幾度となく言葉を重ね、必死に過去の絆を呼び覚まそうとした遊馬の努力も、今のトロンの呪縛にとらわれた凌牙の前には虚しく弾き返されるだけだった。遊馬は胸の奥がギュッと締め付けられるような痛みを覚えながら、俯きがちに頷くしかない。
『ならば遊馬、容赦する必要は無い。疾くやってしまえ』
「え?どういうことだよ?」
唐突に投げかけられたデュガレスの発言に、遊馬は焦って聞き返した。
『冷静に考えろ。今、お主のフィールドには守備表示の《ゴゴゴゴーレム》がいる。守備力1500で、一ターンに一度戦闘破壊を免れる効果を持つ。対して、凌牙のフィールドには《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》のみ……ただ鋭いだけの牙では、鋼鉄のゴーレムを穿つことなど出来ぬ』
デュガレスは戦況を冷徹に分析し、フィールド上のモンスターたちを指し示した。どっしりと構える《ゴゴゴゴーレム》に対し、《シャーク・ドレイク》の攻撃力は当然の如く上回っている。だが、一度の戦闘破壊を無効化する能力の前には、単発の強力な攻撃も決定打にはなり得ない。
『話してみて分かったが、シャーク・ドレイクはただ暴走の欲望を果たせばそれのみで満足できてしまうナンバーズよ』
『先ほどのターン、お主はナンバーズで攻撃されなかったな?つまりそれすなわち、凌牙は現在《ゴゴゴゴーレム》という壁モンスターすら突破できぬデュエリストと化しているということ。見かけはお主のほうが不利だが、戦局は圧倒的にお主の方向に傾いている』
遊馬は相手の圧倒的な攻撃力と凶暴な見た目に圧倒されていたが、実際の盤面としては、現状で既にある程度防衛線が機能しており、そのために凌牙は有効な打開策を見出せずにターンをやり過ごしたのだ。
「俺が、有利?」
デュガレスの論理的な指摘に、遊馬は目から鱗が落ちるような衝撃を受けるしかない。
『そういうことだ。フム、お主の手札には《ガガガマジシャン》か……伏せカードが5枚もあるが、九十九遊馬。お主はこのデュエル、どうしたい?』
デュガレスの視線が遊馬の手札と、自陣にズラリと並んだ伏せカード群へと注がれる。これほどの盤面が既に整っているならば、安全にターンを重ね、相手の隙を突いて手堅く勝利を掴むことも十分に可能なはず。だからこそ、デュガレスは遊馬の真意を問う。
「そりゃ、シャークを正気に戻して……そして、その上で勝つことだよ」
遊馬の答えに一切の迷いはなかった。デュガレスは試すような怪しい光を瞳に宿し、さらに核心へと踏み込んでいく。
『だが、それでいいのか?お主はアストラルを取り戻す仕事があるのだろう、それは何よりも優先すべき事項ではないのか?』
アストラル。遊馬にとって命よりも大切な、もう一人の自分とも言える相棒。WDCを勝ち抜き、その先にある彼を救い出すことこそが、今の遊馬がこの大会を戦い抜く最大の動機であったはずだ。リスクを冒してまで目の前の凌牙を救おうとすることは、アストラルを奪還するという絶対の目的に対するディスアドバンテージになりかねない。
「デュガレス……違うな。俺は、アストラルも取り戻す。けど、今はシャークを正気に戻すのが先決だ」
ぎゅっと拳を握りしめ、遊馬はまっすぐに前を見据えた。その瞳には、どんな困難をも跳ね返す強い光が宿っている。
『何故だ?凌牙はお主にとって、何なのだ?』
「何故って……ライバルで、仲間で、友達だからだよ。俺は、アストラルっていう大事な相棒を取り戻す。けど、それと同じぐらいに、俺は、シャークっていう大事な友達と本気でデュエルしたいんだ!」
込み上げる熱い感情を抑えきれず、遊馬の声は自然と大きくなっていった。胸の奥から溢れ出す叫びが、彼の全身を突き動かす。
「こんな、こんな憎しみを造られたデュエルでじゃなくて、俺は本気で、しがらみなんてねぇ、全力のデュエルであいつとぶつかりたいんだ!そうしてから、アストラルを取り戻す!」
遊馬は、ただ本心のみからの感情を叫ぶ。
「アストラルを失っちまった俺が、あいつを目の前で失うのはもっと嫌なんだよ!!」
両目から零れ落ちそうになる涙を必死に堪え、遊馬は魂の底から咆哮した。誰か一人を犠牲にして得る勝利など、彼にとっては敗北と同義だった。アストラルも、凌牙も、どちらも諦めることなど絶対にできない。
「俺は失いたくない、全部俺のかけがえのない仲間だからな!」
遊馬のあまりにも青臭く、あまりにも純粋な叫びを聞いたデュガレスは、一瞬驚いたように固まった。そして次の瞬間、その口元が歪み、腹の底から湧き上がるような笑い声が漏れ出した。
『そうか、そうか……フフフ……』
「な、何か変かよ?」
真剣に語った熱意を笑われたと思い、遊馬はむっと頬を膨らませてデュガレスを睨みつけた。
『いや……面白い!!!』
デュガレスは空中でのけ反り、笑った。その威厳ある姿からは想像もつかないほど、心底愉快そうに身をよじる。
『そうか、そうか!疾くやってしまえ、などという先ほどの発言は撤回しよう……!!』
主である赤司寿が、なぜこれほどまでに九十九遊馬という凡庸に見えるデュエリストに惹かれ、彼のために寿自らの未来を困難に舗装してまでして道を作ったのか。
『漸く理解できたぞ。我が主がお前に陶酔する理由は、一滴もの濁り無き欲望にあるのか!!!』
「えっ?」
その理由が、デュガレスの中で完璧な確信となって繋がった。
『お主、とんでもないことを平然と語るな。凌牙を正気に取り戻し、その上で勝ち、その先の決勝でも当然の如く勝ち、アストラルも取り戻すと言うか!』
『だが故に面白い、愉快なり!何処までも人間は欲深いが、これほどに友情に熱い欲望など到底無かろう!』
自分の利益や保身のために他者を蹴落とす醜い欲望ではなく、関わる全ての人々を救い出し、高みへと連れて行こうとする途方もない強欲さ。それこそが、九十九遊馬という人間の本質であり、人々を引きつける狂気的な魅力なのだとデュガレスは理解した。
「……褒めてるのか、馬鹿にしてるのか、それは?」
デュガレスの独特すぎる賛辞に、遊馬は呆れたような顔で頭をかいた。
『無論、両方よ!良いだろう、今の我は最高に昂っておる!』
興奮を隠しきれないデュガレスは、浮遊しながら遊馬の頭上を旋回した。
『お主なら分かるはずだ、目には目を、歯には歯を、ナンバーズにはナンバーズを!主よりデュエルへの直接的な口出しは控えろと言われたが、多少は問題無いだろう!!』
本来ならば極力傍観を貫くはずだった時の悪魔が、いつの間にか彼自身が完全にこの熱狂の渦へと巻き込まれていた。遊馬の抱く果てしない欲望を叶えるため、彼はその権能を貸すことを決意する。
『九十九遊馬、《No.39 希望皇ホープ》を召喚しろ。我が、とっておきの業物をお主に見せてやろうではないか!』
「《ホープ》を?」
突如デュガレスに提示された切り札たるモンスターの名に、遊馬は目を丸くした。
『ウム!』
デュガレスは力強く頷き、遊馬のデッキへと視線を送る。具体的な意図はまだ見えないが、このナンバーズが善意の元で言っていて、自分を騙そうとしていないということだけは、その熱い眼差しからひしひしと伝わってきた。
「……分かったぜ、デュガレス!お前が何考えてんのかは全然分かんねぇけど、そういう簡単なことなら俺でも!」
遊馬は口元を固く結び、ニッと頼もしい笑みを浮かべる。
「俺は、手札から《ガガガマジシャン》を召喚だ!!」
遊馬の宣言と共に、フィールドに学ランを纏った魔術師が軽やかに舞い降りる。
「結局ナンバーズには、ナンバーズで語り合うしかねぇってことだ!俺は、レベル4の《ゴゴゴゴーレム》と《ガガガマジシャン》の二体でオーバーレイ・ネットワークを構築!!」
遊馬の足元に銀河を思わせる巨大な渦が出現し、二体のモンスターが光の粒子となって吸い込まれていく。激しく渦巻くエネルギーの中心で、遊馬は天高く右腕を突き上げた。
「エクシーズ召喚!!」
熱い闘志を込めて、いつもの相棒の名を呼ぼうとしたその瞬間。
「今こそ現れろ、《No.39──」
遊馬の視界が、突如として眩いほどの純白の光に包み込まれた。本来ならば黄金の装甲を纏った戦士が現れるはずの光の柱。
「希望皇ホープ》……!?」
だが、光の中から現れたその姿を見て、遊馬は思わず息を呑んだ。
「いや、違う……これはッ!」
そこに立っていたのは、外見はいつものと左程変わらない戦士の姿。しかし、決定的にいつもの《希望皇ホープ》とは違う。装甲はより神々しく洗練された黄金に輝き、背には今まで見たこともない、全てを包み込むような純白な翼が広がっている。研ぎ澄まされた、極地に至っているような、そんな気配すら感じさせるホープ。思わず戸惑う遊馬の耳元で、肩口に浮かぶデュガレスの低く得意げな笑い声が響いた。
『そうだ遊馬!それは、我がお主の未来から一時的に引っ張り出してやった、そのカードに眠る可能性の記憶よ!!』
時を操るナンバーズであるデュガレスが、この停滞した状況を打破するため、遊馬とアストラルがいつか辿り着くであろう到達点を、一瞬だけこの現在へと強引に顕現させたのだ。そのことを瞬時に理解できた遊馬の顔に、パッと希望の笑みが広がる。
「……ありがとう、デュガレス!今だけ俺に、未来の可能性を貸してくれ、ホープ!!」
己の内に眠る未知の可能性を完全に受け入れた遊馬は、新たな相棒の真の名を、魂の底から高らかに叫んだ。
「──我が皇道はこれより輝く!未来から来たる光の使者よ、白き翼で世界を照らせ!!」
両手にはいつもの剣がいつもより一つ多く二つ、力強く握られている。そして、彼の待とう神威はカオスとは決定的に異なる、優しく力強いモノ。純白の翼が大きく羽ばたき、清らかな神風がフィールドに吹き荒れる。
「力を貸してくれ、《No.39 光の使者 希望皇ホープ》!!!」
まばゆい後光を背負い、新たなる希望の象徴が雄たけびを上げながら遊馬のフィールドに荘厳に舞い降りた。
「……これが、俺の未来の可能性……!」
『最も、可能性を掴めるかは別だがな』
「いや、十分過ぎるぜデュガレス!」
圧倒的な光の降臨を前にして、遊馬は絶対的な安心感を抱いていた。彼は焦らずバトルフェイズに移行することなく、静かに腕を下ろす。
「これで、きっと……俺はこれで、ターンエンド!」
その強気な宣言を聞いた瞬間、凌牙の瞳の奥で禍々しい紫色のオーラが再びドクンと毒々しく脈打つ。
「チッ……光の使者だと?」
目の前に現れた眩い光に一瞬だけ怯んだものの、トロンの呪縛はすぐさま凌牙の思考を、殺伐とした冷徹な数値の計算へと引き戻す。
「随分と意気揚々と叫んで出したのはいいが、そいつはいつもの《ホープ》と何も変わらねぇ《ホープ》だ!!」
凌牙はモニターに表示された攻撃力の数値を睨みつけ、吐き捨てるように嘲笑した。
「無駄だ、俺の《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》は攻撃力2800!その《ホープ》の攻撃力は2500、何も変わっちゃいない、変わらねぇんだよ!!」
姿形がどれほど神々しく変化しようと、数値という絶対的なルールの上では、依然として自分の《シャーク・ドレイク》が完全に上回っている。その冷たい事実だけが、記憶と感情の不一致に苦しむ今の凌牙にとって、縋るべき拠り所であった。だが、遊馬は全く怯まない。数値の差など百も承知だと言わんばかりに、純白の翼を背負いながら凌牙を真っ直ぐに指差して吠える。
「なら、さぁかかってこいよ!何も変わらずに俺を倒しに来いよ、シャーク!!俺は絶対に変えて見せる!俺が、お前を救ってやる!!」
遊馬の瞳に宿っているのは、目先のデュエルの勝利への執着だけではない。底なしの憎悪に沈む親友を、己の全てを懸けてでも暗闇から引き摺り上げるという、強烈で狂気的ですらある覚悟だった。
「俺は、お前とこんなデュエルをしたくて此処に立ってるんじゃねぇ!」
ドロドロとした復讐心と、トロンに仕組まれた殺意。そんな偽りの感情で塗り固められた盤面を、遊馬は真正面から激しく拒絶する。
「難しいことはよく分からねぇけど、俺は楽しみにしてんだよ!俺は寿が変えてくれた、俺が知らねぇシャークと全力でぶつかりたい、デュエルしたい!」
かつて赤司寿が、自らの命を削るようなデュエルを通して凌牙に伝えた熱い想い。復讐という暗い鎖を断ち切り、ただ高みを目指す誇り高きデュエリストとしての本能。それを再び呼び覚ますように、遊馬は必死に言葉の弾丸を叩きつける。
「俺だって、姉ちゃんが傷つけられたら許せねぇし、絶対犯人をぶっ飛ばす。シャークと想いは同じだ、大切だから、家族だから、掛け替えの無い存在だから!それが、愛ってもんだろ!?」
たった一人の妹である璃緒を想う凌牙の気持ちは、家族を愛する遊馬にとって痛いほどよく分かった。だからこそ、その純粋で尊い愛情が、トロンという悪意の手によって、自分を滅ぼすための醜い復讐心へとすり替えられている現状が許せなかったのだ。
「本当の愛があるからこそ、憎しみの復讐を果たしても妹が悲しむだけだぜってこと、寿はお前にデュエルを通して必死で伝えてくれたんじゃねぇのか!?」
声が枯れんばかりの叫びが、フィールドに響き渡る。
「教えてくれたこと、見失ってたこと。それを伝えてくれた寿の想いを、トロンの奴なんかに忘れさせられてんじゃねぇよ!!」
遊馬の放つ嘘偽りのない熱い言葉の波動が、ホープの放つ清らかな輝きと共鳴し、凌牙の全身を絡め取る禍々しい紫色のオーラへと真っ向から激突していった。遊馬の魂からの叫びと、ホープから放たれる清らかな波動。それらが幾重にも重なり合い、凌牙の脳髄を直接揺さぶる。トロンによって植え付けられた精巧な偽りの記憶のパズルが、軋みを上げて崩壊し始めていた。
「寿……遊馬……トロン……!?」
矛盾する三つの名が、凌牙の口から呻きのように漏れる。トロンの絶対的な命令、遊馬との熱い激闘の記憶、そして赤司寿が命を削ってまで伝えた真実。それらが頭蓋骨の中で激しく衝突し、凄まじいスパークを散らしていた。彼の瞳孔は激しく収縮と拡大を繰り返し、視界は赤と紫のノイズで乱れ切っている。
「思い出せ、シャーク!!いい加減……トロンの嘘に、気づけよ、シャーク!!!」
遊馬は悲痛な叫びを上げながら、一歩、また一歩と距離を詰める。だが、記憶の修復に伴う拒絶反応は、凌牙に想像を絶する苦痛をもたらす。
「うるせぇ……うるせぇ、うるせぇうるせぇうるせぇぇぇぇえええ!!!」
凌牙は両手で頭を抱え込み、獣のような咆哮を上げた。拳に宿るトロンの紋章が、まるで焼きごてを当てられたかのように赤熱し、ジリジリと彼の皮膚と精神を焼く。
「グッ……頭がカチ割れそうだ、ムカつくぜ、これもお前のせいか!?だが俺は、俺の道を進む!他の誰にも邪魔されない、俺だけの道を!!」
理解不能な激痛。辻褄の合わない記憶。その全てによる混乱を、凌牙は強引に怒りへと変換し、無理やり理性を繋ぎ止めた。彼に残された唯一のよすがは、デュエリストとしての本能と、勝利への渇望だけだった。
「俺のターン、ドロー!!」
血のにじむような声と共に、勢いよくカードをドローする。その指先は怒りと苦痛で微かに震えていたが、眼光だけは獲物を狙う鮫のように鋭く研ぎ澄まされていた。
「お望み通り、ぶっ殺してやるよ!バトルだ!!」
凌牙の殺意に呼応し、背後に控えていた《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》が天を仰いで鼓膜を破るような絶叫を轟かせる。
「《シャーク・ドレイク》!《ホープ》に攻撃、デプス・バイトォ!!」
深淵の海流を纏った巨大な白き竜が、大口を開けて宙を舞う。その鋭い牙には、凌牙の抱える行き場のない怒りと混乱の全てが込められていた。圧倒的な質量を持った暴力が、純白の翼を持つ戦士へと襲い掛かる。
「こいつはただの《ホープ》じゃねぇ、《光の使者 希望皇ホープ》だ!!」
遊馬は一歩も引かず、強烈な指示を飛ばす。
「《光の使者 希望皇ホープ》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使うことで、こいつはこのターンに一度だけ戦闘と効果で破壊されなくなる!!」
ホープの周囲を旋回していた光の球体の一つが弾け、純白の翼が前方に展開される。それはどんな闇をも通さない、絶対的な光の盾となってシャーク・ドレイクの巨牙を迎え撃った。
「何!?……チッ!バトルは続行だ!!」
《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》ATK 2800 vs 《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 2500
光の盾と深淵の牙が激突し、凄まじい衝撃波が吹き荒れる。ホープは破壊こそ免れたものの、攻撃力差による余波は容赦なく遊馬の身体を打ち据えた。
遊馬 LP 900 → 600
「ぐっ、ぐああぁぁぁぁっ!!」
強烈な爆風に吹き飛ばされ、遊馬はフィールドを派手に転がった。全身を打つ激痛に顔を歪めながらも、彼は決して諦めない。震える腕で大地を掴み、再びゆっくりと立ち上がる。
「……ハァ、ハァ、ハァッ……!俺はまだ、負けてねぇ!!来いよシャーク!!まだ、終わってねぇんだろ!?お前の復讐は、俺たちの想いに、グッ!?」
挑発とも、悲痛な願いとも取れる言葉を投げかける遊馬。衝撃に耐えかねて片膝をつくそのボロボロの姿を見た瞬間、凌牙の瞳の奥で、分厚い氷が砕けるような音がした。
「遊馬!?」
無意識のうちに、凌牙の口から親友を案じる素の声が漏れた。一瞬、トロンの呪いが作り出した憎き仇の幻影が剥がれ落ち、そこにはただ、自分を救うために傷つく不器用で真っ直ぐな少年の姿が目に映った。
「シャーク、お前正気に!?」
遊馬の顔にパッと希望の色が浮かぶ。だが、完全に呪縛が解けたわけではない。トロンの紋章が再び明滅し、凌牙の脳内を支配しようと最後の抵抗を試みる。
「……っ!違う!!俺は、何故妹の仇に……」
敵を心配する自分自身の矛盾した感情に、凌牙は激しく混乱する。
復讐鬼としての自我と、神代凌牙としての本来の自我が綱引きをしている最中──彼の脳内に、深淵から直接、重厚な声が響き渡った。
『凌牙』
激しい衝撃と混乱が渦巻く凌牙の深海。そこはトロンによって植え付けられた禍々しい紫色の呪縛がうねる混沌の空間だった。それは敵でも味方でもない、己の背後にそびえ立つ赤黒き深淵の海竜からの明確な意思伝達だった。
「!?……シャーク・ドレイク!?」
予想だにしなかった自身のナンバーズからの干渉に、凌牙は驚愕の表情を浮かべて弾かれたように顔を上げた。信じられないものを見るような凌牙の視線の先で、巨大な海竜は静かに、しかし絶対的な威圧感を放ちながら主を見下ろす。
『決めたぞ。俺はお前の牙となろう、希望の光をも穿つ深淵の牙とな』
その言葉には、これまでの暴走とは全く異なる、真なる誓いが込められていた。トロンが与えた安っぽい復讐という餌を自ら吐き捨て、誇りを取り戻した海竜。彼は今、神代凌牙という一人のデュエリストの魂が放つ極上の波動に魅せられ、その魂の全てを自らの力で具現化すると高らかに宣言したのだ。暗雲を切り裂くような竜の咆哮が、海に力強い波紋を広げていく。
「何言っていやがる?お前は、モンスターを破壊しなければ連続攻撃はできねぇ、俺のバトルフェイズは……」
激しい混乱の渦中にありながらも、デュエリストとしての冷徹な理性が凌牙の口を突いて出る。《シャーク・ドレイク》の持つ連続攻撃効果は、相手モンスターを戦闘で破壊した時にのみ発動できる効果。先ほどの激突で《光の使者 希望皇ホープ》は自身の効果によって破壊を免れており、凌牙の攻撃は既に終了しているはずだった。
『まだだ、まだ終わっていない』
不可能を語る凌牙の言葉。だが、その不可能など覚醒したナンバーズの前では些末な問題に過ぎなかった。海竜の眼光が鋭く光り、深淵全体を制圧するほどの重いプレッシャーが放たれる。
『俺の求めているカオスは、お前の忘れたもう一つのカオス……解き放て、衝動に身を委ねろ!!』
竜の巨体から溢れ出した漆黒のオーラが、凌牙の全身を絡め取っていたトロンの紫色の呪縛を次々と食い破り、粉砕していく。海竜が真に求めているのは、与えられた偽りの復讐心などではない。凌牙自身の魂の奥底に眠る、純粋で強烈な闘争への渇望だった。
「俺の、もう一つのカオス!?《シャーク・ドレイク・バイス》じゃない、もう一つのカオスだと!?」
トロンの悪意によって引き出された禍々しい進化の形、《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》。だが、目の前の竜が要求しているのはそれとは全く別の進化だった。かつて赤司寿とのデュエルで発現し、その後トロンの呪いによって忘れ去られ、深く封じ込められていた真の可能性。
『忘却の記憶を呼び覚ませ。眠れるお前のカオスは、今度は俺が極めてやる!!』
海竜の咆哮が、凌牙の魂の深層を激しく揺り動かす。
「遊馬のみならず、お前まで訳分からねぇこと言ってんじゃねぇ!!」
敵であるはずの遊馬からの熱い呼びかけと、自らのモンスターからの理屈を超えた要求。板挟みになった凌牙は、頭を抱えるような葛藤の中で吠えた。だが、その怒号の裏には、トロンの支配から抜け出しつつある己の魂の解放感も確かに混じっていた。
『考えるな、感じろ!!使え、そのカードを!!!』
躊躇う凌牙の意識を、海竜は強引にフィールドの一点へと集中させる。そこにあるのは、一枚のリバースカード。しかし、シャーク・ドレイクの強烈な意志と、凌牙自身の闘争本能が、今こそそのカードを起動させるべきだと全身の細胞に訴えかけていた。
「チッ……どうなっても知らねぇからな!リバースカードオープン!」
完全に理屈を投げ捨てた凌牙は、己の直感と相棒のモンスターからの導きに全てを委ねた。自らを縛る論理の鎖を引きちぎるように腕を大きく振りかぶり、リバースカードを翻す。
「俺は、罠カード《フル・アーマード・エクシーズ》を発動!!」
「《フル・アーマード・エクシーズ》だって!?」
予想だにしなかったカード名の宣言に、遊馬は呆然と声を上げた。
「確か、効果でエクシーズ召喚ができる罠カード……でも、シャークのフィールドにはエクシーズモンスターしか……あっ!」
自身から予測される、戦慄が遊馬の背筋を駆け抜ける。その条件から導き出される答えは一つしかなかった。
「まさか、カオスナンバーズを……!?」
一方、罠を発動した凌牙自身の思考もまた、深い混乱の渦中にあった。デュエリストとしての冷静な思考が、この行動の致命的な矛盾を弾き出しているのだ。かつてトロンの悪意によってもたらされた進化形態の姿が脳裏を過る。
(……《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・バイス》は強力な効果と引き換えに、俺のライフポイントが1000以上ある場合、即破壊されるデメリットがある)
現在の自身のステータスを再確認し、凌牙は眉間を深く寄せた。その進化は今、自滅を意味している。
(俺のライフポイントは、1700。何故シャーク・ドレイクは俺に《フル・アーマード・エクシーズ》を……)
論理破綻に立ち止まりかけた主に対し、背後の海竜がその迷いを断ち切るように荒々しく咆哮した。それは理屈ではなく、闘争の記憶そのものへの呼びかけであった。
『考えるな、感じろ!答えは、経験した身体が導き出す!!』
その強烈な波動を受け、凌牙の中で何かが弾けた。かつて経験した極限の死闘、その中で掴み取ったはずのもう一つの可能性の記憶。思考の檻に閉じこもることの愚かさを悟り、凌牙は自嘲気味に口角を上げる。
(シャーク・ドレイク……そうだ。こんな頭の中で一々グチグチ理屈付けてなんていたら、俺は一向に進めねぇ、あいつを倒すことはできない!!)
全ての迷いを捨て去った凌牙の瞳に、かつての鋭く誇り高い光が完全に戻った。
「俺は……」
彼は己の直感と魂の導きに全てを委ね、決然と顔を上げる。
「俺は、手札にある魔法カード、《プレート・サルベージ》を捨て……《No.32 海咬龍シャーク・ドレイク》1体でオーバーレイ・ネットワークを再構築!!」
カオスの渦が天高く巻き上がり、その中心で凌牙の魂と海竜の力が完全に融合を果たしていく。凌牙は全身の細胞を沸騰させるかのように、ありったけの闘志を声に乗せて絶叫した。
「うぉぉぉおおぉぉぉぉおおおっーーーっ!!!」
光と闇が交錯する激流の中から、深淵の覇者がその真の姿を現す。それはトロンの呪いから解き放たれた、純粋なる凌牙自身の進化の証明であった。
「浮上しろ、全ての光を噛み砕く深淵の牙よ!《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・リバイス》!!」
圧倒的な神々しさすら感じさせる新たなカオスナンバーズの降臨に、遊馬は圧倒されながらも目を見張った。
「シャーク……それが、お前の」
だがその直後、凌牙の肉体を凄まじい反動が襲う。忘却されていた真の力と、トロンによって植え付けられた呪いが彼の体内で激しく衝突し、精神を千切るような激痛を生み出していた。
「グっ……ぐあぁぁあああーーーっ!!!」
崩れ落ちそうになる親友の姿に、遊馬は焦燥と願いを込めて喉の奥から叫び声を上げた。それはただの言葉ではなく、絆の力そのものだった。
「取り戻せ、シャーク!お前の本当の心を!!」
遊馬の叫びが引き金となり、凌牙の意識の奥底で封印されていた記憶の欠片が、次々と鮮やかな色彩を伴って弾け飛ぶ。それは彼を真の意味で形作る、かけがえのない絆の言葉たちだった。
──仲間だからに決まってるだろ!
──特上の、勝利だぜ……
──復讐なんて……
──俺は、そんなお前を、見たくねぇんだよ!!
──俺くらい超えて見せろよ、兄貴って言うんならな!!!
響き渡る遊馬の声、そして命を懸けて自分を救おうとしてくれた寿の声。それらが濁った憎しみを洗い流し、凌牙の魂を本来の澄み切った状態へと修復していく。
「かっとビングだ、シャーク!!!」
苦悶に歪んでいた凌牙の顔から険しさが消え、やがて彼は静かに目を開いた。
「遊馬……寿……!!」
脳内にこびりついていた不快なノイズが嘘のように消え去り、視界を覆っていた憎しみのフィルターが晴れていく。遊馬の必死の呼びかけと、寿が身を挺して遺した想いの連鎖が、トロンによって精巧に組み上げられていた偽りの記憶のパズルを完全に打ち砕いた。凌牙は自身の記憶の海を深く潜り、欠落していた真実のピースをすくい上げる。
「俺の妹を傷つけたのは……遊馬じゃない……!?」
浮かび上がってきたのは、燃え盛る炎。妹の顔に刻まれた痛々しい火傷の痕。あの日、全てを奪い去った真の仇の顔が、鮮明に脳裏に蘇る。
「妹を傷つけたのは……Ⅳ……」
ギリッと奥歯を噛み締め、凌牙は腹の底から湧き上がる純粋な怒りを声に乗せて吠えた。自分と妹の運命を狂わせ、あまつさえ親友である遊馬にまで牙を剥かせようとした卑劣な黒幕への憎悪が、彼を縛っていた紫色のオーラを完全に焼き尽くす。
「全ての元凶は……トロン!!!」
忌まわしい呪縛から解放された安堵と同時に、己の弱さへの悔恨が押し寄せる。自分の意志すらも他人に操られ、見世物のように踊らされていたという事実に、凌牙は自嘲するように両手を見つめた。
「俺は、まさか俺は今までナンバーズに取りつかれて……」
だが、その自己卑下を遮るように、背後から重厚な声が響き渡った。トロンの安っぽい呪いを自ら食い破り、真なる進化を遂げた究極の海竜。知性を宿したその眼光は、ただ静かに、そして力強く主を見据えている。
『違う。凌牙、俺がトロンからの呪縛を解放した』
怪物だと思っていた自身のナンバーズからの語りかけに、凌牙は驚きと共にその巨体を見上げた。
「……シャーク・ドレイク!」
『今こそ問おう。お前の原動力は、何だ?』
竜の問いかけは、凌牙の魂の最も深い部分を真っ直ぐに貫いた。誰かに植え付けられた偽りの怒りではない。神代凌牙という人間を突き動かす、たった一つの絶対的な理由。その答えは、彼の中でとうの昔に決まっていた。
「妹……璃緒の無念を晴らすため……あいつが、もう一度俺に笑顔を見せてくれるようにするため!!!」
迷いなき叫びが、大気を震わせる。呪縛の完全に解けた親友の姿に、遊馬は顔を紅潮させて叫んだ。
「シャーク!」
凌牙は遊馬を真っ直ぐに見据え、口元にいつもの不敵で、しかしどこか晴れやかな笑みを浮かべた。そこにはもう、トロンに操られていた空虚な人形の面影は微塵もない。遊馬のよく知る、誇り高く熱いライバルの顔が戻ってきていた。
「遊馬、ようやく全部思い出したぜ……迷惑かけたな、このデュエル!!」
遊馬は目元に滲んだ涙を乱暴に拭い、照れ隠しのように大声で怒鳴り返す。その声には、親友を暗闇から引きずり出せたことへの底知れぬ喜びが満ち溢れていた。冷え切っていたフィールドの温度が、二人の魂の共鳴によって急激に熱を帯びていく。
「そうだ、眠りすぎなんだよ、お前は!いっつもそうだ!」
凌牙の瞳に、鋭い闘志の炎が灯る。呪縛が解けたからといって、デュエルへの情熱が冷めるわけではない。むしろ、全ての迷いが晴れた今だからこそ、己の全てを懸けて目の前の遊馬を打ち倒したいという、純粋なデュエリストとしての本能が爆発していた。
「フッ。感謝はするが、だが容赦はしない。それが、お前にできる俺の最大限のサービスだ!」
遊馬もまた、一切の迷いのない笑顔で拳を握りしめ、強大なライバルの猛攻を真っ向から迎え撃つ構えをとる。
「上等だ、かかってこいシャーク!」
互いの意志が極限まで高まり、闘技場を包む空気がビリビリと震える。凌牙は背後に控える純白のカオスナンバーズと共に天を仰ぎ、真の絆を取り戻した親友に向けて、決意の咆哮を轟かせた。
「俺が得た最強のカオスナンバーズでもって、最高にお前がここまで仕立て上げたこのフィールド、俺が喰らい尽くす!!」
純白に染まりし深淵の竜が巨大なヒレを大きく広げた。トロンの呪縛から完全に解き放たれ、本来の気高き魂を取り戻した凌牙の瞳には、遊馬が見たことがないほどに澄み切った決意の光が宿っている。彼が右腕を天高く振りかぶると、それに呼応するように周囲の空気が激しく渦を巻き始めた。
「行くぞ、《シャーク・ドレイク・リバイス》!!!」
主の熱き闘志を受け取った竜の咆哮が、凌牙の精神の奥底へと直接力強く響き渡る。それは破壊の衝動ではなく、かけがえのない友との真向勝負を純粋に渇望する歓喜の声であった。
『穿て、凌牙!!』
白き竜が漆黒のオーラを纏い、まるで巨大な槍のように鋭く前傾姿勢をとる。凌牙は真っ直ぐに遊馬を見据え、その喉から裂帛の気合と共に決着の号令を放った。
「バトルだ、《光の使者 希望皇ホープ》に攻撃!!」
《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・リバイス》ATK 3100 vs《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 2500
圧倒的なステータス差。しかし、空から迫り来る破壊の化身を前にしても、遊馬の瞳から闘志の炎が消えることはなかった。強大な敵を前にしてなお、彼は口元に不敵な笑みを浮かべ、盤面を覆すための一手を見事に発動させる。
「この瞬間、《ホープ》の効果発動!ダブル・アップ・ブレイビング!!」
窮地からの逆襲。完全に虚を突かれた凌牙は、目を大きく見開いて驚愕の声を上げた。
「何!?」
「この効果は、このターンの2回目の攻撃宣言時に発動できる!効果で攻撃力は2500増え……」
《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 2500 → 5000
黄金の鎧がさらなる輝きを増し、神々しいまでのオーラを纏い始める。絶対的な力を得た光の使者が、上空から迫る深淵の竜を押し返すほどの強烈なプレッシャーを放ち始めた。
「さらに!バトルで勝った時にその破壊したモンスターのコントロールを得る!!」
だが、真の誇りを取り戻した凌牙と竜が、その程度の逆境で屈服するはずもなかった。むしろその強大な力に触発されたかのように、凌牙はさらに激しく吼える。
「させるかぁッ、《シャーク・ドレイク・リバイス》!!」
主の叫びに呼応し、竜の巨体の周囲を周回していた光の球体の一つがパチンと弾け飛ぶ。それと同時に、深海よりも深く暗い絶望の波動が、海竜の開かれた巨大な顎から解き放たれた。
「モンスター効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手フィールドのモンスター1体……《ホープ》の攻撃力を0にし、さらに効果も無効にする!!」
空間そのものを凍てつかせるような極寒の冷気が、ホープを包み込んでいた希望の光を容赦なく侵食し、無残に喰らい尽くしていく。
「アビス・サイレンス!!」
《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 5000 → 0
一瞬にして光を完全に奪われ、無防備な姿を晒すこととなった黄金の戦士。勝利を確信した凌牙は、眼下にいる友へ向けて決死の突撃を命じた。
「喰らい尽くせ、《シャーク・ドレイク・リバイス》!!」
《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・リバイス》ATK 3100 vs《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 0
無慈悲な死の顎が、動けないホープの頭上へと迫る。しかしその寸前、遊馬の足元に伏せられていた一枚のカードが勢いよく開き、強固なエネルギーのバリアとなって黄金の戦士をすっぽりと包み込んだ。
「やられてたまるか!!罠カード《バイバイダメージ》発動!《ホープ》は破壊されず、さらにこのバトルで発生する戦闘ダメージはお前も同じ分受けてもらう!!」
ダメージの共有。それは以前暴走した寿に使用したこともある、自らの身も焼く相打ちの手段だ。だが、全身の血を沸騰させ、魂を燃え上がらせている凌牙の冴え渡る直感は、その程度の罠の存在などとうの昔に予測しきっていた。
「引き分けになどさせるかぁぁぁ!カウンター罠発動、《深海王の宣告》!バトルフェイズ中に発動された罠カードを無効にして破壊する!!終わりだ、喰らえぇぇぇ!!!」
深海から湧き上がるすさまじい激流が、遊馬の展開したバリアを粉砕しようと荒れ狂う。息もつかせぬ激しい攻防。しかし、限界を超えたデュエルの中で、遊馬もまた最後の一手、運命を切り開くための切り札を隠し持っていた。
「いいや、終わらせねぇよ!!カウンター罠発動、《エクシーズ・クロス》!!!」
まばゆい光の十字が、迫り来る激流を真っ向から打ち消していく。互いの意地と意地、魂と魂が激しくぶつかり合うカウンター罠の応酬が、スタジアム全体を大きく揺るがした。
「俺も、バトルフェイズ中に発動された罠カードを無効にして破壊する!!《深海王の宣告》は無効だ!!」
己の最後の一手が完璧に封じ込められた光景に、凌牙は思わず目を見開いた。
「何!?」
だが、十字の光は消滅することなく、さらなる力を遊馬のデュエルディスクへと送り込み続けていく。
「まだだ、まだこのカードの効果は終わっちゃいねぇ!!」
運命の女神に全てを委ねる、あまりにも危険な究極のギャンブル。遊馬の真っ直ぐな瞳には、己の未来と、何よりも友との絆を信じ抜く強烈な光が満ち溢れていた。
「俺は、デッキからカードを1枚ドローする!それが、モンスターカードだったら、《ホープレイ》と《シャーク・ドレイク・リバイス》の攻撃力は入れ替わり、さらに《シャーク・ドレイク・リバイス》の攻撃力は0になってから」
張り詰めた空気の中、遊馬の覚悟に満ちた宣言が闘技場に木霊する。
「二体のエクシーズモンスターを……バトルさせる!!」
その言葉が意味する致命的なリスクを瞬時に理解した凌牙は、鋭い視線を遊馬へと向け、静かに問いかけた。
「……モンスターカードじゃなかったら?」
失敗すれば、待っているのは共倒れという結末のみ。遊馬は真っ直ぐに凌牙の目を見返し、覚悟の重さを真正面から告げる。
「俺が受ける戦闘ダメージは元々の倍になる……けど《バイバイダメージ》の効果で、シャーク。お前もその分の戦闘ダメージを受けてもらう……分かってるよな?」
命を削り合うようなヒリついたやり取り。しかし、死地にある凌牙の顔には、恐怖など微塵もなかった。あるのはただ、友の底知れぬ強さへの信頼と、どこか心地よさそうな柔らかい笑みだけだった。
「……フッ……遊馬。絶対に俺を、失望させるなよ?」
友からの最大の信頼と期待。それを受け取った遊馬は、全身に鳥肌が立つほどのすさまじい高揚感を覚えながら、叫び返した。
「~~~ッ!!あったりめぇだ、シャークッ!!!」
右手に全霊の想いと、これまでの全ての絆の力を込め、遊馬は運命のデッキトップへと勢いよく手を伸ばす。
「俺は、絶対勝つ!!かっとビングだ、俺ぇぇぇ!!!」
祈りと願いを込めた一筋の赤い軌跡が、虚空を鮮やかに切り裂いた。
「ドローッ!!!」
引き抜かれた運命の一枚。二人のデュエリストは同時に息を呑み、盤面の時間が一瞬だけ静止したかのような錯覚に陥った。
「引いたカードは……」
カードの券面を視界に捉え、二人の喉から同時に言葉にならない息が漏れ出す。
「「ッ……!!」」
そこにあったのは、まごうことなき希望の形であった。
《トラップリン》
勝利の女神が微笑んだ瞬間、遊馬は引き当てたカードを力強く天へと掲げた。
「モンスターカード!!!」
運命は決した。カードの導きにより、巨大な海竜から凄まじい勢いで力が吸い出され、その力が黄金の戦士へと濁流のように流れ込んでいく。
《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・リバイス》ATK 3100 → 0
《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 0 → 3100
全てを出し切り、己の運命を受け入れた凌牙は、両手を大きく広げて親友の最後の一撃を正面から受け入れる構えをとった。その顔は、この戦いで最も清々しい表情をしていた。
「……来いよ、遊馬ぁぁぁ!!!」
その想いに応えるべく、遊馬もまた熱い涙を堪えながら力強く前へと踏み込んだ。
「行くぜ、シャークッッッ!!!」
《CNo.32 海咬龍シャーク・ドレイク・リバイス》ATK 0 vs《No.39 光の使者 希望皇ホープ》ATK 3100
光と闇、互いの魂をぶつけ合う最後の激突が幕を開けた。
「ぶっ放せ、《シャーク・ドレイク・リバイス》!!デプス・バイス・ストリーム!!!」
「迎え撃て、《ホープ》!!ホープ剣・スラッシュ!!!」
漆黒の奔流と黄金の剣閃がフィールドの中央で激しく交差する。圧倒的な光の奔流に飲み込まれていく中で、凌牙は遊馬の熱く眩しい姿をしっかりと目に焼き付けながら、心からの安堵と感謝を覚えていた。
「フッ……いい顔してやがるぜ……璃緒……お前の無念は、あいつが……」
そして、光の剣が深淵の竜を真っ二つに両断し、爆発的な衝撃波が凌牙の身体を容赦なく吹き飛ばした。
「グっ、ぐはぁあああああぁぁあぁああーーーっ!!!」
凌牙 LP 1700 → 0
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スタジアム全体を揺るがすような大歓声と、Mr.ハートランドの熱狂的な絶叫が天空にまで響き渡る。
『激闘に次ぐ激闘を乗り越え……勝ったのは……九十九遊馬選手だぁああああっッッ!!!』
光と闇が交錯した想像を絶する死闘は、黄金の戦士の一撃によって劇的な幕切れを迎えた。爆風が晴れゆく中、フィールドのモニターには勝者の姿が大写しになっている。
「ハァ、ハァ、ハァッ……よっしゃぁああああああっ!!」
荒い息を吐きながら、遊馬は歓喜の声を上げ、膝から崩れ落ちそうになるのを必死に堪えていた。見上げれば、自分を勝利へと導いてくれた相棒の姿がある。極限の戦いを共に乗り越え、凌牙を救い出してくれた黄金の戦士へ、遊馬は万感の思いを込めて呟いた。
「ありがとう、《No.39 光の使者 希望皇ホープ》……」
ディスクから取り出した《No.39 光の使者 希望皇ホープ》を指先で持ち、ARビジョンの姿を共に見つめる遊馬。ふと、ホープの姿が淡く発光し始める。戦いを終えたエクシーズモンスターが、何かを超えた確かな意志を持って遊馬を見下ろしていた。
「あ……ホープ……」
先ほどまで《No.39 光の使者 希望皇ホープ》だった、そのカードは元の《No.39 希望皇ホープ》に戻ってしまった。
『未来の可能性は無限大、我が見せたのは鱗片に過ぎぬ……夢幻の彼方、その先に奴は待っている』
頭に響いたのは、デュガレスからの静かな労いだった。
『勝者が泣くな。決意は十分に固まっただろう?』
いつの間にか遊馬の頬を伝っていた熱い涙を指摘され、遊馬は慌てて目元を腕で乱暴に拭う。勝利の余韻に浸る間もなく、遊馬は凌牙の安否を思い出し、弾かれたように顔を上げた。硝煙の立ち込めるフィールドの向こう側へ向かって、力の限り名前を叫びながら駆け出す。
「ああ、当たり前だ!そうだ、シャーク!シャーク!!」
爆風の中心で仰向けに倒れ伏している凌牙を見つけ、遊馬はその傍らに勢いよく膝をついた。極限のデュエルのダメージと、凄まじい呪縛から解放された反動で、彼の体は限界を迎えているはずだった。
「シャーク、大丈夫かよシャーク!?」
駆け寄った遊馬の必死の声に反応し、凌牙はゆっくりと重い瞼を開いた。その顔に苦痛の色はなく、深い憑き物が落ちたような清々しい笑みが浮かんでいる。かすれる声で、自分を暗闇から引きずり出してくれた勝者を真っ直ぐに称えた。
「……遊馬……よくやってくれたぜ……特上の勝利だ、誇れ……!」
それは、凌牙がずっと一人で抱え込んできた重すぎる鎖。トロンの呪縛から完全に解き放たれた今、彼は最も信頼する友に、自らの本当の願いを託そうとしていた。
「妹、璃緒の想い……お前が、晴らしてやってくれないか」
遊馬は一切の躊躇なく、力強く頷いた。涙が見えながらも、その瞳には燃えるような決意が宿っている。
「当たり前だ!じゃなきゃ、お前が納得しねぇだろうが!」
迷いのない即答に、凌牙は満足げに短く息を吐いた。自身の手で因縁に決着をつけられない悔しさは当然ある。しかし、目の前で自分のために本気で涙を流し、命懸けで戦ってくれたこの男になら、全てを任せられるという確信があった。
「フッ……そうだ、納得しよう。俺が直々にトロンをぶっ潰せないのは心残りだが、それ以上に残りはお前がやってくれるんだと、俺は信じているぜ……」
凌牙は僅かに上体を起こし、遊馬の腕を強く掴んだ。その手から伝わる熱い思いと痛切な願いが、遊馬の胸に真っ直ぐに突き刺さる。
「託したからな……遊馬。俺に代わって、絶対に、璃緒の無念を晴らしてやってくれ……!!」
「ああ。確かに託された。ありがとう、シャーク……俺を、信じてくれて!」
遊馬は凌牙の手を両手でしっかりと握り返す。凌牙は穏やかな瞳で遊馬を見つめ返し、言う。
「礼を言うのは俺のほうだ……お前は、俺がトロンの呪いにかかっていることに気づいた時から、必死に呼びかけてくれた……全部聞こえてたぜ、この耳にな」
「そんなの、当たり前だろ。友達は見捨てない、信じるのを諦めない、だからかっとビングなんだよ!」
遊馬の口癖を聞き、凌牙は呆れたように、しかし心の底から嬉しそうに目を細めた。理屈を超えたその行動原理に、自分は完全に救われたのだと認めざるを得なかった。
「フッ。俺をトロンから救ってくれたのは、やはりかっとビングか」
全ての力を使い果たした凌牙は、再び静かにフィールドに背中を預けた。だがその瞳は一切の曇りなく、これから決戦へと向かう親友の背中を力強く後押しするように、揺るぎない希望の光に満ちていた。
「頼んだぞ遊馬。トロンを、倒せ……お前なら、出来る!!!」
忘れないうちに書いておきますが執筆環境が近日中に変わることが決定したのでもしかしたら失踪するかもしれません。善処はしますがこの話か次の話くらいでエタっていたら、そういうことですのでよろしくお願いします。
トロンvsカイト戦、原作と何一つ変わりませんが読みたいですか?
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知らん、そんな事は俺の管轄外だ