軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
選手控室。その中に一人ポツンと座るトロンは、歪んだ愛憎の果てに辿り着いた決戦の地で、彼は胸に秘めた呪詛を吐き出すかのように、昏く歪んだ笑みを浮かべて呟く。
「……漸くだ、漸くだよ、一馬」
地獄を彷徨い、すべてを剥ぎ取られた絶望の時間の中で、彼の心を支え、同時に狂わせた存在。忘れることなどできるはずもないその名前を呼びながら、トロンの小さな身体は感慨からか微かに震え、狂気に満ちた笑い声を腹の底から絞り出した。
「ボクの復讐劇の完結は、君の息子……遊馬を打倒した先にある」
父親の背中を追い求め、どんな状況でも前を向き続けてきた息子。その輝かしい希望の象徴こそが、最もふさわしい相手であると、トロンは確信していた。
「憎きフェイカーの息子を倒し、その先に君が待つ。一馬、どうせこれも君が仕組んだことなんだろう?」
運命の糸に操られるようにしてこの場に集った者たちの因縁を嘲笑うように、トロンは鼻を鳴らす。たとえそれが神の悪戯であれ、友の遺した呪縛であれ、彼は喜んでその全てを飲み込む覚悟でいた。
「けど、乗ってやるよ。凌牙をボクの傀儡と出来なかったのは残念だけど、それも想定内。寿……君の姑息な企みも、遊馬……君の折れない希望も……一馬が遊馬に託した想いも……」
全てを、壊す。その先に、我が本懐は成させれる。そう信じて疑わない心が、今まさに結末を迎えようとしていた。
「ボクが、全て壊してあげる!!!」
####
スタジアムを震わせた凄まじい衝撃波と、裂けるような悲鳴の幻聴が、なおも遊馬の耳裏にこびりついて離れなかった。脳裏に何度もフラッシュバックするのは、圧倒的な光と闇が交錯した死闘の凄惨な幕切れだ。
──もう一度ぉぉぉ!!
──ゴッド・レイジ!!!
──ッ!ぐはああァァアアッッ!!!
──しっかりしろ、カイト、カイト……カイトォォォ!!!
衝撃を受け倒れるカイトの姿と、自身が放った叫びが脳裏を幾度も駆け巡る。冷んやりとした選手控室の静寂の中、ソファに腰掛けた遊馬は膝の上で両拳を強く握り締め、己の無力さと後悔に押し潰されそうになりながら一人思案に暮れていた。
「……カイトが、負けた」
あの圧倒的な強さを誇ったカイトが、トロンの前に散った。その現実はあまりにも重く、遊馬の胸を鋭く締め付ける。もし事前に寿から聞いたWDCの真の目的や陰謀をカイトに伝えていれば、結果は違っていたのだろうか。そんな詮無き問いが頭を離れない。
「トロンが強いってことは、分かっていたけど……やっぱり、言うべきだったのかもしれねぇ……」
後悔の念が次々と溢れ出す。だが、すでに終わったこと。もう起きてしまった惨劇を取り戻す術はない。
「カイトの魂は、ナンバーズごとトロンに奪われちまった」
魂をナンバーズと共に削り取り、冷酷に奪い去ったトロンへの激しい憤りが込み上げる。
「カイトは、ナンバーズなんて要らなかった……ただ、あいつは、ハルトを助けたかっただけなんた……」
カイトの、ただ弟の笑顔を取り戻したいという、一筋の真っ直ぐな願い。それすら踏みにじり、嘲笑った無邪気極まり無い悪意が許せなかった。胸の奥から突き上げる衝動を抑えきれず、遊馬の叫びが控室に虚しく響く。
「大切なモノを、守りたかった……それだけなのに!!!」
悲痛な叫びが壁に吸い込まれて消えたその時、自動ドアがウィーンと音を立てて静かに左右に開いた。
「遊馬!」
扉の向こうから駆け込んできたのは、鉄男をはじめとする仲間たちの姿だった。どん底の思考に囚われていた遊馬は、ハッと顔を上げて仲間たちを迎え入れる。
「……お前ら」
「がんばってくださいよ、遊馬君」
「期待してるウラ!」
弱気になりかけていた遊馬を鼓舞するように、等々力委員長と徳之助から温かい声が次々と投げかけられる。心配をかけまいと、遊馬は必死に顔を作り直して明るい声を出した。
「おう!任せとけって、俺がかっとビングの力を見せつけてやるぜ!」
「絶対優勝してニャン?」
「遊馬、お前は俺たちデュエリストの代表だ!トロンなんかに、負けんじゃねぇぞ!」
キャッシーがウインクと共に言い、鉄男も激励する。
「さ、遊馬も」
鉄男が差し出した拳を中心に仲間たちが次々と手を重ね合わせていく。かけがえのない、絆の証。
「あ、ああ!」
誘われるまま手を伸ばし、円陣の中に自分の手を重ねた遊馬だったが、ふと重ね合わせた手と手の中に、もう一人の確かな存在感を求める視線を向けた。
(……本当は、あいつも一緒に手を……)
そこにいるべき、青白く光る相棒の姿。あれだけの強さに関わらず自分に妹の想いを託してくれた、シャークの存在。自分を信じてナンバーズを託してくれた寿の存在。背負えるものは全て背負った。だが、決定的に足りないモノがある。こんな時、あいつがいてくれれば。そんな思いと共に虚空を見つめて一瞬動きを止めた遊馬の異変を、周囲の仲間たちも見逃さなかった。
「どうした?遊馬?」
「決勝前で緊張してるウラ?」
「……何でもねぇよ。ありがとう、皆!俺は絶対優勝するよ、皆の気持ちと一緒に!!」
迷いを完全に振り払った遊馬の真っ直ぐな瞳に、情熱が力強く燃え上がる。力強い覚悟に応え、全員の威勢の良い叫びが控室に力強く響き渡った。
「「「「おうッ!!」」」」
円陣を解き、一人控室を出た遊馬が薄暗い通路を進む。その先、眩い光が差し込む運命の決戦場へと彼は一歩、一歩と足を踏み出していく。
全ての想いを、一人で背負って。
####
冷たい壁に囲まれた選手用通路。静寂に満ちる薄暗い空間を、遊馬は迷いのない足取りで一人、前方から眩い光が差し込む運命の舞台へと向かって歩みを進めていた。
「遊馬ーッ!」
背後から静寂を破るように響いた甲高い呼び声に、遊馬はピタリと足を止めて振り返った。
「ん!?」
そこに立っていたのは、包みを両手でしっかりと抱え込んだ小鳥の姿だった。走ってきたのか、少し肩を上下させながら息を整えている彼女の手元を見て、遊馬の表情が一気にパッと華やいだ。
「おぉーっ、デュエル飯じゃねぇか!サンキュー小鳥!」
遊馬は小鳥から包みを受け取ると、小鳥は真剣な眼差しで力強く言葉を紡いだ。
「それ食べて、絶対優勝するのよ!」
「へっ、任せとけって!」
懐に包みを入れ、親指をグッと立てて笑う遊馬。だが小鳥は、目の前の少年が背負う運命の重さを知っているからこそ、念を押すようにさらに言葉を重ねた。
「絶対の絶対だからね!」
「絶対の絶対の、絶対だ!」
幼馴染同士のいつものやり取り。譲らない言葉の応酬が、遊馬に灯る情熱の炎をさらに大きく燃え上がらせていく。互いに頷くと、やがて遊馬は眩い光を放つ通路の出口へと視線を向けた。
「……それじゃ、行くぜ!」
迷いを完全に断ち切った遊馬の背中を見送りながら、小鳥はどこか呆れたような、けれど深い信頼と愛おしさを込めた溜め息を小さく吐き出した。
「もう……どうせ止めたって、行っちゃうんだから」
彼女のエールを背中に受けながら、遊馬は躊躇うことなく光の中へと力強く一歩を踏み出した。
####
スタジアム全体を包み込む万雷の拍手と激しい歓声が、すり鉢状の構造を伝って爆音となり、空気を強烈に揺らしていた。スピーカーからはMr.ハートランドのテンションを限界まで高めた絶叫が轟き、熱狂は最高潮へと達した。
『この空に太陽は一つ……輝く栄光もまた一つ!』
『その道を阻む者は全て敵……数々の死闘が繰り広げられた、サバイバルデスマッチ!!それが第一回、
『数多の敵を薙ぎ倒し、遂にその太陽……輝き溢れる栄光を掴もうとする、二人が生き残った!!』
空中に浮かぶ巨大なホログラムスクリーンに、勝ち上がってきた二人のデュエリストの姿が映し出される。
『今大会のダークホース……謎の仮面のデュエリスト、トロン!!』
『対するは新進気鋭、ミラクルワンダーボーイ!九十九遊馬!!』
司会の煽り文句に合わせて観客席からは割れんばかりの歓声が上がった。
『世紀の決勝戦が、今始まる!!!』
興奮が極限まで高まる中、Mr.ハートランドは大きく両手を広げ、頭上の空間をドラマチックに指し示した。地面から音を立てて出現し、フィールドの中央に集中するようにして放射される異様なエネルギーの光柱が、巨大な球状の空間を形成していく。
『その舞台となるのは、ハートランドの技術を結集して作り上げた……スフィアフィールドだ!!!』
目の前に出現した、黄色の光を放ちながら揺らめく不気味で巨大な空間障壁。あまりにも常識外れな光景を前に、遊馬は圧倒されながら目を丸くした。
「な、なんじゃこりゃ?」
好奇心と困惑から、試しに遊馬が恐る恐る指先を入れてみる。すると、光の表面が波紋のように揺れ、吸い込まれるようにして球体の中に入らされてしまった。
「お、おわぁあああーーっ!!」
足場を失った遊馬の身体がふわりと宙に浮き上がり、重力から解き放たれたようにドーム状の空間内を漂う。予想外の感覚に慌てて両手両足をバタバタと暴れさせた。
「身体が、浮いてる……どうなってんだよこれ?」
無重力空間のような異質な感覚に戸惑う遊馬をよそに、同じくスフィアフィールド内部へと足を踏み入れたトロンは、どこか感心したような冷ややかな声を漏らした。
「フェイカーの奴、完成させたんだね?」
『さぁスフィアフィールドよ、二人の最強デュエリストを天空へ誘うがよい!!』
Mr.ハートランドの声と共に二人のデュエリストを内部に飲み込んだ巨大な球体は、怪しい光を放ちながらゆっくりとスタジアムの上空へと浮上を開始する。浮遊感の漂う球体の中で、二人のデュエリストは空中に対峙していた。
「フフフ……よくここまで来たねぇ、遊馬!!」
トロンの嘲笑うような甲高い声に、遊馬の全身の筋肉が張り詰める。眼前に立つ幼き姿の男――その背後に蠢く、底なしの憎悪と絶望の気配に息を呑む。
「トロン……お前……」
遊馬の警戒をよそに、トロンはまるで世間話でもするかのように、己が辿ってきた地獄の記憶を語り始めた。
「ボクは異世界の狭間を彷徨った……地獄の時間の中でね。何度も生きるのを諦めかけた」
一瞬だけ虚空を見つめたトロンは、嘲笑うように己の胸に手を当てた。
「そんな時、何時も君の父、一馬のことを思い出した。彼はボクによく言っていた……友情、仲間、そして諦めない心。それが何よりも大事だってことをね」
「けど、ボクはフェイカーに裏切られて分かったんだ……一馬が言っていた友情も仲間も、全部無意味なんだってことをね!」
怒りと嘲弄が混ざり合った甲高い声が、反響する。トロンは狂おしそうに身体を折り曲げ、歪んだ笑い声を漏らした。
「けれども彼の言っていた諦めない心って大切だよねぇ?諦めなかったお陰で、ボクは復讐という名の希望を持ち、こうして生まれ変われたんだ!」
「……そんなの、間違ってる。俺はⅢと約束したんだ!あいつは言ってた、自分の家族を救ってくれって!」
真っ直ぐな瞳でトロンを据え直した遊馬は、胸の奥から湧き上がる熱い感情をそのまま言葉に変えて叫んだ。
「トロン、家族は大事だ。そこに生まれた限り、絶対に関わらなきゃいけねぇ場所だ!そいつの家族がどんなに滅茶苦茶でも、どんなに壊れてしまってても、俺に助けてって言ったら、俺は絶対にそいつを助ける!!」
「だから俺は、Ⅲのためにも全力で戦う!そして、あんたを救う!!」
真っ直ぐで不器用な少年の宣戦布告。だがトロンは、まるで幼子の冗談でも聞いたかのようにクスクスと肩を揺らした。
「ボクを救うだって?何からー?」
「そんなこと決まってる!あんたから、復讐っていう悪魔を追い出してやる!あんたの復讐のために、ⅢやV、Ⅳは犠牲になったんだ!!」
遊馬は指を突き立ててトロンにそう言うが、対してトロンの心には全く響かない。
「けれど、結局あの子たちは役に立たなかった……フフ、いや違うか。Ⅲは君からアストラルを奪ったんだったね」
寧ろ、返ってきた冷酷すぎる言葉に、遊馬の顔が怒りで激しく歪む。
「ッ!?トロンッッ!!」
「まぁ、とは言えど。結局Ⅲは君から一番大切なモノを奪いきれなかった。だから、彼らは罰として三人そろって魂の抜け殻になってるんだけどね」
「抜け殻……!?」
衝撃的な事実に、遊馬は絶句した。トロンは愉悦に浸るように、さらに残酷な真実を口にする。
「そうだよ。ボクが三人に与えた紋章は、力を得る代償として魂に直結していたからね。強靭なナンバーズを使ってデュエルに負けてしまえば、魂を消耗してしまう。当然の報いだよね……もっとも、君のお友達は例外中の例外のようだけどね!」
トロンの視線が、スタジアムの観客席のどこかにいるはずの存在へと向けられた。その言いぶりから、遊馬も言わんとする人物を一瞬で察する。
「寿……」
「そうだよ。正直、ボクは寿のことが気になって仕方がないんだよ……何の代償も無しに、特殊な技巧を使うわけでも無しに彼は平然とナンバーズを操る!しかも、彼はボクの紋章の力まで跳ね返した!」
遊馬の脳裏に、寿の姿が過る。その姿は、何時もと同じの屈託のない笑顔だった。自分と一緒で、自分の親友。そして、託してくれた男。親しいが故に、遊馬にはその恐ろしい存在から放たれた言葉が一瞬信じられなかった。
「えっ……ドロワと、シャークの……」
「だから遊馬。ボクはね、決めたんだ!君をぶっ倒して、フェイカーをぶっ殺して、その後に寿をボクの納得が行くまで解剖しつくすんだってね!!」
狂気に満ちた宣言。トロンはニヤリと唇を歪め、遊馬の瞳を覗き込んだ。
「むしろ、気を付けたほうがいいのは君だよ?遊馬……君のお友達は、もしかしたらごっこ遊びをしているだけの恐ろしい存在かもしれない。それこそボクすら知らない、知りえないほどにどす黒い、そんな存在かもね!」
「寿はそんな奴じゃねぇ!お前、それでも子供を持つ親か!!」
「親だよ。子供は、親に従うことが何よりの幸福……違うのかな?」
「馬鹿野郎、あいつらはお前の使い捨ての駒なんかじゃねぇ!あいつらはとっくに、復讐の虚しさに気づいていた……なのに、なのに!どうしてそんな酷いことができるんだよ!!?」
叫ぶ遊馬の悲痛な問いかけに対し、トロンは何でもないことのようにあっけらかんと返した。
「それが親子の絆ってモノだろう?だーって、悪いのはそもそもフェイカーなんだ。どうして君は復讐しないんだい?君から一馬を奪った、Dr.フェイカーに?」
「父ちゃんは……父ちゃんは、俺に復讐なんて望んでねぇ!!」
遊馬は疑いもせずに断言するが、既にその答えは寿との会話で出ていた。
「そうかなー?本当に一馬はそう思っているのかな?いや、もう復讐し始めてるんじゃないかなぁ?」
しかし、そんなこと知るわけもないトロンの声音が密やかで不気味なものへと変わる。彼の視点は凡そ遊馬とは違うモノ。トロンが見ているのは、遊馬の心情ではない。
「アストラルの存在により、君は恐るべき力を秘めたナンバーズを操れる。それこそ、この世界を滅ぼすほどの強大な力をね」
トロンは、幾ら心情がどうであろうと不変にして不動の理を遊馬に突きつける。
「つまり君は今、この世界を報復する使者のためにナンバーズを集めている訳だ。今はいないけど、いずれ来る可能性がある侵略者のために……君が代理で力を集めているってことだよ!一馬がこの世界に送り込んだ、アストラルにね!!」
「えっ……そんな、アストラルが、この世界に報復するための使者……!?」
驚愕の事実だった。揺らぐ遊馬の心をあざ笑うかのように、トロンは空を見上げて腕を大きく広げ、天空の監視者へ向けて叫んだ。
「君だって、その力を集めているんだろう?フェイカー!!」
トロンの咆哮に呼応するかのように、上空が激しく歪み始めた。スフィアフィールドを囲うようにして巨大な光の粒子が集束し、 ARビジョンによる威圧的な巨影が姿を現す。
『フフフ……ハハハハハハ!!!』
冷酷な高笑いと共に空間を圧迫するように出現したのは、Dr.フェイカーのホログラムだった。その巨大な眼光が、眼下で見上げるトロンへと向けられる。
『言われたからには出てこないわけにはいかない……久しぶりだな、バイロン!』
「フフフ、久しぶりだね。フェイカー!」
かつて共同研究者であり、復讐の引き金となった因縁の二人。トロンは無邪気ともとれる狂気の笑みを浮かべ、かつての友であり憎き宿敵の名を呼んだ。フェイカーは冷ややかな眼差しで、少年の姿となったかつての同僚を見下ろす。
『こんなに若返っているとは、驚きだよ』
「全ては君のお陰さ。もうすぐ君に会いに行くよ……遊馬のナンバーズを手に入れたらね。何時までも狭い部屋でふんぞり返ってるんじゃなくて、首を今のうちに洗っておきなよ、フェイカー?」
トロンの挑発的な言葉にも、フェイカーは微塵も動じず、歪んだ笑みを返した。
『おお、お茶請けを用意して待ってるぞバイロン……もっとも、毒は仕込むがね』
『「ハハハハハハ!!」』
二人の狂気的な高笑いが重なり合い、空間内を不気味に共鳴する。己のエゴや欲望のために他者を踏みにじり、命や絆すらもただの道具としか思っていない身勝手な大人たちの醜悪な笑い声。それを目の当たりにした遊馬の胸の中で、溢れんばかりの激怒の炎が爆発した。
「冗談じゃねぇ!!!」
空中へ向かって拳を突き出し、遊馬は魂の底から怒号を叩きつける。その声は、二人の高笑いを切り裂くように真っ直ぐに響き渡った。
「Dr.フェイカー……トロン!お前たちダメ大人は……俺がやっつけてやるぜ!!」
他人の痛みを解解しようともせず、子供たちの未来や想いを平然と踏みにじる者たちへの怒り。遊馬の力強い宣言に対し、フェイカーは満足そうに鼻で笑った。
『フハハハハ!それは面白い、楽しみにしている……』
『フフフ……ハハハハハ!!!』
嘲笑を残し、フェイカーの巨大なホログラムは光の粒となって空中に霧散していった。
「消えやがった……」
フェイカーが消え去った虚空を見つめながら、遊馬はグッと拳を強く握り締める。アストラルが世界を滅ぼす使者などではないこと、そして自分たちの育んできた絆が本物であることを証明するために、彼の瞳に強い覚悟が宿った。
「絶対勝ってやる……アストラルが、そんな奴じゃねぇって証明してやる!」
怒りと決意を燃やす遊馬の姿を、トロンはどこか可笑しそうに、首を傾げながら冷ややかに見つめていた。
「ま、君は要するに能天気ってことだね……遊馬?」
「能天気じゃねぇ!」
「じゃあ頓馬?」
「トンマじゃねぇ!遊馬だ!」
トロンの食えない煽りに即座に言い返す遊馬。その二人の姿を見守る会場は、今か今かとデュエルの開始を待ち焦がれている。
『さぁこれより皆様に……スフィアフィールドでのルールを説明しよう!!』
その狂熱をさらに煽り立てるように、空中からMr.ハートランドの声が降り注ぐ。
『このフィールドは、ナンバーズの力を最大限に引き出すために作られたフィールドなのだッ!』
ドーム状の空間を形成する光の壁が怪しく明滅し、遊馬とトロンの持つデッキケースからかすかな微振動と圧力が放たれる。
『各プレイヤーは、手札にある同じレベルのモンスターをオーバーレイすることで……』
『……召喚条件を無視して、エクストラデッキからランダムにナンバーズを特殊召喚できる!!』
『ただしッ!この召喚方法で特殊召喚されたナンバーズは、オーバーレイ・ユニットが無くなった時、破壊されてしまう!!』
特殊ルールの宣告。自我を持つ危険極まりないカードたちを、いとも簡単に顕現させることができる狂気の戦場。Mr.ハートランドは興奮を隠しきれない様子で激しく拳を突き上げた。
『さぁ存分に使うがいい、選ばれしデュエリストのみが使えるナンバーズを!ハーーーット、バーニング!!』
熱狂的なアナウンスが切り裂いた空間で、遊馬は両脚に力を込め、空中にしっかりと踏み止まった。胸に手を当て、決意を固める。
「……よぉぉおおし!!行くぜ、トロンッ!!」
渾身の叫びとともにデュエルディスクを勢いよくセットし、真っ直ぐに視線を射抜く。対するトロンも冷酷な眼光をギラつかせ、楽しげに口角を歪めた。
「始めようか、遊馬」
運命の頂上決戦。二人の叫びが同時に解き放たれ、スフィアフィールドを眩い閃光が包み込んだ。
「「デュエル!!」」
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遊馬 LP 4000 / トロン LP 4000
「先行は貰うよ、ドローッ!」
小さく可憐な手つきで鮮やかにカードを引き抜くと、トロンは仮面の奥で瞳を怪しく光らせた。そのまま一切の躊躇もなく、手札のカード二枚を空中へ掲げてみせる。
「早速このフィールドの効果を使わせてもらおう!ボクは手札からレベル4のモンスター二体、《紋章獣アバコーンウェイ》と《紋章獣エアレー》をオーバーレイ!」
「もう来るのか!」
遊馬が息を呑むと同時に、手札から提示された二体のモンスターが眩い光の粒子へと分解され、渦巻く銀河へと飲み込まれる。
「確か、出てくるナンバーズは自分では選べないんだよね……ボクは、《No.56 ゴールドラット》を守備表示で特殊召喚!」
弾け飛ぶ光の中から現れたのは、眩い金色の鼠の姿だった。フィールドで小さく丸まり、防衛の体制を整える。
「さらに、ボクは《閃光の宝札》発動。このカードは、ボクの魔法&罠ゾーンを1か所封じることでドローフェイズに2ドローできる……ボクはこれで、ターンエンド」
「守備力600……よし、これなら行けるッ!」
トロンが繰り出してきたナンバーズのステータスを確認し、遊馬は小さく拳を握り締めた。その程度であれば、十分に上から叩き潰せる数値。緊張感を跳ね返し、遊馬は勢いよくデッキの1番上のカードへと手をかけた。
「俺のターン、ドローッ!」
引き抜いたカードを胸元に引き寄せ、遊馬は自分を鼓舞するように眼前の敵を強く睨みつける。頼もしい相棒の姿は今はない。だが、背中を押してくれた仲間たちの歓声と託された想いの重みが、彼の心をどこまでも強く支えていた。
(俺の戦い、俺のデュエル……俺の運命!アストラルが居なくても、トロンなんかに負けてたまっかよ!)
覚悟を決めた遊馬は、即座に手札から二枚のモンスターカードを選択し、デュエルディスクのモンスターゾーンへと叩きつけた。
「俺は手札から、レベル4の《ゴゴゴゴーレム》と《ガガガマジシャン》でオーバーレイ!」
召喚された岩石のゴーレムと学ラン姿の魔術師が光の束へと姿を変え、宙で眩しく交差する。吸い込まれた銀河から現れると同時に、遊馬のエクストラデッキから導き出されたのは――寿から預かったナンバーズだった。
「俺が召喚するナンバーズは……早速来たか!現れろ、《No.76 諧調光師グラディエール》!!」
七色の光と共に、煌びやかな装束を纏った優雅な天使が空中へ舞い降りる。その姿に遊馬は迷うことなく指を突き突き出した。
「バトル!《グラディエール》で《ゴールドラット》を攻撃だ!」
《No.76 諧調光師グラディエール》ATK 2700 vs 《No.56 ゴールドラット》DEF 600
天使が掲げたタクトから放たれた眩い光の束が、丸くなっていた鼠を真っ直ぐに穿つ。激しい爆発音がフィールドに響き渡り、金色の鼠は影も残さず霧散していった。攻撃を見届けるトロンの口元には、不気味な笑みが浮かんでいる。
「フフフ……」
「よし!」
敵の場をガラ空きにし、先制攻撃を成功させた遊馬は安堵の息を吐き出すと、手札からカードを1枚抜き取ってデュエルディスクにセットしてターンを終える。
「俺はカードを一枚伏せて、ターンエンド!」
「ボクのターン、ドローッ!」
ゆっくりと2枚のカードを引き抜くトロンの仮面の奥で、底知れぬ狂気の影が渦を巻く。
(いいよ、遊馬……もっと力を出しな。出せば出すほど、君は君自身の首を絞めることになる……!)
トロンは冷ややかな笑みを浮かべたまま、手札から提示した二枚のカードを解き放った。
「ボクはレベル4の《紋章獣ツインヘッド・イーグル》と《紋章獣アバコーンウェイ》をオーバーレイ!」
二体のモンスターが光の奔流となって空中で交差する。銀河を通じて解き放たれたのは、遊馬にとって見覚えのある白銀の騎士だった。
「現れろ、《No.10 白輝士イルミネーター》!!」
「こいつは……カイトのナンバーズ!」
かつて遊馬の前に現れ、そしてトロンとの死闘でカイトの手から奪い去られたナンバーズ。トロンは、驚く遊馬の視線など気にも留めずに冷酷な言葉を吐き捨てた。
「へぇ?これカイトが使ってたんだ?彼も役に立つもんだねぇ?」
「トロン、テメェ!!」
敗れ去り、魂を奪われた友を侮辱する口ぶりに遊馬の拳が白くなるほど強く握り締められる。トロンはその怒りを楽しむかのように、手元のカードへと視線を移した。
「ボクは《イルミネーター》の効果発動。オーバーレイ・ユニットを一つ使い、手札を一枚墓地に送り、デッキからカードを1枚ドローする!」
騎士の周囲を漂う光の球体が一つ弾け、トロンの手札から墓地へと一枚のカードが送られる。滑らかな手つきで新たなカードを引き抜いたトロンは、間髪入れずに墓地を指し示した。
「さらに今墓地に送った《アバコーンウェイ》の効果発動!墓地から自身を除外することで、墓地からもう一体の《アバコーンウェイ》を手札に戻す!」
トロンの狙いに対して、遊馬は阻止すべくすかさず自身のフィールドで輝く天使へと指を突きつける。
「ちょっと待ったッ!《グラディエール》のモンスター効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、その《アバコーンウェイ》を吸収する!」
天使が掲げた煌びやかなタクトから放たれた光の波線が、トロンの墓地から沸き立とうとしていたカードを力強く絡め取る。そのまま光の粒子へと還元されたカードは、天使の周囲を旋回する新たな光の球体へと組み込まれていった。狙いを妨害されたトロンは、忌々しそうに舌打ちを漏らす。
「チッ……邪魔されたか。まぁいいよ、ボクは《紋章獣ユニコーン》二体でオーバーレイ!」
苛立ちを押し隠すように手札から提示された二体のモンスターが光の柱となり、再び空間を歪めていく。銀河から放たれる光の渦から現れたのは、奇怪かつ神聖な麒麟のようなエクシーズモンスターだった。
「現れろ、《No.8 紋章王ゲノム・ヘリター》!!」
かつてドロワの魂を削り取った恐るべきナンバーズの出現に、遊馬の背筋に冷たい緊張が奔る。トロンはニヤリと唇を歪め、その邪悪な効果の起動を宣言した。
「ドロワの時のナンバーズ……!」
「そうだった、君もその時に居たんだったね。じゃあ効果も知ってるよね……《No.8 紋章王ゲノム・ヘリター》の効果発動!」
異形の怪物の触手が怪しく蠢き、奏でる天使に向けて禍々しい紋章の光線を照射する。その光を浴びた天使の全身から力が衰速して抜け落ちていき、逆に麒麟の体躯が大きく膨れ上がっていった。
「オーバーレイ・ユニットを一つ使い、戦闘を行うモンスター1体の攻撃力を0にし、さらにカードの攻撃力はその相手モンスターの元々の攻撃力と同じになる!」
《No.76 諧調光師グラディエール》ATK 2700 → 0
《No.8 纹章王ゲノム・ヘリター》ATK 2400 → 2700
「バトルだ、《ゲノム・ヘリター》!」
攻撃力が無に帰した天使に向け、トロンの容赦ない攻撃指示が飛ぶ。膨れ上がった光の質量が遊馬のへと襲いかかる。
「不味いッ、罠発動!《ハーフ・ガード》!このバトルで《グラディエール》は破壊されず、その後に守備表示になる!」
直前で伏せカードを開いた遊馬の前に光の防壁が展開される。しかし、ダメージまでを殺し切ることはできない。凄まじい衝撃波が防壁を突き破って遊馬の全身を直接叩きつけ、球体のフィールドの内部で彼の身体が激しく吹き飛ばされた。
《No.8 紋章王ゲノム・ヘリター》ATK 2700 vs《No.76 諧調光師グラディエール》ATK 0
「くっ……ぐあぁぁぁぁあっ!!」
衝撃に晒され、背を強く打った遊馬は痛みに顔を歪めながら必死に空中を踏み止まる。ライフが一気に数値を減らす音が聞こえる。
遊馬 LP 4000 → 1300
痛みを耐え抜き、遊馬はスフィアフィールドの無重力空間で体制を立て直した。
「派手に削られちまったぜ……さぁ来な、トロン!」
不敵に笑う遊馬に対し、トロンは追撃の手を緩めることなく、白銀の騎士へ冷酷に命じる。
「言われなくても…… 《白輝士イルミネーター》で《グラディエール》を攻撃!」
《No.10 白輝士イルミネーター》ATK 2400 vs 《No.76 諧調光師グラディエール》DEF 2100
「破壊させてもらうよ、そのナンバーズは!」
騎士の剣から解き放たれた白銀の閃光が、防壁の効果によって守備表示へと移行していた天使を一直線に穿つ。激しい爆煙が立ち込めるが、トロンはその奥にまだモンスターが存在していることに気づく。
「……破壊されてないだって?」
「《グラディエール》の効果だ。こいつは自身の持つ属性と同じモンスターの戦闘では破壊されない……《イルミネーター》の属性は光、そして《グラディエール》の属性も光……よって破壊されない!」
煙の中から現れたのは、光の粒子で構築された強固な障壁に守られ、傷一つ負っていない天使の姿だった。そのナンバーズの強靭な耐性能力に、トロンは思わず不機嫌そうに目を細める。
「ああ、そういうことね?」
「残念だったな、トロン!」
敵の思惑を打ち砕いた遊馬の強気な宣言に、トロンは澄ました態度でターンを締めくくった。
「まぁデュエルは始まったばかり、派手にライフを削っただけよしとしておこう。これでボクのターンは終了だ」
「俺のターン、ドローッ!!」
胸の奥で燃え上がる怒りと絆の炎を指先に込め、遊馬は力強くカードを引き抜いた。不利の状況にも関わらず、その表情には一片の迷いもない。
「……よし!」
手札のカードを確認した遊馬は、即座に2枚のカードを提示する。
「俺は手札の《タスケルトン》と《フルエルフ》をオーバーレイ!」
二編の光線が交差し、フィールドの空間が激しく脈動する。遊馬の呼びかけに応じ、かつて戦い、そして想いを分かち合った友のナンバーズが天空に降臨した。
「見せてやる……Ⅲの想いを!現れろ、《No.6 先史遺産-アトランタル》!!」
空間を割って出現したのは、天を衝くほどの圧倒的な威容を誇る巨像。神々しくも重厚なプレッシャーが空間を圧迫する。その召喚を目にしたトロンは、一瞬驚きに目を見開いた後、どこか愉悦を孕んだ薄笑いを浮かべた。
「あぁ、そのナンバーズ。どこに行ったと思えば……君が持ってたんだね?遊馬」
「ああ!分からず屋の父ちゃんに代わって俺がお前にぶつけてやる、Ⅲの優しい怒りを!!」
家族を思い、苦しみ抜いたⅢの悲痛な叫びを思い出しながら、遊馬は巨大な神体へ向けて右腕を大きく掲げた。
「《アトランタル》の効果発動!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、お前のライフポイントを半分にする!!」
遊馬の宣言と共に巨像が放つ重圧が容赦無くトロンに向けて、一直線に解き放たれる。
「オリハルコンゲート!!」
直撃した巨大なエネルギーの奔流がトロンの全身を包み込み、空間そのものすら激しく揺さぶった。
トロン LP 4000 → 2000
強烈なダメージを受け、髪を乱したトロンは、仮面の奥で瞳を忌々しそうにギラつかせながら、低く舌打ちを漏らした。
「チッ……生意気だね」
「さらに俺は《エクシーズ・トレジャー》発動!フィールドにいるエクシーズモンスターだけ、俺はドローできる!」
遊馬は力強く魔法カードを掲げ、フィールド上に立ち並ぶ埒外のモンスターたちを見渡す。
「今フィールドにいるエクシーズモンスターはトロンの2体と、俺の2体!よって、4ドロー!!」
勢いよくデッキから引き抜いた4枚のカード。その瞬間に走った手応えに、遊馬の瞳が輝く。反撃の策は完全に組み上がった。
「来たぜ!俺はレベル3の《オーバーレイ・イーター》と《ガガガガール》をオーバーレイ!」
空間に新たな光の柱が立ち昇り、旋風が巻き起こる。
「現れろ、《No.17 リバイス・ドラゴン》!!」
咆哮とともに青き海竜が姿を現す。だが、遊馬の猛攻はこれだけでは終わらない。さらに手札から二枚を即座にディスクへ叩きつけた。
「さらに!レベル1の《アマリリース》と《針剣士》をオーバーレイ!」
二編の小さな光芒が重なり合い、眩い光の翼となって広がる。遊馬の原点であり、仲間と共に駆け抜けてきた希望の象徴が天空に降り立った。
「来た来た来たぁッ!現れろ、《No.39 希望皇ホープ》!!」
立ち並ぶ四体のナンバーズを前にして、遊馬は胸の奥から湧き上がる全闘志を込めて言い放った。
「さぁ、行くぜトロン!」
圧倒的な盤面を前にしながらも、トロンは狂気に満ちた笑みを崩さず、仮面の奥で瞳をギラリと光らせた。
「フフフ……ボクの本当の恐ろしさを、見せてあげるよ……たっぷりとね!!」
「望むところだ……アストラルが居なくたって、お前に勝って見せる!やってやるぜ!!」
Q.トロンの出目露骨に弱くない?
A.全て原作通りです。なんなら本来それらに加えて《アシッド・ゴーレム》まで出てきてます。
Q.遊馬の出目強くない?
A.《ヴォルカザウルス》でバーンとか《ディアブロシス》で後頭部ピーピング除外とか《パラダイスマッシャー》でダイスバトルとか《ショックルーラー》モンスター宣言とかしてないのでセーフ、セーフ。
この小説を作っていたPCがこの話をもって引退します。フォトもメディアプレーヤーもタイマーも使えず、実質10GBしか空き容量が無いポンコツPCでしたがキーボードが打ちやすかったのは救いでしたね。こんなのでも一抹の喪失感から寂しさを感じるのだから慣れというのは恐ろしい。代替としてipadをPC代わりに使うことになったので宜しくお願いします。アリガトウオレノカアチャン……