軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
「待たせたな、遊馬!!!」
吹き荒れる絶望の暴風を掻き消すように、黄金の光の中から懐かしい声が響き渡る。スフィアフィールドを埋め尽くしていたコート・オブ・アームズの放つ絶望が、その清らかな光に触れた途端に浄化され、霧散していった。
「バカな……完全に消滅したはずの彼が、なぜ……!」
トロンの顔に初めて、明確な驚愕と焦燥が走る。顔の左半分で渦巻く虚無の星雲が激しく波打ち、彼は信じられないものを見るように後ずさった。Ⅲの手によって消し去ったはずの存在が、よりにもよってこの最終局面で帰還した事実を、トロンの思考は処理しきれない。
「へっ……」
やがて光が収束し、遊馬は右の宙を見据える。そこにはかつてと変わらぬ姿の相棒が静かに浮いていた。遊馬は涙でぐしゃぐしゃになった顔を乱暴に袖で拭い、屈託のない笑顔をアストラルに向ける。
「……遅えんだよ、アストラル!一人で全部背負うのは、すげえ重かったんだぜ!?」
「あぁ、よく一人で耐え抜いた。ここからは、私も一緒に背負おう」
アストラルは力強く遊馬に宣言し、静かにトロンを見据えながら遊馬と並び立った。その青白く発光する身体からは、以前と変わらぬ、温かい波動が放たれている。もはやトロンの放つ孤独なプレッシャーなど、二人には微塵も通じない。絆を取り戻した彼らの前では、復讐に染まった神の威容すらも揺れるのには不十分だ。
「積もる話はあるだろうが、今はデュエル中。行くぞ遊馬。君と私、そして仲間たちの想い……すべてを一つに重ね合わせ、彼の憎しみを打ち砕く!」
アストラルの力強い言葉を受け、遊馬は自身の胸の内で燃え上がる未知のエネルギーの奔流を感じ取っていた。精神の最深部で扉が告げた新たなる力。それは単なるカードの力ではなく、情熱と叡智の魂が完全に一つになることで生まれる奇跡の力。
「突然出てきたと思ったら、何を言うんだい?アストラル、君の相棒はもう敗北が確定しているんだよ!」
「……トロン……なるほど。この状況……」
アストラルはトロンの言葉をモノともせず、現在のデュエルの状況をフィールドを見渡すことで凡そ把握し、脳内で整理する。目の前には、トロンの切り札と思わしきナンバーズが立つ。そして、遊馬のフィールドには3体のナンバーズがいる。手札は無く、ライフポイントは50。並のデュエリストならば明らかに勝敗は決したとして諦め、敗北の運命を受け入れる場面だろうが彼は違う。
「素晴らしい。遊馬……ここまで、一人でよくやったな!」
絶望的な盤面を前にしてもアストラルは微塵も揺らぐことなく、むしろ誇るような穏やかな微笑みを浮かべた。
「言われるまでもねぇ、何ならさっさと出てきて欲しかったくらいだぜ!」
「フッ……私が見ない内に、君は大きく成長したというのだな」
遊馬の言葉にアストラルは満足げに目を細め、静かに宙を滑って遊馬の真横へと並び立つ。
「ならば問おうか。遊馬、君ならばこの状況。どうやって逆転する?」
試すようなアストラルの問いかけ。それはかつて幾度となく繰り返された、二人で戦うデュエルののようでもあった。だが、今の遊馬に迷いなど一切ない。胸の奥底で確かな熱を帯びる新たな力の名前を、ただ真っ直ぐに叫ぶ。
「ゼアルだ!!!」
遊馬の力強い声がスフィアフィールドに轟く。その魂の言霊に呼応するように、遊馬の胸元で揺れる皇の鍵が眩い黄金の光を放ち始めた。
「満点だ、遊馬」
アストラルは深く頷き、自らの身体から溢れ出す青白い光を、遊馬の放つ黄金の光へと完全に共鳴させていく。
「っつうことは、ゼアルが、逆転の力ってことで合ってるのか?」
遊馬は全身を包み込み始めた眩しさに目を細めながらも、内側から無限に湧き上がってくる未知のエネルギーに、確かな勝利への高揚感を感じ取っていた。
「その通り、私の世界を救うとされる力……それが、ゼアル!」
遊馬という相棒がいれば、勝敗の運命など容易く逆転させられる。確固たる自信でアストラルは静かに頷き、その瞳で周囲の空間——スフィアフィールドの向こう側で、固唾を飲んで自分たちのデュエルを見守っているであろう人々の気配を一瞥した。
「しかし遊馬。周りには大勢の人がいるようだが、大丈夫なのか?」
遊馬は傷だらけの顔に、明るい笑みを浮かべた。相棒が隣に現れただけで彼の心からすべての恐怖が消え去っていた。ならば、彼らを止めるモノは何も存在しない。
「へっ。関係ねぇよ、トロンが仮面を外してもこんな様子だ。どうにでもなるさ!」
その頼もしい言葉に、アストラルもまた微かに口角を上げる。二人の間に、もはや言葉すら必要としない深い信頼が再確認された瞬間だった。
「愚問だったな。行くぞ、遊馬!!」
「おうッ、アストラル!!」
二人の足元から、全く異なる二つのエネルギーが爆発的に立ち昇り始める。遊馬から放たれる太陽のように熱く燃え盛る真紅の闘気と、アストラルから放たれる流星のように静謐で透き通る蒼き波動。
「遊馬、ゼアルだ!!!」
「かっとビングだぜ、俺たち!!!」
相反するはずの二つの光は、互いを拒絶することなく美しく絡み合い、巨大な光の竜巻となる。遊馬はデュエルディスクを天高く掲げ、右腕に全身のエネルギーを集中させる。魂の鼓動が、空間そのものを共鳴させて震わせた。
「俺と!」「私の!」
「「タ––ン!!」」
その力強い宣言と共に、アストラルの身体が眩い光の粒子となって実体を失い、遊馬の周囲を高速で旋回し始めた。それは、デュエリスト自身の魂をオーバーレイ・ユニットとする、常識を超えた究極の召喚。
「私は、私自身と!」
「俺で!」
人間とアストラル世界の使者。二人の声が完全に重なり合い、世界の理を書き換える一つの和音となって響き渡る。
「「オーバーレイ・ネットワークを構築!!」」
「遠き二つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!!」
瞬間、生まれたのは奇跡を思わせる光の奔流。渦巻くエネルギーの最深部で、二つの魂が物理的な境界線を越えて融合していく。異なる存在であったはずの二人が、互いの想いを重ね合わせ、完全なる一つの命へと至る。
「「エクシーズ・チェンジ……」」
極限まで高まった光が弾け、空間全体を真っ白に染め上げる。そのまばゆい閃光の核から、全く新たな存在のシルエットがゆっくりと実体を結んでいった。
天地を揺るがすほどの光が晴れ、そこに降り立ったのは、遊馬でもアストラルでもない。真紅の装甲と純白の衣を纏い、黄金に輝く鋭い瞳を持った究極の戦士。すなわち——ゼアルの誕生であった。
「なっ……」
その姿をまえに、トロンは思わず腕で顔を庇いながら後ずさった。アストラルさえ居なかったのに、この大一番で彼を呼び戻し、あまつさえ即座に新たな姿に変身するというのだから、常識を超越した現象としか言いようのない光景を目の当たりにし、トロンは予想外としか言うほか無かった。
「まさか、そんな隠し玉を持っていたとはね……」
光が収まり、フィールドに降り立った戦士は、自分自身の両手を不思議そうに見つめた。指先を動かして拳を握ったり開いたりしながら、全身を包む未知の装甲と、内側から無限に湧き上がってくる圧倒的なエネルギーの感覚に驚きの声を上げる。その声は間違いなく遊馬のものでありながら、どこか別の響きを帯びている。
「な、何だこれ!?これが、俺!?」
戦士の口が再び動く。しかし次に紡がれたのは、理知的で落ち着いた、遊馬とは全く異なる青き相棒のトーンだった。一つの身体から二つの声が完全に重なり合って響くという非現実的な光景が、そこに人智を超えた新たな奇跡が誕生したことを証明している。
「そして、私の力……それが、ゼアル!」
トロンは信じられないものを見るように目を丸くし、顔を引きつらせた。人間とアストラル世界の住人が、デュエルの最中に物理的に融合するなどという事象は、彼の知識でも考えられない全くの規格外だったのだ。
「その声……遊馬に、アストラルが混ざってる?……まさか、合体したってことかい?」
だが、トロンはすぐに激しく頭を振り、ギリッと奥歯を噛み鳴らした。相手がどれほどの奇跡を起こそうとも、盤面に刻まれた絶対的な事実は変わらない。彼は狂気じみた笑みを貼り付け、デュエルディスクに表示された絶望的な数値を突きつけるようにゼアルを指差した。
「けど、アストラル。残念だけど君のライフポイントはたったの50、手札は0枚だ!」
フィールドは力を失ったモンスターのみ、手札もゼロ、そして風が吹けば吹き飛ぶような残りライフ。しかし、真紅と純白の装甲を纏った究極の戦士は、焦るどころか不敵な笑みを浮かべてトロンを真っ直ぐに見据えた。二つの魂が完全に同調した黄金の瞳には、すでに勝利への明確な道筋が映し出されている。
「負けるという選択肢は無い。トロン……今の私たちが勝利の方程式を組み立てるのには、この逆境すらも十分すぎる!」
遊馬の熱い闘志とアストラルの冷静な知性が融合した、二重の力強い声がスフィアフィールドの空気を震わせる。静寂の中、遊馬の意識が今度は溢れんばかりの希望を胸に抱き、デュエルディスクに意識を向ける。同時に、ゼアルの内側からアストラルの力強い声が響く。
「遊馬!このドローに全てを賭けろ!」
その声に応えるように、ゼアルは右腕を天高く突き上げる。希望が彼らの意志に呼応し、右手に無数の光の粒子が集束していく。それはただデッキからカードを引くという単純な動作ではなく、望む奇跡を具現化するための、言わば運命を創造する儀式。
「最強デュエリストのドローは全て必然……ドローさえも、デュエリストが創造する!」
常識を完全に覆すその宣言に、トロンは息を呑んだ。引くべきカードを運命に委ねるのではなく、自らの意志で生み出す。それがどれほど規格外で恐ろしい事象であるか、トロンの直感が警鐘を鳴らしていた。光の粒子はさらに密度を増し、ゼアルの右手全体を眩いプラズマのように包み込んでいく。
「集中しろ、遊馬」
「ああ……」
二つの魂が、極限の集中状態へと入る。遊馬の燃え盛る闘志とアストラルの静かな知性が完全に一つに溶け合い、雑音の一切ない純粋な意志となって覚悟と昇華される。目を閉じて深く静かに呼吸を整えた後、ゼアルは黄金に輝く双眸をカッと見開いた。
「行くぜ、アストラル!!」
遊馬の叫びと共に、ゼアルは右腕を大きく振りかぶった。スフィアフィールドを漂うエネルギーが、星々の瞬きのように彼らの手元へと一気に吸い込まれていく。
「全ての光よ……力よ!我が右腕に宿り、希望の道筋を照らせ!!」
ゼアルの右腕が、太陽そのもののように激しく発光する。眩しすぎる光の帯が空間に尾を引き、希望を束ねたかのような神々しい軌跡が宙に描かれた。限界まで引き絞られた弓から矢が放たれるように、ゼアルの指先が力強くデッキトップのカードを勢いよく引き抜く。
「シャイニング・ドローッ!!!」
引き抜かれたカードから、視界を真っ白に染め上げるほどの強烈な閃光が炸裂した。光の中から姿を現したのは、この瞬間までこの世界に存在していなかったはずの、全く新しい一枚のカード。ゼアルは黄金の軌跡を描きながら引き抜いたその一枚を、トロンの眼前に力強く突きつけた。
「私が今引いたカードは、《シャイニング・ドロー》ッ!!」
絶望で希望が潰えるのならば、己の手で奇跡を起こして潰えぬ希望を生み出せば良い。彼らにそれを可能にさせたのは、これまでの戦いの中で蓄積させてきた積み重ねに他ならない。過去から来たる現在が、存在しなかった未来を存在させる未来として改変させた。その規格外の事象を前に、トロンは呆然と立ち尽くすことしかできない。
「このカードは通常ドローによって手札に加わった時、このカードを公開し続けることによって、《希望皇ホープ》1体を対象として効果を発動できる!!」
ゼアルがカードを高く掲げると、そこから迸る光の帯が天空へと真っ直ぐに伸びていく。
「放て、遊馬!!」
「行くぜ、アストラル!俺は、《No.39 希望皇ホープ》を対象として、《シャイニング・ドロー》の効果発動!」
アストラルの研ぎ澄まされた指令と、遊馬の熱く燃え盛る闘志が共鳴する。空間が激しく脈打ち、黄金のエネルギーが渦を巻きながら彼らのエースモンスターの新たなる力を呼び覚まそうとしていた。
「俺は《希望皇ホープ》をエクシーズ素材として、対象としたホープとカード名が異なるホープをエクストラデッキからエクシーズ召喚する!!」
ゼアルの宣言に応えるようにして、スフィアフィールドの天空に、全く新しい黄金に輝けし銀河が展開された。
「《No.39 希望皇ホープ》一体で、オーバーレイ・ネットワークを再構築!ディスティニー・カオス・エクシーズ・チェンジ!!」
そこに希望の戦士の魂が吸い込まれ、全く新たな次元の力へと再構築されていく。空間そのものが限界を迎えたかのように激しく震動し、凄まじいエネルギーの奔流が嵐となって吹き荒れた。
「闘志が纏し、その衣……轟く咆哮、大地を揺るがし!迸る迅雷、神をも打ち砕く!!」
ゼアルの重なり合った声が、雷鳴のように響き渡る。銀河がやがて晴れ、その奥から百獣の王の如き勇壮な咆哮が轟いた。その圧倒的な覇気は、コート・オブ・アームズの威圧感すらも正面から弾き飛ばすほど。眩い黄金の装甲が次々と実体を結び、雷光を纏いながら新たな戦士の身体へと装着されていった。
「現れろ、《獣装合体 ライオ・ホープレイ》!!!」
爆発的な閃光の中から、三本の剣を携え、黄金の獅子の鎧を纏った究極の希望皇がその雄姿を現した。眩い光の奔流の中から姿を現した未知のナンバーズに、トロンは驚愕を隠せない。
「何?《ホープレイ》じゃ無いだって!?」
トロンの動揺をよそに、ゼアルの双眸は揺るぎない自信に満ちていた。
「いいや、このカードはルール上《CNo.39 希望皇ホープレイ》として扱う!」
その言葉に、トロンの脳裏に浮かぶ人物が一人。神代凌牙が見せたカオス・エクシーズ・チェンジの二段階目、未知なる第二の進化の可能性。それを、遊馬もやってのけたというのか。トロンはその事実に思わずギリッと奥歯を噛み鳴らしてしまう。だがすぐに顔を歪め、己の切り札である巨大な神を指差して強引に嗤ってみせた。いかなる新形態であろうとも、絶対的な無効化能力を持つ神の前では無力であるという確信が、彼を狂信的な行動へと駆り立てる。
「なるほどね……凌牙に次ぐ、新たな形のカオス・ナンバーズ……だけど無駄だよ。《コート・オブ・アームズ》の効果!ゴッド・メダリオン・ハンド!!」
コート・オブ・アームズから、禍々しい無数の光の巨腕が再び出現した。それらは空間を削り取りながら一直線にライオ・ホープレイへと襲い掛かり、新たなる希望の力を根こそぎ奪い取らんと迫る。
「構わない、《ライオ・ホープレイ》の効果発動!オーバレイ・ユニットを一つ使い、デッキまたはエクストラデッキからゼアル・ウエポンを装備する!」
しかし、迫り来る神の巨腕を前にしても、ライオ・ホープレイは微動だにしない。ゼアルが力強く右腕を振るうと、ライオ・ホープレイの周囲を旋回していた光の球体が一つ弾け飛び、黄金の雷光となってフィールドを駆け巡った。
「馬鹿だね、言ったはずだよ!《コート・オブ・アームズ》がいる限り、君のフィールドのモンスターは全て効果は無効化される!!」
神の能力を絶対視するトロンが、勝利を確信したような甲高い声で叫ぶ。光の巨腕がライオ・ホープレイの身体をガッチリと捕らえ、その輝きをドス黒い瘴気で塗り潰そうとした。
「それはどうかな!この効果は、発動と効果が無効化されない!」
だが、次の瞬間、巨腕は熱した鉄板に触れたかのように弾き飛ばされ、ライオ・ホープレイからさらに強烈な黄金のオーラが爆発的に噴き出した。
「何だって!?」
絶対的な神の力が通用しない。その信じられない光景に、トロンから素っ頓狂な叫び声が漏れた。コート・オブ・アームズの支配領域を力ずくでこじ開け、ライオ・ホープレイの放つ希望の光がスフィアフィールドを完全に制圧していく。
「俺は、デッキから《ZW-一角獣皇槍》を《ライオ・ホープレイ》に装備!」
ゼアルのデッキから一枚のカードが眩く発光しながら飛び出した。光は空中で実体を結び、純白のオーラを纏った巨大な槍へと姿を変える。ライオ・ホープレイがその槍を力強く握りしめると、槍の切先から凄まじい雷鳴が轟き、神をも貫く圧倒的な攻撃態勢が完全に整った。
「《コート・オブ・アームズ》の効果は魔法&罠ゾーンには及ばない、よって、装備する魔法の効果までは奪えない!」
盤面の理を完璧に読み切ったその鋭い指摘に、トロンの顔の左半分で蠢く虚無の星雲がピクリと痙攣した。
「へぇ……そう来るんだ」
余裕を装うような言葉とは裏腹に、トロンの引きつった声には微かな焦りが混じっていた。彼が構築した鉄壁の絶望が、遊馬とアストラルが生み出した奇跡の閃光によって、音を立てて崩れ去ろうとしている。
「《ZW-一角獣皇槍》の効果により、《ライオ・ホープレイ》の攻撃力は1900アップする!」
純白の聖槍から、莫大なエネルギーが黄金の獅子の鎧へと注ぎ込まれる。ライオ・ホープレイが天に向かって雄叫びを上げると、その身体から放たれる凄まじい雷光がスフィアフィールドを照らし出した。暴風のような気迫が、神の巨体を真っ向から押し返していく。
《獣装合体 ライオ・ホープレイ》ATK 2500 → 4400
「さらに!墓地の《オーバーレイ・イーター》の効果発動!このカードを墓地から除外し、《コート・オブ・アームズ》の最後のオーバーレイ・ユニットを奪い去る!」
「何!?そんなモンスターを墓地に!?」
デュエルディスクの墓地が眩く発光し、かつての墓地へ送られていた小さなモンスターの魂が実体化する。効果によりコート・オブ・アームズの周囲を回っていた最後の球体に食らいつくと、それはライオ・ホープレイへと受け渡された。
「《コート・オブ・アームズ》の攻撃力を上回った、今だ遊馬!」
ゼアルの内側で、アストラルの研ぎ澄まされた声が響く。敵の最大の脅威を剥がし、攻撃力を凌駕したこの奇跡の一瞬。二人で組み立てた勝利の方程式は、ついに完璧な形で完成を見た。
「ああ!バトルだ、《ライオ・ホープレイ》!」
遊馬の熱く燃え盛る闘志が限界突破し、ゼアルの全身から黄金の闘気が螺旋を描いて噴き上がる。彼は前方に大きく右腕を突き出し、空で無防備な標的と化した神へと狙いを定めた。
「《ライオ・ホープレイ》で、《コート・オブ・アームズ》を攻撃!」
ゼアルの咆哮に応え、ライオ・ホープレイが浮かんでいるコート・オブ・アームズ目掛けて飛びかかる。凄まじい踏み込みで宙を舞い、手にした槍にありったけの雷光を収束させながら、トロンの絶望の象徴へと真っ直ぐに突進していった。
《獣装合体 ライオ・ホープレイ》ATK 4400 vs 《No.69 紋章神コート・オブ・アームズ》 ATK 3100
だが、黄金の聖槍が神の巨体を貫かんと迫るその刹那。トロンの顔に、獲物が網にかかったのを確信するような、ひどく醜悪な笑みが張り付いた。
「かかったね、罠発動!《無敵の紋章》!」
カードが勢いよく跳ね上がり、そこから紋章が禍々しい光を放ち始める。罠カードから噴出した鎖が、突進する戦士の四肢と槍に絡みつく。
「君の《ライオ・ホープレイ》の攻撃力を、800ポイント下げる……!」
トロンが指を鳴らすと、鎖がギリギリと音を立てて締め付けを強くした。ライオ・ホープレイが纏っていた雷光の一部が相殺され、威力が減衰していく。
《獣装合体 ライオ・ホープレイ》ATK 4400 → 3600
しかし、それでは二つの魂が束ねた希望の力を完全に削ぎ落とすことなど不可能。ゼアルの気迫と共に押し込まれた聖槍が瘴気の鎖を強引に引きちぎり、神の強固な装甲へと真っ向から激突した。凄まじい衝撃波がスフィアフィールドの空間を歪め、その余波がトロンの小さな身体を容赦なく襲う。
「くっ……ぐはあぁぁああっ!!」
自身の切り札ごと吹き飛ばされたトロンは、まるで木の葉のように宙を舞い、スフィアフィールドの透明な壁に背中から激しく叩きつけられた。
トロン LP 1500 → 1000
立ち込める濃密な煙の向こう側で、確かな手応えを感じ取った遊馬が力強く拳を天に突き上げる。アストラルもそれを確信し、二つの声が重なり合った歓喜の叫びが響き渡った。
「よっしゃあッ!これで《コート・オブ・アームズ》撃破だッ!!」
トロンのライフポイントを確実に削り取った一撃。無敵を誇った復讐の神を遂に打ち倒したという達成感が、ゼアルの胸を満たす。
「ククク……」
しかし裏腹に、晴れゆく煙の奥から聞こえてきたのは、断末魔の悲鳴ではなく、ひどく不気味で歪んだ押し殺すような笑い声だった。
「えっ?」
ゼアルの顔から笑みが消え、黄金の瞳が驚愕に見開かれる。完全に粉砕したはずの煙の中心地から、禍々しい後光を背負った巨大な影が、まるで何事もなかったかのようにゆっくりと姿を現したからだ。
「何で……何でフィールドに残っているんだ?」
ゼアルの口から、信じられないものを見るような声が漏れる。ライオ・ホープレイの攻撃力は確かにコート・オブ・アームズを上回っていた。なのに、なぜフィールドに残っているのか。想定外の計算の狂いに直面し、遊馬の意識が激しく揺れ動く。
「不味いッ、遊馬。フィールドにあるナンバーズだっ!」
その時、ゼアルの内側でアストラルの鋭い声が響いた。彼の冷徹な知性が瞬時に盤面の情報を再計算し、見落としていた致命的な欠損の正体へと辿り着く。
「フィールドにあるナンバーズ……あっ!?寿から貸してもらった、《グラディエール》!」
アストラルの指摘を受け、遊馬の脳裏に解答がフラッシュバックする。コート・オブ・アームズは、自身以外のすべてのモンスターの効果を奪い取る神。その中には当然、現在フィールドに残っているナンバーズの効果も含まれている。
「残念だったねぇ。そうだよ、2人もいるのにようやく今になって気付いたようだね。そこの《No.72 諧調光師グラディエール》の効果」
壁に叩きつけられ、トロンがゆっくりと立ち上がる。痛みで顔を引きつらせながらも、彼の残された右半分の人間の顔には、相手の絶望を嘲笑う至福の笑みが浮かんでいた。
「自身の属性と同じ属性を持つモンスターとの戦闘では、破壊されない……!」
ゼアルの顔に冷や汗が伝う。見落としていたのは、《グラディエール》の持つ属性を利用した戦闘耐性。
「《ライオ・ホープレイ》は光属性。そして、《コート・オブ・アームズ》も光属性!よって、戦闘破壊はされない!!」
コート・オブ・アームズの全身が眩い光のタクトに包まれる。ライオ・ホープレイの放った攻撃は届きはせども、神を破壊することが叶わなかった。天使から奪われた効果によって耐えられてしまったのだ。仲間から託された絆の力が、最悪の形で自らの決定打を阻む盾となってしまった。
「利敵行為だよ……2人もいるのにね、ハハハハハ!!」
トロンは完璧に作戦が思惑通りに行ったことに、愉悦を隠せない。
「これは本当に残念だったね……いや、プレイミスと言った方がいいのかな?自らのナンバーズで、自らの首を絞めるなんて、とんだ大惨事だね!」
「遊馬……すまない。私のミスだ」
ゼアルの脳内で、アストラルが深く項垂れた。せっかく掴みかけた勝利を逃してしまった自責の念が、アストラルの声を重く沈ませる。
「いや、アストラル。まだ終わってねぇよ、お前とのデュエルは始まったばかりだ!俺はこれで、ターンエンド!!」
しかし、遊馬の闘志は少しも衰えてはいなかった。彼は精神の中で項垂れる相棒の肩を力強く叩くように、前を向いて堂々とターンエンドを宣言する。後悔している暇などない。神を破壊しきれなかったとはいえ、確実にダメージは与えた。そして何より、彼らは今、再び二人で共に戦っているのだ。
「そうだな、まだ私たちには、ライフポイントが残っている!!」
遊馬の決して折れないかっとビングの心に触れ、アストラルもまた力強く顔を上げた。相対するトロンはゼアルが放つ神々しい光と決して折れない精神を忌々しげに睨みつけながら、デュエルディスクのデッキへと指を伸ばす。
「ボクのターン、ドローッ!!」
引いたカードを手札に加えると同時、コート・オブ・アームズの巨体が不気味な脈動を始めた。
「この瞬間、《コート・オブ・アームズ》が吸収した《アトランタル》の効果発動!互いのライフポイントを半分にする!!」
スフィアフィールドの空間が赤黒く歪み、空間そのものが収縮するような強烈な圧迫感がゼアルとトロンの両者を襲った。生命力を直接削り取られるような波動がフィールドを駆け抜け、ただでさえ風前の灯火であった遊馬たちの命の数値をさらに無慈悲に半分へと引き下げる。
トロン LP 1000 → 500
遊馬 LP 50 → 25
絶望的な数値の低下と共に、ゼアルの全身を焼けるような激痛が走った。
「……ぐっ」
ゼアルは片膝を突くことだけはなんとか耐え抜いたが、その口からは苦痛に満ちた呻き声が漏れた。そんな相手の苦しむ姿を特等席で眺めながら、トロンはわざとらしく額の汗を拭う仕草を見せる。
「さらに、《アトランタル》の効果でボクがバトルで受けるダメージは0になる……フゥ、暴れん坊は困るね」
トロンは、まるで目の前の戦士たちをいともしないように肩をすくめた。彼にとってこのデュエルは、もはや相手の希望を徹底的に弄び、粉々に砕き散らすための残虐な遊戯でしかない。それは極上であればある程良い。希望に満ちている心を圧倒的な絶望で叩き潰すことこそ快楽と信じて疑わない彼は、ゼアルの黄金の瞳の奥にわずかに残る勝機への計算すらも見透かすように、ひどく底意地の悪い笑みを浮かべた。
「もしや、オーバーレイ・ユニットが無いから勝ちとかそんなことは考えていないよね……?ボクは墓地の、《紋章獣ツインヘッド・イーグル》の効果発動!」
デュエルディスクの墓地から、甲高い鳴き声と共に双頭の鷲の幻影が飛び出した。
「自身を除外し、《コート・オブ・アームズ》のオーバーレイ・ユニットを二つ復活させる!」
双頭の鷲は空中で二つの光の球体へと姿を変え、コート・オブ・アームズの周りを旋回し始めた。失われていた神の力が、トロンの執念深い復讐心によって再び完全な形で装填されてしまう。絶望が再びフィールドを厚く覆い尽くす中、トロンは冷酷無比な死刑宣告を下した。
「《アトランタル》の効果を使わせてもらうよ!オーバーレイ・ユニットを一つ使い、君の残りカスのライフポイントを半分にする!」
復活したばかりの光の球体が一つ弾け飛ぶと、再び先ほどのような重圧が今度はゼアルにのみ降りかかった。
「オリハルコンゲート!!」
魂を揺さぶり削り取る振動が、ゼアルの身体を情け容赦なく飲み込んだ。スフィアフィールドの床が溶けて吹き飛ぶほどのすさまじい圧力が、彼らのライフポイントをさらに削り取っていく。
遊馬 LP 25 → 13
「まだだ、まだ負けてねぇ……!はぁ、はぁ、はぁっ……!!」
心は折れずとも、苦痛に耐えかねて漏れるゼアルの荒い息遣いを聞きながら、トロンはひどく満ち足りたような笑みを浮かべた。彼はついにこの凄惨な遊戯の最終幕を引き下ろすべく、冷酷な号令を下した。
「バトル!」
トロンの叫びに呼応し、コート・オブ・アームズが重々しく脈動を始める。
「《ホープ》を叩き潰せないのは残念だけど、もう十分さ!《コート・オブ・アームズ》、攻撃だ!」
小突くような攻撃ですら十分すぎるライフポイント。彼らが縋り付く、その微かな希望を削り取るため、圧殺するように隕石が降り落ちていく。
「《グラディエール》を、叩き潰せ!ゴッド・レイジ!!」
大気を悲鳴のように引き裂きながら迫り来る絶望の閃光が、ゼアルのフィールドに立つ天使へと一直線に襲い掛かった。
《No.69 紋章神コート・オブ・アームズ》 ATK 3100 vs 《No.72 諧調光師グラディエール》ATK 2700
絶望の閃光が眼前に迫り、スフィアフィールド全体が終焉の光に呑み込まれようとしたその刹那。ゼアルのデュエルディスクの墓地から、一筋の希望の光が眩く噴き出した。
「この瞬間、俺は墓地にある《タスケルトン》の効果発動!」
墓地から実体化した黒豚が、身の丈に合わない勇ましさで天使の前に立ちはだかる。
「このカードを除外することで、《グラディエール》は戦闘では破壊されず、その戦闘によって発生するダメージも0になる!!」
黒豚が自らの身体を盾に変えて展開した壁が、ドス黒い破壊光線を完全に受け止めて天使への攻撃を完璧にシャットアウトした。
「助かったぜ、《タスケルトン》!」
爆風が勝利の目前で弾けたのを見て、トロンは苛立ちを覚える他ない。自らが駆る力を持ってすれば息の根を止めることが容易なはずの相手が、何度でも耐え凌いでくる事実が、彼の自尊心を酷く逆撫でしていた。
「チッ、ふざけた真似を……ボクはカードを一枚伏せる。これで、ターンエンド!!」
圧倒的な力でねじ伏せようとすればするほど、ゼアルの放つ希望の光はより一層の輝きを増していく。残りライフポイントはわずか13。嘘偽り無く極限の瀕死状態でありながら、ゼアルの放つ黄金のオーラは少しも衰えるどころか、太陽のような力強い輝きを増していた。
「……アストラル、かっとビングだぜ!」
精神世界の中でアストラルが遊馬の力強い声に頷き、青く澄んだ瞳が絶対的な信頼を込めて遊馬を見つめた。
「遊馬、既に勝利の方程式は揃っている。私を信じろ!」
「あったり前だッ!!」
その言葉に、遊馬は心の中の相棒へ最高の笑顔で頷き返す。疑いなど微塵もない。一人で抱え込んでいた孤独な戦いは終わり、今は最も信頼する半身が共にこの身体に宿っている。故に、臆さず進んでいける。
「行くぜ、俺たちの……ターン!!」
ゼアルが力強くデッキトップに右手を添えると、宇宙の星々を凝縮したような眩い光の粒子が再び彼の右腕へと集束し始めた。限界を超えた魂の共鳴が齎す、迷いなき純粋な希望の意志が天地を貫いた。
「全ての光よ……力よ!我が右腕に宿り、再び希望の道筋を照らせ!!」
極限まで高まったエネルギーの奔流を纏い、ゼアルの右腕が眩い黄金の軌跡を描いて空を切る。運命すらも自らの手で創り出す、デュエリストの究極の極致がここに再び顕現した。
「ファイナル・シャイニング・ドローッ!!!」
引き抜かれたカードから、太陽そのものが爆発したかのような強烈な閃光が迸る。絶望の闇を永遠に消し去るその光の中で、ゼアルは引いたばかりのカードをトロンの眼前へと力強く突きつけた。
「奇跡は何度だって起こせる!来たぞ、もう一度発動しろ!」
「俺が引いたのは、もう一枚の《シャイニング・ドロー》!!」
カードの表面に描かれた眩い光のイラストを見て、トロンは愕然と息を呑んだ。自分を倒すために、奇跡をいとも容易く二度も起こしたという事象が信じられなかったからだ。
「二度目の、奇跡だと!?だが、もう意味はないはずだ!!」
ゼアルは突きつけられたトロンの予測を鼻で笑い飛ばすかのように、手にしたカードをデュエルディスクに力強く叩きつけた。
「意味は無いようで意味しか無いッ!俺は、すぐさま《シャイニング・ドロー》発動!」
アストラルの透き通るような声と、遊馬の熱く力強い声。完全に重なり合った二つの魂の響きが、トロンの常識を打ち砕いていく。
「この魔法カードは、二つの効果がある!隠されし二つ目の効果発動!」
その規格外の宣言に、トロンは言葉を失う。コート・オブ・アームズの絶対的な支配領域を強引にこじ開けるように、ゼアルのデッキから次々と眩い光の球体が飛び出してくる。
「デッキから、好きな数だけゼアル・ウエポンを《ライオ・ホープレイ》に装備させることができる!」
飛び出した複数の光球が、ライオ・ホープレイの周囲を旋回しながら急速に実体を結んでいく。それは、遊馬とアストラルの絆が極限まで高まったことで生み出された、希望を護るための究極の武装たち。
「俺はデッキから……」
ゼアルがデッキから放たれた3枚のカードを引き抜き、素早くデュエルディスクに叩きつける。
「《ZW-不死鳥弩弓》、《ZW-雷神猛虎剣》、《ZW-風神雲龍剣》を《ライオ・ホープレイ》に装備させる!!」
炎を纏う真紅の弩弓、雷光を放つ猛虎の剣、そして嵐を呼ぶ白銀の龍剣。三つの武装が、黄金の獅子の鎧を纏うライオ・ホープレイの元へと集結した。重装甲化していくライオ・ホープレイの背部に真紅の翼が展開され、灼熱の炎が空気を焼き尽くす。右手に握られた猛虎の剣から、天を衝くほどの凄まじい雷柱が立ち昇る。最後に左手へ装備された雲龍の剣が、竜巻を巻き起こした。
「バトルだッ!!!」
ゼアルは圧倒的な威容を誇るライオ・ホープレイと共に、トロンへと真っ直ぐに右腕を突き出した。
「《ライオ・ホープレイ》で、《コート・オブ・アームズ》に攻撃!!」
「ホープ剣・カオス・クワッド・スラッシュ!!!」
《獣装合体 ライオ・ホープレイ》ATK 3600 vs 《No.69 紋章神コート・オブ・アームズ》 ATK 3100
「この瞬間、《ZW-不死鳥弩弓》の効果発動!バトルする時、戦闘ダメージを0とすることで相手に、1000ポイントのダメージを与えることができる!!」
雷、炎、嵐、そして光。四色の破壊エネルギーが螺旋を描いて絡み合い、天地を焦がすほどの極太の光の奔流となってコート・オブ・アームズ、そしてトロンの元へと肉薄する。
「お前のライフポイントは500!!これで終わりだぁぁぁ!!!」
万感の想いを込めた、完璧な一撃。
「これだよ……これこれ!!」
しかし、死の閃光を正面から浴びようとしているトロンの顔に浮かんでいたのは、絶望ではなく、待ち焦がれていた歓喜の絶頂。
「こういう攻撃を待っていたんだ!」
圧倒的な希望の光が神の巨体に直撃するその直前、トロンは血走った瞳をカッと見開き、デュエルディスクの盤面に叩きつけるように指を突き立てた。コート・オブ・アームズの周囲を旋回していた光の球体が一つ、音を立てて弾け飛ぶ。
「《コート・オブ・アームズ》の効果発動!相手が攻撃してきた時、オーバーレイ・ユニットを一つ使い、フィールドにあるカードを一枚破壊する!」
トロンの狂乱の叫びと共に、コート・オブ・アームズに刻まれた紋章が禍々しく発光し、形態が赤みかかった戦闘機の両翼のような形で鋭さを下に持ち、中心で連結される不気味なモノへと変貌した。
「ボクは、《ライオ・ホープレイ》を選択!破壊する!!」
迫り来る四色の閃光を真っ向から迎え撃つように、コート・オブ・アームズの中心からの口がカッと開かれた。そこから放たれたのは、次元の壁すらも粉砕するほどの超音波の波動。
「消えな、神本来の力を前にしてね!!ゴッド・シャーター!!」
「いいや、破壊されねぇよ!《ZW-風神雲龍剣》の効果で、《ライオ・ホープレイ》は破壊の対象にならない!!」
しかし、その迎撃すらもゼアル・ウエポンは無力とする。無慈悲な破壊能力であろうと、希望をこれごときで簡単に壊すことはできない。だが、絶対の防壁を前にしても、トロンの顔に張り付いた狂気じみた笑みは微塵も揺るがなかった。
「ふーん、そう。じゃあ、ボクは《グラディエール》を破壊する!!」
トロンが指先を軽く振ると、神の咆哮の軌道が捻じ曲がった。ライオ・ホープレイを避けるように迂回した闇の波動が、その傍らで無防備に佇んでいた天使へと無慈悲に襲い掛かる。
「くっ……だが、まだバトルは続行している!!」
ナンバーズが粉砕された衝撃にゼアルは顔を歪めるが、彼らの闘志の炎は消えていない。ライオ・ホープレイの攻撃の勢いは少しも衰えることなく、四つのゼアル・ウエポンを構えたまま、真っ直ぐにコート・オブ・アームズの懐へと肉薄していく。
「1000ポイントの、ダメージを食らえぇぇぇえええっ!!!」
神を打ち倒すまで、あと数メートル。
「本当にそうかな?」
しかし、その決着の瞬間を阻んだのは、トロンのひどく冷酷で、無邪気さすら孕んだ囁きだった。
「何!?」
「罠発動、《爆風紋章》!!!」
トロンの足元で、赤黒い光を放つ伏せカードが勢いよく反転した。そこに刻まれた紋章から、爆発的な嵐がライオ・ホープレイへと吹き荒れる。
「このカードはバトル中に発動できる……効果で、君のゼアル・ウエポンを全て手札に戻し、バトルを終了させることができる!」
凄まじい爆風がライオ・ホープレイを真正面から打ち据える。四つの武装が、強制的に結合を解かれ、光の粒子となってゼアルの手札へと吸い戻されていく。
《獣装合体 ライオ・ホープレイ》ATK 3600 → 1700
ゼアルが放った必殺が、トロンのたった一枚の罠の前に瞬く間に墜落した。
「そ……そんなっ!」
二度の奇跡を起こし、すべてを懸けて組み上げた完璧な勝利の方程式。それがトロンに瓦解された現実に、ゼアルの黄金の瞳が激しく揺れ動いた。嵐が過ぎ去ったスフィアフィールドに、重苦しい静寂が舞い降りる。
「《ZW-不死鳥弩弓》は装備魔法、効果は不発。そしてさらに、《爆風紋章》の効果で君は手札に戻ったカード一枚につき、このターンの終わりに……」
希望の武装を根こそぎ剥がされ、力を失ったライオ・ホープレイを冷酷に見据えながら、トロンはとどめとばかりに歪んだ口角を限界まで吊り上げた。狂喜に満ちた声で、残酷な計算式をゼアルに高らかに突きつける。
「……500ポイントのダメージを与える……戻ったカードは4枚!!よって、2000ダメージを与える!!!」
「何だと……!?」
ゼアルの声が、絶望に激しく震えた。運命を切り開くはずだった絶対的な希望の光が、ここに来て自分たちの命を確実に刈り取るための呪いへと反転させられてしまった事実に、遊馬は震える。
「君たちのバトルは終わった。あとはターンエンドするだけ……つまり、君たちの負けだよ!遊馬、アストラル!!」
アストラルは残酷な事実をトロンの言葉と同時に理解する。バトルフェイズは終わり、メインフェイズ2で打つ手を持たない自分たちに残された道はターンエンドすることのみ。ターンエンドを宣言することは即ち、自らの死の引き金を自分自身の声で引くという、最も屈辱的で残酷な結末を意味している。
トロンは顔の左半分で渦巻く虚無の星雲を激しく脈動させながら、両腕を大きく広げて天を仰ぐ。
「幾ら何度奇跡が起きようと、絶望の前には無力なんだよ……フフフ、ハハハハハ!!!」
チェックメイト。正しく、詰みであった。