軍貫使いはZEXALで寿司を握る 作:Dの軍貫 シンキハヨ・チョーダイナ
旅行先で書く時間がないので、早めに投稿です。
ナンバーズ使いとの戦闘から一夜明けた、午前五時。
俺――赤司寿は、早朝の市場へ向かうため自転車を漕いでいた。
すべては朝一番の最高なネタを確保するため。ハートランドは内地なのもあって、真に鮮度のいいものはこの時間じゃないと拝めない。
ちなみに親父はたぶん今頃家でコハダを捌いてるはずだ。あの職人気質には、いつか追いつきたいもんだが、今は眠気が勝る。
(……ファーア、眠い。一刻も早く市場へ行って、帰って少しでも二度寝したいんだが)
そう思っていた俺の視界に、異常な光景が飛び込んできた。市場へ続く一本道。そのど真ん中に、縁にトゲがつく銀の車輪が取り付けられた巨大な戦車が鎮座していた。
「ハッハッハーッ!このラインは俺の領地だ! 一歩でも踏み込む奴は、このチャリオッツ・飛車で粉砕してやるぜ!」
……あの車輪、物理的に意味あるのか?
チャリオッツというからには、轢き潰すための装飾なんだろうな、きっと。
「おいお前ー!邪魔だー!」「他所でやれ、仕事にならねぇーだろーがよー!」
見れば、トラックの運転手たちが立ち往生し、殺気立っている。その中心で男が、禍々しい黒のオーラを放つモンスターを従えて吠えていた。
(……おいおい。あそこを通れないと、市場に行けないだろうが)
どうしたものかと自転車を止めると、横から声がかかった。
「おっ坊ちゃん、お前も立ち往生中か?」
俺を見つけて駆け寄ってきたのは、先日にも会った鮮魚店の息子だ。
「ああ、昨日ぶり。で、何の騒ぎなんだあれは?」「見たまんまだ。どっから来たんだか、ヘンテコリンな戦車が朝っぱらから道を通せんぼしてるんだ。」
「えー、マジかよ。いつからだ?」「さぁ?俺が来たときにはもう居座ってたな。おかげで卸売りのトラックが全滅だよ」
暇人なのか知らんが、迷惑な奴だな。この時間の板前にとって、一分一秒がどれだけ貴重か分かっていないらしい。
「でも塞いでるのは車道だけだ。じゃあ歩道なら、」「それもダメだ、坊ちゃん。あいつ歩道を渡ろうとするとあの砲台がギュルギュル動いてこっち向いてきやがるんだ。……文字通り、一歩も通さないってわけさ」
「面倒くさっ!」「全くだ。」
男の背後で唸りを上げるのは、おそらく《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》。
アニメではなく、漫画版で登場しているモンスターだ。俺はあいにく漫画を読んだことがないので、細かい戦術とかは知らないが……。
「……はぁ。無視して別ルートを行きたいのは山々だが、この先は市場への最短ルートなんだよ。鮮度が落ちる前に、どいてもらうぞ」
俺は仕方なく自転車から降り、Dパットを装着しつつ保冷ケースを荷台から降ろした。学校のカバンからデッキを取り出し、重い足取りで戦車へと向かう。 男がこちらに気づき、下卑た笑いを浮かべた。
「あぁん? なんだそのガキは。……寿司屋の格好かぁ? 俺のラインを横切る度胸があるなら、デュエルで示しな!」
「……やけに自然な導入だな。しかし、朝から元気なのは勘弁してくれよ?」
「Dゲイザー、セット!」 「ARビジョン、スタンバイ!」
「「デュエル!!」」
男 LP 4000 / 寿 LP 4000
「俺の先攻……ドロー」
引き抜いたカードを確認し、俺は頬を引きつらせた。手札は《エクシーズ・ギフト》、《きまぐれ軍貫握り》、《赤酢の踏切》、《ゴブリンドバーグ》。そして……二枚の《うにの軍貫》。
あえて言おう、完璧な手札だと。
(……シャリがねえし、《予想GUY》も無い。《うにの軍貫》だけあっても、レベル5だから通常召喚もできない。これじゃ握れねえぞ)
どうやらここ数日の連戦で、運を使い果たしたらしい。
これこそが俺が運を信用しない理由だ。
「……俺は裏守備表示でカードをセット。さらにカードを三枚セットして、ターンエンドだ」 「寿司屋のナリして、仕込みできねぇのは痛い他無いだろ! 俺のターン、ドローッ!」
まさにその通りです、と言いたくなる正論。男が猛々しくカードを引き抜く。
「俺はレベル3の《ラインモンスター K-ホース》召喚!効果でお前の.そうだな、右端の伏せカードを確認する!さぁ、そいつを俺に見せなぁ!」
「…その伏せカードは《きまぐれ軍貫握り》だ。」
「ビンゴ!罠カードならそのままそいつを破壊し、デッキから《ラインモンスター スピア・ホイール》を特殊召喚!」
「そして俺は《スピア・ホイール》の効果発動!二体のレベルを6にし、オーバーレイ! こい、《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》!」
巨大なトゲ付き車輪が轟音を立ててアスファルトを削る。 ナンバーズ特有なのか、脳を直接冷やされるような嫌な寒気が霧と共に俺を包み込んだ。
「チャリオッツ・飛車のエクシーズ効果発動! オーバーレイユニットを使い、お前のセットカード2枚を破壊してやるぜ!『チャリオッツ・五月雨突き』!」
戦車から放たれた衝撃波が、俺が伏せた《ゴブリンドバーグ》と《赤酢の踏切》を木っ端微塵に粉砕した。
「た・だ・し、この効果を発動した場合戦闘ダメージは半分になる。だが、守るカードが無い今のお前には十分ッ!チャリオッツ!お前にダイレクトブレイクだ!この隙は逃がさねえ!」
装甲車が猛スピードで突進してくる。
痛てぇ...
寿 LP 4000 → 2750
「そして俺は魔法カード、《悪夢の鉄檻》発動!このカードが魔法・罠ゾーンにある限り、お前は攻撃できねぇ!俺はこれで、ターンエンド!」
強烈な風圧に髪が乱れる。だが、俺は冷静に墓地へ送られたカードを確認した。
「随分と威勢がいいが、あんた、自分の足元が見えてないぞ」「あぁん? 負け惜しみか?」
「いいや、そうじゃない。俺のターン、ドロー。」
カードの表面を見た瞬間、俺の口角がわずかに上がった。
「……よし。俺は手札から《予想GUY》発動、デッキから《しゃりの軍貫》を特殊召喚し、続けて《うにの軍貫》2枚を相手に見せて片方を特殊召喚、もう片方をボトムに送る。」
殺伐とした戦場に、一転してフィールドに高級なネタとシャリが並ぶ。
「レベル5の《うに》の効果で、《しゃり》のレベルを5に変更。オーバーレイ・ネットワークを構築! 現れろ、《超弩級軍貫-うに型二番艦》!」
巨大なウニのトゲを模したレーダーと砲塔を備えた黒光りする戦艦が、ラインを塞ぐ戦車の前に立ちはだかる。
「《うに型二番艦》のエクシーズ召喚時の効果。……営業妨害は困るんでな、《悪夢の鉄檻》の効果を無効にする。」
「なっ……バカな!それではッ!」
「さらにリバースカードオープン。《エクシーズ・ギフト》、効果で2ドローだ。」
アニメ効果だと素材を取り除かずに、エクシーズモンスターが2体あるだけで2ドローできる。完全に後攻捲りにも特化したこのカードが、理想的な形で刺さる。
「今引いた《鬼神の連撃》発動!《うに型二番艦》はこのターン二回攻撃でき、さらに《うにの軍貫》をオーバーレイ・ユニットに持つので直接攻撃できる。」「つまり、この戦艦はあんたのラインを無視して直接攻撃できるってことだ。ファイアーっ!」
男 LP4000 → 1100
漆黒の弾頭が、戦車の装甲を易々と貫く。「ぐわあああっ!?」と悲鳴を上げる男に、俺はトドメの一枚を突きつけた。
「二撃目ぇ!とっとと道を開けてもらうぞ!」
男 LP1100 → 0
崩れ落ちる男を尻目に、俺は素早くDゲイザーを外した。禍々しいオーラが晴れる音が聞こえる。足元に落ちたナンバーズのカードには目もくれず、俺は再び自転車に跨った。
「……よし。これで仕入れには間に合うな」
「うおお!坊ちゃんやるなぁ!」
鮮魚店の息子の歓声を背中で聞き流す。路上には持ち主を失ったナンバーズが力なく転がり、戦車の持ち主だった男は、正気を取り戻すと青い顔をしてどこかへ走り逃げていった。
二日連続のナンバーズ戦。この街のエネルギー反応は、もはや飽和状態。
「……あー、朝からデュエルしたせいかやたらと眠いな。帰ったら絶対二度寝してやる」
俺は欠伸を噛み殺しながら、朝日に輝く市場へとペダルを漕ぎ出した。 この時のエネルギーの残滓が、後にとあるロボットのセンサーを狂わせ、最強の狩人を呼び寄せることになるなんて、考えもせずに。
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市場での仕入れは完璧だった。自転車の荷台に積んだ銀色の保冷ケースには、親父が納得するに違いない、活きのいい魚らが収まっている。ちなみに鮮魚店の息子は別の用事があるらしく、市場の途中で別れた。
「あー、やっと帰れる。」
そう呟きながら、俺、赤司寿は市場裏のコンテナヤードへ続く近道へと自転車を向けた。 だが、その瞬間――。
ーキィィィィィィィン!!ー
耳を突き刺すような高周波の音と共に、世界から「音」と「色」が消えた。
空を飛ぶ鳥が羽ばたきの途中で止まり、風に舞うゴミが空中で静止する。
「えっ?」
前世の記憶が、この現象の意味を即座に理解させる。この世界で時間を止められるブラコン……失礼、エリートは一人しかいない。早朝の霧の中から、静寂を切り裂くような口笛(cv.畠中佑)を吹き、漆黒のコートを翻す男が姿を現した。
「……観測データに間違いアリマセン! 昨夜、そして数分前、この地点で発生した異常なエネルギー反応……その波形と、前方から接近する個体の反応が、物理的に極めて近い特性を示してイマス!」
「……見つけたぞ。イレギュラー」
ナンバーズハンター、天城カイト。奴は鋭い眼光で俺を射抜いてくる。先日のパラダイスマッシャー、そして今さっき粉砕したばかりのチャリオッツ・飛車。短時間に二度も霧散したエネルギーの残滓は、奴の高性能なセンサーに引っかかるには十分すぎたらしい。
しかし、この赤司寿には作戦があった。
「……何の用です? 俺はただの、仕入れ帰りの寿司屋ですよ?」
俺は保冷ケースを握り締め、努めて困惑した市民を演じながら言った。ナンバーズを持っているかどうか以前に、この街で「説明のつかない反応」を出すこと自体が、死神を呼び寄せるフラグになるのを失念していたものの、体よく誤魔化してみせる。
「つい先ほどのことだ。この地点で強力なデュエルの波動を観測した。それも九十九遊馬とは異なる波形の波動をな。そしてそこに居たのは貴様だ。何を知っている。」
「お、俺は何も知りません!本当です!」
「……答えられないならば、そのケースの中身を見せてもらおう」
カイトが威圧的に一歩踏み出す。本来ならここで「これは渡せない!」と拒むのがデュエリストの定石なんだろうが、俺はそんなプライドは持ち合わせていない。
「そ、それならば、どうぞ?」
「……は?」
カイトが拍子抜けしたように足を止めた。俺は自転車の荷台から、何の躊躇もなくデッキケースを持ち上げ、カイトの目の前でパカッと蓋を開けて見せた。
「ほい。どうぞ、好きなだけ見てくれ」
「……貴様、何を」
「だから、どうぞって言ってるんだ。荷台に今朝獲れたばかりの穴子にマグロ、あとは活きのいいコハダがあるんでな。急がないわけにはいかないんだ。あんた、もしかして実は腹減ってるのか?」
俺は現状、デッキが強いだけの一般人だ。ナンバーズなんて物騒なもんは、さっきの現場に全部置いてきた。ケースの中にナンバーズの反応など一ミリも無いはずだ。
「カ、カイト様! 解析シマス! ……ム、ムムム!? ナンバーズの反応ナシ!後ろの荷台にも、アッ!中身は正真正銘、魚類デアリマス! しかも、この穴子の脂の乗り、ただ事ではアリマセン! センサーが『美味しそう』と判定シテシマイマスー!」
(嬉しいけども、勝手に開かないでくれます?)「黙れオービタル! ……貴様、食えない男だな」
カイトの眉間に深い皺が寄る。期待していたナンバーズの反応ではなく、期待はずれもいいところの事実を突きつけられ、完全に毒気を抜かれた形だ。だが、奴はまだ疑いの目を逸らさない。
「……それともその余裕、嘘をついていたか?赤司寿。エネルギー反応の主が貴様であることは疑いようがない。貴様、一体何を隠している。場合によっては……!」
「だから、なんなんですかね!? 俺は何もやっていませんよ! さっきも市場で『今日はいいのが入ったな!』って威勢よく競り落としてきただけだって。そのエネルギー反応とやらは、俺のやる気の現れか何かじゃないんですか?」
俺は心の中で「早く退いてくれー」と毒づきながら、必死に無実の一般人を装い続けた。
だが、カイトの背後から漂うあの限界ギリギリの雰囲気には耐えるのが厳しいものがあった。
しかし、難癖をつけようにもできないことを悟ったのか。
「……ちっ、今は引こう」
カイトは忌々しげに吐き捨て、デュエルディスクを起動しかけていた手を下ろした。 目の前で「いい穴子ですよ、これ」と言わんばかりにケースを差し出してみる。
そのあまりにもデュエリストらしからぬ、生活感に溢れた無欲な態度が、逆にカイトの計算を狂わせる。
「……オービタル。この男の生体反応と、デッキの構造を記録しておけ。これほどの波動を発しながら、ナンバーズを持たぬはずがない」
「カシコマリ! 既に網膜パターンから酢飯の配合比率まで、バッチリ記録完了デアリマス!」
カイトは漆黒のコートを翻し、俺を射抜くような鋭い視線を向けたまま、静かに後退していく。
ルール無用すぎるぞ、この時期のカイトさん。
「赤司寿……記録した。貴様が何者であれ、九十九遊馬のような甘い考えは捨てろ。次に会う時、貴様がナンバーズを隠し持っていると判明すれば……その時は、魂ごと狩らせてもらう」
「……はぁ。だから、店に来れば普通に握りますって。魂は狩らないで、代金だけ払ってくれればいいんで」
俺が力なく答えると、カイトはそれ以上言葉を交わす価値なしと判断したのか、青い炎のような光に包まれ、霧の中に消えていく。
その直後。
――キィィィィィィィン!!――
再び高周波の音が鳴り、世界に「色」と「音」が戻る。
鳥が羽ばたきを再開し、遠くのトラックのエンジン音が耳に届く。
「……ふぅ。命拾いした。これだから限界ギリギリの人は話が通じねえ」
俺は保冷ケースの蓋を閉め、冷や汗を拭いながら自転車に跨りました。 前世の知識のおかげで、奴が「ナンバーズを持っていない相手」に対しては、ひとまず無体な真似をしない(魂を狩るメリットがない)ことは分かっていたが、それでも心臓に悪いことこの上ない。
(……だが、これで目をつけられたのは確定か?)
俺はペダルを強く踏み込み、コンテナヤードを後にする。朝の冷たい空気が、少しだけ熱を持った脳を冷やしてくれる。
(……あー、眠い。帰ったら絶対二度寝だ……いや、下処理が先か。結局寝れなそうな気がするな.まぁ最悪モノレールで寝ればいいか。)
俺は極めて現実的な悩みを抱えながら、朝日が差し込み始めた街を自転車で走り抜け、実家へと急いだ。
ちなみに、カイトさんはその後他人に憑りついた《No.72 ラインモンスター チャリオッツ・飛車》を深夜にしっかり回収したとのこと。