死線をさまよいつつも生き延びたペテルギウスは水門都市『プリステラ』へと襲来する。
pixivからの作者自身による転載となります。
ご了承ください。
作者自身によるpixivからの転載となります。
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「お前、『怠惰』だったな」
虹を纏う剣に貫かれ、大罪司教『怠惰』担当ペテルギウス・ロマネコンティは力なく崩れ落ちる。
憑依に権能にとめちゃくちゃに強力で厄介であった仇敵をスバルは討伐した。この世界で見ても抜群の偉業である。
崩れたペテルギウスから黒い本、『福音書』が零れ落ちる。
「ようやく決着がついたと言いたいところではあるが、すぐに村に戻ろう、スバル」
疲労困憊のスバルをこの『最優の騎士』ユリウス・ユークリウスは休ませちゃあくれない。真剣な形に顔を引き締め、対話鏡片手にスバルに告げる。
「フェリスの尋問で、魔女教徒が気になることを言ったらしい。避難させた方々が危険にさらされるかもしれない」
そんな休んでいられないことを吐いたのだった。スバルは『福音書』をそのままに村へと急行する。
▼△▼△▼△▼△
「-----好きだよ、エミリア」
全身に傷を負ったスバルがエミリアの竜車から発掘した大量の火の魔石を抱え、走り出す。
焼付きそうな熱が腹とパトラッシュの背を焦がしながら、スバルはパトラッシュを走らせる。
「ーーーー!」
火の魔石の入った麻袋を白鯨の亡骸へと押し込み、スバルはパトラッシュを転回。マナの収束を背に感じながら、スバルは半ばパトラッシュにぶら下がりながら爆心地から離れる。
「ーーー!!」
激しい衝動と爆発。そして、耳が壊れる程の炸裂音。
街道に轟き渡るそれが死骸も大樹も飛び越えスバルとパトラッシュを炙る。
しばしの空白。自分の名を呼ぶ声を聞きながらスバルは深い深い眠りへと落ちた。
▼△▼△▼△▼△
「レムって、誰のこと?」
狂った鈴の音がスバルの耳を破滅へと導く。
再開の安堵を吹き飛ばす程の絶望がスバルへと襲いかかった。
▼△▼△▼△▼△
緑の茂る森の中。極光に灼かれた体がわずかに蠢く。
「ワタシ…は……魔女……の…恩…恵、寵……愛…を………」
ザッ
土を踏む音が聞こえる。遠く?否、近くで。すぐ側に、あと少し。
ザッ
黒地に赤のライン。同志の服装。
「この……身は、魂は、全て…魔女の…ためにィ!!!!!!!!!!!!!!!!」
もはや動かない器を捨て、ペテルギウスはその魔女教徒へと乗り移った。
「ワタシは魔女教大罪司教、『怠惰』担当…ペテルギウス・ロマネコンティ…デス!!!!!!!!!!!」
△▼△▼△▼△▼
聖域の試練と屋敷襲撃が終わってから一年。スバルたちは水門都市プリステラに来ていた。
「ーーやあ、どうも皆さん。お騒がせしております。ごめんね。ありがと。ほんの少しだけ、皆さんのお時間を私たちに拝借させてください」
謝罪の言葉に合わない震え、裏返り、ひび割れているどこか独善的な声が目下の民衆の視線を釘付けにしている。
全身を包帯で覆い、露出はギラギラと睥睨する眼のみ。黒いコートに金の鎖を巻き付けた分かりやすい異常で、気狂い。
そして包帯人の左隣に立つどこか既視感のある青髪の男。
「ごめんね。私は魔女教大罪司教『憤怒』担当」
呪いの肩書きを口にして、名乗る。
「ーーシリウス・ロマネコンティと申します。そしてーー」
「魔女教大罪司教『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ、デス!」
男は仇敵の名を堂々と名乗った。
なんで、どうして
戸惑いはとどまるところを知らずに溢れ出す。
奴は、アイツはあそこで俺とユリウスに……
だが、現実は目の前の光景である。倒したと思い込んでいたペテルギウスは生きていて今ここに現れた。
▼△▼△▼△▼△
怖い。一度限り感じたそれが無意識に復唱される。
怖い『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』『怖い』
たった少しの切り傷の痛みでさえ、体を捩じ切られるような痛みと化す。
それは誰に与えたものであってもである。
『感覚の共有』
それが『憤怒』シリウス・ロマネコンティの権能である。
「ん、わかった。うまくできるかわからないけどやってみる」
概要を聞いたエミリアが表情を引き締め、スバルはベアトリスと頷き合う。その直後…
「ーーきた!」
刻限塔から黒ローブの二人が身を乗り出す。
「やはり来ましたネ。魔女の娘が!」
「ええ。全てあなたの読み通り!さすがです!」
乗り出した身を翻らせ、シリウスが舞い降りる。
「臭う、感じる、女の臭い。薄汚くて、忌々しい半魔の臭い!!でも!あなたは私の側にいる!」
シリウスは一切理解の出来ない言葉を撒き散らす。
シリウスが跳躍し、真紅が迸る。
「私は!魔女教大罪司教!『憤怒』担当ッ!」
立ち上る炎の熱波を全身に浴びながら群衆は沸き立つ。
狂気の奔流の中、荒い息を吐きながら、怪人は名乗る。
『シリウス・ロマネコンティ!!……と申します!』
沸き立つ群衆。最大の問題点である感覚の共有の遮断は失敗したと考えて良いだろう。エミリアはスバルに言われたことを頭の中で反芻する。
その上で、氷剣を握り、その細身を前へと飛ばす。
軽々と振られる氷剣が煌めき、シリウスの肩目掛けて放たれる。
炎が剣を穿ち、穿たれた剣を槌に変え、再度振り抜く。
「クソ半魔ぁ!」
「そんなに何度も言わないで。汚く思われちゃう」
近接戦ではエミリアの圧倒的な優勢。だが、此処にはヤツがいる。
「『ウル・ドーナ』!」
捲れ上がる地盤がエミリアを弾く。軽やかに舞い、エミリアは着地。
「ワタシは魔女教大罪司教、『怠惰』担当、ペテルギウス・ロマネコンティ…デス!ようこそおいで下さった、魔女の娘よ!」
「あなた……『ジュース』、なの?」
構えた氷槌を下ろし、エミリアは『怠惰』にそう聞く。
「『ジュース』?それは一体誰のことデスか?ワタシは魔女の寵愛を受けた信徒!で!あるからこそ!魔女の恩寵に!報いるの!デス!!」
「お前、拒絶されてただろうが!!!」
「ワタシは勤勉な信徒であるからして!そのワタシが!拒絶されるなど!!あり得ないのデス!!」
「俺も一緒に、味合わされたんだけどな!!!」
赫炎を纏ったシリウスの鎖が襲いかかってくる。一転して防戦を強いられるエミリア。そして黒い脅威は尚も健在である。
誰にも見えないスバルだけに見える魔手がエミリアに伸びる。
「エミリア!後ろだ!」
スバルの指示に疑うこともせず従い、迫りくる万力を回避。相手が1人ならこれでいい。だが、現実は苦しいことに二人である。
「逃げるな!売女ぁ!!」
『見えざる手』に押し潰されそうなギリギリでシリウスはエミリアへと炎を繰り出す。
シリウスによる炎の横薙ぎをエミリアが躱す。
「きゃっ!」
足が地面から離れない。縫いつけられたようにそこから動かない。
「あぁぁ!あぁぁぁ!!!これぞ『愛』!!!私達だからこそ成し得た『愛』!!!」
倒れるエミリアを嘲り、見下すシリウス。
隙を見たエミリアが氷剣でシリウスのコートを切り裂く。その先に少女が見える。口から血を流し、その身をシリウスの体に縛り付けられていた。
エミリアに『憤怒』が宿る。
「その『憤怒』、お前には勿体ない」
悪辣に笑うシリウスが炎の波でエミリアを吹き飛ばす。が、飛ばない。足を押さえつけられ、衝撃だけがエミリアに炸裂し、浸透する。
「甘美な激情を、虫が抱くな。反吐が出る」
「ーっ!」
「それじゃ、ありがと。ごめんね」
スバルはガクガクと恐怖に支配された足を動かそうと藻掻く。ベアトリスもあれに立ち向かう気力は塗りつぶされてしまっている。
盛る劫火がエミリアに振り下ろされる。
衝撃が炎を妨げ、
「あのさぁ……確かに協力の条件として提示したのは僕だよ?でもさぁ、やるっていっても『限度』があるよね?こんなに痛めつけて顔に傷でも入ったらどうしてくれるんだい?妻なんて顔がすべてなのに。今回は僕だったから良かったけどさぁ、僕以外じゃこの子を助けるなんて無理な話だよ?そこで蹲ってるガキとかさ」
「お前…は……」
「彼女を迎えに来た。危ういところだったね」
「迎え…って……」
「彼女は僕の妻になる女性だ。僕が彼女の手を取るのは当然のことだろ?」
炎の真ん中に立つ白髪の青年。エミリアを抱きかかえる彼は名乗る。
「僕は魔女教大罪司教、『強欲』担当。ーレグルス・コルニアス」
怯えるスバルに青年は言い放つ。
「完璧じゃあないけど、お前らは言うことを守ってくれたからね。お願いされてやってもいいよ?」
「では、ここは一度引いて頂けますか?コルニアス司教」
「ちょうど僕も式の準備をしたいと思っていたんだ。いいじゃないか。そのお願い、聞いてあげるよ」
やる事は終わったとばかりに大罪司教共は言葉を投げる。
まだだ。まだ終わってない。まだ負けてない。
スバルの恋の炎は辺りに迸る炎よりも熱く、盛んに、スバルを灼いている。そうであると自分自身を洗脳する。
「………エミリアに気安く触ってんじゃねぇ………!!」「『シャマク』!!」
背後のベアトリスが高らかに詠唱する。黒い靄がレグルスを覆い、阻害する。
目的はエミリアの奪還、ただそれ一つ。
鞭を使ってレグルスを倒し、エミリアを取り戻す。
「『見えざる手』!」
シャマクよりも尚くらい漆黒が手の形を成してスバルとベアトリスを掴み持ち上げる。体の軋む音を聞きながら靄が晴れていくのを見る。
「離してやれ、ペテルギウス」
「ケハッ…」
「スバル……」
肺が潰れるような圧迫感からようやっとスバルとベアトリスが解放される。だが残念なことにすぐに戦闘ができるような状態ではない。
「思ったんだけどさ。せっかく式を挙げるのに花嫁側の人が1人も居ないってのも寂しいよね?だから生かしておいてやるよ。僕と彼女、『79番』の結婚式。来てくれよ?」
「誰が、参列するかよ」
「僕の純粋な好意を君は無碍にしたのかい?僕という存在からの小さな祝福を君は考えもせずに捨てた!それは僕という存在を軽視しているということだ!つまり僕の権利の侵害だ!」
レグルスが指を弾き、スバルの足が抉れる。肉もろとも骨までもを消し飛ばし、血溜まりを作る。
「ちゃんと参列できるように生かしてあげたんだから感謝の一つくらい言ってくれよ?なにせ命を取らなかったんだからね。それくらいするのが筋ってものだよ」
沈む意識の中、レグルスはスバルにそう告げた。
△▼△▼△▼△▼
「あ~あ~、聞こえてやがりますかね?アタクシは魔女教大罪司教、『色欲』担当。カペラ・エメラダ・ルグニカちゃん様で~す!!!きゃははははっ! 敬って、崇めて、跪いて懇願して糞尿垂らして惨めったらしく泣き喚け、クズ肉共! きゃははははっ!」
耳に障る高笑いが神器を通して街全体に拡散される。
「ベアトリスちゃんの言ったことが本当にゃらこれで大罪司教が四人……」
足を『強欲』に砕かれたスバルの手当てをしながらフェリスは放送に耳にした。ベアトリスはマナを使いすぎたことで今は寝込んでしまっている。
状況に希望は見出だせない。『色欲』が『エメラダ・ルグニカ』という故人の名前を名乗っているのも気になるが、考えたところで分かるはずもない。
△▼△▼△▼△▼
「あれぇ?キミは、キミってば、キミこそは、キミだってこそは!!!!!ボク達の『英雄』くんじゃないか!!!!!!」
「は?何言って……」
占領された都市庁舎奪還のため、スバル、クルシュ、ユリウスがむかう最中、色黒の矮躯のソレは現れた。
「ボク達は魔女教大罪司教『暴食』担当、ライ・バテンカイトス!キミだろ?キミなんだろ?ボク達の『英雄』はさぁ!!!ロズワール・L・メイザース辺境伯が使用人筆頭。いえ、今はただ愛しい人、いずれ英雄となる我が最愛の人、ナツキ・スバルの介添人、『レム』………!!!!」
ギザギザの歯と異様に長い舌を垂らしながらソレは悪辣に笑う。
「!『暴食』っっ!!!!」
「ボク達のことを知ってくれているのかい?相思相愛じゃないか!嬉しいね、嬉しいさ、嬉しいとも、嬉しいよ、嬉しいだろうからこそ!!暴飲!暴食!!早速……イタダキマス!!!!」
「スバル!」
跳躍したライの剣をユリウスが受ける。
「いい、いいね、いいよ、いいかも、いいだろうさ、いいだろうけど!!!ボク達『英雄』くんに専念したいんだよね!絶品を目の前に失礼はダメだからさァ!!!後で、ちゃんと食べてあげるから!『美食家』の名に掛けて、約束するよォ!」
「ふざけたことを!『アル・クラウゼリア』!」
煌めく虹の斬撃をライは空気を足場にしたように宙を舞い、華麗に躱す。
「『跳躍者』……!」
「へェ!おにいさんこの力知ってるんだねェ!!」
剣戟で生じた隙にライは軽快に足を振り抜く。
「はぁ!!」
繰り出される蹴撃に風刃が迫る。
「鈍いなぁ!」
身を翻し、お返しとばかりにライもまた風の刃を放つ。
交差した風が衝突し、衝撃の風が吹き荒ぶ。白煙が辺りを覆い、視界を妨害。
差し込む光の先、スバルとクルシュは姿を消した。
「あれェ?何処に行ったのかなァ?『英雄』くんはさぁ!」
「貴様をスバルの元には行かせない」
「メインディッシュを見せてからお預けなんてひどいじゃァないか!そんなことしないでくれよォ!!」
『暴食』の言を無視し、ユリウスは口にする。
「王国騎士団所属、ユリウス・ユークリウス」
「『美食家』、ライ・バテンカイトス!」
不気味な舌なめずりがうるさかった。
△▼△▼△▼△▼
多すぎるくらいの犠牲を生みながらスバルは都市庁舎にいる。クルシュと二人で乗り込んだ部屋には『色欲』が待ち伏せており、その際の傷が原因でクルシュはもう戦えない。
街は濁流に飲まれかけたが幸いなのかそうはならなかった。
とは言え現状を敗北と呼ばずになんと言うのか。
そして今は、魔女教への反撃作戦会議の真っ最中である。
「ってことで、見事なまでに大罪司教共が揃い踏みだ。で、誰がどの大罪司教に当たるのかなんだが……。まず、『怠惰』は俺とユリウスだ。俺達以外はあいつの『権能』のせいで勝負にすらならねぇ」
「スバル、僕でもかい?」
「お前もいけると思うけど、ラインハルトは『強欲』に当たってほしい。あいつの『無敵』の権能がある以上、対等にやりあえる奴が当たらないといけねぇ」
「君は、それでいいのかい?」
スバルはうつむく。本当はスバルが『強欲』と当たってこの手でエミリアを取り戻したい。他の誰でもないこの手でだ。
「そうするしかねぇよ。あいつの『手』が見えるのはなんでかわかんねぇけど俺だけだからな」
「……分かった。エミリア様は僕が必ず助け出そう」
「頼むぜ、ラインハルト」
「『憤怒』は……」
「既に終わった話を蒸し返すか、凡愚」
「確認取ろうとしただけだよ………」
「『色欲』はヴィルヘルムさんにお願いします」
「主君の仇は私の手で晴らさせて頂く」
そう発言するヴィルヘルムにラインハルトは不安の眼を向ける。
「っちゅーことは『暴食』はワイとガーフィールやな?」
「あぁ、そうだ。ガーフィール、頼むぜ」
「大将に任せられッたんだ!絶対勝ってやらぁ!!」
『怠惰』攻略班。スバル、ユリウス
『強欲』攻略班。ラインハルト
『憤怒』攻略班。プリシラ、アル、リリアナ
『色欲』攻略班。ヴィルヘルム
『暴食』攻略班。リカード、ガーフィール
居残り組がアナスタシアを筆頭に非戦闘員の皆々様。
反撃作戦、これより開始─
△▼△▼△▼△▼
「やることは一年前と同じだ。早く片付けて、他の援護に行かなきゃならねぇ」
「そうだね。だが、スバル、以前と同じなら奴には別の体が……」
「あるかもしれねぇけど、見た目じゃわかんねぇ。取り敢えず分かってる奴からだ」
「ようこそ!愛の信徒!私は魔女教大罪司教、『怠惰』担当。ペテルギウス・ロマネコンティ、デス!!」
「行くぞ、ユリウス!」
「あぁ!以前と同じように今度こそ葬ってくれる!」
~~~~~~
「……取り敢えず一人目か。前と同じならあと九人か?」
うつ伏せになり絶命したペテルギウス。だが、これで終わりでないだろうことは分かっている。最悪なのはペテルギウスが他の大罪司教と一緒になっていること。それくらいには奴の『見えざる手』は脅威足りうるのだ。
「スバル!!」
一段落で息をつきたい頃合い、スバルとユリウスに向かって猛進する一人の大男。それが正常でないのは明らかである。
「二人目か!!」
身構える二人。
猛進する男に紅の一閃が走る。
「戦いの最中に油断とは、凡愚にも劣るぞ」
「プリシラ!『憤怒』は?!」
「妾が対したは『憤怒』ではない。『暴食』じゃ。奴らも悪知恵が回る」
「ってことは」
「予期せぬ敵と戦っておる者が大勢いるじゃろうな」
スバルの作戦は各大罪司教に対して最適を当ててこそ成り立つ。それが破綻した今、作戦は瓦解している。
「プリシラ!早くみんなの所に」
「妾に指図するでない。無論妾とてそのつもりじゃ。阿呆共の手のひらの上など虫唾が走る」
△▼△▼△▼△▼
「オレ達の餌場にようこそ!歓迎するよォ!!お兄さん」
「あぁもう!なんで毎回毎回こういう奴と出会わないといけないんですかねぇ!!!」
『叡智の書』を回収するため、街を駆けるオットーと野暮用で作戦会議を欠席していたフェルトの前に髪を後ろで編んだ人物が現れる。
「オレ達は魔女教大罪司教、『暴食』担当。ロイ・アルファルド!」
「二人目の……『暴食』……!」
「へェ!ライのことを知っているんだァ!取り敢えず皆、イタダキマス!!」
△▼△▼△▼△▼
蹴られた木の扉が直撃した。
不機嫌を隠さずに降りかかった木片を取り除く。
「神聖な結婚式に横紙破りなんていい度胸じゃないか。招待客に男の名前があった記憶はないんだけど、どこの誰でどんなお祝いを持ってきたのかな? なぁ?」
「『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア」
「ラインハルト!」
「ご無事なようで安心しました、エミリア様」
「招かれざる招待客の君には悪いけど、祝いの席はこれから悼みの席に代わる。招待客から弔問客に鞍替えする心の準備は……ああ、いらないよね。どうせすぐ、君も送る側から送られる側になるんだからさ。『剣聖』だっけ?剣を振るしか能のない奴のことでしょ?権威だけで勝った気になるってどんな幸せな頭しているの?滑稽すぎて笑いも起きないよ。積み重ねた歴史とか、血統とか、古臭い伝統主義の悪しき習俗だよね。大抵、新しい風に押し流されるさ。それ、実演したいわけ?」
「剣を振るしか能がない、言い得て妙だね。実際、僕に期待されている大半の役目はそれだ。ただ、一つだけ問題がある。この『龍剣レイド』はふさわしい敵じゃないと抜けないんだ。剣としては抜くまでもない、とのことらしい」
「ーーッ!!」
屈辱を押し出したような表情を見せ、レグルスは『剣聖』と相対す。
△▼△▼△▼△▼
「あれぇ?この間のネコちゃんじゃねーですか!一緒にいた子猫ちゃんはどーしましたぁ?あ!水に飲まれて溺れちまいましたか!!きゃははっ!しょーがねーです!ネコですから!!だから次はわんにゃんコンビですか!!!浮気性ですねぇ!!きゃははっ!!!」
「ちょーまて、なんでここに『色欲』がおる?ここにおるんは『暴食』のはずや」
「あ?アタクシたちだって移動の一つや二つしやがりますよ?そんなこともグズグズのクズ肉には分からねーんですかぁ?」
「ってことは、他のッ奴らも作戦と違う奴らとッ当たってるってことか?ならッかなりまずいぜ」
「せやけど、ここで背中見せるわけにもいかへん。ワイらで『色欲』倒すで!」
「もちッろんだ!!大将のッ借りは返させてッ貰うぜ!」
「『鉄の牙』団長、リカード・ウェルキン」
「『聖域の盾』ガーフィール・ティンゼル」
「魔女教大罪司教、『色欲』担当、カペラ・エメラダ・ルグニカ」
△▼△▼△▼△▼
「なんと……」
老体に対するは多腕の巨体、死んだはずのヴォラキアの将軍、クルガン。そして、
「テレシア……」
被さった服のせいで顔は分からない。が、あれは間違いなくテレシアである。
「スバル殿の策は外れたか。が、このヴィルヘルム、ここで敗れる訳にはいかぬ。『剣鬼』ヴィルヘルム・トリアス」
死を愚弄する冒涜の術を前にヴィルヘルムは剣を振るう。
△▼△▼△▼△▼
「こんにちは。まぁ!素晴らしい愛ですね。拍手!!」
抜け殻の都市庁舎に怪人が舞い降りる。
「アンタ……『憤怒』……!」
「あらあら、知ってくださっているのですか?恥ずかしいですね。改めまして、魔女教大罪司教、『憤怒』担当。シリウス・ロマネコンティ……と申します。素晴らしい愛を見せてくれてありがとう。では、さようなら」
「ちょっと油断しすぎとちゃう?」
「は?」
「初めましてやね、アナスタシア・ホーシン言います」
「お名前を教えて下さってありがと。気づかなくてごめんね?でも大丈夫。ちゃんと一緒に送ってあげるから!」
「だから、油断しすぎ言ったやろ?自分信じるんもええけど、ちょっとくらい人の言葉に耳貸した方がええよ?」
「『ジワルド』」
アナスタシアが放った白い光がシリウスの足元を射抜き、その体を落下させる。
「あのクソ女!焼いてやる!私の炎で!絶対に!!」
「よりにもよってアンタかよ。オレ、アンタみたいなタイプが一番苦手なんだよ」
「!!あらそうなんですか思ったことを言ってくれてありがと、ごめんね。あなたの名前をお伺いしても?」
「あ?オレの名前か?名乗る名なんざねぇよ。アルとでも呼んでくれや」
「私、あのクソ女のところにいかないといけないんです。ですから、そこを退いて頂けますか?」
「そいつぁ、飲めねぇ要求だ。オレの仕事はアンタを抑えとくことだからよ」
提げた偃月刀をシリウスに向ける。
「素晴らしい主従愛!私、感動しました!」
「そうかい。お気に召したんなら大人しくしてくれねぇかな」
「領域展開。マトリクス再定義」
△▼△▼△▼△▼
「あれェ?お姉さん。ボク達の『英雄』くんが何してるか、知らない?」
「貴様の言う『英雄』など知らぬ。そやつがいたとて妾には敵わぬがな」
「そっかァ、残念だなァ。でも、お姉さんもとっても美味しそうだねェ。『美食家』の舌が唸るよォ!」
「貴様らの都合など知ったことか。不愉快じゃ、疾く失せよ」
「つれないなぁ、そんなひどいこと言わないでおくれよォ!じゃァ!イタダキマス!!!」
△▼△▼△▼△▼
突如現れた『暴食』、ロイによって戦力を削られ、現在戦うことのできるのはオットー、フェルト、ガストン、ダイナス。途中合流のベアトリス。そして、出自不明の反抗者たちである。
「お前、どれだけの人間を中にため込んでいるのよ」
「食事は量だよォ。どんなに美味しい料理でもちっぽけな量じゃァ、オレ達の空腹は満たされない。空腹を満たすにはたっくさん喰わなきゃ。ライは質が大事とか言ってるけど理解できないよォ」
悍ましさに身の毛がよだつ。存在していいものではない。人間の生を侮辱するような極悪である。
「アル・ミーニャ!」
声だけが空気を揺らし、生じた隙にガストンとダイナスがロイを撃つ。
が、年若い熟達者の前に軽くいなされその手が二人を突き飛ばす。
「ガストン、ダイナス」
ロイが二人の名前を呼び、声と共に手のひらを舐る。
「イタダキマス!」
「おい!ガストン!」
「お嬢ちゃん、誰だ?」
「ーーっの、野郎!」
怒りに任せ、フェルトが手にした『神器』でロイに殴りかかる。
「ほらほらァ!惜しい惜しい!」
慣れない長物を飄々と避け続け、ロイが急接近。フェルトの細い体躯を手でなぞり、
「フェルトちゃん、イタダキマ……!??」
瞠目し吐しゃ物をまき散らすロイ。
「あぁ? なんだ、てめー。どんだけ失礼なんだ、コイツ」
「げほっ、おえ……!」
明白な隙にベアトリスがフェルトの『神器』を起動させる。
「ヒッ!」
「ラインハルトにも通用する威力、味わってみろやぁ!!!」
『神器』の先にマナの光が集約し、ロイへ向けて放たれる。
「いっけーーっ!!」
光から逃れようとロイは宙を蹴る。が、その程度では光からは逃れえない。
「クソっ、こんな……こんなことで、オレ達が」
「ごちゃごちゃうるさい。さっさと日食を切ればいい」
直撃の瞬間、別の冷えた声がロイを塗りつぶす。
「やれやれ、まったく。本当に出来の悪い兄弟を持つと苦労する」
「どういう、ことかしら」
矮躯目掛けて放たれ、命中したはずの光の先から筋骨隆々の大男が姿を見せる。
「あれは『暴食』……?」
「いい、いいわ、いいわね、いいわよ、いいじゃない、いいじゃないのさ、いいだろうからこそ……私たちも、あたしたちも、『食す』価値をあなたに見る」
大男が萎み、血が弾ける。そして現れたのはロイではない。黄色の髪をなびかせ、少女は嗤う。
「私たちは魔女教大罪司教、『暴食』担当、ルイ・アルネブ」
△▼△▼△▼△▼
「いい加減気づけよ!威力の問題じゃないってさぁ!!!」
純白の式場を中心にあちこちで破壊の轟音が響き渡る。レグルスからの攻撃はラインハルトにとって準備運動にもなりはしない。が決定打がない。無敵のカラクリを暴かない限り、勝利は得られない。
ただ暴力的な威力だけが道を、家を、街を穿ってゆく。
△▼△▼△▼△▼
「きゃは!きゃははっ!!ほんっとどれだけやっても学習しないゴミみたいな脳みそしてやがりますね!!でも?それだからこそ?愛すべき価値があるってな訳です!この慈悲深~いアタクシは恋多き乙女ですから!キラッ!」
「どうすりゃあいいッんだよ、クソっ!」
頭をかち割っても、胴体を貫いても、『色欲』は果てない。無尽蔵に再生し、リカードとガーフィールをじわじわと追い詰める。
「でもぉ、いかに慈悲深~いアタクシだって愛してくださらない一人のためにまだ見ぬたっくさんの愛を見ないことにするのは薄情ってなもんじゃねーですか。だから、さっさと死ね!!このクズ肉どもが!!」
跳躍する二人に対し、獅子の顔を伸ばす。迫る獅子を剣で薙ぎ、脅威を排除。
「おっと!残念でしたぁ!!」
リカードの首目掛けて毒蛇が這い、凶牙が突き刺さる。
「リカード!!」
「あらあらかわいいこねこちゃ~ん?頭上がお留守ですよぉ?きゃははっ!!!」
跳躍、否、鷲の羽を得て飛翔したカペラが竜の尾をガーフィールに叩きつける。重力に従い、ガーフィールが落下し、白煙が立ち昇る。
「クッソ…がぁ」
地を踏みしめ、起き上がったガーフィールが折れた歯を吐き出す。
「散々、アタクシのことバケモノ扱いしてたクセにテメーも十分バケモノじゃねーですか、あぁそういうことですか。なら、こ~んなのはどうですぅ?!!」
地面を踏み砕いたカペラの足が伸びる。
「バァ!!」
ガーフィールの足元を割って現れた鰐口。凶悪な牙がガーフィールの足を嚙み砕く。
「ほらほらぁ!!再生できるもんならしてみろってんですよ!!!」
血潮を巻き上げながら足が砕かれていく。
「がぁああ……!!!」
「離さんかい、コラァ!!」
血を滴らせ、リカードがガーフィールに嚙みつく鰐を両断する。
「あらら、逃げられちゃったじゃねーですか。あーあ、どうしてやりましょうかね?」
「ガーフィール!しっかりせい!!」
「わんにゃん仲良く傷の舐めあいですかぁ?きゃははっ!嘆かわしいですねぇ!!みじめったらしくて、無様で、ど~しようもなく脳カラじゃねーですか!きゃははっ!!!でもぉ、もうアタクシ飽きちゃったので、帰りま~す!!!街の皆さんと仲良く遊ばれてくださ~い!!!きゃははっ!!」
カペラの声と共に全身に鋭利な棘を生やした四足の亜獣が現れる。
獲物に群がるハイエナのように亜獣が二人を囲んでいく。
△▼△▼△▼△▼
「クッ……」
『闘神』八つ腕のクルガンと『剣聖』テレシア・ヴァン・アストレアを前にヴィルヘルムは片膝を地に着けた。付いた傷から血がとめどなく流れ、体力を奪っていく。
この二人の顕現がかつての亜人戦争で使用された術によるものなのかそうでないのかは分からない。だが、そんなことはどうでもいい。テレシアのクルガンの人間の死を侮辱する『何か』に対し、ヴィルヘルムは鬼となりその剣を振るう。
△▼△▼△▼△▼
「おぉぉおおおおおお!!!」
戦場を縦横無尽に駆け巡る鎖と炎。そのすべてをアルは紙一重に躱していく。あるかも分からない間隙に刀を、魔法を放ち、それを繰り返す。
「クソっ!これもダメかよ!」
「色んな催しをありがと、ごめんね?」
「オレぁあんまし強くねぇから単純に強いやつは苦手なんだよ!」
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「おいおいおい!なんかすげぇことになってんだが?!」
ここが街であったことを忘れそうになるほどのクレーター。その全てがそのあたりを跳びまわっている常外二人によるものなのは容易に想像できる。
「まぁ、ラインハルトがああしてるってことは、エミリアが『強欲』の餌食になるようなことはないだろ」
ラインハルトは時間稼ぎという役目をこれ以上ないほどに達成している。無敵の『権能』を破るのはスバルの役目だ。
「スバル、あれは……」
『ネクト』で繋がったユリウスが式場を見て呟く。内から生える黒々としたなにか。それは遥か高空までそびえている。
「ようこそお越しくださいました。愛の信徒よ。私は魔女教大罪司教、『怠惰』担当。ペテルギウス・ロマネコンティ……デス!!!コルニアス司教のお陰で『魔女の娘』を頂くことができました。この地に連れて来て下さったアナタにも深く感謝を」
にんまりと嗤ったペテルギウスと視線が交差する。
血管がはち切れそうな怒りを覚えながらスバルはペテルギウスを見据える。
「ユリウス、やるぞ」
「あぁ!『アル・クラウ……』」
「いいのですか?そんなことをして?」
「あ?」
「魔女の娘とコルニアス司教の奥方は私の手に乗り遥か空にいます。私を倒せば彼女たちは漏れなく落下死。あぁ!なんと!なんと悲惨で愉快なことでしょう!!脳が!脳が震えるぅぅ!!!」
「人質ってことかよ」
「この戦いが終わればコルニアス司教の奥方は全員解放致します。さぁ、どうしますか?」
「魔女教の言うことなど!」
「ほう、ではアナタ方は何の罪もないコルニアス司教の奥方を殺すのデスか?それとも……何かお考えがあるので?」
目を見開き、ペテルギウスは笑う。
「ユリウス、助けることができるか?」
「数人ならできるだろう。が、人数によっては……」
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「どうして?あなたたちは怖くないの?」
「表情を変えるのは旦那様に禁止されていますので」
百八十四番と呼ばれていた女性がそう答える。
謎の力でエミリアを始め、レグルスの妻たちは宙に浮かんでいる。そんな理解不能の中妻たちは表情を変えない。飛竜に乗ったことも、まして飛行魔法でもなければこんな景色は見られない。妙な圧迫感の中、街の輝きが消えていきプリステラが遠ざかる。
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建物が壊れた。道が破壊された。人が大勢死んだ。
大罪司教が被害と悲劇の末に街を出て数時間。都市庁舎へと全員が帰ってくることはなかった。
「エミリア、ガーフィール、リカードさん、ヴィルヘルムさんがいない」
「探してんけどな、みんな見つからんかった」
「クソっ!!!」
スバルが拳を地に叩きつける。
生き残ったのは
エミリア陣営がスバル、オットー、ベアトリス。
クルシュ陣営がクルシュ、フェリス。
アナスタシア陣営がアナスタシア、ユリウス、ミミ、ティビー、ヘータロー。
プリシラ陣営がプリシラ、アル、シュルト、ハインケル。
フェルト陣営がフェルト、ラインハルト、ガストン、ラチンス、カンバリー。
全員が大小の傷を負っている。対して魔女教はほぼ無傷。
完敗である。
ドサッ
座っていたプリシラが倒れる。受け身を取ることもなく、地に伏せる。
「姫さん!!!」
アルが駆け寄り、肩を揺らす。
「あ?なんだ、これ」
プリシラがみるみる縮んでいく。
「おい、待て。意味わかんねぇんだが?どういう……」
プリシラのいた位置にライが気絶していた。
原作者様が「五章にペテルギウスがいたら無理ゲー」(超意訳)とおっしゃっていたのでペテルギウスを生き残らせる経過を考えてみました。
設定資料集はpixivの方に上がっております。興味があればどうぞ。
以下、余談
大罪司教って全員、文のカロリーが高いんですが、個人的には
一位 シリウス
そもそも会話してくれない
二位 レグルス
長い!
三位 カペラ
情緒壊れすぎ
の順に書きにくいですね。書きにくそうに見える『暴食』は意外と書きやすいです。人間側を入れるなら個人的にはプリシラがかなり難しいですね。精進していきたいなぁ。