桐谷遥に外堀を埋められたい 作:ハルカチャンカワイイ!
私の二人いる幼馴染のうち、一人はバカだ。
目の前で風邪にうなされている一つ年上の男性を見ながらそんなことを考える。
件の幼馴染が風邪をひいたと聞いてお見舞いに来てみれば……
「何か欲しいものとかある?」
「…………ス……の……くに…」
「ゆっくりでいいよ。聞かせて」
「ナース服の……日野森雫に…看病されたい…」
こんなことを言い始める。これがバカでなければなんと言えばいいのだろうか。
「はぁ…」
「いった!病人ぶつなよ!」
だけど、その一言が胸の中のなにかに火を付けたのは確かだった。
杏は…大丈夫。彼のことを恋愛的に見ている素振りは一切ない。むしろあれは年下の弟を見る目だ。
高校の交友関係は…恐らく問題なし。それとなく本人と杏に聞いてみたりしても、なんだか癖の強い人たちと関わっているせいで友達はいるものの恋人という程仲の深い相手はいないらしい。
となると問題は雫……そういえばCheerful*Daysの舞台は何度か見に行ったことがあると言っていた。あくまでもファンと推しの関係らしいが手を打っておくことに越したことはない。
アイドルとしてあってはならないこの感情を今まではずっと隠してきた。それももう限界に近い。
「でもさ……椛が悪いんだよ。私がいるのに推してるからって雫のことばっかり」
バレないくらいになら……うん、きっと大丈夫。
「誰にも渡さないから」
彼の家を出たあとに呟いたその言葉は夜の闇に消えていった。
◆
なんだか最近幼馴染の距離が近い件。
幼馴染の名前は『桐谷 遥』、国民的アイドルグループ『ASRUN』でセンターを張ってた青髪碧眼の美少女だ。これだけ聞けば羨ましがられると思うが、こちらは毎分毎秒ファンに見つかって背中を刺されないか気を付ける羽目になる。
日課である朝のランニングをすれば
「椛、おはよう。最近は朝になると少し肌寒いね」
知り合いと昼食を食べようとすれば
『これ、私の今日のお弁当だよ。椛は何食べてる?』
学校で部活を終えてメンバーと共に帰路につき、ちょうど一人になるタイミングで
「椛、偶然だね。今帰り?」
「元」がつくとはいえ国民的アイドルグループのセンターが男と二人きりになっていいの?割と真面目にバレたらファンに刺されそうで怖いんだけど。
「そっちこそ。モモジャンの練習はいいのか?」
さりげなく腕がくっつきそうなくらいの距離に近付いてきたので一歩だけ横にズレる。すると、ムッとした顔でこちらを見つめてきた。
「なんで逃げるの」
「逆に聞くけどなんでくっつくんだよ」
「いやだった?」
うーん、顔がいいから上目遣いされると普通に効く。やっぱり伊達に国民的アイドルやってないわ。
「嫌じゃないけど……ほら、部活終わったあとだから汗とか」
「全然臭ってないよ?」
「そうじゃなくて!」
「突然だけど今度ワンマンライブやるんだ」
「本当に突然だな」
まあ、そのくらい知ってるが。チケットも応募したけど外れて部活の仲間に心配されるくらいには落ち込んだ。というかメンバーの人気と会場のキャパシティが圧倒的に噛み合ってない。……いや、諸々の手配なんかが必要だから事務所に所属してない彼女たちにそんなことを言うのはダメなんだろうけど……!
「はい」
「……なにこれ?」
「チケットだよ。ワンマンの」
「一番後ろの?」
「違うよ。関係者席のチケット」
「関係者席……関係者席!?」
「杏にはもう渡しておいたから。もしよかったら見に来てね」
一歩だけ俺の前に踏み出した遥は、こちらに振り返りながらウインクをした後に手を振って走り出した。
今日も今日とて年下の女の子に手玉に取られる情けない毎日を送っております。