アンドロイド「人間とかいう戦場のお荷物」   作:らっきー(16代目)

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戦闘ログ【ダゴン討伐戦】part2

 戦場で不測の事態なんて言い訳は通用しない。例えば敵側に想定していない援軍が来る。例えば味方側の連携が上手くいかず攻撃に失敗する。など。事前の打ち合わせ通りに全てが上手く嚙み合う方が稀だと言っていいだろう。

 

 だからこそ、不測の事態程度で動じるようでは兵士として役に立たない。高度な柔軟性をもって臨機応変に対処する、というのもあながち的外れな意見というわけでもないのだ。とはいえ──

 

「誰だよ距離取ってれば安全って言った奴!」

 

「ハッハッハァ! 生きて帰りたきゃ黙って斬り殺しな!」

 

 動じて隙を晒すような人間はもう淘汰されていると言った方が正確かもしれない。

 

「武器握れる奴は前に出ろ! 後ろを撃たせたら一生の恥だぞ!」

 

「砲兵を守れ! 俺達の命よりよっぽど役に立つ!」

 

 水を圧縮して打ち出すウォーターカッター。原理としては単純だが、それに対処がしやすいかというのは別の話だ。容易く装甲ごと切り裂くそれが無尽蔵な海水から作られる。対処法など打ち手を殺す以外になかった。

 

 とはいえこのままではジリ貧。必要とされているのは戦局を大きく変えられるような強烈な一撃。そう、例えば彼女達のような。

 

 全員退避。それが意味するところを理解できないほど愚鈍な者は流石に居ない。強いて言うなら新兵達だが、彼らにも事前に絶対に守ることとしてそれは伝えられている。

 

 それは、戦局を一手で打開する決戦兵器。

 

「月光──ッ!!」

 

 戦場において誰よりも頼もしい彼女の声と共に極光が走る。インスマスを薙ぎ払って余りあるそのエネルギーは海水を蒸発させ、水蒸気爆発によって生き残りも焼き払う。これで少なくとも一息入れることが──

 

 否。消えた端から新たな怪物が湧いてくる。まさしく海の水の如く無尽蔵に湧くソレは絶望を抱くのには十分すぎる物である。しかし。

 

「抜刀! 突撃!!」

 

 その程度で折れる繊細な心は持ち合わせていない。100産み出されるのなら101殺せばいいのだという最高に頭のいい思考の下に敵へと突っ込む。

 

 この場の誰も知りえぬことではあったのだが、事実これが最適解ではあったのだ。遠距離からの消耗戦になればいずれ人類側が先に音を上げることになったであろう。勝ち筋はただ一つ、手下達だけでは勝てないと思わせ、親玉を戦場に引きずり出すこと。

 

 ソレは巨大な高波として現れた。それが引き起こした津波はそれだけで人類の戦闘部隊を壊滅させるに十分すぎる物であったが、ギリギリのところで斬り伏せられた。

 

 水が吹き飛ばされ、姿を見せたそれを一言で形容するなら、醜悪なタコである。そんな一言で片づけるには巨大すぎるという問題はあったが。

 

 人類から海を奪った怪物。ダゴンが直々に人類を滅ぼそうとしているのだ。

 

 

 

 

 

「いやー遠くから見るとデカさがよく分かる。クトゥグアよりデカいんじゃないですか?」

 

「言ってる場合か?」

 

「まあ今撃ったらブレード組巻き込んじまいますし。撤退の援護が精々でしょう」

 

「それをしろと言ってるんだが」

 

「やってますって。ただ、トンチキアンドロイドと違ってエネルギー切れを気にしなきゃいけないんで」

 

 クトゥグアは小さな山ほどのサイズだった。それに対してダゴンはと言えば……海中から姿を出しているせいでその全容が分からない。あれが海に浮かんでいるのか、それとも頭部だけを覗かせているのかも分からないのだから。まあ触腕が生えている物を頭部と形容していいのかは微妙なところだが、怪物に既存の生物の常識を当てはめても仕方がないだろう。

 

「……倒せると思うか?」

 

「少なくとも俺達じゃ無理じゃないっすか? ラジエル隊長のガトリングでも小さすぎるでしょ、あれじゃ」

 

「悔しいがその通りだな」

 

 必要とされているのはガトリングのような手数ではなく強烈な一撃。それは例えば既に放たれた『月光』であり、クトゥグアに止めを刺した『グングニル』である。

 

 ……アマテラスは既に一撃放てば動けなくなる『月光』を2度撃っている。『グングニル』は相手の内部で放たなければ指向性を持たせられない……つまりは味方の被害の方が大きくなる。オーディンがクトゥグアを討ち果たせたのは周りを一切気にする必要がなく、尚且つ注意が他に惹かれているという限定的なあの状況が大きかった。

 

 ならば打つ手は無いのか。答えは否。

 

「はぁい、ラズ。豆鉄砲で頑張ってる?」

 

「……ミカエル。何の用だ?」

 

 米国製ワンオフアンドロイド、ミカエル。少しでもエネルギーを温存させる為にと後方に下がることを強要されていた彼女が前線へと降り立った。

 

「あらご挨拶。とはいえ無駄話をしている暇は無いわね。そこの人間、貸してくれない?」

 

「俺!?」

 

 俺、また何かやっちまいました? そんな表情を浮かべながら、助けを求めるようにラジエルの顔を見やる副隊長。

 

「何故だ? 人間の1人2人で変わるような戦況ではないだろう」

 

「普通ならそうね。でも私の武装は1人で戦況を変える為のものだもの。ただ……その結果が表皮を焼くだけ、なんてなったら意味が無いでしょう?」

 

「コイツの直感に任せる気か?」

 

「全容が見えてない状態での私達の演算よりは可能性があると思わない?」

 

「……それなら、まだ温存するべきだろう。情報を少しでも集めてから──」

 

「……いや、隊長。多分今が最後のチャンスです。一撃で吹き飛ばすか、こっちが磨り潰されるか。多分、もうすぐ手遅れになる」

 

「あら、早速直感?」

 

「いえ、考えるまでもなくあの波をもう一度起こされれば終わりでしょう?」

 

「ちゃんと戦況を見てるじゃない。やっぱり頼れそうね」

 

 過去の人類には風を感じただけで天気を予言出来る人間が居たという。

 

 だが勿論魔術的な素養があっただとか、超能力で未来を予知しただとかそんな摩訶不思議な能力ではない。

 

 肌で感じる湿度。今の気温。風の流れ。それから過去の統計。そういったものを鋭敏に受け止め、無意識のうちに脳内で膨大な計算をする。それにより出力されるのが、風を感じただけでなんとなく天気が分かる、という結果。

 

 必要な情報だけを選択していく機械では未だに辿り着けていない境地。

 

「俺、行ってきますわ隊長。遺書は引き出しの2番目……を下の小さな穴から隠し段を引き上げて開けたところにある鍵を──」

 

「遺書はすぐ分かるところに置け馬鹿」

 

「そもそも私の傍にいるのに死ぬわけないじゃない。死ぬとしたら私が壊れた後。負けた後の事なんて考える必要ある?」

 

「……じゃあ隊長。ちょっと人類を勝たせに行ってくるんで。帰ってきたらミカちゃんの軍服のコスプレで一発お願いします」

 

「お前、恥とか遠慮とか知らないのか!?」

 

「あら、私は構わないけど。なんならこの服貸してあげましょうか?」

 

 

 

 

 

 海の怪物……インスマスは海上に於いてウォーターカッターという攻撃手段を手に入れた。ならばその親玉であるダゴンの攻撃手段とは? 勿論その身体自体もある。巨大な触腕は一当てで容易く命を奪うだろう。されど問題なのは……

 

「うわ……ハイドロポンプ……いや、ハイドロカノン……?」

 

「意外と余裕あるのね貴方」

 

「まあ、あそこで撃たれる側じゃないんでなんとか」

 

 インスマスが撃ち出すウォーターカッターを数十倍に太くしたようなもの。それが絶え間なく襲いかかっている。

 レーザー程度で蒸発させられるはずもないそれは、防御不能の攻撃手段だ。極一部の大口径のキャノンを持っている者が、射出口を粉砕して圧力を弱めるという対抗手段を見つけ出したが、絶対数が足りていない。何せ──

 

「予備動作無し、身体には無数の噴出口。キモすぎんだろ」

 

「同感ね。それで? 私は何処を撃ったらいいと思う?」

 

 1つの噴出口を潰す間に触腕に襲われる、もしくは触腕に空いた穴から吹き出した水に両断される。

 ウォーターカッターを切り伏せられる者など居ない──1人のトンチキを除いて──以上、即死攻撃が延々と襲い来るクソゲーだ。

 

 無論それは、距離を取っているとはいえミカエル達も例外ではない。

 

 彼女の装備は大口径であるからして、水の噴出口を潰すという対処が行える。だがそれもいつまでも続けられるわけではない。エネルギーの消費は、それだけ打開策へと費やせるエネルギーの減少を意味するのだから。

 

 そんな中で男は一言も発さず、微動だにしない。例えその身の僅か数センチ横をウォーターカッターが通り過ぎようとも。ただその眼だけを見開いて、ダゴンのほんの僅かな動きも見逃さないように観察を続けている。

 

「──あそこ。水が一度も出てないし、常に庇える位置に腕がある」

 

「脳か何かでもあるのかしら。貴方の直感にオールインね」

 

 他のアンドロイドのそれとは一線を画すサイズのレーザーキャノン。そこから放たれるエネルギーは防ぐべく構えられた触腕を容易く貫き──

 

「やった……?」

 

「いや、後ろから見えてないでしょ? 体内止まりね」

 

 脳と呼ぶのか核とでも呼んだらいいのか。それに多少の傷は付いたのだろう、動きがやや鈍り……だが、それだけだ。

 

「火力が足りな──」

 

「──い訳ないでしょう? 私を誰だと思ってるの?」

 

 一発目のレーザーを放っている間に背部に背負っていたソレが展開を終えていた。そこにあるのは巨大な砲身……否。数えるのが馬鹿らしくなるほどの多数の砲身。

 

「押して開かないドアの開け方を知ってる?」

 

「……引いたらいいんじゃないですか?」

 

「ハズレ。正解は──」

 

 砲身からレーザーが放たれる。一発。二発、三発四発五発──

 

「ぶっ壊れるまで押せばいいのよ」

 

 合計130にも及ぶレーザーの群れ。一発ずつでみれば『月光』や『グングニル』に火力で劣るが、そのような事が関係無くなる程の数の暴力。

 

 それが止む頃には、巨大なタコとでも評すべきであったダゴンの姿は、触手の切れ端と呼ぶのが相応しい程にバラバラになっていた。

 

 唯一、誤算があったとするなら。

 

「嘘だろ……まだ動いて……」

 

「あら……まあ、インスマスが人型だものね。アレはタコの頭を持った人型だったってことかしら」

 

 海中からその全容を現したダゴンが、首から上を失ってなお動こうとしていたことか。とはいえ。

 

「美味しいところ持ってかれちゃったわねぇ」

 

 金色の槍使いはその隙を見逃す程に愚かでは無い。

 

『グングニル』から放たれた極光が死に損ないの身体を焼き尽くし──

 

「でも戦功第一は私達でいいと思わない?」

 

「……そうっすねぇ」

 

 青い海。怪物の姿など何処にも見当たらず、穏やかな波だけが立つ静かな海。人類はそれを取り戻したのだ。

 

 少なくとも、このダゴンが支配していた範囲だけは。

 

 




ミカエル
米国製ワンオフアンドロイド。コンセプトは遠距離からの一方的な殺戮。130門のレーザーキャノンを撃ち込めば流石にどんだけ固くても死ぬやろ、の最高に頭のいい思考で作られた決戦兵装を背負ってる。
総火力は高いけど単発火力だとワンオフにしては低めなのでクトゥグア戦には選ばれなかった。
戦闘的な意味でも性的な意味でも複数人を同時に相手にする方が好み。
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