アンドロイド「人間とかいう戦場のお荷物」 作:らっきー(16代目)
資源と人命を消費しながら延々と続くマラソンゲーム。海から怪物がやって来るようになってから人類に課せられた状況とはそのようなもので、クトゥグアを討伐したところで余裕など出来ようはずも無かった。寧ろかの怪物が人類から残り僅かな余裕を削り取ったと言ってもいいかもしれない。
優秀な人材を消費──否、浪費させられ、地上の資源は焼き尽くされ回収不能になり、かといって海の怪物が進行を抑えてくれるはずもない。
無理やりにでも良かった事を捻り出すのなら、クトゥグアの死骸を研究班に回せたことか。神話生物に対する特攻兵器が出来る……などと甘い期待をしている者は流石に居なかったが、それでも何がしかの足しにはなるだろう。
ともあれ人類に求められているのは膠着状態の打破。要は人類の領域を広げろということだ。
その結果行われることになったのがダゴン──海を支配している神話生物──の討伐作戦だ。
海さえ取り戻せれば大陸方面へと出る足がかりとなるし、水や塩といった資源をほぼ無尽蔵に手に入れることが出来る。海の怪物に襲われる事が無くなるというのも大きい。一石で多くの鳥を落とすための作戦である。
とはいえやらされる側からすればたまったものではない。クトゥグアのせいで受けた被害だって相当なものであったのだ。損耗した兵士の補充──そもそも補充して即使い物になる類の資源ではないが──だって間に合っていないし、ダゴンの情報だって足りていない。なにせそのしもべと戦うだけで精一杯であったのだから。
では何故今回の討伐作戦が行われることになったかと言えば……結局のところ、上層部の意向に逆らえなかったから、だろうか。
アンドロイド達は基本的に下された命令を拒否することは無い──ある程度恣意的な解釈をすることはある──し、人間達にしても文句を言いこそすれ、上が示した方針以上のものを代案を出せない以上命令通りに行うしかない。自分達が反乱などすればそれが人類滅亡の引き金になりかねないことであるし。
だからまあ、命令を下された時点で士気はそれほど高くなかった。プラスに働く要因があったとすれば、クトゥグアを倒しているという実績くらいか。それにしたって極一部の精鋭の戦果であり、自分達に真似出来るのかは疑問である、というのが共通認識であったが。
「隊長~帰っていいですか~?」
「何故良いと答えると思っているんだ……?」
行軍中。現状はまだ敵対する生物が姿を現していないとはいえ、気を引き締めていなければいけないはずの時間。
「暇潰し用にダウンロードした書籍も読み切っちゃいましたし……足も疲れましたし……ね?」
「どうしてそんな曇りのない眼が出来るんだろうなぁ……」
「俺の心が綺麗だからじゃないっすか?」
「図々しいな」
行軍中、とはいえそこまで厳しく規則が適用されるわけでもない。厳しいアンドロイドももしかしたらいるのかもしれないが、そんな性格として作られたアンドロイドも進んで人間を罰しようとはしない。
「ミカちゃんが居たら十分じゃないっすか? 帰ってもバレませんって」
「私にバレたら駄目だろうに」
だからこんな会話をしていても問題が無い……と言うよりは問題が無い相手と理解しているからこんな軽口を叩いていると言うべきか。しかしまあ。
「折角クトゥグアから生き残れたんで死にたくないんすよね。ということで隊長、やる気出すために帰ったらサービスしてください。具体的には胸が良いです」
「……いや、まあ、そのぐらい別にいいんだが。恥とかそういうのは無いのか?」
「持ち物リストに書いてなかったので」
海の怪物、と称されているものが海からしか出てこない訳ではない。人類が勝手に名付けただけなのだから。
例えばたった今。背後の地中から姿を現し、無防備な背中目掛けて飛びかかったインスマスが──
「はいズドン。隊長〜6時の方向……あら早い」
「この程度なら造作もない。クトゥグアがまた出てきたら死ぬだろうがな」
「違いないっすわ。やってらんね〜……てかお前ら、武器ぐらいすぐ抜けるようにしとけよ……」
──否。この2人に対して、その程度を隙と判断した怪物の方が間違いだったのだ。とはいえその学びを活かす機会などもう無いのだが。
レーザーライフルによる頭部の狙撃。パルスガトリングによる面制圧での蹂躙。会話の片手間でその程度をこなせるからこそここまで生き残ってこれたのだ。背後を取られようとアンドロイドであれば温度や振動などのセンサーで感知もできるのだし。とはいえ。
「なんでお前はそんな不真面目な癖に勘だけ鋭いんだ?」
「ラジエルのイイ所を探すのに苦労したもんで」
「隊長と呼べ」
「痛い!?」
センサーなど何一つ持っていない人間の方が何故先に気が付けるのかは、まだ理屈では解明されて居ないのだが。
「……隊長、アレ、何匹いるかって分かります?」
「65535」
「カンストかぁ……」
敵が7分に海が3分、なんて有名なセリフがあったらしいが、今の状況はそれよりなお酷い。何せ見渡す限りに気色の悪い海の怪物が居るのだから。最早敵が10分と言い切っていいレベルかもしれない。
「じゃあ俺帰りますんで……」
「私が薙ぎ払う。お前は援護。他の連中もガトリングの用意。急げよ」
「あー隊長。多分固定しない方がいいと思うんで、ガトリングで固定砲台するよりライフルで動き回った方がいいかと」
「勘か?」
「勘です」
「ならお前の言う通りにするとしよう。聞こえたなお前ら!」
隊長のアンドロイド……ラジエルは大口径の兵装で敵を遠くから薙ぎ払うコンセプトで製造されたアンドロイドである。言うなれば塹壕戦における機関銃のようなものだが、それと違うのが本人が気軽に動けること。人間が固定して使うのがやっとのパルスガトリングを動きながらばらまけるこそのアンドロイドである。
しかし当然、人間達はそうはいかない。だからこそラジエルは割り切って、自分の部隊の人間を遊撃隊として前に向かわせる。自分と副隊長が居れば十分という自信と、自分の部隊の奴らなら任せておいても最適に動いてくれるだろうという信頼で。
大火力で薙ぎ払う。打ち漏らしを小回りの効く部隊員が潰していく。隙の少ない堅実な作戦ではあるが、敵の数に対してはやはり火力が足りない。
勿論戦場には他の部隊も居るとはいえ、遠距離への広範囲攻撃が可能な自分達はやはりそれを主として担うべきではないか。戦っているうちにそんな考えが浮かんでくる。
「隊──ラジエル!」
副隊長を担っている男の切羽詰まった声。迫り来るのは水のレーザー。咄嗟に躱そうとして、左肩に付けている砲身が持っていかれた。
第2射、3射は先程よりは余裕を持って避けられた。皮肉にも、片方の砲台が落ちたことで身軽にはなっている。
視覚センサーの倍率を上げて水のレーザー……ウォーターカッターが放たれた方向を見やれば、子供が水を飛ばして遊ぶ時のような形を作っているインスマスの群れ。あの手で水を圧縮して放っているのだろうか?……いや、原理や理屈がどうだろうと、そういう事が出来るとだけわかっておけばいい。
幸いにも人間が使う用のパルスガトリングが空いているから武器の代用品には困らない。換装している間の隙は遊撃隊に任せておけばいい。ウォーターカッターの溜めに入った順に撃ち抜いていけばいいのだから。
一般部隊員はともかく、副隊長ならその程度軽口叩きながらやれるだろう。この評価はラジエルからの信頼であり、副隊長が過大評価と主張する面倒事である。彼は適性と性格がまるで合っていないのだ。
それにしても。ラジエルは思う。
元々ダゴンが討伐の目標であり、雑魚に時間や人命やエネルギーを費やすわけには行かない。その為の大火力による早期の掃討であり、その為にラジエル達米国製の大艦巨砲主義なアンドロイドが集められたのだが、一筋縄ではいきそうもない。
とはいえ戦局を一気に打開出来るような決戦兵装を持っている訳では無いのだ。ならばコツコツと削り続けるしかない。無限に出て来るように見えたとしてもだ。
「副隊長」
「なんです? あんま余裕無いんすけど」
そう言いながらもウォーターカッターを撃つ寸前になったインスマスから撃ち抜いている。頭部を潰せば奴らは基本即死だ。そして彼は狙撃に関してはアンドロイドよりも成績が良い。ここだと思ったところに撃つと何故か当たると……部隊員へのアドバイザーとしては役たたずだったが。
「次にお前に抱かれる時、何かコスプレでもしようと思うんだが。希望はあるか?」
「あー、最近ハマってるアニメがあるんで……いやでも服用意出来ないか……?」
「まあそのぐらいなら頼めば何とかなるだろう」
「よっしゃ、じゃあ精々ここを乗り切るとしましょうかね」
「ああ。頑張って私を守ってくれ」
「了解。代わりに、薙ぎ払うのは任せましたからね」
軽口を叩く。この程度大した状況じゃないと自分たちに思い込ませる為に。いつも通りのどうとでも出来る状況として、焦らないように自己暗示する為に。
……それにしても露骨にやる気を出し始めたコイツ、私に何を着せる気なんだ?
そんな思考が、ラジエルの思考回路の片隅に残り続けていた。
ラジエル
武装もスタイルも大艦巨砲主義。機関銃掃射が最強!のコンセプトの元に両肩合わせて二門のガトリングを担いでる。
副隊長が真面目にやってくれればもう少し楽出来るだろうな…がいつもの悩み。でも真面目になったら多分病気を心配する