ミーア・キャンベル()の憂鬱   作:星乃 望夢

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STAGE:24 獅子の帰還

 

ミネルバの艦長室。

 

そこに張り詰めていた空気は、アスラン・ザラによる淡々とした、しかし内容はあまりに劇薬じみた報告によって、ガラス細工のように粉砕された。

 

「……えぇぇぇぇぇぇっ!? ほ、本気ですかアスラン!?」

 

アーサー・トライン副長の素っ頓狂な絶叫が、防音壁の施された室内に反響した。

 

彼は自身の端末を抱えたまま、信じられないものを見る目で目の前の特務隊員を凝視していた。

 

「ハイネ隊長だけでなく、シンとレイまでアークエンジェルへ移乗!? そ、それにラクス様まで!? いくらなんでも無茶苦茶ですよ!」

 

アーサーの混乱はもっともであった。

 

正規軍の最新鋭艦から、主力パイロット三人──それもデスティニー、プロヴィデンスザク、そしてグフというトップエースたちが、友軍でもないまったく別の指揮系統の艦へ引き抜かれるなど、通常の手続きではあり得ぬ暴挙である。

 

しかし、艦長席に座るタリア・グラディスは、額に手を当てて深く嘆息しつつも、冷静さを保っていた。

 

「……アーサー、静かになさい。……アスラン。それはつまり、FAITHとしての『命令』および『合意』ということでいいのね?」

 

「はい、艦長。ハイネはFAITHとしての判断で同行を決めました。シンとレイに関しては、現場指揮官である私とハイネ、そして同じくFAITH権限を持つラクス嬢の三名の連名により、特別任務部隊としてアークエンジェルへの出向を承認しました」

 

アスランは淀みなく答えた。

 

軍規の隙間を縫うような、しかしFAITHという超法規的権限を盾にした、反論の余地のない論理構成であった。

 

「……頭が痛くなるわね。本国への報告書、どう書けばいいのかしら」

 

タリアは手元のコーヒーカップに視線を落とした。

 

主力のエースをごっそりと持っていかれる形だが、代わりに艦内には「人道支援」という名目で収容したエクステンデッドの三名と、ムウ・ラ・フラガ少佐がいる。

 

戦力的な収支で言えば、決してマイナスではないのがまた悩ましいところであった。

 

「それに……まだ続きがあるのでしょう?」

 

タリアの鋭い指摘に、アスランは短く頷いた。

 

「はい。……作戦の推移次第では、本艦ミネルバもオーブへ向けて出撃する必要があります」

 

「なっ……! 軍令部の許可なく、領海侵犯をしてオーブ本国へ突っ込むと言うんですか!?」

 

再びアーサーが悲鳴を上げる。

 

だが、アスランはその瞳を逸らさず、タリアを真っ直ぐに見据えて告げた。

 

「その際は、私と……グラディス艦長。貴女のFAITH権限も併用し、二名の連名による『緊急事態における超法規的措置』として出撃申請を行います。……ご協力、いただけますか」

 

それは要請という名の、共犯者への勧誘であった。

 

デュランダル議長のシナリオから外れ、自らの意志で世界を変えようとする流れに、ミネルバも乗る覚悟があるかと問うているのである。

 

タリアは数秒の沈黙の後、ふっ、と艶然たる笑みを浮かべた。

 

「……いいでしょう。元より、あの『お転婆な歌姫』のワガママに付き合うと決めた時から、一蓮托生だと思っていたわ」

 

「艦長ぉぉぉ……!」

 

「アーサー、胃薬なら後であげるからシャキッとしなさい! ……アスラン、話は通ったわ。彼らを……シンたちを頼むわね」

 

「はッ! 感謝します!」

 

敬礼を交わす二人。

 

その背後で、アーサーはその場に崩れ落ちそうになっていた。

 

正規の手続きも、軍の常識も、もはやこの艦においては紙切れ同然となり果てていた。

 

ただ確かなことは、ミネルバもまた、時代の激流へとその舵を大きく切ったという事実のみであった。

 

 

◇◇◇

 

 

ディオキア基地の上空。

 

雲一つない青空に、その巨大な白い威容を誇示するように、強襲機動特装艦アークエンジェルが静止していた。

 

その艦橋内は、かつてないほどの緊張感に包まれていた。

 

本来は戦闘指揮所であるその場所が、今は歴史の転換点を伝えるための特設スタジオとなっていた。

 

カメラの前に立つのは、カガリ・ユラ・アスハ。

 

彼女はオーブ連合首長国代表としての正装──獅子の紋章が刻まれた軍服を纏い、緊張で僅かに震える拳を、見えない場所で強く握りしめていた。

 

だが、その光景が全世界の視聴者を驚愕させたのは、カガリの帰還だけが理由ではなかった。

 

彼女の右側には、プラントの、いや、全コーディネイターの精神的支柱である「ラクス・クライン」が、静謐な微笑を湛えて立っていた。

 

そして左側には、もう一人の「ラクス・クライン」──世界中を熱狂させている歌姫、ミーア・キャンベルが、決意に満ちた瞳で並び立っていたのである。

 

二人のラクス・クラインが、オーブの代表を挟んで並び立つ。

 

そのあり得ない、しかし強烈な視覚的メッセージは、言葉よりも雄弁に事態の異常さと、そこに込められた並々ならぬ意志を伝えていた。

 

さらに、その背後には、一人の青年が控えていた。

 

キラ・ヤマト。

 

先の大戦の英雄であり、オーブの技術的繁栄の礎を築いた、救国のパイロット。

 

彼がそこにいるという事実は、オーブ軍人にとって、どんな政治的言葉よりも重い意味を持っていた。

 

「……時間です」

 

カメラの横で、ミリアリアが声を潜めて合図を送る。

 

放送開始のランプが赤く灯った。

 

ザフトの回線を通じて、ディオキアから全世界へ。

 

あらゆる通常の放送に割り込む形で、緊急特別放送が開始された。

 

カガリは大きく息を吸い込み、カメラのレンズを──その向こうにいる、自国の民と兵士たちを真っ直ぐに見据えた。

 

「全世界の皆さん。そして、オーブ連合首長国の国民、ならびにオーブ国防軍の将兵たちに告ぐ。……私は、オーブ代表首長、カガリ・ユラ・アスハである」

 

その凛とした声が、電波に乗って世界中へ響き渡る。

 

「私は今、プラントの協力者たちの助けを借り、この場所に立っている。……私が国を不在にしていた間、オーブは道を誤った」

 

カガリの言葉に、隣に立つ本物のラクスが静かに頷き、ミーアが手を胸元で握りしめる。

 

「現政権を担うセイラン家は、我が国の崇高な理念である『他国を侵さず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』という原則を破り、大西洋連邦との屈辱的な同盟を結んだ。……そして今、我が国の精鋭たる艦隊が、他国を侵略するための尖兵として利用されようとしている!」

 

カガリの悲痛な叫びが、モニター越しに人々の胸を打つ。

 

「これは、ウズミ・ナラ・アスハの遺志に対する裏切りであり、オーブの魂を売り渡す国賊的行為である! 私は代表として、この暴挙を断じて認めることはできない!」

 

彼女は一際強く言葉に力を込め、宣言した。

 

「オーブ国防軍、遠征艦隊司令部および全将兵に命じる! 直ちに現空域での戦闘行為を停止し、大西洋連邦軍との連携を解除せよ! 貴様たちが守るべきは、他国の利益ではない! オーブの理念と、民の未来だ!」

 

そして、最後に彼女は、自分自身への誓いを込めて告げた。

 

「私はこれより、オーブ本国へと帰還する。……理念を歪め、国を売り渡した者たちから、我々のオーブを取り戻すために。……国民よ、そして誇り高き兵士たちよ。今一度、私に力を貸してくれ!」

 

放送が終了し、カメラのランプが消える。

 

その瞬間、カガリは糸が切れたように大きく肩で息をした。

 

「……お疲れ様ですわ、カガリさん」

 

ラクスが優しく声をかけ、肩に手を置く。

 

「ええ。とても……立派な『王の宣言』でしたわ」

 

ミーアもまた、潤んだ瞳でカガリを称えた。

 

「ああ……。あとは、やるだけだ」

 

カガリは顔を上げ、艦長席のマリューへと視線を向けた。

 

「ラミアス艦長!頼む!」

 

「ええ、任せて!」

 

マリュー・ラミアスが力強く頷き、全艦に号令を発した。

「アークエンジェル、発進! ローエングリン、起動! 一気に駆け上がるわよッ!!」

 

白い巨体が唸りを上げ、重力という鎖を引きちぎるように、蒼穹へと向かって上昇を開始した。

 

その頃、オーブ本国、行政府の代表執務室。

 

「な、なんだこれはぁぁぁッ!?」

 

全世界に流れた放送を見て、ユウナ・ロマ・セイランは顔面蒼白で絶叫していた。

 

「カガリだと!? 偽物だ! あれはザフトが作った巧妙なCGだ! そうに決まっている!」

 

彼は錯乱したように端末を叩き、わめき散らす。

 

「なぜだ! なぜあんな所に、ラクス・クラインが二人もいるんだ!? ええい、軍令部は何をしている! タケミカズチに連絡しろ! あの放送を止めさせろ! 撃ち落とせと言えぇぇぇッ!!」

 

だが、彼のヒステリックな命令が届くよりも早く、事態は動いていた。

 

カガリの「声」は、既に前線の兵士たちの心に、決定的な楔を打ち込んでいたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

地中海、クレタ沖を航行中のオーブ派遣艦隊。

 

その旗艦である空母『タケミカズチ』のブリッジは、カガリの演説放送が終わった後、波の音さえ聞こえそうなほどの静寂に包まれていた。

 

本来であれば、ここで「あれは偽物だ!」「撃ち落とせ!」とヒステリックに喚き散らすはずのユウナ・ロマ・セイランは、幸運なことにここにはいない。彼は本国で、安全な執務室から遠隔で指示を出しているに過ぎなかった。

 

だからこそ、この場にあるのは、純粋な軍人としての「判断」と「忠義」のみだった。

 

「…………」

 

艦隊司令官であるトダカ一佐は、目を閉じて深く息を吐き、そしてゆっくりと目を開いた。

 

その瞳には、迷いではなく、待ちわびた時が来たという安堵と決意の光が宿っていた。

 

「司令……」

 

副長のアマギが、恐る恐る声をかける。

 

だが、ブリッジのクルーたちの顔を見れば、彼らが何を求めているかは明白だった。

 

彼らは皆、自分たちが何のために、誰のために戦っているのか、ずっと疑問を抱いていたのだ。

 

そして今、その答えが──本物の主が、空から呼びかけてくれた。

 

トダカは立ち上がり、帽子を被り直すと、静かに、しかし艦橋の隅々まで届く明瞭な声で命じた。

 

「全艦に通達。……これより本艦隊は、オーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハ様の指揮下に入る」

 

「司令!?」

 

「疑う余地などない。あれは、ウズミ様が手塩にかけて育てた、我らが姫様の声だ」

 

トダカはモニターに映る、カガリと二人のラクス、そして英雄キラ・ヤマトの姿を見つめた。

 

「あの幼かった姫様が、あのような立派な『王』になられたのだ。……我ら軍人が、これに応えずして何とする」

 

邪魔者はいない。

 

ユウナというノイズがない今、オーブ軍の意思決定はあまりにも迅速で、強固だった。

 

「通信手、ディオキア基地及びアークエンジェルへ返信! 暗号回線を使用、宛先はカガリ代表ご本人だ!」

 

「は、はいッ!」

 

「文面は短く、こう打て。『第一機動護衛艦群、即時カガリ様の指揮下に入る準備は整っております』……とな」

 

「了解!!」

 

通信手の弾んだ声が響く。

 

それは命令されたからではない。彼ら自身の意思が、その指を走らせていた。

 

直後、タケミカズチのマストから、見えない敬礼のような信号が発信された。

 

「タケミカズチより入電! トダカ一佐からです!」

 

ミリアリアの興奮した声が響く。

 

『──第一機動護衛艦群、即時カガリ様の指揮下に入る準備は整っております。我ら、オーブの獅子の帰還を、心よりお待ち申し上げておりました──』

 

そのメッセージが読み上げられた瞬間、カガリはその場に崩れ落ちそうになり、慌ててコンソールに手をついた。

 

「トダカ一佐……! ああ……!」

 

涙が、ボロボロとこぼれ落ちる。

 

国から離れた自分を、彼らは見捨ててはいなかった。

 

邪魔な「首輪」さえなければ、オーブの軍人たちの魂は、何一つ錆びついてはいなかったのだ。

 

「よかったね、カガリ」

 

キラが優しく肩を抱く。

 

ミーアも安堵のあまり潤んだ瞳を拭っていた。

 

「ええ……。これで、最強の盾が味方につきましたわ」

 

「ああ! ……みんな、ありがとう!」

 

カガリは涙を拭い、顔を上げた。

 

その表情は、もう迷える少女のものではない。

 

「行くぞ! 我々の家へ! オーブへ!!」

 

「了解!!」

 

ノイマンの号令と共にアークエンジェルのエンジンが最大出力で唸りを上げる。

 

オーブ艦隊の離反という劇的な結末を残し、白い翼は宇宙へと駆け上がっていった。

 

歴史を変える逆クーデターの火蓋は、これ以上ない形で切られたのである。

 

 

◇◇◇

 

 

蒼穹を切り裂き、宇宙へと駆け上がったアークエンジェル。

 

その白い翼が頂点に達した一瞬の静寂の中、一機のムラサメがカタパルトから滑り出した。

 

「では、行って参りますわ。……必ず、貴方たちに必要な『剣』を届けます」

 

後部座席のラクス・クラインが、通信越しに祈るような声を届ける。

 

操縦桿を握るアンドリュー・バルトフェルドが、ニヤリと笑ってサムズアップを送った。

 

「土産は特大のを頼むぜ、虎さん!」

 

「ああ、期待して待ってな。……死ぬなよ、坊主ども!」

 

ハイネの声を背に、ムラサメはバーニアを噴射し、デブリ帯に潜むピンクの高速戦艦エターナルへと針路を取る。

 

それを見送ると同時に、アークエンジェルは艦首を反転させた。

 

重力という巨大な手が、再び彼らを地上へと引き戻す。

 

眼下に広がるのは、青き星。

 

そして目指す場所は、南太平洋に浮かぶ小さな島国。

 

「突入角調整、良好! ……行きますよ、オーブへ!!」

 

ノイマンの叫びと共に、艦は紅蓮の炎を纏いながら、一直線に「家」へと舞い降りていく。

 

オーブ領空。

 

アークエンジェルのモニターには、無数の接近警報が赤く輝いていた。

 

「オーブ軍、スクランブル機多数! 本国からムラサメ隊です!」

 

ミリアリアの声が緊迫する。

 

トダカ一佐の艦隊は味方についた。だが、本国を守る守備隊までもが、ユウナの命令を無視できる保証はない。

 

「……構わん! そのまま進め!」

 

カガリが座席の肘掛けを強く握りしめ、叫ぶ。

 

信じるのだ。自分の声を。そして、父が愛したこの国の民を。

 

雲を突き抜け、アークエンジェルの巨体が空に姿を現した、その時だった。

 

接近してきたムラサメ隊は、攻撃態勢を取るどころか、アークエンジェルの左右と後方に、整然とした編隊を組んで並走を始めたのだ。

 

『──アークエンジェル、目視確認。……おかえりなさいませ、カガリ様!』

 

通信回線から聞こえてきたのは、実直なパイロットの声だった。

 

『これより貴艦を、行政府までエスコート致します。……我らオーブ国防空軍、この時をお待ちしておりました』

 

「……っ、ああ!」

 

カガリの瞳から、堪えきれない涙が溢れ出した。

 

彼らは待っていたのだ。

 

自分たちが誇れる主が、帰ってくるその日を。

 

そして、その流れはもはや誰にも止められなかった。

 

「通信、入ります! オーブ軍令部より入電!」

 

ミリアリアが弾んだ声で報告する。

 

「『国家反逆罪および外患誘致の容疑により、元宰相ユウナ・ロマ・セイランを拘束』! ……続いて行政府より、『ウナト・エマ・セイランおよびその一派の身柄を確保完了』とのことです!」

 

「……そうか」

 

カガリは深く、深く息を吐いた。

 

戦うことすらなく、勝負は決した。

 

偽りの権力者たちは、目覚めた獅子の咆哮の前に、為す術もなく崩れ去ったのだ。

 

「すごい……。本当に、一度も引き金を引かずに……」

 

シンが、窓の外を飛ぶ護衛のムラサメを見つめながら呆然と呟く。

 

「ええ。これが『王の帰還』ですわ」

 

ミーアが、満足げに頷いた。

 

彼女の隣では、キラが優しくカガリの背中に手を添えている。

 

アークエンジェルは、まるで凱旋パレードのように、護衛機を従えて輝く海の上を進んでいく。

 

その先には、懐かしいオーブの島々が、変わらぬ姿で彼らを迎え入れようとしていた。

 

眠れる獅子は目覚めた。

 

そして世界は、真のオーブの復活を知ることとなる。

 

 

◇◇◇

 

 

プラント、アプリリウス市。

 

最高評議会議長執務室。

 

広大な執務室の壁面を覆う巨大なメインモニター。

 

そこに映し出されていたのは、鮮やかすぎるほどの「敗北」と、皮肉すぎるほどの「希望」の光景だった。

 

『──国民よ、そして誇り高き兵士たちよ。今一度、私に力を貸してくれ!』

 

画面の中で、カガリ・ユラ・アスハが叫ぶ。

 

その右には本物のラクス・クライン。

 

左には、自分が作り上げた影であるはずのミーア・キャンベル。

 

そして背後には、最高のコーディネイター、キラ・ヤマト。

 

放送が終わり、映像が消えるその瞬間まで、ギルバート・デュランダルは彫像のように動かず、ただその画面を見つめていた。

 

静寂が支配する部屋に、プツリ、と映像が途切れる音が響く。

 

「…………」

 

デュランダルは、手元のチェス駒──クイーンを指先で弄びながら、ゆっくりと、そして深々と息を吐いた。

 

「……ふっ、くくく……」

 

低く、押し殺したような笑い声が漏れる。

 

それは次第に大きくなり、やがて執務室の天井を仰いでの高笑いへと変わった。

 

「ははははは! いやはや、参ったな。これは一本取られたよ」

 

彼は涙が滲むほど笑い、そして椅子に深く身体を沈めた。

 

怒りはない。あるのは、あまりにも予想外な展開に対する、ある種の感動すら伴う驚嘆だった。

 

「光と影が、手を携えて並び立つとはね……」

 

彼の視線は、既に消えたモニターの残像に向けられている。

 

「私が与えた『ラクス・クライン』という役割。ミーア・キャンベルはそれを演じきるあまり、ついに本物と共鳴し、私のシナリオすら食い破ってしまったか」

 

デュランダルは、自分の計画の綻びを冷静に分析した。

 

ミーアはただの代用品だった。操り人形だった。

 

だが、その人形が自らの意志で糸を切り、あろうことか本物の主役の手を取って、舞台の脚本を書き換えてしまった。

 

「カガリ・ユラ・アスハの復権。キラ・ヤマトの参戦。そして、二人の歌姫の共闘……。さらには、私の懐刀であったレイまでもが、あちら側にいるときた」

 

ミネルバからの報告書はまだ届いていない。

 

だが、見るまでもない。

 

あのアスラン・ザラが動き、ハイネが動き、そしてレイまでもが動いたのだ。

 

タリアもまた、私情と母性で彼らを送り出したに違いない。

 

「……全ては、『人の想い』という不確定要素か」

 

デュランダルは弄んでいたクイーンの駒を、盤上の「キング」の横に、強引に置いた。

 

本来のルールではあり得ない配置。

 

だが、今起きているのは、ルール無用の盤面だ。

 

「私が導入しようとしている『デスティニープラン』は、そんな不確定な感情を排除し、誰もが幸福になれる役割を与えるシステムだ。……だが」

 

彼は目を細め、どこか遠くを見つめるような表情をした。

 

「役割を捨て、傷つきながらも自ら道を選び取る姿が……これほどまでに人々を熱狂させ、世界を動かすとはね」

 

オーブは解放された。

 

タケミカズチは寝返り、ユウナは失脚しただろう。

 

地球連合の勢力図は塗り替わり、ロゴスへの包囲網は、予期せぬ方向から完成しつつある。

 

「いいだろう。……君たちが選び取った『運命』が、私の提示する『運命』より優れているというのなら、証明してみせたまえ」

 

デュランダルは立ち上がり、窓の外に広がるプラントの市街地を見下ろした。

 

その瞳の奥には、冷徹な計算と、かつてない強敵と対峙する高揚感が宿っていた。

 

「さあ、始めようか。……ここからは、台本なしの真剣勝負だ」

 

歴史という名の奔流は、デュランダルという管理者ですら予測不能な、未知の領域へと突入していた。

 

 

 

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