ミーア・キャンベル()の憂鬱   作:星乃 望夢

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STAGE:03 戦場のミーア

 

「行きますわよ、ピンクちゃん!」

 

私は和服の裾を荒っぽく捲り上げ、狭いコクピットに滑り込んだ。

 

雅な羽織姿と、無機質な戦術モニターのコントラストがひどいけれど、そんなことを気にしている余裕はない。

 

OS起動。システムを「LIVE」から「COMBAT」へ。

 

フェイズシフト装甲を持たないザクウォーリアにとって、バッテリーの残量と回避能力がすべてだ。

 

武装を確認する。

 

「武器は、トマホークと…グレネード。これだけか!!」

 

左肩のシールド内にビームトマホークが2本。腰には炸薬グレネードとスモークグレネードが2個ずつ。

 

ハンガーのゲートを蹴破り、私は戦場へと躍り出た。

 

「ああん? ピンク? ふざけてんの?」

 

奪取したばかりの新型機『アビス』のコクピットで、アウル・ニーダが顔をしかめたのが通信越しでも分かるようだった。

 

ハンガー地区を蹂躙していた彼らにとって、ライブ用マーキングだらけのド派手なピンクのMSは、ふざけた標的にしか見えなかっただろう。

 

「死んじゃえよ、アイドルさん!」

 

アビスの胸部、カリドゥス複相ビーム砲が火を噴く。

 

直撃すれば蒸発する。けれど、私はシミュレーターでこのタイミングを何度も「見て」いた。

 

「遅いですわよっ!」

 

私はスラスターを全開にし、ステップを踏むように横へと跳躍。

 

「避けた!? ぐあっ!?」

 

回避と同時に、腰の炸薬グレネードをアビスへ叩きつける。

 

アビスのVPS装甲には物理弾は通用しない。だが、至近距離での爆発の衝撃までは無効化できない。

 

「こンのぉ、今のがビームだったら終わりだって言いたいワケ? ええ!?」

 

激昂したアウルがビームランスを振り下ろす。

 

私はそれを左肩のシールドで受け流し、あえて懐に飛び込んだ。

 

機体の質量をすべて乗せた、渾身のフロントキック。

 

「きゃはっ☆ ……ジャンクにしてあげるわぁ!!」

 

ドゴォッ! と重い衝撃音が響き、アビスの巨体が後方へと吹き飛んだ。

 

「うわあああああ!!!!」

 

「アウル! ……チッ、どこのエースだ!?」

 

カオスを駆るスティング・オークレーが援護に割って入る。

 

頭上から放たれるビームを、私はアビスが手放したビームランスを拾い上げ、それを地面に突き立てることで強引に軸をずらした。

 

棒高跳びのような変則的なジャンプ。

 

「コイツ……運動性が普通じゃないぞ!」

 

「おいおい、冗談じゃないぜ。あんなバカげた色の機体に……!」

 

スティングの焦燥。

 

彼らは知らない。このピンクのザクに乗っているのが、20年分のガンダム知識と、死にたくない一心でシミュレーターをやり込んだ「転生者」だなんて。

 

だが、多勢に無勢。

 

スティングのカオス、そしてステラのガイアがこちらを包囲しようとしたその時──。

 

空を切り裂くような駆動音と共に、3機のパーツが空中で合体し、一機のMSが完成する。

 

『インパルス』。

 

その手には、巨大な対艦刀「エクスカリバー」が握られていた。

 

「……遅かったじゃない、シン・アスカ!」

 

私は心の中で叫んだ。

 

インパルスの隣には、ステラのガイアを食い止めている緑色のザクウォーリア──アスランとカガリが乗る機体もいる。

 

「下がっていろ、そこのピンク!」

 

シンの尖った声が通信に入る。

 

彼は驚いているだろう。自分が助けに入るまでもなく、ライブ用のザクがザフトの新型と渡り合っている光景に。

 

アビス、カオス、ガイア。

 

対するはインパルス、緑のザク、そして私のピンクのザク。

 

「数は3対3。……これなら、勝てる!」

 

私は奪ったビームランスを構え直した。

 

本来の歴史にはない、アーモリーワンでの共闘。

 

運命が狂い始めた。ならば、その狂いごと、この戦場を生き残ってやる。

 

私は全モニターを戦闘モードの光で染め上げ、スロットルを力強く踏み込んだ。

 

「ちょ、下がれって言ったろ!」

 

通信越しにシンの困惑した怒声が飛ぶ。当然だ。ライブ仕様の、戦うはずのないピンクの機体が、あろうことか奪われた最新鋭機に真っ向から突っ込んでいくのだから。

 

「ラクス・クライン、推して参ります!」

 

「はぁ!? ラクスって、ちょっと……何なんだよお前!」

 

シンの混乱を余所に、私はスロットルを踏み込む。

 

相手はアビス。重火力の塊。けれど、その主武装であるビームランスは今、私のザクの手にある。

 

懐に飛び込みさえすれば、長射程の砲台はただの鉄屑も同然!

 

「チッ、またあのピンクかよ!」

 

アウルの毒づく声と共に、アビスの背部から『3連装ビーム砲』と『バラエーナ改』が火を吹く。

 

緑の閃光がコクピットのすぐ横を掠め、機体のアラートがけたたましく鳴り響く。

 

(冗談じゃないわよ! ここはコロニーの中なのよ!?)

 

外壁をぶち抜けば空気が漏れて大惨事になる。なのに、この子たちは……!

 

「そんなのお構いなしで、バンバン撃ってこないでよぉぉッ!」

 

私は悲鳴を上げながら(声色はあくまで凛としたラクスを維持して)、奪ったビームランスを振り被る。

 

「ちょこまかとッ!」

 

アビスが砲身を強引に向けてくる。だが、その旋回速度は私の予測の範疇だ。

 

私はスラスターの噴射方向を瞬時に切り替え、アビスの死角へと滑り込む。

 

「近いですのよッ!」

 

ガギィィィン!!

 

振り下ろしたランスの一撃が、アビスの両腕のシールドを激しく叩く。

 

火花がコクピット越しに見えるほど近くで散り、機体同士がぶつかり合う鈍い衝撃がシートに伝わる。

 

「嘘だろ!? なんでザクで新型と押し合えんだよ!」

 

シンの驚愕。スペック差はあるザクが、最新鋭のアビスと競り合えているのは、偏に「勢い」と「死に物狂いの操縦」のおかげだ。

 

「愛と! 気合ですわぁぁッ!」

 

「意味わかんねーよ!!」

 

シンのツッコミを背に受けながら、私はさらに操縦桿を押し込む。

 

密着状態では、アビスの巨大な砲塔はただの重りでしかない。

 

「悪い子は、お仕置きですわ!」

 

私はシールドで相手の視界を塞ぎつつ、機体を一気に加速させた。

 

アビスの腹部へ向けて放つ、二度目の渾身のキック!

 

「だれがっ、うわあああああ!!!!」

 

アビスの巨体が再び弾き飛ばされる。

 

その隙を逃さず、私は左肩のシールドからビームトマホークを一本引き抜いた。

 

狙うは、緑のザク(アスランたち)と交戦中のガイア!

 

「これでも、喰らいなさいっ!」

 

投擲! くるくると回転しながら飛ぶトマホークは、ステラのガイアの背後を強襲する。

 

ガイアが咄嗟にそれを回避し、姿勢を崩した。

 

「……何ッ!?」

 

その瞬間、通り過ぎたトマホークの柄を、緑のザクウォーリアが見事な挙動でキャッチした。

 

アスラン……! さすがの反射神経。

 

彼はそのまま、キャッチしたトマホークをガイアのシールドに叩きつけ、均衡を強引に破る。

 

「……助かる!」

 

アスランの短い通信。彼もまた、このピンクのザクの正体に疑問を抱きつつも、その技量を認めざるを得ないようだった。

 

その時だ。

 

今までの爆発とは明らかに違う、地底から突き上げるような巨大な震動がコロニーを襲った。

 

「な、何だ!? 今のは!」

 

シンの叫び。

 

工廠の港方面から、暗雲のような火煙が上がっている。

 

アーモリーワンの外から、連合の母艦『ガーティー・ルー』が攻撃を開始し、ダークダガーLの部隊が突入してきたのだ。

 

「……本当の地獄は、これからってわけね」

 

私はビームランスを握り直し、モニターに映る無数の光点を見据えた。

 

生存フラグを掴み取るための戦いは、まだ始まったばかりだ。

 

 

◇◇◇

 

 

「離れてくださいまし!」

 

アスランの緑のザクウォーリアと、ステラのガイアが火花を散らすその真っ只中へ、私は強引に割り込んだ。奪ったビームランスをこれ以上ないほどダイナミックに振り下ろす。

 

ステラのガイアが咄嗟にバックステップで距離を取る。

 

フリーになったアビスがこちらを狙っているのがレーダーで分かったけれど、向こうも「迎え」が来たことに気づいたはずだ。

 

深追いすればコロニーの外壁はボロボロになり、このアーモリーワン自体が維持できなくなる。あえて逃がすのが、今の被害を最小限に抑える唯一の道。

 

「ステラ! 帰るぞ、このままだと……『死んじゃう』からな!」

 

アウルの通信が漏れ聞こえてきた。

 

その瞬間、ガイアの動きが目に見えて強張る。

 

「……死ぬ……? 死ぬのは……ダメ……嫌ぁぁッ!!」

 

ステラの「ブロックワード」。死への恐怖に駆られた彼女は、戦意を喪失したというよりは、パニック状態で一目散にコロニーの内壁──外へと続く穴に向かって跳んでいった。

 

アビスとカオスも、それを追うように離脱していく。

 

「ふぅ……一先ず、行きましたわね」

 

私はアスランたちのザクウォーリアを背中で庇うように立ち塞がった。

 

無茶な動きもしてないから向こうのコックピットの中でカガリが怪我をしていないことを祈るばかりだ。

 

「……援護に感謝する」

 

スピーカー越しに届いたのは、低く、困惑の混じったアスランの声だった。

 

彼からすれば、キラの隣にいるはずのラクスと同じ姿、同じ声をした女が、あろうことかザクを自在に操って自分を助けたのだ。混乱しないはずがない。

 

「礼には及びませんわ、アスラン。……いいえ、今はアレックスさんとお呼びすべきかしら?」

 

わざとらしく、それでいて慈愛に満ちた声で返してやる。

 

アスランが「……っ!」と息を呑む気配が伝わってきた。

 

「このまま新造艦ミネルバへと向かいましょう。あちらへデュランダル議長も避難されたようですし、ここよりは安全ですわ。……さあ、行きましょう」

 

「……ああ、分かった」

 

まだ疑いの目は消えていない。どころか、不気味ささえ感じているかもしれない。

 

けれど、それでいい。

 

「ただのミーハーな偽物」ではない、「何者か分からないけれど実力のあるラクス・クライン」として認識させることが、私の生存戦略の第一歩なんだから。

 

私はピンクのザクウォーリアを反転させ、煙の上がる工廠の奥へとゆっくりと歩き出した。

 

視線の先には、灰と赤い船体を露わにした最新鋭戦闘艦、ミネルバ。

 

「さあ、ここからが本当の『Destiny』の始まりね」

 

私は操縦桿を握り直し、これから始まる激動の日々に思いを馳せた。

 

死ぬものですか。私は、私の歌を、私の人生を、最後まで歌い抜いてみせるんだから。

 

 

 

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