ミーア・キャンベル()の憂鬱   作:星乃 望夢

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STAGE:32 ヘブンズベース攻略戦

アイスランド南部、地球連合最高司令部ヘブンズベース。

 

大西洋の波濤を超え、ザフト軍および反ロゴス同盟軍の連合艦隊は、その決戦の地へと向けて北上を続けていた。

 

旗艦ミネルバ。

 

そのブリーフィングルームは、かつてないほどの錚々たる面々で埋め尽くされていた。

 

プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルも同席する中、円卓を囲むのは、この艦隊の主力となるエースパイロットと指揮官たち。

 

ミーア、アスラン、ハイネ、ムウ。

 

そしてシン、レイ、ルナマリア。

 

さらに、保護されたエクステンデッドたち──ステラ、アウル、スティングの姿もあった。

 

そんな緊張感漂う作戦会議室の一角で、奇妙な空間が形成されていた。

 

「シン、シンー」

 

「よしよし、ステラ。いい子だから、今は静かにな」

 

久しぶりの再会を果たしたステラ・ルーシェは、まるで親鳥を見つけた雛のように、シンの腕にぴったりとしがみついていた。

 

シンにとってステラは、守るべき少女であり、戦火で失った妹・マユの面影を重ねる存在だ。

 

その頭を撫でる手つきは、完全に「兄」としての慈愛に満ちていた。

 

だが、面白くないのはその背後で見守る瞳である。

 

(……分かってるわよ。シンにとってその子は妹みたいなものだって。やましい気持ちがないのも知ってるわよ)

 

ルナマリア・ホークは腕を組み、冷ややかな視線──いわゆる「ジト目」をシンの背中に突き刺していた。

 

(でもねぇ……こうベタベタされると、心中穏やかじゃないのよ!)

 

「あ、あのさ……ルナ? なんでそんな怖い顔してんの?」

 

「別にー? シンはモテモテでいいわねって思ってるだけよ」

 

「はぁ? なんだよそれ」

 

鈍感なシンには、その視線の意味がさっぱり理解できていない。

 

そんな彼らのやり取りを、アウルとスティングは「平和だねぇ」「ガキかよ」と呆れ半分、羨ましさ半分といった様子で眺めていた。

 

そんな若者たちの様子に苦笑しつつ、卓の上座では指揮官たちが深刻な表情で地図を見下ろしていた。

 

「……現在、我々はヘブンズベースに対し、ロード・ジブリールおよびロゴスメンバーの身柄引き渡しと、全軍の武装解除を勧告中ですが」

 

アスランが端末を操作しながら現状を報告する。

 

「返答期限まであとわずか。……ですが、向こうがこれに応じる可能性は?」

 

「ゼロ、だろ」

 

ハイネが即答し、肩をすくめた。

 

「ジブリールは追い詰められたネズミだ。しかも、まだ自分には『猫を噛み殺す牙』があると思ってるタイプのな」

 

「同感だな」

 

ムウ・ラ・フラガも頷く。

 

「ヘブンズベースは天然の要塞だ。それに、あのデストロイの数……まだ地下に温存している可能性が高い。加えて、対空掃討システム『ニーベルング』もある」

 

彼らは知っている。

 

権力にしがみつく人間は、最後の瞬間まで自分の敗北を認めない。

 

ましてや、世界を裏から支配してきたという自負のあるロゴスが、おとなしく降伏などするはずがないのだ。

 

「ええ。話し合いで解決する相手なら、とっくに終わっていますわ」

 

ミーアは冷徹な眼差しで北の空を見据えた。

 

「彼らは必ず撃ってきます。……世界を道連れにしてでも、自分の座を守るために」

 

「やむを得まい」

 

最後に、デュランダル議長が静かに口を開いた。

 

「平和的な解決を望んだが……彼らがそれを拒むのであれば、力をもってその幻想を砕くしかあるまい。……頼むよ、諸君」

 

「はっ!」

 

エースたちが一斉に敬礼する。

 

交渉決裂は前提事項。

 

ヘブンズベース攻略戦──ロゴスとの完全決着をつける最後の激戦が、今まさに始まろうとしていた。

 

 

◇◇◇

 

 

ヘブンズベース領海、ミネルバ艦橋。

 

張り詰めた静寂を破ったのは、回答期限を告げるタイマーの電子音ではなく、敵接近を知らせるけたたましいアラート音だった。

 

「熱源感知! 前方より多数! ……回答期限前です! ヘブンズベース守備隊、攻撃を開始しました!」

 

「やはり、待つ気などなかったわね」

 

タリア艦長が鋭い声で指示を飛ばす。

 

ジブリールにとって、降伏勧告など時間稼ぎの道具ですらなかったのだ。

 

モニターに映し出されたのは、水平線を埋め尽くさんばかりの「鉄の津波」だった。

 

空を裂く無数の長距離ミサイル。

 

それを追うように、ウィンダム、ダガーL、105ダガーといった連合の主力MS部隊が雲霞のごとく押し寄せる。

 

海面下では、水中用MSフォビドゥンヴォーテクスの大部隊が、鮫の群れのようにソナーを埋め尽くしている。

 

さらに、海岸線を防衛するのは、ザムザザー、ゲルズゲー、ユークリッドといった巨大MAの混成部隊。

 

ダイダロス基地やオーブで見せた戦力が、ここでは倍以上の密度で展開されていた。

 

だが、ブリッジの空気を最も凍りつかせたのは、その奥から立ち上がった巨影たちだった。

 

「光学センサー捕捉! 大型可変MA、デストロイ! ……その数、いち、に……」

 

アーサーが震える声でカウントし、絶叫する。

 

「は、8機!? デストロイが8機確認されました!!」

 

「8機ですって!?」

 

ミーアが驚愕に目を見開いた。

 

彼女の知る「運命」の知識では、ヘブンズベースに配備されているデストロイは5機のはずだった。

 

「ジブリールの奴、なりふり構わずか!」

 

アスランが歯噛みする。

 

5機でも脅威的な戦略兵器が、8機。

 

それらが一斉に円盤状のバックパックを展開し、長距離ビーム砲の砲門をこちらに向けている。

 

それはまさに、世界を焼き尽くすための地獄の壁だった。

 

「……くっ、想定以上ね。けれど!」

 

ミーアはすぐに動揺を振り払った。

 

数が増えようと、ここで引くわけにはいかない。

 

「総員、戦闘用意! MS隊、発進! ……来ますわよ!」

 

彼女の警告と同時に、水平線の彼方が閃光に包まれた。

 

8機のデストロイによる斉射。

 

そして無数のミサイルとビームの豪雨。

 

交渉決裂。

 

ヘブンズベース攻略戦は、開戦の合図と同時にクライマックスのような総力戦の様相を呈して幕を開けた。

 

 

◇◇◇

 

 

事前情報にあったヘブンズベースの対空防御システム、通称『ニーベルング』。

 

上空へと扇状に展開されるその広域掃射システムの存在が示唆されていたため、ザフト軍は定石である軌道上からの降下作戦を選択できなかった。

 

降下部隊は事前にジブラルタルへと降ろされ、海上及び陸上からの進軍部隊へと再編されている。

 

正面からの激突。それは避けられない消耗戦を意味していたが、彼らには退く道などなかった。

 

「MS隊、順次発進! 空と海から敵防衛ラインを食い破れ!」

 

各艦の艦長たちの号令一下、無数のMSがハッチから飛び出した。

 

空にはディン、バビ、そしてグフイグナイテッドの大編隊が雲を割り、海中からはグーン、ゾノ、アッシュといった水陸両用MS部隊が、敵のフォビドゥンヴォーテクスに対抗すべく潜行していく。

 

ザクウォーリアの部隊もグゥルに乗り空を疾走し、彼我の戦力は巨大な波となって激突した。

 

そして、この戦いの趨勢を決める切り札たちもまた、ミネルバのカタパルトから解き放たれる。

 

「シン・アスカ、デスティニー! 行きます!」

 

「レイ・ザ・バレル、レジェンド! 発進する!」

 

「ハイネ・ヴェステンフルス、デスティニーインパルス! 出るぜ!」

 

「アスラン・ザラ、セイバー! 出る!」

 

「ミーア・キャンベル、プロヴィデンス! 行きますわよ!」

 

「ルナマリア・ホーク、コアスプレンダー! 行くわよ!」

 

真紅の翼、伝説、そして救世主と摂理。

 

世界最強クラスのMSたちが次々と戦場へと舞い上がり、敵の大軍勢へと突っ込んでいく。

 

一方、その激しい発進シークエンスの喧騒から取り残されたミネルバの格納庫。

 

そこには、出撃を見送られた機体と、パイロットたちの姿があった。

 

カオス、アビス、ガイア。

 

そして、ムウ・ラ・フラガの乗る予備のインパルス。

 

それらは静かにハンガーに係留されたままだ。

 

「……シン、行っちゃう」

 

ステラが寂しげに、閉じていくハッチを見つめていた。

 

彼女の横にはアウルとスティングも、どこか手持ち無沙汰な様子で立っている。

 

本来なら、彼らは最強の生物兵器として最前線に投入されるはずの存在だった。

 

「俺たちは『お留守番』かよ。……腕が鳴るのになぁ」

 

スティングが軽く憎まれ口を叩くが、その表情には以前のような戦闘への病的な渇望はない。

 

それをなだめるように、ムウが彼らの肩に手を置いた。

 

「いいんだよ、お前らは。……ここが一番安全だからな」

 

ムウは優しく、しかし確固たる意志を持って諭した。

 

「ミーアちゃんはお前らを『兵器』として拾ったんじゃない。『人間』として生きさせるために保護したんだ。……本当にヤバイ時以外、お前らが血を流す必要はねぇ」

 

戦力として数えれば、彼ら3人とムウが加われば盤石だろう。

 

だが、ミーアもアスランも、それを良しとはしなかった。

 

彼らはもう、薬で縛られ、戦うことを強制される道具ではない。

 

「シンたちを信じて待っててやんな。……あいつらは強いぜ?」

 

ムウの言葉に、ステラはコクリと頷き、アウルとスティングも「しゃーねぇな」と苦笑いした。

 

彼らは「守られる側」として、しかし仲間を信じる「家族」として、艦の中からその戦いを見守ることとなった。

 

 

◇◇◇

 

 

水平線を埋め尽くす「鉄の津波」に対し、真っ向から突っ込んだのは、真紅の翼を広げた二機の「運命」だった。

 

「遅いんだよ、そんな動きじゃあッ!!」

 

シン・アスカの駆るデスティニーが、残像を残すほどの超加速でデストロイの懐へと潜り込む。

 

巨体から放たれる無数のビームは、すべて残像を貫くだけ。

シンは背中の対艦刀『アロンダイト』を引き抜くと、雄叫びと共にデストロイの正面に肉薄した。

 

「うおおおおおッ!!」

 

一閃。

 

巨大な円盤状のバックパック、その接続部が両断され、轟音と共に海へと落下する。

 

武器を失い、バランスを崩したデストロイが振り向こうとしたその顔面に、デスティニーの左手が突き出された。

 

掌部ビーム砲『パルマフィオキーナ』。

 

ゼロ距離からの青白い閃光が、デストロイの頭部を破壊する。

 

「ヒューッ! やるねぇシン! ……だが、俺も負けてらんねぇな!」

 

ハイネのデスティニーインパルスもまた、戦場を舞台のように舞っていた。

 

『ヴォワチュール・リュミエール』による光の翼を羽ばたかせ、重力を無視したような機動でデストロイの巨体を翻弄する。

 

敵パイロットが目で追うことすらできない死角から、ハイネはエクスカリバーを振るった。

 

「デカい図体はいい的だぜ! ……そらそらそらっ!」

 

右腕、左脚、そして胴体。

 

踊るような連撃で、デストロイはダルマ落としのように解体され、爆散した。

 

「息が合ってきたな、ミーア」

 

「ええ、レイ! このまま行きますわよ!」

 

中央では、白き『レジェンド』と、重厚な『プロヴィデンス』が、オーケストラの指揮者のように戦場を支配していた。

 

二機から放たれた無数のドラグーンが、複雑怪奇な軌道を描いてデストロイを取り囲む。

 

陽電子リフレクターの死角、あるいは発生の隙間を縫い、ビームスパイクが突き刺さる。

 

ビームサーベルを抜き、すれ違いざまに巨体の関節を切り裂く。

 

二人の卓越した空間認識能力がリンクし、デストロイは自らの防御システムを嘲笑われるかのように蜂の巣にされた。

 

「ルナマリア、今だ!」

 

「了解ッ! ……メイリン、ソードシルエット射出!」

 

アスランのセイバーが、MA形態での高速旋回でデストロイの注意を一身に引きつけ、ビームの射線を誘導する。

 

その隙に、ルナマリアのフォースインパルスが突撃。

 

ミネルバから射出されたソードシルエットと空中で交差する一瞬、彼女はそこから『エクスカリバー』のみを引き抜いた。

 

「フォースの機動力に、ソードの破壊力……! これならッ!!」

 

高機動のまま振るわれた対艦刀の重撃。

 

注意を逸らされていたデストロイは反応できず、胴体を深々と斬り裂かれ、海中へと沈んでいった。

 

会敵からわずか数分。

 

世界を絶望させた「8機の破壊神」のうち、既に半数が鉄屑となって海に消えた。

 

「な、なんだ奴らは……! MA隊、何をしている! 止めろ! 奴らを止めろぉッ!」

 

パニックに陥る司令部からの通信を受け、ザムザザー、ゲルズゲー、ユークリッドといった大型MA群が立ち塞がる。

 

だが、デストロイすら圧倒するエースたちにとって、それらはもはや脅威ですらなかった。

 

「図体ばかりデカくて、動きの鈍い木偶の坊が!」

 

「ボーナスタイムね!」

 

ハイネが笑い、ミーアがドラグーンを走らせる。

 

まさに狩り放題。

 

次々と爆炎が上がり、鉄壁であるはずの防衛ラインに巨大な風穴が開けられた。

 

「道は開いた! ……全軍、突入せよ!!」

 

デュランダルの号令と共に、後続のザフトMS部隊が、抉じ開けられた穴へと殺到する。

 

戦場の舞台は、血に染まった洋上から、ロゴスの最後の牙城、ヘブンズベースの地上へと移行していった。

 

 

◇◇◇

 

 

上空を埋め尽くすミサイルとビームの嵐。

 

ヘブンズベースの海岸線は、上陸しようとするザフトMS部隊と、それを阻む地球連合軍のMS部隊の激突によって、鉄と炎の壁となっていた。

 

「雑魚は一般機に任せろ! 俺たちはデカブツを叩く!」

 

ハイネの檄が通信回線に飛ぶ。

 

ウィンダムやダガーLといった量産機相手ならば、ザフトのグフ、ザク部隊でも十分に渡り合える。

 

しかし、デストロイや大型MAの圧倒的な火力と陽電子リフレクターは、通常のMSにとっては死の宣告に等しい。

 

それらを無力化できるのは、ミネルバ隊のエースたちだけだった。

 

「そこだぁぁぁッ!!」

 

シン・アスカのデスティニーが、戦場を真紅に染め上げながら突っ込む。

 

行く手を阻もうとしたザムザザー。

 

その陽電子リフレクターを、シンは実体剣であるアロンダイトで強引に叩き割ると、そのままの勢いで本体を両断した。

 

「邪魔なんだよッ!」

 

爆炎を突き抜け、その奥に控えていたデストロイの懐へ。

 

デスティニーの超反応速度は、巨体が照準を合わせるコンマ数秒の隙すら許さない。

 

至近距離からのパルマフィオキーナが炸裂し、6機目のデストロイが沈黙する。

 

「やらせないわよ!」

 

上空では、ルナマリアのインパルスがライフルを連射し、ユークリッドの動きを牽制。

 

そこへ、MA形態で突撃してきたアスランのセイバーが変形し、ビームサーベルで斬りつけて撃墜する。

 

「ルナマリア、次だ! 左翼のゲルズゲーを!」

 

「了解!」

 

息の合ったコンビネーションで、大型MAを次々とただの鉄屑へと変えていく。

 

そして、最も厄介な防衛拠点となっていた丘陵地帯。

 

そこには残り2機のデストロイが陣取り、十字砲火でザフトの上陸部隊を釘付けにしていた。

 

「厄介ですね。あの配置」

 

「ええ。ですが……死角がないわけではありませんわ!」

 

レイのレジェンドと、ミーアのプロヴィデンス。

 

ドラグーンシステムを搭載した二機が、左右から同時に展開した。

 

「行けッ!」

 

「踊りなさい!」

 

ドラグーンが、物理法則を無視したような軌道で空を舞う。

 

正面からのビームをリフレクターで防ごうとしたデストロイだが、真上、真横、背後からのオールレンジ攻撃には対応できない。

 

ビームスパイクが防御膜の発生器をピンポイントで破壊し、ビームの雨が装甲を削り取る。

 

「装甲が厚かろうと、関節を潰せば動く棺桶だ」

 

レイの冷徹な言葉通り、膝関節と腕部を破壊されたデストロイが崩れ落ちる。

 

そこへ、トドメとばかりにミーアのプロヴィデンスが大型ビームサーベルを一閃。胴体を焼き切った。

 

「こ、こいつら……化け物か!?」

 

「大型機が……全滅だと!?」

 

ヘブンズベース守備隊の通信網に絶望が走る。

 

最強の盾であり矛であったデストロイ8機は全滅。

 

随伴していた大型MA群も、エースたちの草刈り場となって消滅した。

 

「道は開けたぜ! 全機、突入!!」

 

ハイネのデスティニーインパルスが、先陣を切って基地施設内へと踊り込む。

 

最大の脅威が排除された今、数に勝るザフトのMS部隊が、堰を切ったようにヘブンズベース内部へと雪崩れ込んでいった。

 

 

 

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