ミーア・キャンベル()の憂鬱   作:星乃 望夢

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STAGE:45 月夜の侵攻

 

アフリカ共和国オルドリン自治区、プラント経済特区。

 

ほんの数時間前まで、そこには平和な日常があった。人々は働き、笑い、明日の予定を語り合っていた。

 

だが今、その街は地獄の釜の底と化していた。

 

空を引き裂くミサイルの雨が、高層ビルをいとも容易く粉砕する。

 

爆煙と土煙が太陽を覆い隠し、昼間だというのに世界は薄暗いセピア色に染まっていた。

 

「逃げろ! 早く!」

 

「こっちだ! 地下シェルターへ急げ!」

 

鳴り響くサイレンと、人々の悲鳴。瓦礫と化したかつての我が家を踏みしめ、逃げ惑う群衆。

 

その背後から、鋼鉄の足音が迫る。

 

ビームライフルを乱射し、逃げ遅れた車両を蹴散らしながら進撃してくるのは、ロゴス残党が駆る「105ダガー」の群れ。

 

上空では「ウィンダム」が我が物顔で飛び回り、迎撃に上がったザフトの旧式機「ディン」を次々と撃ち落としていく。

 

「くそっ! 数が違いすぎる!」

 

「こちらの火器じゃ、奴らの装甲を抜けん! 本部の救援はまだか!?」

 

現地のザフト駐留軍も奮戦していた。だが、彼らに配備されていたのは「ジン」や「ザウート」といった、二世代も前の骨董品ばかり。最新鋭の連合製MSを相手にするには、あまりにも分が悪すぎた。

 

そして、絶望はそれだけではなかった。

 

大地を揺るがす轟音と共に、ダガーの隊列の背後から、禍々しい黒い影が聳え立った。

 

巨大な円盤状のバックパック、全身を覆う重厚な装甲、そして全身に満載された火器。

 

「な、なんだあれは……でかすぎる……!」

 

「デストロイ……! まだ残っていたのか、あんな悪魔が!」

 

破壊の巨神、「デストロイ」。

 

その胸部の複相ビーム砲が赤く輝いた瞬間、駐留軍の陣地が一つ、光の奔流に飲み込まれ、跡形もなく蒸発した。

 

「ひ、ひぃぃっ!」

 

打ち倒されたジンの陰、逃げ惑う人々が恐怖に震え上がる。

 

その目の前に、一機のウィンダムが降り立った。

 

パイロットは、眼下の人々をセンサーで捉える。だが、彼の中に躊躇いはない。

 

彼らにとってコーディネイターは人間ではない。遺伝子を弄った、忌むべき化け物なのだから。

 

ウィンダムがビームライフルの銃口を人々に向ける。

 

恋人や家族を庇い、人々が目を瞑った──その時だった。

 

一条の閃光が、天空から真っ直ぐに降り注いだ。

 

正確無比な狙撃は、引き金を引こうとしていたウィンダムの頭部メインカメラを貫き、爆散させる。

 

「なっ……!? どこからだ!」

 

ロゴスの兵士たちが慌てて空を見上げる。

 

爆煙と土煙に覆われた空の彼方。月明かりが雲の切れ間から差し込み、そこに集う新たな「力」の姿を照らし出した。

 

「あれは……!?」

 

先頭を翔けるのは、鮮烈なトリコロールカラーの機体。

 

可変機構を持つ鋭角的なフォルムの「ライジングフリーダム」。パイロットは、キラ・ヤマト。

 

その隣には、深紅に染まったもう一つの正義、「イモータルジャスティス」。駆るのは、シン・アスカ。

 

後続には、ザフトの最新鋭量産機が続く。

 

赤い「ゲルググメナース」にはルナマリア・ホーク。

 

青白い「ギャンシュトローム」にはアグネス・ギーベンラート。

 

歴戦の勇士ハイネ・ヴェステンフルスは、パーソナルカラーであるオレンジの「グフイグナイテッド」で。

 

そしてレイ・ザ・バレルは、純白の「ドラグーン搭載型ザクファントム」で、静かに闘志を燃やす。

 

世界平和監視機構コンパス、主力部隊の到着だ。

 

だが、地上の人々が最も目を奪われたのは、その部隊のさらに先頭。

 

月光を浴びて白銀に輝く、巨大な翼を広げたMSの姿だった。

 

かつての大戦を終わらせた伝説の機体、「フリーダム」。

 

しかし、その翼は本来の青ではなく、清廉な白に染め上げられている。

 

そのコクピットで、ミーア・キャンベルは静かに地上を見下ろした。

 

燃える街、怯える人々、そして、破壊を撒き散らす黒い巨神デストロイ。

 

「……また、こんなことを」

 

彼女の瞳に、悲しみと、それ以上の強い怒りが宿る。

 

彼女はコンパスの通信回線を開き、凛とした声で告げた。

 

「コンパスMS隊、各機、戦闘を開始してください! 対象はロゴス残党軍、およびデストロイ! ……これ以上の破壊は、私たちが食い止めます!」

 

ミーアの駆る白い翼のフリーダムが、スラスターを吹かし、真っ先に戦場へと急降下を開始した。

 

絶望の夜を引き裂く、希望の白き流星となって。

 

 

◇◇◇

 

 

「こちらは世界平和監視機構コンパス。攻撃部隊に告ぐ。ただちに戦闘を停止せよ。繰り返す、攻撃部隊は戦闘を停止せよ──」

 

月明かりと地上の火災が混ざり合う混沌の空。

 

降下しつつあるライジングフリーダムのコックピットから、キラ・ヤマトの凛とした、しかし痛切な響きを帯びた声がオープンチャンネルで響き渡った。

 

眼下に広がるオルドリン自治区の惨状は、モニター越しに見ても目を覆いたくなるほどだった。

 

美しい街並みは瓦礫の山と化し、各所から黒煙が上がり、逃げ惑う人々の悲鳴がセンサーに拾われる。

 

攻撃を行っているのは、ブルーコスモスに属する武装勢力。

プラントと地球連合の間で正式な停戦協定が結ばれた後も、彼らは自らの歪んだ正義を捨てず、武装解除を拒否して各地で破壊活動を繰り返していた。

 

『言ったって無駄だぜ、キラ。やっこさんら、俺達を同じ人間と思っちゃいねぇんだからさ』

 

サブモニターに映し出されたハイネ・ヴェステンフルスが、オレンジ色のグフイグナイテッドのコクピットで皮肉げに鼻を鳴らした。

 

「でも、オルドリン地区にはナチュラルだっているんだ。それなのにこんな……」

 

キラが操縦桿を握る手に力を込める。

 

ここは経済特区であり、コーディネイターとナチュラルが共存している街だ。

 

それを無差別に焼き払う行為に、キラは胸が締め付けられる思いだった。

 

『連中としちゃ、化け物と笑って暮らしてる連中も同類なんだろうさ。ハッ、反吐の出る話だぜ』

 

ハイネが吐き捨てるように言った。彼のような歴戦の兵士にとって、ブルーコスモスの狂信的な思想は最も忌み嫌うべきものだった。

 

『それより気をつけろ。レアなデカブツが混じってるぜ?』

 

ハイネの声色が、戦士のそれに変わる。

 

「うん。見えてるよ」

 

キラは短く答えた。

 

言われるまでもない。月明かりと炎に照らされ、ダガーやウィンダムの群れの中に聳え立つ、その禍々しい巨影を見間違うはずがなかった。

 

「まだ、こんなものを……」

 

破壊の巨神、デストロイ。

 

たった一機で都市を焦土に変える、動く戦略兵器。

 

今また目の前にその破壊の巨神が現れたのだ。

 

その巨体に設置された無数の砲口が、降下してくるコンパスの部隊へと向けられた。

 

目も眩むような閃光が夜空を引き裂いた。

 

胸部の複相ビーム砲、背部の円盤から放たれる高エネルギー砲。それらが束となり、暴風のような弾幕となってコンパスMS部隊を襲う。

 

だが、彼らは選りすぐりの精鋭たちだ。

 

キラを筆頭に、シン、ルナマリア、アグネス、ハイネ、レイ。そして、白き翼のミーア。

 

彼らは示し合わせたように瞬時に散開し、デストロイの放った死の光は、誰の機体も捉えることなく虚空を灼いた。

 

「くっ……!」

 

キラは歯噛みした。

 

あの巨体を放置すれば、街の被害はさらに拡大する。

 

彼はライジングフリーダムのスラスターを最大出力で噴射させ、自ら囮となるように、巨大な死神の懐へと真っ直ぐに突っ込んでいった。

 

 

◇◇◇

 

 

「やめろぉぉッ!!」

 

シン・アスカの咆哮と共に、イモータルジャスティスが滑り込むように降下する。

 

逃げ惑う市民の背後から迫っていた105ダガーの機銃掃射。

 

シンはとっさにシールドを構え、その身を挺して雨のような銃弾を受け止めた。

 

衝撃がコクピットを揺らすが、フェイズシフト装甲を展開したジャスティスにとっては痛くも痒くもない。

 

だが、その背後にいるのは生身の人間だ。

 

一発でも逸れれば、彼らの命はない。

 

「くそっ、何でこんな……!」

 

シンは歯を食いしばりながら、シールドの隙間からビームライフルを放つ。

 

正確な射撃がダガーのメインカメラを砕き、続く二発目がコクピットを貫いた。

 

「アグネス! 市民の退路を確保する! 援護しろ!」

 

立て続けに二機の敵頭部を吹き飛ばし、ビームサーベルを抜いて肉薄してきた別の一機を袈裟懸けに斬り捨てながら、シンは通信機に向かって叫んだ。

 

「ハァ? 何言ってるのよ!」

 

しかし、返ってきたのは苛立ちを含んだアグネスの声だった。

 

「私のギャンは接近戦用! 射撃戦でチマチマ守るなんて柄じゃないわ! 援護は射撃が得意なアンタがやりなさいよ!」

 

「なっ……テメェ!」

 

アグネスのギャンシュトロームは、シンの指示を無視して敵の集団に突っ込んでいく。

 

確かにその腕は確かだ。ビームアックスとシールドを巧みに操り、敵を次々と撃破している。

 

だが、それは「守る戦い」ではなく、己の撃墜数を稼ぐための「独り善がりの戦い」に見えた。

 

一方、ルナマリアのゲルググメナースは、冷静に威嚇射撃を行いながら、市民を地下シェルターへと誘導している。

 

連携が取れているようで、どこかチグハグな前線。

 

その時、頭上から轟くような爆音と、夜空を灼く極太のビームが奔った。

 

シンはハッとして空を見上げる。

 

そこには、二つの「自由」が舞っていた。

 

キラの駆る『ライジングフリーダム』。

 

そしてミーアの駆る白き『レイジングフリーダム』。

 

二機はまるで示し合わせたかのように左右に展開し、デストロイガンダムの弾幕を紙一重で回避しながら、護衛のウィンダムたちを次々と撃ち落としていく。

 

互いが互いの死角をカバーし合う、阿吽の呼吸。

 

圧倒的な火力を持つデストロイを相手に、二人は一歩も引かず、むしろ翻弄している。

 

『ボサッとするなシン! デカブツはアイツらに任せりゃ良い! 任された仕事はきっちりやれよ?』

 

「は、はい!」

 

ハイネの叱咤が飛ぶ。

 

我に返ったシンは、再び目の前のダガーへとライフルを向けた。

 

だが、引き金を引く指には、焦燥感がこびりついて離れない。

 

(また、これかよ……)

 

出撃前のブリーフィング。

 

ミーアから下された指示は、シンたちによる「政府施設の防衛」と「市民の避難誘導」。

 

そして、最大の脅威であるデストロイと敵主力の排除は、キラとミーアが受け持つことになった。

 

「適材適所」と言われればそれまでだ。

 

だが、シンにはそれが、体のいい「留守番」に思えてならなかった。

 

(俺だって、あの二人の横で……!)

 

イモータルジャスティスは、最新鋭の素晴らしい機体だ。

 

反応速度も、火力も、以前の機体とは比べ物にならない。

 

だが、何かが足りない。

 

コクピットの中で感じる、あの「手足のように馴染む」感覚。

 

どんな強敵が相手でも、絶対に負けないと思わせてくれた、あの紅蓮の翼の記憶。

 

(もし、俺に『デスティニー』があれば……)

 

もしあの機体があれば、後方で守りに徹するだけでなく、あの空へ駆け上がり、二人の間に割って入って、その背中を守れたのではないか。

 

あの二人だけに、全てを背負わせずに済んだのではないか。

 

「くそっ!!」

 

シンはやり場のない怒りを叩きつけるように、迫りくるウィンダムを蹴り飛ばした。

 

無い物ねだりをしても仕方がない。分かっている。

 

それでも、空を見上げるシンの瞳には、焦がれるような「力」への渇望が渦巻いていた。

 

 

 




ミーアじゃないですけど、私も変えまくった現状に対して袋小路に陥っていますわ。

ジャガンナートの動きやアコードたちの世界を従わせようとする手段は考え付いているのですけど、そこまでに至るまでの物語をどう描けば良いのかという部分で頭を悩ませてますね。

取り敢えずお茶濁ししながら、投稿頻度が鈍亀の如く落ちるのはご勘弁願えれば幸いです。
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