帝国暦488年7月10日、銀河帝国の内戦における貴族連合軍の拠点の一つであるレンテンベルク要塞はラインハルト軍の名将ミッターマイヤー、ロイエンタール両名の手により陥落した。同要塞に守将として駐屯していた装甲擲弾兵総監オフレッサー上級大将も捕虜となりそのまま処断されるかに思われたのだが……
「釈放だと?何のつもりだ。金髪の小僧め……」
独房から出されたオフレッサーは手錠を外され長距離小型艇の前に立たされた。
「元帥閣下の御配慮に感謝することですな、これに懲りて賊軍から身を引く事が賢明でしょう……」
オフレッサーを連行してきた装甲擲弾兵の小隊の中尉が皮肉を飛ばした。
「フン…!こんな事でありたがって宗旨変えすると思っているのか?」
オフレッサーは鼻を鳴らし長距離小型艇に素直に乗り込み、ラインハルト軍の艦隊から離脱した。
「配慮だと……生意気な金髪の小僧め……!精々今のうちに勝ち誇るがいい、次に会ったら今度こそ俺のトマホークで貴様の頸を刎ねてやる…!」
オフレッサーはガイエスブルクに向かう航路に舵を切ろうとしてふと手を止めた。
「待て…?小僧にとってこのまま俺がガイエスブルクに戻らせるメリットは何だ?もしかして釈放されたのは俺が小僧と何らかの密約を交わしたからこそ解放されたとブラウンシュヴァイク公に勘違いさせる為?有り得ん話では無い。公の性格なら確実にそう捉える、もし小僧が俺の釈放を喧伝したら……!」
このまま戻ればオフレッサーは間違い無く貴族連合軍の銃口でもって出迎えられる未来が想像出来た。
「くそ!小僧め……悪辣な事を考えおって……!どうする?速やかに公に弁解を……いや、無理だあの御仁は一度自分がそう思ったら己の家臣の言すら聞かん、なら小僧に投降する……それこそ耐え難い屈辱よ!それにあの小僧も認めまい」
オフレッサーは頭を抱え、そして一つの結論に至った……
「……亡命、しかあるまい。フェザーンでは無く叛乱軍、いや同盟軍に……か」
オフレッサーも決して無能では無く優秀ではある。だが昨日までの敵軍に身を投じるのは容易には判断し難いのは人として当然であった。
「……だが、このままガイエスブルクに戻ってもブラウンシュヴァイク公に殺されるだけ……なら行くか、イゼルローンに……確かイゼルローンの司令官はヤン・ウェンリー大将とかいったな。些か風変わりな人物と聞くが……頼ってみよう」
そうしてオフレッサーは進路を変えイゼルローン要塞に向けた。この決断が銀河の歴史にどう影響するか解らない、だが少なくともオフレッサー個人の辿る運命が変わったのは確かであった……銀河の歴史がまた1ページ……