宇宙暦797年9月救国軍事会議によるクーデターの鎮圧に伴う残務処理を終えたヤン提督率いる第十三艦隊はイゼルローン要塞へ帰還し、留守を預かっていた要塞司令官代理のキャゼルヌ少将と亡命してきたメルカッツとメルカッツの乗艦ネルトリゲンに乗っていた乗員、オフレッサーの出迎えを受けた。
「お疲れ様でした。ヤン提督」
最初にキャゼルヌが前に出てヤンに敬礼した。
「留守番ご苦労さまでした。キャゼルヌ先輩、慣れない要塞司令官代理をこなしてくれて助かりました」
ヤンも答礼しキャゼルヌに握手を求めた。
「全くだ。こんな重責二度とやりたくないぞ……ハイネセンの秩序は一応回復したみたいだな」
キャゼルヌもヤンの求めに応じて握手をした。
「えぇ、ヨブ・トリューニヒトが再び最高評議会議長に返り咲いて政府機能はもとに戻りましたが……」
ヤンは苦々しく呟く。
「まぁ言いたい事はあるだろうが、先ずは彼等の方を片付けてからな」
キャゼルヌは振り返って合図するとオフレッサー達は頷いてヤンの前に進み出て敬礼した。
「ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツです。この度は亡命を認めて頂き感謝申し上げます」
「オフレッサーであります。甞ての敵に対し亡命を認める寛大な処置、閣下の御配慮。誠に感謝の念に堪えません」
「ヤン・ウェンリー大将です。お二人も色々思う事がお在りでしょう。ですがどうかご心配無く、お二人の身柄はヤン・ウェンリーが責任を持って預かります」
ヤンも答礼し、そう告げた。
「閣下、厚かましくありますが私の艦……ネルトリゲンに乗艦していた部下達には是非寛大な処置をお願いしたく」
メルカッツは姿勢を正しヤンに部下の処置を願う。
「勿論です。乗員にはこのまま同盟軍に編入するか、民間人として生活するかを選んでもらいますが暫くは此方の言語、貨幣価値、社会システムを学んで貰います。無論その間に発生する衣食住もサポートします」
「……感謝します」
メルカッツは頭を下げた
「オフレッサー上級大将でありますな?」
側で聞いていたオフレッサーにシェーンコップが話しかけてきた。
「ん?卿は……」
オフレッサーは目の前の同盟軍軍人が自分と同じ兵種だと本能的に悟った。
「自分はワルター・フォン・シェーンコップ少将であります。閣下の勇名は聞き及んでおりました」
シェーンコップは敬礼して言った。
「ほう……卿が薔薇の騎士(ローゼンリッター)の連隊長か、卿らの噂は俺も聞いておるよ。同盟軍最強の陸戦隊だとな」
オフレッサーも答礼し獰猛な笑みを浮かべた。
「閣下こそトマホーク一本で上級大将に上り詰めたその武勇伝、是非聞きたいですな。トレーニングルームで」
「良いだろう、とことん付き合ってやるぞ少将?同盟軍最強の名、是非試してみたいと思っていた」
シェーンコップとオフレッサーは互いに不敵な顔で対峙した。
「コホン……!!それよりも閣下、お二人に伝えねばならぬ事があるのでは?」
ムライ少将が咳払いしてヤンに告げた。
「あぁ、そうだね。では会議室に行こうか、お二人にも関係してますので……」
会議室に着き全員が座るとヤンが口を開いた。
「まだこれは公式には報道されていないが、フェザーンからの非公式なニュースによれば帝国宰相リヒテンラーデ公が失脚した」
ヤンが告げると幕僚達はざわめいた。だがオフレッサー、メルカッツは驚かなかった。
「……お二人は驚かないので?」
ムライ少将が二人に尋ねる
「……いえ、何れはそうなるとは思っておりました」
「金髪の小僧……失礼、ローエングラム公とリヒテンラーデ公はあくまでもブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム候両名に対抗する為に手を組んでいたにすぎませぬ……因みに閣下、罪状はどの様になっておりますか?」
「少なくともローエングラム公暗殺未遂の首謀者と伝えられていたね」
オフレッサーはその言葉に頷いた。
「あながち間違って無いと思います。貴族連合が消滅した今リヒテンラーデにとって奴は用済みでしょうから、最も機先を制されたみたいですが……」
「……ではこれからローエングラム公による一強体制が確立すると……」
幕僚の誰かが呟いた。
「間違い無くそうなるでしょうな」
オフレッサーは頷いた。