宇宙暦797年 帝国暦488年十月フェザーン自治領は帝国、同盟双方の内乱など関係ないとばかりに平和を謳歌していた。大多数のフェザーン市民は内戦による株価の変動を気にする以外には外側に感心を向けなかった……自治領主以外は……
「さて……報告して貰おうかね、ボルテック補佐官?」
高価な椅子に座り高価な机に手を置いたルビンスキー自治領主は目の前の部下に報告を促した。
「はい、ルビンスキー自治領主閣下。まずは帝国ですが貴族連合軍は完全に崩壊……ブラウンシュヴァイク公やリッテンハイム候と言った主だった大貴族は勿論、中堅以下の貴族も戦死、或いは降伏してローエングラム軍の監視下に置かれました。又リヒテンラーデ公もローエングラム公暗殺の容疑を掛けられ失脚の後自裁に追い込まれました。これにより銀河帝国はローエングラム公の独裁体制になりました」
「ふむ、予想よりも速くリヒテンラーデ公を排したなローエングラム公は……まぁそうなる事は予想していたから驚きはしないが……ローエングラム公に付いた貴族はどうなってる?」
「そちらは今の処大人しくローエングラム公に従っています。と言ってもその殆どが下級貴族で彼等を取り纏めているのはマリーンドルフ伯爵です。今更ローエングラム公に叛逆する気力すら無いでしょう」
「成る程……帝国の財政はどうだ?今回の内戦で馬鹿に出来ない戦費が出たと思うが?」
「それも問題無いと思われます。大貴族が滅びた事により彼等が保有していた財宝が没収されて国庫に納められました。五〇〇年に及ぶ財宝ともなるとその金額は凄い事になりそうです」
「フ……残念だな、金を貸し付けるチャンスだったのだかな。まぁ良い、同盟はどうなった?」
「こちらはかなり悲惨です。救国軍事会議を名乗っていたクーデター軍と体制側のヤン艦隊の戦いはヤン提督の勝利に終わりましたが同盟にとって数少ないナンバーズ・フリートの第十一艦隊はクーデター軍に参加したせいで艦隊は壊滅、ハイネセンに据え付けていたアルテミスの首飾りも破壊されました。少なくとも以前の様な規模に回復させるなら三十年……いや、下手をしたら百年はかかるかもしれません」
「なら、今後は同盟に復興基金と称して金を貸し付けてやるか……」
「閣下それでなんですが今回内乱で同盟に亡命した者がかなりいまして……」
「ん?まぁ、規模が規模だからな……幾ら帝国が取り締まろうが亡命者は出るわな、それで?大物でも亡命したのか?」
「殆どは下級貴族ですが、その中にメルカッツ提督とオフレッサー上級大将がヤン提督を頼って亡命してきました」
「待て、メルカッツ提督は俺でも判るがオフレッサーとは誰だ?記憶に無いが……」
「彼の者は官職は装甲擲弾兵総監を務めていました。同盟ではミンチ・メーカーの名で知られていますが」
「あぁ、思い出した。ローエングラム公嫌いの急先鋒の男だったな、白兵戦のプロだったか?しかし意外だな、奴は典型的な帝国軍人だったと思うが……」
「どうもローエングラム公の計略に嵌められたそうで……一度ローエングラム軍に捕らえられた後釈放されましたがその後貴族連合軍に戻らず行方不明となっていました」
「ふむ……」
「……何らかの工作をいたしますか?」
「……いや、良い。メルカッツ提督ならいざ知らずトマホークを振り回すだけの陸戦指揮官に大勢は影響しないだろうよ」
そう言ってルビンスキーはオフレッサーの事を記憶から消した。それを傲慢と言うには酷な話であるがこの亡命がルビンスキーの計算の歯車を狂わせるとは生涯思わなかっただろう……銀河の歴史がまた1ページ……