何の才能も無いお嬢様が「イコール」に出会った話   作:貴方

1 / 5
第0話 あの時のママの話

「イコール」。

それは1人の大天才が開発した次世代の競技。

仮想空間で戦う戦闘シミュレーション。

その登場から一気に世界中に広まった大人気競技である。

 

同じような戦闘シミュレーションはずっと前から何個もあった。

だが、「イコール」は他のシュミレーションとは一線を画す特徴を持ち合わせており

それゆえに老若男女問わず遊びやスポーツとしても根付くほど人気になっている。

 

だから「イコール」の登場から光のような速さで世界規模のプロリーグが設立された。

 

「パパ早く!ママの試合が始まっちゃう!」

 

美しい金色の長髪を靡かせる幼い少女。

竜瞳(りんどう)リュウカは父の手を力いっぱい引いて満員のスタジアムの観客を掻き分けて進む。

 

リュウカの父は呆れた声を出す。

 

「だから、家から応援しようって言っただろ。

ママも生で見るより迫力あるって言ってたぞ」

 

「でも現地で見たかったの!」

 

リュウカが急ぐ理由は1つ。

ママの勇姿を見逃すかもしれないから。

だが、その心配は杞憂に終わる。

 

「間に合った!」

 

ママが用意してくれた

ママを1番近くで見れる特等席。

そこに辿り着いた瞬間に会場のスピーカーが鳴り響いた。

 

『さぁ、ついに始まったーッ!!!

伝説となる「イコール」プロ昇格戦!!!

かたや女性、かたや中学生!!!

どちらが勝っても「イコール」史上初!!!』

 

漆黒の鎧に身を包んだ竜騎士と

9つの尾を持つ狐の獣人が対峙している。

そんなスタジアムに割れんばかりの歓声が鳴り響いた。

 

これは後に伝説として語られることが確定した試合。

 

それは、「イコール」初の女性プロ。

あるいは歴代最年少プロ。

そのどちらかが生まれる試合である。

 

竜騎士は黒いハルバードを握りしめて

狐の獣人は火の玉がついた大きな輪を背負ってコロシアムの中心で睨み合う。

 

(、、、頑張れ、ママ!)

 

緊張と昂まりにより

リュウカの顔が緊張を帯びていた。

 

会場にいる全員が見守る中、試合のゴングが鳴った。

それと同時に狐の獣人が竜騎士に飛び出した。

 

常人には見えぬ速度で振るわれた拳。

それが、甲高い金属音と共に火花を散らして竜騎士のハルバードと拮抗した。

 

【挿絵表示】

 

「ッ、、、!」

 

リュウカは思わず目を閉じた。

2人の衝突で発生した衝撃が観客席まで伝わってきたのだ。

 

急いでリュウカが目を開けるとコロシアムのあちこちで衝撃が巻き起こっていた。

互いにわずかな隙を狙う動き。

だが、どちらも致命の一撃には至らない。

 

リュウカは小さく呟きながらも

胸の鼓動を速めて手に汗を滲ませた。

 

「ママ、、、!」

 

自分が戦うわけでもないのに

息が苦しくなってくる。

震える指先を抑えるために

リュウカは手すりにしがみついた。

 

狐の獣人の肩口を黒い竜騎士が振るうハルバードがかすめた。

浅い切り傷が赤い線を刻む。

カウンターの拳は竜騎士の黒い鎧にヒビを入れる。

そんな攻防が瞬きの間に幾多も発生し

互いのHPがみるみる削られていく。

 

見ているだけで心臓が口から飛び出そうになる削り合いの消耗戦。

最初に痺れを切らしたのは狐の獣人だった。

 

敵の猛攻を強引に受けて突き出された狐の獣人の腕。

そこからゼロ距離で放たれた狐火が竜騎士の顔面に直撃し、爆発を起こす。

 

黒い破片と爆風が舞い散る。

吹き飛ばされた狐の獣人はすぐさま体勢を立て直した。

 

だが、顔を上げた瞬間に

己の致命的なミスを知る。

 

距離をとったはずの竜騎士が間近まで迫っていた。

顔を覆う鎧は砕け散り、竜騎士の表情が見えた。

 

___長く美しい金髪の女が勝利を確信し、微笑していた。

 

コロシアムの手すりから落ちる勢いで身を乗りだした少女が口いっぱいに開いて叫ぶ。

 

「いけー!!!ママーッ!!!」

 

我が子の叫びに呼応するように

竜騎士のハルバードが闇に包まれる。

それが、周りの全てを巻き込むほど巨大な黒い竜巻となってハルバードごと振り下ろされた。

 

狐の獣人はすぐさま防御姿勢を取る。

だが、目の前で巻き起こる黒い渦を見て直感した。

 

(___無理や)

 

E・F(イコールファンクション)「竜華葬」

 

ハルバードを包み込んだ黒い竜巻が唸り狂い

コロシアムを押し潰すように解き放たれる。

 

観客席の旗や髪が空に吸い上げられた。

爆風とともに巻き上がる煙、押し寄せる轟音が鳴り響く。

 

ジッと闇を見つめた狐の獣人は闇に切り裂かれ抗う間もなく消滅した。

 

スタジアムに一瞬の静寂が訪れて揺れた。

観客席から割れんばかりの歓声が爆発した。

 

歓声が耳を突き抜ける。

汗だくのリュウカの顔に笑みが咲いた。

 

E・F(イコールファンクション)炸裂ッ!!!

全ての女性の期待を背負い!!!

女王様が王手をかけたァッ!!!』

 

ひときわ高く、厚い壁のようにスタジアム全体を包み込む大喝采。

その中心にただ1人、黒い鎧を纏った勝者が凛として立っていた。

 

そんな母の姿にリュウカは全身が震えた。

 

(、、、ママが、私のママが!!!

「イコール」初の女性プロになるんだ!!!)

 

スタジアムを埋め尽くす観客を湧かせる姿。

__それが、ママの最後の輝きだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。