___あれからママは、嘘みたいに負けた。
あの戦いから10年。
幼かった少女、竜瞳リュウカは
「ハァ、、、」
リュウカは実体の無い万能技術「ジュピター」が示す矢印を辿って
涙ながらにママの仇を取ると「イコール」をやり始めた時期もあった。
だが、今やそれすらも苦い過去の思い出。
今の自分にそんな暇は無い。
絶対に成し遂げねばならぬ使命があるのだ。
「なんでD組の私がこんなこと、、、」
リュウカは少し前の出来事を思い出して身震いする。
それは、不幸にも廊下を走った所を見られて
そのまま壁にめり込んだ同級生。
あれを目の前で見てしまったからには
生徒会長の依頼を引き受けるしかなかった。
(頭もすごく良いらしいけど、、、。
普通に頭おかしいだけでしょあの人)
つい先程、間近に迫った恐怖。
それが、走馬灯の様に蓋をしていたリュウカのトラウマをフラッシュバックさせた。
コロシアムを舞う黒い羽。
鈍い音を立てて完全に折れた自分の剣。
アイツに「イコール」で負けた記憶。
「、、、何で私負けたんだろ?」
リュウカは思わず立ち止まって呟いた。
あの時のアイツは初心者同然だった。
「イコール」の仕様上、後から始めた新参者が先駆者に勝つことは極めて稀。
否、あってはならないことである。
それでも、リュウカは負けた。
初心者だったアイツに。
(私に『何』が足りなかったの?)
当たり前の疑問がリュウカの頭に浮かぶ。
突如鳴り出した「ジュピター」の忠告音によってリュウカは我に返った。
そのまま目を閉じて深呼吸をする。
(、、、よし)
音が鳴り止んだのを確認した後。
リュウカは目的地であるB組の校舎に向かって再び歩き始めた。
1つはリュウカが通う巨大なマンモス校。
そして、その中に超名門家系の子息達が通うB組の学校が存在するのだ。
長い道のりを経て
リュウカはB組校舎の校門前にたどり着いた。
「ストップ」
だが、門の前に立って武装している警備員達に行く手を止められる。
リュウカは思わず両手を挙げた。
「、、、何故、B組校舎に?」
低い男の声だった。
リュウカの背筋は凍りついて
心臓がドクンと跳ねる。
(、、、絶対に銃刀法違反でしょ)
警備員達が所持する小学生くらいデカい銃。
それほど大きな本物の銃なんて
アメリカに旅行した時の空港でしか見たことがなかった。
リュウカは冷や汗をかきながら
指で宙をなぞって「ジュピター」で1枚の電子書類を出す。
それを見た瞬間に警備員達のリュウカを見る目が変わった。
「ッ、、、!?
し、少々お待ちください!!!」
紙切れ1枚で完全に立場が逆転した。
警備員達は簡単なチェックの後で丁重にリュウカを見送りしてくれた。
中にはボディーチェックのために全力で駆けつけた女性警備員もいた。
リュウカは居た堪れなくなり、軽く頭を下げてB組校舎へと歩いていった。
「、、、頭おかしいなこの学校」
(やっぱ頭おかしいなこの学校、、、!)
リュウカの顔がひきつった。
場違いすぎて思わずたじろぐほど豪華絢爛なB組の校舎。
だが、意外にも教室内の机と椅子の数は少ないことにリュウカは気づいた。
(、、、そりゃガチの上流階級って少ないか)
1人でに納得したリュウカ。
誰でも知ってるくらい有名な画家の作品が並んだ廊下にドン引きしながら歩き続けると
目の前から矢印が消えた。
それは、「ジュピター」の道案内が終了した合図。
ついに目的地である1年B組にたどり着いた。
「教室の表札まで豪華じゃん」
リュウカは扉の前で立ち止まる。
暗く、静かで、人の気配が全くしなかった。
放課後であることもさることながら
故に、人がいないのは当たり前なのだが、、、。
(ホントに、この中にいんの?
生徒会長の妹さんが?)
思わず騙されたのではないかと疑問に駆られつつ、リュウカは扉を開く。
「お邪魔しまーす」
ガラリと開いた薄暗い教室の扉。
相変わらず無駄に豪華な内装。
少数精鋭のように並べられた机の1つで
長い黒髪の少女が眠っていた。
「本当に寝てる、、、」
リュウカは息を呑む。
足元まで伸びる黄金の髪を揺らしながら恐る恐る近づいていく。
(な、なにこの髪、、、!?)
リュウカは思わず顔を引きつらせてしまう。
センスはともかく完璧にセットされた生徒会長の髪と比べると、あまりにもだらしない。
「こんな髪で恥ずかしくないの?」
思わず悪態を吐くリュウカ。
人は見た目で他者を判断する。
同じ年頃の少女として、リュウカは
だが、嫌悪した理由はそれだけではなかった。
「、、、、、、」
リュウカは気づいた。
なぜか見覚えのある雰囲気。
どこかアイツに似ている気がして
嫌悪感の裏に不思議な違和感が混じった。
リュウカがたじろいでいると
薄暗い教室のかすかな寝息が止んだ。
「ふぁああ〜」
寝ていた
(えっ!?)
リュウカは目を見開く。
長い黒髪に隠されていた
(ホントに生徒会長の妹?)
リュウカは疑問を抱く。
なぜなら、生徒会長は大の大人が見上げるほど人並外れた体躯を持っている。
どう考えても姉妹には見えなかった。
ボサボサの長い黒髪がふわりと揺れて
ゆっくりと瞼を開けられていく。
目覚めた
「、、、誰?」
(、、、ホントに生徒会長の妹なんだ)
リュウカは納得した。
確かに、
「えっと、、、」
なんて話を切り出そうか。
リュウカは頭を捻って考えた。
だが予想外だった言葉が
「、、、綺麗な髪」
「ッ、、、!」
その言葉がリュウカに衝撃を与えた。
リュウカは動揺を隠せずたじろいでしまう。
決して褒められたからではない。
子供のように純粋な褒め言葉が
アイツのように悪意ある言葉で他人を貶めていた自分に突き刺さったからだ。
「、、、ありがとう」
ボソリと呟く。
もう、リュウカは
「えっと、私、竜瞳リュウカ、、、。
その、生徒会長に頼まれてさ。
「あ、、、」
そんな暗黙の了解が含まれた言葉だった。
それに気づいた
そして、そのまま黒いスカートを握りしめて俯いてしまった。
「出しません」
「え?」
予想外の返答にリュウカは驚く。
だが、その言葉が冗談でないことは震える
「私は何も出来ないから」
「あっ、、、」
リュウカの胸が締めつけられた。
たった一言で、全てが伝わったから。
(、、、ずっと優秀な生徒会長と比べてられて生きてきたんだ)
リュウカは拳をギュッと握りしめる。
ずっと、誰かの影に押し潰されてきた感覚。
自分だって、あの過去に囚われ続けている。
なすすべなくアイツに負けた記憶。
思い出しただけで「ジュピター」の忠告音が鳴るような、とびきりのトラウマだった。
「、、、あのさ」
重苦しい空気を変えるためか。
自分まで息が苦しくなったためか。
リュウカの固く閉じた口が勝手に動いていた。
もしかしたら泣きそうなのかも知れない。
リュウカは唇を噛む。
自らのトラウマを抉る提案なのは分かっている。
けれど、だからこそ誘わずにはいられなかった。
「イコール、やってみない?」
声にならない吐息が聞こえた気がした。
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あれから、
「、、、校舎の外ってこうなってたんだ」
一般生徒にとってはただの学園。
だが、
石畳を踏むたびに、靴底へ微かな振動が伝わってくる。
木々の間から差し込む光が
「あれは何ですか?」
リュウカが
そこには巨大な建物があった。
「私も行ったことないから分かんないけど
A組のトレーニング施設かC組の学術棟だと思う」
「へぇ、、、」
初めて見る校舎の景色に、赫い瞳は不安と好奇心で揺れていた。
やがて2人は白い扉の前に立つ。
2人の生体反応を感知して扉は勝手に開いた。
「うッ!?」
思わず
そこは白かった。
壁も天井も床も、まるで光を受け止めるためだけに存在するかのように真っ白で目が眩んだ。
なのに光源は一切無い。
まるで神様が出てくるような真っ白な部屋だった。
「お、あったあった」
リュウカは真っ白な部屋にズカズカと侵入して部屋の中央にある物に触れる。
「あの竜瞳さん、何ですかそれ?」
今までの人生の中で一度も見たことが無いものが目の前にあった。
それは、真っ白な台形の上に真っ白な球体が浮いているシンプルな物体。
まるで人を極限まで簡略化して描いたピクトグラムのような真っ白な像だった。
「これは「イコール」のコンピューターなの。
とりあえず片手を挙げて。
やれば全部分かるから」
「え?」
「いいから手を挙げて!」
ゴリ押してくるリュウカに
内心の疑問は増える一方。
だが、質問をする生徒のように手を挙げるリュウカを見て真似するように手を挙げた。
「イコールオン!プラクティスモード!」
そんなリュウカの言葉と共に真っ白な部屋は光に包まれて、気が付けば辺りが草原へと変わっていた。
「わぁ、、、!」
風の匂い、足元の草の感触、そして青い空の色。
まさしく
明らかに普段より大柄な手。
つけた覚えの無い仮面。
薄く白いシルクの手袋。
明らかに先ほどまでと違う黒いマントと服装。
もし、誰かが今の
「、、、これって!」
それは、最初から知っていたからだ。
自分の姿を見たことないにも関わらず
まるで鏡でも見せられたように自分がどんな姿なのか分かる。
しかも、それだけではない。
全て知っている。
自分はダメージを受ければ手のひらから武器となる血を出せること。
それを元に大技である
今はプラクティスモードであるため上記の制約がないこと。
この姿の自分が出来ること、出来ないこと。
全ての情報を当たり前のように知っているのだ。
知らないのに知っているから。
「ね、すごいでしょ?」
すぐ近くにいるリュウカに向かって。
そこには
そんなリュウカは得意げに人差し指を動かした。
「イコールは完全情報ゲームなの」
その言葉を聞いた次の瞬間。
完全情報ゲームとは
全ての観客とプレイヤーが
ゲーム内で起こった全ての行動や状況を
完全に把握できるゲームのことである。
例えば、将棋のように
盤面を見るだけで全ての情報が分かって不確定要素がないゲームを完全情報ゲームと言う。
逆にカードゲームのように
見えない相手の手札などの不確定要素があるゲームを不完全情報ゲームと言う。
ただし、「イコール」には同時手番が存在するため、厳密には完全情報ゲームではない。
ようするに、「イコール」は他人の心を除いた仮想空間の全ての情報が全てのプレイヤーに開示されるゲームである。
「へぇ、、、」
だから、自分はリュウカが最初から
「じゃ、やろうか」
「え?」
それが戦う合図だったことに
(あ、、、)
「、、、、、、」
スローモーションの映像みたいにリュウカが迫ってきている。
本来なら抵抗も出来ず一瞬で真っ二つにされてしまうだろう。
なんせ自分は、武器どころか箸より重いものを持ったことが無いと断言出来るほど
無知で無力な存在なのだ。
「、、、、、、!」
だが、
それは血だった。
剣の形を纏っていく。
そのまま
鋭く、そして鈍い音。
地面がひび割れてクレーターが生まれる。
鍔迫り合いになった刃が火花を散らして
2人の剣が交差していた。
パラパラと舞う土砂の雨。
覆い隠された鎧の下でリュウカが笑っていた。
「ね、簡単でしょ?」
今、自分が戦えることを。
音を置き去りにするほど一瞬で刃が離れる。
その衝撃が草原を震わせ、背の低い草を一斉になぎ倒した。
「、、、ッ!」
生まれて初めて経験した
火に飛び込んだような灼熱の空気の摩擦熱。
遥か彼方まで吹き飛ばされた
腕にのしかかった重みに顔をしかめる。
自分はリュウカに力で全く敵わない。
そんなリュウカが一気に自分へと迫ってくる。
だが
まるで体が勝手に動くように体を捻った。
1秒も経たぬ内に再びの鍔迫り合い。
ただし、
(フェイントッ!)
リュウカは剣を空振り、そのまま地面が深い谷のように真っ二つに斬れた。
「、、、ッ!」
直後、鈍い打撃音。
背中に
「っ、、、やるじゃん!」
久しぶりに聞いたHPが削られる音。
遥か彼方まで吹き飛ばされたリュウカは鎧の下から嬉しそうに笑みを浮かべる。
リュウカは地面に脚を突き刺す。
海底を抉る碇のように土砂煙を巻き起こしながら横薙ぎの一閃を放つ。
その場に飛び込んできた
飛び交う斬撃が嵐を巻き起こしていく。
それが悪手だった。
逃げ場の無い空中。
「グッゥ!」
それでも腕の骨が軋み、血が滲む。
初めて聞くHPが削れる音。
怖いけど、楽しい。
知らない戦い方を知っている自分が笑っている。
「ハァッ!」
再びリュウカの剣と衝突する。
なんせ、空中で落下している。
いくら力で負けていても、体重を全て刃に乗せられる。
しかし、
知っているのに夢中になりすぎて忘れていた。
___「イコール」において
人の体重など何の意味も持たないことを。
(、、、しまっ!?)
次の瞬間、
「イコール」。
それは1人の大天才が開発した次世代の競技。
その最大の特徴は__
___何の才能も必要ないこと。
人間には決して超えられない壁がある。
才能の差、年齢の差、そして、男女の差。
だが「イコール」は、単純な方法で超えられない壁を突破した。
対戦中のプレイヤーに超人的な頭脳と肉体を付与したのだ。
1と100には大きな差がある。
だが、100000001と100000100の間に差は皆無。
人が大海に飛び込んでも
水位が変わらぬ様に
「イコール」の前で人の差が生む影響など無いに等しい。
ただ、純粋な努力によって差が生まれて勝敗が決まる。
とんでもない轟音と衝撃。
猛烈な激流に
「!?」
地面が点に見えるくらい吹き飛ばされて
ようやく
隣を見れば雲が見える。
それほど高く、大空まで吹き飛ばされたことに。
「イコール」
それは、限定的ではあるものの
ケチでみみっちい神が定めた
人と人の優劣を
___人の性能ごと置き去りにした。