何の才能も無いお嬢様が「イコール」に出会った話   作:貴方

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第2話 少女のトラウマ

「イコールオフ」

 

青空の広がる草原が真っ白な部屋に戻る。

2人は何度か戦って

そのまま現実へと帰ってきた。

 

「どうだった?」

 

「すごく楽しかったです」

 

「そっか、よかった」

 

リュウカがぎこちなく笑う。

そこで2人の会話は途切れてしまった。

 

「、、、、、、」

 

「、、、、、、」

 

真っ白な部屋に微妙な空気が流れる。

最初に沈黙を破ったのは赫子(あかこ)だった。

 

「あの、なんで私を「イコール」に誘ってくれたんですか?」

 

赫子(あかこ)は思う。

リュウカは自分に部活届けを提出させるため。

要するに自分に何らかの部活に入部させるために近づいてきたはずだ。

こんなことに時間を費やすのは目的からズレている。

だから、赫子(あかこ)はリュウカの思惑を聞きたかったのだ。

 

「、、、あぁ」

 

その意図を汲み取ったリュウカは少し困った表情を見せて口を開いた。

 

「実は私さ。

初心者にボッコボコに打ちのめされて

「イコール」辞めたんだ」

 

「え?」

 

なおさら訳が分からなかった。

何のために自分を「イコール」に誘ったのだ。

赫子(あかこ)は率直にそう思った。

 

リュウカは恥ずかしそうに

自分の金髪を指で弄り始めた。

 

「私にとってのアイツはさ。

城牙(しろきば)さんにとっての生徒会長みたいな存在で

、、、正直言ってめちゃくちゃ嫉妬してた。

アイツみたいになりたいってずっと思ってた」

 

「わ、私も、、、!

お姉ちゃんみたいに、、、!」

 

赫子(あかこ)はリュウカに共感した。

自分だって、何度お姉ちゃんになりたいと

羨ましいと思ったことか。

 

少しだけ、赫子(あかこ)は心を開ける気がした。

きっと、リュウカはまがいなりにも自分に歩み寄ってくれているのだと思ったから。

 

「でも、本人からしたら才能なんて持ってても幸せじゃ無いんだろうね」

 

(、、、えっ!?)

 

赫子(あかこ)は傷の舐め合いを期待していた。

なのに、いきなりハシゴを外された。

赫子(あかこ)の心から一気に熱が引いた。

そんな心境を知って知らずか

リュウカは話を続ける。

 

「私だってさ。

皆から綺麗で羨ましいって言われるけど

そんなの自分からすれば当たり前だしね」

 

「当たり前って、そんなの、、、」

 

赫子(あかこ)はリュウカを見つめる。

綺麗なサラサラの金髪。

スタイルの良いメリハリのある身体。

 

隣の芝は青く見えると言うけれど。

実際に青いのならば

多少なりとも誇れるのではないだろうか。

 

何も持ってない自分からすれば

どうしても、そう思ってしまう。

 

城牙(しろきば)さんだってお金持ちだけど

___それが当たり前でしょ?」

 

「ッ!?」

 

赫子(あかこ)は衝撃を受ける。

その言葉は核心だった。

確かに自分は他人からすれば金持ちだ。

他人が一生をかけて築き上げる何十倍もの資産を既に持ち合わせている。

 

それなのに自分はそれを誇るどころか

そんなことを忘れてしまうくらい悩んで不幸になっていた。

 

いつの間にか、他ならない自分自身が

生まれながらの才能を当たり前に。

 

___無かったことにしていたのだ。

 

「無いものねだりなんだよ」

 

リュウカはグッと背伸びをする。

 

「同じなんだよ。

私も城牙(しろきば)さんも

多分アイツや生徒会長だって

きっと何かで悩んでる。

自分の持ってるものなんて忘れてさ。

皆、持ってないものばかり欲しがってる」

 

そこまで言い終えたリュウカはくるりと赫子(あかこ)に向き合った。

 

「だからさ、何も出来なくてもいいじゃん」

 

黄金の髪が宙を舞う。

 

「私は城牙(しろきば)さんといると楽しいよ」

 

それは、年端も行かぬ少女がする

ごく当たり前の笑みだった。

 

「ゥ、、、」

 

赫子(あかこ)の視界が熱くなって滲んでいく。

 

それは、今まで見た何よりも美しく見えた。

それは、今まで見た何よりも輝いていた。

それは赫子(あかこ)のヘドロの様に積もり積もった劣等感を取り除いて

 

___城牙(しろきば)赫子(あかこ)は涙した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

______________フッ。

 

 

 

それは相手の話を軽んじたり嘲笑したりする際に鼻から息を漏らす音。

至極当たり前で誰もが一度は耳にする音。

 

それだけでリュウカの表情は一瞬にして凍り付いた。

 

突如鳴り響く「ジュピター」の忠告音。

異変に気づいて心配する赫子(あかこ)をよそに

リュウカの指先は震え、その全身から冷や汗が噴き出た。

 

(嘘、、、でしょ?)

 

リュウカはかろうじて正気を取り戻して

「ジュピター」の忠告音を止めた。

 

「どんな言葉を返すものかと思えば

「楽しければそれでいい」か」

 

コツリ、コツリと過去が近づく音がする。

 

リュウカの呼吸が乱れていく。

聞き間違いであって欲しい。

でも聞き間違える訳がない。

 

「実に負け犬らしい言葉だな。

竜瞳(りんどう)リュウカ」

 

黒くてギザギザの髪。

シンプルな白シャツを着用した

誰もが見上げるほど巨大な男。

今、リュウカが最も会いたくない人物。

 

黄金の輝きを一瞬でかき消す闇__

___八咫玄(やたぐろ)(からす)がそこにいた。

 

「、、、誰?」

 

赫子(あかこ)は男を怪しげに見つめる。

その男が誰かは知らない。

だが、男の纏う歪な空気が只者で無いことを物語っていた。

 

「へぇ、、、」

 

男は物珍しそうに赫子(あかこ)を見ながらボサボサの黒髪を掻きむしった。

 

それは、怪物と呼ばれる青年。

それは、14歳で最年少プロになった自身の師、狐妃玖怨を越えて

史上最年少の13歳でプロになった天才。

 

今やその名を聞かぬ日は無い若き傑物。

それが「イコール」最年少プロ、八咫玄(やたぐろ)(からす)

 

「なんでアンタがココにいるのッ!?」

 

リュウカはガタガタと震える身体をギュッ抑え込んで長身の自分が見上げるほど大きな(からす)に向かって叫んだ。

 

(からす)城牙(しろきば)学園の体操服である白いシャツを着用していることを鑑みれば、ここにいる理由の大方を想像出来るだろう。

 

それでもリュウカは信じられなかった。

最悪の存在と対面してる現実を受け入れたくなかった。

 

「こっちのセリフだ。

部外者はお前らだろ」

 

淡々とした口調で(からす)は反論する。

そして、光を失った黒い瞳で赫子(あかこ)に問いかけた。

 

「気分はどうだ」

 

「え?」

 

問いかけられた赫子(あかこ)は意味が分からず呆気に取られた。

 

(え、、、?)

 

少し遅れて隣のリュウカも呆気に取られた。

その言葉はリュウカが知る他人に無関心だった(からす)の人物像からズレていたから。

 

(からす)は呆れたように腰に手を当てて呟いた。

 

「プラクティスモードを使っただろ。

それは体感時間を1000倍まで引き延ばして脳に多大な負荷をかける。

初心者はなおさらだ」

 

「だ、大丈夫です」

 

赫子(あかこ)はたじろぐ。

心配してくれているはずなのに

どこか言葉に棘があるように感じたからだ。

そして、赫子(あかこ)の直感は概ね正しかった。

 

「そうか、だが次から2度と使うな。

お前らがプラクティスモードをする

必要は全く無い」

 

「、、、どういう、意味ですか?」

 

突如として言葉から溢れ出た悪意。

赫子(あかこ)の返答を聞いた(からす)は不気味な笑みを浮かべながら目を閉じた。

 

「フッ、やはり女はバカだな」

 

「、、、ッ!」

 

世界中の大半を小馬鹿にした(からす)のセリフ。

それが真っ白な部屋に響いた。

 

「言葉通りだ。

いまだかつて「イコール」でプロになった女はいない」

 

「なっ!?」

 

その言葉は赫子(あかこ)の心に衝撃を走らせた。

そのまま赫子(あかこ)(からす)に向かって叫んだ。

 

「そんな訳ない!

だってイコールは平等で!

だから男女差なんて__」

 

「紛れもない事実だ」

 

「でもッ!」

 

「ハァ、、、」

 

たった1つの小さな溜め息。

それを聞いた瞬間に

赫子(あかこ)は固まってしまった。

 

それは奇しくも姉が自分に言い聞かせる時によくするもの。

反論の余地が無い正論で人をねじ伏せる前触れを彷彿とさせるものだったから。

 

「将棋だって同じだろ。

性差によって駒の数が違うわけでも無い。

男のために特別な枠を作ったわけでも無い。

だが、"男と戦って"

プロになった女は1人たりともいない」

 

光を失った黒い瞳が赫子(あかこ)を睨みつける。

それは、女のために下駄を用意する男と

男に用意された下駄を嬉々として履く女。

その両方に向けられた、ありったけの皮肉と軽蔑が詰まった言葉だった。

 

「お前はプロになれねぇよ。

それは星の数ほどいるはずの

欠陥品が証明してんだ」

 

深く冷たく濁る瞳。

それは女という生物の全てに失望したような目だった。

 

「アンタ、変わったね」

 

今まで静観していたリュウカがポツリと呟いた。

赫子(あかこ)(からす)の視線がリュウカに注がれる。

 

「、、、なんだと?」

 

リュウカは溢れんばかり狂気が自分に向けられたのを感じ取った。

 

「、、、ッ」

 

それでもリュウカは止まらない。

新しく出来た友達のために

リュウカは自身の恐怖を乗り越えた。

 

「昔のアンタはもっと怖かった。

無機質で冷たくて、相手のことなんて微塵も興味なくて

どこか遠くを見てたんだ」

 

リュウカは自身が抱いた違和感をそのまま言葉にして(からす)にぶつける。

そして、煽るように笑って言葉を締め括った。

 

「もしかしてプロになって弱くなったんじゃないの?」

 

それは図星か。

あるいは全く別のものか。

いずれにせよ、リュウカが(からす)の逆鱗を逆撫でたことは迫りくる巨大な手が証明していた。

 

「!?」

 

リュウカは(からす)に恐ろしい速度で近づかれて

そのまま頭を鷲掴みにされた。

 

「イッ、、、!」

 

金の髪がキラキラと宙を舞う。

リュウカは丸太のように太い腕で抵抗も出来ぬまま座り込む体勢で抑え付けられた。

 

真っ白な部屋に「ジュピター」の警告音が鳴り響いた。

(からす)はジロリとリュウカを睨みつける。

 

「鳴いてみろよ、さっきみてぇに。

それとも自分を殴らなそうな男を選んで鳴いてんのか?」

 

リュウカは震える。

圧倒的な恐怖、そして後悔。

絶望に染まり、瞳から光を失った。

 

そんなリュウカにありったけの侮蔑の形相が近づいた。

 

「だから勝てねえんだよ。

中学生に負けたテメェの母親みてぇにな」

 

次の瞬間、破裂音が聞こえて

リュウカの視界が揺れた。

自分が殴られたのだと思った。

 

___しかし、殴られたのは自分では無かった。

 

「、、、え?」

 

「ッ!?」

 

赫子(あかこ)(からす)の頬を力いっぱい打っていた。

 

座り込むリュウカに顔を近づけていた(からす)は一瞬だけバランスを崩して飛び退く。

 

「、、、、、、!」

 

(からす)は打たれた頬を少し撫でる。

少し、熱はこもっている。

だが、ダメージは微塵も無い。

それでも身体が震えた。

 

恐怖からではなく

武者震いからくる昂ぶりによって。

 

静かだった。

いつの間にか「ジュピター」の警告音は止んでいた。

殴った側であるはずの赫子(あかこ)が肩で息をしていた。

 

集まる視線を感じながら赫子(あかこ)は口を開いた。

 

「私は、馬鹿だから分からない。

もしかしたら、貴方の言う事は正しいのかもしれない」

 

(からす)は言葉の続きを待ち続ける。

まるで、ガラスケースに並ぶトランペットを買ってもらう子供のように。

 

「それでもッ!!!

貴方は私の友達を馬鹿にしたんだッ!!!」

 

怒りに怒った赫子(あかこ)の叫びが部屋中に響いた。

 

「何も出来なくてもいい!

お姉ちゃんみたいになれなくてもいいッ!!

だけど目の前で友達を侮辱されて黙っていられる!!!

そんな惨めな人間にだけは

絶対になりたくないッ!!!」

 

リュウカは涙した。

寝癖だらけでボサボサの黒髪。

必死の形相で怒鳴る姿。

 

年頃の少女としてはあり得ない姿だった。

なのに、目の前の少女は今までの人生で見た何よりも美しく、輝いていた。

 

「私と「イコール」で勝負しろッ!!!」

 

赫子(あかこ)の目には、眩い光が宿っていた。




八咫玄烏
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八咫玄烏(「イコール」の姿)
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