キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード! 作:工帝 アザレア
第10話 サッカーモンスター
1-1で迎えたハーフタイム。
盛り上がる木戸川。
だが。
西垣だけが険しい。
「……まだだ」
その時。
審判がボードを上げる。
【選手交代】
観客席がざわつく。
「来るぞ」
「まさか……」
「あれが…円堂守の息子…」
木戸川イレブンも振り向く。
ゆっくり立ち上がる少年。
円堂ハル。
後半戦が始まる。
ハルは中央付近でボールを受ける。
ただそれだけ。
ただそれだけなのに。
何かが違った。
「行くよ」
静かな声。
次の瞬間。
消えた。
「は?」
湊が目を見開く。
一人。
二人。
三人。
抜かれる。
必殺技ではない。
ただのドリブル。
だが。
異常だった。
「止めろ!!」
烈刃が飛び込む。
躱される。
「なっ!?」
玲奈がコースを塞ぐ。
抜かれる。
湊がスライディング。
届かない。
誰も触れられない。
そのまま怪物はペナルティエリアへ侵入する。
剣崎が飛び出す。
「舐めんなァ!!」
ハルが脚を振る。
ただのシュート。
だが。
速い。
重い。
鋭い。
剣崎が反応する。
しかし、届かない。
ゴールネットが揺れる。
2-1。
静寂。
誰も理解できなかった。
「今……何した?」
栄塚が呟く。
「必殺技じゃなかったよな……?」
風藍も固まる。
湊は言葉を失っていた。
今まで見たどんな選手とも違う。
今のフィールドの空気は、新たなる怪物の異様さに完全に呑まれていた。
◇
試合再開。
木戸川も反撃する。
「玲奈!」
「任せろ!」
スピニングアッパー。
突破。
「烈刃!」
「おう!!」
デスソード。
だが。
防がれる。
暖冬屋が立ちはだかる。
そして。
弾いたボールを拾ったのは。
またハルだった。
「またアイツか!」
DFがボールを奪いに仕掛ける。
だが。
抜かれる。
白羽。
風藍。
湊。
誰も止められない。
◇
「見ろ」
西垣が言う。
誰に向けた言葉か分からない。
「……あれが天才だ」
◇
ハルは走る。
一人で。
全てを壊していく。
連携、組織、戦術。
全部。
関係ない。
ただ、圧倒的な才能だけで、サッカーモンスターは試合を支配していた。
「囲むぞ!!」
湊が叫ぶ。
今度は一人ではない。
雷鳴。
風藍。
白羽。
四人が同時にハルへ向かう。
木戸川が誇る守備網。
だが。
怪物は止まらない。
右へ。
左へ。
前へ。
後ろへ。
まるでボールが足に吸い付いている。
「嘘でしょ……」
玲奈が息を呑む。
四人で囲んだはずだった。
だが。
気付けば中央を突破されていた。
3-1。
4-1。
スコアだけが増えていく。
だが。
木戸川は折れなかった。
「まだだ!!」
湊が叫ぶ。
「まだ終わってない!!」
走る。
誰よりも。
湊だけじゃない。
木戸川全員で。
各々が出せる全力で。
食らいつく。
その姿を見て。
「へぇ」
ハルが初めて笑った。
「いいね」
ぽつりと呟く。
試合終了。
4-1。
雷門中勝利。
◇
観客席から大きな拍手が響く。
敗者への拍手。
王者への拍手。
両方だった。
木戸川の選手たちは芝に座り込む。
悔しい。
圧倒的に悔しい。
◇
烈刃が拳を握る。
「クソッ……」
玲奈が俯く。
湊も唇を噛む。
そんな中。
剣崎が真っ先に立ち上がった。
「次だな」
「は?」
烈刃が顔を上げる。
「負けたんだぞ」
「知ってる」
剣崎は肩を竦めた。
「でも終わってないだろ?」
全員が固まる。
「そういえば」
白羽が言う。
「三位決定戦あるじゃん」
沈黙。
「……あっ」
湊が固まる。
「……えっ?」
玲奈も固まる。
「……あぁ?」
烈刃が首を傾げる。
西垣が額を押さえた。
「お前ら聞いてなかったのか」
「何を?」
烈刃が問う。
「関東は全国出場枠三つだ」
再び沈黙。
「マジ?」
「マジだ」
「え?」
「だから三位決定戦勝てば全国だ」
さらに沈黙。
そして。
「「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!?」」」
スタジアム中に響く絶叫。
「抽選会の時に説明されてただろ……」
西垣は深くため息を吐く。
「聞いてたか?」
「聞いてない」
烈刃。
西垣が頭を抱えた。
だが。
落ち込んでいた空気は吹き飛んでいた。
まだ終わっていない。
まだ挑戦できる。
雷門には負けた。
ハルにも届かなかった。
だが。
全国への道は残っている。
湊が立ち上がる。
拳を握る。
「行こう」
烈刃が笑う。
「全国だな」
玲奈も頷く。
剣崎は静かにゴールネットを見る。
今日届かなかった場所。
いつか必ず辿り着く場所。
木戸川清修中。
かつての古豪。
その挑戦はまだ終わらない。
第三代表決定戦。
全国への最後の切符を懸けた戦いが始まる。
【
木戸川清修中キャプテンのMF。二年生。
チーム内の数少ない常識人。
三位決定戦のことは雷門戦に集中し過ぎてすっかり頭から抜け落ちていた。
【
木戸川清修の2年生FW。
三位決定戦のことは最初から聞き逃していた。
ちなみに抽選会では途中から「雷門と戦うには何点必要なんだ?」ということしか考えていなかった。
【
三位でも全国行けることはちゃんと把握しながら雷門中に全力をぶつけ、その上で負けたので割と満足している。
「負けたら練習量を増やす」が信条なので翌日から地獄の自主練を開始した。なお周囲は止めない。
【
木戸川清修の2年生MF。
三位決定戦をやること自体は理解していたが「三位でも全国行ける」という一番重要な部分だけ聞き逃していた。
ストック切れたので先の展開考えるためにちょっと次の更新までの期間空くかもです。