キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード!   作:工帝 アザレア

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第三話 帝国襲来

 その日の木戸川清修中サッカー部グラウンドには、普段とは違う緊張感が漂っていた。

 

「まだ来ねぇのか?」

 

 烈刃が腕を組む。

 

「来るよ。帝国だぞ?」

 

 湊が答える。

 

 帝国学園。

 関東どころか全国でも知らぬ者はいない超名門。

 

 フットボールフロンティア黎明期から中学サッカー界の頂点を走り続ける絶対強豪。

 

 昨年度のスプリングカップにおいては全国ベスト4、その後のフットボールフロンティア全国大会では準優勝を果たしている。

 

 雷門が“時代の王者”なら。

 帝国は“歴史の王者”だった。

 

 そして。

 グラウンド入口に一台の大型バスが停まる。

 

「来たぞ」

 

 西垣が呟く。

 

 扉が開く。

 降りてきた選手たちは全員が同じ歩幅で歩いていた。

 

 誰も騒がない。

 誰も笑わない。

 

 ただ静かに整列する。

 それだけで異様な圧力があった。

 

「……なんだあいつら」

 

 悠真が眉をひそめる。

 

「軍隊かよ」

 

 その先頭に立つ長身の選手が眼鏡を押し上げた。

 

「帝国学園二軍キャプテン、五条猛(ごじょう たける)です」

 

 深々と頭を下げる。

 

 礼儀正しい。

 だがどこか人を見下しているような空気もある。

 

「本日は練習試合、よろしくお願いします」

 

「お、おう」

 

 悠真が返事をする。

 

 五条は視線を木戸川全員へ向けた。

 そして。

 

「なるほど」

 

 少しだけ笑った。

 

「話には聞いていましたが……随分と統率の取れていないチームですね」

 

「……あ?」

 

 烈刃の眉が吊り上がる。

 

 だが五条は気にしない。

 

「ククク…失礼」

「事実を述べただけです」

 

 その態度に木戸川側の空気が一気に険悪になる。

 

 そんな中。

 

 帝国側の一人が前へ出る。

 

「北原です。以後お見知りおきを。」

 

 短い自己紹介。

 

 感情のない声。

 

 まるで機械だった。

 

「本日の勝率予測は89%です」

 

「は?」

 

「帝国学園勝利の確率です」

 

 北原は平然と言った。

 

「ふざけてんのかテメェ」

 

 烈刃が一歩前へ出る。

 

 だが。

 

「烈刃」

 

 湊が肩を掴む。

 

「試合で見返そう」

 

「……チッ」

 

 烈刃は舌打ちして下がった。

 

 その様子を見ていた五条が静かに呟く。

 

「感情的ですね

だから勝てないのですよ」

 

 木戸川側の怒りは限界だった。

 

 しかし。

 西垣だけは笑っていた。

 

「いいじゃねぇか」

 

 その言葉に全員が振り向く。

 

「煽られて怒るならまだ元気がある」

「昔のお前らなら、ここで何も感じなかっただろ」

 

 誰も反論できなかった。

 西垣はニヤリと笑う。

 

「やれ。思いっきりぶつかってこい」

「帝国がどれだけ高ぇ壁か、その身体で覚えてこい」

 

 そして。

 試合開始のホイッスルが鳴った。

 

 開始三分。

 木戸川は早くも先制のチャンスを作っていた。

 

「行くぞォ!!」

 

 烈刃が二人を抜く。

 

 さらに三人目も突破。

 

 帝国DF陣を力任せに引き裂いていく。

 

「止まらねぇ!」

 

「行け烈刃!」

 

 木戸川観客陣が沸く。

 

 ゴール前。

 

 烈刃が右足を振り上げた。

 

「デスソード!!」

 

 かつてフットボールフロンティアがホーリーロードの呼ばれていた時代の雷門のエースストライカーのものと同じ黒い斬撃がゴールへ向かって突き刺さる。

 

 だが。

 

「パワーシールド」

 

 帝国のGK、奈倉が一歩も動かない。

 

 巨大なエネルギーの障壁が出現。

 

 轟音。

 

 そして。

 

 デスソードは完全に弾き飛ばされた。

 

「……は?」

 

 烈刃の目が見開かれる。

 

 初めてだった。

 真正面から力負けしたのは。

 

「ふむ、思ったより威力はあったな」

 

 奈倉は淡々と言う。

 

「だがまだ足らん…想定内だ。

源田さんなら今のシュートも指一本で止める」

 

 奈倉は本気だった。

 本気で自分はまだ未熟だと思っている。

 

 だからこそ厄介だった。

 

 その瞬間。

 

「来るぞ!!」

 

 湊の叫び。

 

 帝国のカウンターが始まっていた。

 

 ボールはわずか二秒で中央へ。

 

 三秒で前線へ。

 

 四秒で木戸川陣内へ侵入する。

 

「速ぇ!?」

 

「戻れ!!」

 

 しかし。

 

 悠真は前に出ていた。

 

 いつもの癖だった。

 

「この距離なら間に合う!!」

 

 だが。

 

 北原は冷静だった。

 

「皇帝ペンギン7」

 

 七羽のペンギンが出現する。

 

 虹色の軌跡を描く超高速のロングシュート。

 

 悠真が反応した時にはもう遅かった。

 

 ゴールネットが揺れる。

 

 帝国先制。

 

 0-1。

 

 静まり返る木戸川。

 

 そんな中。

 

 五条だけが静かに告げた。

 

「個人能力は優秀」

 

「ですが組織力は論外ですね」

 

 スコアは0-1。

 

 たった一点。

 

 されど、その一点が妙に重かった。

 

「チッ……!」

 

 烈刃が舌打ちする。

 

 奈倉のパワーシールド。

 

 北原の皇帝ペンギン7。

 

 帝国は一つ一つのプレーに無駄がなかった。

 

 まるで最初から全て決まっているかのように。

 

「まだだ!」

 

 悠真がボールを奪う。

 

 そのまま前線へ駆け出した。

 

「剣崎ィ!!」

 

「うるせぇ!」

 

 相変わらずGKとは思えない動きだった。

 

 だがその時。

 

デスゾーン、開始

 

 五条が静かに手を掲げる。

 

 帝国の選手たちが一斉に動いた。

 

「なっ……!?」

 

 湊の目が見開かれる。

 

 さっきまでの配置と違う。

 

 DFが上がる。

 

 MFが下がる。

 

 フォーメーションが一瞬で変化する。

 

 しかし混乱はない。

 

 誰一人迷っていなかった。

 

「何だよあれ……」

 

 玲奈が呟く。

 

「違う……」

 

 湊は汗を流しながら帝国を見る。

 

「試合中に作戦を変えてるんじゃない」

 

「最初から全部準備してたのか……!」

 

 五条が薄く笑う。

 

「ようやく気付きましたか」

 

 そして。

 そのままボールを奪い返した。

 

「その程度で我々を出し抜けると思わないで貰いたいですね」

 

 五条の声に怒りはなかった。

 見下しているわけでもない。

 ただ事実を述べているだけだった。

 

「帝国学園を舐めないで頂きたい」

 

 半世紀以上中学サッカー界の最前線を走り続けた怪物。

 数え切れないほどの天才を見てきた学校。数え切れないほどの敗北を分析し、勝利へ変えてきた学校。

 その積み重ねを背負う男の言葉には、不思議な説得力があった。

 

 ボールが回る。

 

 一秒。

 

 二秒。

 

 三秒。

 

 帝国の選手たちはまるで一つの生き物のように動いていた。

 

 烈刃が歯を食いしばる。

 

「うるせぇ!!」

 

 強引なタックル。

 

 ボール奪取。

 

 そのまま突破。

 

 一人。

 

 二人。

 

 三人。

 

 抜く。

 

「止めろ!」

 

 帝国DFが集まる。

 

 だが烈刃は止まらない。

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

 黒い斬撃が炸裂する。

 

 しかし。

 

「ザ・フォート」

 

 五条を中心に三人のDFが並ぶ。

 

 巨大な城壁。

 

 まるで要塞だった。

 

 轟音。

 

 そして。

 

 デスソードは弾かれた。

 

「なっ……!?」

 

 烈刃の顔が歪む。

 

 五条が静かに告げる。

 

「個人で戦う限り」

 

「あなたたちは帝国に勝てませんよ」

 

 その言葉に烈刃が歯噛みする。

 

「……っ!」

 

 認めたくなかった。

 

 だが。

 

 シュートは通らない。

 

 突破も通らない。

 

 帝国はまるで壁だった。

 

 そして。

 

「北原」

 

「はい」

 

 五条が静かに指示を出す。

 

 帝国の選手たちが動く。

 

 三人。

 

 中央へ集結。

 

 その動きを見た瞬間。

 

 悠真の背筋が凍った。

 

「まさか……!」

 

 黒いエネルギーが渦を巻く。

 

 帝国伝統の連携必殺技。

 

「デスゾーン!!」

 

 巨大な黒球が放たれる。

 

「今度は止める!!」

 

 悠真が飛び出す。

 

 右脚を振り上げる。

 

「エクスカリバー!!」

 

 黄金の斬撃。

 

 正面衝突。

 

 轟音。

 

 土煙。

 

 一瞬だけ拮抗する。

 

「押し返せェェェ!!」

 

 だが。

 

 デスゾーンは止まらない。

 

 黄金を飲み込む。

 

「なっ……!?」

 

 次の瞬間。

 

 ゴールネットが大きく揺れた。

 

 0-2。

 

 静寂。

 

 膝をつく悠真。

 

 呆然と立ち尽くす烈刃。

 

 そして。

 

 ピィィィィィッ!!

 

 前半終了のホイッスルが鳴り響いた。

 

 木戸川清修 0-2 帝国学園二軍。

 

 今、木戸川清修の前に立ちはだかっているのはただの強豪校ではない。

 

 長い年月をかけて積み上げられた、帝国学園という名の歴史そのものだった。





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