キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード! 作:工帝 アザレア
その日の木戸川清修中サッカー部グラウンドには、普段とは違う緊張感が漂っていた。
帝国学園。
関東どころか全国でも知らぬ者はいない超名門。
フットボールフロンティア黎明期から最前線を走り続けてきた、中学サッカーの歴史そのものと言っていい強豪校。
雷門が“時代の王者”なら。
帝国は“歴史の王者”だった。
そして。
グラウンド入口に一台の大型バスが姿を現した。
黒を基調としたまるで装甲車のような巨大な車体。
ゆっくりと停車する。
「来たぞ」
西垣が呟く。
扉が開く。
最初に降りてきた選手が、静かに前へ進む。
その後ろに続く選手たちも、誰一人として騒がない。
列は乱れない。歩幅まで揃っている。
ただ静かに整列する。
それだけで異様な圧力があった。
「……なんだあいつら軍隊かよ」
悠真が眉をひそめる。
やがて。
整列した選手たちの前へ一人の長身の選手が歩み出て、特徴的な眼鏡を押し上げた。
少年は木戸川の選手たちを一通り見回すと、深々と頭を下げた。
「帝国学園二軍キャプテン、
本日は練習試合、よろしくお願いいたします」
「……あ、ああ。よろしくお願いします?」
湊が戸惑いながら返す。
五条は顔を上げる。その表情は眼鏡のせいもあってかどこか読めなかった。
「噂は伺っています」
「……噂?」
黒牙が訝しげに聞き返す。
「はい」
五条は眼鏡を押し上げた。
「新監督の就任によって木戸川清修の練習内容が大幅に変わった、と」
「そして⸻」
その視線が、木戸川の選手たちをなぞる。
「随分と個性的な選手が揃っている、と」
「個性的……」
湊が微妙な顔をする。
その横で悠真が胸を張った。
「だろ!?」
「褒められてねぇぞ、お前」
「そうですか?」
五条が首を傾げる。
「私は褒めたつもりですが」
「お前も大概だな……」
湊が額を押さえた。
「五条キャプテン」
後ろから声がした。一人の少女が歩み出る。
凛とした佇まい。
背筋は真っ直ぐ伸び、視線にも迷いがない。
「そろそろウォーミングアップに入った方がよろしいのでは?」
「そうですね。戦導さん、ありがとうございます」
「いえ」
少女⸻
帝国学園二軍、一年生。GK。
そして、一年生ながら一軍入りを期待されている選手の一人。
その立ち姿だけでも、他の選手とはどこか違っていた。
「帝国学園二軍、
「ああ、よろしく」
湊が頷く。
夜桜は嬉しそうに笑った。
「はい!」
そのやり取りを見ながら、湊は三人を観察する。
同じ一年生。
だが、三人とも全く違う。
五条は冷静で、周囲をよく見ている。
戦導は自信に満ちていて、自然と周囲へ指示を出す。
そして夜桜は、どこか親しみやすい。
それでも。三人とも、帝国学園のユニフォームを着ている。
「……この三人」
湊が呟いた。
「一年生なんだよな?」
「はい」
五条が答える。
「三人とも一年生です」
「それで二軍?」
「はい」
「……一軍には?」
「現在、候補として見ていただいております」
さらりと答えた。
「私も、戦導さんも、夜桜くんも」
「なるほど……」
湊は息を呑んだ。
やがて西垣が声を上げる。
「そろそろ始めるぞ」
帝国の選手たちが一斉に動き出す。
その動きには迷いがなかった。
木戸川とは違う。
誰がどこへ行くのか、何をするのか。
それが全員の中で共有されている。
「……やっぱり、帝国だな」
西垣が呟いた。
湊もグラウンドを見る。
さっきまで感じていた緊張が、少しずつ別のものへ変わっていく。
怖い。
しかし同時に⸻楽しみだった。
自分たちがどこまで通用するのか、あの4vs4で身につけ始めたものが。
果たして、11人の組織だったサッカーを相手にどこまで通じるのか。
「……さて」
西垣が笑う。
「どこまでやれるか、見せてもらおうか」
その視線の先。
帝国学園の三人の一年生もまた、グラウンドへ入っていく。
五条猛。
戦導真凛。
夜桜志々雄。
まだ一軍の座には届いていない。
だからこそ。今日の試合は、彼らにとってもただの練習試合ではなかった。
「お願いします!」
夜桜が深々と頭を下げる。
五条も続く。
「よろしくお願いいたします」
戦導も静かに頭を下げた。
「……こちらこそ」
湊が答える。
そして。
試合開始のホイッスルが鳴った。
「行くぞォ!!」
黒牙が一気に前へ出る。
木戸川らしい、勢い任せのスタート。
湊も続き、紅星が右へ開く。
そして。
「剣崎!」
「分かってる!!」
悠真がゴールから飛び出した。
「……!」
帝国の選手たちが一斉に反応する。
だが。
「っ…!速い…!」
黒牙が一人抜く。
二人目。
三人目。
「止めろ!」
帝国DFが寄せる。
「遅ぇんだよ!!」
黒牙が強引に突破する。
ゴール前。
「もらったァ!!」
右足を振り抜く。
「デスソード!!」
黒い斬撃がゴールへ突き刺さる。
だが。
「戦導」
「はい」
GKの戦導が一歩前へ出た。
「パワーシールド」
巨大なエネルギー障壁が展開される。
轟音。
デスソードが正面から激突する。
「ぐっ……!」
戦導の身体が僅かに後ろへ押される。
しかし。
止まった。
「……な」
黒牙の目が見開かれる。
「止めた……?」
戦導はボールを受け止めると、静かに立ち上がった。
「良いシュートです」
そして。
「ですが」
ボールを前へ放る。
「まだ、私たちには届きません」
木戸川陣内へボールが飛ぶ。
「カウンター!」
湊が叫ぶ。
だが。
帝国の選手たちが一斉に動いた。
その動きは、昨日の4vs4とはまるで違う。
誰もが互いの位置を把握している。
一人が前へ出れば、一人が後ろへ下がる、一人が空いた場所へ入る。
そして。
「夜桜!」
「はい!」
夜桜が走った。決して派手な動きではない。
ただ、空いた場所へ入る。
五条がそこへボールを出す。
夜桜は受ける。
そしてすぐに戻す。
「……え?」
湊が目を見開く。
その一連の動きに、何の無駄もない。
「まだだ!」
夜桜が再び走る。ボールは別の選手へ。
その選手が一人抜く。
夜桜がまた走る。
パス。
移動。
パス。
移動。
まるで歯車だった。
「何なんだ、あいつ……」
黒牙が呟く。
夜桜はただ走っているだけだ。
だが、必要な場所に必ずいる。
そして。
「夜桜!」
「はい!」
五条からのパス。
ゴール前。
夜桜が振り返る。
「……!」
湊が寄せる。
「撃たせるな!」
紅星も戻る。
だが。
「遅い!」
夜桜が右足を振り抜いた。
「百烈ショット!!」
無数の衝撃が連続して炸裂する。
「悠真!!」
「分かってる!!」
悠真が構える。
「エクスカリバー!!」
黄金の斬撃。
百烈ショットと激突する。
轟音。
土煙。
「うおおおおお!!」
悠真が押し返す。
ボールが弾かれる。
「止めた!」
木戸川が沸く。
だが。
夜桜は倒れなかった。
すぐに立ち上がる。
そして。
「……もう一度」
小さく呟いた。
「……あいつ」
木戸川のベンチで西垣が呟く。
「何度でも同じ場所へ走っているのか…」
湊も気づいていた。
昨日の自分たちとは違う。
帝国の選手たちは。
自分以外の選手を見ながら、自分の役割を果たしている。
それは。
昨日、西垣から教えられたことと同じだった。
ただし。
帝国はそれを。
何年も、何百試合も積み重ねてきたような完成度でやっている。
湊は拳を握った。
「……これが」
「帝国学園……!」
その直後。
五条が静かに手を上げた。
「それでは⸻仕上げといきましょう」
「デスゾーン、開始」
五条が静かに手を掲げる。
帝国の選手たちが一斉に動いた。
「なっ……!?」
湊の目が見開かれる。
さっきまでの配置と違う。
DFが上がる。
MFが下がる。
フォーメーションが一瞬で変化する。
しかし混乱はない。
誰一人迷っていなかった。
「何だよあれ……」
黒牙が呟く。
「違う……」
湊は汗を流しながら帝国を見る。
「試合中に作戦を変えてるんじゃない」
「最初から全部準備してたのか……!」
五条が薄く笑う。
「ようやく気付きましたか」
そして。
そのままボールを奪い返した。
「その程度で我々を出し抜けると思わないで貰いたいですね」
五条の声に怒りはなかった。
見下しているわけでもない。
ただ事実を述べているだけだった。
「帝国学園を舐めないで頂きたい」
半世紀以上中学サッカー界の最前線を走り続けた怪物。
数え切れないほどの天才を見てきた学校。数え切れないほどの敗北を分析し、勝利へ変えてきた学校。
その積み重ねを背負う男の言葉には、不思議な説得力があった。
ボールが回る。
一秒。
二秒。
三秒。
帝国の選手たちはまるで一つの生き物のように動いていた。
黒牙が歯を食いしばる。
「うるせぇ!!」
強引なタックル。
ボール奪取。
そのまま突破。
一人。
二人。
三人。
抜く。
「止めろ!」
帝国DFが集まる。
だが黒牙は止まらない。
「うおぉぉぉぉぉ!!」
黒い斬撃が炸裂する。
しかし。
「ザ・フォート」
五条を中心に三人のDFが並ぶ。
巨大な城壁。まるで要塞だった。
轟音。
しかし。
デスソードは弾かれた。
「なっ……!?」
黒牙の顔が歪む。
五条が静かに告げる。
「個人で戦う限り」
「あなたたちは帝国に勝てませんよ」
その言葉に烈刃が歯噛みする。
「……っ!」
認めたくなかった。
だが、シュートは通らない。
突破も通らない。
帝国はまるで壁だった。
そして。
「夜桜くん」
「はい!」
五条が静かに指示を出す。
帝国の選手たちが動く。
三人の選手が中央へ集結する。
その動きを見た瞬間。
悠真の背筋が凍った。
「まさか……!」
黒いエネルギーが渦を巻く。
帝国伝統の連携必殺技。
「デスゾーン!!」
巨大な黒球が放たれる。
「今度は止める!!」
悠真が飛び出す。
右脚を振り上げる。
「エクスカリバー!!」
黄金の斬撃。
正面衝突。
轟音。
土煙。
一瞬だけ拮抗する。
「押し返せェェェ!!」
だが。
デスゾーンは止まらない。
黄金を飲み込む。
「なっ……!?」
次の瞬間。
ゴールネットが大きく揺れた。
0-1。
静寂。
膝をつく悠真。
呆然と立ち尽くす黒牙。
そして。
ピィィィィィッ!!
前半終了のホイッスルが鳴り響いた。
木戸川清修 0-1 帝国学園二軍。
今、木戸川清修の前に立ちはだかっているのはただの強豪校ではない。
長い年月をかけて積み上げられた、帝国学園という名の歴史そのものだった。
【
帝国学園二軍キャプテン。一年生ながら二軍を率いる本作オリジナルキャラクター。冷静沈着な優等生で、同級生にも敬語を使う。
【
帝国学園二軍所属の一年生GK。原作では帝国のベンチメンバー。帝王学や軍学を学んだ財閥令嬢で、自然と周囲へ指示を出す。
ヴィクロ時代の帝国学園の選手の中で一番好きなビジュアルだったから出したくなった。
【
帝国学園二軍所属の一年生FW。原作では帝国のベンチメンバー。地味な練習にも黙々と取り組む努力家で、努力が実を結んだ選手を見ると号泣してしまう。
帝国学園には珍しいタイプのめっちゃいい子だから出したくなった。