キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード! 作:工帝 アザレア
ハーフタイム。
木戸川の空気は重かった。
烈刃はベンチへ腰を下ろしたまま舌打ちを繰り返している。
「クソが……」
デスソードは止められた。
ザ・フォートは突破できなかった。
帝国の壁は想像以上に高い。
その隣では悠真が俯いていた。
「エクスカリバーが……負けた……」
木戸川で最も自信を持っていた武器。
それが真正面から砕かれた。
玲奈も珍しく黙っている。
そんな中。
湊だけはずっとスコアボードを見つめていた。
0-2。
たった二点。
だが埋まらない二点だった。
「俺がもっと上手くまとめられてたら……」
思わず零れた言葉。
その瞬間。
「何だその顔」
西垣が笑った。
「たった二点じゃねぇか」
「は?」
烈刃が顔を上げる。
「相手は帝国だぞ」
「むしろ上出来だろ」
全員が呆気に取られる。
だが西垣は続けた。
「勘違いするな」
「帝国は完成されたチームだ」
「対してお前らは未完成だ」
「なら帝国の真似をするな」
湊が眉をひそめる。
「でも連携しないと……」
「誰も連携しろなんて言ってねぇ」
西垣は即答した。
「まず信じろ」
静寂。
「お前らは仲間を信じてない」
「だから全部自分でやろうとする」
図星だった。
「烈刃」
「……」
「お前は本当に仲間へパスを出せないのか?」
烈刃は答えない。
ただ視線を逸らした。
「後半だ」
「一回でいい」
「仲間を使え」
後半開始。
木戸川は相変わらずバラバラだった。
烈刃は突っ込む。
悠真は上がる。
玲奈は削る。
何も変わらない。
だが。
「っ!」
烈刃が囲まれた瞬間だった。
いつもなら撃っていた。
強引に突破していた。
だが。
一瞬だけ湊が見えた。
「……チッ!行け!!」
烈刃から放たれたパスを、湊が受ける。
木戸川の全員が驚いていた。
誰よりも烈刃自身が驚いていたかもしれない。
それでも。
ボールは繋がった。
それだけで何かが変わった。
「湊!!」
玲奈が走る。
「分かってる!!」
湊が前を向く。
帝国の守備陣が動く。
五条が叫んだ。
「潰してください」
包囲網。
いつもなら終わっていた。
だが。
「面白ぇじゃねぇか!!」
後方から飛び出した影があった。
剣崎悠真。
木戸川のゴールキーパー。
誰よりもゴールから離れているはずの男だった。
「剣崎ィ!?」
湊が目を見開く。
悠真は笑った。
「俺を誰だと思ってる」
ボールが浮く。
右脚を振り抜く。
「グラディウスアーチ!!」
金色の剣閃が弧を描く。
エクスカリバーほどの破壊力はない。
だが。
それはゴールを狙うための技ではなかった。
仲間へ繋ぐためのシュート。
放たれた光が一直線にゴールへ突き進む。
奈倉が反応する。
「シュート……?」
だがその瞬間。
「まだ終わってないわよ!!」
玲奈が飛び込んだ。
風を裂く。
光の矢が放たれる。
「ディバインアロー!!」
白銀の光を纏った矢がグラディウスアーチへ重なる。
轟音。
威力が跳ね上がる。
「シュートチェイン!?」
帝国ベンチがざわめいた。
だが。
まだ終わらない。
「繋げぇぇぇぇぇ!!」
湊が跳ぶ。
空中で身体を捻る。
背中に蒼い翼が広げた
「ペガサスショット!!」
三本目の光。
グラディウスアーチ。
ディバインアロー。
ペガサスショット。
三つの必殺技が一つになる。
観客席がどよめいた。
「三段チェインだと!?」
「木戸川が!?」
凄まじい衝撃波が帝国ゴールへ襲いかかる。
しかし。
奈倉は冷静だった。
「フルパワーシールド」
巨大な障壁が展開される。
轟音。
衝突。
大気が震えた。
木戸川の三連続シュートチェイン。
帝国の守護神。
両者が真正面からぶつかり合う。
押す。
押し返される。
再び押す。
だが届かない。
「止まる」
五条が断言した。
「止まりますね」
北原も頷く。
フルパワーシールドが押し返し始める。
あと少し。
あと少しで防ぎ切れる。
その時だった。
「誰が終わりだって?」
低い声。
誰よりも前へ。
誰よりも速く。
誰よりもゴールだけを見ていた男。
「烈刃!?」
湊が叫ぶ。
烈刃は止まらない。
ボールへ飛び込む。
そして。
右脚を振り抜いた。
「オーガブレードォォォォォ!!」
漆黒の刃が出現する。
鬼神の咆哮。
禍々しい衝撃波が三連チェインへ叩き込まれた。
四段チェイン。
誰も見たことのない連携。
誰も使ったことのない組み合わせ。
木戸川の全てを乗せた一撃。
「なっ……!?」
五条の表情が初めて崩れる。
北原が目を見開く。
「四段チェイン……!?」
フルパワーシールドに亀裂が走った。
そして。
砕ける。
轟音。
爆発。
光の奔流が奈倉ごとゴールへ飲み込んだ。
次の瞬間。
ゴールネットが大きく揺れる。
静寂。
誰も動けなかった。
そして。
審判のホイッスルが鳴る。
「ゴォォォォォォル!!」
木戸川清修、初得点。
スコアは1-2。
その一点は。
今までのどんな一点よりも重かった。
「よっしゃぁぁぁ!!」
ベンチが沸く。
烈刃も息を切らしながら拳を握った。
だが。
帝国ベンチは静かだった。
「北原」
五条が言う。
「どう見ますか」
北原は木戸川を見つめる。
「連携レベルは依然低水準」
「ですが」
一拍。
「先程より危険です」
五条は小さく笑った。
試合終了。
木戸川清修 1-2 帝国学園二軍。
敗北。
しかし前半終了時とは違った。
誰も下を向いていない。
烈刃はボールを拾う。
悠真は奈倉を睨む。
玲奈は五条を睨む。
悔しい。
だからこそ前を向いていた。
「未完成で稚拙なチームですね」
五条が言う。
全員の眉が吊り上がる。
だが。
「完成したら非常に厄介だ」
それだけ言い残し帝国は去っていった。
帰りのバス。
最後尾の席。
五条は静かに窓の外を眺めていた。
「珍しいね」
聞き慣れた声だった。
振り返る。
そこには帝国学園監督、不破アリスが立っていた。
「随分と木戸川を買ってるじゃないか」
五条は少しだけ考える。
「未熟です」
「組織力は低い」
「戦術理解も不足しています」
「ですが」
その言葉にアリスは笑った。
「ですが?」
「危険です」
五条は即答した。
「個人能力だけなら既に全国上位レベル」
「チーム全員が同じ方向を向けば別のチームになります」
アリスは窓の外を見る。
そこにはまだグラウンドに残る木戸川の姿があった。
「へぇ」
そして。
どこか楽しそうに笑う。
「なら関東予選で当たるのが楽しみだね」
五条が頷く。
アリスは続けた。
「もっとも」
その瞳が鋭くなる。
「その時に相手をするのは二軍じゃない」
静かな声だった。
だが確かな自信があった。
「今度は一軍で潰させてもらうよ」
帝国学園。
65年以上もの間、中学サッカー界の頂点を走り続ける全国有数の強豪。
木戸川清修が再び帝国と相対する日は、そう遠くなかった。