キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード!   作:工帝 アザレア

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第五話 再起する強豪

 帝国学園との練習試合から一夜明けた翌日。

 木戸川清修中サッカー部は死んでいた。

 

「動けん……」

 

 グラウンドに大の字になっているのは剣崎悠真だった。

 

「自業自得じゃんよ…」

 

 中性的な見た目をしたDF、白羽圭(しらは けい)が呆れた声を出す。

 

「GKが試合中ずっと攻め上がってたら筋肉痛にもなるでしょ」

 

「違う」

 

 悠真は真顔だった。

 

「これは帝国への怒りで全身が軋んでいるんだ」

 

「世界はそれを筋肉痛って呼ぶんだぜ」

 

「筋肉痛ですよね?」

 

 珍しく玲奈まで同意した。

 

 悠真がショックを受ける。

 

「なんで紅星まで俺の敵なんだ」

 

「別に最初から味方じゃないですし」

 

「なん…だとっ」

 

 そんな騒がしいグラウンドの端で。

 

 烈刃だけは一人ボールを蹴っていた。

 

 ドンッ。

 

 ネットが揺れる。

 

 もう一度。

 

 ドンッ。

 

 再びネットが揺れる。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 ひたすらシュートだけを打ち続ける。

 

「まだやってるのか」

 

 湊が近づく。

 烈刃は答えない。

 ただゴールを見る。

 

「……止められた」

 

 ぽつりと呟いた。

 

 奈倉のパワーシールド。

 帝国の守護神。その意思を継ぐ者。

 あの感触がまだ残っていた。

 

「初めてだった」

 

「ん?」

 

「正面から叩き潰されたの」

 

 烈刃は笑う。

 悔しそうに。

 楽しそうに。

 

「面白ぇな…!」

 

 湊は少し安心した。

 帝国戦の敗北は確かに悔しかった。

 

 だが。

 誰も折れていない。

 

 

 

 

 

 

 その日の午後。

 木戸川サッカー部は部室へ集められていた。

 

 ホワイトボードの前に立った西垣は、腕を組んだまま全員を見回す。

 

「お前らに足りねぇもんは分かったか?」

 

 最初に答えたのは湊だった。

 

「連携……ですか」

 

「違う」

 

 即答だった。

 部室が静まり返る。

 

「お前らに足りねぇのは信頼だ」

 

 誰も口を開かなかった。

 西垣はホワイトボードに大きく二つの文字を書く。

 

 連携。

 

 信頼。

 

「連携ってのは技術だ」

 

「だが信頼は違う」

 

 ペン先が信頼の文字を叩く。

 

「パスを出したら決めてくれる」

 

「抜かれても後ろに仲間がいる」

 

「自分が止められても次がいる」

 

「そう思えるかどうかだ」

 

 西垣は烈刃を見る。

 

「お前は仲間にパスを出さない」

 

 次に悠真を見る。

 

「お前は一人で全部止めようとする」

 

 そして玲奈を見る。

 

「お前は誰より頭が回るくせに一人で解決しようとする」

 

 最後に湊を見る。

 

「お前は全部背負い込む」

 

 図星だった。

 誰も反論できない。

 

「だがな」

 

 西垣は不意に笑った。

 

「俺はそれを否定しねぇ」

 

 部員たちが顔を上げる。

 

「エースになれ」

 

「全員な」

 

 ざわつく部室。

 西垣は続ける。

 

「雷門みたいな怪物になれとは言わねぇ」

 

「帝国みたいな組織になれとも言わねぇ」

 

「木戸川は木戸川だ」

 

 静かな声だった。

 だが誰よりも力強かった。

 

「全員がエースになれ」

 

「その上で仲間を信じろ」

 

 湊は息を呑む。

 

 それは今まで誰も言葉にできなかった木戸川の形だった。

 

 誰か一人に頼らない。

 誰か一人を神格化しない。

 全員が主役。

 全員が得点を狙う。

 全員が試合を変える。

 

 木戸川清修だけのサッカー。

 

 その日の午後。

 再び4vs4が始まった。

 

 相変わらずカオスだった。

 烈刃は突っ込む。

 悠真は上がる。

 湊は走る。

 何も変わっていないように見える。

 だが。

 

「右空いてる!」

 

 玲奈の声が飛ぶ。

 烈刃が舌打ちする。

 囲まれていた。

 強引に突破するより確率は高い。

 

「チッ……」

 

 そして、初めてだった。

 烈刃がパスを出した。

 周囲が固まる。

 玲奈すら一瞬反応が遅れた。

 

「な、何よ今の」

 

「勘違いすんな」

 

 烈刃は顔を背ける。

 

「そっちの方が点取れそうだっただけだ」

 

 それでも。

 確かに何かが変わり始めていた。

 

 夕方。

 部員たちが帰った後。

 

 グラウンドには一人だけ残っている影があった。

 

 剣崎悠真。

 

 ゴール前。

 

 ボールを置く。

 

 蹴る。

 

 飛ぶ。

 

 止める。

 

 また置く。

 

 また蹴る。

 

 また飛ぶ。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 何度も。

 

 その脳裏から離れない。

 

 皇帝ペンギン7。

 

 デスゾーン。

 

 揺れるゴールネット。

 

「……チッ」

 

 珍しく笑っていなかった。

 

「何してるんだ」

 

 振り返ると湊が立っていた。

 

「別に」

 

「別にじゃないだろ」

 

 しばらく沈黙が続く。

 

 やがて悠真は小さく呟いた。

 

「止めたかった」

 

 湊が目を見開く。

 

「一点目も」

 

「二点目も」

 

 悠真はゴールを見る。

 

「俺が止めなきゃいけなかった」

 

 風が吹く。

 

「GKだからな」

 

 それだけ言って、悠真は再びボールを蹴った。

 

 夜。

 部室。

 

 誰もいないはずの部屋に、一人だけ明かりが灯っていた。

 紅星玲奈だった。

 

 古びたノートパソコン。

 画面に映っているのは十六年前のホーリーロード決勝。

 

 木戸川清修中。

 全国優勝。

 歓声。

 紙吹雪。

 優勝旗。

 

 そして。

 当時の木戸川清修キャプテン・貴志部大河。

 

「……かっこいいな」

 

 小さく呟く。

 

 その時。

 ガラリと扉が開いた。

 

「まだいたのか」

 

 湊だった。

 玲奈は慌てて画面を閉じる。

 

「何見てたんだ?」

 

「別に」

 

「絶対別にじゃないだろ」

 

「うるさい」

 

 耳が少し赤い。

 湊は苦笑した。

 

「もしかして木戸川好きなのか?」

 

 玲奈はしばらく黙った。

 やがて窓の外を見る。

 

「……悪い?」

 

 予想外の返答だった。

 普段の玲奈なら絶対に認めない。

 だからこそ本音だった。

 

 壁に飾られた優勝写真を見上げる。

 

「こんな凄い学校だったなら」

 

 少しだけ笑う。

 

「もう一回くらい、全国の頂点行ってもいいと思うんです」

 

 翌日。

 グラウンドに全員が集められていた。

 

 西垣が一枚の紙を持っている。

 

「スプリングカップ関東予選の抽選会だ」

 

 その一言で空気が変わった。

 

 烈刃が笑う。

 玲奈が腕を組む。

 悠真が拳を鳴らす。

 湊は紙を見つめた。

 

 そこに書かれていたのは。

 全国への第一歩。

 スプリングカップ関東予選。

 

 西垣は静かに言う。

 

「ここからだ」

 

 かつて全国を制した古豪。

 錆びついた強豪。

 落ちぶれた名門。

 

 好きに言わせておけばいい。

 木戸川清修は、まだ終わっていない。

 

「行くぞ」

 

 その言葉と共に。

 木戸川清修のヴィクトリーロードが、今始まる。




牙道烈刃(がどう れっぱ)
高い身体能力と高すぎるプライドと強すぎる闘争心を持つ孤高の天才ストライカー。
帝国戦では初めて“個人では越えられない壁”を知った。
現在は奈倉のパワーシールドを叩き割る方法ばかり考えている。

剣崎悠真(けんざき ゆうま)】。
GKなのに攻撃参加をやめないチームの問題児筆頭。
だが本人なりにゴールキーパーとしての誇りは持っている。
帝国戦で皇帝ペンギン7とデスゾーンを止められなかったことを密かに気にしており、最近は誰も見ていない所で自主練習をしている。

なお本人は隠しているつもり。
全然隠せていない。


紅星玲奈(べにほし れいな)
幼い頃から木戸川黄金時代の試合映像を何度も見ており、特にホーリーロード優勝メンバーである貴志部大河に強い憧れを抱いている。
木戸川を選んだ理由も、実はかなりその影響が大きい。
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