キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード! 作:工帝 アザレア
帝国学園との練習試合の翌日。
木戸川清修中サッカー部は死んでいた。
「筋肉痛で動けねぇ……」
グラウンドに大の字になっているのは剣崎悠真だった。
「自業自得だろ」
湊が呆れた声を出す。
「GKが試合中ずっと攻め上がってたらそうなる」
「違う」
悠真は真顔だった。
「これは帝国への怒りで全身が軋んでいるんだ」
「筋肉痛だよ」
「筋肉痛ですよね?」
珍しく綾奈まで同意した。
悠真がショックを受ける。
「なんで紅星まで俺の敵なんだ」
「別に最初から味方じゃないですし」
「ぐっ…」
それでも。
悔しいものは悔しい。
「…俺、GKなんだぞ」
「……」
「最後の砦が抜かれたんだ。そりゃ悔しいだろ」
そんな騒がしいグラウンドの端で。
黒牙だけは一人ボールを蹴っていた。
ドンッ。
ネットが揺れる。
もう一度。
ドンッ。
再びネットが揺れる。
何度も。
何度も。
ひたすらシュートだけを打ち続ける。
「まだやってんのか」
湊が近づく。
黒牙は答えない。ただゴールを見る。
「……止められた」
ぽつりと呟いた。
戦導のパワーシールド。
帝国の守護神。その意思を継ぐ者。
あの感触がまだ残っていた。
「初めてだった」
「ん?」
「正面から叩き潰されたの」
黒牙は笑う
悔しそうに。楽しそうに。
「面白ぇな…!」
湊は少し安心した。
帝国戦の敗北は確かに悔しかった。
だが、誰も折れていない。
帝国との試合で。
木戸川は確かに一歩前へ進んだ。
帝国には届かなかった。
関東ベスト4。
それが今の木戸川清修中の現在地だ。
弱小ではない。
全国大会を目指せるだけの力もある。
黒牙の突破力。
剣崎の強烈なシュート。
紅星の判断力。
そして、他の選手たちにも全国上位を狙えるだけの個性がある。
それでも。
帝国のような完成されたチームを前にすれば、まだ足りない。
個人の力だけでは、全国には届かない。
「……でも」
湊がグラウンドを見る。
昨日、ほんの一瞬だけ。
自分たちは帝国の壁を崩した。
三つの必殺技。
黒牙。
彩奈。
悠真。
あれは偶然だったのかもしれない。
だが。
「俺たちにも、できる」
湊が呟いた。
「何が?」
紅星が振り返る。
「仲間と繋がること」
湊は拳を握った。
「昨日、初めて分かった気がする」
帝国に敗れた、それは変わらない。
悔しい。苦しい。
それでも。
木戸川の日常は、今日も続いている。
そんな様子を少し離れた場所から眺めながら、西垣は小さく笑った。
「……悪くねぇな」
そして。
ポケットからスマートフォンを取り出す。
「さて……」
表示された名前を確認する。
影野仁。
西垣は通話ボタンを押した。
『……久しぶりだな、西垣』
「おう」
『帝国との試合、見たぞ』
西垣はグラウンドを見る。
黒牙が騒いでいる。
悠真が怒鳴っている。
紅星が呆れている。
湊はそんな仲間たちを見て笑っていた。
「まだまだだ。だが、昨日の試合で一つ分かった。」
西垣の表情から笑みが消える。
「こいつらは、伸びる」
『……そうか』
「だから、次の試合を組む」
『相手は?』
「尾刈斗と試合を組みたい」
一瞬の沈黙。
『……尾刈斗と?』
「ああ」
『また随分と変わったところを選んだな』
「帝国とやった後だからな」
『なるほど…』
電話の向こうで、影野が笑った気配がした。
『いいよ。こっちも最近…練習試合の相手を探してた』
「助かる」
『…ただし…』
影野の声が少し変わった。
『…一つ、気になることがある…』
「何だ?」
『…研崎だ』
西垣の表情が変わる。
「……研崎?」
ほんの一瞬。
二人の脳裏に、かつての記憶が蘇る。
研崎竜一の下、エイリア石の力に呑まれたあの頃。
かつては同じチームで、同じ相手に従っていた二人だった。
だが今は違う。
一人は木戸川清修の監督。
もう一人は尾刈斗中の監督。
『…最近、あいつがいくつかの学校を調べているらしい』
「学校を?」
『選手の身体能力や戦績。練習内容まで調べている…』
「何のために?」
『それは…分からない。だが、碌なことじゃなさそうだ…』
「……俺も調べてみる。それと尾刈斗との試合、よろしく頼む」
『任せて…またな』
通話が切れる。
「……研崎」
西垣は呟いた。その名前を。
もう一度だけ口にする。
「一体、何を企んでやがる……?」
その日の午後。
部室。
「尾刈斗中と練習試合を組んだ」
西垣が告げた瞬間。
「尾刈斗?」
湊が聞き返す。
「ああ」
西垣が頷く。
「帝国とはまったく違うタイプのチームだ」
「どんなチームなんだ?」
黒牙が尋ねる。
「トリッキーなサッカーするところですよね?」
紅星が答える。
「帝国みたいな連中じゃねぇなら、今度こそ勝てるんじゃねぇか?」
「そう簡単にはいかねぇぞ」
西垣が言う。
「尾刈斗も関東じゃ有名な強豪だ」
「ほう……強豪か」
黒牙の目が輝く。
「昨日の帝国戦で分かっただろ」
西垣は全員を見る。
「今のお前らに必要なのは、ただ強い奴と戦うことじゃない。自分たちが何をできるのかを知ることだ」
湊が頷く。
「……俺たちのサッカーを」
「ああ」
西垣が笑う。
「帝国とは違う相手だ。だからこそ⸻」
その時。
部室の外から風が吹き込んだ。
木戸川の旗が、大きくはためく。
「今のお前らがどこまで通用するのか、試してみようぜ」
まだ未完成。しかしそれでも少しずつ。
何かが繋がり始めている。
⸻尾刈斗中。
木戸川清修は、帝国とはまったく異なる強豪との戦いへ挑む。