キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード! 作:工帝 アザレア
木戸川清修中サッカー部グラウンド。
一台のバスが、ゆっくりと門をくぐった。
「来たな」
西垣が呟く。
バスが停車し、扉が開く。
木戸川の選手たちが身構える。
その先から姿を現したのは⸻。
異様な雰囲気をまとった少年たちだった。
帝国とはまるで違う。
不気味であり、どこか奇妙で。
それでも、確かな強者の気配を持っている。
⸻尾刈斗中。
かつて雷門中を苦しめた、関東有数の強豪校。
木戸川清修 対 尾刈斗中。
新たな練習試合が、始まろうとしていた。
◇
試合前。
木戸川のベンチでは、西垣がホワイトボードを前にしていた。
「尾刈斗中の特徴は、相手チームを『好きに暴れさせない』ことだ」
西垣がボードを指す。
「連携技や必殺タクティクスのキーマンになる選手にプレッシャーをかけ続けることで、本来の強みを封じ込める」
「つまり……俺たちの中で、誰か一人を徹底的に潰してくる?」
湊が考える。
「そういうことだ」
西垣が頷く。
「だが、今の木戸川にはチームの代名詞と言えるような戦術がない」
そこで一拍置く。
「だからこそ、尾刈斗は昨日の帝国戦で目立った選手を狙ってくるだろう」
「……なるほど」
西垣は四人の名前を書く。
「湊」
「剣崎」
「紅星」
「そして黒牙」
「この四人だ」
悠真が眉をひそめる。
「俺も?」
「つい先日の帝国戦であれだけエクスカリバー撃ったら嫌でも目立つだろ」
西垣は苦笑する。
「特に気をつけろ。尾刈斗はお前のスタミナを削りに来る可能性が高い」
「……分かった」
悠真が頷いた。
そして。
「まあ、帝国よりはやりやすそうじゃねぇか」
黒牙が笑う。
「あれみたいに何もかも完璧ってわけじゃねぇんだろ?」
「油断するな」
西垣が即座に釘を刺した。
「尾刈斗には尾刈斗の強さがある」
「分かってるって」
黒牙は笑った。
その表情を見て湊も少しだけ笑う。
帝国戦の敗北は消えたわけではない。
だが、その敗北を引きずるのではなく、次の試合へ持っていく。
それが今の木戸川だった。
一方。
尾刈斗中のベンチ。
尾刈斗のキャプテンが選手たちへ指示を出していた。
「警戒対象は四人」
ボードを叩く。
そこに並んでいるのは。
キャプテン、一ノ瀬湊。
異色のGK、剣崎悠真。
一年生MF、紅星綾奈。
エースFW、黒牙烈。
「この四人さえ止めれば、木戸川は機能停止する」
選手たちが頷く。
「特に剣崎悠真だ」
ボードに大きく丸を描く。
「GKでありながら前線まで上がる異常な選手。そして何より、エクスカリバー…あの威力は脅威だ」
その名前に、尾刈斗の選手たちが息を呑む。
「だが」
口元が、不気味に歪む。
「強力すぎる技には必ず反動がある」
「打てても二回。良くて三回」
選手たちが頷く。
「走らせろ、攻めさせろ。スタミナを徹底的に削るんだ。」
「そして後半で仕留める」
選手たちが一斉に頷いた。
◇
試合開始。
そして。
「っ……!」
開始十分。
木戸川は苦戦していた。
黒牙がボールを持つ。
三人に囲まれる。
「またかよ!!」
突破できない。
玲奈がボールを受ける。
パスコースを消される。
湊が動く。
常にマンマーク。
尾刈斗は徹底していた。
そして。
「エクスカリバー!!」
剣崎の超長距離シュート。
轟音。
だが。
「読んでいた!」
尾刈斗GKが弾き、カウンターを仕掛ける。
状況は作戦がうまく行った尾刈斗が有利だった。
⸻だがそれは、致命的な油断だった。
「残念やけど木戸川はエース一人のチームやないで?」
「そーそー、たまには僕らにも活躍させてよね!」
関西訛りの口調の三年生DF、
「サイクロン」
白羽が鋭いキックで相手の周りに竜巻を起こし、ボールごと上空に吹き飛ばす。
「ラウンドスパーク!」
響介がボールを奪い、激しいスパークで相手を感電させる。
「奪われた!?」
「さ、反撃開始と行こうか?」
「アカン、なんかかっこいいセリフ言お思ったのに思い浮かばへん…」
◇
そしてボールは無警戒の女子FWに渡る。その刹那。
「ダークトルネード!!」
黒い竜巻。
スタンドがどよめいた。
西垣の目が見開かれる。
(今の技……!)
尾刈斗ベンチにいる影野も一瞬だけ、しかし明らかにその表情を変えた。
かつて、同じチームで見たことがある。
闇の力に呑まれた選手の代名詞とも言えるような技。
轟音が響いてボールがゴールに突き刺さる。
1-0。木戸川清修の先制点だった。
湊が目を見開く。
「なんだその技…」
静かな佇まいの3年生、
「相手が油断してただけだよ」
「馬鹿な……」
尾刈斗のキャプテンが呟く。
資料にない、分析にもない。
こんな選手達がいたなど聞いていない。
◇
そして、前半最後。
「リニアドライブ!!」
超電導の反発力と吸引力を利用して尾刈斗のディフェンスを華麗に突破する。
「トドメは貰うよ!!」
FWの
「ガウスショット!!」
ボールに磁力を纏わせて、シュートをゴールに叩き込む。
2-0。ダメ押しの追加点。
「ふっ、当然さ」
前半終了のホイッスル。
完全に木戸川のペースだった。
◇
ハーフタイム。木戸川清修ベンチ。
「……悪くない、むしろ上出来だ」
西垣が選手たちを見る。
悠真が胸を張る。
「だろ?」
「ただし」
西垣が続ける。
「向こうも黙って負けるようなチームじゃねぇ」
その言葉の通り。
尾刈斗のベンチでは。
影野が静かに選手たちを見つめていた。
尾刈斗のキャプテンが尋ねる。
「監督」
「うん」
影野はようやく口を開いた。
「前半の戦術は…崩れたね」
「……すみません」
「謝らなくていい」
影野は首を横に振る。
「相手が想定以上に成長していた。それだけだよ」
そして、ホワイトボードを見る。
「監督としての僕は、君たちに積極的に指示を出すタイプじゃない」
選手たちが顔を上げる。
「僕がするのは、君たち一人一人を見ること」
影野は木戸川の配置を書き出す。
「そして」
一本の線を引く。
「チームにできた穴を埋める」
影野が剣崎の位置を指す。
「相手GKの剣崎くん」
幽谷が頷く。
「サイドからの鋭角なシュートに対して、反応が少し遅れる」
「……!」
「だから、後半は積極的にサイドを使おう」
次に木戸川のDFラインを見る。
「逆に、木戸川は中央を警戒している」
「だから中央は無理に崩さなくていい」
影野は静かに言った。
「サイドから崩して、中央へ戻す」
「剣崎くんを動かしてから、最後に中央を狙う」
尾刈斗のキャプテンが頷く。
「分かりました」
影野は選手たちを見回した。
「……大丈夫」
その声は静かだった。
「事前に立てていた戦術が崩れた時こそ、冷静に盤面を見よう」
「相手が変わったなら、僕たちも変わればいい」
そして、影野は最後に一言だけ告げた。
「行っておいで」
「君たちなら、できるよ」
◇
後半開始のホイッスルが鳴った。
ボールは尾刈斗。
「右!」
キャプテンが叫ぶと共に尾刈斗の選手がサイドへ展開。
「早い!」
紅星が戻る。
だが。
「遅い!」
尾刈斗が一気に突破する。
「剣崎!」
「来い!」
悠真が構える。
シュート。角度はない。
「エクス……!」
悠真が反応する。
だが。
「⸻っ!」
ボールは、悠真の手の届かないところをすり抜けた。
ゴールネットが揺れる。
「……!」
木戸川の選手たちが固まった。
「入った……?」
尾刈斗ベンチが沸く。
「よし!」
尾刈斗のキャプテンが拳を握る。
影野は静かに頷いた。
木戸川清修2-1尾刈斗中。
昨日の帝国戦とは違う。
今度は、木戸川が追われる側になった。
悠真はゴールを振り返った。
さっきのシュート。
サイドからの鋭い角度。
自分の反応が、一瞬遅れた。
「……」
拳を握る。
エクスカリバーなら。
あの程度のシュートなら。
真正面から叩き潰せる。
「あの技、久しぶりに使うか」
だが。ゴールを守るだけなら、それでは足りない。
木戸川清修のキーパーが持っている「剣」は。
ゴールを奪うためだけのものだけではない。
そして。
尾刈斗の選手たちが再び動き始める。
木戸川の本当の底力は、ここから試される。
【
・所属 木戸川清修中 三年生
・ポジション DF
・関西出身でノリが良くて声がデカい。一年生の頃同じクラスだった闇野を笑わそうと躍起になっていた時期があった。
・京前嵐山中のとある選手と昔同じチームだった。
【
・所属 木戸川清修中 一年生
・ポジション DF
・八重歯が特徴の明るいDFだが油断していると膝カックンキメてくるようなイタズラ好き。
・北海道出身で白恋中ある選手と幼馴染。あと寒さへの耐性が高い。
【
・所属 木戸川清修中 三年生
・ポジション FW
・元ダークエンペラーズのメンバーである闇野カゲトの娘。表情から感情が読みにくくて天然。
・鳴木のせいで笑いのツボが浅くなった気がする。
【
・所属 木戸川清修中 ニ年生
・ポジション FW
・ナルシストなFW。ナルシルトなのに影が薄い。