キドカワイレブン!木戸川清修のヴィクトリーロード!   作:工帝 アザレア

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第7話 散る者、進む者

 スプリングカップ関東予選二回戦。

 

 木戸川清修中 対 天河原中

 

 春の空は高かった。

 観客席は決して満員ではない。

 

 全国常連校でもない。

 スター選手がいるわけでもない。

 

 それでも。

 このピッチに立つ二十二人にとっては、人生で一度しかない大会だった。

 

 負ければ終わり。

 勝てば続く。

 ただそれだけの戦い。

 

 試合開始のホイッスルが鳴る。

 

「行くぞォ!!」

 

 開始早々。

 牙道烈刃が暴れた。

 

 一人抜く。

 二人抜く。

 三人目を吹き飛ばす。

 

 そして。

 

「デスソード!!」

 

 轟音。

 ネットが揺れる。

 

 開始五分。

 木戸川先制。

 

 1-0。

 

「っしゃぁ!!」

 

 烈刃が拳を握る。

 観客席がどよめく。

 

「強ぇ……」

 

「木戸川清修…腐っても強豪かよ」

 

 そんな声が聞こえる。

 だが木戸川は止まらない。

 

 湊が繋ぐ。

 玲奈が崩す。

 悠真がなぜか攻め上がる。

 

「GK戻れェ!!」

 

「断る!!」

 

 いつものやり取り。

 しかしその勢いのまま。

 

「グラディウスアーチ!!」

 

 悠真のシュートが突き刺さった。

 

 2-0。

 

 前半終了。

 会場は完全に木戸川ペースだった。

 

 

 ハーフタイム。

 天河原ベンチ。

 

 誰も顔を上げなかった。

 

「……無理だろ」

 

 ぽつりと誰かが言う。

 

「木戸川強すぎるって…」

 

「個人技だけで押し切られてるじゃん」

 

「どうせ勝っても最後は雷門だし」

 

 沈黙。

 誰も否定できない。

 

 現実だった。

 関東には怪物がいる。

 

 海王。

 帝国。

 そして雷門。

 

 必死に努力しても届かない壁がある。

 そんな空気がベンチを支配しかけた時だった。

 

 バンッ!!

 

 キャプテンの荒川がベンチを叩いた。

 

「ふざけんな」

 

 全員が顔を上げる。

 

「……あ?」

 

「じゃあなんでここにいる」

 

 怒りだった。

 涙が滲むほどの怒りだった。

 

「どうせ雷門に勝てない?」

 

「だから何だよ」

 

 誰も答えられない。

 

「全国制覇したいんだろ」

 

「勝ちたいんだろ」

 

 ベンチが静まり返る。

 

「だったらまず木戸川倒して決勝行くぞ!!」

 

 その声は震えていた。

 

 怖いのだ。

 負けるのが。

 終わるのが。

 夢が、終わるのが。

 

 それでも。

 

「行くぞ」

 

 キャプテンは立ち上がる。

 

「最後まで戦うぞ」

 

 

 後半。

 天河原は別のチームになっていた。

 

 走る。追う。食らいつく。

 転んでも立つ。

 足が止まらない。

 

「何コイツら!?」

 

 玲奈が叫ぶ。

 

「まだ来るのかよ!」

 

 悠真も驚く。

 

 そして。

 天河原のシュートが木戸川ゴールへ突き刺さった。

 

 2-1。

 会場が沸く。

 

「うおおおおおお!!」

 

 天河原ベンチ総立ち。

 

 諦めていなかった。

 まだ終わっていなかった。

 

 その光景に。

 湊は思わず息を呑む。

 

(ああ……)

 

 知っている。

 この顔を。

 この気持ちを。

 

 帝国に負けた日。

 海王に届かなかった日。

 雷門に負けた先輩たち。

 

 何度も見てきた。

 

 勝ちたい。

 

 それだけで走っている顔だった。

 

 

 試合終了間際。

 木戸川が押し返す。

 

「行くぞ!!」

 

 湊が飛び込む。

 

「スパイラルドロー!!」

 

 螺旋を描くボール奪取。

 天河原の攻撃を断ち切る。

 

「玲奈!!」

 

「あいよっ!」

 

 繋がれたボールを玲奈が受ける。

 

 そして。

 

「スピニングアッパー!!」

 

 回転と共に打ち上げられたボールが前線へ突き抜ける。

 

 烈刃が走る。

 誰よりも速く。誰よりも強く。

 

「決めろォォォ!!」

 

 黒き刃が振り下ろされる。

 

「オーガブレード!!」

 

 轟音。ゴールネットが大きく揺れた。

 

 3-1。

 勝負ありだった。

 

 

 試合終了。

 木戸川清修の勝利。

 

 歓声が響く。

 だが。

 木戸川の誰も大騒ぎしなかった。

 

 天河原の選手たちは、

 俯く者。

 立ち上がれない者。

 声を殺して泣く者。

 

 様々だった。

 

 スプリングカップは終わった。

 春が終わった。

 

 この仲間たちと目指した夢が終わった。

 フットボールフロンティアはまだある。

 全国への道も、完全に閉ざされたわけじゃない。

 

 それでも。

 悔しい。

 負けたからだ。

 

 烈刃はそれを黙って見ていた。

 

 天河原中のキャプテン、荒川が近づいてくる。

 

「……強ぇな」

 

「おう」

 

「だからさ」

 

 荒川は拳を握る。

 

「俺たちの分まで全国行けよ」

 

 湊が一歩前へ出た。

 

 木戸川のキャプテンとして。

 

 真っ直ぐ相手を見る。

 

「任せろ」

 

 短い言葉だった。けれどその一言には、木戸川だけの夢じゃない。

 ここで散った者たちの願いも乗っていた。

 

 全国はまだ終わっていない。

 フットボールフロンティアもある。

 

 だが。

 この大会は終わりだ。

 今日まで積み上げてきた春が終わった。

 

 だから。

 その言葉は重かった。

 

 負けた者の分まで勝つ。

 勝者には、その責任がある。

 

 春の風が吹く。

 

 そして木戸川清修は次の戦いへ進む。

 

 背中に、新しい重さを背負いながら。

 

 

 一方その頃。

 別会場。

 

 スプリングカップ関東予選三回戦。

 雷門中 対 野生中

 

 観客席は異様な静けさに包まれていた。

 試合時間、後半二十分。

 

 スコア。

 4-0。

 

 誰も歓声を上げていない。

 あまりにも実力差がありすぎた。

 

「嘘だろ……」

 

 観客の一人が呟く。

 

「野生中だぞ……」

 

 弱小校ではない。

 むしろ関東では十分強豪と呼ばれる学校だ。

 

 だが。

 ボール支配率、シュートセーブ率、得点。

 全てで雷門が上回っていた。

 

 そして何より。

 野生中は一度も流れを掴めていない。

 

「これが……絶対王者」

 

 誰かが呟いた。

 

 

 雷門中ベンチ。

 そこには一人の少年が座っていた。

 

 円堂ハル。

 

 伝説のサッカープレイヤー、

 円堂守の息子。

 

 だが。

 彼はまだピッチに立っていない。

 ユニフォーム姿ですらない。

 アップすらしていない。

 

 ただ静かに試合を眺めているだけだった。

 

「監督」

 

 雷門の選手が振り返る。

 

「ハルは出さないんですか?」

 

 雷門中の監督、乙女仙次郎は首を横に振った。

 

「必要ない」

 

 その一言だった。

 

 誰も反論しない。

 それが事実だからだ。

 

 

 試合終了。

 

 5-0。

 

 ホイッスルが鳴る。

 

 シード権により今試合が初戦だった雷門中は野生中相手に圧勝する結果となった。

 

 選手たちは淡々と整列する。

 まるでその勝利は当然の結果のようだった。

 

 そんな中。

 ベンチから立ち上がった円堂ハルが、小さく呟く。

 

「次はどのチームかな」

 

 興味もなさそうな声だった。

 だが。

 

 その瞳だけは。

 どこか獲物を探す猛獣のようだった。

 

 サッカーモンスター。

 

 その異名を持つ少年はまだフィールドに立たない。

 だが確かにそこにいた。

 

 絶対王者、雷門中。

 その中心で躍動する怪物は、まだ牙すら見せていなかった。




一ノ瀬湊(いちのせ みなと)
木戸川清修中キャプテンのMF。二年生。
チーム内では数少ない常識人。
最近はツッコミが追いつかなくなってきた。

スパイラルドローは師匠を見て覚えた。
〈習得技〉
・ペガサスショット
・スパイラルドロー
・?????

牙道烈刃(がどう れっぱ)
木戸川清修の2年生FW。
しれっと今試合2点決めているストライカー。
帝国戦以降、誰よりも練習量が増えている。
本人は認めない。
〈習得技〉
・デスソード
・オーガブレード

剣崎悠真(けんざき ゆうま)
GKなのに今のところシュート技しか使ってない問題児。
〈習得技〉
・エクスカリバー
・グラディウスアーチ
・?????

紅星玲奈(べにほし れいな)
木戸川清修の2年生MF。
最近は湊の胃が痛くなる原因の一人。
スピニングアッパーはなんか唐突に出来そうな気がしたからやってみたらできた。
〈習得技〉
・ディバインアロー
・スピニングアッパー
・?????
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