弟と姉の生まれついた肉体がもしも逆だったら、というIFです。
弟の気質を持って生まれ育った姉。
姉の気質を持って生まれ育った弟。
喪13の夏トイレ回でIF
姉(弟気質)視点
「姉貴、姉貴起きて」
体を揺さぶられているのに気づき、そして瞼裏が明るいのに気づいた。もう朝なんだろうか?
「なあに智くん」
まだ目が開かないながらも、目元をこすりながら身を起こす。
「便所に一緒に来て」
「ええ……?」
「一緒に来てって」
寝起きなのもあり何を言われたのかすぐに飲み込めないでいると、弟が「あーもう」と苛立たしげに声を漏らす。すると体が急に浮き上がった。
「きゃっ!?」
「ほら首掴まれ。落ちるぞ」
驚きのまま目を開くと、弟が私の体を抱き上げていた。お尻を支えられ、子供でも抱っこしているみたいだ。
「なになになに?」
上体が不安定で恐ろしく、戸惑いながらも言われた通り弟の首に腕を回す。脚も宙に行き場がなく弟の腰に巻き付けた。
「おっも〜、姉貴もっと痩せたら?」
そう言いながら、弟は私を抱えたまま廊下に出る。外も家の中もまだ暗いようだった。
「……今何時なの?」
「んー? 三時ぐらい?」
「三時」
どうしてそんな時間に、と思いつつ、寝ぼけ眼をこすっていた時に言われたことを思い出す。
「トイレぐらい一人で行きなさいよ……」
弟はもう高校生になったはずなのだが。それもこうして私を強引に連れ出すとは。
「いやいや、孤独な夜は人と身を寄せ合うべきだと俺は思うね」
「……智くん、また何か怖い話でも聞いたんでしょ。なんでこうなるってわかってて夜に聞くの」
「だって夏だし」
「明日……今日も部活なんじゃないの? こんな夜更かししてて大丈夫? 倒れないでよ?」
「うるっさ」
弟は私を抱えながら階段を降りていく。こんなところで落とされてはたまったものではないので、私は必死に弟へしがみついていた。
「姉貴って一応胸あるのな」
「そういうことは思っても口にしないの」
無事階段を降り終えるとトイレに着いた。これでやっと私を降ろしてくれるだろうと思ったが、弟は私のお尻を片手で抱え直すとトイレのドアを開ける。そしてそのまま中に入る。
「えっ? えっ?」
訳がわからなくてそう声を上げるしかできないでいると、弟は「これからズボン下ろすのに両手離すからちゃんとしがみついとけよ」と後ろ手で扉を閉めながら言った。
「じゃなくて智子を降ろしてよ。なんでトイレの中まで智子いるの」
「降ろしたら姉貴逃げるだろ」
「逃げないよ。外でちゃんと待ってるから」
「そんなん信じらんねーし」
「どうして。毎年ちゃんと待ってるでしょ」
「それでオバケ出たら姉貴責任取れんの? もし俺がおしっこ撒き散らす羽目になったら姉貴のせいだしそん時は姉貴が掃除しろよな」
「オバケ出ないから。扉のすぐ傍に智子いるしそうはならないから」
「姉貴は落っこちるか心配してんだろ? 大丈夫、さすがに抱えながら立ちションはキチーから座ってするわ」
「そういう問題じゃないのよ。智子が一緒にトイレにいるのが問題なの。いいから一度トイレから出て智子を降ろしなさい」
「えー」
「えーじゃない」
渋々ではあったが、なんだかんだで人一人を抱え続けるのは辛かったのか弟はトイレの外に私を降ろしてくれた。くれたというか、そもそも姉を抱えながら用を足そうなんてどう考えたらそういう発想になるのか理解に苦しむ。
「ふー間に合ってよかったー」
それは本当によかった。弟はたまに……いや、弟の名誉のためにも過ぎたことは思い出さないであげよう。
「手洗いなさいね」
そう言いながらやれやれと部屋に戻ろうとすると「おい待てよ。部屋に戻るまでが便所だからな」とまたもや意味不明なことを言われる。
部屋に戻る時は私を先頭に、弟は私の両肩に手を乗せて、二人だけで電車ごっこをしながら部屋へ戻るのだった。
朝。隣の部屋から聞こえてくる、けたたましいアラーム音で目を覚ました私は、夜の腹いせも兼ねて弟を起こしに行くことにした。
寝ている弟の体にそっと腰がけてみる。横向きに寝ている腰骨の辺りに。
こんなおふざけをするのは何年ぶりだろう。
「智くんアラームうるさいよ。止めてくれないと智子の部屋まで聞こえるんだって何度も言ってるでしょ」
こうして体重をかけてやればすぐ起きるかと思ったが、結局弟は揺さぶられるまで目を覚さなかった。目を覚ました弟が、上に乗っている私に気づき目を白黒させていたのは良い気味だった。
24/11/06校了