そのあひる、狂暴につき   作:グゥワバス

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北住戦前後


閑話・あひるの皮に騙されたふれんず2

ーーside 七尾奈緒

 

うちのバスケ部には問題児がとても多い。

リーゼント、ひげ、アフロ、パンチ、角刈り、坊主。

、、、髪型の表現は微妙だったかな。坊主って特に問題無さそうだし。

 

とにかく、元不良と留年スレスレの先輩と広島弁とかなりバラエティに富んだ部なのである。

 

その中でも群を抜いて問題なのが車谷空君。

この子だけは元不良でも無いんだけど、とにかくヤバい。

 

 

女バスの円先輩に男バスのマネージャー兼顧問役をやりたい旨を伝えたら必死で止められた。以前は猛獣どもの中に小動物が入るようなものだと言われ引き留められたが、今回は笑うエージェントスミスに戦闘力のないネロを引き渡すようなものだと言われた。

 

先輩はター○ネーター好きかな?

 

それでも私は引かなかった。

男バスが統一(腕力)された話を聞き、今しかない!と思ったのだ。

 

実際、タイミングと見立ては間違っていなかった。

問題は車谷君の性格とバスケの実力。

 

 

苛烈。この一言に尽きる。

 

 

私が来る前に皆を車谷君が腕力で強引にねじ伏せたらしい。あの小さい身体にはゴリラが宿っていると専らの噂だ。

 

そのゴリラがインストールされた身体はバスケにも十分活かされている。

 

車谷君が平面で押し負けた様子を私は見たことがない。

 

次に反応の良さ。

 

これも異常だ。

千秋先輩が言うに「科学と野生が合わさって最強に見える」らしい。表現はあれだけど的を射てる。

 

スタミナ。

練習の時から思ってたけどかなり異常。

 

本人曰く「与えられたものもあると思う」とのこと。

始めはちょっと疲れに耐えられる身体だったぽいが、これじゃあ不味いと思い疲れるまで追い込みをかけ続けた結果そうなったんだとか。

ゴリラだけじゃなくサイヤ人もインストールしているようだった。

 

跳躍。

地味にだけど滞空時間も結構異常である。

 

本人曰く「ダンクが夢」がらしいけど、こればかりは身長と腕の長さもキーになってくる。

、、、なんかやれそうかもと思わせるのも凄いとは思うけど。

 

ちなみに百春先輩の滞空時間も車谷君といい勝負。

この人も大概である。

 

シュートセンス。

凄くいい。と言うかこれが最大の武器らしい。

1on1でたまにやるけど、外したところを殆ど見ない。

 

判断力。

むっちゃ速い。

自分の能力で押しきれなかったら人を使うと言う頭はあると日頃から言っており、周りを使いこなす練習をしている。

 

私はチーム力向上のためにも積極的に周囲を活用するよう言っているけど、同時にそれだけじゃなく、周囲を活かせるプレーも目指してほしいとも言ってる。

 

自分に合わせて足し算させるより、

自分と合わせてかけ算させてもらった方が楽だし期待値が高いじゃんといったら納得してくれた。

 

そのためには部員の実力向上と理解が必須である。

車谷君が目指す先はそこまで活用しないといけないのだと本人も思ってるらしい。

 

、、、いや、単体でも行けると思うけど、そこは言わないでおく。

 

 

性格。

人の皮を被った猛獣。

普段はおとなしい、おとなしい、、、おとなしい?

思ったこともすぐ口に出すし、筋通ってなかったらどんどん詰めてくるし、理不尽には理不尽で返すし。

暴力も使いどころでは躊躇いなく使うらしい(部員談)

最近は使ってないみたいだけど。

 

前に皆さんに「何故反目しないのか?」と聞いたら「怖いのと自分らがバカすぎた。謝罪も兼ねてる」って返ってきた。

 

多分迫田先輩のことなんだろう。

正直健全な理由ではないけど、だからこそ元不良軍団は覚悟ガン決まりで練習に臨んでるのだと思う。

 

それすら車谷君は「利用している」って呆気らかんと言うから末恐ろしい。

結論、おとなしくない(断言)

 

 

総論、化物。

スキルが高く、ドリブルもバカ速いときてフィジカルがゴリラ。で、外もある。しかも外はまだ引出しがあるらしい。どうせロングスリーとか左でも行けるとかでしょ。1on1でよく見てるし。

 

普段は人畜無害なチビッ子の皮を被っているけど、皮を一枚剥いだら化物でしたと言う話である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いや、まあ普段の練習からタフだとは思ってたけど、合宿中にその規格外を様々と見せつけられた。

 

先ず午前中のフットワーク練で応えた様子が見られない。

誰よりも走り込んでいた様子なのにけろっとしていた。

 

「無理してない?」と聞いても「正直余裕」と汗は出てるけど疲れた様子ではない。

 

他のメンバーが戻している間におかわりしていたのだからストイックだ。

 

 

午後もお昼ご飯をがっつり食べて元気に動いている。

他のメンバーが肩で息をしている中一人声を出して盛り上げてくれていた。

 

、、、いや、あれは煽りだ。

「サル並みの頭なんだから身体に覚えさせて」

「ほら、時間を無駄にしないんでしょ、フェイスアップ!」

「下向いてバスケはできないですよー、顔あげてください。顔あげろや(真顔)」

「苦しいですかー。今まででイキって生きてた分苦しんでくださいねー」

「特www待www生(笑)」

「バスケやれて嬉しいよねー❤️ラフに楽しむならねー♥️♥️」

 

 

これは酷い。

夏目君が「こん、チビゴリラが!」って返事したら「なんだ元気じゃん、ほらツーメン合わせて」っと物凄いスピードで反対ゴールに駆け出した。夏目君も追いかけたけど着いてくのがやっと。

 

帰りのオールコート1on1で10回位抜かれた上(抜く度にハーフラインに戻る)最後にスリー沈められて夏目君は撃沈した。

 

「ほら、もう一本」とツーメンで駆け出そうとして夏目君は突っ伏した。

 

代わりに素人組が駆け出した。

 

あの先輩達は素人だけどガッツはある。

この合宿中は本当に頑張っているのだ。

 

ただ、必死に時間を埋め戻そうとしているようにも見える。

強迫観念を煽るやり方は私は好きじゃないけど、当人達が承諾してる以上私からは何も言えない。

 

方向性は違えど、私もこれ位必死だったらプレイヤーでいれたのかな、と思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

合宿の〆日は練習試合をセッティングした。

相手は幼馴染みの太郎君が在籍している北住吉高校バスケ部。むっちゃ強い。

 

ダメ元で太郎君に相談してみたら「俺より上手いやついるか」って言われたので、迷い無く「いる」って言ったら次の日にはOK貰った。

ちょろい。

 

その後、挨拶がてら練習を少し見に来たけどすぐ帰っちゃった。

試合前に実力を知るのはカッコ悪いと思ったのだろう。

 

念のため香取君にメニュー表渡したら「これ、本気?」って言われたので「普通に消化してるよ」って正直に答えておいた。

保険もかけたしそれなりに試合に臨んでくれるでしょう。

 

 

で、迎えた当日。

向こうのキャプテンナンバーこそ見えなかったけど、主力、準主力は確認できた。様子見と調整も兼ねているのだろう。

 

太郎君や香取君が出ているのを見るとどっちに転んでもいいように、といった具合かなと思う。

 

丁度いい塩梅で来てくれた。

相手が本気で挑んできたら、、、あれ、うちもそれなりに戦えそう。

 

 

なんて思っていたけど、まだ見立てが甘かった。

正直、試合での車谷君の実力を私はまだ計りかねていたのだ。

 

思えば前半は常識の範疇に収まった実力であった。

チームとしての力に目を向けていれば。

 

2ピリ終盤に車谷君が太郎君からボールをカットした点。

マッチアップの鬼である太郎君からボールをカットする実力を私は見逃していた。

 

 

 

ハーフタイムの間に3ピリがほしいと言われて、何事か聞いてみたら、本気出すとのことだった。

 

選手が試したいとのことであればと2つ返事でOKを出した私であったが、3ピリが始まってから驚いた。

前半は本当に本気じゃなかったんだと。

 

前半は彼なりに意図を組みチームプレーに徹していたのだ。

 

多分上限を知っとけというのは言葉通りであろう。

車谷君を本気はこれなんだと。

 

 

蹂躙。

この言葉が当てはまる。

 

香取くんのDFを一瞬で置き去りにする。

ヘルプで来た太郎君も一蹴し。

ファウル覚悟で身体を入れてきた小西君をも吹っ飛ばしてジャンプショット+フリースローのおまけ付き。

 

DFも前半とは打って変わってよりタイトになり、ボール運びを徹底して咎めるスタンスとなった。

 

香取くんだけではなく、太郎君に対しても同じDFで、完全にシャットアウトしていた。

 

結局パスワークを活かしながらのゲーム展開を仕掛けてきたが、内心2人にしたら屈辱だろう。

司令塔とエースが単体では相手ができないと判断したのだから。

 

 

それに車谷君の攻勢にはまるで対策が取れない。

単純にシュートまで1人で完結させてしまうのだ。

 

圧倒的な速さ、ボール捌き。

無理くり止めようとしてもフィジカルで押し切られる。

 

もっと強引に行けば止められるかもだけど、それだと露骨過ぎてテクニカルを取られる恐れがある。

 

2、3人同時に付けても止まらない。

しかも外もある。

 

どうしろと?

 

 

車谷君の『上限を見定めて』と言う言葉を思い出す。

これをチームに取り込むのかー。とても骨が折れそうである。

 

なんて思うのはきっと贅沢な悩みなのだろうけど、取り込めた時を思うとニヤニヤが止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 蒲地太郎

幼馴染みから練習試合を申し込まれた。

俺より上手いやつがいるか、と聞いたら「いる」って即答されたから古賀じぃに言って練習試合を組んで貰った。

 

様子見に行ったら坊主頭のやんちゃそうな奴がアンタッチャブルな雰囲気をまとっていたが、奈緒が注目してるのはチビッ子だった。

 

あれか。

こいつの将来性を買ってるいのか。

なんて思っていたらチビっ子がいじらしく俺に構って来ようとして、、、部員総出で止められていた。

 

え、コイツなんかヤバイ奴なん?

 

むっちゃ引いた。

てか俺の方が上手いの当たり前だからもういいや、とその日は帰った。

 

 

 

で当日。

始めこそ古賀じぃは乗り気じゃ無かったが、相手の練習風景と高さを見て考えを変え、息抜きではなく実践の場として試合に臨むことにしたようだ。

判断が遅いぜ。

 

KATOも始めはオフを言い渡されていたようだが、奈緒から渡されたメニュー表を見て興味が湧いて帯同したとのことだ。

 

なれば答え合わせといこうか。

 

 

1ピリは様子見。

九頭高はパンチパーマと坊主頭を軸に点を取りに来る。

アフロは中掻き回したり点を取りにいったりと器用に立ち回り、リーゼントがリバウンドを拾う。

 

この辺じゃ190台が3枚いる高校なんて見ないため、ある意味新鮮ではあった。

だが上に行けばこれが当たり前になるわけだ。

だからこそ足で稼ぐのも重要であるが、今日は相手の土俵で戦う方針らしい。

 

コニーを軸に攻める。

同じ体格なら押し切れとの指示である。

が、リーゼントがいいDFをしてコニーをシャットアウト。そのままおチビ→坊主と速攻を決められる。

 

もっかいコニー。

コニーも今日の試合の意図を理解しているので敢えて勝負、、、と思ったが、ダメと判断。あのリーゼントに抑え込まれている。やるなあいつ。

コニーもきっちり引き付けて外に振る。が相手のアフロがインターセプト。相手が一枚上手だったな。

 

そのままアフロ→おチビチと繋ぎ、今度はパンチパーマがアリウープダンク。

畜生、不覚にもカッコいいと思っちまった。

にしてもおチビもよく走る。

でかい態度を取るだけの実力はあるか。

 

 

坊主頭もかなりやるが、俺を抑えるには荷が重いだろう。

なんて余裕ぶっこいてドライブを仕掛けたら、思った以上に反応がいい。

まさかいきなりシュートを打たされるとは思わなかったぜ。

 

こいつまだ1年だろ。

どんなフットワークしてるんだ。

伊達で坊主や刺青を入れたわけでは無いってか。

いいぜ、とことん相手してやる。

 

インサイドが思った以上に手強い分1ピリはコイツで稼がせて貰った。

 

 

で、2ピリ。

おチビを下げてメガネがイン。

うちもインサイド主体で攻めてるとはいえこうも露骨に相手も機動力を下げてくるとは。

奈緒のやつ完全に舐めてやがる。

 

メガネを早々に崩し、KATO自ら九頭校のインサイド陣を振り回す。

アウトナンバーを作り出しQED。

 

あのメガネもそこそこに動けるがさっきのおチビ程ではない。

 

九頭校もアフロと坊主がメインで点を重ねるが他はザルだ。

プレッシャーをかけるべきはこの2人で、アフロのアシストには警戒をしておけば十分。他のやつには得点能力はそれほど無いとみた。

 

相手の戦力を補足しつつ、うちはうちで点を重ねる。

仕舞いに本物の速攻を噛まして試合の流れを決定付ける。

 

 

こんなもんか。

と思ったらおチビとリーゼント(黒)が戻ってきた。

坊主は引き下がり、リーゼン(黒)が俺のマッチアップ。

やはり坊主はまだまだ1年だな。体力に難有りとみた。

 

なんて油断してたのがいけなかった。

リーゼント(黒)に注意を向け過ぎたせいか。隙を付かれておチビにボールを奪われてしまった。

ガッデム。

 

しかもあいつバカ速い。

誰も追い着けていないじゃないか。

 

思えばあまり目立つ動きは余り無いが、KATOと対等にやりあってる時点でこのおチビもやりおるよな。

 

ただの狂犬じゃない。

ひょっとしたらあの坊主以上の曲者では?

 

この時はそんな風に思っていた。

 

 

 

本領を発揮したのは3ピリ。

KATOがあっさり抜かれたとこから始まった。

慌てて俺はヘルプに入ったがこれも避わす。

 

待て待て待て。何が起きてる。

、、、おチビのやつ。前半は抜いてやがったな!

 

シュートを決めたらそのままKATOにマンツー。

にゃろう、オールで相手にする気か。

うちのKATOを舐め過ぎ、、いや、捕捉されてる。

 

すぐボールを貰いにいき、流れで坊主頭とマッチアップ。

ハーフタイム明けで体力戻したな。だがまだあめぇ。

 

抜いた先にはヘルプのおチビ。

「やらいでか!」

 

だが俺は手玉に取られていた。

 

フェイク、乗らない。

スピード、即反応。

フィジカルで、びくともしねぇ。

 

このチビゴリラめ!

 

 

認めよう。

単体ではコイツに勝てん。

だから手を貸せ我が相棒!

 

いくらコイツが化物じみた奴でも所詮チームの1/5。

他の攻め筋で戦えばいい。

OFはそれで成立する。

 

 

 

 

 

 

ただしDFは。

KATOの代わりにマッチアップ。

真っ向から抜きにかかってきた。

 

食らいつく。

だけど分かる。まだ抜いてやがる。

 

右左と重心が振れる。

ダメだ、足が追い付かねぇ。

 

振り向くとあいつはポストに入ったアフロにパスを放って仕事を終えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 古賀

驚いた。太郎が遊ばれておる。

在野にあんな怪童がおるとは。

 

チームとしての完成度はまだまだ駆け出し。

ただ個々の能力は目を引くものがある。

 

3枚の190台は三者三様にいいものを持っているし、坊主頭も相当な才に溢れている。

 

他の3人はまだまだだが、それでも最低限チームとして成立させる能力はある。

 

そこにあの小さい怪童が融和したら、恐ろしいチームの誕生じゃて。何とも難儀なことか。

 

 

現状でも奴の攻め筋を抑えることは難しい。

3枚当てても抜け出してスリーを沈める始末。

加えて周りもよく見えとる。

 

手に負えん。

 

途中交代で奴は代わったが、特に体力的な問題点とかではなく、これ以上は得られる物がないとの判断だろう。

練習試合だしの。お互い様か。

 

結局4ピリは本気でこなかったしの。

マークを2人着けたが大人しくしとったようじゃし。

故に試合もそのまま決めさせて貰った。

 

相手の不利を有効に付き、勝っている点で勝つ。

どんな理不尽だろうと相手より点を奪えば勝つスポーツなのだ。

それを改めて実践した練習試合だった。

 

3ピリの経験(理不尽)は今後に活かすとして。

話を伺ってみるかの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

驚いた。堀江君の倅だったか。

そのせいか、久々に昔を思い出し長く語ってしまった。

いやはや世間は狭い。

 

しかしもうゴールが近いときたか。

 

うんうん、そうかそうか。

私も歳を重ねた。

 

そして経験上若い者を先に見送ると言うのはとても悲しいことだ。堀江君も無念だろうに。

 

だがそうか。

この倅の向上心は母親譲りだったか。

血は争えんな。

 

この後もハーフゲームと事後練習の提案ときた。

手の内は見せたくないと思わされるチームだが、同時に手の内を探れるいい機会とも見れる。

 

いや、子ども達のやる気を削ぐのは良くないか。

何せ太郎始めうちの連中も乗り気だ。

 

存分に高め合うかの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 小西 学

一度ドロップアウトした人間が這い上がれるほど高校バスケは甘くない。

本心と積年の負の感情を込めて先輩に話し掛けたが帰ってきた言葉は「コートで語ろうぜ」と言う飄々としたものだった。

 

この人は何を。

そう思って臨んだ試合。

俺は先輩に完全にシャットアウトされた。

 

先輩がバスケから離れて俺は練習に打ち込んだ。

体格も大きくなった。

北住と言う環境で更に飛躍でき、お試しとは言え試合に出る機会も与えられた。

 

なのに抑えられてしまうと言う現実。

先輩の攻勢は覚束ないながらも、DFはブランクを感じるどころかとんでもなく上手くなっていた。

 

当時のようなフィジカル任せだけではなく、フットワークも絡めた緻密なDF。

一体どんな試練を乗り越えてきたのか。

 

ひょっとして俺はとんでもない思い違いをしてるのではないか。

試合終了後に俺は先輩に駆け寄った

 

 

 

「、、、先輩、上手くなってたっす。バスケは辞めたんじゃなかったんですか」

「辞めた。辞めてたさ。でもな小西、戻されて、いや。戻って来たんだ」

 

 

先輩が戻って来た経緯を聞いたらなんともまあ、擁護のしようも無い程のくずっぷりだった。

それでも先輩は戻って来たばかりか実力的には向上が見られた。

 

更に掘り進めて聞くとどうにもあの小さい同級生が要因らしい。

曰く、先輩がへばるまで1on1を続けているらしい。

そして小さい同級生は先輩より先にへばったことが無いとのこと。

 

、、、先輩はあの試合で一回も交代していないし、何だったら俺の方が終盤はへばっていた。

そしてあの小さい同級生は一人でうちを手玉に取っていた。

 

そんな化物とほぼ毎日文字通りぼろぼろにされているのだから、そりゃ嫌でもうまくなるか。

でもどうして反目し無いのか。

 

 

「あの時みたいに嫌にならないんすか?」

「、、、そうだな。しごきが始まった当初は当時を思い出して最悪な気分だったよ。なんせあいつは無茶苦茶うめぇからな。

 でもな、そんな俺に対し才能があるって言うんだよ。

 嫌みかと思ったけどさ。あいつ、このフィジカルを活かせなかった監督は、目が節穴だって言ってくれたんだぜ」

 

 

 

あの時先輩が一番欲しかった言葉だ。

俺もそうだけど、結局誰かに認めてもらいたかったんだよ。

 

 

「まあ『クソ雑魚豆腐メンタルかよ。でかい図体してめんどくさ』って付け加えられたけどな」

「凄い的を射てるじゃないですか」

「お前、言うようになったな」

「俺に何も言わず逃げ出した裏切り者が何か言ってるっすね」

「、、、ああ、そうだな。一度逃げ出しちまったからな。

 でもよ小西。諸々色んな事があってよ。もう逃げ出すわけにはいかないんだ。

 だからよ。あの時は悪かったな」

 

 

 

背負った業の重さと、少々の甘言。

きっかけはとてもきれいなものではない。

それでもまた一歩、先輩はまた歩み出したみたいだ。

 

いつまでも引きずってたらそれこそ俺の方が女々しく見える。

 

何よりブランク明けの先輩に抑えられたって事実がとても腹立たしい。

 

 

 

「謝罪はもういいっす。とりあえずまた会うことがありましたら今度は負けるつもりはありません」

「いや、俺もそんなにお前からシュート奪えなかったが」

「ブランク明けの人間に抑え込まれてちゃチームに面目が立たないんすよ。この後時間あります?自主連お願いします」

「いや、まあ。いいんだけどよ。多分まだまだうちも練習続くぞ」

「は?」

 

 

 

いや、うちこの後クールダウンして各自解散だと思うけど、、、え、この後ハーフで1本?相手も乗り気?

 

確かに先輩以外の面子の目がキラキラしてる。

why?

 

 

 

「正直練習よか試合の方が楽しいし。

何より通常練よかおもくそ楽なんだ。いや、試合は試合で考えることがいっぱいだけど、、、、吐くまでやんねぇからまだ気が楽なんだわ」

「、、、動きからしてバスケ始め立ての人もいますよね」

「ああ、いるな」

 

 

 

1on1だけではなく通常練もとことん追い詰めているとなれば、そりゃ上手くもなるわけだ。

 

このハレーションを起こしたのが小さな同級生なわけだから、先輩だけではなく、どうやら俺の世代にはとんでもない怪物が立ち塞がりそうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え、九頭校さんハーフの後に合宿メニューもこなすの?

部員の皆さん涙流してますけど。あ、やるんですね。

 

え、太郎先輩も乗り気?

マジですか、、、、、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この人ら大バカだ。

自主練で1on1とかもうあほなのかと。

 

香取先輩も遂にギブアップ。

太郎先輩も、、、流石にもう無理。

 

しかし小さい同級生はまだ余裕があるように見えるんですけど。

その体のどこに体力とフィジカル蓄えてるんだよ。

ゴリラかよ。

 

結局二人の先輩は俺が運んで帰った。

総論。九頭校はクレイジー。

 

、、、次当たるときは本当に要注意だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--side 五月2

試合の後に休憩を挟んで今度はハーフゲーム。

うちの連中は何故か喜んでいた。

 

まあ無理もない。

何せ初めての試合なのだから。

 

、、、いや、あれ合宿メニューから逃れられると言う喜びの顔か。

 

ただなあ。

七尾はハーフ後の練習も消化して貰う予定でいるっぽいし。

車谷がにこにこしているのも七尾のそれを分かって連中がどん底に落ちるのを楽しみにしているという表情だろう。嫌らしい表情をしている。

 

もっとも試合自体は本当に楽しいのだろう。

来る日も来る日も吐くまで走るか、車谷に理不尽に(1on1で)しばかれるかで。

唯一のオアシスは車谷以外の連中同士で成長を確かめ合うこと位なのだから。

 

過酷過ぎる。

バスケとはそこまで追い詰めないと上手くならないのか。

七尾に聞いたら「行き過ぎです」と言ってたから違うらしいが、七尾も止める気配がないからたまに車谷の同類では?と勘ぐってしまう。

 

一度そのことを指摘したら本気で嫌そうな顔をしていた。

君達、仲悪いのか?

 

 

「本当に発足して2ヶ月経ってないのですか」

「そうですね。本格的に動き出したのは4月からなので」

「驚きました。一体どうやって」

「ははは。恥ずかしながら、、、」

 

 

 

お相手の北住吉の監督と試合を眺めながら、今までの九頭校バスケ部の変遷を語っていた。

 

結局教育者として導くというより生徒が自力で説き伏せた(腕力)と言う話なのだが。

私はその前後で最低限の補助をして、いざという時に責任を取る置物でいるだけである。

そして最近は責任を負える程度にはバスケについて学んでいる。

 

 

 

「なるほど。とても新鮮な話ですね。

 私は若い時分からバスケ一筋でしたので、バスケの技術的な面については熟知してるつもりです。

 しかし教え子達のメンタルケアの面については未熟でした。それこそ鉄拳制裁も辞さなかったですし」

「い、意外ですね」

「昔ほどいきすぎた指導は無くなりましたが、今でも平手や罵声を飛ばすと言った指導がまかり通る世界ですので。

 ただね、結果はある程度残せましたが、ある日バスケから離れた生徒達が多数いることを指摘されてね。思ったわけですよ。

 バスケに携わる人間を減らしてまで強さを求めて。私は何を成そうとしているのか。

 結局自身のバスケ人としてのプライドのためだけに勝利至上主義を掲げていただけなんだなと。

 暴力的な制裁を科してまで求めるものでは無いと悟ってからは手探りの日々でした。

 多感な生徒達と向き合いながら指導することは非常に難しい。

 同時に今までの自分はただ練習を押し付けていただけだったんだなと痛感しましたね。

 だからこそ、始めから生徒に向き合えているあなたがとても眩しく見える」

「、、、私も褒められた人間ではありません。生徒指導に携わる任を持ちながら、あいつらを1年間放置していましたから」

「だから藻掻いているのでしょう」

「ええ」

 

 

時間を無駄にしたと後悔しているのは、花園達だけでは無い。

 

 

「五月先生がお持ちの感性を大切にしてください。

規則や慣習は昔以上に可視化されたのでいくらでも拾えますが、物事の判断は責任者が行うものです。

生徒達の先達として見守って、時たま、機を伺い、導けばよいでしょう。それが大人の責務です。

なに、子ども達は思った以上に強い」

「強過ぎて、私の仕事が少ないことが困りものですがね」

「贅沢な悩みですな」

 

 

 

目の前の熱量を実感しながら、少し、肩の力を抜いた。

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