そのあひる、狂暴につき   作:グゥワバス

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あひるの皮を被ったふれんず12

母さんが亡くなった。

最期は眠るように息を引き取った。

 

直後に父さんは泣いた。

一目も憚らず泣いていた。

僕も泣いていた。

 

それでも時間は容赦なく流れる。

悲しみに耽る間もなく矢継ぎ早に手続きは行われる。

 

僕の涙が枯れた頃には、いつもの父に戻っていた。

大人っていうのは繕うのが上手だ。

 

僕はどうだろうか。

表情を取り繕ったって悲しい時は悲しい。摂理だ。

 

婆ちゃん家にいると、母の面影をよりいっそう思い出しとても悲しくなる。

 

 

 

「ーーどうする」

「え?」

「明日だよ。確か2回戦あるだろ」

 

 

 

、、、、やってやる。やるに決まってる。

内心で散々神をなじっても、結局こうなるんじゃないかと思いはしてた。

 

思う度、奮起する。

やるんなら、徹底的にだ。

 

 

 

「行くよ、行ってくる」

「、、、だろうな。なら、今日はもう寝とけ」

「うん」

「負けん気は俺より由夏似だな。ただーー」

「寝る」

 

 

 

父さんが何か言おうとしてたのを遮り僕は寝た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

現地に顔を出したら五月先生を始め、他のメンバーも驚いた表情をしてた。

そりゃそうか。自分の親が亡くなった翌日に学校に顔を出すやつはいない。そういうことだろう。

 

それでも折れるわけにはいかない。そう決めたから。

それに、家にいたって悲しさと向き合うだけなのだから。

 

 

 

「車谷「先生。お気持ち痛み入ります」

「私からはこれだけ聞かせて。試合、いけると見ていいんだね?」

「うん」

「分かった」

 

 

 

七尾さんの発言で僕の精神が日常に戻ってく。

今はただ、試合に臨みたい。

 

あれほど思い入れがない、とほざいていた大会だけど、今はそれにすがっているんだから、人と言うのは実に都合良く生きているものだと思う。

 

そして五月先生には申し訳ないけど今は好きにさせて欲しい。父と同じことを続けて言おうとしたのが分かったから遮らせてもらった。

 

さて、他の連中はと言うと特に変わった様子はない。

神経が図太い連中だから。と言ったら失礼か。

何も言わずに各々アップしに行ってくれた。

 

唯一トビ君だけが悲しそうな目で僕を見てた。

ああそっか。彼も大きな惜別を経験してたか。

「わしゃあ整理が着くまでに大分時間がかかった。今のおんしのあり方にわしも向き合うだけじゃ」と言い残して行った。

 

良く分からないけど心配してくれてることだけは分かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合は思いの外淡々と進む。

向こうが僕を執拗にマークしてくるがその程度では止められない。

 

ただ向こうのOFも北住のようにアウトナンバーを作り出し、利用するのが上手い。そしてミスをしない。

 

前半終えて55ー40

 

思った以上に差が広がらない。

僕もシュートを落とさないけど相手も喰らい付いてくる。

 

相手の4番は新城の4番程度には実力があり、周囲も北住ほど尖ってないがバスケIQが高い動きを続けてくる。

 

うちのDFが連動してない。

個の能力じゃ負けていないけど、オフザボールの動きで翻弄されてる。

練習と経験の積み上げが圧倒的に不足しているからこんなものだろう。今後の課題過ぎる。

 

それでも有利を取れてるのは僕が稼いでいるから

基本ボールを奪われることはない。

いけると思ったシュートは外さない。

戦略僕、困った時僕、大体僕。

 

ただただ今日は動き続けたい。

身体を動かしていたい。

 

じゃないと気が収まんない。

 

 

「車谷君。まだいけるの?」

「おい、七尾「いけるよ」

「分かりました。後半も変わらず車谷君中心です。

 どの道車谷君抜きでは話しにならない相手です。

 このチームの本領は皆さんの力がチームに溶け込んで始めて発揮されます。今はまだ各人の力だけで動いてるチームに過ぎません。

 だから経験してください。この試合の1分1秒を己の糧にしてください。

 後半出だしはチャッキーさん、茂吉君です。夏目くん、迫田先輩が入れ替えです。千秋先輩と百春先輩はそのままで」

「茂吉君、4番に恩返しできそう?」

「マッチアップは僕じゃないけど。やれることはやる」

「じゃあこのピリオドは任せるよ。迫田先輩に楽させなよ」

「うるせぇ。休ませろ」

 

 

茂吉君より大分筋肉があるが、やはりブランク明けの迫田先輩も1試合通せる体力がない。息が上がってる。トビ君も同様だ。

こんな状況で勝ち上がろうとするんだから、七尾さんも選手起用が大変だ。

 

仮に勝ち上がっても今後はガタッとチーム力が落ちるタイミングを狙われるだろう。

解決策は主力のスタミナ強化とベンチメンバーの底上げしかない。

 

 

「七尾、戦略指示はもういいか」

「大丈夫です」

「なら俺から。車谷、お前無理してるな」

「五月先生、スタミナは全然余「そうじゃない。メンタルだ」

「思えば昨日の試合からだな。あっぷあっぷしてるぞ。

 自分の顔見てみろ」

 

 

渡された手鏡で見た自分の表情は死んでいた。

そんなの自分が一番よく知ってる。

それでもやり遂げないといけない。

やるんなら、徹底的にだ。

 

 

「自覚してますよ。それで、五月先生は僕にどうしろと」

「帰って休むんだ、車谷」

「先生、何を仰って「帰って休むんだ、車谷」

「試合中ですよ先生。途中で僕に投げ出せと?」

 

 

敬愛する五月先生には申し訳ないけど引けない。

他のメンバーにも緊張が走るが構ってられない。

それでも五月先生引かない。

 

 

「お前のマネジメント面とチームにおけるメリットデメリットの話だ。

 極論から語るぞ。もし、お前がこのままゲームに出たとしたら、そのまま押しきって勝つ確立は上がるだろう。逆に出ないとしたら、負ける確立が上がる」

「当たり前ですね」

「勝つことによるメリットは次の試合も出れる。

 私は思うんだがそれはメリットか?私の記憶が正しければ小目標『試合に出る』だったはずだ。公式戦にこだわる必要は無いじゃないか」

「公式戦でしか得られない緊張感を「練習試合でも十分だろう」

 

 

正直、強く反論できない。

練習試合でも十分な緊張感を味わえるから。

 

 

「まあ様々な試試合を経験できると言った面ではメリットにはなるだろう。じゃあ負けることのデメリットはその試合経験を積めない、と言う認識でいいか」

「まあ、そうですかね」

「それ、デメリットか?」

「まどろっこしい。先生は何が言いたいんですか」

「負けても勝ってもチームに大したメリットデメリットは無いと言うことだ。何せまだ『どこまで勝とう』と言う目標だって無いんだからな。少なくともお前達の口から『インターハイ本戦出場』なんて目標を聞いたことがない。元は車谷がスキルを上げるために再開した部活なんだからな」

「はい」

「そのお前がだ。このまま試合に出続けたとしてメンタル面で崩れるリスクがある、と言ったら?」

「あり得なくはないでしょうが、そこまで柔じゃないです」

「いいや、柔だよ。車谷、ここからはプライバシーにも関わるから正直別室で話したいんだが」

「ここで構いません」

「分かった。

 いいか、人が亡くなったら大抵の人は悲しいと思うし、身近な人程悲しみは大きくなる。

 だから向き合う時間があるんだ。

 車谷、ご遺体はまだ実家だろう。向き合うんだ、向き合わなきゃダメなんだ。本当に最期なんだ」

「別れは済ませました」

「当人同士のな。お前の決別は済んでない。そのために葬儀がある。

 いいか、このまま試合に勝っても来週試合だ。今日のお前の様子を見るにバスケに集中する腹積もりだろうが、それじゃあダメだ。故人を偲ぶ時間がない。それは亡くなった母親に対して不誠実だ」

「そこまで言うか」

「言う。俺はお前が間違ってると思うし、偲ぶ時間すらもけちってしまったら後悔する可能性が高い。今お前がいるべきはここじゃない。母親が眠ってる場所だ」

「、、、、」

「最大の懸念は故人を偲ぶ時間を削ってお前がバスケを続けてしまった場合。心の整理をしっかり着けなかったとしてどんな影響が出るのか。俺にはいいイメージが浮かべられん。直感だ。

 だからお前にはしっかり休んで貰いたいと思った。遠い視点で見ればそっちの方がリスクが低いと思ったからな」

 

 

多分先生の言う通りだ。

 

僕はまだ真摯に母の死と向き合えていない。

試合に出て僕の存在意義を、母の軌跡を、、、違うな。

 

ただただ母の亡骸を見ているのが怖かっただけだ。

ざわつくのだ。感情が。

正気でいられるのか。気持ちが。ぐちゃぐちゃになっちゃうんじゃないかと。

 

そんな思いするくらいなら、何かに没頭して時間を潰して、風化させてしまえばいい。

この考えは浅はかだったのだろうか。

 

 

「この試合だけっていう縛りもなしだ。バスケ漬けの環境から一切お前を遠ざける。今、この瞬間からだ。これはバスケ部顧問としての俺の判断だ。

 と言うわけでお前達。悪いが後半の戦略は車谷抜きで練り直してくれないか。俺も車谷をタクシーに詰め込んだら会場に戻る」

「先生、僕は母と向き合うのが怖い」

「それでも向き合うんだ。そして弱音を言う相手はもっと他にもいるはずだ」

「、、、父さん。ばあちゃん」

「私の口から言えるのはここまでだ。整理が着いたらまた体育館、、、いや、学校で会おう」

 

 

やっぱりこの先生はいい人だ。

うろ覚えの『原作』だったが、このメガネの堅物教師の人となりを改めて思い出せた。

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