ーーside 藤田
あの化け物はなんだ。
前半を終えて何とか競っているが、想定外の化け物っぷりだ。新城の試合を見ていたが、実際に体感するととんでもない理不尽である。
ボール入れさせたら最後。必ずシュートに絡んでくる。
前半だけであいつに30点。アシスト絡めたら50点は稼がれてる。
生半可なマークじゃ簡単に剥がされる。
かといって厳しく着こうにも他の連中も手が抜けん。
相手の連携不足につけ込んで得点を重ねているが、思いの外攻めあぐねている。
センタープレイヤーも茂吉だけと思っていたが、あのパンチパーマも中々やる。
茂吉ほど器用では無いがそれなりに上手さがある。加えて見た目通りにパワーもある。
救いはスタミナがそれほどでも無いこと。しかし茂吉と交代で起用しているためうまく補っている。
他の連中も癖が強く、気が抜けない。
このままではじり貧だ。
結局14番にボールを入れさせないで得点チャンスそのものを潰すしかない。
非常に困った問題を抱えたまま後半を迎えたのだが、コートに戻るとあの14番が見られない。
怪我か何かトラブルでも生じたのか。
何にせよチャンスではある。
光明が差した、、、何て言うにはまだ甘かったようだ。
今度は向こうの坊主頭の9番が暴れ始めた。
先ほどの14番程ではないにしてもこいつも相当にできる。
このチームは化物は交代制なのか。
興味本意で「14番は怪我か?」と尋ねたら「あいつはお休みじゃけぇ」と返された。分からん。
「代わりじゃ」これは分かった。
ーーside 夏目健二2
「さて。車谷君の不在についてですが、実は想定済みです。
と言うか普通に考えれば今日は来ないと思ってました。
夏目君なら分かるよね?」
切り替えが早い。ほんにおっかないのお。
都会の女は皆こいつみたいなんか。
わしに話を振ったのは唯一あいつの境遇に近いからか。
しかしわしかて流石に驚いた。まさか来るとは思わなんだ。
狂っとるしか思えん、、、と言いたいとこじゃったが、あのチビも流石に人の子だったか。もしくは五月先生の人徳と言うやつかの。
「実の親亡くしとるんじゃ。前半だけでも働いたことに衝撃じゃ。それより面白くないのはあのチビが抜けて負ける思われてるちゅうことじゃ」
これは本音。
あいつの実力は嫌と言う程見ているため最早疑いようはない。
ただ、あいつだけと思われるのはいただけない。わしかてあいつの扱きに付き合っとるのじゃ。
「方針は簡単です。夏目君に車谷君の代わりをして貰うだけで、そのフォローで皆さんに動いてもらいます。もちろん、完璧に車谷君の代わりが務まるとは思っていません」
「事実は変えれんからの。実力不足はわしも同意じゃ。
けど面白くはない。やるだけやったるわ」
「いい経験、かと」
「入部2週間の新人に言われてもの」
緊張感など感じられないまま後半が始まった。
正直積み上げてるもの等ほぼ無い。
プレッシャーは、、、多少はある。
親が亡くなっても前半を戦った狂人がいるのだ。
そいつの後を引き継ぐのは少々重い。
普段から試合で抜くことは皆無だが、今日の後半は一層。半端な覚悟じゃ務まらん。
「14番は怪我か?」
「あいつはお休みじゃ。代わりじゃ」
兄さんからフリーでパスを受けシュートを沈める。
先ずは相手の注意を引くのだ。甘いチェックなら無視して打つ。絶対に外さない覚悟で。
連続でシュートを決めてくると流石に警戒し出す。
特に4番。こいつは相手の中でも頭抜いて上手い。
あのチビ。よくこんな奴からボコスカゴールを奪えてたな。尊敬するで。
マークが厳しくなったためこれ以上は無理にいかない。
ダメならボールを回せばいい。
迫田先輩当たりが何とかしてくれるだろう。
お、いいとこ入るの。
パスを通して完全な1対1。
前半ならガチガチにインサイドプレーを仕掛けていっていた先輩も、後半はミドルレンジから積極的に狙うようになった。
的を絞らせないようにしてるのか。
ブランクはあれど引き出しは多い。
そしてきっちり沈めてくれるのも評価高いで。
問題は守りじゃ。
いいようにやられてる。
個でやられてると言うか、組織に翻弄されている。
僅かな隙から捩じ込まれてるというんか。
相手の得点効率も下がらない。
こりゃしんどいわ。
ーーside 茶木2
コートに立って感じることがある。
相手の動きの思い切りのよさだ。
俺だって空坊の扱き(手は抜かれてると思うが)を受けてきたのだ。それなりに相手に引っ付いていけてると思う。
でも半歩分。
僅かな反応の違い。
これだけの差が点数に反映されてしまう。
半歩あったら体を入れられてシュートを打たせてしまう。
ボール回し、スクリーンプレー等への反応。
ワンテンポ遅れるだけで、容易に相手にシュートまでを形取らせてしまう。
ワンチャンスを物にされている。
ワンチャンスを見逃さない。
俺にとっては小さな驕りでも、相手にとっては大きな隙に見えるのか。だから思い切りがいいのか。
72ー70
3ピリ終えての点差は1ゴール差まで詰められた。
トビと迫田と千秋のおかげで点は取れたが守りがどうしようもない。
俺のせい、、、というわけでもない。
皆が皆、組織だった動きに翻弄されている。
決して1人で戦いに来ない。
2対1、3対2、4対3と、数的有利を取ってきているのが分かる。
ドリブル、パス、シュート、スクリーン、オフザボール、フェイク等々。
とりあえず言語化しても相手が取る選択肢は数多ある。
何をしなければいけないのか、頭で整理が追い付かない。
身体が動いてくれない。
サンドバックな自身がもどかしい。
「指揮官失格かもですけど、多分負けます。相手に対して打つ手がありません。
練習して経た動きと各人の能力で攻めて、相手より点を稼ぐくらいです。車谷君抜きでは相手の攻めを抑えきれません。これが現実です」
「ふむ、妥当ですな」
「うるせぇな。点を上げ続けりゃいいんだろ」
「囀ずるな迫田。息が上がってるお前じゃ穴になるだけだ」
こういう時の千秋は冷静で冷徹だ。
そして助言をくれるのだが、流石のあいつも言葉が続かない。答えを見出だせないのだ。
、、、どうせ素人。なら間違って上等。
「なあ。相手が数で有利取って攻めてきてんだ。俺らのDFにも使えないか、数の有利」
ーーside 茂吉要
ディフェンスの方針が変わった。
言ってしまうと罠に嵌めると。
ドライブをあえてさせる。
それもゴール方面に向かって。
通常ディフェンスの原則論で言えば、パスコースを潰し、抜かれない。誘導はゴールから遠ざける、だ。
ゴール下には僕がいる。
だけど相手は西条。僕の運動量で対応できない距離はよく分かっているだろう(素直に悔しいけど)
だからこそこの人だ。
「あめーよ」
百春先輩のブロック到達点は相当に高い。
加えて車谷君との1on1を一番長く行っている賜物なのか。物凄く反応がいい。
故にこのブロックは当然の結果だ。
そしてこの動きにはもう一つ先がある。
「パスコースも潰す、か」
抜かれたら即百春先輩のマークマンとスイッチ。
アウトナンバーの穴埋めである。
付け焼き刃だが一時的には効果が見られたようである。
しかし今度はうちのオフェンスが苦しい。
夏目君には警戒が強まり、僕の方も抑えられてしまっている。
千秋先輩のゲームメイク。
ここでチャッキーさんがスクリーンプレーで夏目君のマークマンを1枚剥がす。
夏目君へに警戒が更に強まる。
フェイクである。
千秋先輩はそのまま中に切り込み、自らミドルシュートを放った。
「ぬぅ、しくった」
狙いは良かった。
しかしリングには嫌われる。
セカンドチャンスに備えようとするも、僕は動けない。
情けないことに、足が止まってしまっていた。
「だからあめーよ!」
対照的に百春先輩は跳び、そのままボールをゴールに叩き込んだ。とんでもない人だ。
「速攻!」
それでも抜け目無い藤田先輩は見逃さない。
敵陣に入り込んだままの百春先輩を置き去りにカウンターをお見舞いしてくる。
そこに夏目君が食らいつく。
単独速攻を許さない嫌なディフェンス。普段から車谷君を相手にしている真価が発揮されている。
4ピリなのにまだ動ける。いや、意地もあるか。
それなのに僕と来たら。
月島先輩だ、後悔だ、ブランクだ、因縁だ。
身体は大きいけど、自分の悩みの小ささときたら。
苛立つ。
「のっぽぉ!
DFリバウンド死んでも落とすなぁあ!」
「うる、さい」
そんな小さな悩みなんて、どうでもいい。
親を亡くして前半を戦った彼。
その代わりを必死に務めようとしてる彼。
同級生なんだ。
僕だって、やってやる。
ーーside 迫田穣2
ったく、自分の体力の無さにうんざりだ。
現場作業で鍛えられてると思ってたが、勘違いだったみてぇだ。
車谷、夏目、茂吉。
個性の強い一年に引っ張られてたな。
西条とタメ張るなんて夢にも思わなかった。
車谷が抜けた後半3ピリ。
開いてた点差がリセットされた。
いや、これでもマシな方だ。
4ピリも藻掻くがまあ結果はお察しだ。
夏目、茂吉が頑張ろうが。
花園達が踏ん張ろうが。
茶木の入れ知恵が働こうが。
車谷が抜けた分もろに出た地力の差と言うのはあまりに大きかったようだ。
85-92
これが現実だ。
4ピリ始めはまだ良かった。
だがすぐに西条も対応しだした。
それでも夏目、茂吉らは踏ん張った。
だが最後はディフェンスだ。
茶木もそうだが攻めの要である1年にディフェンスの負担まで乗っかてしまい、結果チームファウルが重なる。
個人間のファウル数は何とか調整されていたが、チームファウルが重なりFTを向こうに何本も献上してしまう。
止めだった。
会場の雰囲気は西条を追い詰めていたことで盛り上がっていたようで色々な声が聞こえたが、今の俺から言わせりゃただのノイズである。
そもそも俺は試合ができりゃどうでも良かったんだ。
練習試合だろうが何だろうが、ただのゲームだろう。
勝とうが負けようが、、、まあ勝った方が楽しいか。
兎にも角にも負けたところで失うもんなんて何もない。
何も無いんだよな。
「七尾よぉ。お前が泣くほど俺らが積み上げたものなんて何も無ぇんだわ。
お前の悲しみを当事者である俺らが共有することはできねぇぞ」
「、、、ズミマゼン」
花園(兄の方)がうるせぇが、俺は続ける。
「だからよ。負けたら俺らが泣ける程度のものを積み上げろ。
、、、分かりづれぇな。要するにチームとして強くしろってことだ。
たかだか1か月じゃこんなもんだ。車谷って言う補助輪付きでな」
「、、、あ゛い゛」
「五月先生よぉ。車谷の方はいいのか」
「とりあえずはな。今は休ませることが重要だ。
あんな性格だ。オンオフの切り替えはお手の物だろう」
「じゃあまたオンになった時が恐ろしいな」
「違いない。さ、お前ら引き上げるぞ。今度はそうだな、、、どこまで勝ち上がるか目標を設定しないとだな」
んなもん決まってる。
もっと上までだよ。
ーーside 五月2
大人として、これ以上車谷を見てられなかった。
お父さんの苦労も忍ばれる。この利かん坊の限界を見定めるのは相当に難い。
だから止めた。
長年培ってきた自分の感性に則って。
正しいかどうかは分からないが間違ってはいないと思う。
残ったメンバーには悪いがこの判断の付けは甘んじて受け止めよう。
なんてことを考えていたが、私はまだまだ子ども達のことを舐めていたようである。
私が戻ったのは4ピリ直後。
一進一退の攻防の最中だった。
夏目が、茂吉が、花園達が、そして最近始めたばかりの茶木が。
ロジックと熱量を以て必死に競っていた。
西条は俺でもバスケが強い高校だと知っている。
そんな高校に、こいつらは立ち向かっている。それも絶対的な存在を欠いている状況で。
「あのディフェンス形態は」
「チャッキーの思い付きから急ごしらえで組み上げた百春ホイホイだと」
「あいつ、元々運動部じゃ無かったから戦術やらにちょっと傾倒してるんだよな。五月先生もよくチャッキーと話してたろ」
俺と同じバスケ素人の安原と鍋島が教えてくれた。
確かに茶木は色々と七尾にも話を聞いていたし俺とも話をしていた。
そしてそこで『自分は運動部じゃなかったから体力面より先ずは頭で理解してぇ』とも言ってもいた。
身体の使い方じゃ素人3人の中では一枚劣るかもしれんが、それを理解した上で立ち回ろうしていた姿勢に感心したものだ。
考えてみればバスケ用語がよく茶木の口から出るようになっていたことを思い出した。
言語化できると言うことはそれなりに身に付いた証左だろう。文字通り身体で覚えたところが大きいと思うが。
それでも自力の差は大きかったのだろう。
最後はうちのファウルトラブルが尾を引いて幕切れとなった。
皆一葉に悔しそうな表情をしていたが、特に迫田は一等悔しがっていた。
泣いている七尾に軽口を叩いているが、今までの迫田を知っている身としては随分熱のある言葉だと思った。
、、、ふと、思い付いた案を口に出してみた。
「目標もそうだが迫田、お前キャプテンやってみないか?」
ーーside 古賀2
向こうの4番は本に恐ろしいな。
あれで太郎と同い年というのだから。随分ストイックなことだ。
「上には上がいると言いたいが、お前さんも負けとらんよ。それでも点差が出ていると言うことは分かるな」
「あいつほどじゃねぇぜ」
「よろしい。心中などではない。太郎中心で攻め抜け。負けはない」
うんうん、いい感じだ。
白石は確かに恐ろしいがうちの太郎も負けとらんよ。
お、酒巻くん勝負に出たな。
明るい髪色の彼は確か1年じゃったか。
白石の代わりになる実力か、、、うん、いいドライブだ。
だがその程度なら太郎が抑える、、、ほう。決めきったか。
やっこさん決定力はピカ一じゃな。
なら太郎や。お返しだ。
こっちは追っかけてる立場だ。
うん、うん。スリーで詰めるのはいい選択肢だ。
そのまま、、、ほう。今のスリーによく反応できたな。
クズ校の車谷くんにやられたのがいい経験になったかな。
ほらおいき。
そのまま叩き込んでしまいなさい。
、、、いいね。ダンク(できない)フェイクで向こうの11番を避して決めきる。流れは掴んだかな。
TOね。
あの子は悪手だったようだね、酒巻くん。
次は白石が戻るだろうし。ここが正念場だ。
ーーside 酒巻2
ち、ダメだ。
あの7番。まさか白石とタメ張るとは思わなかった。
不破で誤魔化して一気に決めようと思ったが、リードが縮んじまった。
不破の準備不足ってのもあるが、まさかほぼ完封するとは思わなんだ。
「バカ野郎だな。俺もお前も」
「、、、、どうすりゃいいべ」
「点取りゃ気にしねぇと言いたいとこだが、取られるのは違うだろう。それにスリーもブロックされてりゃ世話ねぇ。お前が7番のマーク外してヤックがフォローするも、避わして決めちまったことで勢い付けちまった」
「呼人。こいつの使えんの?」
「使えるつもりだったが俺が読み違えた。白石、お前はもっかい7番付け」
「了解」
「豹、交代と言いたいがお前の突破力と点への嗅覚を俺は買っている。7番以外だ。そこから切り開け。そのまま攻め続けろ。そして点を取れる位置に飛び込め。言うまでもないが次舐めたプレー噛ましたら交代だ。
他の連中は不破を上手く使え。こいつはパスは下手だが貰うのは格別に上手い。活かせ。
そしてーー交代だ。負けたら一生恨んでいいぜ」
「馬鹿にすんな。俺らは呼人に賭けて自分で選んでここに来た。俺の選択はお前の判断だ。次の出番を待ってるぜ」
「俺好みのいい覚悟だ。
と言うわけでもっと本気で攻めろ。不破が作り出すスペースを意識しろ。
ディフェンスは7番以外はお前らの方が上だ。白石、その意味分かるよな」
「あいつをもっと抑えろってことだろ。厳しく付くし誘導もする。やっく、合わせろ」
「うぜぇ。抜かれたら勝手に合わせるからな」
「こんなとこ絶体絶命でも何でもねぇ。黙らせてこい」
TOが終わる。
個々の能力で見ると7番以外はうちが勝っているが、チームとしてみた場合、あちらの方が完成度は高い。
全体的に小兵ではあるがスピーディであの7番が抜けてやがる。
堀江の息子程のインパクトは無ぇが(あれは企画外)ここ最近じゃ見ない実力者だ。川崎は一体どうなってんだよ。
けどまあいい機会ではある。
不破の鼻っ柱を早々に折ってくれたのはある意味では都合がいいかも知れん。
お、早速白石が使ってきた。
不破の奴、白石が引き付けた7番のスペースに入り込んでたからな。学習能力が早い。
こいつらを2枚で使えるのはでかい。
7番にやられる前だったら不破も自分で切り込んでただろうし。
7番がいなけりゃ不破も、、、ヘルプの5番もいいディフェンスしやがる。
何たってこうも粒が揃ってんだ。あいつも2年だろう。
しかし勝負あったな。
密集地帯での勝負なら不破の方が1枚上だ。
素早いロールで上体を流しながらシュートに持ってく。
流石の5番も追い付けないし7番のヘルプも無理だろう。
強引な得点だがあいつはそれでいい。
課題のディフェンスも先ほどの忠告が効いたか、集中力を切らしていない。しっかり付いてるな。
ったく、やれんなら始めからやれっての。
それでも5番は一人でボール運ぶんだから大した奴だ。
だがやっくがフォローに追い付いて、、、マジか。
7番は化物か何かか。
ブロックに跳んだやっくを欺き、走り込んできた7番にパスを繋ぎやがった。
白石が捕捉しきれてないって相当だぞ。
相当に奴も走り込んでやがる。
当然、決め切る。
こりゃあベンチ総動員だ。
白石には7番と心中して貰おう。走りっこだな。
その後は不破を白石ポジ(今と変わんねぇが)に据えて、+α交代要員で戦う。
それまでは元気一杯な不破で稼ぐ。
現状は向こうの5番、7番と真っ向勝負しかない。
というかここで躓くようなら先はねぇ。
とんでもない緒戦だがうちの糧にさせて貰うぜ。