そのあひる、狂暴につき   作:グゥワバス

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閑話・あひるの皮に騙されたふれんず8

ーーside 間久見

ぶっ刺さった。

如何に自分が悲劇の主人公を気取っていたのか。

機会なんて、目と鼻の先にあるじゃねぇか。

散々内村先生が用意してくれていたじゃねぇか。

 

生産性が無いなんて言い訳、動き続けている奴が言える台詞だ。

何もしてない奴が言える台詞じゃねぇ。何にも産み出してない奴が言ったって痛いだけだ。

 

 

「全てが正しいとは思いたくないが、正直あの子が言ってくれたことは間違いではない。

 お前らの処分について問われた時、そこまで言うかと言う思いもしたが、返す言葉も見つからなかった。無自覚に許して貰える、という驕りがあったのは事実だ。

 違うよな。俺も俺達も生殺与奪の権利は向こうに握られている。ここからは取り繕わん。

 今しなければいけないことは後ろ向きだが、先ず相手の時間を無駄にさせないこと。これが最低限。つまり最後まで試合を通すこと。泥臭くても何でも、最後まで通さなければいけない。それが出来なければ相手に失礼となる。つまりあの子を怒らせることになる」

 

 

他の連中も何も言わない。

純粋にあいつへの恐怖から。

普段から悪い連中とふんぞり返ってる奴らが、あいつの圧に屈している。

 

先公すら舐めきってる連中がだ。

 

 

「この試合を組もうとしたきっかけは間久見。確かにお前ではあったが、別段それだけではない。妙にお前らがバスケに傾倒していたから発散の場を設けようとした、と言うのもある。尤も、余計なお世話だったかもしれないがな」

 

 

たははと笑う内村先生は少し寂しそうだった。

でも先生。それはちげぇ。

 

他の連中はどうだか知らねぇが、少なくとも俺は嬉しかったよ。

 

バスケなんてもういいかと思ってたけどさ、以外と放課後何もしない時間は長く感じるんだ。

 

かといって不貞腐れて何もしなかった俺に対して、不器用に節介を焼いてくれたのはあんただ。

 

久々にボールを触ったら妙に弾んだんだよ。

力加減も変わっちまってたんだよな。シュートの感覚だって、戻すのに時間がかかった。

 

俺のことを慕ってくれる後輩だってできた。

部員だってどうしようもねぇ底辺をかき集めて体裁を整えてくれた。

そいつらに道徳だって物理的に叩き込んでくれて、柾木の馬鹿みてぇに多少はまともな人格を形成してくれたな。

 

けど、用意された部員の温度差に勝手にシラケて、意地けちまった。

 

悔しいけどあいつが言ってること、間違ってねぇんだよ。

 

 

「先生、すまねぇ。白状するよ。俺さ、バスケできて嬉しかったよ。どんな形でもよ。

 けどさ、勝手にシラケてお前らに無い物ねだりしてよ。ダセェよほんと。

 だからよ、残り時間は好きにやらせて貰う。折角先生が作ってくれた場だ。楽しめるかは分からねぇが全力でいく。

 だからよ、お前らにも少し付き合って貰いてぇ。

 別に俺のためじゃねぇ。バスケ以外でも世話になった先生のためだ。

 俺はお前らのことを全然知らねぇけどよ、そこまでの恩知らずじゃねぇだろう」

「うるせぇぞ!俺ぁなにも世話になちゃいねぇー!」

「柾木が一番世話になってるじゃねぇかよ(けどこいつが一番矯正されてはいるんだよな)

 本心からそう思ってるならもうなにも言わねぇ。けど、違うと思うなら、少し力を貸してくれ」

「あのチビも、内村も、お前も気に入らねぇ、何良い子ちゃんぶってんだ。

 けどあのチビは正直怖ぇ。それは分かる。だから利害の一致ってやつだ。真面目にやってやらぁ。但し、まともにやって偶然ぶつかっちまうのはしょうがねぇよなぁ?」

 

 

こいつまじか。

あれだけ花園(金髪)に当たり負けして、あのちいさいのにボロカスに言われてなお立ち向かっていけるのかよ。

他の連中も呆れている。

 

、、、馬鹿は馬鹿でも底抜けの馬鹿だな。

 

底辺は訂正だな。

根性は少しあるみたいだ。

 

そして僅かな反骨精神は似た者同士、他の連中も持っていたみたいだ。

 

馬鹿にすんな、舐められてたまるか、逃げるわけねぇだろくそが、等々。

 

僅かに先生への感謝はあったかもしれない。

けれど行き着く本音は今のままじゃダセェ。これだ。

 

先生が「さっきまでダサかったけど今はましだな」と言って皆ビクついてたし、分かりやすすぎだろ。

 

 

「俺がゴールをこじ開ける。お前らには悪いが俺にボールを集めてくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 内村

空気が変わる瞬間というのは今の状況みたいなことも指すのか。

今日俺は二回その場を目撃している。

 

一回目はクズ校のあの子が俺のもとに向かってくる最中。

「あ、明らかに怒ってる」という感じを空間ごと巻き込み、普通の高校生に不釣り合いな圧を伴いながらやって来た。

 

何か起こる、と思ったら案の定、淡々と悪意あるプレーについて注意と指導不足と処分を求めてきた。

 

特に処分については寝耳に水で、まさかそこまで徹底して対応を求めてくるとは思わなかった。

クズ校の五月先生が取りなしてくれて軟着したが、向こうの顧問が不在だった場合、俺はどのように収拾を図ろうとしただろうか。正直答えを出したくない。

 

 

 

 

二回目はあの子の圧と暴力的な正論に煽られて、間久見を始め他の連中が事態を受け入れ、試合が再開された直後。

 

不退転の覚悟と言うのか。

やらされてるという感覚が一切無く、やれることを全てやってやる、と言う気概を感じ取った。

 

特に間久見がボールを持った時。

流れるようなフォームで放ったシュートはブロックを置き去りにしてリングを通過した。

 

相手の反応が鈍いと感じられる位、間久見が放ったシュートは違和感無く流れていた。

 

コート外のあの子も感心した様子で見ていたから何か特徴のあるシュートなのだろう。

 

案の定、二度三度、同じような光景を見ることができた。

但し四度目はヘルプに入った金髪の子に止められていた。

 

その後はドライブも混ぜて攻め込む。

 

シュート同様動き出しが自然なのだ。

予備動作が少なくいとかそういう類いのもの。

コートにいる誰よりも動きに無駄がない。

 

他の例を知らないが、間久見達にずっと目を向けていたからこそ、俺はその結論に行き着いた。

 

 

但し相手も生半可なレベルではない。

終盤だと言うのに全く手を抜かないどころか、当たりが鋭くなって来ている。点差など関係無いとばかりに全力だ。

 

あの子の存在と言うのが良くも悪くもあるのだろう。

向こうも必死だ。

 

それはうちにとってもありがたいこと。

 

 

相手のアフロが必死で間久見に食らいつく。

反応がいいため大分適応してきている。

 

柾木にパスが渡る。

例の金髪の子との真っ向勝負。

ファウル、、ではない。すれすれだ、笛はない。

 

それでも軸足が動きトラベリングを取られる。

柾木の当たりを正面から受け止める当たり鍛え方が違う。

 

 

「ちったぁましな動きだな」

「うるせぇ!」

「隙ありだ」

 

 

アフロにボールが渡り間久見と相対する。

トリッキーな動きで翻弄し、半身抜かれ、そのままミドルレンジを沈められる。

 

当たりも強いしバランスがいい。

どこを取ってもクズ校は強い。

 

いくら間久見が上手いからって限度はある。

けれど何かやってくれる。そう思わせてくれるような存在感をお前に感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 千秋

間久見芳武。

中学時代はチームの輪の中心となる選手。

当時俺が羨望していた選手の象徴。要するに憧れていた。

 

今は特大の劇物がチームにいるせいか、そこまで拘りは無いが、それでもかつて憧れた選手に俺と言う存在を刻み付けてやりたい。そんな願望はまだ残っていた。

 

 

「アフロ、お前のそのうぜぇパス回し。昔会ったことあるな」

「覚えて貰えてて光栄だ」

 

 

お前と同じような遠回りをしてたがな。

だがかつてのようにパス一辺倒じゃない。

自分で道を拓くことを俺は学んだぞ。

 

先程とは打って変わり、力押しで強引に押し込む。

お前が足踏みしてた分フィジカルも俺が有利だ。

強引に身体をリング方面に向け体勢が崩れた所を見計らい、フックシュートを放ち、沈める。

 

 

茂吉から教わったこのシュートは俺と親和性が高い。

力押しで崩してからの間隔を短縮して打てる分、相手のブロックのタイミングを外せる。

稔が好むのも良く分かる(百春は練習中)

 

空坊の理想像は大分高いが目指し甲斐はある。

上背のあるオールラウンダーは新城戦の高橋で体感したが、あのレベルじゃない。更に突き抜けたものを奴は目指せと言ってるのだろう。

 

まだまだここは通過点に過ぎない。

 

 

 

「花園千秋だ。刻み付けろ」

 

 

 

何度も単独ドライブを許す程鈍ってるわけではない。

奴のタイミングは何となく捕捉しつつある。

 

それでも抜きかけるあたり生半可実力者ではないことが伺える。

 

ブランクがあってこれなら、磨き上げるとどこまで伸びるのか。

 

まだまだ俺の楽しみは尽きることが無さそうである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 七尾

チームの連携はそこそこ。

個々の能力は躍進的に伸びてきている。

 

私の目指す理想像と車谷君が見据えているチーム像は多分別物。と言うか車谷君が目指す理想像は無い。

私の目指す絵を敢えて完成させないように立ち回っている。そんな感じがする。

 

但し邪魔をしているわけではない。

結果的に良い方向に転がっている。

 

車谷君は一貫して個の力を重視している。

180センチの自分がいれば日本のプロを蹂躙できる、と常に豪語してるくらい自分の実力に自信があるのだろう。

 

圧倒的な個の実力による下地。

そこに付加価値として連携が乗ればいい。そんな感覚だろう。間違っていないと思う。

 

だからこそ、団体の力と言うものを私は大事にして貰いたいと思う。

 

 

 

足し算で終わらせず乗算で計算して貰いたい。と、以前私は車谷君に諭したが、思えば響いていなかったのだろうし、今後も響くことはないだろう。

 

それくらい車谷君の実力は突き抜けてしまっている。

 

今はまだ面白がって周りを使うことを実践しているけど、必要な水準に達したら我が道を行くんだろうと思う。

 

 

 

「車谷のスタイルが普通じゃないのは分かる。けれどあいつなりのチームプレーは意識してる。その証左に七尾の声にきっちり耳を傾けて返事をしているだろう。信頼している相手にまで嘘を付くような奴じゃないよ」

「そんなものですかね?」

「七尾さんがいないと、車谷君は誰も制御できませんよ」

「「「それな」」」

 

 

何だかんだで皆優しいから、ここは居心地がいい。

、、、もしかして車谷君もそんなこと思ってたりするのかな。

 

感傷に浸ってたら車谷君からまた無茶なオーダーが入ってきた。

5分で相手を徹底的に突き放す戦略を組み直せと。

 

全く以て唐突だ。

でもまあいいでしょう。

頼られている内が華と言うし。

 

車谷君が抜けた代わりに迫田キャプテンをイン。

鍋島先輩を夏目君とチェンジ。

 

得点と機動力を両立させた布陣である(茂吉君の機動力は今回は不要)

 

それでも覚醒した相手の4番は強烈だった。

車谷君が感心して眺めるくらいだから相当だろう。

 

だけど総合的な点取り能力で押し切った。

いくら強烈な個であっても5人いれば抑えられるし、もっと効率良く稼げる。

 

車谷君に見せつけてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside 智久

相変わらずと言うかなんと言うか。

我が子ながらどうしてこうも苛烈に育ってしまったのか。

 

安原がぶっ飛ばされたことについて怒ったと言うより、単純にヘラヘラした相手にフラストレーションが溜まって安原の件で爆発した、と言うのが本音だと思う。

 

アメリカに行ってからと言うものを、変にこいつは攻撃性が強くなってる気がする。

 

真っ当な感性だと向こうじゃ呑み込まれる、とのことだが、自分が真っ当な感性な持ち主だと思ってる息子に呆然とした、、、ツッコミ待ちだよな?

 

己のスキルだけで向こうでの協力者を得たと言うのだから、最早俺の考えの及ばない世界にいち早く旅立ちつつある。

 

 

で、そんな息子はと言うと「雑魚相手に試合してもこれ以上は無意味ですから練習しますよー」と、いつも通り練習仕度を始めてた。部員連中は涙を流しながらメニューの確認を行っていた。

 

いやほんと、牙を折られたチワワ状態だな。

 

「頭数揃ってるわけだし、おたくらもどうです?

試合は意味ないけど、練習ならおたくら程度増えたってどうってこと無いですし」

 

あれだけ煽り散らかした相手にまで声をかける始末。

頭数が増えれば多少練習の強度が落ちることを知ってる連中は必死で勧誘する。

 

態度が豹変している様子に鶴金の部員はドン引きである。

 

それでも内村先生の一声で参加が決定的になったわけだが、後はお察しである。

 

 

 

 

 

息子以外、漏れなく吐いた。

処理は俺も手伝ったわけだが、何となく今日サポートを頼まれた意味が分かった気がした。

 

 

「このご時世にとんでも無い練習量ですね。と言うか吐くまで追い込みますかあの子」

「世が世なら天下取ってますね」

 

 

内村先生と五月先生である。

お二方にも処理をお願いしている。

 

一応トイレまで駆け込んで貰った分手間は省けているのだが、何が悲しくて大男どもの物を処理しなきゃいけないのか。

 

 

「正直私も厳しい指導を強いるタイプですが、息子は図抜けてますね。質が悪いことに、諌めても笑いながら強度上げていくタイプなので、なに言っても聞かない。

 その癖私より限界を見極めるのと引き上げるのが上手いですからね。指導者泣かせですよ」

 

 

以外な反応を示したのは五月先生だった。

 

 

「練習中は苛烈ですが、それ以外では至って普通の感性を持ってますよ。最近はそうですね、、、多少角は取れてきた、かのように思います」

「その心は」

「知りたいことを知れたからだと思いますよ。アメリカで実りがあったのでしょうね」

 

 

なるほど、そう捉えることもできたのか。

我が息子のことながら難しい、、、と言うか五月先生が本当に良く見てくださって。

 

有り難くも、親である自身の至らなさに恥じ入るばかりだ。

 

 

 

「まさかうちの間久見まで戻すとは思っていませんでした。要領の良い奴と思ってただけに意外でした」

「男は何時だって負けず嫌いですから。ブランクがあるなら尚更です。でもまあ今日くらいは羽目を外しても良いのでは?」

「、、、五月先生には敵いませんね。ご厚意有り難く頂戴します」

「私も、教わってばかりですよ」

 

 

 

ただできるなら、体育館の男子トイレではなく、普通の飲み屋で話したかったなぁ。

 

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