そのあひる、狂暴につき   作:グゥワバス

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閑話・あひるの皮に騙されたふれんず11

ーーside 智久

子どもと言うのはブレーキを知らない。言動然り、行動然り。

そも最たる例はうちの息子だろう。

 

どこの高校生が不良をシバいて部員にして自分の足のように動かすのか。

始めにあの一報を聞いたとき時は唖然としたものだ。

 

 

触発されてなのか。

女バスのメンバーがうちの息子の影響の余波で強いメンタリティを備えてしまった。

 

元々男女共同で練習する機会はあったようで、そこで散々やられていたらしい。

当初は恐怖だけで動いていたようであるが、ある時に藪内(円)が覚醒。部員全体で強くなることを共有する意識を醸成し、今に至った経緯がある。

 

こういう話を聞くとなんだかんだで円(マル)には人を動かす才能があるんだなーと思わされる。技術はまだ甘いが。

 

 

そのせいかおかげか、女子部員も息子同様にブレーキの効きが悪い。

夏合宿ではそれがいい方に働いて、息子に恐怖心を煽られながらも乗り切った。最後は気合いと根性で。

 

あれには何も言えなかった。

それとなく楠木の様子をマネージャーに伺ってみたが「あれ以上に怖いものは無い(断言)」とあっけらかんと答えたようで、以降プレーにも肝が据わったような物が多くなり、人間の可能性を俺に示してくれた。

 

 

 

そんな成長(斜め上)を遂げた部員であっても冬合宿は過酷なものだった。

 

息子でさえ後半は息を上げていたのだ。

当然他の部員は息も絶え絶え。

流石に危ういと思った。

 

ただその辺の鼻は俺より息子の方が利いているようで、決まって息子が初動対応を行ってくれた。

 

 

始め女子部員に息子が近づいていった時は緊張が走ったが、兆候が見られた部員も周りの部員も空に立ち向かう余裕は当に見られなかった。いや、楠木だけは空に何か言おうとして息子の肩に手を掛けていた。凄く震えていたな。

 

珍しく。本当に珍しく息子が柔らかく笑い、その後に「ちょっと連れていきます。ハナさん手伝って。マネージャー、ちょっと手を貸してください」と言って外に出ていった。

 

その後は俺が締めて練習再開。

空が戻ってきて「後は任せました」と俺に報告。

 

 

頑張りすぎた部員のフォローは俺の役目。

昔取った杵柄というやつだ。

 

 

不謹慎ではあるが、最近は久しく見ることがなかった由夏の面影を部の雰囲気から感じ取れた。

「由夏さんも頑張ってましたからね」、、、最近の藪内は本当に鋭い。

「練習中だ」と言い打ち切ったが、本当に頑張ってたんだよ、って言葉は飲み込んだ。

 

じゃなきゃ旅立つ前日に息子の勇姿を見るなんて、出来はしないから。

 

 

「頑張ろう。ここを乗り越えて、県大勝ち抜くよ!」

「声出そう、辛いからこそ、助け合おう」

「クズ校ぉぉぉぉぉおおおおおおお、ファイ!」

「「「ファイッ!!」」」

 

 

ヨウが発してマルが治めてレイに倣って声を出す。

本当に、子どもの可能性と言うのには驚かされっぱなしである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside とある日本のバスケットプレイヤー

高校で比肩する者なし。

プロでも最上位。

いよいよ日本でやれることが無くなったので満を持して海外挑戦、、、と言った矢先に別チームの後輩から入ってきた連絡。内容は『高校生に化物がいたから会ってやってくでさい』と言うものだった。

 

信じられないものだしメール誤字ってるしとも思ったが、若手のホープでもあるそいつからのメールと着信歴も残っていたし連絡を取ってみることにした。

 

 

「どういうことだ。ふざけてんなら○すぞ」

「1on1でそいつに完敗しました。特にシュートは一度も止められませんでした」

「フかしこいてんのか?」

「ガチです。俺は負けてそいつからもっと強い奴と繋ぎを取れと言われています。それ抜きにしても会っておいた方がいいです」

「、、、分かった」

 

 

 

事情は良く分からんがそいつが強いと言うことだけは分かった。と言うか高校生に繋ぎ取れって言われて素直に応じてる当たりにも違和感を感じる。

 

とりあえず初めはそのふざけた面を拝む、と言うのが第一目的だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おせぇよ、○すぞ」

くそ生意気な小学生がいた。

そのまま伝えたら完全に向こうがキレた。

 

件の後輩(金髪)の後輩(一般プロ)の後輩(大学生。唐沢って言ったっけ)の大学で対峙することになったのだが、俺の都合で大分遅い時間となってしまっていた。

 

寧ろ時間作ったんだから有り難く思えとまんま伝えたら後輩達は『あちゃー』と言う顔をしていた。わけがわからねぇ。

 

アップもそこそこに「やるよ。制限はあんたが納得するまで」と問いかけられたので、プロとして(建前)大人として(建前)あいつを泣かす(本音)ことにした。

 

けれど泣かされた(比喩表現)のは俺の方だった。

 

 

 

手始めにフィジカルの差を見せつけようと思って当たりに行ったら逆に弾かれ(返しにスリー)、何かの間違いと思い密着状態から押し込もうと思ってもびくともせずスティールされるし(返しにスリー。タイミングが全く合わない)、ドライブは悉くシュートに行く前に潰される始末(返しにドライブ。全然触れられねぇ)

 

衝撃である。

小学生の皮を被ったゴリラの高校生とは。

 

ここまで何もできないと笑うしか「笑って誤魔化すなクソ雑魚」何も言えねぇ。オーバキルである。

 

きっちり謝罪して何とか許しを得たが、例によって強い相手をご所望のためテキトーに紹介しようと思ったが思い浮かばない。と言うか日本に俺以外(こいつを除くと)上手ぇ奴なんていねぇ。

 

 

だから提案してやった。

 

 

「アメリカ行くから着いてくか?俺より強い奴ごろごろだろ」

「あんたの奢りなら」

 

 

こいつの帯同が決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やべぇやべぇとは思ったがマジでこいつはイカれてやがった。

 

元は俺の付き添い、知人、親戚、とかなんとか適当な関係者筋で付いてきて、マスコミ関係者がいない時に俺の練習に付き合って貰う、って関係性だったのだが、サマーリーグの当日受付で奴はやらかしやがった。

 

見学のために着いてきてたのだが、まあこいつに突っ掛かってきた参加者がいたわけだ。

 

和訳して東洋のチビのチビと言われてまあ奴はぶちギレ。

すると何も知らんふりして奴は笑顔で手を差し出す。

 

参加者(2m)も手を出しへらへらしながらモンキーだなんだ言ってたのだが、握って2秒後には身長が奴以下になった。要する手を握りながら踞ったのだ。

 

 

こいつはモンキーじゃなくゴリラだって俺は言っておいた。いや、ゴリラの方がかわいい。

「手を話すが変な気を起こすな。うんと言え、言わなきゃそのまま握り潰す、、って訳して」悪魔だよこいつは。

 

まだまだ余力があるようで、更に力を込め始めたため手早く俺は参加者に告げた。すげぇ勢いで頷いたので、漸く「グッド」と言いながら手を話した。

 

そしたらやっこさん、今度はバスケで勝負を挑んできたのだが、後はお察しである。

 

奴にとっては俺もやっこさんも変わらないと言うのだろう。やっこさんは一度も奴のシュートを止めることができなかった。

 

「才能無いよど雑魚、、、って訳して」

 

まんま伝えたらそいつは体育座りして動かなくなった。

その様子を見てた他の連中も奴をヘラヘラとバカにしてきたのだが、惨劇が何度も繰り返され、最終的には別チームの関係者が詫びを入れて、代わりの参加を打診していた(本来の参加者は心が折れてた)

 

俺がここに到達するまでに要した苦労を奴は文字通り腕力とスキル(と暴力性)で無理繰り押し通した。本人も「想定外」と言うがうん、何も言えねぇ。

 

 

ゲームでも奴は異物だった。

上を抜かれる以外は一切やられない。

接触したら最後。弾かれる。

 

上を通せばいいのに、圧倒的に小さい奴にそれしか対抗手段と言うのが我慢なら無いのか。

初めは皆果敢に挑むのだが、その全てを返り討ちにし、次第に周りもその異常性に脳を焼かれていた。

 

極めつけはオフェンス。

奴で完結してしまうのだ。

 

曰く、頼れる仲間がいないからしゃあなく、とのこと。

しゃあなくでゴールを沈められてたらたまったものじゃない。

 

たまに味方にパスして外してたらそいつには絶対パスを出さない徹底ぶり。

 

敵も去ることながら味方も奴にビビってたのが印象的だった。

 

 

結局サマーリーグ期間とんでもないスタッツと爪痕を残し、最終的になし崩し的に組み入ったチームに良く分からない役職で所属することになった。

 

なお、俺もそいつの関係者枠ということで、元のチームよりかなり好条件、厚待遇で迎え入れられることになった。

 

いつの間にか俺の方がおまけ扱いされていて笑うしかないが、プライドを捨ててでも奴と練習できる時間は貴重だった。

 

アメリカ人のフィジカルを物ともしない怪物だ。

そいつと付きっきりで練習ができるなんて控えめにいっても最高だ。飛んでくる罵倒にメンタルはゴリゴリ削られるが(おかげで精神的にもタフになった)単独でアメリカに来るより確実に俺の技術は向上していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside とあるアメリカのバスケットプレイヤー(マイナー)

 

子連れのジャパニーズを見た時、初めはバカにした。

生温い奴だな、と。

 

スラングを用い威圧的に振る舞えば萎縮するだろう。

そんな考えで子供をだしにして挑発をした。

 

英語を良く分かっていない子どもはヘラヘラしながら手を差し出してきた。ちょっとかわいそうだがもう少しいじめてやろう。どうせモンキーだし。

 

 

 

そう思って俺は悪魔に手を差し出してしまった。

 

 

 

そこから先は思い出したくない。

 

 

コートに入ってしまうと。

あいつのヘラヘラした笑い顔と。

苦しんでる俺を冷静に見据え笑ってる顔が。

練習中でも、試合中でもダブってしまい、俺に恐怖を思い出させるんだ。

 

 

怖い。

心の底から、忘れたい。

願うなら、あの日悪魔に差し出した手をーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーside とあるアメリカのバスケットプレイヤー(メジャー)

バスケの神様は意地悪で捻くれている。

彼の身体にサイズを与えなかった代わりにそれ以外の性能を全て与えてしまったのだから。

 

ポンポン放つシュートを全く落とさない。

恐ろしい精度に神に愛されたとしか思えない強靭なフィジカル。

 

若干16歳の少年が持つには両方不釣り合いである。

 

 

「持たされたんじゃなくて身に付けた、って言ってるぞ。命懸けで」

 

 

 

付き添いのジャパニーズが訳して話してくれた。

底辺?と話したがミドル層だとも。

その環境下で何故ハングリー精神に飢えていたのか、私には分からない。

 

でも目の前の少年は強い。

少年と私は対峙した、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2セット先取の勝負。

少年は早々にシュートを放ち3点を悠々と得る。

 

リリースまでが圧倒的に早い。

身長差などお構い無しだ。

 

 

私の後攻め。

フィジカル勝負を試みる。

振り切ることは早々にできないと判断。

ジャンプショットに切り替え沈める。

 

少年は自分を弾けなかったことに驚いた様子であったが私の方こそ驚愕だ。抜けるイメージがまるで湧かない。まだまだ余力もありそうである。経験則からの勘が私にジャンプシュートを選択させ、それが間違っていなかったと確信を得た。

 

 

だがこのディフェンス能力でさえ彼を語るにはその一部でしかない。真に恐ろしいのはシュートの多彩さとそも精度だった。

 

 

彼のオフェンス。

ドライブ。恐ろしい切れと当たりの強さ。

辛うじて踏ん張れたが崩された隙に悠々とレイアップを沈められる。

 

後攻め。

早々にスリーを放とうとするも、今まで私が経験したことのない反射速度でチャージを貰いリングが遠退く。

 

身長差を付くにも選択を迫られることに驚愕を隠せない。

私の安全圏などどこにもないことを1セット目で思い知らされた。

 

 

 

 

2セット目。

相変わらず彼のシュートについてタイミングを掴めない。

捉えたと思ったら利き手のスイッチ。極端に下がったと思ったらディープスリー。下がったところを起点にドライブ、シュート、時間差(ジャンプ降下後)まで使用しており、その攻めのバリエーションから事実上ブロックは不可能と判断。

 

自分のシュートを外さないことに注力する。

当たりが先ほど以上に強いがなんとか対応しようとするも

わずかな綻びを彼は見逃さず、結果2セット連取されスイープされる。

 

 

 

恥も外聞もかなぐり捨て3セット目を所望。

己の全てを掛け挑む。

 

相変わらず彼のシュートに規則性は見つからない。

それでも私は静かに山を張ることにした。

翻弄されているように見せる。いや、実際に翻弄されているのだが、それでも内心は落ち着かせる。

 

ラストショット。

油断も満身もない彼なら絶対の自信があるショットで沈めてくる。

それまで私も自分の攻めを間違うわけにはいかない。

 

互いに互いがシュートを外さず勝負は拮抗した。

 

迎えたラスト。

 

 

彼が選んだシュートは早々の速打ちスリー。

読み切れたがそれでもギリギリだった。

 

裏の攻撃で私は間違うことなく、3セット目にして漸く勝利を拾えた。

 

 

「同じことをやれと言っても早々にはできない。今回限りだろう。だから君との練習機会は大切にしたい」

 

 

少年は手を差し出して私はそれに答えた。

悪魔のように力強いシェイクハンドではあったが、大分加減していると聞き、改めて彼の持つ強大なフィジカルに敬意を表した。

 

 

但し彼が望んだのは敬意でもなんでもなく、自分より更に強い奴への挑戦権だった。私は彼にこう答えた。

 

 

「何人か心当たりはいるが彼らとはコートで出会うべきだ。易々と君を安売りしたくない」

 

 

付き添いの日本人に伝えて貰ったら彼の言葉で今度は返ってきた。

 

 

「ミートゥー」

 

 

私は笑った。

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