ーーside 千歳
方々から声が上がっていた九頭竜高校。
それでも認識が甘かったと言わざるを得ない。
どの選手も想定の頭一つ抜けた能力がある。
それならまだ勝負になる。
15番だ。
頭一つどころではない。
身長分の差を差し引いてもとんでもない格差が生まれてしまっている。
中田どころか他がフォローに入っても手に負えない。
「監督、すまねぇ」
「現、試合中です。あなたの代わりはいません。
15番をフィニッシャーにしてはいけません。そのため、より容易に攻められる隙を作ります。オフボールで11番以外のマークを緩めた上でボールを入れさせます。そこで勝負して得点を止める。
攻める時は徹底して15番を避ける。いいですね」
「無茶苦茶言ってるぞ」
「それが今見出だせる勝機です。反省は試合後にいくらでもしましょう」
綾の言う通り正直無茶苦茶だ。
事実上15番一人に完敗している。
現一人どころか、ヘルプすらものともしない。
自分で決めきれるのに嫌らしく周りも気まぐれに活用するから余計に相手の択が増えてる。
結果が1ピリ途中で7ー21。
他の選手も一筋縄じゃいかないため付け入る隙が見当たらない。連携に難も見えるが、個の力で強引になまじ押し通せてしまうから誤差でしかない。
極めつけが現の精神的乱れ。
あの現が意気消沈している。
普段から口は悪いが言うだけの実力がある彼が弱音を吐いてる。
コートで二、三やり取りが聞こえたが「口悪いぞクソザ、、先輩」「向こうの監督に救われましたね。見られてなければ、、、」と、多分現が挑発して返り討ちにあったのだろう。
もっとひどいやり取りがあれば警告をしたのだが、向こうの15番はこちらの機微まで悟り、以降は私の見える範囲でそのような仕草を見せなかった。
実力だけじゃなく立ち回りまで徹底している。
実に嫌らしい選手だ。
ーーside 深沼
まじぃな。光明が見出だせない。
監督が言ってることは分かる。結局殴りあって相手を上回る点を稼げと言うことだがこいつら徹底して個も強ぇ。
一瞬足りとも気が抜けない。
「落ち着くなよ」
この金髪ディフェンスがバチクソ上手ぇ。
シュートこそあまり打たねぇが、ブロックとディフェンスとディフェンスリバウンドの反応が超人染みてやがる。
おまけにフィジカルもバカ強。
フェイクにも反応を示さねぇし、守備の固さで言えば去年の大栄の八熊以上だ。
「綾!回せ!」
賢が45度でボールを貰いに来る。
勢いのままマークの11番(コーンロウヘアー)を振り切ろうとするがきっちり着いてやがる。
賢は身体能力に秀でている。
その賢が身体で弾こうにも弾けない。
あれで一年だというのだ。身体のできがやばすぎる。
他の連中より細身に見える奴であれだ。
4番(パンチパーマ)と7番(アフロ)に至っては見た目通りに強い。しかも上手さもある。前者が攻め方面、後者がアシスト方面で。
その上でそのトップに立つのが15番だというのだから意味が分からねぇ。
賢が何とか沈めるのを見て15番は「トビ君、使えないなら引っ込め」だから辛辣だ。
15番も「すまん、取り返す」って従順に返す当たりに力関係が伺える。
圧倒的強者。
事実うちの現が完封されているのだから。
味方ですらあれだ。現に対しても審判や監督が聞こえない範囲では相当に酷い。
「ど雑魚クソザコナメクジ蛆虫」「弱ぇカスがイキるな○ね」「才能ねぇんだわ止めちまえ」何度かピキッたが「仕掛けて始めたのはこいつだ」と言われてしまえば何も言い返せない。
今更ながら現の奴も俺達も軽口を叩く相手を間違えちまったようだ。
「さて、タコ殴りだ」
アフロのゲームメイク。
嵐士のマッチだが隙を突かれる。
賢がフォローに入るがその前にアフロがフロアにボールを叩きつける。
なんだ?
「お返しじゃ」
賢のマークが外れた11番がアリウープで沈めた。
この身長でダンクって、いよいよこいつも化物染みてやがる。その体格でダンクしてる奴はうちの賢以外には大栄のオレンジ髪くらいだけだと思ってた。
こんな奴らと点の取り合いをしなければいけない。
今更ながら判断が遅すぎたな。
試合終了
九頭竜 121-77 藤沢菖蒲
ーーside 兵藤新
強い。夏以上に進化してやがる。特に藪内はボールタッチが以前より柔らかくなっている。初動が全然読めねぇ。
4番(キャプテン)と7番(裏エース)がほぼ同格に上手ぇ。
他の面子もかなり走り込んでやがる。
一体どんな試練越えて来てんだよ。
ちょっと前まで無名校だったんだろ。うちのババアの手腕じゃ先ず無理だぞ。
それと13番。
「あいつ出てねぇな」
「多分出さなくてもいいって判断だと思う。局面打破の鬼札だと思う」
「ちっ、あれが一番の不安材料なんだよな」
「うん。安原君も「玲ちゃんは勘弁してくれ」って言ってたから」
「かくし球だな」
夏の時点でとも子と張ってたんだ。
冬を越えたあいつらの成長を鑑みるに恐ろしいことになっているだろう。
「強敵だぞ」
「勝ち抜けばどこも強いのは同じだからね」
それでも成長は相手に限った話ではない。
私達もあの敗戦以降、貪欲に勝負に拘ってきたのだ。
私もそうだがとも子もそれは同じ思い。
一個下の後輩にタメ張られたのだから。
「全体的に伸びているんだろうなー」
可愛らしい顔に猛禽類の獰猛さを垣間見た。
ーーside 智久
72-55。完勝だった。
相手は夏のベスト16。手を抜くつもりは無いが本気で勝ち抜こうともしているため、部で協議した結果レイを最後の切り札としてギリギリまで温存することとした。
そしてそれは他の部員にも火を付けた。
ひたすらに厳しかった夏と、限界まで追い込んで這い上がった冬。
これを乗り越えた部には確かな自信が芽生えていた。
相手が県のベスト16だろうが一切臆さない。
練習程辛かったものはあったか。
新見ほど苛烈な女史はいたか。
何より、車谷(息子)程恐ろしい存在はいたのか。
、、、最後はどうかと思うが、三重苦を乗り越えた部員に最早県ベスト16は敵じゃなかった。
ヨウ、マルでゲームを掌握。
途中からサヤがゲームバランスをこちら側有利に崩す。
マルが柔の選手だとしたらサヤは剛の選手。
拮抗状態からのサヤ投入は相手守備陣営を崩すには最善だった。
「やったー、勝ちました!」
ベンチで他の部員と一緒に喜んでいるレイを見ると、やはり戦意が欠けてる、、、ように見えてしまう。実際はそうではないのだが。
俺でも騙されそうになるが、彼女は切り替えが至極上手いの。「行け」と言った時の彼女ほど頼もしい者はない。
本当にどうしてこの年でこの粋まで達してしまったのか。
このまま成長したらそれこそどこまで突き抜けるのか。
怖いもの見たさもあるが指導者としては純粋に楽しみでしかない。
「粗さはあるが出し切れた試合だったと総評する。明日もも気張るぞ」
「「「はい!!」」」
明日も夏の県立ベスト16が立ち塞がる。
ただ今日のようなゲーム展開ができるならうちが負けることは無い。断言はできないがそれ程の試練を彼女達は乗り越えてきたのだから。
ーーside 二ノ宮
あかんはあのセンター。とんでもない怪物や。
一回戦を抜けたはいいが、まさか二回戦で化物がいる高校とぶつかるとは。
「負、け、っ、か、ごらぁあ!」
「お前、力すげぇえな!」
竜二とフィジカルでタメはる奴なんてクズ校の金髪兄ちゃん位かと思ってたで。
ほんま最近の神奈川はどうしたん。立て続けに化物にエンカウントするなんて聞いてへんわ。
朋誠高校なんて流石にノーマークや。
6番のセンターはあかん。
メガネに顎髭にもじゃ髪で、真上に髪を結ってる超奇抜な大柄兄ちゃん。
自己主張強いのはビジュアルだけや無い。
シュートタッチ、スピード、フィジカル、ドライブ。
どれを取っても一級品な上、上背も高い。
モンスターバッシュのクマの人より一回り大き見える。
そんなビックマンが器用にドライブなんぞしたら手が付けられんわ。
今は竜二とインサイドに拘って張ってるが、攻め方をアウトレンジ軸に代えだしたら竜二が対応しきれるかどうか。
「ヒロミ!横着すんな!!」
「だな、本気には本気だ!」
力押し一辺倒かと思ったらバックステップからのジャンプ&ストップ。
あんな急に切り返されたら力のバランスが崩れ竜二やなくたってつんのめってしまう。
接触しながらミドルを沈めバスカン。
FTも決め差を更に広げられる。
「掻き回すで!」
わいかて指加えて見てるだけや無い。
ダメなら切り替えてスピードで振り抜く、、、筈だった。
わいの単騎がけに対しヘルプを掛けるん自分かいな、、、
あかん、潰され「二ノ宮!」
声のある方にパスを放る。
竜二や。よう着いとった。
タイミングをずらして跳ん出る分竜二の方が後に着地、、、何で同じタイミングで跳んでるん?
、、、そっか、わいの時は跳んですらなかったんや。
こいつ、頭も切れる。
「ダンク行かないで良かったぜ」
竜二→梶さんのラインが繋がる。
梶さんのスリーが決まり、流れはまだ完全に相手に流れは渡さずに済んだ。
「皆が皆ダンクすると思うなよ」
「奇遇だな。俺もそう思うタイプだ」
わい、竜二、梶さんを軸に何とか踏ん張る。まだやれる。
けど、結局竜二のファウルトラブルから均衡が崩れ、最後は突き放される。
結果は66ー82で敗戦。
相手のセンターは全体通してファウル2つしか取られてない。ワイらの総合力をあのセンターにねじ伏せられた結果やな。
せやけど。ほんの負け惜しみやけど。
まだ空程の絶望を感じなかっただけ、光明はあるんやろ。
故に次は負けへん、と悔しさを飲み込んだ。
ここ勝てば空達リベンジマッチ挑めたのに、残念や。
ーーside 校長
日曜の夕方。入ってきた続報は喜ばしい報告だった。
男女とも県ベスト16進出。
特に男子は優勝候補の一角とも言える学校に完勝しての結果。素直に驚きである。
後三回勝てば関東大会出場。
それも男女とも。
我が校でそんな吉報を期待することになるとは夢にも思いませんでした。
その渦中にあの小さな生徒がいると言うのですから、世の中分かりません。
4月の入学当初の暴力沙汰を起こした彼がここまで部を引っ張っていくとは、誰にも予想できないでしょう。
あの小沢先生でさえ彼には一目置いているのですから驚きです(生意気だが筋は通った生徒との談)
他の先生からも基本はいい子だと言う声も挙がっており、4月の件が無ければ本当に模範的な生徒だと皆口を揃えて言います。
だからこそ、怒った時が非常に怖いと言いますか。
迫田君の件は本当に我々職員も悔やむ限りです。
車谷君が入らなければ迫田君の芽を潰してしまったままだったのですから。
五月先生から説明を受けなければ私達職員はその事実を知ることすらなかったのですからなお罪深い。
今では部のキャプテンとして部員の統制を取っているがその機会すらも部があのままだったら無かったかもしれないのだから。
ーーside 酒巻
妙院を喰ったか。
あそこはチームとしての完成度が高ぇ。オフェンスの爆発力こそうちの方が上だが守備が固ぇ。
それを真っ向から打ち砕くってんだから末恐ろしい。
流石の錦戸さんも攻撃の弾の用意が無かったか。
ありゃ下手に守ろうとしても無意味だからな。
攻撃でやり返すしかねぇ、、、って他校とやりあった時は事情を話してるから、耳にしてくれてるとは思ったが、まあ無駄だったみてぇだな。
正面から伝えても良かったが俺、あの人苦手だし。
しかしエグかった。
あの原田の当たりも車谷はものともしないとは。
うちヤックを軽く吹っ飛ばす位だから分かってはいたが、やはり目を疑う。
それと茂吉のバランスが非常に良くなってる。
身長が伸びた風に見えるのは立ち姿からか。技術面でも尾崎(センター)を一枚上回るとは。
スピードこそ無いが、全体的に懐が広くなってやがる。
スリーぶっぱするとは思わなんだ。ヤックも手こずるぞありゃ。
それと夏目。あいつも相当に出来上がってる。
前より大分大人しくはなってるが、安定の度合いは以前の比じゃねぇ。
荻野を完全に喰ってた。
性格こそ丸くなっちまって俺好みではないが、こっちの方が相当に苦労する。大人しい奴はだから嫌いなんだよ、読みづれぇ。
花園ブラザーズも恐怖でしかないがあの4番。
相当に化けた。風格がやべぇ。しこたま場数踏んできてやがる。
控えの連中までは把握できなかったが、あの髭の奴はまた忌々しい武器を持ってたな。
妙院はあれで崩壊させられたって言っていい。
あの縦パス攻めはダメ出しだった。
今更だが鷹山のあれを逆輸入されるとは。
何故髭だけがあれに反応できて受け取れる。謎だ。
最後は102-70と大分離された結果だった。
あの人の性格だ。
終わった後に五月先生に嫌味の一つでもぼやくと思うが、あ、車谷が割って入ってる。五月先生がおろおろしだして、錦戸さんが憮然とした様子で引き上げてった。
怖いもの見たさで錦戸さんに話を聞いたら「講釈なら勝ってから言え。敗北者のオ○ニー見せつけんな。そんな時間あんなら手前のチームをもっと骨のあるものにしろ雑魚」だと。
あちゃー。車谷が爆発しちゃったか。
五月先生に諌められてたが、先生も苦言を吐いたらしい。
あっちの戦術顧問はあの女の子だからな。
車谷からしたら舐められた態度取られたと見たんだろう。
五月先生も車谷を諌め自身にも謝罪したそうだが「貴方がバスケットの世界でどれ程貢献をしたのか分かりませんが、初対面の我々にいきなり横柄に出られても正直困惑します」とはっきり告げられたそうだ。
普通の一般教師だからな。
強豪校の感性であれば今後の指導のヒントに繋がるからありがたいと思うんだが、ちとクズ校は特殊だ。
統括顧問は一般の感性。現場監督の嬢ちゃんは戦術担当で、バスケの技術面では圧倒的に嬢ちゃん便りではあるが、先生もお飾りじゃなくきちんと立ててる。
そして立ててる筆頭が選手の車谷だから、バスケ以外の面では自ずと先生の指針に沿うことが多い。
練習試合でもないし、挨拶一言二言で終わらせるのが正解か、、、今後は俺も次は気をつけよう。
錦戸さんも憤慨はしていたが自分のことは顧みれる人物だ。
横柄に出られる位ならそんなものいらねぇ、って具合に捉えてるだろうから、念のため五月先生やクズ校の経緯をある程度話しておく。
「そなら俺が悪者や。あのチビはふざけてるが五月先生は間違っとらんわ」って理解してたから次があれば上手くやるだろう。