ーーside 紺野
俺はとんでもない高校に来てしまったのかも知れない。
クズ校の存在を知ったのは七尾先輩経由でインハイ予選のことを教えて貰い新城東和戦を見た時。ここで始めてクズ校に衝撃を覚えた。と同時に「絶対上に行く学校だ」と覚った。次の二回戦でウソのように負けたけど、相手が西条だった知って、自分の中での評価は落ちることはなかった。
寧ろこの実績なら、有力な同級生は先ず飛び付かないだろうとの浅はかな算段まで付けるようになった。
潮目が変わったのはモンスターバッシュの時。
高校生が大会を制したばかりか、エキシビションでプロまで喰ってしまったと言うのだから衝撃であった。
地方の記事でも一時期話題にもなったし、五十嵐もこの大会でクズ校に目を付けだしたと言っていた。
極めつけが年明けの新人戦。
クズ校が神奈川を制し関東大会初出場。その関東大会でも優勝をかっ拐ったのだから、いよいよ本物だと周りも騒ぎだした。
ただしこの頃には既に志望校への申し込みも終えていたため、腕に自信のある同級生もクズ校へ進路を変更するには遅すぎたようだった。俺がバスケ部に顔を出した時に知ってたネームドは五十嵐を除き誰一人いなかったのが全てである。
半ば自分の想定通りの新入生しかいないなら。
後は自分の弱点に目を向け名を上げるだけだ。
先輩の覚えをよくし、果ては主力としてこのチームで自分の存在意義を、今まで馬鹿にしてきた連中に見せつけてやる。
なんて浅はかな思いで、クズ校バスケ部の門戸を叩いた。そして理不尽と出会った。
話には聞いていた。
小さな怪物があそこにはいると。
いた。確かにいた。
しかしあれは怪物とか言う生易しい存在じゃない。理不尽そのものだった。
手こそ出さないが口は容赦なく出す。
泣こうが吐こうが喚こうがお構いなしに。
一人取っ組み合いを仕掛けてた筋肉質な同級生がいたが、無理矢理握手の形を作られて更に先輩の握力に膝を屈していた。
後から百春先輩に聞いたが「握力200kgオーバーで一時期ゴリラと同程度かって話題になったがチンパンジーと同程度以上はあると言う結論に行き着いた」と大真面目に語ってくれた。
推定ゴリラとか恐ろしすぎる。
早々に殆どの部員が逃げ出したが、ここでバスケやる覚悟を決めていた俺と五十嵐は自己紹介そこそこにお互いの利害を一致させ、先ずは顧問の先生の謝罪から始めることにした。
幸い五月先生はお優しい先生であり、俺らの態度を若気の至りと流し「寧ろ謝りに来たことの方が驚きだ」と言わんばかりに俺達の殊勝な態度に関心を示していた。
「大人になればいつかあんな理不尽にも会うさ」と言われたが、その理不尽に一目置かれる先生の懐の広さに脱帽であった。クズ校の顧問足る理由の一端を垣間見た気がした。
その足で空先輩にも謝罪。
理由はどうあれ自分が尊敬する人を舐められたのだからいい気分じゃないのは確かだろうと、そこは間違いなく俺達が悪かったため、きっちり謝罪。空先輩も溜飲を下げてくれた。
労ってくれた先輩達の優しさにホロリ涙を流した。
でも練習内容は昨日と変わりなく、俺ら二人は二日連続でグロッキー。
その上で個人練に(強制的)に付き合わされ完全にKO。
色々空先輩にも問い質されたが有無を言わさぬ圧力に俺は完全に見透かされ、赤裸々に自身の状態を暴露。
その上でまた強烈なエピソードを聞き、最終的に恥を感じる間も無い位にバチくそに扱かれる未来が確定した。
色々と戦慄しっぱなしであったが、前の部活みたいに匙を投げられるのではなく面と向かって問題に向き合ってくれる当たり、結果として俺の選択は間違ってなかったと思う、思う、、、思いたい。
うん、練習がきつすぎてやっぱり後悔もしてる。
ただまあ俺はまだまだ真っ当な理由で門戸を叩いたと思う。ある意味五十嵐の方が俺としては「マジか!」と思わさせられた。
ーーside 五十嵐
来ちまった。
先輩への義理やカズとの友情も全てかなぐり捨てここに来ちまった。
あの予選以後早々に学校に出願校を変更すること伝えた。
あの女の「友人に相談無しは不味いよ!?」と言う助言もあり、カズには高校を変更したことをきっちり伝えた。
散々ボロカス言われた挙げ句以後口も聞いて貰えなくなった。
凹んだ。
けど全てを語った以上あいつにかける言葉はもう何も無いと言うくらい本音をぶちまけた。そう思うとある意味スッキリはした。
何も言い出さないでいてズルズル引っ張るよりは良かった、と決輪づけた。
おかげでもうブれることはねぇ。そう思って初日に舐めた態度で臨んだのがいけなかった。
特に五月先生への態度がよろしくなく、それがあいつの琴線に振れたようだ。
練習中に容赦なく罵声が飛んだ。同級生も嗚咽混じりで泣きが入っていた。
俺は辛うじて泣くことは無かったが外で吐いた。
園芸部からスコップを借りる時の『ああ、またか』という悟りきった表情が印象的だった。
貰ったスポドリと沢庵の味は忘れられない。
「報復に来たら○す」と言い放ち、パイナップルジュース(果汁100%)の製作の実演を目にした同級生は完全に心が折られた。
俺も折れかけたけど、人情も友情も捨ててここに来た手前今更引くこともできないので、何とか入部を認めて貰おうと頭を抱えていたら同じ境遇の同級生に声をかけられ、急遽話し合いを決行。
お互いに補完しながら客観的に自身を顧みたところ、まあ
自分等の甘さを痛感し、顧問の五月先生にきっちり謝罪をした上であいつに土下座覚悟で談判しいうと言う話になった。
翌日の先生への謝罪はあっさり終わり(懐の広さに脱帽)あいつにも詫びを入れたら、土下座までいくことなくあっさり入部を認められた。
何となく分かってきたが究極的にこいつはドライな性格をしてるんだなと少し理解した。但し地雷を踏み抜くとどぼん。結果は悲惨である。
その後、通常練に臨んだがやはりグロッキー。
その上で先輩らは個人練(強制)を行うもんだからマジでパネェ。うち三人が去年からバスケを始めたばかりの素人上がりと言うのだから衝撃である。どんな覚悟で練習に臨んでるんです、と問うたら「人生の一部」と返ってきたから想像以上にやべぇと思った。経緯を聞いたらやはりあいつの追い込みは尋常じゃないと改めて実感した。
何とか個人練まで行き着いたが、紺野とタッグで臨んでもあいつは止められないしなんなら二人がかりで攻めても完封させられる始末。
反応速度が異常過ぎる。
結局俺は別の相手を宛がわれたわけだが、その相手と言うのがあの女。流石に負けるわけにはいかねぇ、と思ったが結果は惨敗。
聞くと夏目先輩にギリ対応出来るくらいにフィジカルが備わってるらしい。それでいてシュート精度が高いとくれば見えていた結末だった。先輩達も対応に苦慮してるとのことだが慰めにりゃしない。というかあの女が女子の外れ値だろう。
負け惜しみの文句もでない。
挙げ句返事もきっちり修正させられる。
嫌でも理解する。部のヒエラルキーの底辺に位置することを。
改めて俺はとんでもない場所に来てしまったことを実感した。
けど後悔は無い。
況してや周りは自分以上ばかり。やる気次第じゃいくらでも実力向上の余地はある。
絶対に成り上がってやる。
「あ、これは単純に疑問なんだけど、うちに決めた要因んってなんかあんの?」
「、、、ちょっといいっすか」
「や、プライベートにまで踏み込むつもりはないよ。いい辛い、言い難いなら別に構わないから」
「、、、ありがとうございます」
言えない。
あの女がいるのが決め手だったなんて言えない。
それでカズにボロカスに言われまくったから。
『友情より恋愛ごっこかよ!』
『悪ぃとは思うし、お前のことも重要だけど、天秤があっち傾いちまったんだよ!』
『俺もクズ校の力がどれ程のものかは身を以て味わってるから分かるし、お前が選択した理由もそれなら分かる。
けど恋愛感情なんて語ってんじゃねーよ。
バカか!?黙っとけよそれくらい!!』
『お前との仲だから隠し事出来ねぇと思ったんだよ!!』
『隠しとけよバカ野郎!』
散々になじられた挙げ句、最終的には『くたばれ!』と捨て台詞を浴びせられてそのままケンカ別れしてしまった。
そりゃそうだ。逆に俺がカズの立場だったらブチギレる。
けど、隠すことは違うと思ったから、やっぱり話してしまった。そこは筋を通さないといけないと思ったから。
でないと、好いた女に胸張ってアプローチ出来ないから。こそこそなんて俺の性じゃねぇしな。
ーーside 酒巻
夜。何度目になるのか。県大と関大の映像を見直す。
三回だ。クズ校に負けたのは。
戦略はあっていた。点の取り合いを挑むという。
徹底的な精度で得点を重ねた。
それでも圧倒的な得点力を持つ車谷に及ばない。
他の連中も相当に伸びていた。
特に迫田の伸びは尋常じゃない。車谷だけでも驚異だってのに、、いや、花園ブラザーズ、茂吉、夏目にしたってそうだ。
極めつけに髭の元素人。
妙院でも見たがあれも鬼札過ぎる。
言ってしまえば俺がやりたかったことの上位互換だ。
結果、夏の練習試合以上の差が点に現れてしまった。
参った。
もう車谷が絡む戦術はそういうものだと割り切るしかない。
まともに対抗するなら少なくとも奴に迫るくらいの身体スペックを有さなければいけない。無理だろう。
だから対抗策ではなく得点力で上回るしかないのだ。
おかげで今年のうちのメンバーは歴代最高の攻撃力を持っていると言われている。適応と進化と言う奴だ。
だから関東大会も決勝まで勝ち抜けたし、それでもクズ校には三度目の敗戦を喫してしまった。
、、、他の連中を抑え込めるようになるしかねぇか。
いや、その分車谷のウェイトが大きくなる。織り込んで成長する?無茶苦茶だ。車谷以外の連中も伸びが尋常じゃないんだ。白石が5人いたって今や無理筋だ。
くそ。どうかしてるぜあいつら。
うちの連中だって必死だからこそ何とかしてやりてぇが、あの150cmが遠過ぎる。
結論。
より得点の精度を上げる方向でいくしかねぇ。
攻撃特化を貫くっきゃねーなこりゃ。
ーーside 柏木
五十嵐のバカがクズ校に入学したと聞いた時、真っ先に思い浮かんだ言葉が『裏切り』だった。
けれどその事実を伝えた桜井が「あいつの選択ですし、俺がきっちり話を聞きましたから、裏切りとは違うと思います。大バカ野郎に間違いありませんが」と否定してきたから、正直あいつの肩を持ってるんじゃないかと訝しんだ。
「納得してないなら直接話聞けばいいじゃないですか」
と言われたら行くしかあるまい。
手持ち無沙汰で校門まで来たはいいが、そう都合よく会うこと等無いため、その辺の在校生を捕まえ呼んで貰うことにした。
そしたら奴が来た、、、先公を伴って。
「、、、校門に不が良いるからと通報を受けたが、君は確か新城東和の。もう少し柔らかい物言いはできなかったのか」
「、、、っす。申し訳ありません」
メガネの先公の傍らにいたチビは五十嵐ではなく車谷。
事の流れは俺声をかけた在校生がバスケ部の五十嵐に声を掛けようとしたところ車谷がインターセプトし顧問にチクったらしい。
車谷の口が隠しようもない位に歪んでいたから間違いない。
イラッとし顔を歪ませたら「警察でも良かったんだけど」とチクり。
これだからこいつは嫌いなんだ。躊躇いも無く多方面から人を刺してくるから。気勢を削がれた俺は校内の空き部屋で顧問監修のもと車谷と対面することになった。
「一つ。僕は練習時間を割いて連れてこられて虫の居所が頗る悪い。つまらない理由ならころ、、、まあ向こうの顧問と生徒指導と教頭に話を繋げる。恫喝紛いで乗り込んで来たと」
のっけから先制パンチ。
メガネの顧問も「まあ向こうの顧問にやんわりとは」と言ってる当たり本気だと確信する。
何故こんなことに。
「そっちの五十嵐がクズ校に入学した聞いて真意を確認したかった」
「お前に関係無いじゃん。と言うか本人に電話するなりして直接聞けばいいじゃん」
「連絡先がわからねぇ」
「お前との関係性皆無で尚更関係ないじゃん。意味が分からない」
「卒業した先輩らを通して部として交流がありあいつとは繋がりがあったと思ってた。そこで新城に進学すると言質があった。蓋を開けると奴がいない。人伝に理由を聞いたら看過できるような理由じゃなかった。裏切られたと思った」
「本人の意思であってお前には一切関係ないし、人伝に理由も聞いてるし、それに納得できないとかお前の我が儘じゃん。今時のアイドルの厄介ファンでもそこまで拗らせねぇよ気色悪ぃ」
「てめっ」
「裏切り?妄想拗らせるととんでもなく人って歪むのな。
いいか、先ず他人の進路にどうこう言うな。お前のそのヘラッた妄言はあいつを傷付け兼ねないし縛り兼ねない。
あいつの人生だぞ。どうしてお前が無理矢理介入できる。そして裏切りなんて言葉をあいつに伝えて、お前はあいつを傷付けたいのか?だとしたら僕は心の底からお前を軽蔑するよ」
何も言えなかった。
単にあいつを問い詰めて、俺はごめんなさいと言わせたかっただけだ。俺が良くして貰った先輩らに、あいつも目を掛けて貰っていたから。
その恩返しの言質を翻したあいつを、俺は許せないと思ったから。
でもそれは、あいつを傷付けていい理由にはならない。
あいつが傷付くなんてこと、こいつに言われるまで考えもしてなかったから。
「進路決める直前に五十嵐がお前に会わなくて心底良かったと思ったわ。もし会ってたらろくな結果になってなかったと思うし。無理矢理お前んとこに行ったか、後ろ髪引かれる思いでうちに来たか。いずれにしてもお前に会うことで歪められることがなくて本当に良かった。
参考にうちのキャップな。本来なら入学してからバスケ部で活動したかったんだけどさ。クソみたいな不良連中が部を占領してたせいでまともに一年バスケできなかったんだわ。僕が部をシめ直したから活動できるようになったけど、その不良連中のせいで一年無駄にしちゃったんだわ。
お前の話聞いてるとそれに通ずる物を感じるんだよね。望まない負の影響を与えそうって意味で」
「そこまで縛り付ける意図なんて」
「お前がどう思うか知らないけど、端から見たらそう見えるんだわ、、、ですよね、五月先生!」
「はぁ。車谷は相変わらず言葉が強すぎる。もっと言葉を選びなさい。お前ならそれができるだろう」
「お耳を汚してしまい申し訳ありません」
「ただ内容は間違っていないと思う。君や先輩達や五十嵐にも繋がりは間違いなくあったのだろう。世話になったこだってそれこそ私達が想像できないレベルで。新城のバスケ部の変遷はその先輩達から私も教えて貰っているから、第三者として耳にはしているよ。
その上で彼が決めた進路なんだ。繋がりのあった君にだって相談の一つや二つあっても良かったかもしれない。けれど先輩だからこそ、彼の、五十嵐の選択を尊重してほしい。新城の歴史を紡いでいる君達に背中を押して貰えたら、と私は思うよ。そうしたら次会う時に笑い合えるからね、、、いかんな、我ながら青臭い」
「運が良かったな。五月先生が助言とアドバイスなさったから、僕からはもう何も言わない。
接見禁止と新城を廃部か停部に持っていこうとしたのと単純にお前が気に入らなかったから精神的にぐちゃぐちゃにしてやろうと思ったけどまあいいや。今更五十嵐に会っても悪いことは言わないでしょ」
「ーーああ、肝に命じた」
あーあ、進学校はこれだから、、、なんてあいつの呟きを呆然としながら聞いていた。
あいつが言ってたことに嘘はないのだろう。
多分本気で俺のことを潰しに掛かってきてたと思う。それこそ顧問の制止が無かったら、俺は今以上に詰められていたのだろう。
恐ろしい。
以前の試合でもそうだった。
バスケの実力で圧倒しているのに加え、俺のメンタル面にも攻撃の目を向け、ゲームそのものから除外しようと言う徹底ぶり。
ゲーム外でもその影響力は凄まじかった。
「じゃ、僕は練習に戻りますので。会ってく?」
「いや。今度見掛けた時でいい。それまでに整理する」
「りょ。いがみ合わないに越したことはないから」
そういってあのチビは退出していった。
その後俺は桜井と情報を改めて共有し、以後五十嵐について余計な感情を抱くことはしなかった。