ーーside 中田翔太
バスケ部への期待があった。すでに入学を決めていたところでクズ校が関東を制覇したと情報が入ってきたのだ。
クズ校は強いが圧倒的に部員が少ない。
中学で挫折した俺だがここでならそれなりの地位とあいつより上を目指せる。そんな浅はかな思いでバスケ部の門戸を叩いた。
キャプテンは強面だが、マネージャー擬きの女子の先輩は可愛く、顧問に至ってはほぼ置物だと言うことが分かったから後は主力メンバーに如何に自分を売り込めるか。
そう思った矢先だった。
あの小さい先輩が俺らに牙を向けたのは。
「七尾さん、悪いけどいつものメニューで。
ほらキャップ、ちゃちゃとやりましょうよ」
俺らの態度が気に入らないと言うことで通常練習が始まったのだが容赦がなかった。
とにかく動く。ノンストップで。
息つく間もないくらいに動かされ、足が止まれば容赦なく小さい先輩の罵声が飛ぶ。
恐ろしいのは先輩方は必死ではあるが動けている状況。
俺らの倍近く動いているのに誰一人足が止まらない。
その内俺ら一年はうずくまり出したりするのだが、小さな先輩は容赦無く罵声を飛ばす。
あまりの惨状に泣き出した奴もいたが更に追い込む始末。
「こんなんイジメだろうが!」と俺も力を振り絞って小さな先輩に凄んでいったが無理矢理手を捕まれ力比べを仕掛けられる。
上等だ。こんなチビぶっとばしてやる。
と思ったのも束の間。涼しい顔して先輩は俺の手を握り潰しに掛かってきた。
とんでもねぇ力でねじ伏せられ、罵声を浴び、結局俺ら一年男子は心を折られた。
いや、厳密には折れなかった奴が二人と時間差で一人入部を果たしたらしいが、それ以外は皆あの先輩に恐怖を覚えてしまった。斯く言う俺もその一人で、千葉に頭割られた時以上に恐怖を覚えた。
風向きが変わったのはバスケ部から臨時雑務の助っ人依頼が各クラスに通達された時。
始めこそ何も考えずスルーしようとしてたのだが、従兄弟の祐二が熱心に誘ってきてたため、耳を傾けて話を聞いた。
聞くとこいつは初心者だったこともあり初日の練習こそ出ていなかったそうな。ただ例の騒動を聞いて二の足を踏ん出た状態だったらしいが、同じ初心者の田中と言う奴が躊躇わず入部したと言う話を聞いて一念発起した口らしい。
田中に話を聞いてかなりきつい練習だが充実してる毎日を送ってるんだとか。
「それは翔太君達が悪いよ。強豪校のスタッフに舐めた態度取る新入生とか地雷過ぎでしょ。それに今入部してる経験者だってきっちり詫び入れて出直したって話だよ。今回の話なんてまさに救済措置じゃん。部活の入部以前に先ずは詫びを入れないと」
ぐうの音も出なかった。
それにこいつから話を聞いて自分が未練たらたらであることがよく分かった。
ここまでお膳立てされたチャンスがあるのに何もしないなんて柄じゃなねぇ。
臨時雑務を申し込み、その日の内に五月先生に謝罪に行った。
その後参集日に集合場所に集まると俺と裕二以外にも二人参集者がいた。一人は俺と同じく初日からいた奴。もう一人は知らない。和田は俺と同じく天秤が傾いて何か行動をと思ってここに来たらしい。顧問の先生に謝罪はしてないとのこと。ある意味凄いな。
もう一人は小南というやつ。
結構運動神経が化物染みてるらしい(裕二談)
そうは見えないが、まあやる奴なんだろう。
お互いの身の上を話していたところで五月先生と七尾先輩と、キャプテンの代で車谷先輩が説明にきた。
やべぇ、まだ震える。
和田も同様らしい。
開幕早々俺と和田は三者に謝罪。
三者共受け入れてくれ先ずはホッとした。
説明自体はなんてこと無く、当日の流れ等をレクチャーを受けながら分からないところ等を潰していくものだった。
で、説明後に入部の意思を切り出そうと思ったら車谷先輩が改めて入部の意思について確認してくれた。
入部の意思を明確にしようと思ったが、裕二が待ったをかけたので踏み留まる。
すると先輩が煽ってきたと思ったが、即座に七尾先輩が修正(腕力)し、車谷先輩が前言を撤回していた。
後に裕二に確認したが仕入れた情報では七尾先輩の方がヒエラルキーが高いっぽく(田中談)その確証を得たかったんだとか。
お前、いい性格してるよ。
そんなイベントもこなしつつ、迎えた支部予選当日。
俺らは高校バスケの熱量を始めて知った。
特にこの川崎地区と言うのはクズ校を筆頭に直近年ではかなりの激戦区となってるらしい。
新丸子、西条、北住は勿論、クズ校と一度やりあったところは漏れなくレベルアップをしてるとか。うちははぐれメタルかなんかなのか。
とりわけ俺は北住ー菊川の試合はとんでもなく見応えがあった。
菊川にはとんでもなく上手ぇガードとフィジカルが強ぇセンターがいたが、特にセンターは自分よか明らかでけぇ相手をフィジカルで圧倒してて驚いた。
ガードとのコンビネーションが凶悪過ぎる。
俺もあんなパス受けてみてぇ、と思える位に痺れた。
ただ北住はその上を行った。
特にあの5番が尋常じゃねぇ位にやべぇ。
同じフォワードとして今まで見た中でもあれ以上を見たことがない。はっきりそう思える位に凄かった。
結局試合は北住が勝利したが、ここよか上の実績を積んだうちの高校って相当なのか、と改めて実感。
『甘ったれた根性だね』と言われるのもしょうがないと思った。
ーーside 小南晴生
うちの高校のバスケ部が強いと言うことを知ったのは年明けだった。
息抜きがてらに関東大会を観に行ったけど、衝撃的なものだった。
異彩。
180、190台がそう珍しくない世界に一人、頭2つは小さい選手がいた。
けれど相手チームはその小さな選手を最大限警戒していた。
蹂躙。
その言葉が当てはまる。
スピード、反応、シュート精度、フィジカル。
何て言うか。文字通り次元が違う。
戦う土俵にすら立てていないと言うのが一番しっくり来る。
車谷空。
特にシュートが訳が分からない。モーションが速過ぎてそれでいて精度が高い。挙げ句スリーポイントラインの遥か後方もシュートレンジ。そこまでできてまだまだ底が見えない。
あの生物はなんなんだ。天才何て生温い言葉じゃ表現できない。
同じ生物として。その先輩に強い興味を覚えた。
今風に言うと脳を焼かれた、と言うのか。
音楽と言う寄る辺を失っていた自分にとって天啓だと思った。
本物を体験できるということは。
そこから自分はあそこに飛び込もうと決心した。
ちょっと準備に手間取って出遅れたけど、雑務を経て入部は果たせた。
バスケは多少齧っていたがあの人の前じゃ赤子も同然。
やれるところからハンドリング技術の向上から始めた。
動画サイトで練習方法を確認し見よう見まねで。
入学前まではそれに没頭した。
体力の向上も図った。
今は練習だけで空っぽだけど、予習をしてなかったらその練習すら満足にこなせなかった(それでも吐いてるけど)
入部してからはともかく身体能力が及んでいないことを切実に感じた。
練習に付いていくために身体の動かし方を常に意識し続けた(小池君にも色々聞いた)
吐いて戻った後にハンドリング練習に没頭してたら件の先輩に「いい狂気纏ってるね」と声を掛けられた。
「どこを目指してるの」と言われたから「貴方です」と返したら「なら家族の命をベットしないとだね」と笑いながら言われた。無茶苦茶怖かった。皆もドン引きしていた。
それでも事の真意を知りたかったので食い下がったら「僕から一本取ったら教えてあげるよ」と言われたので挑戦して瞬殺された。
普段から付きっきりで相手している紺野君と食い下がろうとする五十嵐君のメンタル強者っぷりを改めて実感した。
妹からも何がそこまで自身をバスケに駆り立てるのか問われたことがあったが、本物以上の才能を目にしてしまったとしか言いようがない。
勿論、音楽に対して限界を感じていたと言うのもあるが、それ以上に僕は焼かれてしまったのだ。
それを聞いた妹が後日車谷先輩に突撃してしまったらしいけど、その日の内に理解させられて帰って来た。曰く、有象無象は黙ってろと(超意訳)。あの先輩にしては優しい言い方である。
気の迷いか、女バスの門戸を叩こうとしていたが全力で止めた(女バスも尋常じゃ無いくらいに力が入っている)
ただそのせいかおかげか分からないが、真琴は男バスのマネージャーとして部に関わることとなった。
どうも車谷先輩と取引があったらしく、相当な覚悟で臨んでいることだけは分かった(あの先輩と関わると言うことはそういうこと)
以降車谷先輩に対しては凄く従順に従うようになった。
真琴ってかなりピーキーな性格してる筈なのに、どうしてこうなったのか。
ーーside 小南真琴
晴ちゃんがおかしくなった。
前より前向きにはなったとは思うけど、根っこの部分でかなり変革があったように見える。
トータル的に見ていい変化だとは思うけど、ちょっと心配だ。
父さんや母さんを「目と鼻の先にある非凡を追いかけたい。人生でそうある出会いじゃないから」と強引に説き伏せる晴ちゃんは初めてだったから。
そこまで駆り立てる人物とは誰なのか。
女バスの新入生(ギャルっぽい人)に聞いてみたら「十中八九車谷先輩だね」と教えてくれた。見た目より取っ付きやすい人で良かった。
で、渦中の車谷先輩の様子を見に行ったけど、むっちゃチビ。
これのどこに晴ちゃんは惹かれたのか。
近くの先輩に声を掛け車谷先輩に目通しをお願いしたら「絶対に怒らすなよ。フリじゃないからな」とこそこそ言って先輩を呼んでくれた。
「誰?」
「小南晴生の妹。双子の」
「如何用で?」
「兄が貴方を追いかけてバスケ部に入部したから、何か変わったことがあったのかと思って聞きにきたんだけど、心当たりある?」
「無い」
「本当に?」
「うん」
うーん、分からない。
本当に晴ちゃんが追い掛ける程の人なのか。
チビ、顔面偏差値並み、話した感覚一般高校生。
、、、これ逆に晴ちゃんの時間が無駄になるんじゃ。
「単刀直入に言います。兄の入部って取り消しできませんか?」
「うーん。それはお兄さんに言うべきでは」
正論。
でも兄は止まらないと思う。
「先輩から引導渡して貰えないですか」
「結論から言うねー。理由は?後こっち来なよ。座って話そう。ごめんちょっといい」
そう言うと先輩んお隣席が空けられたので軽く会釈をして着座した。
、、、「セーフ?」「マダダイジョウブソウ」「周りに配慮できるから(まだ)良い子判定」「タメグチコワイ」何故か先輩のクラスメイトは慌ただしかった。
「で、僕から引導渡せと言う理由は?」
「私の言葉じゃ届かないことが目に見えてるから」
「何故言い切れるの?」
それは、、、晴ちゃんは先輩に何か確信を持って見出しているから。
そしてそれが私には分からない。
言うべきか、、、ええい、ままよ!
「すみません。兄は先輩に何か見出だしてるようですがそれが私には分からないんです。だから兄を引き留めたい。元々別方面に才溢れる人ですので」
「うーん。うーむ、、、
先ず兄である晴生君が僕に見出だしてるのはバスケの実力だね。放課後時間があるなら見に来な。それで証明できるから。
僕の実力が図抜けてることを前提に次。僕から晴夫君に引導は渡せない。僕は自分の実力に絶対の自信と実績を持ってるし、そこに目を向けて決めたのは彼だ。僕からは何も言えないし言いたくない。自分の実力に嘘は無いから」
「なら放課後見に行きます」
「別クラスの七尾さんに事前に声かけな。声掛けづらければ女バスの誰でもいいから」
「分かりました。ありがとうございます」
早々に教室を出て先ほどギャルっぽい同級生(石原さんと言うらしい)に声を掛け直す。
事の経緯を説明して放課後練習の見学について手配してもらった。
男バスには晴ちゃんもいるから、こっそり見学できる分丁度良かったかも。
なお「その内容でよく先輩からどやされなかったね」と驚かれた。曰く自分の実力を絶対視してるくらいバスケに関してはプライドが高いそうだ。自信家!
でも部員は全員先輩に一目どころか二目も三目も置いてるんだとか。
そこまで言う程なら目にもの見せてもらいましょう。
放課後。
体育館の二階からこそこそっと練習の様子を覗かせてもらった。圧巻だった。素人目に見てみ分かる。彼は異質だ。
コート内で誰よりも動き、誰よりも当たりが強く、シュートを外さない。
そして声が大きい。その罵声には耳を抑えたくなる。
圧倒的に体格で劣るのに、圧を伴って部員に罵声を飛ばす姿は最早異常。
男バスは先輩達の風貌こそ不良そのものだけど、一番ヤバイのはあのチビだった。後に石原さんから教えて貰ったけど彼の先輩に『チビ』と言うワードは厳禁らしい。絶対にそのフレーズを使わないことを誓った。
そして晴ちゃんの言ってた意味を漸く理解する。
感受性が私より遥かに豊かだから成る程。これは劇薬だ。
入れ込んでしまう理由も分かる。普通絶対に経験できることじゃないから。
なら私にやれることは?
晴ちゃんは恐らく先輩を具に観察した上で練習に取り組んでる。観察の部分を私が受け持てばいい。
思い立ったが吉日。
練習後に部を総括してる七尾先輩と五月先生にマネージャー希望を表明。人では常に足りないらしく二つ返事でOKを貰った。
なお、帰ったら晴ちゃんが「女バスはきついから止めとけ」と本気で心配された。意味が分からなかった。
ーーside 藪内
陽子の怪我も等の昔。
僅かながら新入生も迎え女バスも新年度を迎えた。
新人戦は惜しくも県、関東共に制覇はできなかったけど確かな手応えは感じていた。それでも私達には実力が足りてない。
三年生は勿論、二年生は特に分かっている。
「マーク厳しく!」
「外来るよ!外!」
外を広範囲で高精度で沈めてくるフィジカルモンスター、新見ちゃんの存在が私達を常に上へと駆り立てる。
私達は身心共に確かに成長したけど、彼女の伸びは私達の比じゃない。突然変異と言っても過言ではない。
女子版車谷と言われるくらい飛び抜けているのだ。
今も粋のいい一年生がよく新見ちゃんに勝負を仕掛けているけど、まるで歯が立たない。
「あの先輩何食べたらあんな力着くの」と一年生がぶつぶつ言ってるけどそれは私達が一番知りたい。
加えて彼女、体力も無尽蔵である。
曰く「通しの練習は私だって息上がりますって!」と言ってるけど、同じ練習をしてる私らは声すら出ない。
監督も「あれは外れ値だから」と最近は遠い目をして私らを扱いてくれている。
けどそれじゃあ新見ちゃんに追い付けないので限界を見極め扱いてくれと私達は頼んでいる(ストッパー的な意味)
「俺の教え子達の代でも間違いなくお前達が一番自分を追い込んでいるよ」と慰めてくれるけど気休めにならない。
全国にはあれがゴロゴロしているのだ。
一部も油断できない。
隙があったからこそ県にしても関東にしても決勝で負けたのだから。
「あ、すみません。男子のとこ行ってきます」
最近は男子に混じって遜色ゲームこなしている。
特に夏目君に当たり負けしてない姿は衝撃的過ぎた。
地味に茂吉君を中に入れさせないのも凄い。
最近は生意気な一年生の世話も焼いている(車谷君経由)
この一年も可愛げ無いくらいのセンスの持ち主だけど、新見ちゃんに完封させられている。
紺野?知らない子ですねぇ(ちょけた後輩。でも頑張ってる)
多分私でもまだなんとかなると思うけど、新見ちゃん程余裕を持って対応はできない。
「円」
「うん、分かってる」
諦めるつもりは毛頭無いけど、自分がやれることをやるしかない。
最近私はある武器に磨きをかけている。
空君が鍋島と試合に出た時に見せるあのパス。
あれは由夏さん直伝の縦パス。
空君程スピードは無いけれど、いい感じに仕上がってきている。
チーム全体でも大分走れるようになったので、嵌まると凄い相乗効果を生み出す。私達の攻めの切り札となりつつある。
「さあ、もっと走るよ!」
「ニカがいない間に差を縮めるよ!」
「「「それは無理」」」
い、勢いは重要だから!