ーーside 逸見
とんでもねぇ化物がいる高校と当たっちまった。
勝ち抜けばいずれは当たるとは言えあまりにも早すぎた。
新人戦はあのチビと真っ向からやり合おうとして惨敗。
後にも先にも監督に謝られたのは初めてだった。あれに対応するには賞味一年は特化した準備が必然だと。それで勝率三割が限界だとも。
具体的にはこっちのフル面子が1試合最効率で得点を続けるのが大前提。勝利条件は向こうの得点効率を上回ること。
そして相手の得点の大半は奴の落とさねぇスリー。
加えてスタミナも全く衰えない上にあいつマークされた日にはまともなオフェンスをさせて貰えない。
フィジカルも然ることながら反射神経もおかしすぎる。
フィジカルゴリラで反射神経はゴリラ超えとか文字通りの怪物だ。
新人戦で敗れてから期限は半年を切っていた。
それでもやるしかなかった。
徹底的に個の能力を高めた。
今井が来てからはもう一つ攻めの軸を拵えた。
それでも届かない。
俺のマークマンはパンチパーマと金髪。
両者ともとんでもない選手だった。
守る分にはパンチパーマに好き放題やられ、攻める分には金髪にがっつり抑え込まれる。
選手としてのスケールが違う。
そう思ってしまった。
「なあお前。冬も狙ってんのか」
「まあな」
「どこまで」
「行けるとこまで」
「負け惜しみを言うが着地点は決めておいた方がいいぞ。先でもバスケをするならな」
「ーー」
チビの影に隠れがちだがこのパンチパーマも物凄く上手い。根本的に何かちげぇと思うくらいに。
聞くと去年アメリカのバスケを体感して世界観がガラッと変わったらしい。
「着地点どころか麓にも立ててねぇよ」
だからなのか。見てる山の高さが違い過ぎた。
足元はしっかり見といた方がいいと思うけどな。
尤もその結果がこいつと俺の差なんだろう。
「覚えてたら声かけろよ」
「お前と仲良くするつもりはねぇが、バスケ続けてりゃその内顔合わすかもな」
とりあえず続けるつもりなのは分かった。
ーーside 荻野
前回の対戦はチームとしてボロ敗け。
今回の対戦は出し切りはしたが、上積みが足りなかった。
じゃあ俺個人としては?
「なあ」
「あん。なんじゃ」
夏目。2年。俺と同学年。
前回、今回通しての主なマッチアップ。
感じたのは圧倒的な個への執着。同類。
かと思えば試合中は組織の枠組みで動いている。
違和感。
強い執着の割に尖っていない。
経験上執着がある奴は突き抜ける。良くも悪くも。
大栄のオレンジ髪がいい例だ。
「なんでそんな大人しかったの」
「この試合のわしのオーダーはおんしを削ることじゃったからの」
「オフェンスにももっと傾倒すりゃ良かったじゃん」
「あー、何となく言いたいことは分かった。結論から言えば無駄打ちは許されんちゅうことじゃ」
「どういうこと?」
「お前が言いたいのはわしの性質ならもっと攻めてくるもんと思ったんじゃろ」
「うん。そういう気質かなと思って」
「そこは正解じゃ。だがうちには見ての通り化物がおる」
「そこ、気にするとこ?」
「気にするとこじゃ。舐めたことしたら試合後。下手したら試合中あいつにシばかれる。お前んとこの監督おるじゃろ。あんなん優しい方じゃ」
「、、、マ?」
「僕より稼げるの、と。これに言い返せんうちはあいつから見てわしらに人権はない。あいつにとってシュート外すんちゅうは大罪なんじゃ。確実に決められる奴がいるのにボール回さんで得点機会潰す言うのはの」
「飼い慣らされてんね」
「ほうじゃの」
傍観?いや、虎視眈々と積み上げてる。焦りはない。
飼いならされているわけでは無い。牙を研いでる、と言った具合か。
成る程。抑えるとそうなるのか。確かに安定感はあった。
狼、、、いや、ハイエナ。こっちの方がしっくりくる。
「ま、何言っても負けたんだよね。チームとしても、個としても」
「じゃの。6:4でわしじゃ。得点は互角じゃったが前半はおんしを抑え込めた」
「またリベンジと言いたいとこだけど、差が如実だからなー、、、とりあえず次は戦える手段を講じておくよ。だから首洗って待ってな」
「青いのぉ。嫌いじゃないがの」
チームとして見ても今年だけのチームではない。
寧ろあのチビがいる限り絶対的な強さを誇るだろう。
諦める理由にはならないけど。
何よりその余裕が気に入らない。お前の力では無いだろうに、強者ムーブかましてるこいつが。
次会った時には絶対ぶっ潰してやるよ。
ーーside 尾崎一葉
クズ校にはタイプが違うセンターが4枚いる。
翻って言うと絶対的なセンターがいない。
弱点なのか?
違う、4人が4人ともセンターとしても動きを確立している。
とりわけタイプが似ているのは一番大きいひょろっとしたやつ。
力より技巧派。昔西条中だったフック使い。
負けたくないと思った。けど差は如実だった。
高さで負けてる分動きで翻弄しようと思ったらほぼ互角に動いてくる。
力で押し込もうとしたらはじき返される。
フックはかろうじて刺さったが、相手のフックも刺さる。
そればかりか、シュートレンジはあっちの方が広い。
スリーを沈められた時は大栄のロン毛を思い出した。
選抜クラスだろコイツ。
「なにか用、ですか」
「どんな試練を乗り越えた」
同じ学年にこんな奴がいるのだ。
意識するなと言う方が難しい。
だから恥を忍んで。負けた直後ではあるが話してみたいと思った。
「大きいと言うのは、アドバンテージです。どんな形であれ。
ただ僕の身体はその身長の標準より十全に力を使いこなせていない、と指摘を受けました。その修繕から着手しています。大きい人が標準的に動ければそれだけで強い。それにプラスして得点手段を増やしました」
聞くと元はフックを軸にしたオーソドックスなスタイルだったらしい。
けれど自身の可能性に目を向けて根本的に身体改造から全て見直したのだと。
それでも部内の主力メンバーではまだまだダントツの非力さらしい。
確かにこいつら全員当りはとんでもなく強かったな。
センターを自負しているが3、4番もこなす事もあるらしい。
「フロアリーダーの求める水準が、高いので」
「あの小さいのか。化物過ぎでしょ」
うちの今井と違いあいつは単独で完結している。
それでいてボールを回してくる。意味が分からない。
加えて小さいのに回ってしまえばほぼスリーが確定という理不尽。
「必死です。僕も、皆も」
「そうか。うちもだよ」
「でしょうね」
小さいの以外の個の力でも俺達は負けていた。
荻野もそれを感じたからドレッドヘアーに突っかかって行ったのだろう。
温度差を感じるために。
「リベンジしに行くよ」
「多分その時、うちは全国の頂点にいるかと」
--side 今井レオ
「シュート遅すぎ、ドリブル弱過ぎ、体幹弱過ぎ、体力無さすぎ。よぼよぼの老人かよ。
後シュート外した数も僕の勝ちだね」
噂には聞いていたし映像でも確認していたから分かったつもりでいたけど、今日やり合って改めて分かったことがある。
こいつは全く本気を出していない。どのプレー1つとっても余力が見られた。
「後お前バスケ初めて歴長くないだろう。動きが雑。センスだけでやって来てたな」
「そんなこと」
「あるんだなー。ディフェンス受けて分かったよ。お前スリー頼みの一芸マンだって。まともなディフェンスじゃ無かったし。
次はうちの一年坊の踏み台になって貰うから。じゃ」
悔しかった。
元は一片とバスケをしたいがために始めただけだったけど、それを全否定された気分だった。
あいつ、言い方はクソだけど全部俺の図星を突いて来てるんだ。
経験は浅い。けどシュートのお手本は昔から目に焼き付いていた。
一片がいたから。あいつをずっと見ていたから、すんなり上手くなれたんだ。今までは。
けれど今日こいつとやって確信した。
今のままじゃてんで話にならない。何もかも足りない。覚悟も。
「あんたはどうやって鍛えたんだよ」
「家族の命をベットした」
ゾッとした。
一体こいつは何を糧にこんな境地に至ったというのか。
「それでも賭けには負けたけどね」
絶句した。これ以上は何も聞けなかった。
ただ一つ分かったこと。
こいつと肩を並べるには生半可な覚悟じゃ足りない。
「お前生意気だし僕のことバカにしたし謝罪もないから嫌いだわ。〇ね」
「バカにって?」
「、、、無自覚なのがよりクソだわ。僕に対してチビってワードは最大限の侮辱表現だ。お前だって何かしらあるだろ。もし今僕がお前の禁句を知ってたら盛大に煽り散らかしてお前がブち切れても止めないだろうね。
いいか。もう一度言うぞ。僕に対してチビは最大限の侮辱表現だ。このまま知らぬ存ぜぬで通すなら覚えとけ。
お前の弱みを徹底的に調べつくしたうえでお前の目の前で最大限に煽り散らかしてやる」
「、、、ごめんなさい」
「小学生の表現か、舐めてんのか。お前歳なんぼだ」
「大変申し訳ございませんでした」
「何に対して」
「あなたに対して侮辱的表現を無自覚に展開した点について」
「っち。気に入らない。謝りゃ済むと思ってる糞だせぇ感性に失笑だわ。少しお前の弱味を思い出せたのに。相棒辺りを絡めて盛大に煽り散らかしたいけど、お前と同じ穴の狢になりたくないからもう止めるわ。
じゃあね。もう関わりたく無いから話し掛けんな。その時は相棒共々ぶっ潰すから」
恐ろしい。
心底そう思った。
ーーside 五月
「前回は大変申し訳ありませんでした」
大柄な相手の監督が試合終了間もなくして声をかけてきた。七尾にもきっちり頭を下げてる所を見ると色々顧みたのだろう。
私自身含むところはもう何もないし、強豪ともなればああ云うことも常なのだと言うのは今にして見ればよく分かるようになった。
関東大会を二度も。
立て続けに経験すると嫌でも理解する。
「いえ。こちらも不勉強でしたので。ただ間違ってたとも思っておりませんが」
それでも我は通す。
あくまで私は教育者だ。指導者としてここには立っていない。
「それは勿論。我々とはスタンスが異なると認識しました」
「私達は、ということです。他者に対してまでどうこう問うつもりはありません」
「よく分かりました。では負け惜しみを。そちらの車谷君が抜けてからが私は勝負だと思っとりますので」
「専らの課題ですね。息の長いチームを作れるようにすることは。
尤も、私達の下の代も粒は揃っています。今井君の代辺りに楽させるつもりは毛頭ないですよ」
「、、、ホンに恐ろしい嬢ちゃんですわ。ただ楽しみでもあります。色んな意味で」
新しいチームと戦う機会か。
もしくは将来自チーム勝つ未来を指してか。
何にしても強豪校の指導者らしい。
そこに教育を混ぜるのだから素直に尊敬する。
私は片方で手一杯だから。
「まあ、五月先生位寛容でないと車谷君は卸せんでしょう。嬢ちゃんも苦労してる口か?」
「ええ。錦戸監督程経験を積めてないので。完全理詰めで話して漸く言うことを聞いてくれます」
「下手に経験則入れたら水と油臭いな」
「ですね。理論と実践と五月先生位しか信じていないので」
「七尾のことは信用しているぞ」
「いえ。ことバスケに関して言えば彼は自分しか信じていませんよ。そこを無条件で曲げれるのは五月先生だけです。私は理詰めしないと無理です」
そうなのか。
車谷の方を向いてみるが当然何の反応も見られない。
と言うか向こうの今井君と何か話しているようだった。
今井君が頭を下げているのを見るに、また車谷の琴線に触れるやらかしでもあったのだろう。
「程々にしなさい」と声をかけたら「らじゃです!」と敬礼で返された。
加減を知った上で常に爆発するから余計に質が悪い。
「こら敵いませんわぁ」
「車谷が外れ値なんですよ」
「確かに。私の経験上あれ程の選手は見たことない。
せやけど同時に性格がひん曲がってるのも見たことないです。制御できるあなたを尊敬しますわ」
「恐縮です」
難しく考え過ぎな気もする。
が、実績を積まれた方から見たらそう言うことなのだろう。
過分な評価だとは思うが、受け取ろう。
ーーside 常磐
ヤバイね。
うちと同じ地区の化物がいる高校。
初対戦はハーフゲームだったけど、点差以上にまるで勝てるビジョンが浮かばなかった。
あの時は地方の話題レベルだったけど、今やその名は全国に轟きつるある。
九頭竜高校。
次のうちの対戦相手。
車谷を抑えるのは不可。
早々にうちもその解に達しチーム方針として組み込んだ。
うち同様横浜大栄も同じ結論に達し情報共有もなされた。
得点精度と効率の向上は必須だった。
イージーは勿論、シュートを落としてはいけない。
シュートまで持ってく過程も重視した。
インサイドの強化も図った。
車谷の他にも注視しなければいけない奴は何人もいる。
個々の能力も高い。
連携にまだ隙は見えるけど、個性とフィジカルで埋めている。
うちも力勝負は臨むところだけど、クズ校には及ばない。
だからこそ精度を高めるしかない。
「あれが車谷」
「口の聞き方に気をつけなよ。下手に刺激して乱されたら簡単に潰されるから」
「、、、兄貴も同じこと言ってたな。『プレイヤーとして死にたくなければあいつとケンカは絶対にするな』って」
「正解。淳だけ死ぬならいいんだけど、チームごと持ってかれるから。余計なことはしない、言わない。いいね」
「、、、うっす」
「ならいい」
個性の強い一年で負けん気も強い。
本来なら伸び伸びさせたいところだけど、こと今年に関しては統制を崩されたく無かったから早々に鼻っ柱を折った。
すでに2mに達する体格をもった有望株ではあったがバキバキに打ち崩した。
高さはある。シュートセンスも光るものがある。動きも軽快。
でもそれだけ。
ゲームを支配するレベルには到底及ばない。
ディフェンス。甘い。
切磋琢磨できる相手がいなかったのだろう。
その力の振るい方が下手過ぎる。
淳の上から叩き込んで早々に格付けを終わらせた。
所々口は悪いが従順ではある。
「花園ってどいつ」
「アフロと金髪。双子だよ」
「迫田ってのは」
「パンチパーマ」
「ひょろいのは」
「茂吉。今言った4人はお前のマッチ相手候補だ」
「多いな」
「頼むぞ」
厳しい戦いになるのは分かっている。外は勿論、中も。
それこそ一年の淳の力さえ必要な程に。
「お、偵察か」
早々に気付いたのは向こうのパンチパーマ。
攻守のバランスが取れた選手である。それとパワーも強い。
「次の対戦よろしく」
「ぬ、丸高のイケメンか」
「お前が花園?」
「兄だ。そう言うお前は見たことあるような、、、」
「君、チバさんの弟でしょ」
「、、、っす」
「まあ固くならないでよ。次の試合で見せつけるからさ」
「、、、楽しみにしてるっす」
蛇に睨まれた蛙。
本能で察したのだろう。
後で聞いたら「かつて無い程にビビった。あいつヤベェ」と素直に話してくれた。
普段は先輩にもタメ口使うような奴が車谷の前ではですます調だ。
「退屈はさせないよ」
「お、言うねぇ」
軽い口調で返してきたのはディフェンスの裏キーマンである安原。花園弟の活躍で隠れがちだが、控えの三年も癖が強い。
だからこそ情報は全て洗ったつもり。そして備えた。
後は迎撃できるか否か。全て出すだけ。
「君達がどう思ってるかは知らないけど、うちはモンスターバッシュで負けてからクズ校越えを一つの目標としていたから。全力で勝ちに行く」
「それ。全国の頂点を取ると同意味だけど」
「そのつもり」
小さな怪物は獰猛に笑った。