総体予選より話しは少し遡り、時は母の一周忌。
関東大会を終えた直後に婆ちゃん家縁のお寺さんで執り行われたが、以外とあっさりしたものだった。
「父さん。一年って早いね」
「ああ。早いな」
お坊さんは婆ちゃんと旧知の仲らしく、長く昔話を話していた。
曰くやんちゃで負けず嫌いで、行動力の人だったらしい。
小学生の頃に男子達からバスケでバカにされ、猛特訓の末ごぼう抜きを達成するくらいには負けん気が強かったらしい。分かり味が深い。
「この子は間違いなく由夏の血を引いとるよ」
「いや、お母さんの血も引いてるかと」
「あんたも負けとらんだろうよ」
多分あなた方の血を濃縮還元した結果が僕だと思います。
前世でもここまで攻撃的じゃなかったし。
なまじたがが外れてたから僕もここまでこれたのだと思う。
精神は身体を凌駕すると言うより精神性に身体が追い着いた感じ。自分で言うのもなんだけどどうしてこういう構造となったのか。今一度神様に問い詰めてみたい。
ちなみに今日は完全オフ。
五月先生が「絶対休め」て言うからその指示に従った。
顧問の言うことは絶対。
体育会系の模範だね(ニッコリ)
今頃他の部員は僕がいない束の間の休息(通常練)を堪能しているのだろうと思うと、ちょっとイラッとするけど、息抜きは大事。
と言うか一緒に休もうって発想にならない当たり皆根本的に脳筋思考していると思う(女子含む)
父も休みに、と口を開けかけたらしいけど、面白そうだからと何も言わなかったらしい。いい性格してる。
ちなみに人はそれなりに集まった。
特にバスケ関係者が多かった。
大栄の監督と鷹山君も見掛けたのでとりあえず挨拶だけはしておいた。
他にもなんか色々いた。
全日本だ協会だ元代表だ聞くほど母の実績に戦くばかりである。もっとも僕はそれ以上の実績を積み上げるわけだけど。
「代表興味ある?」なんて社交辞令的に飛んでくるんだもの。「(まだ)無いです」て返したら「りょ」って言ってすぐ引く当たり弁えてると思う。
後変わり種と言うか、ある意味必然的と言うか。
美里ちゃんも参列していた。
あの子にも母さん、かなり目をかけていたみたいだから。
父さんも何も言わなかった。故人を偲ぶ気持ちは人それぞれだし。
「父さん。こういう日は大事にしておきたい」
「ああ。そうしろ」
本当、五月先生様々である。
時は戻り現在。
県ベスト4をかけた試合の最中。
新たな女子マネージャー(芳幸さん。茂吉君と因縁あり)が増え、同地区の強豪である新丸子とのカード。
先発は千秋君、僕、トビ君、百春君、キャップとオーソドックススタイル。
僕のマッチは9番の原巻。
まあちょろいわけなんだけど、相手もさることながら崩れない。
徹頭徹尾点の積み上げに注力している。
うちの綻びは無い。
けれど突き放せない。
僕の記憶ではジュニアがかなり精神的に未熟だと思ってたんだけど中々。ここまでは寧ろ忠犬を思わせる働き振り。
茂吉君がよく抑えていると言うのもあるが良くも悪くも拍子抜け感が否めない。
もっとガツガツ来るものと思っていたのだ。
前半終えて58-52
うちがリードしてるとは言え随分大人しい。
「行太、ジュニアってあんな大人しいの?」
「いや、もっと荒っぽい奴です。俺らの世代は大体あいつに辛酸舐めさせられてました」
うーむ。謎だ。
と思ったのも束の間。七尾さんが静かに切り出した。
「車谷君。腑抜けているんでしょうか?」
「なに?」
「大人しすぎです。この前の妙院戦の方が脅威でした。
ですが今日のプレーは日和ってるようにしか見えません」
「、、、ふむ、なるほど。皆さんから見ても今日の僕は大人しく見えますか?」
速攻反応したのはトビ君と茂吉君。
なるほどなるほど。つまり今日の僕は味方から見て与し易く見えたか。
多分周囲が成長したと言うのもあるけど、それは言い訳だねぇ。
図星指摘されて何も返せないのが何よりだ。
「車谷君と茂吉君を交代です。これで追いつかれるようじゃどの道勝てません。突き放してください。個々の能力はうちに部があります。それでも追い着かれたらしょうがないので車谷君を投入します」
煽るような言い方。僕にも、皆にも改めて火が着いた。
ハーフ明けはうちの攻勢から始まった。
高さのバランスで言えば丸高と互角。
チーム単体で見れば単純なパワー面で言えば総合はうち。
但し正確性で言えば向こうの方が上。
個々で見れば更に複雑。
有利不利が各自によって異なる。
結論。
盤面が複雑過ぎる。
「余計なこと考え過ぎ。相手の土俵に拘り過ぎ」
「そう見える?」
「自分の武器で蹂躙する。弱点があれば容赦なく突いてく。弱点になりそうなら抉ってく。それが車谷君です」
「言葉にされると酷い奴だね」
「何を今更。相手の能力にメタ張ってたけど思った以上に違ったので困惑してる。そんな心境ですかね」
合ってる。
知識が残ってた分メタ張ったら全然違って困惑。
中途半端な知識を前提じゃダメだね。プレーも半端になる。
「新丸子の心臓は向こうの4番。だけど崩すなら18番。そこまでは私も一緒です。その上で18番にはうちのインサイド陣をぶつけてます」
「、、、なるほど」
「削りです。一年生と一年以上車谷君に揉まれたうちのインサイド陣。私はうちに絶対の分があると思っていますが」
「正しい。僕は一年と言う精神性を突こうと思ってたけど、目論見が外れたよ」
「私は均衡は崩れると見てます。良い意味でうちに都合よく。悪ければ相手に都合よくですが。いずれにせよ崩れた時が車谷君を出すタイミングです。
その時は全てを破壊しつくす気持ちでゲームに臨んでください」
「いいの。味方も崩れると思うけど」
「その意気です。逆に味方が着いていければそれが私の望んだ理想のチームです」
「調和ねぇ。僕とは相容れないね」
「合わせにいって貰っても意味ないので。妥協なんていりません」
うちの現場監督はメンバーに求めるハードルが非常に高い。
つまるところ僕以外のメンバーで僕を調教しろって言ってるんだもの。七尾さんの理想系の完成図はそれ。
だから究極僕とは相容れない。
けれど面白そうにも感じちゃう。
その間もゲームは淡々と続く。点だけを追っていれば。
中身は激戦だった。特にインサイド陣。
丸校のインサイドの要はやはりジュニア。
うちのインサイド陣は執拗にあいつを狙い撃ちにしてる。
ディフェンスもオフェンスも。
ジュニアのパワーが通用するのは茂吉君位だけど、圧倒できる程の差はない。精々が頭一個分の差だろう。
それでいて攻撃手段は力押しだけではない。
けれどうちのインサイド陣はそれ以上に多彩。
翻弄。面白い位に穴となる。
それでもジュニアのフォローをチームでカバーするからジュニアも折れないしゲームも崩れない。
何が凄いってジュニアのスタミナだよね。
物理的にも精神的にも打ちのめしてるはずなのに動けてる。
本人の資質かチームで揉まれたか。両方か。
骨あるわ。
3ピリ終えて78-72。
差は広がらず、然れど詰まらず。
既存メンバーの意地か醜態か。
七尾さんには果たしてどう見えてるか。
偉そうに独白かましてたけど今日の僕は語れる立場では無い。
「車谷君と夏目君を入れ替えます。夏目君のタスクは及第点です」
「ほうか」
「得点力で突き放します。ディフェンスは最後まで変えません。但し百春先輩と車谷君は機微を感じ取ったら動き出して。周りもそれに合わせて下さい」
「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対処する、ですな、奈緒ちゃん」
「(((銀英伝の言い回しだ、、、)))」
「つまり。いつもどおり、ですね」
「千葉弟はどうする」
「茂吉君中心に皆さんで引き続き圧を。あそこも弱点です。突き続けて下さい」
「分かった」
「今まで積み重ねた練習が全てです。
相手の方策に対する手段は全て今までの積み重ねの中にあります。相手が何したって無駄なことを示し続けて下さい」
「「「「おう」」」」
4ピリが始まった。
僕のマークは変わらず9番の原巻。
百春君が痛め続けてたから相当消耗してる。
して、通す先は分かる。
どうせ4番。あいつがエースだし。
だからそっちにはやらせない。
「ほんっっとうにお前嫌なやつだな!」
妥協で通した先はジュニア。
茂吉君に丸め込まれる位じゃ、、、へぇ。強引にいった。
ここに来てまだやれるんだ。
茂吉君も無理にファウル行かなかったのは冷静だね。一年坊にフィニッシュまで持ってかれて腸煮え繰り返ってると思うけど。
まあいいや。自分の仕事に集中しよ。
ボールを貰って先ずは原巻を置き去りにする。
次は、と思ったけど、、、誰もヘルプ来んのだけど。
露骨過ぎて笑うわこんなん。
なーらこっちはもっと露骨に行こ。
「全員戻れ!」
僕の号令のもとフライング気味に全員が一斉に戻る。
同時に僕もスリー。
余裕作って戻ってディフェンスを固めるって魂胆。
隙着いた速攻なんて許すわけないじゃん。一応練習しといたけどこれあんまり部員に負荷掛からないからあまり好きくないんだよね。
でも相手の速攻封じにはなったかな。
4番も苦笑いしてるっぽいし。
「テンポ上げるぞ!」
相手からして崩せそうな所はこれまた茂吉君のマッチアップと4番のマッチアップ。つまり千秋君の所。
それだけ相手の4番が突出している。
但しうちのアフロも並みじゃない。
うちはチーム全体としてフィジカルがクソ強だけど、ディフェンスも扱き上げてきている。
元は僕のサンドバックをして貰うための部だったのだ(と言うか今もしてる)嫌でも向上する。
試合テンポを上げ得点機会を増やしたいと言う魂胆だろうけど、まあ千秋君も単独じゃ簡単にやらせない。
ただ相手4番も直ぐに状況を察し早々にジュニアにパス。
千秋君もそのラインは潰そうとしてたけど通されて不満そう。
でもこれはジュニアの動き方が上手かった、、と言いたいけどコーナーじゃ茂吉君に勝てないよ。
抜くにしても、シュートにしてもリングまでのルートが分かりやすく限られるから。
それ見越して茂吉君はジュニアの動きを誘導したな。
僕が強引にフィジカル腕力で成立させることを彼は限られた腕力と図体の大きさで成立させる。
勝負あったな。
ジュニアはここぞとばかりに強引に突破を選択。
激しい接触で押し込もうとするけど茂吉君は吹っ飛ばされずしっかり密着。ぬたぁんって。ジュニアは絡め取られたね。
器用にベビーフックを仕込むけど、ここまで悠長に攻めてたらうちのディフェンス外れ値は黙っていない。
百春君が水を得た魚のようにヘルプに来てきっちりブロック。
心なしか無茶苦茶ウキウキして見えた。
ただこぼれ球は4番がしっかり押さえ、千秋君のディフェンスも構わず強引にシュートを沈める。
うーむ。粘る。
返しの攻撃は勿論僕が軸。
と言うか自分で運んで自分でスリーに持ってってる。
原巻?知らない子ですねぇ。4番も虎視眈々と僕を狙ってるようだけどまあ無駄。僕の視覚に収まっちゃってるのでね。
いずれブレイクスルーを狙いに来るだろうけど。隙を探してるのかな。形振り構わず来りゃいいのに。出し抜く機を待ってる感じだ。一生来ないのに、かわいいねぇ。
じっくり待っても僕のスリー。
個で攻めても各個打破は困難。
しっかりシュートを沈めないと差が広がる。
僕が淡々と攻めてチームで守れたら勝ち確だね。
でもって一番焦ってるのは4番だと思うけど、付け入り易いのはジュニア。これは変わらない。
ジュニアが果敢に攻める、、と思ったけど周りに声をかけられ留まる。でもさ、うちもそのパターンはインプットしてるんだわ。
4番への戻しを僕がインターセプト。
露骨なんだよ、ばぁぁああああか!!
ワンマン速攻は可能なんだけどあえて僕はスピードを落とす。
ジュニアが追い掛け易く、それでいて手を伸ばしてきそうな位置取りで。もっと言うなら接触してきそうな位置取りで。
シュート打ち切ったタイミングで背中に衝撃がやって来た。
さすがの僕も空中では無力だ。一瞬ベンチからも悲鳴が聞こえる。
僕はと言うと面白いように前のめりに吹っ飛んだんだけど、、、なんか四つん這いに着地できた。猫のように。それこそ体育館に響くこと無くスタッとした感じで。
さしもの審判も非常に難解そうな表情をしつつもジュニアにアンスポを取った。
ベンチを見ると皆宇宙猫みたいな表情をしていた。ウケる。
「す、すまん!」
「ん、しゃあないよ(狙ったわけだし、言わんけど)。でも次は僕がぶっ飛ばすから。腕力で勝ったと思うなよ」
「(腕力関係ないと思うが)お、おう」
「ってことで4番。残念ながら君達の芽をしっかり潰させて貰うよ」
「まだ終わらせるつもりはないよ」
「終わらすさ」
ワンスローのボーナスをきっちり沈める。
それでいてうちの攻撃。
僕へのマークが3人。
原巻に4番にハゲのヘアバンド。
僕以外のドフリーマンに通させてもよかったけど僕へ供給。嫌いじゃない。
4番を強引に力で抜き
ヘアバンドのディフェンスを置き去りにし
原巻の伸ばした腕の遥か上のループを描き
僕のシュートはリングを通過した。
情勢は喫した。
この後は何も面白いことはなく最後までリードは許さず決着。
最後まで相手の攻めのテンポを崩すことは出来なかったことは心残りだ。
クズ校113-92新丸子